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page9 - 第 5期 第 84弾 1999年 3月 20日 発売

木住野佳子 / You Are So Beautiful GRP原盤 MVCJ-29002

木住野佳子 - piano
古野光昭 - bass
安ケ川大樹 - bass
市原康 - drums
岩瀬立飛 - drums


1998年12月16、17、18日
JVC青山スタジオにて録音



1. Israel (Johnny Carisi))
2. Tenderly (Jack Lawrence)
3. Autumn Leaves (Joseph Kosma)
4. The Days of Wine And Roses (Hnery mancini)
5. Waltz for Debby (Bill Evans)
6 .O Grande Amor (Antonio Carlos Jobin)
7. Here,There And Everywhere (John Lennon-Paul McCartney)
8. April in Paris (Vernon Duke)
9. Here's That Rainy Day (Jimmy Van Heusen)
10. Easy To Love (Cole Porter)
11. You Are So Beautiful (Billy Preston-Bruce Carleton Fisher)

木住野の名前は以前から何度も目や耳にしていたの
ですが、実際に聴いたのはこの作品が初めてでした。
私には妙な先入観があって、美形アレルギーというか、
特に日本人女性のジャズにおいてはそれが顕著に現
れてしまい、綺麗な方だというだけで聴かなくなってし
まう傾向にあります。そんな訳で今日まで聴いたことが
無かったのですが、つまらない先入観や偏見は自らを
矮小化するだけだなという反省を今日は感じました。
この瑞々しい演奏を聴いて、昔から感じていた邦人ジ
ャズへの偏見は綺麗に洗い流されました。世の中は
変化しているんですね。



なお、この企画は参加委員による共通のページとして、各委員のサイトでも
ご覧になれます。ページのデザインやレイアウトは各委員のサイトで異なると
思いますが、文章の内容は全く同一のものが紹介されます。

現委員のメンバー及びリンク先はゴールド・ディスク品質向上委員会のページをご覧下さい。

bb (bluesboy) / Mar.25.1999

【委員の声】 其の一

「今更ながらのファンになってしまった」

ビル・エヴァンスへのオマージュ的作品として紹介されている記事が
多く見受けられるのですが、私はこれが木住野の「独立宣言」だと受
け止めました。フェイヴァリット・ミュージシャンの愛奏曲をやりたくなる
のは誰しも共通の心理でしょうから、あえてそれを避けずに積極的に
作品に取り込むことで、それらは既にマテリアルでしかないという気
持ちを表現したのではないでしょうか。

それは(3)枯葉 や(8)パリの四月 といった大スタンダードをいずれも
ワン・アンド・オンリーの解釈で堂々と演奏している点からも感じ取
れます。ことさら「女流」を意識するでもなく、男勝りを意識するでも
なく、ごく自然なスタイルでかつ個性的な表現になっているところが
凄いなと感じました。

また(9)ヒアズ・ザット・レイニー・デイ などは軽妙なボサ・リズムに
乗って珠玉の演奏が聴けますが、スティープル・チェイスでのデュ
ーク・ジョーダンに匹敵する名演ではないでしょうか。ここでの音の
刻み方はもう最高に素晴らしいの一言です。

アルバムのハイライトはやはり圧倒的な存在感を示す(8)パリの四月
と、歌心が溢れんばかりの(11)ユー・アー・ソー・ビューティフル でしょ
うか。加えて個人的には(3)枯葉 の起伏の激しい演奏と(6)オ・グラン
ジ・アモール の可憐さに魅了されました。

しかしです、とっても気に入ったにも関わらず、果たしてゴールド・ディ
スクに相応しいかというと疑問は残ります。GDにはもうひとつ何か別
次元の決定的な要素が必要なのではないでしょうか。

あえて脱線を覚悟でここでひとつだけ提案させて欲しいことがあります。
毎月GDを選定する必要が果たしてあるのでしょうか。まして最近のGD
選定の根拠自体が多くの読者から疑問が持たれている事実をSJ誌は
どう受け止めているのでしょうか。

出来ることなら各選者毎のベスト・ディスクという形で発表するだけで
充分なのではと考えます。個々のライターが自分の価値観で選ぶベ
スト・ディスクにはそのライターの傾向を知る読者には納得のいくもの
があり非常に参考になります。年間のベスト・ディスクを選定する際も
個々のライター陣が個別に選んだ物を紹介して頂ければはるかにそ
の方が読者に親切だとも思います。

大変失礼な物言いになりますが「SJ誌選定」にかつての権威も信憑
性も失われつつある今それはとても必要なことなのではないでしょうか。

木住野さんの作品をクロス・レビューするコーナーにこういうことを書くの
は木住野さんに対しても失礼なことになってしまうので、非常に恐縮では
ありますけれど、どうしても発言したくなってしまいました。
すみません。


評点:★★★★☆

bb (bluesboy) . - Web Site 【apple Jam /Jazz PEOPLE】 / 【Blues PEOPLE


【委員の声】 其の二

「まさにタイトル通りの美しさ」

従来のニューヨーク録音から今回は初めて東京での収録となり、日本の
ジャズメンとのトリオ作品だ。過去3枚のアルバムがいずれも好評を博し
ていた木住野佳子だが、恥ずかしながら今までちゃんと聴いたことがな
かった。だから今までとの比較はできないが、予想外に(?)ジャケット
のイメージ通りの音楽が流れてきた。大体ゴツイ体のピアニスト(ピータ
ーソンとかチェスナットとか)は、意外と繊細な感じの弾き方をする人が
多いので。

曲によりベースとドラムが交代しているが、通して聴いて違和感を覚える
こともなく、統一された雰囲気が楽しめた。ベースの古野光昭は、私が生
で聴いた範囲では最も美しい音色を奏でるベーシストと思っている。木住
野の何とも言えない美しいタッチにピッタリだ。もう一人の安ヶ川も決して
それに劣らないいい音を出している。さすがに寺島さんも褒めているよう
に、録音もトリオのバランスがしっかりととれていて、誇張感のないサウン
ドが聴ける。

全体に極上のBGMとしても楽しめるが、適度な緊張感を保ったトリオの
やりとりを聴くのも興味深い。ビル・エヴァンスやキース・ジャレットを好き
な人には文句なくおすすめできる。

一曲を選ぶとすると、10曲目の”EasyToLove”。最後に無い物ねだり
だが、日本作品にありがちな生真面目さがやや感じられるので、良い意
味での”遊び心”のようなものが加わればいっそう魅力を増すだろう。


評点:★★★★

from : STEP 片桐 俊英  

e-mail:step@awa.or.jp
HomePage:http://www.awa.or.jp/home/step/)
 


【委員の声】 其の三

「やっぱりただ者ではないピアニスト」

初めて木住野佳子のアルバムを聴きました。ビル・エヴァンスの愛奏曲や
スタンダードを中心に、良い曲を集めています。1曲目「イスラエル」で始ま
るあたり、帯にもあるようにビル・エヴァンスの影響が強いのかと思いきや、
フレーズや盛り上げ方はもうちょっと豪快なイメージ。演奏もアレンジも我が
道を行く、という感じで、聴いていて気持ちよい。

もうあまりにも有名すぎてちょっとやそっとの演奏では驚かない3曲目「枯葉」
でも意表をついたテーマのアレンジ。テーマでのベースのアレンジも彼女の
指示でしょうか。ソロの部分も素晴らしい。ノッています。5曲目「ワルツ・フォ
ー・デビー」ではテーマなどで変拍子(3+3が2+3になっている)を絡めて
演奏しているあたりやっぱりただ者ではない。この曲でもなぜかしっかり盛り
上げてしまいます。

やや静かな4曲目、7曲目、11曲目、ボサノヴァ調の6、9曲目などもあって
アルバム全体のバランスがうまくとれている感じです。本来静かな曲でも盛り
上がることも。タイトル曲の11曲目は心に染み込んでいきます。

ソロのフレーズには無駄がない気がします。このアルバムは11曲あって46分
台の長さ。1曲あたり平均4分ほどと短く、贅肉を削ぎ落として曲を短くまとめて
いるからかも。BGMにして流して聴こうと思えばできますが、ちょっともったいな
いか。時々スリルのあるピアノのフレーズが入ったときに思わずニンマリ。ただ、
私としては、オリジナル曲が1曲もないのがちょっと残念。

このアルバムは3、5曲目で買い、でしょう。今回このアルバムを聴いてしまった
ばかりに、リーダー作を4枚全部揃えてしまうことに。4枚とも3千円超のアルバ
ムです。今月も財布が軽い!

評点:★★★★☆

工藤 一幸 

電子メール (1)kudokazu@mtf.biglobe.ne.jp (2) kudo.kazuyuki@pep.ne.jp

ホームページ事務所 http://www2s.biglobe.ne.jp/~kudotax/         
ジャズ http://club.pep.ne.jp/~kudo.kazuyuki/


【委員の声】 其の四

「玉磨かざれば光なし」

快調な出だしに期待が高まる。ライヴ感漲る(3)と(5)もノリのよさが活きた快演。
この後が気に入らない。ミディアム主体で編曲に意は用いられているが、冗長
でスリルとテンションを欠く。左手のタイミングがオン・タイムでヴォイシングが
重厚長大なせいだろう。いきおいベースとぶつかりがちで粒立ちよく聴こえな
い。これはスローからミディアムで、とくに気になる。的確な音の選択があって
こそ、真のグルーヴ感は生まれる。トリオのメカニズムについて研究が足りな
いようだ。

Lennon-McCartneyの(7)では良い方に作用したが、この辺りは彼女の根っ子
だろう。一皮むけた一作らしい。ようやく自分を発見した段階ということになる。
GDにするのは勝手だが、第一級ピアニスト、今を代表するトリオ作と思われて
は困る。輸入盤を聴くといい。もっと弾けて高い音楽性を備えたピアニストは案
外といる。アップの(1)(3)(5)(8)は4ツ星級。やはりスローからミディアムが課題
だと思う。

評点 :★★★☆

林 建紀 (現GD品質向上委員会長)

tatsunori hayashi web site : JAZZ DISC SELECTION
email : tatsu@netq.or.jp


【委員の声】 其の五

「ハイクオリティなピアノトリオアルバム。でもそれだけ」

この人のアルバムを聴くのは今回が初めてである。聴く前のイメージはどちらかといえば
繊細で脆弱な印象を抱いていたが、このアルバムはなかなか力強い作品に仕上がって
いると思う。

エバンスにゆかりの曲を集めるというと、どうしてもソフトになりがちだがそれだけではない
ところが頼もしい。中でも(2)が特に良い。(3)も原曲のもつイメージを壊すことなく、個性的
に仕上げており魅力的だ。ほとんどエバンズとイコールに語られる(5)は美しく、ボッサ調
の(6)(9)は心地よい。どの演奏もほど良くコンパクトまとまっており破錠がない。リズムセ
クションも控えめだが堅実そのもの。しかし、逆にいえばこの人の個性みたいなものは見
えてこなかった。

確かにテクニック的にも問題は無いし、アルバムもスムーズに流れていく。だがそれ以上
の何かが欲しかったように思う。特に前回、前々回と個性の塊みたいなアルバムを取り上
げてきただけになおさらその思いが強くなる。まあ、彼女は既に3枚のアルバムを出してい
るわけだし、この1枚だけで判断するのは危険かもしれないが。またビートルズナンバーを
取り上げるというのも安直に思えてならない。いい演奏ではあるけど。 

演奏自体やアルバムの完成度にはケチのつけようがないけど、その月を代表するGDで
ある以上は、それにプラスアルファの何かがなければいけないと思う。私にとってこのア
ルバムはただ単に出来の良いピアノトリオアルバムに過ぎなかった。ただし何度も書くが
アルバムのクオリティは高いので買った人をがっかりさせることはないだろうし、ピアノトリ
オ好きのファンには安心して薦められる一枚ではある。

評点:★★★☆  

増間 伸一(MASUMA SHINICHI)
E-MAIL JZB03622@nifty.ne.jp
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http://member.nifty.ne.jp/MASUMA


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