それにしてもこの、たいして大きくない飛行機に9人も乗って、ホントに飛べるんだろうか? なんて余分なことを思っていると、最後にパイロットが乗り込んできた。いよいよ出発だ。 空に飛び出したら、もう後戻りはできない。もう覚悟を決めるしかない。こうなったら徹底的にこの体験を楽しんでやろう。
スターターが回り出した。この飛行機のエンジンは両翼に付いているため、窓越しにプロペラが回っているのを見ることができる。すぐにドドドッという音と伴にエンジンが掛かり、結構な振動が伝わってきた。
そうこうしている内に滑走路上に達し、エンジンが高らかな爆音を発し始めた。飛行機はゆっくりと加速を始める。 ぎっしり詰め込まれている機内では自由な身動きこそできないが、丁度目線の高さにある窓からは次第にその流れ行く速度を速めている外の景色を傍観できた。重いためか音の大きさの割にそれほどの加速はないが、それでも広い滑走路上で次第に速度を付けてゆく。
ああ、今、飛んでいる! 一方島の緑の大地へと目をやってみる。サイパンで一番高い山は海抜473m。従って、それほど急峻な地形は見られない。そしてその地形のほとんどは熱帯性の植物で覆われている。海岸線に近いところには建物や道路などの人工物が多く見受けられ、太陽の光を受けキラキラと水面を輝かせる周囲約1.6kmのサイパン最大の淡水湖、ススペ湖も見える。
私はこの雲を間近に眺め、さらにそのすぐ側まで近づくというのが、子供の頃からの憧れだった。空に浮かぶ白い雲を見上げて、あの雲の境界はどうなっているのだろう、内部はどんなかななどと考え出すと、興味が尽きることがなかった。実際はそんなことはないのに、きっと綿菓子のかたまりのように、”ここから雲ですよ”というはっきりとした境があるに違いない、そう子供の頃は思っていた。
その夢が、現実のものとなっていた。飛行機は凛々と屹立する山のようにそびえる雲の間を縫うように飛び、ゆっくりと上昇してゆく。白く輝く雲はまるで急峻な崖を思わせ、その峰々が我々を取り囲んでいるようだ。時々、ちぎれ雲のように独立した雲の近くを飛行機はすり抜ける。その時、窓の外を半透明の白い幕が前から後ろへと流れ去ってゆくように見える。霧の中を進む自動車から外を見たような、あるいは焚火の煙の中へ自転車でつっこんだような、そんな時の景色にも似ている。 とはいえ、ある程度の距離を置いて見れば、やはり雲は「かたまり」だ。この際、細かいことは考えないことにしよう。
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ページ最終更新:1998/3
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