ここでは、35mmフィルム一眼レフを使用してパラグライダーから空撮を行なう際のピント合わせについて、私の方法を紹介します。
さて、空中から広角系のレンズで写真を撮る場合のピント合わせについてですが、私はオートフォーカス(以下AF)のカメラであってもマニュアルフォーカス(以下MF)に切り替えて、AFを使用しないことが多いです。
とは言っても、空中でファインダーを覗きながら手動でじっくりピント合わせをしているわけではありません。どうしているかというと、空撮だと被写体までの距離があらかじめ分かっていることが多いため、フライト前にピント位置を予想して合わせておくのです。
例えば遠くの景色を撮る場合なんかのピント位置は無限大でいいわけですから、そういう撮影をするつもりなら、最初からカメラをMFにしてピントも無限大に合わせておきます。
もちろんAFでも撮影は可能ですが、シャッターを押してからピントが合うまでに多少のタイムラグがありますから、撮りたい!という瞬間を写せなかったりします。
また画面中央付近が空などのコントラストが低い被写体の場合、カメラのAF機能がうまく働かずにピントが合わず、シャッターが切れない事が多いからです。
ただしそれほど遠距離にない、例えば10数mしか離れてないフライト中の仲間を撮るなんていう場合はAFで正確にピントを合わせた方が良いと思われます。さらに、レンズによってはピントリングを回し切った位置が無限大だとは限らない物もあるようなので(ピント無限大位置を通り過ぎてしまう)、無限大に固定する際は地上にてファインダーを覗き確認した方が無難でしょうね。
次に遠くの景色だけではなく、近距離の被写体を撮る場合の話です。これは私もよく撮る、フライト中の自分の姿を写した写真がその典型的な例です。
このような場合、広角レンズを用いて背景の空や山並みなども写し込みたいところです。
そこで、カメラから近い被写体(自分の姿)から無限遠(背景の空や山)までピントの合った写真にする必要があります。このような、手前から遠くまで全部ピントが合っていような写真の撮り方を「パンフォーカス撮影」と言います。以下、その説明です。
まず、ある距離にある被写体にピントを合わせたとします。
厳密に言えばピントが合っているのは被写体の ある一点のみで、そこ以外はすべてピンボケのはずなのですが、そのボケが小さいためにボケているようには見えない、つまり実用上ピントが合っていると言ってもいい領域が被写体の前後に存在します。
これを「被写界深度」と呼んでいます。(左図参照)
被写界深度は、被写体の手前(カメラ側)に浅く、奥へ深いという特徴があります。
ちなみにピントの合う領域が広いことを、「被写界深度が深い」と言い、その逆にわずかな範囲にしかピントが来ないことを「被写界深度が浅い」と言っています。
で、ここからが重要なのですが、被写界深度はレンズの焦点距離と絞り、そしてピントを合わせるその被写体までの距離によって変わります。同じレンズを同じ絞りで使うなら、被写体までの距離が近いほど被写界深度は浅くなり、距離が遠くなるほど被写界深度は深くなります。
今度は被写体までの距離を一定とします。この場合、まずレンズの焦点距離が大きくなるほど(望遠レンズになるほど)、また絞りを開ける(F値を小さくする)ほど、この被写界深度は浅くなります。
つまり、ピントを合わせた場所以外のボケが目立ってきます。これを利用すると、被写体にピントを合わせつつ背景の景色をボカして、被写体を浮き立たせるような写真を撮ることもできます。ポートレート(人物撮影)写真なんかでよく使われる手法です。
逆に、レンズの焦点距離が小さくなる(広角系のレンズ)ほど、また絞り込んでF値を大きくするほど、この被写界深度は深くなります。つまり、被写体周辺のより広い範囲にピントが合うわけです。
ここで、ある程度以上の広角系レンズを用いて絞り込んでゆくと被写界深度はどんどん深くなり、やがて無限遠にもピントが合うようになります。これがパンフォーカス撮影です。そしてその時のピント位置、つまりカメラからピントを合わせた被写体までの距離のことを「過焦点距離」と呼びます。
ではどのくらいの焦点距離のレンズを、どのくらいの絞りで撮影すればパンフォーカスになるかという話ですが、その関係を以下の表にしてみました。
(なおこの数字は計算で簡単に求められるのですが、その計算式の根拠や理論は難しいので、ここでは触れません。というより、私もよく分からないです。(^^; )
過焦点距離表 (単位:m)
焦点\F値 | 1.4 | 2 | 2.8 | 4 | 5.6 | 8 | 11 | 16 | 22 |
50mm | 54.1 | 37.9 | 27.1 | 18.9 | 13.5 | 9.5 | 6.9 | 4.7 | 3.4 |
35mm | 26.5 | 18.6 | 13.3 | 9.3 | 6.6 | 4.6 | 3.4 | 2.3 | 1.7 |
28mm | 17.0 | 11.9 | 8.5 | 5.9 | 4.2 | 3.0 | 2.2 | 1.5 | 1.1 |
24mm | 12.5 | 8.7 | 6.2 | 4.4 | 3.1 | 2.2 | 1.6 | 1.1 | 0.8 |
20mm | 8.7 | 6.1 | 4.3 | 3.0 | 2.2 | 1.5 | 1.1 | 0.8 | 0.6 |
18mm | 7.0 | 4.9 | 3.5 | 2.5 | 1.8 | 1.2 | 0.9 | 0.6 | 0.4 |
17mm | 6.3 | 4.4 | 3.1 | 2.2 | 1.6 | 1.1 | 0.8 | 0.5 | 0.4 |
14mm | 4.2 | 3.0 | 2.1 | 1.5 | 1.1 | 0.7 | 0.5 | 0.4 | 0.3 |
表の中の数字は、その焦点距離・絞り値において、パンフォーカスとなるピント位置(過焦点距離)を示しています。そして実際にピントが合う領域(被写界深度)は、この過焦点距離の半分の距離から無限遠までの間です。
例えば、焦点距離35ミリのレンズを絞りF8にして撮影した場合の過焦点距離は表より4.6mということがわかります。ピントリングをこの位置に合わせると、その半分の距離である2.3mから無限遠までピントが合うということです。
ここで空撮の話に戻します。カメラから被写体までの距離は自由に変えることはできませんから、手前から遠くまでピントの合ったパンフォーカス撮影をするためには、レンズ側で適切な焦点距離と絞り値を選んでやる必要があります。
自分の足や一脚などにカメラを固定し、そこから自分の姿を撮る場合、カメラから被写体までの距離はだいだい0.5〜1.2m程度になることと思います。そこで例としてこの一番近い被写体までの距離を1mとします。
パンフォーカスとなった場合にピントが合うのは過焦点距離の半分までです。よってカメラから1mの被写体にピントを合わせるためには、少なくとも過焦点距離はその倍である2m以下にしてやらなければなりません。そこでカメラのピントリングを2m以下に固定してやります。
この状態でパンフォーカス撮影をするためには、例えば焦点距離18ミリのレンズの場合、表より対応する過焦点距離が2m以下となるF5.6(過焦点距離1.8m)程度の絞りになっていればいいわけです。
絞り優先AEで撮影する場合はこのF値に合わせておけばカメラが最適なシャッター速度を選んでくれます。また、シャッター速度優先の場合はその時の光量・フィルム感度からカメラが選ぶと予想されるF値がF5.6以下になるようなシャッター速度を設定してやればいいと思います。
もちろんさらにレンズを絞り込んでゆけばそのぶん被写界深度も深くなって、より手前側にもピントが合うのですが、その代わり(レンズを絞ることにより)シャッター速度が遅くなります。シャッター速度が遅くなりすぎると今度はカメラブレの問題が出てきますので、この点も注意してください。
さて、以上をふまえてカメラに必要な設定をすませたら、ピントリングが何かの拍子で動いてしまわないようにガムテープ等で固定してしまいます。
私の場合、ついでにカメラの電源スイッチやフィルム蓋,電池蓋など、空中でのカメラ操作に不要な個所はみんなガムテープで固定してしまってます。ちょっとばかし見た目は悪くなりますが、撮影しているカメラ自体は写真には写りませんから(当たり前ダ!)、支障はないというわけです。
(1999.1)
−おまけ−
パンフォーカスに必要な過焦点距離について、自由に焦点距離やF値が設定できるように、エクセルで過焦点距離表を作ってみました。かなりいい加減な代物ですが、興味のある方はダウンロードしてみて下さい。(Microsoft Excel Version5 以上ならOKだと思います)
なお、本ファイルはLZH方式にて圧縮してあります。解凍してお使い下さい。
ダウンロード: camera1.lzh (6KB)
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