協力してくださる法学者・弁護士の方を募集いたしま
 こんな例があります。大学院での研究内容を教授がまったく評価せず、学生に卒業を許されなかった学生が、他の教授などと相談しながら、なんとか自力で修士論文の提出までこぎつけて就職しました。卒業する際に、自分の修士論文発表で用いたスライドについて「置いていきますか、どうしますか」と聞いたところ、「君がもっていればそれでいい」といわれたので、そのまま実家に保管しました。

 その後、就職した企業で、いそがしいながらも充実した日々を送っていたら、学生時代の知り合いから突然メイルが送られてきます。「今月の学会に発表するみたいだけど、もしよかったら現地で会わないか」と。大学院時代の研究には未練がないどころか、よい思い出もあまりなかったため、発表するなんていうことはありえません。それどころか、自分はその学会に会員として登録した覚えもないのです。

 調べていくと、自分が卒業してから数か月が経過したころ、丁度学会発表の申し込み締め切りの直前に、なにものかが自分の名前を騙って学会に会員登録をしていたこと、さらに「勤務先」として以前いた研究室が登録されていたことを知ります。研究室の教授からは、知り合いからのメイルのさらに後になって、つまり、全国に予稿集が発送された後、大会開催日の直前に「君のデータで発表をする。共同研究者として名前をつかわせてもらった。共同研究者なので君がくる必要はない」という葉書が届けられました。しかし、事実は違いました。「共同研究者」として名前をつかわれていたのではなく、まさしく「当日そこで発表する演者」として大会の予稿に名前が掲載されていることがすぐ明らかになります。企業では、学会への登録やそこでの発表を無断で行うことはできません。この場合、事前に上司に連絡しておくこと、という約束がありました。しかしながら、学会の登録も大会の発表も、本人がまったく知らぬうちにこっそりとすすめられ、ぎりぎりになって一方的に通達される、という事態となってしまったため、「通常は事前に連絡してもらえばいいことなのだけれど」と前おいた上で「今回に限っては、自分のあずかり知らぬところで発表が予定されたことを明らかにする確認書を至急作成してほしい」と教授に伝えました。確認書は送付され、一件落着のはず、だったのですが…

 この教授はどういうわけか「この企業では社員の名前をつかった発表では常に確認書が必要とされる」と誤解します。その上で「今後、将来にわたっての発表に対する許可」を示す承諾書をいついつまでに送れ、その日までに届かない場合は直接そちらの上司に電話するぞ、というのです。さらに、「修士の時のスライドをもっていったのは、社員が退職する時に研究データを持ち逃げするようなものだからすぐにそれも送れ、データ持ち逃げをするような人間に対して企業がどういう対応をとるかを考えてみろ」という、訴訟を暗にちらつかせる脅迫も行います。

 この困った誤解をとくために手紙を作成していたら、なんと、今度は教授自身が指定した「期限」がまだきてもいないのに、本社の「人事部」に「おまえのところの社員がうちの学生の博士論文のためのデータを発表させないように妨害しているからなんとかしろ」という電話をかけるにいたります。そのデータだって、卒業した彼の出したものです。さらに、その教授が「修士に値しない」といって評価していなかったものでもあります。しかも、彼は最初から「前もって伝えてもらえればデータも名前もだしてもらって一向にかまわない」と伝えてあるわけで、妨害などという事実はどこにもありません。あるとすれば、教授が勝手に「必要だと思い込んだ」承諾書がまだ届いていないから、ということになりますが、それにしても、教授自身が指定した期日すらまだきていないわけですから、二重の意味で妨害の事実などどこにもないのに。

 彼は、もういちど事情を詳しく説明した文書を教授に送って誤解をとこうとしています。しかし、同時に、今回の件が整理されても、またいつ、自分の手の届かないところで無断でなにかされるのではないか、という恐怖もぬぐいきれずにいます。知らない内に保険金をかけられているような気分、です。今回のように、一方的な誤解から、上司をさらにとびこして本社の人事に抗議をいれる、などという行為をとられてしまうと、自分の人生はどうなってしまうのだろう、と脅えています。彼は、自分の生活と仕事と人格を守るために、何をすべきなのか、誰に相談すればいいのでしょう…

 これは、我が国で最も古い大学でつい最近起こったささやかな現実の例にすぎません。もっとひどい例、もっと軽微な例、さまざまなトラブルが学生をまきこんでいます。ある場合にはその場で法律事務所に駆け込んで弁護士に相談すべき事態であったり、それほどではないにしても、とりあえず法の知識のある人に事情を伝えて、自分にはどういう選択肢があるのかを知ることが必要であったり、ということになります。

 しかし、弁護士に相談しようと思っても、近くに事務所がない、お金がかかるのではないかと恐い、そもそも自分ではそこまでの事態だということすらわからなくなってパニックになってしまっている、という状況があります。こういう時に、相談先として紹介してもいいよ、といってくださる弁護士、法学者の方を探しているのです。事態が深刻であった場合には、さらに支援団体を募り体系的な応援もできれば、と思います。

 労ばかり大きい作業です。裁判としても、それほど一般的なフィールドではありませんから判例自体それほどありません。しかも、大学というのは閉鎖された空間ですから、なかなか事情を把握するのが困難である、ということもあります。大学という空間の特殊性については、協力してくださる大学教員のみなさんと連携してお手伝いもできますから、やってもいいぞ、という方からの連絡、おまちいたします。

 メイルをこちらまでお送りください。よろしくおねがいいたします。
 
 

1998. 11.26