○夕焼け雲






 夕焼けは、一日の終りを告げる、空からのメッセージ。


 白く、強い光を天から降り注がせた太陽は地平線へ近づき、


 都会のビルは、側方からのその暖かい光に、赤く照らし出される。


 次第に暗くなる空に、何となく寂しさを感じる。


 子供の頃、遊び疲れて家へと急いだ、あの懐かしい記憶。


 ずっと前から変らず繰り返されてきた、夕刻の風景。


 そしてこれから始まる、長い夜の幕開けでもある。


 夕焼けがなぜ赤いのか。それは、昼間の空が青い事と関連がある。

 地表を覆っている空気は、主に窒素と酸素の混合気体だ。これら気体を構成している分子に太陽からの光が当たると、光は様々な方向に乱反射(正確には「レイリー散乱」)する。この散乱される度合いが光の色によって異なり、波長の短い青い光ほど強く散乱される。これが、昼間の空が青く見える理由だ。
 (ここまでの詳細は、青い空を参照下さい。)

 やがて夕方になり、太陽が地平線に近づいてくると、すこし状況が変わってくる。
 太陽の光は、地球表面の空気の層に対して斜めに入射するようになるので、昼に比べて空気の中を進む距離が長くなる。
 すると途中で、波長の短い青系の光は散乱され尽くして無くなってしまい、波長の長い赤系の光だけが残る。だから太陽の光は赤っぽくなるし、周辺の空も赤くなるというわけだ。



 全体的な光の強さもこの空気の層で減衰するから、昼間は眩しくて直視できない太陽も、夕陽として直接見ることができる。
 太陽が地平線へ沈んでゆくにつれ、太陽光の入射角度はさらに浅くなる。空気中を進む距離がさらに長くなるので、空気分子による散乱はますます進み、太陽からの光は、より赤い色へと変化する。


 朝焼けの赤い色も、原理は夕焼けと同じだ。でも一般的には夕焼けの方が、より赤みが強くて美しいイメージがあると思う。
 この原因は、朝焼けに比べて夕焼けの方が見る機会が多い(日の出の時間にまだ寝てる人は多いが、日没までに寝てしまう人はかなり少ない)ことや心理的・生理的な面もあるが、それよりも、より光を散乱させるスクリーンの役割をもつ大気下層の塵や水滴が、夕方のほうが多いためだといわれている。

 昼間は、車の排気ガスなどの様々な微小粒子を発生させる人間活動が活発だし、日射による蒸発・凝結があるから空気中の水滴も多い。これらを攪拌する大気下層の対流活動も、昼のほうが活発だ。

 つまり朝より夕方の方が、空気中の塵や水滴などが多いから、それらの粒子による散乱が効いて、空の赤みがより増すというわけだ。

 ちなみに塵や水滴の大きさは空気分子よりも大きく、光の波長と同じくらいの大きさだ。この場合、光の波長によって散乱の強さが異なる「レイリー散乱」ではなく、光の波長とは無関係に散乱する「ミー散乱」となる。
 ミー散乱には、特に散乱されやすい色がない代りに、散乱される方向に偏りがある。前方散乱と言って、光の進む方向に強く散乱される特徴があるのだ。
 空全体が夕焼け色にはならず、太陽とその周辺の赤さが特に強く感じられるのは、この強い前方散乱によるものだ。




 夕焼けは、太陽が地平線の下に沈んでも、しばらく続く。
 地上が暗くなっても、上空にある雲が赤く染まったままでいるのは、よくあることだ。たとえば一番下の画像は、日没から約5分後の夕焼け雲を写したもの。
 (ちなみに気象学的に言うと「日没」とは、太陽の上端が地平線の下へと沈み、完全に見えなくなった時点をいう)


 なぜ日没後に夕焼け雲が見えるのか。それは、地上では陽が沈み夜となっても、上空ではまだ太陽が沈んでおらず、その赤い光が雲の下面を照らしているからだ。
 地球は丸いから、高い所ほど遅くまで太陽が照っている。三角関数を使って簡易な計算をしてみたところ、上空100メートルでは1分ちょっと、1kmでは約4分、そして写真のような雲(巻積雲)のあるような高度10kmでは約13分、地上より日没が遅いという結果が出た。

 地上は暗いのに空では太陽が残っている。しかもその光は空気中を最も長く進んでいるから、かなり赤みが強くなっている。日没後の夕焼け雲が特に美しく見えるのは、そんな理由があるからかもしれない。



 仕事帰りの電車の中。

 この路線は終始、市街地や商業地のビルの間を走る。

 でも高架区間が多いから、車窓からの見晴しは、悪くない。

 文庫本など読んでいたが、ふと目を上げたとき、窓の外がやけに赤いことに気が付く。

 窓に顔を近づけ、外を見る。

 後方へと流れる去ってゆく景色の上、空の大部分が深い紅色に染まっていた。

 見事な夕焼けだ。滅多に見られるものではない。

 静かな興奮を覚えながら、しばしそれに見とれていた。






○撮影データ(ページ上の写真より)
・1枚目  日時:2000年9月17日   場所:千葉県市川市
 カメラ:コンタックス アリアD  レンズ:カールツァイス ディスタゴンT* 28mmF2.8
 フィルム:ベルビア50  その他:シャッター速度優先1/60秒
残暑の夕方の路地道。そこから見上げる狭い空は、夕焼け色に美しく染まっていました。

・2枚目  日時:2003年9月29日   場所:千葉県千葉市
 カメラ:ペンタックス MZ-5  レンズ:ペンタックス SMC FA Zoom 28-70mm F4AL
 フィルム:ベルビア50  その他:シャッター速度優先1/60秒
高い場所に上れば、ビルの林立する都市部でも見晴しは十分。空の広がりを感じることができます。

・3枚目  日時:2004年5月18日   場所:千葉県船橋市
 カメラ:ミノルタ TC-1  レンズ:ミノルタ G-ロッコール 28mm F3.5
 フィルム:ベルビア50  その他:絞り優先 F3.5 露出補正 -0.5EV
駅の連絡通路窓からの撮影。シャッター速度 1/8秒以上での手持ち撮影という過酷な条件でした。でもミラーショックのないコンパクトカメラは、カメラの持ち方とシャッターの押し方に注意すれば、結構ブレずに撮れるものです。



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