飛行機はこの雲の山を巧みに避け、大きな輪を描くようにして上昇してゆく。 再び下へ目を転じると、雲による谷間の下にはコバルトブルーの海と、緑の大地が見え隠れする。もうすでに相当な高さになっているようだ。 そう思っているところへ、インストラクターが高度計を見せてくれた。針は既に8000フィートを越え、もうすぐ10000フィートに届かんとしている。日本で一番高い山である富士山、それに匹敵するような高度に達しようとしている。何も言われなくても、もうすぐジャンプするのだろうと思うと緊張が高まってくる。飛行機はすでにほとんどの雲を見下ろす程の高さを飛んでいた。
飛行機のエンジンを絞ったらしく、音が小さくなった。パイロットが何か叫ぶ。とたんに機内の動きが慌ただしくなった。私の後ろにいるインストラクターが何やらごそごそし始める。後ろから引っ張り、お互いのハーネスをしっかりと繋ぎあわせるための作業をしているらしい。この接続状態こそが、我々の命綱。絶対外れることのない丈夫な金具で固定されているのは分かっていても、落下中にインストラクターと別れ別れになったらどうしよう、などとつまらぬことを考えてしまう。しかしさっきインストラクターに拙い英語で「私はパラグライダーのパイロットである。」などとハッタリかまして慣れた風を装ってしまった手前、不安そうな仕草は見せまいと勝手に思っていたのだった。
インストラクターがいくぞ、というような顔をしてこちらを向き、声を出してアピールする。
二人の姿は瞬く間に視界から消えた。 しかし怖気づいている暇もなく、二組めが開口部から身を乗り出す。呆気に取られている私をよそに、かれらも瞬時に視界から消えた。そして三組め。落下中の撮影は彼女で行うことになっているので、カメラマンも一緒に飛び降りる。まずカメラマンが機体につかまりながら外へ出て待機し、続いて出てくる二人を待ち受ける。そしてインストラクターとタイミングをとるようにして飛び降りていった。
さあ、いよいよ最後、私の番だ。私が前、インストラクターが後ろという配置でしっかりとハーネス同士が接続されており、この状態のままで開口部へと近づき、身を乗り出した。
改めて下を見てみる。このぐらいの高度になると返って人は恐怖心を感じないものだと思っていたが、それでも全身の血が渦巻くような緊張感・迫力を感じる。しかし、以前バンジージャンプで経験したような、激しい恐怖感は不思議となかった。 ![]() 飛行機から身を躍らすように、我々は飛び出した。
透明な空気の壁にぶつかるような感覚で、体が運ばれる。直接見えはしなかったが、今まで我々を乗せてくれていた飛行機が上方へ飛び去ってゆく感覚がする。
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ページ最終更新:1998/4
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