○躍動する−積雲2




 積雲のなかには、大きく・高く発達してゆくものがある。その最終形態が積乱雲と呼ばれる巨大な雲塊だけれど、そこまで発達しなくても、様々な姿を積雲は見せてくれる。
 ちょっと見ただけではわからないが、しばらく同じ雲を眺めていると、モクモクと内部から盛り上るように成長していく様子がわかる。

 雲までの距離が近い場合はその様子がわかりやすいし、見上げる角度も大きくなるので、雲がより高く大きく見えて迫力満点だ。でも発達する積雲の近くに居合わす機会はそう多いものではないし、そのとき眺めていられる時間があるとは限らないし、周囲に他の雲があって空を覆っていて、その積雲自体見えないことも多い。都会では、至近距離で雲の発達を見ることは案外難しいと思う。
 だから私は、モクモクと膨張する雲の動きを肉眼ではっきり見てとれたとき、とても得をした気持ちになる。まさに、一大スペクタクルだ。


 さて、積雲が発達する、つまり大きく高く成長してゆくためには強い上昇気流が発生していなければならない。
 そしてこの、積雲を発達させる強い上昇気流が発生するためには、いくつかの条件が揃う必要がある。その条件の一つについて(内容の性格上、理屈っぽい話になってしまうが)、書いてみよう。

 積雲1で書いたように、積雲を作るのは主に地上からの上昇気流だ。この空気塊は上昇するにつれて膨張し、膨張することにより温度が下がってゆく。
 この温度の下がる割合を専門用語で乾燥断熱減率といい、大気下層では約10℃/kmという値になる。1km上昇するごとに10℃温度が下がる、ということを示す。100m上昇したときは1℃の温度低下だ。(もちろん、空気塊が下降したときは同じ割合で温度が上がる。)
 ただしこれは雲が発生するまでの値で、雲が発生する高度以上ではこの割合は約5℃/kmになる。これを湿潤断熱減率という。

 雲が発生するということは、空気中の水蒸気が飽和に達し、凝結するということだ。濡れた手が涼しく感じるのは水が蒸発する際に熱を奪うからだが、凝結する際は逆に熱を放出する。この熱がポイントだ。(この熱のことを専門用語で潜熱という)
 要するにこの潜熱の影響を受けて、膨張することによる温度の下がり具合が少し相殺される。だから湿潤断熱減率(約5℃/km)は乾燥断熱減率(約10℃/km)よりも小さい値となる。


 上昇するにつれ、どんどん温度が下がってゆく(=重くなる)この空気塊が上昇を続けるためには、周囲の空気より軽い状態、つまり周囲よりも温度が高い状態を維持しないと浮力が生じない。
 気温というのは上空ほど低いのが普通だけれども、ここではその下がり具合がポイントとなる。
 周囲の気温の下がりかたが小さいと、どんどん冷えながら上昇する空気塊はいずれ周囲の空気より冷たくなるので、それ以上は上昇できない。このように、空気の運動が自然に収束するような大気の状態を「安定」しているという。

 ところが上空に行くにつれ急激に気温が下がるような場合、上昇する空気塊は周囲よりも温度の高い状態を維持できるので、上昇を続けることができる。もちろん上昇するにつれてその空気塊の温度は下がるのだけれど、それ以上に周囲の空気が冷たいので、浮力を失わずに上昇が続くというわけだ。
 このように、空気塊の上昇が止ることなくどんどん強くなるような大気の状態を「不安定」という。こんなとき積雲は発達を続け、やがては大雨や雷をもたらす積乱雲になることが多い。
 ときどき天気予報で、「上空に寒気が入ったため、大気の状態が不安定となり…」という表現を耳にすると思う。寒気が入ったということは上空の気温が普段より低くなっていることであり、上昇する空気塊が浮力を得やすい条件になったというわけだ。

 それに加え、地上付近の空気の湿度が高いと、より不安定な条件になりやすい。というのも、湿度が大きい空気はすぐに飽和に達し、凝結する。より低い高度で雲になるわけだ。すると上昇する空気塊の温度の下がり具合がより少なくなる(乾燥断熱減率から湿潤断熱減率になる)ので、これまた周囲の大気より暖かい状態を維持しやすいということになる。湿った空気は水蒸気の凝結に伴なう潜熱の放出量が大きいから、上昇するための潜在的なエネルギーは、同じ温度の乾燥した空気よりも大きいのだ。

 では、ここまでの話をまとめてみよう。大気下層(地上付近)の気温と湿度が高いほど、その一方で上空の気温が低いほど、大気の状態は不安定になりやすい。そして不安定な大気状態では強い上昇気流が発生しやすく、従って積雲も発達しやすい。(他にもいくつか条件があるが、それについては別の機会に...)
 以上、理屈っぽい話、終り!


 ちなみに大気の状態によっては、ある境目の高度までは周囲の気温が高いので下層の空気塊はなかなか上昇できないけれども、それより上空では気温が急に低くなっていることがある。別の言いかたをすれば、地上付近の大気は安定しているけれども、それより上空が不安定になっているという状態だ。程度の差はあるが、実際はこのような大気状態の日が多い。

 ここで、何かのきっかけでその高度まで達した上昇気流があったとすると、そこから上昇気流は急に強くなる。その高度に達した部分だけがどんどん上に発達できるのだ。やがてこの写真のような塔状の、縦に細長い積雲(塔状積雲)になることがある。
 普通はもうちょっとずんぐりとした、言わばピラミッド型に発達するけど、この塔状の根元部分の上昇気流がよほど強力だったのか、面白い形の雲を見ることができた。

 不自然なほど細長い、こんな雲を見ていると、火であぶった餅がふくれる様子を思い出してしまう。
 そして餅と同じように、実際の雲はひとつとして同じ形のものはない。地上そして上空の気温や湿度、風向きや風の強さ、日射の強さなど、様々な要因が絡み合って雲はつくられるからだ。




○撮影データ(ページ上の写真より)
・1枚目  日時:1999年8月5日   場所:千葉県我孫子市
 カメラ:ペンタックス Z-1P  レンズ:ペンタックス SMC FA 50mmF1.4
 フィルム:ベルビア50  その他:シャッター速度優先1/250秒

・2枚目  日時:2000年9月17日   場所:千葉県市川市
 カメラ:コンタックス アリアD  レンズ:カールツァイス ディスタゴンT* 28mmF2.8
 フィルム:ベルビア50  その他:シャッター速度優先1/250秒

・3枚目  日時:2000年7月20日   場所:千葉県市川市
 カメラ:コンタックス アリアD  レンズ:カールツァイス ディスタゴンT* 28mmF2.8
 フィルム:ベルビア50  その他:シャッター速度優先1/500秒 +2/3EV補正




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