Contents:
- 午睡
- 重力の井戸の底で
- つながる絆
- 風の消える丘
頬をなでる風の気配に目が覚めた。
ゆっくりと瞼を開き、少年は伏せていた顔をあげてあたりを見まわした。
水面は変わらず凪いでいた。たちこめる霧が両岸の景色を白く煙らせている。静かだった。櫓をこぐ音と舳先が水を分ける音だけがただちいさく響いていた。
またやわらかな風が頬をかすめて過ぎた。
左手を頬にあて、少年はその手をすこしすべらせた。
かすかにひっかかる感触を覚え、離した手を目の前にかざして見つめた。
しばらくそうして、何もわからないままふりかえった。
少年の視線に櫓をこぐ老人は目で船の行く先を示した。
少年は老人の視線の行く先を追って目を転じた。
目的地の岩山が霧の中にその姿をすこしずつあらわしはじめていた。
一目で巨大だとわかるその威容に少年は目をこらした。
そして山頂から天に向かって伸びる一本の木に気づいた。
長い年月を経てきたことを思わせる幹の太い枝の茂った巨木は、しかし葉を一枚もその身にまとっていなかった。それ以外にも巨木は見慣れた普通の木とはどこか異なる貌をしているように見えた。その原因を見極めようと少年は目を細めた。
そうしているあいだにも船はゆるやかな川の流れに乗って岩山にすこしずつ近づいた。
巨木の全体やこまかいところがしだいにはっきり見えてきて、少年は違って見える理由に気づいた。
巨木はその全身を白い結晶の膜のようなものでおおわれていた。膜は巨木を淡く光らせてまわりから浮かびあがらせていた。
少年は左の掌に目を落とした。
それから肩越しに振りかえって船尾の老人を見た。
老人は櫓をこぎながらただちいさくうなずいた。
少年は視線を正面に戻した。
船は静かに岩山に向かっていた。
垂直に切りたった岩肌には手がかりになりそうなものは何ひとつ見あたらなかった。ただ船が目指す先にかろうじて足場らしき岩のかたまりがあるばかりだった。
その岩のかたまりにそっと横づけされて船は止まった。
かたわらに置いてあったやや太めの長い布の袋をつかんで少年は立ちあがった。
首を横に向けて岩肌に目をやった。
視線の先では両手を広げた幅ほどの裂け目がその奥の闇をのぞかせていた。
すこしのあいだ少年はその闇の奥に目をこらした。
そして船から岩に乗り移った。
よろめく体を岩肌に手をあてて支え、振りかえって老人を見た。
老人は目を細めてちいさくうなずいた。
うなずき返し、少年は視線を戻した。
袋を右の肩にかけて裂け目の奥へと歩きだした。
見送る老人の視線を少年は長いあいだ感じていた。
道はほどなくやや急な下り坂に変わった。
進む先からはひんやりした風がおだやかに吹きあげていた。地面や脇の岩肌はじっとりと湿っている。足をすべらせないよう気をつけながら少年は進んだ。
陽の光は射さなかった。けれど岩肌そのものがぼんやりと淡い光を放っていたためこまらなかった。暗さに慣れた目は侵食や傷の跡もとらえることができた。しかし少年はそれらには目もくれなかった。
ただ先を目指して歩きつづけた。
やがて傾斜がゆるやかになると同時に道が狭くなり風が強くなった。
道が坂でなくなるころにはかがまないと先へ進めないくらいに天井が低くなった。風は正面から吹きつけてくる。背負った袋をぶつけないよう気をつけながら少年は前へと進んだ。
と、曲がった先にそれまでよりすこし明るい光が見えた。
足を止め、少年は目をこらした。
まだ何も見えなかった。
しばらくそのままじっとしてから、少年はふたたび進みはじめた。
穴と呼ぶほうがふさわしいくらいに通路が狭くちいさくなったころ、ついに進む先に光の射しこみ口が見えた。
通り抜けると風が一気に弱まった。
立ちあがり、背筋を伸ばして少年はほっと息をついた。
そしてあらためてあたりを見まわした。
それまでとはうってかわった、天井も高く幅も奥行きも広い、伽藍のような空間だった。どこからか外の光が射しこむのだろう、あたりは歩いてきた通路よりもずっと明るい。そのせいか、おだやかに流れる水が足元に薄く張っているのにそれほど湿っぽくは感じなかった。
ひんやりとした空気が上気した頬に心地よかった。
少年は目を閉じて思いきり息を吸いこんだ。
深く息を吐きだしてから目を開き、正面にそびえるものをじっと見すえた。
それは巨大な水晶のかたまりのように見えた。
伽藍のかなりの部分はそのかたまりに占められていた。高さも天井に触れそうなほど。縦に筋の入った表面は全体的には曇っていたがところどころには輝く突きだした角もあった。
その威容を少年はしばらくただ見つめた。
それからそっとかたまりに近づき、あと一歩というところで足を止めた。
かたまりの表面に少年の影がぼんやりと映った。
近づいてみると表面の荒れがよくわかった。中にはのみ《ヽヽ》らしきもので削られたような跡もいくつか見受けられた。無数の大小さまざまな疵が刻みつけられたその表面はまるで苦悶の表情を浮かべているかのように少年の瞳には映った。
手を伸ばし、少年はかたまりに掌を押しあてた。
ひんやりとした感触が伝わった。
その感触を充分味わってから少年は手を引いた。
二、三歩あとずさり、視線を落としてあまり濡れていないところを探した。
見つけたその場所まで歩き、かたまりに向きあうかたちで腰をおろした。肩にかけていた袋をおろして包みを解く。
取りだした胡弓をあぐらをかいた足の上に乗せた。
右手に持った弓を弦にあて、あらためてかたまりを見つめた。
やがて目を閉じ、はじめの一音、息の長い一音を響かせた。
音は伽藍に深く響いた。
少年が手を止めてからも静けさはすぐには戻ってこなかった。
ついに耳の中からも音の響きが消え、ようやく少年は詰めていた息を吐きだした。
胡弓をかまえなおし、弓を持ちなおした。
眼を半ば閉じた。
そのまま、心に旋律が浮かびあがるのを静かに待った。
やがて澄ました耳に音が鳴り響いた。
下ってきた川のように静かでゆったりとした調べだった。
導かれるように少年は胡弓を奏でた。
一心不乱に奏でつづけた。
気がつくと伽藍の中は静まりかえっていた。
ぱちぱちとまばたき、少年は目を開いた。
無意識のうちに腕で額をぬぐい、それで全身が汗まみれになっていることに気づいた。
少年はちいさく息をついて肩の力を抜いた。
その耳に、かすかな、はじけるような音が忍びこんだ。
はっと少年は顔をあげて音のしたほうに目を向けた。
場所はすぐにわかった。かたまりの表面、右斜め上。手の届かないくらい高いところ。少年は目をこらした。
縦にひびが入っていた。
それはしだいにおおきく深くなっていった。
少年は息を飲んでその様子をじっと見つめた。
やがて、ぴしっ、と音を響かせてかたまりの一部が割れて剥がれた。
疵痕から霧のようなものがたちのぼって消えた。剥がれたかけらが床に落ちて澄んだ音をたてた。
そして静寂が戻った。
少年は口元に微笑を浮かべた。
たちのぼった霧のようなものの行く先を少年は思い描くことができた。
それはここからではわからない穴を通じて外に出るだろう。一部はあの岩山の上の巨木に触れて結晶化する。だが残りのほとんどは風に乗って世界へ、人々の元へと飛んでいくだろう。人はそれに触れ、あるいは吸いこんでみずからの一部とするのだ――誰もそれと気づくことなく。
やがてそれは遥かな昔に人々が失ったものをふたたび芽吹かせるための種になる――少年はそう信じていた。
遠い未来の話には違いなかった。このかたまりがいまのようになんらかの力を借りていましめから完全に解き放たれるまでには長い年月がかかるだろう。
それでも、世界はすこしずつ変わっていくだろう。
少年はそれを疑わなかった。
求めるものはそれほどまでに大切なものだったから。
そしていつの日か、ことばが、うたが、希望が、地によみがえる……
束の間、少年はその日を夢想した。
やがて少年は弓をにぎりなおした。
いまは調べを奏でつづけること。それが少年にできるいちばんのことだった。
深く息を吸い、いつのまにか静まっていた自分の心に耳を澄ました。
そしてその表面に旋律が浮かびあがるのをただじっと待った。
心を震わす旋律が生まれるのを。
動いた右手が最初の音を鳴り響かせた。
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道。
どこまでも続く、まっすぐな道。舗装された、車の通る道。
場所はどこでもいい。車線だっていくつだってかまわない。ひっきりなしに車が行き交おうと猫しか横切らなくても、道は道なのだから。
時間は真夜中。街路灯の照らすその下をときおり車が通り過ぎる。ヘッドライトで夜を、排気音で静寂を切り裂いて。一瞬の騒乱――……
そして、また、静寂。
人の姿は見えない。
ただひとつの例外を除いて。
少女は道のかたわらに座っている。
両腕で両膝をしっかりと抱きかかえて。
顔だちはまだ幼い。人形のような黒く長い髪がその顔を半ば覆っている。街路灯に浮かびあがる残りの部分はひどく蒼白い。
上目づかいの瞳は目の前を横切る道をまっすぐ見つめている。
視線は小揺るぎもしない。唇は固く引き結ばれている。強い意志を思わせるその表情は、それ以外のどんな感情もうかがわせない。
道をさえぎるようなその視線を切り裂くように車が一台走り抜けていく。
と、道の向こう側、車の残像の陰から、人影がひとつ、ふらりとあらわれる。
人影は少女に近づく。ゆっくりと、道を横切って。払いのけるように車が通り過ぎても人影は消えない。車も何事もなく遠ざかって消える。人影などまるで存在しなかったかのように。
やがて静寂がふたたびあたりに満ちたころ、人影は少女の目の前にたどりつく。
足を止め、人影は少女を見おろす。口元にかすかに笑みを浮かべて。
少女は微動だにしない。まるで人影など存在しないかのように。そうしていても道は見えるとでもいうように。
視線をすれ違わせたまま、しばらく二人は無言で対峙する。
やがて、人影がちいさく唇を動かす。
「……こんばんは」
少女は応えない。微動だにしない。
意に介したそぶりもなく、人影は肩越しにうしろを見やる。
何台もの車がやってきて走り去っていく。
「……ひさしぶりに訪れたけど、あいかわらず騒々しいね、ここは」
独り言のように、他人事のように、人影はつぶやく。
少女は人影の顔を見あげる。
咎めるような色が瞳に浮かぶ。
人影は目だけを動かして視線を少女に戻す。口元に笑みを残したまま。
二人の視線がすこし斜めになって交差する。
人影は愉しむように目を細める。
「話す気は、ないのかい?」
少女は応えない。ただじっと、人影の顔を見あげる。
人影は顔の向きを少女へと戻す。
「それは賢明だ。言葉は何も伝えはしない。発したとたんそれはあらわしたかったこととは別のなにかを指し示してしまう。どうやってもそれは避けられない。なぜなら、言葉とはあらわしたかったこととは別のなにかになるものだからだ」
人影はほんのすこしだけ笑みを深める。
少女は微動だにしない。
その顔をのぞきこむように、人影は腰を折って少女に顔を近づける。
至近距離で二人は見つめあう。一人は笑みを浮かべて、一人は無表情のままで。
人影はふたたび口を開く。
「しかしそれでもなお、なにかを伝えるためには言葉を使うしかない。そうではないかね?」
言葉を切り、興味深げに少女を見る。まるで答はわかっているとでも言うように。
少女はその目をじっと見かえす。
やがて、その唇がちいさく動く。
「どいて」
乾いた声からは感情をうかがうことはできない。表情と同じように。
満足げに目を細め、人影は腰を伸ばす。横に動いて少女と道路のあいだに挟まるのをやめる。そしてさらに歩を進め、少女の脇に、少女と同じ向きになって、立つ。
そのまま、ゆっくりと腰をおろし、膝をついて座る。
ゆっくりとまばたきし、人影は道を見つめる。さっきまでの少女と同じように。
いつのまにか少女も視線を道へと戻している。
しばらく二人は道を見つめる。お互いに何も言わずに。
何台もの車が通り過ぎる。あるものは静かに、あるものは騒々しく。とどまる車はない。一台も。彼方からやってきた車はすべて彼方へ去っていく。
少女の視線は揺るがない。
その先を、また一台、車が走り抜ける。
「君の視線に気づく者はいないよ。ここには」
独り言のように人影はつぶやく。
少女は応えない。
ほんのすこし顔を横に向け、人影は少女を見る。かぎりなくやさしい目で。
「もちろん、そんなことはよくわかっているんだろうがね」
少女は応えない。
人影は視線を道へと戻す。
「しかし、そうだとしても君のような存在を目の当たりにすると心が痛む。どうにかできないものか、とね。たとえ可能性の収束の可能性のひとつに過ぎないとしてもだ」
人影はゆっくりと目を閉じる。
しばらく、静寂が過ぎる。
やがて、微動だにしなかった少女の唇がわずかに開く。
「……それで?」
目を開き、人影はふたたび視線を少女に向ける。
「わたしといっしょに来る気にはならないかね?」
少女はふたたび唇を固く引き結ぶ。
その横顔を人影は見つめる。
「……ふむ」
やがて人影は息をつく。「拘束であると同時に意志でもある、か。失礼した。私が思っているよりずっと、君は自分のことをわかっているようだ」
ヘッドライトが二人を照らして遠ざかる。少女はわずかに目を細める。人影は走り去る車を目で追いかける。
その瞳に、いままでなかった影が射す。
「しかし、それがつらい道であることに違いはない」
少女の輪郭が揺らぐ。
少女はさらに目を細める。まるでそこにないものを見ようとするかのように。あるいはそこにあるはずのものを見いだそうとするように。
その体が、一瞬、明滅する。
「……わたしは、ここにいなければならない」
声は唇の動きから遅れて響く。
「そう。そうとも」
人影は空を見あげる。星のない空を。
「君は必要だ。君のような存在は、この世界に。
悪意、裏切り、殺意、憎しみ、失意……。君は負の感情の結晶だ。世界から消し去ることのできない、それでいて誰も直視しようとしない感情の。だから世界からは隠される。誰も君を見ようとはしないから。誰も君を見たいとは思わないから」
人影は息を吐きだす。長い、長い息を。
「……それでも、世界は君を放さない」
口元の笑みはいつか消えている。
「なぜなら、世界は君なしではやっていけないからだ。君のような存在をかかえることなしでは世界は成りたつことすらできないから。目を背けて遠くへ押しこめ、不当に貶め、まるで存在しないかのようにふるまいながら、なお、世界は己の負を己から取り除くことができない――
それを踏みつけることでしか正を得ることができないという、ただそれだけの理由で」
言葉を切り、目を閉じて、人影はちいさく付け加える。
「まったく、ひどい話だ。そうは思わないか?」
人影の言葉は夜に吸い取られる。
その言葉を引き取るように少女の口元が動く。わずかに、なにかを言いかけるように。
だが言葉は生まれない。
少女は唇を軽く噛む。
そして目を伏せ、ちいさくつぶやく。
「……だから?」
人影は息をつく。
「そう。言っても詮のないことだ」
言って目を開き、少女に顔を向ける。
そしてゆっくりと手を伸ばし、少女の腕に触れる。
「だが、それでも無駄ではあるまい? だれかに自分が知られていることを知るのは。独りでないと知るのは」
少女の体が一瞬震える。
その姿を人影は見つめる。かぎりなくやさしい目で。
静寂が過ぎる。
物音ひとつしない、わずかな風さえそよがない、長い静寂が。
やがて/ようやく、少女は首をうなずかせる。ほんのすこしだが、たしかに。
人影も同じようにうなずく。口元にふたたび笑みを浮かべて。
二人の姿をヘッドライトがまぶしく照らしだす。
タイヤがすべりきしむ音が響き、
二人のいるところに車が正面からつっこむ。
物の砕ける音、壊れる音。闇がほんのすこしだけ薄れる。生命の悲鳴が周囲に波紋をいくつも生みだす。
その様子を、もはや影さえ落とさなくなった存在はすこし離れたところから眺める。
――まったく、騒々しいところだ、ここは。
存在はあたりを見まわす。
少女として姿をあらわしていた存在の気配はどこにも感じられない。
存在は触れた手に感じたぬくもりをあらためて思いかえす。
――……ま、縁があればまたいつか会うこともあるだろう。
想いを自己のうちで明確化する。記憶にはっきりと残るように。
そして別の次元へと転移しはじめる。感覚にさまざまな騒ぎを感じとりながら。
――さよなら。今度はもうすこし静かなときに訪れることにするよ。
世界をほんのすこしだけ震わせて存在は消える。
別の道のかたわらに座りながら少女はたしかにそれを感じる。
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最後の一歩を登って足を止め、少女は息を深く吸いこんだ。
まだ冷たい空気が肺を心地よく冷やした。
目を閉じ、少女はゆっくりと息を吐きだした。
そして目を開き、目的の場所をあらためて見た。
甕は昨日と同じようにしてそこにあった。
ちいさな山の頂で、岩と石と砂しかないその場所で、それはひどく頼りないようにも、とてもしっかりしているようにも、どちらにも見えた。
少女はあたりを見まわした。
自分の立つ頂より遥かに高く遥かに遠い、遥かに荒々しく遥かに険しい山々が夜明けによって朝靄の中からその姿をはっきりとあらわしはじめていた。もうすぐ峰の合間から日の光が射しはじめる。そうしたら気温は一気にあがりだすだろう。
視線を戻し、少女は甕に近づいた。
すぐ手前で立ちどまり、腰の高さほどのそれの中を上からのぞきこんだ。
水面は昨日よりいくらか低い位置にあるようだった。
少女はわずかに眉をひそめた。そのことの意味をまだ推しはかることができなくて。
とりあえず考えるのをやめ、その場にしゃがみこんだ。
甕を持ちあげ、頭の上に乗せる。そのままそろりそろりと腰を持ちあげる。
無事立ちあがると少女はほっと息をついた。
そして来た道を戻るために足を前に踏みだした。
はじめ、この仕事は少女のものではなかった。すこし年上のよその家の少年のものだった。朝に夕に少年が甕と共に行き来する姿は少女にも集落にも馴染みの光景だった。
それが、ある日、少女のものになった。
世話者の女にそう決められた。
理由はわからない。とにかく突然、目の前にやってきた世話者に甕を差しだされたのだ。わけのわからないまま少女はそれを受け取るしかなかった。
すると世話者は背を向けて歩きだした。あっけにとられてただ見送っていると世話者は足を止めふりかえった。ふたつの瞳が何をしているのかと少女に問いかけていた。それで少女はあわてて世話者の後を追った。
世話者はまっすぐ頂を登りつめた。うしろを一度も見もせずに。少女は置いていかれないようついていくのがせいいっぱいだった。慣れない甕を抱きかかえての登り道は苦しいことこの上なかった。
やがて息をあえがせながら少女が頂に登りきると、その手に自分の手を添えて世話者は少女に甕の置き場所と置きかたを教えた。
それが済むとふたたび少女など存在しないかのように世話者はさっさと頂を降りはじめた。今度も少女はあわてて世話者の後を追いかけた。明日からは少年の替わりに甕を運ばなければならないのだと思いながら。
それが、はじまりだった。
下るときは登るときより数段気をつけなければならない。
中身のある朝の帰り道ならなおさらだ。勢いがつきそうになる足をなだめて抑え、細い道を一歩一歩着実に降りる。山肌の傾斜はそれほど急ではないからころんで道からそれてもそのまま下までころがり落ちたりはしない。けれど甕と中身は確実に無駄になる。それは避けたかった。
同じ失敗は一度でいい。
ころんだときは呆然とした。体を起こしたときにはもう甕は粉々になっていたから。あちこちの痛みも気にならなかった。どうしていいかわからず、ただその場で甕のかけらを見つめつづけた。
まだはじめたばかりだから、そう言い訳をすることはできた。泣いて許しを求めることもできただろう。だがどちらもする気にはなれなかった。涙はあふれる寸前でせき止められていたし、言い訳も通じるとは思えなかったから。
言葉にすれば、責任というものを、少女は考えはじめていた。
そしてとりあえずできることをするしかないと考えた。中身はもうどうしようもない。だから甕のかけらを持てるかぎりかき集めた。それを両腕にかかえて立ちあがり、少女はふたたび帰路をたどりはじめた。
足どりは重かった。ひょんな拍子で涙もこぼれてしまいそうだった。だがとにかくふもとの集落に帰りつき、いつもと同じように世話者の家の戸口に立った。
やがて姿をあらわした世話者はいつもと違う少女の様子に眉をひそめた。
少女は黙って抱えたかけらを世話者に突きだした。
そのかけらを一瞥しても世話者は何も言わなかった。ただ玄関を降り、裏にまわって持ってきたあたらしい甕を差しだしただけだった。少女が急いでかけらを置いてあたらしい甕を受け取ると世話者は奥に戻っていった。
それだけだった。
拍子抜けもし、困惑もした。しかしそれよりも強く少女が感じたのは安堵だった。同じ仕事をこれからも続けられるという、見限られてはいないという、安堵。
このとき少女ははじめて与えられた仕事が自分のものであると得心した気がした。
しかしその仕事がどのような意味を持つのかはまったくわからなかった。
山からおろした甕は世話者の家へと運ぶ。中身が多かろうとすくなかろうと、まったくなかろうと。戸口に甕を置いて待っていれば呼ばなくても世話者はかならず姿をあらわした。
世話者のすることはおおよそ決まっていた。まず少女を、ついで甕をじろっと一瞥する。それから甕の中身をのぞきこむ。そして甕を持ちあげ、中身を別の甕に移しかえる、または家のまわりのあちこちにすっかりまいてしまう。空になった甕を少女はまた山の頂へと運ぶことになる。
この、移しかえるものとあたりにまくものとの違いが、まずわからなかった。
量ではなかった。観察の結果からいってそれはまちがいなかった。多くても少なくても世話者は移しかえるときは移しかえるしぶちまけるものはぶちまけた。
しかしそれ以外にどんな違いがあるのか。少女はいつも液体を注視した。甕を持ちあげる前、戸口で世話者を待つあいだ、世話者が中身を移しかえるとき、中身をあたりにまくとき。けれど違いを見つけることはできなかった。色も、匂いも、液体そのものも、日々運びながら、少女はそれを同じものとしか感じることができなかった。
移しかえるかまくかはでたらめに決められているのではないか。そう思ったこともあった。けれどそう信じつづけることはできなかった。そうだとしたら自分のしていることはまったくの無駄でしかないから。
しかし、だとしたら?
わからないといえば、世話者の存在も少女にはよくわからなかった。
そもそも外に出て働いているところを見たことがなかった。集落の働ける者は皆明るいうちは野や山に出てできるかぎりのことをしているというのに。少女自身も例外ではなかった。甕を運ぶ以外の時間はずっと手伝いをさせられた。もう遊んでいられるような歳ではなかったから。
そうした中に世話者が加わることはなかった。
だいたい外に出ること自体がめったになかった。いつも家の中にいて物音もたてずに暮らしている。戸口で待つあいだ中の気配をうかがってもなにかしている様子はまったく感じられなかった。ひょっとしたら病気でもしていて普段は一日中寝ているんじゃないだろうか、そう考えもしたが、頑丈そうな世話者の姿とその考えはどうしてもうまく結びつかなかった。
もっとも世話者もたった一人で家に閉じこもっているばかりではない。少女以外の人が訪れることもある。それに、ごくまれには出かけることもあった。
訪れる人は少女の知るかぎり決して多くはなく、しかもかならず独りだった。ときおりすれ違うそれらの人々は皆一様に硬い顔をしていた。硬い顔をしたその相手を無表情な世話者が迎える、または送り出す。その光景は重苦しい雰囲気をたたえながら、しかしどこかすこし奇妙に調子が狂っている感じがした。
出かけるときは何日も家を空けた。予告なく出かけるので少女は待ちぼうけをくらわされることでいつもはじめて知らされた。そんなとき少女はすこし憂鬱になる。いつ帰ってくるかわからないから休むことはできないし、かといって中身を勝手に判断して移しかえたりまいたりするわけにもいかなかったから。何日もただ往復するだけでは中身は増えこそすれ減るはずがない。
十日ほど姿を見せなかったときはさすがにやってられなくなって甕を戸口に置き去りにした。そうしたらまさにその日に世話者が戻ってきた。家の農作業を手伝う少女を世話者はすこし離れたところからただじっと見ていた。声をかけることもなく、いつもと変わらない無表情で。
気づいたときにはぞっとした。あわてて世話者の家の戸口に戻ると甕はすでに空になっていた。少女はできるかぎり急いで甕を置きにいった。どれほどきびしく叱責されるだろうかとびくびくしながら。
だがその日も翌日いつもどおりに甕を運んだときも世話者は何も言わなかった。
次の日も、その次の日も。
安心はできなかった。むしろ不安は増した。なぜとがめられないのか、なぜ触れられもしないのか。
世話者に問うことはためらわれた。落ち度は自分にあったし、世話者が問いに応えてくれるとは思えなかったから。他の誰かに相談することもできなかった。わかってもらえるとは思えなかったから。
そうであれば、独りで考えるしかない。
甕を運ぶあいだがその格好の時間となった。
そうは言っても考える材料はほとんどなかった。だからといってすぐに答がわかるというものでもなかった。何度も往復するあいだ、何度も堂々めぐりをくりかえしたり同じ考えを行ったり来たりしながら少女は考えつづけた。
そうして最後にはたったひとつのことしか考えられなくなった。
試されているのかもしれない、と。
働いていないように思える世話者が世話者と呼ばれて集落に存在を許されているのは自分にはわからない役割を果たしているからにちがいない。大事な役割を。
その世話者から仕事を与えられたからにはそこにもなにか理由があるにちがいない。大事かどうかはわからないが、きちんとした理由が。
それを、自分で探りあてろということではないだろうか?
もしそうなら、期待に応えたい。
夏のはじめに、少女はそう想い定めた。
それからもうずいぶんたつ。
少女はまだ期待に応えたという手ごたえをつかめずにいた。
気づくことはすべてたしかめてきたつもりだった。けれど少女は手がかりをつかむことさえできずにいると感じていた。昨日の作業と今日の作業にどんな違いがあるのかわからなかった。世話者のふるまいがどうして変わるのかがわからなかった。
要するに、何ひとつ先に進んではいなかった。
今日も世話者の態度はいつもと同じように見えた。
戸口に甕を置いて待っているとのそっと姿をあらわした。じろっと甕を一瞥し、次いで中をのぞきこむ。今日は中身を別の甕に移しかえた。そして少女には目も向けずに家の中に戻っていった。
少女のほうは違った。
まっすぐ頂に戻るのではなく、その前に家に寄った。そしてひとつ余計な荷物を持って山を登った。
頂はまるで朝とは別の場所のようにあたかかくなっていた。
このおだやかな陽気もそう長くは続かない。冬はすぐそこに近づいていた。痛いほどに冷たく寒い冬は。
できれば、それまでに――……
頂の景色を見ながら少女は想った。
そして甕を元の場所にていねいに置きなおし、
その横にちいさな壷を置いた。
家から持ってきた壷だった。
持ち運びの不安は否めなかった。縄で肩からつるすつもりだが、やはり力のかかり具合は変わってくるだろう。もしかしたらまたころんでしまって今度は甕も壷も駄目にしてしまうかもしれない。
それでも、少女はたしかめたかった。
自分が用意した壷にも世話者の甕と同じような変化があらわれるのかどうかを。
見るべきものはすべて見た、つもりだった。それでも世話者が何をしているのか、自分が何のために甕を運んでいるのかはわからなかった。となると、あとは考えられることはひとつしかなかった。
自分で試してみること。
もちろんそれは淡い希望に過ぎなかった。仮に甕と同じように壷に液体がたまったとしてもそれでどうすればいいかがわかっているわけではない。壷をのぞきこんでこれまでと同じように途方に暮れるだけとなる可能性はきわめて高かった。
それでも、少女はたしかめたかった。
それが自分にできる最後のことだったから。
立ちあがり、二、三歩さがって少女は並んだ甕と壷をながめた。不ぞろいなそのふたつはまるで世話者と少女をそのままあらわしているように見えた。
いつか、これが違って見えるときが来るだろうか――……
少女はその日を想った。
そしてふりかえり、空をあおいでから来た道を戻りはじめた。
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風が頭上を追い越していった。
顔をあげその行方を目で追いながら最後の一歩を登りきった。
そのまま空に顔をさらしながら、二、三歩ふらつくように前に進んで、ようやく立ちどまった。
空は蒼かった。澄みきっていて、途方もなく、蒼かった。
息をあえがせながら目を閉じた。
冷たい空気が肺から熱を奪う。そのたびごとに浅く速かった息がすこしずつ遅く深くなる。何度もそれをくりかえし、最後に一度おおきく息を吸い吐いて、ふたたび目を開いた。
空に変わりはなかった。
すこしずつ視線を下げ、眼前に広がる光景を見わたした。
高原がどこまでも果てしなく続いていた。
それだけだった。目につくものは何もなかった。砂原がただ広がるばかりで。
たしかめるように何度かまばたいた。
目に写る景色は変わらなかった。
身にまとうぼろをつかむ手に知らぬ間に力がこもった。深く吸いこんだ息をうまく吐きだせなくなった。怒りとも絶望ともつかない感情に我を失いそうになりながら、他にどうすることもできずに、ただ眼前の光景を見わたした。
何もなかった。
そうとしかあらわしようがなかった。
目を閉じ、天をあおいだ。そうすることでようやく詰めていた息を吐きだせた。
耳を澄ました。
何も聞こえなかった。風の音の他には、何も。
心を澄ました。
何も感じなかった。何も。
何も。
喉から漏れた息がわずかに音をたてた。
それだけだった。
おかしな気分だった。感情が爆発して怒り狂いわめき散らしてすべてぶちまける、そうしてもおかしくないと思ったが、そうはしなかった。きっかけがあればそうしたかもしれないが、そのきっかけはなかった。心はいわば嵐の前のように静まっていて、目を閉じて天をあおぐ自分に変わりはなかった。
あまりに多くのことを深く考えてきすぎたので心が麻痺してしまったのかもしれない、そう思った。
――それがどうだというのだろう?
続けてそう思い、嗤った。嗤うことはまだできた。
けれどその嗤いを見せる相手はもうどこにもいなかった。
己を信じるなら、自分はこの地に残った / 残された、たったひとつの存在だった。
気づいたのはいつだったろうか。
静かな日がずいぶん続く、はじめはそうとしか思わなかった。めずらしくはあったが、前にもなかったわけではない。だからおとなしく待った。いつもと同じように、ただじっと。
食事の差し入れられない日があまりに長く続き、そうしているわけにもいかなくなった。
許しを得ずに牢を出ることには身体が抵抗した。刻みつけられた痛みの記憶はそれほどまでにあざやかだった。だが最後には理性が勝った。出なければ餓えて死ぬしかなかったから。
最後の最後の頼りとして壁板の裏に隠していた鉄のかけらを助けに、閂を壊して牢を出た。禁を破って。
一階への階段を登るときには心が躍った。罰が待っているとわかっていて、なお。絶えて見ることのなかった昼の光のまぶしさにも心地よさすらおぼえた。自由を感じていたのだ、あのときは、たしかに。
屋敷中をくまなく見てまわったころにはそんな浮かれた気分は消え去っていた。
不安は門の外をうかがったときに絶望に変わった。
誰も、何も、いなかった。見わたす範囲だけでなく、感じわたすことのできる範囲の、どこにも。
たった一人、村に取り残されていた。
ゆっくりと進める歩の足先が乾いた砂を踏みしめる。
足はもう自分のものではないようだった。こんなところまでよく来られたものだ、他人事のようにそう思う。萎えた脚ははじめのうちは通りを端から端まで歩くだけでこわばったし、道にも草履にも慣れていない足は何度も切れて血を流した。もう先へ進むのはやめよう、屋敷を出てからここにたどりつくまでずっとそう考えていたような気さえする。
けれど、そうはしなかった。
できなかった。
進まなければ何もわからない――その恐怖が、ここまで歩かせた。
想いの痕をたどるのは容易ではなかった。
そもそもそんなことをしたことはなかった。むしろ逆に心を閉ざして何も感じないようにしてきたのだ。殺されないために。
そんな忌むべき力を、今度は必死に使わなければならなかった。生きるために。この地にたどりつくために。
痕をたどるときは泣きそうであったと思う。
泣かなかったのは、泣いてもどうにもならないとわかっていたからだった。これまでと同じように、今度も。
泣いたところで、誰も助けてはくれない。
人のいるあいだでさえ、そうだった。まして人のいなくなったいま、助けを求めたところでどうなるというのか。
だから、泣かなかった。身につけざるを得なかった諦念にしたがって。
泣かずに、ただ、痕を追った。去っていった者たちの痕を。追いつくために。必死で。
そうしてたどりついたのだ。この丘に。
誰もいないこの丘に。
足を止めて顔を伏せる。
風が巻くように吹きぬける。
奪われた熱を返すように陽射しが体をあたためる。
静かだった。物音ひとつしなかった。
閉じていない心がこんなに何も感じないでいるなんて信じられなかった。
――ほんとうに、何もいないのだ……
歯を噛み締めた。
――たった一人、取り残されたのだ。
考え続けてきたことではあった。ずっと。いままでずっと。
捨てられるのではないだろうか。あるいは、殺されるのではないだろうか。
目が覚めるたびにそう思った。一日たりともその恐怖から逃れられたことはなかった。忌み嫌われ人目を避けるために地下牢に閉じこめられた身にとって、それは共に生きざるを得ない伴侶だった。束の間忘れられることはあってもすぐに背中あわせでいることを意識させられる同行者だった。
たしかにいま、それは現実となっていた。
しかしそのあまりに思いもよらないかたちにかかえてきた恐怖はとまどい途方に暮れていた。
そのとまどいが問いに変わるまでに時間はそうはかからなかった――
――それほどまでに、忌まれていたのだろうか?
――おまえは人ではない。
そう言われたのはいつだったろうか。
――話しもせずに人の心の内がわかる、そんなものが、人であるはずがない。
そう言い捨てたのを最後に、父は姿を見せなくなった。
母とはそのずっと前に顔をあわせなくなっていた。面影はとうに薄れて久しいが、その瞳だけはよく覚えている――薄気味悪そうに見るその瞳だけは。
兄弟も姉妹もその他の親族も、見る目は誰もが似たようなものだった――薄気味悪そうに、あるいは汚らわしいものにでも触れるように見る目は。食事を差し入れに来る女中でさえ決して目をあわせようとはしなかった。
ひとりだった。
いままで、ずっと、ひとりだったのだ。
にもかかわらず、いままで知らなかった――本当にひとりになるとはどういうことかを。
乾いた風がまた吹きぬける。
しだいに強まっている気がしてぼろのあわせ目をさらに絞る。
――だからだろうか?
声に出さずに、そっとつぶやく。
――人ではないから、残されたのだろうか?
風が止んだ。
振りかえり、歩いてきた道を見かえした。
丘の上から跡を目でたどるのはむずかしかった。想いが痕を残していなければここまで来ることはできなかったに違いなかった。
その痕も、薄れ、消えかけていた。
かつての様子を思い描いてみようとした――この地に存在したすべての人が同じ道をたどってこの丘にやってくる光景を。
うまくいかなかった。
人の集まるところさえろくに見たこともないのに、うまくいくはずがなかった。
何度かまばたき、しかし視線は動かさなかった。それでもそれがどういうことかを考えることはできた。
けれど――……
――ここから、どこへ?
この丘にたどりついた人々がどこへ姿を消したのか、それを考えるためのよすがはかけらもなかった。
ここから先に進むための手がかりはもうなかった。
ここから先へ進むことはもうできなかった。
ここが、終点だった。
ふたたび、嗤った。
自らの生に意味などなかった――無駄でしかなかったという事実に向きあわされて。
叫べば、叫べたかもしれない。
そのとき、風が吹いた。
はっとして顔をあげた。
向かって吹く風はいままでと違って感じられた。たしかに、何かが。
――でも、何が?
間を置かずに強い風が吹き過ぎた。
息を飲んだ――その語りかける言葉に。
共に行こう。
そう風は言っていた。
皆が去った地へ。
皆が待つ地へ、と。
何度もまばたきをくりかえした。
はやる心を抑え澄ました。
胸の高鳴りは抑えられなかった。しかしそんなことで聞き誤りはしなかった。
まちがいなかった。
風は誘っていた――皆を連れ去っていった地へと。
喜びはひとりでに顔にあらわれた。
瞳には涙があふれた。
自らの誤りをこれほどうれしく感じたことはなかった。
こみあげるものをすすりあげた。
ふたたび吹いた風が語りかけた――
さあ、行こう、と。
背筋を伸ばし、胸を張って、両腕をおおきく広げた。
目を閉じ、顔を天に向けて声に出さずにつぶやいた。
――さあ、連れていって――
強い風が吹き過ぎた。
そうしてその星の最後の魂が消え失せた。
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