(ご参考)経済法過去の試験問題    講義ゼミ(2009)目次へ     トップページへ

2004年度(平成16年) 経済法1  「採点を終わって・試験問題」
2004年度(平成16年) 経済法2
2003年度(平成15年) 経済法1
2003年度(平成15年) 経済法2
2002年度(平成14年) 経済法1 「経済法1の採点について」
2002年度(平成14年) 経済法2 

★2005年度はお休み。2006・2007・2008年度分は、講義レジメと一緒に試験問題についても掲載。




2004年(平成16年)度「経済法1」 「採点を終わって・試験問題」

A. 評価の分布

「経済法1」の受験者は、下記のように、法学部334名、経済学部3名。

法学部受験者についての評価の分布は、以下の通り。

三年次
四年次
人数
人数
12
6
4
3
33
16
9
7
61
29
29
23
53
26
31
25
48
23
53
42
合計
207
100
126

100

経済学部経営学科 三年1名A,四年1名B,経営学科 四年一名C

B. 採点のポイント

一.

1.行政指導と独禁法違反の関係 20点

行政指導は、「公権力の行使に当たる行為」=「処分」ではないから、それに従うかどうかは相手側である私人の任意(行政手続法2条6項)。

したがって,行政指導に従った行為であっても、そのこと故に違法性が阻却されるわけではない。

なお,これに対し,「権力行政」に従ったカルテル(例えば強制カルテル)なら,私人はこれに従わざるを得ないから独禁法上違法にはならない。

 解答では、「行政指導に従って行動したというだけで、違法性が阻却されるものではない」というだけのものが多かった。これでは不十分であり、なぜそうなのか、また、どういう場合には阻却されるのか(下記の3参照)、などの記述がなければならない。

 

2.同判決における事実認定 10点

同判決では,石油元売会社は、(旧)通産省の行政指導に従って価格カルテルをしたということは否定されている。すなわち,この行政指導では,値上げ限度を示しただけで,カルテルをすることまでは指導していない,と認定されている。

 

3.「公共の利益」(2条6項)の解釈 次の4と合わせて20点

 通説は,「公共の利益」とは「公正かつ自由な競争」の促進それ自体とするので,本項(3),および次項(4)は不要となる。

しかし,仮に石油カルテル刑事事件・最判昭和59・2・24に従うとすると----(ただし,同判決では,上の2.が事実認定されているので,以下は傍論に過ぎない)

同判決は,「公共の利益に反して」について,以下のように判示している。

「自由競争経済秩序」という「法益と当該行為によって守られる利益とを比較衡量して、一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進する』という同法の究極の目的(同法一条参照)に実質的に反しないと認められる例外的な場合」には,違法ではない。

(舟田注:この意味は,「公共の利益に反して」とはいえず,独禁法2条6項には該当しない,ということであろう)。

さらに,「適法な行政指導に従い,これに協力して行われたもの」であれば,「違法性が阻却」される,と。

本件行政指導は違法ではないが,被告人のカルテルは「行政指導に従い,これに協力して行われたもの」ではない,と判示されている。

 

この最後の部分(「行政指導に従い---」)だけは,授業では触れなかった点であり,従って,これを欠いたとしても減点にはならない。

 

4.上の比較衡量,究極の目的についての実態認識

本件で,実際に大幅値上がりになるという予測の立証がされてない。また理論的にも、真の競争が存在することを前提とすれば、価格は市場における需要と供給の関係から決まるのであって、原価の値上がりが直ちに商品の値段に反映されるとは限らない。

授業では,石油製品の原価における原油買い入れ分はほんの一部であるとも述べた。

したがって,「当該行為(本カルテル)によって守られる利益」がどれだけあるかは疑わしく,被告人がこれを立証できたとは考えられない。

 

二.

1.独禁法3条後段(私的独占)10点

2.同法2条5項の私的独占の定義を明示。10点

その上で,同項の定める「支配」,「排除」につき,それぞれ本件事案に即して述べているかどうか。(各15点で採点)

(1)同社のベッドのみが納入できる仕様書入札を実現して競争者を「排除」したこと

(2)同社は、都の実施する入札に参加する販売業者の中から落札予定者及び落札価格を決め、入札参加業者に対し入札価格を指示する等、これらの販売業者の事業活動を「支配」していること

これに加えて、市場要件である「競争を実質的制限」について適切に触れていれば,適宜加点する。

「入札談合」であるという解答も少なくない。談合は,不当な取引制限に当たるが,これは相互に独立した事業者間での協定であって,本件のようなP社の一方的な支配・排除のケースには当たらないから間違いである(1人だけ、この旨を正確に記述した解答があった)。しかし、これは授業ではほとんど触れなかった点であることもあり、コンテクスト等の場合によっては点を加える。

 

以下の点を広義の中で強調したので、これに触れている解答も多かった。しかし、これは解釈論(法律のどの条項に該当するか)ではなく、実態上のこと(政策論)であり、本問で尋ねていることではない。

メーカーと買い手である都の間には、情報力の格差があるので、これを埋める努力ないし工夫が要請される。

本件の発注者の側でも、都財務局・病院事務担当者が競争入札の実効性を十分に考慮したとはいえず、この点でも公取委は発注制度及びその運用の適正化等に留意するよう要請した。

 C. 答案において述べられた感想について

 全体的な印象としては、ゲストスピーカー、レジメの配布とホームページへの掲載、学生諸君にマイクを向けるなど、授業のやり方について好意的な感想が多かった。
 ただし、「ごますり」までではないにしても、採点者に向かって書くという状況から、若干の遠慮があるであろうから、もっと厳しい意見もあるだろうとは推測される。 

 「公取委の方の話を聞けて、めったにない機会なのでよかった」。
 「公取委の方がいらっしゃったときに、何も質問できなくて済みませんでした。なかなか、あのような場で挙手をするのは難しいものだと 思います。来年から、事前に質問用紙を配布するのはいかがでしょうか?」
 「すごく面白かった」
 「去年も受けたが、授業の内容が難しすぎる。教科書が難解」。
 「ケース中心のせいか、まとまりがない。講義で話されたことの重点がなにか、明確に示して欲しい」
 「新聞記事や判例百選からのコピーなどは、リアリティーが出て興味深かったので、もっと配布して欲しい」。
 「プロ野球の話が特に面白かった」。
 「板書をもっときれいに」
 「試験で途中退席する学生が戸をバタンと大きな音を出したまま出て行くのを何とかしてくれ」。
 「後ろでおしゃべりがウルサイ。しかも、いつも同じカップル」
 「3年になってみんな静かに聞いて、講義に集中できた。専門の講義はこういうものかと思った。」 
 「設問に対する答えをもっとしっかりと教えてもらいたいと思いました」同旨が数通。

問題を考えること自体が大事なのですが,やはり学生諸君は「答え=正解」が欲しいのですね。これは、受験勉強の弊害のような気がします。
授業で出した設問は解釈論だけではなく,実態論・政策論が多いので,それらには,実は正解がない,つまり,幾通りもあり得る,という場合が多いのです。これを完全に整理して教えるというのは大変ですし,またそれを正確に伝えようとすると、それをノートに書いて,暗記するという単純作業に気を取られるおそれがあるとも思います。もっとも、あまり質問だけで、学生諸君を困惑させるだけに終わるのは私の本意ではありませんから、これから答えの一部でも明確に出すようにしましょう。 

 この講義は、ケース中心に学生に考えてもらうという進め方なので,授業のねらいや内容をつかむのが難しい,という感想を述べた者があった。 同様に、伝統的な,教科書や法律の体系に沿って,懇切丁寧な説明を中心にするという講義スタイルの方がいい,という意見が少数あった。

 講義の中では、教科書に沿って、話を進めているので、教科書を持ってきている限りは、体系のどこをやっているのかなど分かるはずであるが、教科書を買っていない、持ってこない学生も多いということもあろう。
体系重視とケース重視のどちらの方法も,1長1短であろうが,答案に書かれた感想では,大多数は私の進め方を支持する意見のようである。ただし、内容が難しいという意見が毎年あるので、今後少し易しい内容に変えることを検討する。

 「今回、最後に突然、第6章が試験範囲になった」というクレームもありました。しかし、授業の中で何度も、違反行為に対しどのような広義の「制裁」(行政処分、民事上の損害賠償、刑事罰など)が課されるかについて話したので、「突然」ではないつもり。多くの答案にも、課徴金が課されるなどの記述があったので、大部分の諸君が勉強したことが分かります。

 最後に,試験の成績をあまりに気にしすぎる必要はないと思います。単位を取得することが、学生諸君の最低限の義務であり、目的であることは言うまでもありませんが、授業で私の話を聞き,理解しょうとし,考えること自体が大事です。

 成績が悪かった諸君、それだけでがっかりすることはありませんよ。
スポーツの世界から始まって、「結果を出す」がはやりのようですが,成績はほんの小さな結果の1つであり,諸君が受講しながら考え感じたことなどは簡単に結果に現れるものではないでしょう。多くの場合,結果はそう簡単に現れるものではないのです。試験勉強で暗記したことはすぐ忘れますが,それでも、これらの勉強や、講義の中で理解しようとし考えたことから何か諸君の頭や心の中に残るものがあるはずです。その蓄積・涵養が諸君の本当の潜在力を作り高めるのだと思っていいのではないでしょう.

試験問題

一. 以下の設問に簡潔に答えなさい。

石油カルテル刑事事件最判において、石油元売会社は、(旧)通産省の行政指導に従って価格カルテルをしたのであるから、独禁法違反とされる理由はないと抗弁したが、最高裁判所はこれを認めなかった。この抗弁を反駁しなさい。

箇条書きの形式で述べること(配点50点)。

二.以下の事実について、設問に答えなさい。

東京都財務局は、発注事務を所管する都立病院向け医療用ベッドにつき、パラマウント社(以下、P社と略記)のベッドのみが納入できる仕様書をもとに入札を実施した。都は複数のメーカーが納入可能な仕様書による入札を実施する方針を立てていたにもかかわらず、P社は病院の入札事務担当者に対し、同社の製品のみが適合する仕様を盛り込むよう働きかけ、しかもそれは同社が実用新案権等を有している構造であることを伏せていた。

 またP社は、この入札に参加する販売業者の中から落札予定者及び落札価格を決め、入札参加業者に対し入札価格を指示した。(公取委勧告審決平成10・3・31)

[ 設問 ]

(1) 公取委は、P社の行為を独禁法違反としたが、その適用法条は何か(配点10点)。

(2) 上の適用をした理由は何か(なぜ同条に該当するのか)(配点40点)。

試験の評価には関係しませんが、時間の余裕のある人は、私の講義に関する感想を書いてください。今後の講義の仕方についての参考にします。苦情、批判も歓迎。もちろん、これによって採点が左右されることはありません。



2004年(平成16年)度 「経済法2」試験問題

一. 以下の事実につき、設問に答えなさい。(配点各25点)

昭和30年代、朝日・毎日・読売の各全国紙は毎年春にほぼ同額の一斉値上げを繰り返し行っていた。公正取引委員会は、昭和34年に行われた事前の申合せに基づく新聞購読料の一斉引上げについて、新聞各社がその申合せを実施し維持する義務を負うという拘束力ある申合せがあったとの証明がなかったとして不当な取引制限の成立を否定した(いわゆる新聞「紳士協定」事件)。

<設問> これは、「不当な取引制限」の要件についての妥当な解釈か。理由を付して述べなさい。(配点30点)。

二.以下の事実について、設問に答えなさい。

化粧品メーカーYと販売業者(卸)Xは、販売委託契約を締結し、継続して取引を行っていた。同契約では、XはY化粧品以外の化粧品の取扱いが禁止されていた。

Yの販売システムは連鎖販売取引(いわゆるマルチ商法)であり、売上目標の達成による昇格とそれに伴う傘下代理店(小売)の増大により、販売手数料・販売利益が急激に上昇していく仕組みであった。かかる販売システムの下、Xは傘下代理店の在庫を引き取りその代金を立て替払いをするなど無理な販売活動を行い、Yから商品を強制的に割り当てられるなどしたため、次第に借金がふくらみ、大量の在庫を抱えるに至った。

そこでXは、別のメーカーAの化粧品販売に転向することを企て、これを知ったYは契約違反として取引を停止した。XはYのこの行為は独禁法違反であるとし、それによる損害の賠償を求めて提訴した。

<設問> 

(1) Yの取引停止行為は、独禁法(または一般指定)におけるどの規定に違反する可能性のある行為か。(配点10点)

(2)上の規定の定める要件に該当するか否かにつき、理由を付けて答えなさい。(配点30点)

(3)連鎖販売取引については、一般に、どのような社会的・法的な問題があるか?(配点30点)

 

<採点のポイント>

 文中で、25点等々と書いたが、これは単なる目安であって、具体的に何点となるかは、それぞれの文章のコンテクストで異なる。

一.

問題文から明らかなように、「拘束」だけに絞って書くべき。

 制裁がない、紳士協定であっても、「拘束」に該当。---これだけで25点。

 この種のカルテル協定はそもそも独禁法に違反する申し合わせであるから、「拘束」は法的な拘束であるべきだという理屈は成り立たない。

 「共同遂行」が単独で要件であるという説に拠れば、上の理はより一層あきらか。

 「事前の申し合わせ」はあると明示されているのであるから、「暗黙の合意」、行為の一致(意識的並行行為)などは不要な叙述。しかし、問題文から、この事実関係を明確に読み取れないとも思われるので、これも評価の対象とする。----10点

 

二.

(1)一般指定2項に該当し、独禁法19条違反。----10点

 優越的地位の濫用(一般指定14項)----10点

一般指定11項にも該当する可能性はあるが、公取委のガイドラインでは「有力な事業者」でなければならないから、問題文からは本項該当とは言い切れない。

(2)一般指定2項の定める行為要件については取引拒絶であることは明白であるから、「不当に」すなわち「公正競争阻害性」についての問題。これに関する3種類の見方のうち、ここでは「自由競争基盤」の侵害と捉えるべき。

 すなわち、本件でのXとY間の関係については、契約の内容やYのとった経営方針からXが自由に企業努力を展開して活動できる状況にはなく、「自由競争基盤」の侵害に当たるとすべき。----15点

同じ理由から、同時に、優越的地位の濫用(一般指定14項)と考えることもできる。----10点

また、優越的地位の濫用を実行あらしめるために取引拒絶が行われたと考えると、「独占禁止法上不当な目的を達成するための手段として用いられる場合」だと考えることもできる。いずれも、「自由競争基盤」の侵害であることには変わりがない。----10点

これとは別に、「競争の減殺」を挙げた答案も多かった。しかし、公取委のガイドラインは、競争者の事業活動が困難となるおそれがある場合として、市場における「有力な事業者」基準を採用しているから、本件がこれに当たるかは不明(前問(1)で述べたことと同様)。しかし、この点を指摘することも意味がある。----10点。

 

(3)

 第一に、連鎖販売取引は、自分がコントロールしていない者(下位の販売員)の努力いかんによって収入が左右される「くじ」であり、非良心的、詐欺的な販売方法である。----10点

第二に、下位の販売員への組織拡大は急速に先細りし、終局において破綻すべき性格のものである。この事実を隠して勧誘するのであるから、一般指定8項の「ぎまん的顧客誘引」にも当たる。----10点

第三に、同様のシステムをとりながら、商品・役務の取引が伴わない場合は、俗に「ねずみ講」と呼ばれ、無限連鎖講の防止に関する法律は、無限連鎖講の開設・運営を全面禁止にし、これに違反する者には刑事罰を処するという厳しい規制を置いている。

これに対し、「連鎖販売取引」については、特定商取引法(33条1項)で規制されているが、この形態の取引それ自体を禁止するものではないし、不当な実態を持つ可能性の高い連鎖販売取引を規制することもできず、立法論としては、より厳しい規制に変えるべきである。

このように不十分な規制状況の下では、独禁法や民法(契約責任、不法行為責任)等によって厳しく規制する必要がある。----10点



2003年(平成15年)度 「経済法1」試験問題

一.以下の各設問に簡潔に答えなさい。

(1) 「特定商取引に関する法律」によって、「電話勧誘販売」に対する規制が強化され、勧誘する者の氏名、販売業者名、「契約の締結について勧誘をするためのものであること」等を告げなければならない、「不実のことを告げることをしてはならない」、「人を威迫して困惑させてはならない」等の規定や、いわゆる「クーリング・オフ」の規定が整備された。

これは規制緩和の流れに逆行し、消費者の「自己責任」をあいまいにするものではないか? 本規制の根拠や、その妥当性について、各自の意見を述べなさい。(配点30点)

(2) 「官製談合」とは何か。また、これは独禁法のどの規定に違反する行為か。(配点30点)

 

二.以下の事実について、設問に答えなさい。

 八幡製鉄と富士製鉄の合併計画につき、公取委は以下のような判断を示した(公取委同意審決昭和44年10月30日)

「八幡製鉄と富士製鉄が合併することとなった場合、鉄道用レール、食かん用ブリキ、鋳物用銑および鋼矢板の各取引分野について競争が実質的に制限されることとなると認められる」。しかし、両社がこれらの取引分野について、以下の措置を講じることによって「有効な牽制力ある競争者」が存在するようになれば、合併会社が市場支配的地位を獲得するとは認め難い。

鉄道用レールについては、日本鋼管が新たに生産を開始する計画があることから、富士製鉄の釜石製鉄所の鉄道用レール製造用設備を日本鋼管に譲渡し、原料の供給および製造に関する技術の提供等の措置を講じれば、有効な牽制力ある競争者となり得る。(以下略)

 

[ 設問 ]

(1)公取委は、独禁法のどの規定に違反するおそれがあるとして審決で上の判断を示したのか。規定は、条、項、号まで精確に述べなさい。(配点10点)

(2) 上の判断は、「有効な牽制力ある競争者」テストと呼ばれるものである。これは多くの学説から厳しい批判がなされ、公取委も後にこれを採らないことにしたようである。このテストの欠陥(理論的および実際上の問題)はどこにあるのか。(配点30点) 

試験の評価には関係しませんが、時間の余裕のある人は、私の講義に関する感想を書いてください。今後の講義の仕方についての参考にします。苦情、批判も歓迎。もちろん、これによって採点が左右されることはありません。



2003年(平成15年)度 「経済法2」試験問題

一.以下の各設問に簡潔に答えなさい。

(1)複数の事業者によるボイコット(共同の取引拒絶)は、独禁法および一般指定のどの条項に照らして、その違法性が判断されるか。(配点10点)

(2)談合等のカルテルに対する独禁法上の措置・制裁として4種類の制度がある。それぞれ根拠条文をあげ、それらの機能的限界について論じなさい。(配点40点)

二.以下の事実について、設問に答えなさい。

 特定の化学製品について日本国内で生産シェア一位を占めるわが国の事業者が、外国事業者に対し当該製品の製造に必要なノウハウを供与するノウハウライセンス契約を締結した。契約期間は10年であり、契約終了後においては、当該外国事業者による当該ノウハウの使用が可能とされたが、当該ノウハウを使用した製品の日本への輸出を禁止するという制限条項が付されていた。(旭電化工業事件=公取委審判審決平成7年7月10日)

[ 設問 ]

(1)本件契約は、独禁法21条によって独禁法の適用を除外されるという解釈は正しいか。理由を付して答えなさい。(配点20点)

(2)仮に本件契約に対し独禁法が適用されるとすると、本件の上記輸出禁止は、独禁法および一般指定のどの条項に該当する可能性があるか。また,上記輸出禁止が当該条項の定める要件に該当するか否かについても論じなさい。(配点30点)

 

試験の評価には関係しませんが、時間の余裕のある人は、私の講義に関する感想を書いてください。今後の講義の仕方についての参考にします。苦情、批判も歓迎。もちろん、これによって採点が左右されることはありません。

 



2002年(平成14年)度 「経済法1の採点について」

A.「経済法1の採点を終わって」

昨年は、「全体によくできていたので、-----厳しめに採点した」と書きましたが、今年はかなりできが悪く、自分の講義の仕方に問題があったせいかとガッカリ。

弁解のようですが、それ以外に、1つは、問題自体がかなり難しいものだったこと、2つめに、出席をとったので、これをあてにして、あまり勉強せずに受けた学生諸君も多かったのではないでしょうか。

ともあれ、この「経済法1」の試験に落ちた、あるいは良い成績をとれなかった学生諸君も、これに懲りずに、後期「経済法2」に挑戦してください。私も講義の仕方をさらに工夫するつもりですし、諸君も前期に勉強して苦労したとすれば、そのことは、後期にも必ず生きるはずです。

下記の「採点のポイントと評価基準」を読めば、自分の書いた答案の評価がある程度予想できるはずです。それでも私の出した成績評価に疑問がある場合は、教務事務センターに調査依頼を提出してください。その際には、調査依頼を出す理由を具体的に書いて下さい。

なお、これは欲張りかもしれませんが、答案の書き方について一言。

例えば、問題一(1)では、事業者に当たるとする積極的理由だけでなく、労働者に当たるとすると、こういう点がおかしくなる、など、自分と反対の意見を崩すことを加えれば、より説得的になります。

 (2)の市場構造基準についても、これ以外の基準は何かを挙げ(「市場行動基準」と「市場成果基準」)、それらと比較しながら説明した方が分かりやすいでしょう。

B.「採点のポイントと評価基準」

一.次の各設問に簡潔に答えなさい。(配点各25点)

(1)プロ野球選手は、「事業者」(独禁法2条1項)か、それとも労働者か?
「事業者」の定義、条文を指摘し、説明している。―――10点

球団に属している、雇用者の指揮命令に服する「従属労働」、独立して事業を行っていない。―――10点

労働者として保護を与える必要がある、団結して球団側と交渉することは正当な権利行使だから―――10点

弁護士や建築士などのプロフェッションと同様な意味で、事業主と解することができる。―――10点

プロ野球選手の労働力も「商品(正確には役務)」として取引されているから、事業者であるという可能性も否定出来ない。―――10点

プロ野球選手が受け取る金銭は、事業者間の役務(=サービス)取引における対価というより、雇用契約に基づく賃金の性格を持つ。――5または10点

テレビのCMなどで収入を得る行為は、事業者としての行為である。この点は、講義ではふれませんでしたが、これはその通りでしょう。――――5点

(2)「競争の実質的制限」に関する市場構造基準とは何か?

結合後の当事会社のシェア(他の売り手の数やシェア分布なども。参照、根岸・舟田『独占禁止法概説』90頁以下)-----15点

新規参入の難易―――10点

製品差別化の程度ないし代替品の有無―――10点

市場の確定―――5点

多くの答案に、「行為規制」と「構造規制」の区別が述べられていたが、この区別と市場構造基準は、直接には結びつかない。市場構造基準は、「行為規制」と「構造規制」のいずれにも用いられるものである。
「競争の実質的制限」についての説明に終始した答案も多かったが、市場構造基準に触れない限り、これも的はずれである。

二.以下の事実について、設問に答えなさい。(以下、中略)

 大阪地域の主催旅行向け貸切バス市場では、事業者間の競争が熾烈であり、またユーザーである旅行業者との力関係等の事情もあって、長く恒常的に道路運送法による「認可運賃」額(上限・下限の間での自由な料金設定を認める幅運賃規制)の下限額を大幅に(極端な場合には下限額の30%)下回る「実勢運賃」となっていた。そこで、貸切バス事業を営む事業者の団体である大阪バス協会は、運賃について協定を結び、最低運賃を道路運送法「認可運賃」として認められている下限額の50%とした協定を決定した。(公取委審判審決平成7年7月10日・大阪バス協会事件)

[ 設問 ]

(1)公取委は、この協定が独禁法(8条1項1号)に違反するものではないとしたが、その理由は何か。(配点25点)
(2)上記の協定とは別に、大阪バス協会は、より競争の激しくない学校遠足向け市場については、認可運賃の上限以下で下限を上回る運賃を設定した。これも上記協定と同様に解してよいか。理由を付して述べよ。(配点25点)

 

 ★お願い★

 試験の評価には関係しませんが、時間の余裕のある人は、私の講義に関する感想を書いてください。今後の講義の仕方についての参考にします。苦情、批判も歓迎。もちろん、これによって採点が左右されることはありません。

 

(1) 公取委が、この協定が独禁法(8条1項1号)に違反するものではないとした理由。

運賃等が現実に主務官庁による認可を経ている場合も、カルテルの違法性は「専ら同法の見地から判断すべき」―――10点

事業法等他の法律により刑事罰等をもって禁止されている違法な取引又は違法な取引条件(例えば価格が法定の幅又は認可の幅を外れている場合)に係るものである場合に限っては、特段の事情のない限り、「競争を実質的に制限する」という構成要件に該当しない。―――10点

本件協定については、「特段の事情」の立証がないから、上記構成要件に該当しない。―――10点

独禁法の(究極的)目的に反しない―――5点

違法状態を解消するためであって、不当な利益をあげるためではない―――10点

少しでも違法状態を解消するためだから―――5点から10点

利用者に不利益を与えない―――5点

違法性阻却、「保護に値する競争」―――10点

(2)上記の協定とは別に、大阪バス協会は、より競争の激しくない学校遠足向け市場運賃等が現実に主務官庁による認可を経ている場合も、カルテルの違法性は「専ら同法の見地から判断すべき」―――10点

事業法等他の法律により刑事罰等をもって禁止されている違法な取引又は違法な取引条件(例えば価格が法定の幅又は認可の幅を外れている場合)に係るものである場合ではない―――20点

C.学生諸君の講義・試験の感想

 その他、答案に書かれてあった感想には以下のようなものがありました(順不同)。

「独禁法の授業で取り上げられる様々な問題は、身近で起こっている経済的な問題であり、毎回、興味深く受講することができました。」

「(講義の内容が)難しすぎる」これは多数。反省すべき。

「教科書は難解」これも多数。

「(講義の内容が)いまいちつかみきれません。できればもっと詳しく----なんて無理でしょうか。もっとよく考えてみたいなあ、という時もあるので、ミニペーパーなどをくばって分からないことをみんなにきいてみて、焦点をしぼってはどうでしょうか。後期も経済法をとるので、どうぞこの意見、考えてみて下さい。」

「授業中の私語はもっと厳格に対処すべきだと思います。また、その原因となっている出席確認もすべきではないと思います。」(同旨、相当数)

「もう少し、ただしゃべっているあいつらを厳しく注意してもいいのではないでしょうか。-----もしできるのであれば、渋谷先生のように、私語について厳しくなってもいいと思います」

「15分遅れただけで(出席を採るための機械が)自分が座った席にはもう回った後で、授業後に前に行って出席をとろうと思っても、ダメだと言われて結局出席とれずに、腹が立っています(3回ほど)」

「先生のレジュメは詳しすぎます。だから授業にでていてもレジュメがあるから安心という気になります」

「黒板の字が読みにくい。」(これは最多。済みません!)しかし、「板書はして欲しい。」

「授業中に生徒に質問したりして、生徒とのやりとりがあったのが良かったです。さすがに発言する勇気はありませんでしたが、授業に緊張感を持って臨めました」

「(自分は)発表・発言まで至ることはできなかったが、理解ある人達の意見を聞いたことはプラスになったと思う。自ら発言してくれる人は少なくて大変かもしれないが、これからも発言者をさがして教室を歩き回ってもらいたい。ただ一方的な講義では、つまらない、というのも、大学に4年間通って出した結論の1つなので、是非お願いします」

「授業の内容がホームページに出ていて、勉強に大変役立ちました」

「先生のホームページは、--写真が載っているのもいいですね。ただし! 犬の愛犬の写真が見たかったです。」

「犬の写真をもっとアップして下さい」

「先生のホームページは、おちゃめな感じが出ていて、教壇の先生とギャップがあって面白かった」

「試験中、手が震えてしまうので、字がきたなくて、申し訳ありません」




2002年(平成14年)度 「経済法2」試験問題

独禁法と公取委の告示を貸与(試験終了後は各自が持ち帰ること)

一.以下の各設問に箇条書きの形で簡潔に答えなさい。(配点各25点)

これまで、カルテル(不当な取引制限)や不公正な取引方法などの独禁法違反行為に対し、被害者は法的な救済、特に民法709条(不法行為)に基づく損害賠償や不当利得返還などを求めることは稀であった。

(1) この原因を、取引の直接の相手方に対し請求する場合を念頭に述べなさい。実態上のことでも、法的なことでもよい。

(2) 鶴岡灯油事件のように、石油元売り各社が値上げカルテルを行い、それによる値上げ分を卸・小売等の販売業者が消費者に転嫁した場合、消費者が元売り各社(取引の間接の相手方)に損害賠償請求をすることについては、上の(1)の場合とは異なる特別の困難性がある。これについても、箇条書きの形で述べなさい。

二.以下の事実について、設問に答えなさい。(配点各25点)

富士通は、金融庁発注の情報システムにおいて、303万円で応札し(業界の常識をはるかに下回る),同社は本件の落札者とされた。これについて、公正取引委員会は,同社に対し,独禁法に違反するおそれがあるとし、今後このような行為を行わないよう警告を行った(平成14年2月7日)。

(1) 本件では、独禁法のどの条項の適用が問題となったか。独禁法上の規定と、それに基づく公取委の告示の双方について指摘すること。

(2) 本件行為は、当該条項の定める各要件を満たすか否か。特に、公取委が正式の審決ではなく警告にとどめたのは、要件該当とするために解釈上の難問があるからである、という点に留意して述べなさい。

 

・. 採点のポイント

以下は、「模範解答」ではなく、私が採点をした際に考慮した採点のポイントのメモ書きです。

 今年から、「成績評価調査制度」が正式に発足し、学生諸君は自己の答案に与えられた成績評価について疑問があれば、担当教員に質問することができるようになりました。これは、学生諸君の教育を受ける権利と勉学の充実にとって、大変結構な制度ですが、同時に、私たち教員にも一定の意義のあるものです。

 しかし、これは学生諸君が「何とか評価を上げて下さい、単位を下さい」式のお願いを認める趣旨でないのはもちろんです。私の担当した経済法の場合は、このように採点のポイントを公表したのですから、これをしっかり読んで、自分の書いた答案と比較して、それでも疑問があれば、遠慮無く調査申請を出して下さい。

一.(1)

公共入札談合の場合、被害者である国や地方公共団体、特殊法人等は、原価を補うだけの予算がつくし(真の被害者は、納税者、利用者等である)、国等の入札担当官など公務員は、天下りなど談合で利益を得ることも多かったから。10点

 被害者は、灯油など石油のように、「業界ぐるみ」で値上げする風潮があるなど、競争が不十分だから、損害を次の段階の取引に転嫁することができたから。10点

取引の直接の相手方に対し請求をすれば、その取引先とのビジネスは係属できないし、他の取引先を探すとしても、そう簡単ではない。業界内の「村八分」などを受けることも覚悟しなければならない。また、協調性に欠ける、など、業界内で不評となり、これ以降のビジネスがやりにくくなる。10点

 談合事件にかかわらず一般に、私法上の訴訟は、原告側に大きなコストや手間暇がかかる。10点

違法行為の存在、因果関係と損害の立証の立証は、裁判所の厳しい態度から極めて困難なことが多い。10点

なお、故意・過失の立証が困難、という答案が多かったが、独禁法違反行為かどうかが問題になる場合には、この点は簡単に立証できると解されるし、従来この点が争点になったことは、刑事裁判の例(ここでは「違法性の認識」がないとされたことがある)を除いてほとんどない。

(2)

損害を次の段階の取引に転嫁した場合など、違法行為の存在、因果関係と損害の立証が、直接の取引先の場合より、さらに困難になる。特に、因果関係が問題であり、中間段階に存在する販売事業者には、それぞれ自由な経営の余地、すなわち、価格行動についての「自由意思」があるからである。これは「因果関係の切断」の議論に似た状況である。15点

ただし、損害額については、民訴法改正で容易になったが、この点は授業ではふれなかった。

これに、違法行為の存在と因果関係を否定した鶴岡灯油裁判最高裁判決の判旨を書けば、さらに加点。

なお、販売事業者が、カルテルによる値上げ分以上に、便乗値上げをした場合、元売り会社だけに請求することは公平ではない、という答案があった。鋭い指摘であるが、便乗値上げそれ自体を違法とすることはできず、法的にはこのような便乗値上げを違法ということはできないであろう。

また、間接の取引相手であっても、違法行為によって損害を受けたと立証できれば賠償請求は認められるのであって、この点が障害になるわけではない(米国では別の解釈をとられているが)。

 消費者1人あたりの損害額が小さく、これに比して裁判のコスト、手間が大きすぎる。時間も長くかかる。10点

取引や競争に関する情報はすべて事業者の側にあるから、この点からも事業者ではない消費者(素人)には立証が困難。10点

独禁法のことをよく知らなかったから。5〜10点

この他、公取委が取得した証拠の開示を求めても(独禁法69条)、これを拒絶されることがあり得るという問題、また、本問は、民法に基づく請求に限った問題であるが、独禁法25,26条に基づく訴訟の場合には、審決が確定した後でないと提起できない、という問題もある。

 

二.

国や地方公共団体におけるコンピュータ・システムの公共入札における「安値入札」問題(214頁以下)。

本問については、入札談合と勘違いする答案が多かった。談合は競争をしないというカルテルであり、これに対し、安値入札は競争が過度に行われることの問題であるから、全く別である。

(1)独禁法19条、2条9項2号、一般指定6項前段

(2)要件は、以下のように分解して述べること。

要件1----「その供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給」したか、「低い対価」か。

本件では、継続性がないから、後者(「低い対価」)に該当するか否かだけが問題となる。

この場合も、「低い対価」の意味については、前者と同様に、まずはコスト割れかどうかがポイントとなる。10点

要件2-----「正当な理由がないのに」または「他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあること」。

ただし、これら両者は、同じことを指しているので、前者(一般的な不当性=公正競争阻害性)だけを論じれば足りる。

本問では、以下のように、要件1に関わる論点が中心である。

第一に、システムの設計から実際のシステム構築、運用・保守管理など、多段階に分けた入札をすることが多い。最初の段階で安値入札しても、後の段階の入札で(あるいは、後では随意契約で)その赤字を取り戻すという企業戦略が成立するとすると、全体でコストを償うという解釈もあり得る(独禁法および入札制度の観点からは、妥当な企業戦略でないが)。10点

なお、入札制度のあり方としては、上述のような企業戦略を防ぐような入札の仕方を工夫すべきである(これは難しいことであるが)。

第二に、図書館情報システムや下水道監視・管理システムのように、他の同様のシステムで落札し、そこで初期投資を回収すれば、その後では安値入札をしても十分採算がとれるという場合、追加コストがごく小さいことは明白。本件行為も、この意味でのコストを割っていないという反論もあり得る(これは、妥当な戦略であるという意見もあり得る)。15点

このような場合、コスト割れはどのような基準で算定するか、結論はでていない(214頁以下参照)。

本件行為が、要件2を満たすことは明らかである。競争減殺、競争手段の不公正さ、競争基盤の侵害などを指摘すれば、さらに評価される。5〜10点

 


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