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page17 - 第 6期 第 3弾 2000年 1月 26日 発売

ライアン・カイザー / カイザー Video Arts VACM-1149

ライアン・カイザー (tp)
ピーター・ザック (p)
ジョン・ウィーバー (b)
ウィリー・ジョーンズ3世(ds)



1999年7月30日ニューヨーク録音
プロデュース:チャズ・クリフトン

01.DaHoud(Clifford Brown)
02.Delliah (Victor Young)
03.Cherokee(Ray Nobel)
04.I Remenber Clliford (Benny Golson)
05.Jordu (Duke Jordan)
06.Rarisian Throughfare (Bud Powell)
07.Sandu (Clifford Brown)
08.Valse Hot (Sonny Rollins)


1973年アイオワ生まれ。幼少よりトランペットを始め
12才でクラシックを学んだそうです。90年にモンク・
コンペテイションで優勝、91年にマンハッタン・
スクール・オブ・ミュージックに入学、ルー・ソロフに
師事したそうです。92年に初リーダー作を発表し、
現在はリンカーン・センター・ジャズ・オーケストラ他
計三つのバンドで活躍中。

*上記はSJ誌2000年2月号を参考にしました。

Jan. 30.2000 bb白岩


各委員のご意見は原稿の到着順で掲載しております。

なお、この企画は参加委員による共通のページとして、各委員のサイトでもご覧になれます。
ページのデザインやレイアウトは各委員のサイトで異なると思いますが、
文章の内容は全く同一のものが紹介されます。

現委員のメンバー及びリンク先はゴールド・ディスク品質向上委員会のページをご覧下さい。

【委員の声】 其の一

「清々しい好青年」

(1)〜(7)がクリフォード・ブラウンのオリジナルと愛奏曲、
(8)がブラウニー没後に盟友ローチが吹き込んだ曲、と
つまり作品の全曲がブラウニーずくし。
比較されるのを承知でこういったアルバムを作るとは
余程カイザー自身に自信とやる気があったのでしょう。

わくわくしながら封を切っての第一印象は安堵でした。
テーマ部はともかく、一端ソロが展開されると彼自身の
姿が見えてきたのでほっとしました。ところどころ
ブラウニーの残した決定的な名フレーズが顔を
出しますがそれはご愛敬でしょう。
それにしても大胆な企画です。

凄いなぁと感じたのは各曲ともアレンジ自体はブラウニー
=ローチ・クインテットの演奏に比較的忠実なのに
単なる「再演」になっていないのはカイザーが自身の
ワン・ホーンだけでやったからでしょう。
サックスが居ない分、彼自身のイメージで
自由に吹くことが出来たのだと思います。
この点はSJ誌で岩浪洋三氏も指摘しています。

この作品を聴く限りカイザーは若手トランペッターの
中でも群を抜く有望な存在であることがはっきりしました。
彼自身の課題は、今度の作品にこそあるのでしょう。
これだけの名曲を、しかも土台も作ってある名曲を
やれば素晴らしい作品になるのは自明の理。
カイザー自身は一体何をやりたい人なのか
次回作に答えを見つけたいと思います。

若い分、時間はたっぷりとあるのですから
次回はこれを超える作品作りを期待したいです。
それにしても久しぶりに清々しいジャズを聴きました。

評点:★★★★

bb (bluesboy).
E-Mail bluesboy@pluto.dti.ne.jp
Web Site 【Blues PEOPLE & Jazz PEOPLE】 / 【Store apple Jam


【委員の声】 其の二

「青年よラッパを持って街に出よ!」

 90年代はサックスとピアノに逸材が輩出したがトランペットは本格派、変格派
ともに人材不足気味。さりとて努力作を史上の傑作並みに褒めちぎるのは疑問だ。
モダン黄金期の作品を聴けば同程度または上回る奏者が山といるのが判るだろう。
技巧面ではパッセージの緩急による音量のバラツキがあり総じてアタックが弱い。
個性面では主張が見えない。人が好いのだろう。Wyntonの傲岸不遜を見習うべし。
もとより、凡作というつもりは毛頭ない。タイトなリズムとシャープなサウンド、
スピーディーな演奏はまさしく90年代のもの。真っ向直球勝負の真摯な姿勢にも
好感が持てる。Peter Zak(p)を始めサイドも達者、ユニットのまとまりは上々だ。
ただ、何か決定的な魅力を欠く。妙にコンパクトで腰が引けた印象を禁じえない。
ソツがなくスケールが小さいということだ。ビッグ・バンド暮らしが長いことと
無縁ではあるまい。いかに瑞々しい声で歌っても所詮カゴの鳥、猛禽が跳梁する
シーンの制空権を得ることはできまい。青年よラッパを持って街に出よ!である。
飛躍時に備えてとっておく以上の価値は見出せない。清新な健闘作ではある。
 
評点:★★★☆

HAYASHI Tatsunori
email:tatsu@netq.or.jp
site :JAZZ DISC SELECTION http://www.netq.or.jp/~user/tatsu/  

【委員の声】 其の三

「スマートなワン・ホーン作」

さて、ライアン・カイザーによるトランペットのクリフォード・ブラウン集。
はたしてこのアルバムをクリフォード・ブラウンのアルバムと曲ごとに比較して
聴いて、最終的に「原典を聴け」的な結論を出すことに意味があるのだろうかと
いう気がして、比較して聴いてはみたものの、このアルバム単独で答えを見つけ
出そうとさらに聴き返してみました。
 編成はクインテットではなく、ワン・ホーン・クァルテット。これだけで相当
勇気のいるレコーディング。どの曲もよく耳になじんだアレンジではあるけれど、
意識して変えたりせずに、そこを堂々と吹いてのけるライアン・カイザーは立派。
切れ味は比較的良いのですけれど、ほんのりと温かみがあるサウンドです。欲を
言えばもう少し強烈な個性が欲しいかな、という気はします。
 出だしから急速調の3曲目にかけてはけっこう好きなアルバムの展開。4曲目
のバラードもていねいに歌い上げていて美しい。5曲目のトランペット・ソロは
一番印象に残りました。6曲目以降はリラックスして聴けます。他のメンバーの
サポートもけっこうまとまりが良く、いいものを持っています。全体のサウンド
としては、オーソドックスながら「今」を感じます。
 ルー・ソロフなど、器用なトランペッターが好きな私には好みのアルバムなの
ですが、ジャズの野性味や黒さ(当然か)からはちょっと離れてしまうことで、
聴く人によって好みの温度差はあるかもしれません。普通なら濃くなってしまう
これだけのフレーズを聴き流せてしまうスマートさも個性と言えば個性か。なぜ
このアルバムが「カイザー」なのか分かったような気もします。今、彼の持って
いるものの集大成のような気がしたからです。

評点:★★★★

現GD委員会長 :工藤 一幸
E-mail: kudukazu@mtf.biglobe.ne.jp kudo.kazuyuki@pep.ne.jp
URL: (事務所) http://www2s.biglobe.ne.jp/~kudotax/
(ジャズ) http://club.pep.ne.jp/~kudo.kazuyuki/


【委員の声】 其の四

「ど真ん中直球勝負の潔さ」

なんといってもこの企画の大胆さには驚いた。
史上最高のバッターに対して若手投手が真っ向勝負、それも
ど真ん中にストレートといった感じがする。
トランペッターなら誰でも一度はやってみたいアイデアだろうが、
いざ実際にとなると相当のプレッシャーだろう。
 しかしこのアルバムから聞こえてくるブラウニーの愛奏曲には
幸いそんなプレッシャーなど感じられなかった。
 雰囲気はあの決定的とも言える演奏にそっくりで、トランペットの
音色も柔らかく安心感をもって最後まで楽しめた。
バックのメンバーも知名度は高くないが、堅実なプレイで
ライアンを盛り立てている。
 久しぶりに7年ほど前の「On The One」(SONY盤)を聴いてみたが、
当時はもっとエッジの立った鋭い音を出していた。
もちろん曲に合わせて音色も変えているのだろうが、以前より幅が
広がっているのは間違いない。
 欲を言えばあまりにも耳当たりが良いので、CDを聴き終えた後に
強い印象が残らないのが不満なところだ。
もう一皮剥けてくれれば、故大川慶次郎氏ばりに「ライアン!」と
叫べるのだが。(競馬ファン以外には意味不明か)
ただ逆に妙にとんがったところがないだけに、自分にとっては
かなりの愛聴盤になりそうだ。

評点:★★★★

(STEP 片桐俊英)
e-mail:step@awa.or.jp
HomePage:http://www.awa.or.jp/home/step/)

【委員の声】 其の五

「企画に縛られた残念な作品」

「何で今更ブラウニー?」、これが最初の印象。もちろんジャズ・トランペッター
なら誰もが敬愛する存在だろうが、それにしてもブラウニー絡みの曲をただつらつら
とやられてもねえ、と言う感じだ。企画の意図が良く理解できない。肝心のプレイの
方も刺激や冒険といったものとは無縁であり、過去の名演のイメージを壊さぬよう
恐る恐る優等生のプレイに終始している。結局このアルバムを聴いていて私の頭に
浮かぶのは、ブラウニーでありローチでありリッチー・パウエルである。そこには
カイザーの姿はない。ただ「ブラウニーゆかりの曲をたくさんやってみました。」
というだけでブラウニーが曲や演奏に傾けていた情熱のようなものが感じられない。
年齢も若いし、まだまだこれからなのだから、思いきって原曲のイメージをぶち壊す
くらいの破天荒さがあってもいいはずだが、結局は"売らんかな"という安直な企画に
縛られたということなのだろう。
 ジャズ入門者にとっては親しみやすいメロディの曲ばかりだし、前述の通り刺激や
冒険もなく素直なプレイなのでとっつきやすいかもしれない。またちょっとジャズを
かじった人なら知っている曲が次々と登場して、それはそれで楽しめるだろう。

 セルフタイトルをつけているにも関わらずカイザーというトランペッターの本音が
全く聞こえてこない残念なアルバムである。これは本当に本人が望んだ企画なのか。
どうせやるなら古い曲に新しい命を吹き込む!くらいの意気込みが欲しかった。かつて
ウィントンが吹いた入魂の"Well You Needn't"のように。

評点:★★★

増間 伸一(Shinichi Masuma)
E-mail:masuma@jazz.interq.or.jp
WebSite:http://www.interq.or.jp/jazz/masuma


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