幕間2

 

「ファロン様、お客様がお見えです。」
ファロンがグレッグミンスターに帰還してから3日。
最初の日にレパントに会い、翌日にはソニア、次の日にはクワンダと連日、ファロンを心配していた元解放軍の将軍が毎日のようにファロンに会いに来る。
人によってはお小言を、人によっては旅の間の話しなどといいながら長い時間ファロンを拘束するものだからファロンとってはたまらない。
いっそのこと再び旅にでも出ようかと思うほど。
しかし、皆がそうして来てくれるのも自分を心配し、慕ってくれるからこそだと言うことをファロンはとっくに承知していたし、それにあのデュナン軍の若きリーダーの行く末も、自分の想い人も心配だったからやはりグレッグミンスターから動くことができずに仕方なく客人の相手をするしかない。
「今日は誰?また父上関係だったら遠慮したいんだけど。」
不機嫌そうに言うファロンにグレミオが笑いをこぼす。
元五将軍であったクワンダやソニアはファロンの父、テオと一緒に働いていたためにファロンをどうしても子供扱いをするので閉口していた。特にソニアなどは自分と一回りしか違わないのにそうするから始末に負えない。実際に、ソニアはもしかしたらファロンの母になった可能性もあるからだろうが、連日の子供扱いは今日こそは勘弁願いたいとファロンが思っても無理はない。
「テオ様関係といえばそうですが、今日は若い方ですよ。」
「若い?」
すぐにはぴんと来ずに首を傾げるファロンにグレミオが笑いながら客人を招き入れる。
「ファロン様。」
部屋に入ってきたのは父の元部下、今は首都警備の任にあたっているアレンとグレンシールの二人だった。
「ご機嫌麗しゅう、ファロン様。」
グレンシールの挨拶にファロンはわざとぐったりとした様子で答える。
「麗しくなんかないよ。…何か用?」
「ファロン様に舞踏会のお知らせとパートナーになって頂きたくお誘いに上がりました。」
悪びれた様子もなく言うグレンシールにファロンは思い切り眉を寄せる。
「舞踏会?」
「はい。トラン共和国建国記念日に舞踏会が開かれます。ファロン様には是非ご出席いただきたく…。」
「私が?なぜ?」
「なぜ、じゃなくって、リーダーじゃないですか?」
グレンシールとファロンの回りくどいやり取りにいらいらしたのか、アレンが直球で返事をする。
「元リーダー。でしょ?」
「でもリーダー、です。」
引かないアレンにファロンは目を細める。
「今は一般市民。」
「屁理屈ばかり言ってないで下さい。…あなたは解放軍のリーダーにして、五将軍が一人、テオ・マクドール将軍の一人娘ではないですか。」
「屁理屈じゃない、立場を言ったまでだ。確かに解放軍のリーダーをしていた。だが、いまでは解放軍はない。それに父はもう…。」
ない、といいかけてファロンは口を閉じる。
そう、自分が父を殺してしまったのだから。
表情が曇ったファロンは黙り込む。グレンシールは思い切りアレンを小突いてからファロンを慰めるようにして口を開く。
「…ファロン様。ファロン様は確かにリーダーでありましたし、私の敬愛するテオ様の御嬢様でもあります。…しかし、私は私の友人として、ファロン様に出席していただきたく存じます。」
グレンシールの言葉にファロンは少し情けない表情を浮かべて笑う。
「友人…ねぇ。」
「友人でもダメですか?」
ファロンの笑いには、言外に拒否が含まれている気がしてグレンシールは再度尋ねて見る。
その質問には何も答えずにファロンはぼんやりと食堂の窓から今は政庁となっている城を眺めた。
あのとき、ここで出てこない人を待っていた。
自分のせいだと思いながら、それでもどうしても生きていて欲しくて、何度もう一度会いたいと願っただろう。
「あの青いのが…気になるんですか?」
アレンがファロンに尋ねるが、それには答えずにただ苦笑する。
「…デュナン軍で戦っているそうですね。聞けばビクトールも一緒だとか。」
グレンシールの言葉にファロンは小さく頷いた。
「彼らには彼らの戦いがあります。ファロン様の気になさることではありません。」
アレンの言葉にファロンは悲しそうに首を振った。
「…わかっている。…分かっているけれど…。」
「分かっているなら…!」
いいかけたアレンをグレンシールは止めた。
「…分かりました。…でも私たちは諦めません。舞踏会の時にまたお誘いに参ります。」
「行かないよ。」
「来て下さらなくては困ります。ファロン様がグレッグミンスターにお戻りになったからミルイヒ将軍もいらっしゃるのです。」
ファロンはアレンの告げた言葉にやれやれといったようにため息をつく。
「二人と行くとは限らないだろう?」
それでも最後の抵抗とばかりに言い返すと、グレンシールは満足そうに笑って見せる。
「かまいません、ファロン様が出席してくださることが我々の願いですから。まだ時間はございますからデュナンへ行って青いのでもなんでも連れてきてください。もっとも…。」
にや、とグレンシールはそこで笑う。
「青いのには私は個人的に恨みがございますから、そのときは彼の安全は保障しかねますけれど。」
それだけ言ってグレンシールは席を立つ。
「それでは、建国記念日の夕方お迎えに参ります。」
そうして二人は出て行った。
「…ミルイヒ将軍がおいでになるならば舞踏会、出席しないわけには参りませんねぇ。」
控えていたグレミオは二人に出した紅茶のカップを片付けながら困った顔をしているファロンに声をかける。
「…ほんとに…また旅にでたくなってきた…。」
頭を抱えるファロンにグレミオはくすくすと笑うだけで。
廊下では、早速仕立て屋にファロンのドレスを注文しに行こうとするクレオの後姿が階段の下へと消えて行った。




                                                END

 

 home