今回はハンディGPSでのパラグライダーのフライト記録について、さらに応用的なことを書きたいと思います。
GPSは、ほとんどの人がGARMIN社製の機種を利用してることと思います。私もGARMIN製のeTrex Summitを使っているのですが、不満のひとつに記録できるトラックログの容量不足があります。 eTrex Summitのトラックログの容量は3000ポイント。これはGARMIN製GPSの中では今のところ最大であるにもかかわらず、それでも少ないと感じてしまうのです。
ところで3000ポイントという容量は、実際どのくらいのフライトを記録できるのでしょうか。
eTrex Summitの場合、トラックログを記録する間隔はAUTOのため自分で選ぶことができず、GPS内で自動的に設定されます。
その記録間隔は一定ではなく、止まってる時や真っ直ぐ移動している場合はログ間隔は長めに、センタリング中など常に移動方向が刻々変わる場合は短めに記録されるようです。だから3000ポイントは何時間ぶんだと一概には言えませんが、前回GPSでフライト記録で書いたように約2時間程度でログが一杯になるというのが、今までパラグライダーで使ってみて得られた目安です。(なお、これは頻繁に進行方向が変わるパラの場合であって、例えば自動車で使用した場合はもっと記録できる感じです。)
Summit以外の機種、例えばeTrex VistaやGPS12などは自分で何秒ごとに記録するという設定ができるらしいので、記録間隔×トラックログ記録ポイント数で、トラックログが一杯になる時間を知ることができます。
まあ、パラグライダーのログ記録に使うことを考えた場合あまり記録間隔秒数を大きくできないので、だいたいの機種で2時間程度が限度なのかなと思います。
2時間以上フライトすることは(少なくとも私にとっては非常に)マレなので支障はない… と安心してはいけません。 たとえば1回1時間程度のフライトを2回すれば、それだけでログは一杯になってしまうからです。泊まり込みでパラに行く場合などは、合計2時間程度のフライト時間は軽く突破してしまうことでしょう。(私は突破しない場合が殆どですが(^^; )
せっかくの記録を無駄にはしたくないですから、この対策としてノートパソコン等をエリアに持ち込んで、適宜トラックログを吸い上げてやる必要があります。が、わざわざノートPCを持って行くのは面倒ですし、だいいちノートPCを持ってない人もいるかと思います。
ワンダースワンでログ記録
前置きが長くなりました。
そこで登場するのが今回紹介する、株式会社バンダイから発売されている携帯ゲーム機「WonderSwan(ワンダースワン)」です。
ワンダースワンには、自分でプログラムを作って楽しめる「WonderWitch(ワンダーウィッチ、有限会社キュート製)」というプログラム開発セットが発売されており、それに用いる専用カートリッジをワンダースワンに差し込むことにより、この携帯ゲーム機にGPSのトラックログを転送・記憶させることができるのです。
この方法だと、GPS単体では得られない、次のようなメリットがあります。
- ・ノートPCの代わりに、GPSからワンダースワンにトラックログを転送できる。(WonderWitch用ソフト「gar2ws」および「gar2wsu」を使用した場合)
- GPS内部ログが一杯になったとき、または一杯になりそうになったら、GPSとワンダースワンをケーブルで接続して吸い上げます。(gar2ws)
もちろん自宅に帰ってからワンダースワンとパソコンをケーブルで接続し、蓄えたログデータをパソコンにアップロードすることができます。(gar2wsu) このときワンダースワンはGPSの動作をエミュレートしますので、カシミールやフライト ビューアを使って、普通にGPSと通信するのと同じ要領で、ワンダースワンからデータを転送することができます。 WonderWitch専用カートリッジの記憶容量は約350KB。ここにログを独自のlog形式で圧縮保存するので、最大で約5万ポイントもの保存が可能です。(このlog形式のデータをそのままパソコンに転送することも可能で、後述のGPSLogCvを使ってデータ変換して利用できます。)
- ・常時GPSとワンダースワンを接続しておくことにより、GPS内部ログには保存できない情報も保存できる。(WonderWitch用ソフト「garlog」を使用した場合)
- 例えばeTrex Summitは前述したようにログ記録間隔を自分で設定することはできませんが、garlogを使うことにより、1秒間隔でのログ記録が可能になります。またGPS12など、高度情報が内部ログに記録されない機種でも高度記録が取れるようです。
このgarlogもトラックログを圧縮保存します。 tdf形式という、ひとつ前のデータからどれだけ移動したかの差分圧縮方法なので使用状況により異なるものの、最大で20万ポイント程度(50時間以上)も記録できます。 この tdf形式のデータを通信ソフトでパソコンに転送後(実際にはパソコンに転送するとWonderWitchのファイル形式である.fxという拡張子が付くので、データのファイル名は「******.tdf.fx」となります)、GPSLogCvというGPSログデータコンバータを使い、他の形式に変換します。例えばエクスプローラ上で、tdf形式のデータを gpslogcv.exe にドラッグ&ドロップすると、カシミールで読み込み可能なtrk形式のデータが生成されます。 なおgarlogのログ記録以外の機能については、「garlog活用編1」をご覧ください。
何を用意すればいいか
前回、GPSでフライト記録で書いたモノの他に、以下が必要になります。
- 1.ワンダースワン本体
- 液晶画面がモノクロとカラー(反射型カラーFSTN液晶)、そしてクリスタル(反射型カラーTFT液晶)の3タイプがありどれも使えますが、パラグライダーでのログ記録に使うのであれば、安価なモノクロで十分です。風待ちの暇つぶしにゲームもやりたいのであれば、ファイナルファンタジーも楽しめるカラーやクリスタルがいいかも知れません。モノクロ中古なら1000〜1500円程度と、激安です。 カラーは3000円〜4000円、クリスタルは7000円程度かな。
- 2.WonderWitch またはWonderWitch プレーヤー
- ワンダースワンで動作するプログラムを作成するのに必要なものを集めたものがWonderWitch で、そこからプログラム開発用ソフトを省略し、既存のWonderWitch用ソフトを利用するだけに機能を絞ったものがWonderWitch プレーヤーです。
ワンダースワンに挿す専用のカートリッジをはじめ、ワンダースワン〜パソコン間の接続ケーブルや転送ソフトがパッケージに同梱されています。 製品構成については私の「GPSとワンダースワンのQ&A」 の Q WonderWitch(16800円)は購入する必要がありますか?を参照ください。
<追加情報> 2004年3月、WonderWitch関連商品は販売終了となりました。すでにキュートWebショップやRIGHT STUFFさんでも在庫切れとなっているようですので、今後の入手は中古品がメインになるかと思います。Yahoo!オークション等にも、出品があるのではと思います。
2004年9月4日より、なんとWonderWitch関連商品の限定販売が開始されました。
下のリンクにあるキュートWebショップまたはRIGHT STUFFさんで購入可能です。販売終了と聞いて諦めていた人、チャンスです! ← 残念ながら9月14日現在、両者とも完売したとのことです。かなり人気があったみたいです。
- 3.GPSとパソコン(のシリアルポート)を繋ぐケーブル
- GPSのログデータをパソコンにダウンロードしてカシミール等で活用されている人なら、当然既に持っているはずですね。 なおこれは、GPS〜ワンダースワン間の専用ケーブルを自作or購入するのであれば特に必要ありません。
- 4.WonderWitch用のソフト
- ナカムラヒロアキさん作の「gar2ws, gar2wsu」か、gigoさん作の「garlog」というフリーソフトを使います。Web上からダウンロードして入手します。
以上になります。
これに加え、ワンダースワンとGPSを常時接続しておく必要のあるgarlogを利用する場合は、短く軽い専用のGPS〜ワンダースワン間ケーブルを自作すると便利です。ケーブル自作については「ケーブル自作編」をご参照ください。
と、以前は上記のように使い勝手の良いGPS〜ワンダースワン間の専用ケーブルは自作するしかなかったのですが、2002年11月より、GPS本体および関連パーツを扱っているRIGHT STUFFさんから完成済みの接続ケーブルが販売されています。
さらにgarlog使用時は、どこか見やすい箇所にワンダースワンを設置する必要があります。 私はこのページのタイトル写真のように、ウェストバッグ上面にベルクロ固定しました。バリオ、GPS、ワンダースワンと目の前にズラリ並んだ電子機器が、ハイソな気分にさせてくれます。(笑)
なお、具体的な接続方法やソフトのダウンロード・使用説明など詳細につきましては、下記HPに詳しいですので是非ご覧ください。私も大変参考にさせていただきました。 蛇足ながら私の「GPSとワンダースワンのQ&A」も併せてどうぞ。
- ○中村浩明さんの「WWでGARMIN」
- http://www.pluto.dti.ne.jp/~nak/index.html
WonderWitch用ソフト「gar2ws, ga2wsu」の作者、ナカムラヒロアキさんのページ。garlogに対してgar2wsは自分で適宜GPS内部ログを吸い上げる方式なので、ワンダースワンを持ってフライトする必要がありません。状況により使い分けると良いと思います。
- ○Gigo(今泉 修)さんの「GPS TRACK LOGGER for WonderWitch」
- http://homepage1.nifty.com/gigo/wonderwitch/logger.html
WonderWitch用ソフト「garlog」の作者、gigoさんによるページ。具体的な導入手順からソフトの使用方法までの詳細な説明があります。GPSログデータコンバータのGPSLogCvもここにあります。
- ○中澤和夫さんの「WonderSwanでGPSのTrack Logを保存する」
- http://www.valley.ne.jp/~kazuo/gps/test_index/gar2ws/gar2ws.htm
ワンダースワンとGPSの接続にあたって用意すべきものやケーブルの自作方法などについて、非常に分かりやすく解説されています。
その他、WonderWitchおよびWonderWitch プレーヤーについては以下もご覧になってみてください。
・WonderWitch購入方法ページ、「WonderWitch In stores Now !!」: http://www.qute.co.jp/products/wonderwitch/
・キュートWebショップ (インターネット販売):http://webshop.qute.co.jp/
・WonderWitch製品情報のページ「Witch 製品構成」:http://www.swan.channel.or.jp/wonderwitch/seihin/index.html
・WonderWitch プレーヤー 製品紹介:http://www.qute.co.jp/products/WonderWitchPlayer/
・WonderWitch開発元、有限会社キュートによる「WonderWitch サポート Web サイト」:http://wonderwitch.qute.co.jp/
・RIGHT STUFF (GPS関連商品インターネット販売):http://www.soaring.co.jp/index.htm
※なお今回紹介のワンダースワンとGPSの接続については、ある程度のパソコンの知識(少なくとも オンラインソフトを自由に使えるレベル)と、電子工作の経験が必要(ケーブルを自作する場合)ですので、予めご承知おき下さい。
また接続にあたって発生した不具合に関しては、各自の自己責任でお願いします。つまり接続した結果GPSやワンダースワンやパソコンなどが壊れたとしても責任は持てません、ということです。
パラグライダーで使ってみる
ここではGigoさんの「garlog」を使用したフライトログを紹介します。
私にとってのgarlogを使用した場合のメリットは、その記録可能な時間の長さはもちろん、”記録間隔を自分で設定できないeTrex Summitでも、1秒毎のログ記録ができる”ことにもあります。
(ただしそのために、フライト中も常にGPSとワンダースワンをケーブルで接続しておく必要があります。)
右図を見て下さい。これは弱いサーマル内でゆったり回して、コアを探っていたとき(本人 談^^; )の連続した360°旋回のログ記録を、カシミールで表示させたものです。(軌跡比較のため一部画像を加工してあります。)
赤がGPS内部のトラックログ、白がgarlogを使って記録した軌跡です。
見れば一目瞭然、Summit内部のログは角ばってしまっているのに対し、記録間隔の密なgarlogを使用した方が自然な軌跡を描いているのが分かります。
今までカシミールでGPSログを見たとき、そのカクカクした軌跡に不満だった人も、これなら満足なのではないでしょうか。(^^)
次に下の図を見て下さい。
これは松川 竜彦さん作の「フライト ビューア」での表示です。左がいつものGPS内部のログ記録、右がgarlogを使って記録したログ記録を、試験的にフライトビューアで表示させたものです。
フライト状況は、夕方のアーベントっぽいコンディションにおいて、高度を維持しようとテイクオフ前で右往左往している時のものです。(結局、すぐにランディングしてしまいましたが(^^;; )
これもgarlogの方が、より自然っぽい?軌跡になってますね。 この細かい軌跡が何十時間ぶんも記録できますので、いくらフライトしてもトラックログが一杯になる心配がありません。これで存分に飛びまくることができますね...
なお、ログ記録のうち高度情報については、eTrex Summitの内部ログとgarlogで取得したものに多少の違いがあるようです。 しかし現在のところ実際のパラグライダーのフライトログ記録にあたっては、特に支障はないと感じています。
GPSとワンダースワン 関連リンク(パラグライダー関連)
- ○エリアヤマザキ・松川さんの「WonderSwanでFlight Navigator」
- http://www6.plala.or.jp/HUNTER/WonderSwan/WonderSwan1.htm
ワンダースワンでフライト記録するにはどうしたらいいか、易しくかつ詳しく解説されています。特にステレオミニジャックを使ったGPS−ワンダスワンの接続ケーブルのアイデアは素晴らしいと思います。GPSの設定、WonderWitchやgarlogについての、パラグライダーパイロット向けの操作説明が嬉しいです。
- ○石原さんの「SystemASSIST SideMenu(パラグライダー)」
- http://www.sysassist.jp/sidemenu.page/sidemenu.html
特にフライトビューアを利用している人は必見のサイトです! 石原さんが開発した、フライトビューアのログにコメント等を追加したり、多数の軌跡を同時に動かすプラグインなどがダウンロードできます。 またワンダースワン&garlog関連の対応もバッチリ考慮されていて、TRK形式からフライトビューア用のGPS形式へのログデータコンバータや、garlogで取得したワンダースワン上のTDF形式のデータを直接エミュレートできる、gar2wsuのTDF版とも言えるソフトがあり、これらによりgarlogで取得したログデータをフライトビューアで活用できます。まさに”痒い所に手が届く”ソフトです。
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