カメラの基礎(3) レンズについて(後編)



 一眼レフ用レンズと、レンズのF値

 今回は焦点距離の話の続きと、レンズの明るさについて書いてみようと思います。

 焦点距離の長いレンズ、つまり望遠レンズは撮影倍率が大きので、被写体を大きく写すことができます。
 一眼レフカメラではレンズを交換してもファインダー系をいじる必要がなく、またピント合わせもファインダーで確認できるという利点があるため、望遠レンズも様々なものが用意されています。 我々が買えるような価格帯でも300mm程度までのレンズは一般的ですし、中には焦点距離600mmとか、1000mmを超える超望遠レンズもあります。
 が、ここでも疑問がひとつ。例えば焦点距離300mmのレンズということは、レンズ*1 から焦点面(フィルム面)までの距離が300mmあるハズなのですが、実際に図ってみるとそれより短い場合が多いのです。

 これはレンズの組合せを工夫することによって、実際の焦点距離よりもレンズ全体の全長が短くなるように設計されているからです。このような設計が施されたものを「テレフォトタイプ」のレンズと呼びます。1枚の凸レンズだけではできないこのようなことも、何枚もの単レンズの組合せにより実現できるというわけです。

 *1何枚もの単レンズの組合せである写真用のレンズ自体に長さがあるので、どの場所をレンズの中心と定義すべきか迷いますが、この場合、同じ撮影倍率をもつ1枚の凸レンズで代用した場合、その凸レンズが置かれている場所を中心と定義します。なおこの中心点のことを専門用語で「後側主点」といいます。


 次に広角レンズについてです。
 広角レンズ、イコール焦点距離の短いレンズですから、レンズから焦点面までの距離が短いということになります。この場合、望遠レンズみたいにレンズ全体をコンパクトにするための特別な工夫は必要ないように思われますが、実は大きな問題があります。
 一眼レフカメラの仕組みを思い出してください。 レンズとフィルムの間に45°のミラーがありましたよね? 一眼レフカメラではこのミラーが可動する空間が絶対に必要です。 つまり、焦点距離の短いレンズを使おうとすると、レンズの後端がこのミラーに当たってしまうという問題が生じるのです。
 このため一眼レフ用の広角レンズには「レトロフォーカスタイプ」と呼ばれる、実際の焦点距離よりもレンズからフィルム面までの距離を長くできる設計が施されています。
 カメラ側の都合でこのような制限をレンズ設計に与えるわけですから、初期の頃は一眼レフカメラは広角には向かない、と言われたこともあったようです。 しかし現代では設計技術も進歩し、このような懸念は無くなりました。今や一眼レフは超望遠から超広角レンズまで、様々なレンズが使えます。



 さて前回カメラ用レンズについて、「焦点距離」とレンズの明るさを示す「F値」、このふたつの数字だけで、そのレンズがどのような写り方をするかだいたい分かってしまうと書きました。
 そこで今度はレンズのF値について書いて見たいと思います。

絞り機構  一眼レフカメラ用レンズには、「絞り」と呼ばれる機構が組み込まれています。
 これは右図のようにレンズ群の中にあり、穴の大きさが変わることによりレンズを通る光の量を調整する働きがあります。

 人間の目は周囲の明るさによって瞳の大きさが変化します。それと同じように5〜10枚程度の薄い金属板で構成されたレンズの絞りも、中央の穴の大きさが変えられるようになってます。一眼レフ用レンズの絞りは通常めいいっぱい開いた状態(これを絞り「開放」といいます)になっていますが、撮影時には予め設定された大きさに絞り込まれます。

 絞り開放状態というのが、そのレンズが最も光を通している状態です。言い換えれば、最も明るい状態なわけで、絞り込んでゆくことにより内部を通る光の量が制限されるわけですから、そのレンズはどんどん「暗く」なります。

 さて、ここでレンズの明るさを表す単位が必要になります。部屋の明るさを表す単位にはルクスとかカンデラといった単位を使いますが、レンズ場合は「F値」を使います。
 F値とはそのレンズの焦点距離fを有効口径Dで割った値で、F値が小さいほどそのレンズは明るくなります。
 つまり
   F値 = f/D
 となります。

 有効口径とは言ってみればレンズの直径のことですが、一番前のレンズの直径ではありません。これは実際に光が通る中で最も狭い部分、つまりレンズを覗いた時に見える絞りの穴の直径のことを言います。
 式を見れば明らかなように、F値は有効口径Dが大きいほど小さくなります。つまり大きい(=有効口径が大きい)レンズほど明るい(=F値が小さい)という、当たり前の結果になります。
 一方、F値は焦点距離が長いほど大きくなります。つまりレンズの大きさを同じとした場合、望遠レンズになるほどレンズは暗くなります。明るい望遠レンズを作るには、より大きなレンズを使う必要があります。

 カメラ用のレンズには、例えば「 50mm/F1.4 」などという表示がされています。50mmというのがそのレンズの焦点距離、F1.4というのがそのレンズの絞り開放(つまり一番明るい状態)でのF値を示しています。
 F値はレンズ側面にある絞りリングを操作することによって、絞りの大きさを変えられる=F値を変えられるようになってます。

注: 電子制御によりカメラ側で絞りを制御するタイプのレンズには、絞りリングのないものもあります。また実際には、カメラに装着した状態でレンズの絞りリングを動かしても、シャッターを押さなければレンズ内の絞りは動きません。一眼レフカメラではファインダーを極力明るくするため、撮影時以外は絞り開放にしておく仕組みになっているためです。



 F値についてもう少し話を進めましょう。
 F値は数字が小さいほど明るく、大きいほど暗いことはお分かりかと思います。 では「F2」は「F4」の半分だから、明るさは2倍であるかというと、コレが違うのです。

絞りリング  このF値、レンズの絞りリング部に目盛られている数字を見ると、
 1.4  2  2.8  4  5.6  8  11  16  22 ....
などと書かれています。
(右の写真のレンズは開放F値2.8のレンズなので、絞りリングにはF2.8までの目盛りしかありませんが。)

 一見バラバラな数字が並んでいるように見えますが、これがすべてルート2の倍数で並んでいることに気づいた人は鋭いです!
 レンズの明るさはレンズの「面積」に比例するのですが、F値算出のもとになるのはレンズの「口径」でしたよね。直径20mmの円の面積は、その半分の直径である10mmの円の2倍ではなく4倍です。つまり、直径を倍にすると面積は4倍になります。面積を2倍にしたければ、直径は2の平方根、つまりルート2倍にしてやればOKです。

 よってF4の2倍の明るさをもつF値はF2ではなく、4をルート2 で割った数字、つまりF2.8というわけです。
 これをふまえてさっきの
 1.4  2  2.8  4  5.6  8  11  16  22 ....
 という数字を見ますと、右の数字に移るごとにレンズの明るさは1/2になり、ひとつ左の数字にいくたびに明るさは2倍になります。
 このように絞りを変えて明るさを1/2にしたときを一段絞る(暗くする)といい、2倍にしたときは一段開ける(明るくする)といいます。

 例えばF4を1段絞ればF5.6になり明るさは1/2。三段開ければF1.4になり8倍の明るさになるという言い方をするのです。

 最後に補足をひとつ。
 絞りを絞る(=F値を大きくする)ほどレンズは暗くなりますが、それと同時に被写界深度も深くなる(ピントの合う範囲が広くなる)という特徴があります。これについては空撮テク(6) ピントと絞り(パンフォーカス撮影)に書いてありますので参考にしてください。(2000.12)





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