鳥になった時

1.サイパンとスカイダイビング



 日本から南へ約2400km、マリアナ諸島にあるサイパンは常夏の島。平均気温の変化が年間を通してほとんどなく、そのかわり雨季と乾季があるだけだ。日本からは直行便で3時間程で行けることもあって、グアムと並んで人気が高い。

 ショッピングの他にもいろいろな観光があるが、一番メジャーなのはやはりマリンスポーツ関係だ。ほとんどのホテルは海岸沿いにあり、ビーチを持っている。ここで海水浴をしたりシュノーケリングをしたりカヤックに乗ったりして過ごせるわけだ。もちろんスキューバダイビングもできる。きれいな海で、日本では味わえないような素晴らしい体験ができるダイビングスポットも沢山あるらしい。それに私のようにライセンスを持ってない人も、浅い海をインストラクターと一緒に潜る体験ダイビングができるので、その楽しみの一部を味わうことだってできる。


 去年の夏、有給休暇を取ってこのサイパンにいくことにした。
なぜならここは前述したようにとても近距離の海外リゾートだということ、そして(これが一番の理由なのだが)かなり安い料金で行けるからだ。夏の観光シーズンとはいえ、お盆や夏休みが終わった9月であればツアー料金もさらに安くなるし、近距離なので移動にたいして時間がかからず、少ない休暇を有効に使うことができる。
 私は浜辺でじっとしていることが出来ない性格なので、続いていろいろなオプショナルツアーを探してみた。そして、その中でもひとつ見逃せないモノがあった。そう、スカイダイビングだ。

 スカイダイビング、この言葉を聞いたことがある人、またはテレビ等で見たことがある人はかなりいるのではないだろうか。
 パラシュートを背負い、高度数千メートルの上空で飛行機から飛び降りる、あのスカイスポーツだ。

 以前バンジージャンプで懲りた私も、これはやってみたいと常々思っていた。

パラシュート 何と言ってもスカイダイビングのパラシュートは、私の趣味であるパラグライダーのルーツだと言われており、何かダイナミックで爽快なイメージがする。バンジーが怖かったのは人間がもっとも恐怖を感じる数10mという高さだからであって、こちらは高さ何千mという場所からのジャンプなのであんまし怖くないだろうし。(結局、全然懲りてない私)

 そのとても恐そうな、いや面白そうなスポーツがここサイパンでも楽しめるとあっては、挑戦してみない手はない。オプショナルツアーとしては約240ドルと多少値は張るが、それだけの価値はありそうだ。(この時1ドル=約130円)

 蒸し暑い東京を飛び出し飛行機で約3時間、サイパンに到着する。空港の外に出てみると…さすが常夏の島、かなり暑い。そのうえ雨季なので湿度も日本以上にありそうだ。
 しかしその代わり、バスの中やホテルの部屋は暑さに負けないくらい冷房が効いている。涼しくて快適なのはいいが、涼しい所と暑い所の間を頻繁に移動すると体が参ってしまうかも知れない。これには気を付ける必要がありそうだ。

 今回のツアーではお金をできるだけ節約するため、ホテルでの朝・夕食は含まれていない。ホテルの食事は高い。いきなり余談だが、以前 東京のとある高級ホテルに泊まった時、部屋の冷蔵庫にあるビールのしかも小ビン(初めて見た)が1500円もするのに仰天したことがあった。そこではレストランの食事も同じように、1週間は暮らせるような値段だった。(まあ、本来はこの値段を「高い」とは思わない人が泊まる場所なんだろうけど。)
 ここサイパンではこれほどではなく、場合によっては外での食事の方が高かったりする。しかしせっかく海外に来て、ホテル中心の生活もつまらない。てなわけで近くの飲食店探しと、朝食の買い出しのためのスーパーマーケット探索に向かう。

 実は私、この海外のスーパーマーケットでの買い物というのがたまらなく好きなのだ。現地の生活や食習慣に触れることができるし、なにより日本には無いような珍しいもの・力の抜けるようなものをゲットできたりするからだ。
 ただ、物流が発達している現在は、実際それほどの差はなかったりしたけど。日本の菓子やインスタントラーメン、納豆なんかも売っていた。(しかし高い)

 牛乳やコーンフレーク、缶詰などお手軽な物を選んでカゴに入れる。
 物価については観光地ということもあり、日本と大して変わらない印象を受けた。


 さて、スカイダイビングだ。
ここでは私の知る限り「SKYDIVE SAIPAN」という1社のみが観光用のタンデムジャンプを行っている。タンデムジャンプというのは文字通り二人接続した状態でスカイダイビングをするものだ。相手はベテランのインストラクター。そのインストラクターが後ろ、客が前になるようにがっちり接続して飛行機から飛び降りる。落下中の体勢調節からパラシュートを開き、それをコントロールして定められた地点に着地するまで、すべて後ろのインストラクターがやってくれるので、気を失ってても(そんな人はいないと思うが)大丈夫である。
 もちろん本来のスカイダイビングは一人で飛び降りるものだから技量を証明する資格もきちんと定められており、基礎から練習できるようにスクール体制も統一されている。しかし私のように一度体験してみたいという人向けに、簡単な説明だけでスカイダイビングができる、このタンデムジャンプがあるわけだ。

 送迎の車に乗り、空港へと向かう。我々がスカイダイビングのために乗る飛行機も、国際線旅客機の発着するこの空港から離陸する。
 車の中で時々バンジージャンプの思い出が蘇る。今度は違う、大丈夫ダゾと自分に言い聞かせるが、何故かドキドキしてしまう。小さい島なので、どこへ行くにしても車で15分もあれば着いてしまう。我々はまもなく空港脇にある「SKYDIVE SAIPAN」事務所へ到着した。

 今回のスカイダイビングに挑戦する物好きは私と、女性が3人だ。この4人でまず手続きを行なう。主に免責事項を了承する書類へのサイン等の記入をする。要旨は「ケガ・死亡するような事態があっても、訴えたりしません。」といった、どの体験スポーツをやる時にもおなじみのやつだ。しかしひとつ違う点があった。この書類がひたすら厚いというか多いのだ。当然サインをする個所もいっぱいあって、ありとあらゆる免責事項が書かれている。
 またちょっと不安になってしまうが、これはお約束みたいなものと思おう。免責事項が多いからといって危険だというわけじゃない。

 書き終えると、次に受付のお姉さん(日本人)から簡単な説明と注意事項を教えてもらう。飛行機の種類と乗り方、内部では立たない、暴れない(当たり前だ)といった基本的なことから、イグジット(飛行機から飛び降りる動作のことを言う)から最後にランディング(着地)にいたるまでの一連の動作についての説明を受ける。
 まずイグジット時は両手を胸の上でクロスさせ、それぞれ反対側の肩の辺りを掴む。
 この姿勢のままイグジットし、姿勢が安定しインストラクターが合図したら手を広げる。
 約30秒後パラシュートを開くが、衝撃に備え腕はしっかりとブロックする。
 そして着陸時は足を上げ、インストラクターの邪魔にならないようにする。
だいたいこんな感じだ。

 落下中は手足を広げ、それに当たる風というか空気の抵抗をうまく制御して姿勢をコントロールする。後日、本を見てそのやりかたを調べてみた。(経験者が見るとちょっと違う点があるかも知れないけど、ご了承下さい)
 まず、落下中の基本姿勢はうつ伏せに寝た体勢から腕と脚を上方に伸ばし、軽く広げた状態だ。このえび反りというか、アーチ型の姿勢をとることにより体は地面と並行に、下を向いた状態で安定落下する。

 この姿勢から腕を縮め脚をさらに伸ばせば、脚に当たる空気抵抗の方が大きいため姿勢は頭を下にして傾き、前進する。この逆、つまり腕を伸ばし脚を縮めればバックできる。同じ理屈で左右への移動や回転、そして宙返り(前転)等も可能だ。ベテランになるとこの落下しながらの姿勢制御は自由自在にできるようで、何人かで手をつないでフォーメーションを作ったりする。パラシュートを開くまでの数10秒間に、しかも時速200km/hで落下しながらこういうことをやるのだからすごい。

 もちろん、タンデムジャンプをやる我々はそんな難しい動作をマスターする必要はなく、ただ事前の指示に従ってればいいだけだ。操作はすべてインストラクターがやってくれるので心配する必要はないのだ。


PHOTO: SKYDIVE SAIPAN INC. STEVE V/S


ページ最終更新:1998/4


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