パラグライダー初飛行の思い出

1.迷い



 何? パラグライダーで空を飛ぶぅ? そんな、空を飛ぶなんて危険なんじゃないの?
 これは、その年の夏前にパラグライダーなるスポーツを始めた友人と、その趣味について話す時に必ず飛び出す言葉だった。


 だいたい元来、空を飛ぶ能力を持たない人間が「飛ぶ」わけだからきっと何かすごい冒険的で危険なスポーツに違いない。それによく知らないけど空を飛ぶための道具を揃えなくてはいけないわけだから、お金も相当かかるだろうな、と決め付けていたのだ。


 そうは言っても私は飛ぶ、ということ自体が嫌いだったわけではない。いや、どちらかというと好きだった。旅行等でジャンボ機に乗る時は出来る限り窓際に座って外の景色を見てることにしているし、セスナ機での遊覧飛行にも2回程乗ったこともあった。もちろん高い場所が全然平気というわけでもないが、ビルに登っただけで目眩がしてしまうような高所恐怖症でもなかった。
 高い所に上った時、このまま空へ飛び立てたらどんなに楽しいことかと思ったこともあるし、超能力?か何かを使って飛んでる夢を見たこともある。おそらくほとんどの人がそういう憧れをいだいていることと思う。そしてその夢を実現する手段がそのパラグライダーだという。


 しかしこのパラグライダーというやつ、その友人から練習中の写真などを見せてもらったが、だいぶジャンボ機やセスナ機といった飛行機の類とは違う。何が違うって、空を飛ぶという共通点以外はすべて異なっている。
パラグライダー  まず外見、これが一番違う。普通の飛行機の形じゃなくて、パラシュート風である。頭上に大きな傘みたいのがあって、5mくらい下にいる人間とは無数のヒモで繋がっている、そんな構造だ。パラシュート風なんだから操縦席なんてモノはなく、むき出しの人間がブランコに座っているようにぶら下がっているだけだ。

 空を飛ぶんだから羽根というか翼が付いているのは当たり前だが、パラグライダーではその翼に相当するのがその傘の部分だという。確かに半円形のへんな形をしているけど、翼と言われればそう見えなくもない。でもその翼というか傘はナイロン製とかの布で出来ているらしい。何か特別な金属で出来ているとか強化プラスチック製だとか、そういう物ではないようだ。

 破けないのかなあ、カラスに突つかれて穴あいて落っこちたりしないのかなあ、などと余分な心配もしてしまう。

 そんな否定的な考えがまず浮かんでしまったので、ちょっとこれは一部の物好きな人のやる趣味だなあと思ってすぐには挑戦してやろうと思っていなかった。
 実際その私の友人が、腕にギブスを巻いて出社してきたこともあった。私や周囲の人間は、「ついに墜落したか!」なんて眼でその腕を注視してしまったものだ。

 しかし良く良く聞いてみると別に墜落とかしたわけでは全然なく、単に練習中走っている時に転んだだけだった。その、たまたま転んだ時の打ち所が悪かったらしく、骨にヒビが入ってしまったということだった。ナーンダ。
 それにその友人は特別時間があるとか金があるとか危険に挑むのが好きだとか、そういう人間ではなく、逆に金があるなんて言葉とは最も縁遠いタイプの人間だったのであった。(N君ゴメン!)

 私はしばらく様子を見ていたが、そんな経緯から別にそれほど危険でもなくお金もかかりそうもないことが分かってきた。


 そして真夏も終わった9月のある日、まだギブスを巻いているその友人を案内人として助手席に乗せ、私はパラグライダーをやってみるために車を走らせていた..... 空を飛ぶという夢を実現するために。


 危険なモノかどうかは実物を見てみればわかるだろう。見もせずに云々言っても始まらない。とにかく体験してみようじゃないか。そしてやってみてつまらなかったり、危なそうだったら止めれば良い、そういう感覚だった。いずれにしても私より貧乏で、カルシウム不足なギブスN君が楽しんでるんだから、まあ私にも出来るだろう。(またもN君ゴメン)

 もしN君の言うように安全かつ手軽に空を飛べるものだとしたら、こんなにいいものはない。何といっても空を飛べるのだから。それもセスナの遊覧飛行とは訳が違う。自分がパイロットとなり、自由に空を飛び回れるのだ。


 期待80%、不安20%で群馬県・沼田周辺にあるそのエリアへ向かう。そこはこの年に開校したばかりのスクールがあり、服や靴などを除いた、とりあえずのパラグライダーに必要な道具一式を貸してくれるという。スクール事務所にはその晩に着き、隅っこに敷いてある畳の上で寝袋にくるまった。




ページ最終更新:1998/3


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