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第22回配信<筆者日本に一時帰省中>
まずコソヴォ現地の動きです。7月2日は州都プリシュティナで、90年に旧ユーゴからの一方的独立をうたった憲法(カチャニック憲法)の成立9周年を記念してアルバニア人が数千人の集会を開きました。この集会は政治犯釈放などを要求しながら3日以降も続き、プリシュティナ大学前のヴーク・カラジッチ像が解体され、トラクターで町の中を引きずり回されました。V・カラジッチは19世紀にセルビア語近代化改革に努め、結果的にセルビア人の民族意識高揚に貢献した人物です。このためセルビアでは歴史的偉人として扱われていますが、アルバニア人からは芳しくない評価を受けていました。
私としては(旧)ユーゴウォッチャーである前に、ベオグラードに住む一人として「自分の住んでいるセルビア本国の電気、水事情は大丈夫なのか」が一番気になるところです。今のところベオグラードは給電、給水事情は安定しているようです。日本と違ってクーラーの普及率が低いところですから夏は何とか乗り切れると思うのですが、暖房プラントも破壊されているため冬は住宅地に住む多くの市民が電気ストーブなどを頼りにすると思われます。今までも冬は停電を経験することがしばしばでしたが、「たとえ財政的に余裕があったとしても発電、変電施設の完全復旧に6ヶ月はかかる(「ヴレーメ」誌による)」という状況下、この冬は空爆下の5月同様厳しい電気事情になりそうだという気がしています。 電気、水に不安があるのはインフラ施設の損害によるものだけではありません。欧米各国の事実上の制裁措置によって原油が不足し、ガソリンが入手できなくなった首都ベオグラードでは自動車の数が激減したことは空爆の最中にも書きました。依然として燃料不足は深刻で、ベオグラード市営交通局は燃料の供給状況によって毎日運行時間(始バス、終バスなど)や運行バス数を決定し直しています。20万都市ノヴィサドでは市営バスが毎日50台しか運行出来ず、40分から70分待ちが普通になっているそうです。同市はまたゴミ収集車の巡回にも支障が出ているので、出すゴミの量を控えるよう市民に呼びかけています。
戦犯訴追も受けたミロシェヴィッチ現政権が倒れることはあるのか。欧米日のマスコミでは西側の期待論も含めていろいろなことが言われています。日本という離れた国でニュースを読んでいても今一つニュアンスが分からず隔靴掻痒の感がしてしまうのですが、今後のセルビアの復興と民主化を考えると、セルビアの内政事情にはどうしても目が離せません。戦争状態は解除を宣言されたものの、まだ集会禁止令は停止されていません。そうした中ながら先月29日には中部のチャチャクで民主党を中心とする野党連合「改革のための連合」が大集会を開き、2日にはノヴィサドで、さらに5日には南部の町レスコヴァッツでも反ミロシェヴィッチ色の強い集会が開かれました。チャチャク、ノヴィサドはいずれも元々野党の強い土地でしたが、レスコヴァッツは現政権の大票田と言われる地域だけに、このニュースからセルビア全体で野党側の突き上げが今までになく強くなっていることを想像するのは難しくありません。上記「改革のための連合」は9月までに大集会を組織、勢いに乗りながら年内の選挙実施によって現政権の打倒を目指したい、としています。5日には空爆開始以来国外で活動していた民主党のジンジッチ党首が、逮捕(5年から20年の禁固)されるおそれがあるにも関わらず帰国を果たしました。民主党や「改革のための連合」単独では大きな力としては期待できませんが、今後中道右派のセルビア民主党(コシュトゥニッツァ党首)や、日和見の王者ドラシュコヴィッチ党首率いるセルビア再生運動(翼賛体制に入っていたが空爆中に離脱)などが大同団結した場合には面白い展開になる可能性を秘めています。 しかし全欧安保協力機構(OSCE)がコソヴォでの難民帰還には2年かかる、と発表しています。ユーゴ・セルビア当局は領土としてのコソヴォを放棄したつもりは全くありませんから、この発表(「アルバニア人難民には選挙権があるのだから、その人たちが帰ってくるまで選挙は出来ない」という論理)などを盾にコソヴォのみならずユーゴ全土での選挙の実施を遅らせつつ現在盛り上がっている反体制の声をかわそうという戦略に出るでしょう。ブラトヴィッチ連邦首相は空中分解しかけている大政翼賛体制の復活をセ再生運動などに呼びかけながら「来年選挙」の方針を明らかにしており(4日付毎日新聞)、野党やキャスティングボードを事実上握るドラシュコヴィッチの動きとともに選挙実施のタイミングも重要なファクターになりそうです。 また空爆以後いよいよセルビア離れを進めるジュカノヴィッチ大統領のモンテネグロの動向も気になるところです。共和国政府はベオグラードに対し、ユーゴ連邦内でコソヴォのステータスが変わらざるを得ない以上、モンテネグロのステータスも見直すべきだ、と要求(re-definition)、独自通貨の導入も検討されています。反ミロシェヴィッチの動きを歓迎する米政府はモンテネグロのみを対象に3500万ドル相当の経済援助を約束しました。またNATOのクラーク欧州方面最高司令官は「モンテネグロに対して(ミロシェヴィッチの息のかかった)ユーゴ軍が展開を強化するなど圧力を強めており要注意だ」と発言。こうした欧米の「モンテネグロびいき」は今後も続きそうです。しかし「ミロシェヴィッチ=セルビア=悪」、「反ミロシェヴィッチ=モンテネグロ=善」という単純な割り切り方をしてしまうのは危険です。前回の大統領選で敗れた前職ブラトヴィッチ大統領は連邦首相になり、ベオグラードに「変則亡命モンテネグロ政権」ができてしまっていることはご存知の方が多いと思いますが、この97年の選挙も決選投票の末ジュカノヴィッチが辛勝を収めるという結果でした。モンテネグロでは依然「親セルビア派」と「モンテネグロの独自色を強めたい派」の力関係は半々に近く、次回同じような構図で選挙が行われた場合、ジュカノヴィッチ派が楽に戦えるとは思えません。また後者の中でもユーゴ離脱、モンテネグロ独立を推す強硬派からセルビアに吸い上げられていた利権を自分のものにしたいだけ、という穏健派までいろいろな声があるはずです。モンテネグロのユーゴ離脱は火種としてはあるとしても、すぐに起こるという性格のものではなさそうです。 コソヴォ和平の成立とともに新たな不安定要因が生まれつつあることは認めざるを得ませんが、ともあれコソヴォに平和が見えてきたこと、ユーゴでの(住民レベルで見ればやはり理不尽と言わざるを得ない)空爆が止まったことを喜ぼうと思います。寒がりの私にこの冬は大変かもしれません。でもまずは日本の夏でしっかり元気を付けておくつもりです。今日は、うなぎ!(99年7月上旬) |
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