Virtual手話

 相棒が八年近く前から提言していたアイデアのひとつに、手話のコード化というものがある。聴覚障害者だからといって読唇できる人間は結構限られている以上、手話というものをどれだけ容易に習得できるか、という環境づくりは重要になってくるからだ。また、手話自体の語彙というものは実際それほど多くはなく、言語というよりも信号に近い。聴覚という障害のかかえもつ性質にも影響され、抽象的な表現が乏しいのもまたコード化を容易とする。最近など手話を覚える、というコトが一種のトレンドにもなってきているため、手話の教師の数が足りず、てんやわんやとも聞く。ならば、コード化してしまって特に深いノウハウがなくても学習できる環境をつくれば問題はずいぶんさまがわりするだろう。

 ところが、当時相棒が活動をしていたPC-VANのJHANDYというSIGでは、このアイデアは結局まともに日の目をみなかった。たいしてその意義を理解せずに単に反対のための反対をした馬鹿が多かっただけが理由ではない。中心に立ってコード化の妨害をしたのが、「自称東大卒(また、電子メールでいわなくてもいいこのプロファイルを「実はボクはね」と率先して吹聴するというちんけな自己主張野郎でもあった)」で「自称言語処理の専門家(某大手企業の研究所にいる、というのが次のご自慢で、「学会発表をしたことがある」というのがみっつめのご自慢の男だった。会社の極秘プログラムもご自慢だったが、その後カナダにいくという噂の後姿をけしたけれど)」というそのオニーサンが「手話のコード化なんかできっこない」と強行に反対して、「東大」というレッテルにうっとりしたメンバーたちがそれに付和雷同する、というみぐるしい結末となってしまった。彼が何を根拠に「できっこない」と叫んだのかはいまもって不明である。こういう人間の常として、なにひとつ理由を説明せずにただひたすら首を横にふるだけだったから。たぶん、他人がアイデアをだす、ということ自体が彼のささやかなプライドでは許されなかったのだろうけれど。くずなんてえてしてこんなものだ。最も、そのくずのためにコード化以外にも有用なアイデアがいくつもふみにじられてしまったのはかえすがえすも残念なことなのだが、そんなくずをありがたがるような場でなにごとかをなしとげようということ自体間違いだったのだろうと思う。

 さて、閑話休題、くずはこの際どうでもいい。手話のコード化は、金と人さえあればできる時代にはいった。アイデアはあるので、だれかスポンサーしてください、というのがここからの趣旨。

 最終目標は、携帯型のパソコンに音声入力をつけて、リアルタイム手話通訳、である。もちろん、キー入力の早い人ならばそのまま入力を手話に変換していけば通訳になってしまう。その手話はどうやって表示するかというと、手話のフレーズ単位でVRML化してしまう、というわけ。さて、そうするとこの最終目標たるリアルタイムトランスレーションにいく途中で段階段階の副産物ができてくる。当然、最初はフレーズ単位でVRML化されたファイルを蓄積することになるけれど、これはできた分からWebに登録して、対応する言葉から検索できるようにすればよい。これだけで、手話講座ページができていく。また、うまくJAVAあたりを使って特定の言葉をいくつか選ぶと対応するVRMLが順次表示される、というのも役にたつだろう。フレーズが蓄積されれば、CD-ROMに焼いて配布、ということもできる。あとは、携帯端末にのせてしまって前述のリアルタイム翻訳、というわけ。そこまでできるのならばなにも手話にこだわらなくても、文字で対話すればいいのでは、とも思えるが、実はそうすると今度は「九歳の壁」という名で知られる知的断絶が問題となってくるのだ。いうならば、手話の語彙の乏しさ、抽象概念の乏しさはある意味では丁度よい日常バランスなのである。

 と、いうわけで、手話に詳しい人、VRMLに詳しい人、スポンサーしてやってもいいというふとっぱらな人の接触をお待ちしています。僕の手元にはアイデアしかありませんので。

もっとも、手話については、だれかがパクって勝手に実現してくれてもいいんですけどね。それがちゃんとしたものになるのであれば。




1996/12/09