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質問にこたえて・特別編「なぜNATOが空爆したのか」
  あ、グッドクエスチョン! 実はそれが大問題なのです!!(99/09/13)
 NHさん、こんにちは

メールを2度いただきました。お急ぎなら、その旨、書いて下されば、早急にお返事を差し上げたのですが・・・

> まず、ユーゴはNATOに加盟していませんよね。それなのね、なぜNATOが軍隊派遣に
> よって干渉することができるのでしょうか?ユーゴはNATO区域の安全を脅かしていま
> せん。そうしたら、NATOが地域的軍事組織としてユーゴに対し武力を行使する権利は
> ないと思います。

まったくその通りです。次の項目と関連しますが、国連を無視し、NATOが独断で攻撃に踏み切った点が、国際法(これまで数百年の積み重ねでできあがっている慣習法。とくに第二次世界大戦以降のものが重要)の枠組みを崩してしまっている重大なポイントです。これについては私のHPの「サピオの記事」を読んでみて下さい。

その上で、国際政治の基礎を若干。
(1)原則として、各国の内部問題は各国の政府に権限がある(内政不干渉の原則)
(2)ただし、重大な人権問題は70年代以降、純粋な国内問題ではなく、国際問題として国外から圧力をかけたり、介入してもいい、という原則が確認されつつあり、実際にも慣行として実施されてきた(人権問題は国際問題という、まだ全世界では確認されていないが、圧倒的多数の国が認めるようになってきた原則=例外は中国やミャンマーなど)

というわけで、コソボ問題はユーゴの内政問題であり、同時に人権問題なので国際問題でもある、という複雑な事情があるのです。
(1)の内政不干渉の原則に従えば、ユーゴの内政問題で、NATOだろうがアルバニア本国だろうが、口出ししてはいけない、ということになります。しかし、これは1960年代頃までしか通用しない「古い」原則です。
一方、国際社会(の多数派)は、(2)の立場から、ミロシェビッチ政権がコソボのアルバニア系住民の迫害をやめるよう、圧力をかけてきました。国連も武力行使をするななどの決議を一応あげています。
ところがNATOは独断で(彼ら自身は別に、NATOの存続という狙いがあったわけですが、それとは別に、おそらく、アルバニア人のためによかれと思って)、和平案を受諾しなければ空爆だぞという脅かしをおこない、ユーゴが拒否したので、やむを得ず空爆に踏み切る決定を独断で下したのです。
空爆は明白な武力行使で、普通、これは戦争ですが、奇妙なことに、国際法の上では戦争なのかどうか、不明確です。それは、宣戦布告という戦争の開始に(普通)必要な手続きがとられていないことからです。だれとだれが戦争をしているのか、国際法の上では明確でないのです。空爆と並行して、ユーゴ向けの原油輸入禁止のために、アドリア海(地中海)でタンカーを検査(武力を伴う臨検という方法です)しようという提案がされたとき、フランスのシラク大統領は「それは戦争行為になってしまう」といって反対しました。空爆しているのに、これは戦争ではなく、タンカーの臨検は戦争行為だというのです。

> あと、この空爆は国連の許可をもらっていませんよね?ということは、あくまでもこ
> れは、NATOの独断で行われたということです。それは、国際的に許されることなので
> しょうか?

本当は許されないことです。だから、空爆をやめた後に国連が決議をして、コソボに平和維持軍を派遣するという、事後処理的ですが、そういうつじつまあわせの手続きをとらねばならなくなっているのです。おかしなことです。
しかし、これにも理由があって、冷戦(米ソ対立)が終わって、ソ連がなくなり、アメリカが唯一の超大国になったことで、国連の安保理常任理事国5カ国の力関係が変わり、ソ連の後継者のロシアがアメリカのやることに正面から反対することが少なくなっているという事情があるのです。
ともあれ、NATOによる国連を無視した独断の空爆という暴挙は、今後、これを「前例」にしてはならないことだと思います。

> あとこの空爆は結局市民の生活をめちゃくちゃにしました。このあとこの破壊された
> 町をNATOは直すのですか?だれがこの町を元通りの住める状態に戻すのでしょうか?

空爆によるユーゴの被害とともに、ユーゴ軍などが破壊したコソボのアルバニア系住民の都市などの被害も大変に深刻です。
NATO諸国を含む欧米と日本などが復興のための会議を開き、援助をすることになるでしょう。しかし、元通りに近づくには、10年以上もかかることでしょう。

> あと、もし、武力行使以外にこのコソボ問題を解決する方法というのはあるのでしょ
> うか?それがどう考えても思いつかないので何かあったら教えてください。

武力行使以外というのは、やはり話し合いでしょう。それも、ただ漫然と話し合いをするのではなく、当事者(ユーゴ政府とアルバニア系住民)の双方が妥協しあって、血を流さないように折り合いをつけられるような和平案が土台になる交渉をまじめにするべきでした。
今回、ユーゴ側が拒否した和平案(ランブイエ案)は、アメリカが中心になって、まずアルバニア人側のオーケーをもらえる案を作り、その後でユーゴ側にそれを持っていって、イエスかノーか、修正は認めない、と突きつける乱暴で不公平なやり方でした。内容に関しても、アルバニア人の自治を認める点はいいとしても、3年後に住民投票を実施してコソボを独立させるかどうかを決める、という項目が入っていました。住民の過半数はアルバニア系ですから、住民投票をすれば独立賛成が決まるのは明らかです。「3年後の住民投票」というのは事実上「3年後の独立」ということですから、セルビア人の側は絶対にのめない内容でした。

> わたしは、NATOの武力行使の反対派です。NATOは結局どういうものなのかという資料
> が少ないのでいいHPがあったら教えてもらえませんか?このほかにもわからないこと
> がいっぱいあるので、質問に答えてもらえると光栄です。

NATOのHPは、

http://www.nato.int/

です。ここで、基本的な文献は手に入りますが、自画自賛の内容なので、注意して下さい。NATOを批判的に(かつ冷静に)分析した論文のようなものは、今のところあまり目につきません。

また何かわからないことがあったらメールを下さい。


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