○躍動する−積雲1



 積雲は、私の好きな雲のひとつだ。モコモコと質感があり、青空と真白い積雲のみせるコントラストは、非常に美しい。もし雲の絵を描いてくれと言われれば、多くの人がこの積雲を描くのではないだろうか。言ってみれば、雲の代表だ。

 積雲はどんな季節でも現れるが、私にとっていちばんイメージが強いのが、夏だ。
 強い陽射しの、蒸し暑い日。
 見上げると、白い積雲。
 それだけで、絵になる空風景だと感じてしまう。


 さて、巻雲のように非常に高高度に現れる氷粒で出来た雲や、大規模な気団の境に現れる層状の雲とは違い、積雲は主に地上からの上昇気流によってつくられる。

 熱気球が空に浮かぶことからわかるように、暖かい空気は軽いので浮力を得て上昇してゆく。これがいわゆる上昇気流だ。たき火や煙突から発生する煙が上昇してゆくのも、それが周囲より暖かいからに他ならない。
 積雲の場合、何が空気を暖めているかというと、それはもちろん太陽の光による。
 ここでポイントとなるのは、太陽の光が直接空気を暖めているわけではないことだ。透明な空気は太陽の光を素通ししてしまう。空気を暖めているのは、じつは地面だ。まず太陽光線の放射を受けて地面が暖まり、それに接する空気が地面から伝わる熱で暖まる、というわけだ。
 だからふつう地面付近の気温がいちばん高く、上空ほど低くなる。

 ちなみに、たとえば富士山の頂上は いわゆる”地面の上”であるにもかかわらず、気温は低い。これは同じ高度における周辺の空気が十分冷たいためだ。大気は常に移動し循環しているので、同じ高度でも富士山の頂上のみ気温が高い、ということにはならない。頂上は”地面の上”だが、その気温は地上から3776m上空のレベルと同じ冷たさなのだ。

 そして、その暖まった地面付近の空気はやがて上昇を始める。熱気球とは違い、暖かい空気を包む球皮はないので多少は周囲の空気と混じることはあるが、大部分は塊状のまま上昇を続ける。空気というのは意外と熱の伝導性が低いのだ。
 上空ほど気圧は低いので、この空気の塊は上昇するにつれ膨張(体積が増加)し、それにつれて温度が下がってゆく。空気が含むことのできる水蒸気量は温度が低くなるほど少なくなるので、やがては空気中の水蒸気が凝結して小さな水滴ができる。つまり、雲が発生する。

 ある程度発達した積雲を見ると、そのいちばん下の部分(ここを雲底という)は平らになっている。その高度が、ちょうど空気中の水蒸気が凝結を始める高度に相当する。ここより上昇する空気塊は凝結を生じ雲を発生させるし、逆に下へと下降する空気塊があったとしても水滴は蒸発してしまい雲は消える。雲底は平らに見えても、その付近では盛んな鉛直(上下)方向の空気の動きがあるのだ。

 日常生活ではあまりそういう時間がとれないと思うけれども、地面に寝そべり雲の変化を眺めるのも面白い。何もないところに小さい雲が現れたかと思うと大きく・高く発達したり、予想に反して消えていったり。刻々と姿を変えてゆく。
 知っているつもりでも、意外な発見ができるかもしれない。仕事にも遊びにも忙しい日常生活において、5分でもいいから、そんな時間を持てる心のゆとりが、欲しいと思う。




○撮影データ
 日時:2000年7月20日   場所:千葉県市川市
 カメラ:コンタックス アリアD  レンズ:カールツァイス ディスタゴンT* 28mmF2.8
 フィルム:ベルビア50  その他:シャッター速度優先1/500秒 +2/3EV補正




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