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page10 - 第 5期 第 86弾 1999年 5月 19日 発売

Till Bronner/ Love Verve原盤 ポリドールPOCJ-1442

ティル・ブレナー / tp,flh,vo
フランク・カステニア/ p,el-p
チャック・ローブ / g
ティム・レフェーブル/ b
ウォルフガング・ハフナー / ds
デヴィッド・チャールズ / per.他


1998年5月1-3日
アバター・スタジオスタジオにて録音

1. Where Do You Strat
2. What Stays
3. Our Game
4. Brazil
5. Ich Hab' Noch Einen Koffer In Berlin
6. We Fly Around The World
7. I fall In Love Too Easily
8. Here's That Rainy Day
9. Time Will Tell
10. I Thought About You (日本盤ボーナス・トラック)

ベルリン・ドイツ交響楽団に席を置く
トランペッターとしての顔と、歌って
吹くというジャズ・トランペッターと
しての顔を持つ男。
1971年生まれというから、
吹き込み時はまだ27才くらい。
充分に若手といわれる年齢で実はこのアルバムが
自身の5作目にして、ヴァーヴからはこれが第一弾。
言うまでも無いですが実力は申し分ないです。
陰影を吹くんだトーンはまるで雨の森の奥深くに潜む
妖精のため息のようでもあり、ヒーリング効果が高い。


各委員のご意見は原稿の到着順で掲載しております。

なお、この企画は参加委員による共通のページとして、各委員のサイトでもご覧になれます。
ページのデザインやレイアウトは各委員のサイトで異なると思いますが、
文章の内容は全く同一のものが紹介されます。

現委員のメンバー及びリンク先はゴールド・ディスク品質向上委員会のページをご覧下さい。


なお今月より新任のGD委員会委員長として
工藤氏が就任されましたことをお知らせいたします。
工藤さん、まとめ役と牽引役は骨が折れると思いますが
よろしくお願い致します。
また林さんには、初代の委員長として
一番大変な時期を御世話になりました。
厚くお礼申し上げます。

それでは皆さんともに
新たな気持ちでがんばりますので
よろしくお願い致します。

bb (bluesboy) / May 30.1999

【委員の声】 其の一

「極上のヒーリング・ミュージック」

ジャズになにを求め、何を表現するかは
プレイする側にも当てはまることだと思うので、
こういうアプローチのジャズを好んで演奏する人がいても
それは自然なことなんでしょう。
でも私は好んでこういう傾向の音楽を聴くことは余りないのです。
こういう傾向・・・つまりリラクゼーションぽい音造りの、
陰影を吹くんだ音世界のことです。
「余りない・・」と書いたのは、例外として
マイルスやアート・ファーマーは大好きだからです。

さて、このティルの作品を聴いて、まず感じたことは
ああ、これはこのページを書き終わったら
二度と聴かないだろうな、ということ。
音楽的には恐らく素晴らしいと思います。
でも私には感じる物は何も無かった。困った。

そうか、昔よく聴いた「クワイエット・ケニー」だと
思って何か書けばいいのか。
いや、それはやはり間違いだ。
再び、困った。

ん?でも困ることはないのだ。
自分の感じた評点を付ければいいのだから。

ボーナス・トラックの(10)に星半分おまけ。


評点:★★★☆

bb (bluesboy). E-Mail bluesboy@pluto.dti.ne.jp
Web Site 【Blues PEOPLE & Jazz PEOPLE】 / 【Store apple Jam


【委員の声】 其の二

「なぜか印象に残ったボーナス・トラック」

今回は少々困りました。じっくりと、ゆったりしたバラードを通して聴いている精
神的余裕がありません。ヨーロッパ的な甘さ、というものを感じますが、ボーナス・
トラックを除いてもう少しスリルが欲しい気も。私の好きなECMレーベルのジャズ
と比較してみると、ECMの場合は静かな中にも聴く側にスリルと緊張感をある
程度強いていて、甘さはほとんどないと思います。それが私の嗜好と言われれば
それまでなんですけれど。
 トランペットで彼独特のミュート奏法の曲が1、4、6曲目。その中で1曲目は
けっこう印象に残った曲。しかし、この奏法の世間での高い評価とは裏腹に、吹く
時のチリチリいう音(ノイズ)がちょっと気になります。音色で聴くならフリューゲル
ホーンの曲の方でしょうか。
 ヴォーカル曲の3曲目はスローなジャズ。ただ、これを上手いというのかどうか。
6曲目などはジャズのヴォーカル曲というより、マイケル・フランクスのようなシティ・
ポップスの曲ととらえる方が自然かもしれない。これはこれで好みではあります。
 その歌心と確かなテクニックは分かる気もするのですが、せめて10曲目のボー
ナス・トラックのような曲がもっとあれば...。特に4曲目はもっとゴキゲンなテンポ
の速いラテンナンバーであってほしいと思います。ただ、メンバーの中でも、フランク・
カステニアーとチャック・ローブの演奏が、ちょっと渋めながら気に入りました。

評点:★★★

現GD委員会長 :工藤 一幸 E-mail: kudukazu@mtf.biglobe.ne.jp kudo.kazuyuki@pep.ne.jp
URL: (事務所) http://www2s.biglobe.ne.jp/~kudotax/
(ジャズ) http://club.pep.ne.jp/~kudo.kazuyuki/


【委員の声】 其の三

「全編バラードはちとキツイ?」

 一ヶ月間が開いたせいか、どうにも筆が進まなくて困った。
先に届いた工藤さんと白岩さんの原稿に目を通したところ、
ほとんど私の思ったことが書かれていて、ますます困った。

 深い森を思わせる音色は、聞き慣れた多くのトランペッターとは
バックボーンの違いを感じる。
クラシックも勉強しているためか、音程などもしっかりとしているし、
いわゆるテクニック的には全く問題がなさそうだ。
またちょっとけだるいチェット・ベイカー風のヴォーカルにしても、
決して物まねではなさそうだ。
自作の6曲目などA・O・Rの名曲になりうるかもしれない。
ただ私としては、彼の歌にはJAZZを感じられない。

 このアルバムに問題があるとすれば、それは全編バラードの
構成にしたことだと思う。
もちろんそれは本人の意図によるものだが、私にはどうしても
途中で飽きてしまうのだ。
似たような構成のフレディ・ハバード「バラの刺青」は全7曲だったが、
あのくらいが限界のような気がする。
それというのも、おまけの10曲目は20分近い演奏なのに
ライヴの熱気が感じられて決して長いと感じないからだ。
途中にこんな演奏が何曲か入っていれば、アルバムとしての評価も
相当変わっていたように思う。
とか言いながらも、読書のBGMなどには重宝しそうな1枚。

評点:★★★☆

(STEP 片桐俊英)
e-mail:step@awa.or.jp
HomePage:http://www.awa.or.jp/home/step/)


【委員の声】 其の四

「方向性を定めれば、もっとよくなるだろう。」

いきなりだが、まずこのトランペットの音。本当にこれでいいの?と思うくら
いにスカスカではないか。晩年のマイルスでももう少しキレがあった。これは彼
の個性なのか、また技術的な問題なのか、まだ結論は出ていない。

 あと、甘ったるいボーカル。これはハッキリ言って売りにするべきものとは思
えないのでやめて欲しい。無理にチェット・ベイカーのイメージを追う必要もな
いのだから。

 でもこのアルバムは繰り返し聴くうちに、徐々に心の中に染みてくる感じだ。
バラードアルバムという限定された条件の中で、単調さは否めないもののいろい
ろ工夫してバリエーションをつけようと腐心しているのがわかる。
(2)でのシンセとの絡みや(4)の気だるさも良い。(4)は本作のベストトラックだと
思う。前述の通りボーカルはいただけないが(5)(7)(8)(9)もなかなか味わい深い。
彼のペットの音はギターとのマッチングが良い気がするので(4)のようなボサノヴ
ァっぽいイメージでまとめれば、かなりいいものが出来あがるのではないか。

 まだまだ注文をつけたいところも多々あるが、基本的にバラード路線は合って
いると思うので更に方向性を定めていけば、今後に期待が持てる。その期待を込
めて半星オマケした。

評点:★★★★

増間 伸一(MASUMA SHINICHI)
E-MAIL JZB03622@nifty.ne.jp
HOMAPAGE http://www.asahi-net.or.jp/~kd5s-msm/
http://www.asahi-net.or.jp/~kd5s-msm/pats.htm
http://member.nifty.ne.jp/MASUM


【委員の声】 其の五

「21世紀のジャズを担うスター誕生」

 未知の新鋭である。東司丘コレクションで鍛えたおかげで一向に怯みはしない。
開口一番、ハーマン・ミュートの響きに驚いた。お馴染みの剃刀の響きではない。
悪くいえばブレス洩れ、紗が掛かった唯一無二の響きだ。フリューゲルも空気が
思い切り吹き込まれている。優しさと温もりが醸成され、唄うようにバラードを
綴る本作に似つかわしい。クラシックに裏打ちされた確かな技巧の一端といえる。
スローからミディアムが中心で同工異曲に堕しかねないところ、創意工夫に富み、
瑞々しい感性とロマンチシズムに貫かれている。1曲1曲を云々してはいけない。
通しで聴いて流れに身を委ねるのが望ましい。豊かな音楽性は天敵クラシックの
ベースがあったればこそだろう。Chet Bakerを健康的にしたようなヴォーカルも
上々だ。(10)はファイト漲る快演で場違いだが、良い演奏には違いなく大目に見る。
27歳の新鋭がこれほど完成度の高い作品をものする、ジャズ本来の姿といいたい。
長身で二枚目、演奏良し唄良し、非凡な音楽性、また1人21世紀を担うスターが
誕生した。しかもドイツから出て来るとは。21世紀のジャズは期待してよい。

評点:★★★★☆

HAYASHI Tatsunori
site :JAZZ DISC SELECTION http://www.netq.or.jp/~user/tatsu/ email:tatsu@netq.or.jp


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