TBS系 金曜ドラマ『聖者の行進』インプレッション

第1回「青い空は僕の友達」

<インプレッション>

_『聖者の行進』とは、知的障害者と「周囲に心を閉ざした不良少女」という”社会の常識では考えられない組み合わせ”の出会いが起こる物語である。どちらも「社会から排除されている」者同士という共通項はあるのだけれども....

_今回は、いくつかの伏線がある「ストーリーの前提」を紹介しているのがメインであったような気がする。
_一つ目は、障害者の社会参加の問題で、地域社会からは排除され、施設(ここでは工場)へと隔離される実態を示している。特にラストシーンの永遠が「カスタ君」に向かって、「僕には、きっと行くとこがないでしょ...」と泣く姿は、その端的なものだと思う。
_二つ目は、現代の非行が「どんな家庭でも起こりうる」状況にあること<ありすの父は市長>を示しているような感じである。ありすの学校は進学校だから、受験体制一色である。ありすは「学校に行く目的・自分の居場所が見出せない」状況の中で、他の誰でもない「自分」を示したいために髪を赤く染め、規則違反を繰り返すのである。担任のももセンセは、なんとかして関係作りをしようとするのだが、「学校という体制」に反発を覚えてるので無駄である。
_そんな状況で「永遠が拾ったありすのPHS」を道具に”関係作り”が始まっていくのである。それぞれが置かれている立場を抜きにして...障害を持つ永遠と「周囲に心を閉ざす」ありすとの間に交友関係は成り立つのだろうか?

ありすの独り言

あ〜っ、うざってぇなぁ...ガッコじゃぁ、センセ達に「その赤い髪直せっ!」だのなんだの、何かにつけて怒られるし、この前なんかは、上級生にラーメンに七味・ソース・ケチャップ突っ込まれてめっさムカツいて、キレちゃった。だけどさ、センセ達はあたしが悪いと決め付けるんだもん。いやになるのは当たり前じゃん!担任のももセンセ、あたしを「素直に自分を出している」って言ってかばってくれてるみたいだけど、「カスタ君に向かうと、ホントのことを話しちゃうの!」ってさ、ばっかじゃないのぉ!だけど、あたしのピッチ拾ったヤツ、一体なんなのぉ〜っ?受け答えも変だし、何考えてるのかわかんねぇよ...だけどさ、「おやすみなさいでしょ...」って言われた時、あたしに対する態度が他のヤツラとはちょっと違うなぁ?と思ったなぁ。


第2回「不思議の国のありす」

<インプレッション>

_永遠達の工場での日々は、障害を持つ故だけ・・・にしては厳しい。社長には「公には言えない秘密」があるみたいだ。工場の仲間・歩は密かにネコ・ニャーゴを飼い、心の慰めとしていたが、社長の息子に保健所に送られる。彼に「ノラがノラを飼えるわけないだろっ!」って言葉を浴びせられ、怒った歩と永遠は、彼に殴りかかってしまう。そしてニャーゴを取り戻しに保健所に行く。そこで廉が自分達が置かれた状況とノラ犬達を重ね合わせ、「かわいがられるのは最初のうち。持て余したら捨てられる」と吐き捨てるように言う。彼ら障害を持つ者にとって、社会とはそういった扱いをされる場所なのかも知れない。
_ありすは、実母を失ってから、計算高くて彼女に愛情を注げない義母との関係はギクシャクし、家庭でも心を閉ざしていた。ただ「実母との思い出」だけが家族の絆であった。学校でも修学旅行の出欠で「ガリ勉たちとはねぇ・・・楽しくないでしょっ!」という感じで、学校にも居場所がなかった。そういった「閉ざされた世界の外」から差し込んで来る光のように永遠との不思議な関係が始まり、段々と心を開いていく。「現在の環境」とは違った立場にある人と関わりを持つことは、現状がギクシャクした場合に改善の方向へ向かいやすいことは、よくある話だが・・・。(永遠、待ちぼうけさせられて、ご苦労さん!)
_しかし、ありすにとって「家族の絆」である実母との思い出は、父の義母を愛しているという言葉により、見事に崩れてしまう。そして「唯一ホンネを話してもいい」永遠に「なにもかもイヤになっちゃったんだよね・・・さよなら」と最後の別れを告げ、睡眠薬を飲み飛び降り自殺を試みる。「死」は現代では見えにくいものとなり、簡単に自殺しやすい傾向にあるが、それだけ現代社会は、追い込まれた者にとって「逃げ場」のないところなのかも知れない。永遠の助けにより、自殺未遂に終わったが、永遠にとってありすは「かけがいのない存在」であることに気づく。だけど、ありすは彼に気づいてくれるのだろうか?
_ももセンセは「心に全く曇りのないダイヤモンドを持つ」人間の存在を信じ、工場の人々に可能性を信じているが、ももセンセの同僚は否定する。Sonnarはいて欲しいと思うけど、もし実在していたら、現代社会の中では、段々と濁らされてしまうことが多くて、純粋さというのを保つのは、よほど難しいことだと思うなぁ・・・。

ありすの独り言

あたしのママは、10歳の時病気で死んじゃった。ママはパパに「死んだら、再婚して幸せになって欲しい」って言ってたけど、ホントはずっと思い続けて欲しかったんじゃないかなぁ・・・。だけど、パパは再婚しちゃったけど、あたし「あの女」ママだと思ってないっ!市長のパパが好きであって、あたしの父親としてのパパを好きなんじゃないと思う。あの女、ママの写真隠しちゃったり、あたしに色々説教したりするけど、愛情なんてカケラも見えないの。パパはパパで、あたしの言うことに聞く耳持ってくれないし、ママのことを否定されてしまった時には、むちゃくちゃ悲しかったよ。あたしって「どーでもいい存在」なのかなぁ?あったし、パパの言葉聞いて何もかもイヤになっちゃったんだよね。だから、保健室で睡眠薬飲んで、プールの飛び込み台から飛び降りたの・・・。だけど、あたしは死んでない。どうしてなんだろう?確実にプールのフロアの方へ飛び降りたんだけど・・・。あたしのピッチ拾った永遠と何回か話したけどさ、あいつ変だけど、いいヤツだよなぁ。あたし話してて、ママが生きてた時と同じ「素直でいい子」だった頃のキモチを感じちゃった!


第3回「星に願いを」

<インプレッション>

_ももセンセから、永遠が助けてくれた事を聞いたありすは、永遠が自分のことを大切にしてくれるかけがいのない存在であることに気づき、自分を変えようとする。しかし”彼の実像”は誰も話してくれない。永遠が知的障害者であることを、ももセンセは心配し、俊輔(社長の息子)は笑い転げる。ももセンセの心配は的中し、ありすが永遠に出会った時、自分が抱いていた「永遠のイメージ」が見事に崩れ去り、むしり取るようにPHSを取り返して、さっさと帰ってしまう。
_永遠は、ありすに淡い恋心を抱き、アコーディオンで『星に願いを』を練習する。『星に願いを』とは、ピノキオが「人間になりたい!」という切望を表現した曲だが、永遠の「ありすに会いたい」思いがそうさせたのだ。しかし、ありすの反応を見て、永遠は悲しい思いをさせられる。
_社長の”性のはけ口”とされた妙子は、警察に保護され、実状を訴える。しかし、社長のウソの言い訳であっさり連れ戻される。今年3月頃に判決が出る「甲山事件」では、「知的障害者の証言能力はない」と判断されて、被告の寮母は冤罪を着せられた。この場合も、「障害者の言葉は信頼性なし」という”同じような構図”が見えて来る。
_社長と甥・三郎との間で、社長の補助金横領が暴露され、『取り引き』で甥が補助のなくなる従業員の首切り役となる。従業員の給与が非常に押さえられている理由は、経営者の不正が理由であり、ももセンセは鈴の給与明細を見て、愕然とする。障害者に関わることで「彼らを食い物にする」事は意外と見られ、さまざまな悲劇をあちこちで生み出し続けている。
_今回は、さまざまな場面での「障害者と周囲の関係」を悲しい姿で表現している。恋愛も含めた人間関係や社会関係が、いかに彼らにとって不利な状況に置いているか・・・まざまざと見せ付けられたような感じである。廉がももセンセに「もも、ボク達を見下している!」と叫んだ言葉は、私達に対して問い掛けている言葉ではないだろうか?

ありすの独り言

あたしが飛び降りた時、誰かの手があたしをプールに引き戻して助かった。ももセンセから永遠が助けてくれた・・・って聞いた時、永遠って「ホントにあたしを大切にしてくれる」人だと思った。ピッチでしか永遠に話したことなかったから、「今度会おうよっ!」って誘って、お礼を直接言おうと思ってたの。あたしにとって永遠は「優しくて強い白馬の王子様」だったの!だから「こんな姿じゃ会えない!会うと嫌われる」と思って、髪を黒くして、マジメにガッコ行って、”いい子になろう”ってがんばったんだよ!だけど、あたしが「出会った永遠」とは、ももセンセが音楽教えてる知的障害者の一人だった・・・。あったし、めっちゃくちゃイメージ崩れちゃって、悲しくなっちゃった。あたしが「一時間づつ時間を消して、会えるのを待っていた」永遠って、こんなヤツだったのぉ?あたし、どうしたらいいのかわかんなくなって、永遠からピッチ取り返して、ただその場から「真っ直に立ち去る」ことしかなかったの...。あまりにもショックだったんだよぉ...

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