これから研究室・指導教官を選ぼうとしている皆さんへ
卒業研究、大学院進学などですすむ研究室を選んでいる人達に、前もって考慮しておくと望ましいポイントを列記してみました。日本人的な困った性向から、「良くない点やまずい点は教えない」という状況が現在の大学には多々あります。夢のような可能性に期待をふくらませると同時に、限られた数年という時間をこれから自分がそこに費やすこと、また、それによってその後の自分の人生の選択肢が決まってしまう一生の問題であることを肝に銘じておいてください。
教員一人あたりの学生数は何人か
大学の教育環境をはかる目安のひとつに、常勤教員一人あたりの学生数、という数字があります。これは、ゼミや講義の指導にあたる専任講師以上の常勤教員数が学生数に対してどれくらいか、という値で、当然、少ないほうが優秀な環境、ということになります。一般的に、私立大学ではこの値が大きく数十人、ということもまれではないのに対して、国立大学では10人を下回る一桁の値、というのが相場ということになっています。しかし、ここでちょっと考える必要があります。国立といっても、この一桁という値は「全体の平均値」です。個々の研究室で考えた場合、それは必ずしもあてはまりません。事実、有名国立大学で、専任教員一人に対して30人近くもの学生をかかえているところ、というのも実在します。教員一人がかかえる学生数が多い、ということは、目がいきとどかない丁寧な指導ができない、良い研究テーマにいきあたらない、といった強い弊害を産み出します。研究室の教員数と学生数のバランスは、重要なポイントなのです。出版物・学会等
その研究室がどのような研究をしているか、という点について調べるのは基本といえます。その際に、学内での授業、ゼミ、実習の内容を参考にする他、国内の学会の参加状況、論文の発表状況、書籍の出版状況等も有用な情報です。書籍の場合は、図書館に学内研究者出版物のコーナーがありますから参考になります。また、同じく図書館には学内研究者の科学研究費報告書もありますから、こういったものも参考になります。
学会や、その支部大会、関連集会などでの発表状況は、その研究室の学生の様子を知る一助でもあります。学生が研究室に何人所属していて、何年生がどれくらい発表をしているか。場合によっては、著名な指導者の元、数十人という学生を擁する研究室なのに、学生の学会発表が皆無、という場合もあるわけで、そういう場合は、他の側面からの情報を集めてみる必要があるといえるでしょう。関係者から聞く
研究室について話を聞く場合、相手としてはいくつかのパターンがあります。重要制、という点では内部・外部の学生の言葉が一番大切です。逆に、一番あやしげなのが内部の教員の言葉です。「学生がくる」ということは研究室にとっての一種のプライズとなっている場合もあり、そういうところでは配属されたら教員は豹変、学生はモノ扱い、などということもあります。理系の場合は日常生活のほとんどが研究室関連で埋められていきますから、研究テーマや研究室の業績に目を奪われないようにします。人間関係、指導者の教育能力、責任遂行力、ようするに「面倒見のよさ」と「教員としてきちんとしているか」を判断するのが一番大切なことです。教員から聞く
そこに所属している教員に直接聞く場合です。学生の卒業・修了後の進路、研究テーマ、研究室の表向きの運営方針等はここで聞くことになります。ただし、ここで接することができる内容は、すべて「公式見解」です。嘘ではなかったとしても、それが本当のこととは限りません。また、都合の悪いことや学生が逃げそうなことについては決して口にしません。場合によっては、相手が「健忘症」にかかってしまっている教員の場合もありますから、必ず、以下の他の情報源と照らし合わせて判断するようにしてください。よその教員から聞く
他の研究室の教員に聞くことで、「少しだけ」客観的な情報を得ることもできます。ただし、大学人はどんなことがあっても同業者についてのネガティブな側面については隠す傾向があるものですから、ここでは全体的な傾向程度しかわかりません。内部の学生から聞く
そこに現在所属している学生に聞くわけです。これは、出来るだけ多くの学生に聞く必要があります。学生は、卒業・修了にむけての論文や学会というプレッシャーの下にあり、自分の周囲についてきちんと目配りできていないことがあるからです。「ここはいいところだ、いい先生だ」というポジティブな評価よりも、「これこれこういうところがちょっと大変だ」といったネガティブな点についての話をより大切にします(ポジティブな意見は、教員の公式見解で十分だったりもします)。外部の学生、元学生から聞く
特に、研究室の卒業生を探してください。在学中のこと、外部の大学院に進学した先輩であれば、外に出た理由等を聞いてみます。教えてくれない場合もあるかもしれませんけれど… 内部の人間は、実生活での利害があり率直な言葉を言えないことがありますから、最も有用な情報は卒業生がもたらしてくれる、ということになります。何を聞く必要があるか
- どういう研究テーマがあるか、自分はどういうことができるか、何を学べるのか
- 研究室の過去の業績にはどういったものがあるか
- 自分を直接指導するのは誰なのか
- 学生は夜遅くまで残っているのか
- 実験用の机はあるか、勉強用の机はあるか
- 学会や研究会に参加できるか、参加してもよいか
- 教員と学生が日常的に会話する機会は多いか(お茶、コンパ等)
- 卒業生は時々遊びに来るか、卒業生の連絡先はみんなわかっているか
- 卒業生の進路にはどういうものがあるか
- 就職活動はできるか、してもよいか
- 学外の研究者や研究室との交流はあるか
- 学生、卒業生には「大変なことは何か」
等。具体的な話は、相手との雰囲気で聞けたり聞けなかったりしますが、中には、教員は大いに歓迎の雰囲気だけれど学生は「ちょっとおすすめできないよ」という場合もあり、個々の質問は臨機応変に考える必要があります。
また、ここ数年の間で学科を中退した学生がいるかどうか、いる場合どこの研究室で、理由はどうだったのか、といったことも公的見解にはあらわれない現実を示しています。これらについては教員の口から事実が語られることはまずないので、ここでもやはり卒業生を探す、という必要がありますが。