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page7 - 第 5期 第 82弾 1999年 1月 21日 発売

トゥルー・ブルー / アーチー・シェップ ヴィーナス原盤 TKCV-35067

1. Lonnie's Lament (J.Coltrane) 2.Everytime We Say Goodbye (C.Porter)
3. Time After Time (J.Styne) 4.All Or Nothing At All (J.Lawrence)
5. But Beautiful (J.Van Heusen) 6.Que Reste-t-il De Nos Amours (C.Trenet)
7. Blue Train (J.Coltrane) 8.A Little Surprise For The Lady (A.Shepp)
9. I Want To Talk About You (B.Eckstine)

Archie Shepp - tenor sax and vocal
John Hicks - piano
George Mraz - bass
Billy Drummond - drums

Produced by Tetuo Hara & Todd Barkan
Recording Engneer : Troy Halderson
Recorded at Clinton Studio"A"in N.Y. on September 13,1998


個人的な話で恐縮ですが、私がギターで参加している
ブルースバンドに、大のジャズ好きのサックス・プレイヤ
ーがいます。彼の口癖は、たったみっつのコードしか使
わないブルースなんてホントはあほらしくてやってられな
いのだそうです。なのに何故いつも一緒にやってるのか
ここでは置いといて、彼にとって素晴らしい音楽とは、非
常に複雑な構造をした、難解な音楽こそが一流の音楽な
んだそうです。そんな訳で我々のブルースはいつも彼の
演奏だけが非常に音数や装飾の多い、ブルースとはほ
ど遠い世界になってしまうという側面を持っています。

今月、このアーチー・シェップを聴いて、その彼にこのCDを
聴いて欲しいなと思ってしまいました。音楽には常に演奏
者の心がこもっていて欲しい。難解で技巧的なフレーズが
吹けるからエライのではなく、その演奏が自分だけでなく
聴く者にも何らかのエモーションを呼び起こすから素晴らし
いんだということに気付いて貰うために・・・。

なお、この企画は参加委員による共通のページとして、
各委員のサイトでもご覧になれます。ページのデザイン
やレイアウトは各委員のサイトで異なると思いますが、
文章の内容は全く同一のものが紹介されます。

現委員のメンバー及びリンク先はゴールド・ディスク品質向上委員会のページをご覧下さい。

bb / Jan.29.1999

【委員の声】 其の一

「心底感動してしまった・・」

(1)の出だし、三つの音だけで心を抉られてしまう。
そのあとの、とぎれとぎれのフレーズがさらに心臓
鷲掴み状態でその直後、慟哭にも似た一瞬の激
しいブロウで今度は脳天まで直撃されてしまいま
した。もう、言葉もない状態で何度聴いただろう。
最後の一音まで気持ちを抜かない力演です。

(8)のオリジナル以外はJ・コルトレーンの曲、また
はコルトレーンの愛奏曲を中心に構成されています
が、それを冠にする気は無かったようです。トレーン
の演奏と比較なんかしないで黙って俺のプレイを聴
いてくれということでしょうか。淡々とした展開の中
にもシェップ特有の激しい情念がほとばしり出る瞬
間がとてもリアルでかつスピリチュアルです。

最も感動した曲は先の(1)とトレーンの(7)。
特に(7)はトレーンの代表曲のひとつ。この曲
を吹くのには気持ち的にある種の高揚感があ
ったと思うのですが、ここでは完璧なまでに自
分のフィールドで吹いてます。このバップ・チュ
ーンをここまでこってりと、黒光りするくらいに
吹けるのは恐らくシェップを除いては誰もいな
いのではないでしょうか。

サイドメンも全員がよくまとまっていて、ジョン・
ヒックスの腰の入ったピアノは、息の合ったサ
ポートぶりでこの作品の価値を高めたと思いま
す。ムラツの粘着性のあるボトム・キープもシェ
ップに相応しいし、dsのビリー・ドラモンドという
人を私はよく知りませんが、好きになりました。


評点:★★★★★

bb . - Web Site 【apple Jam /Jazz PEOPLE】 / 【Blues PEOPLE


【委員の声】 其の二

「聴いていてゾクゾクするサックス」

ジョン・コルトレーンの演奏した曲をアルバムの
半分以上にわたって取り上げ、勝負に出ていま
す。比較的ゆったりした曲が多く、全体的に渋い
イメージ。

わざとルーズに吹いてみたり息を漏らしたりして
独特な音の枯らし方が何とも言えず味があり、バ
ラードの曲でも時折乱暴なトーンでアウトしたよう
なフレーズも出てきてスリルが楽しめ、しかも歌心
もけっこうあるという、聴いていてゾクゾクするサッ
クス。

ヴィーナスの、例によって全体的に音作りが熱い
感じ。ここでは端正なジョージ・ムラーツのベース
なので、全体のバランスがうまくとれていると思い
ます。 

時々はさみこまれるフレーズにジョン・コルトレーン
の影を見ましたが、下記のアルバムと聴き比べて
みると、影響は感じられこそすれ、音も1オクターブ
低い音を選択していることが多く、やはり独特な豪
快な世界。特に7曲目の「ブルー・トレイン」を聴い
てみるとその違いが分かりやすいかも。

6曲目では何とヴォーカルまで披露していて、渋い
んだなあ、これが。8曲目のオリジナルも、まだまだ
この路線もいいなあという印象。久々にいいアルバ
ムに出会えて良かったと思います。ピアニストにもっ
と冒険的な人選があっても良かったかな、という気も
ちょっとしますけれど。  

ご参考までに、「トゥルー・ブルー」で演奏された曲の
うち、ジョン・コルトレーンのアルバムで聴けるものを
リストアップしましたので、聴き比べてみると面白い
かと思います。

1曲目 Lonnie's Lament 「アフロ・ブルー・インプレ
ッション」'63年(Pablo)、「クレセント」'64年(Impulse)

2曲目 Everytime We Say Goodbye 「マイ・フェイヴァ
リット・シングス」'60年(Atlantic)、「ヨーロピアン・イン
プレッションズ」'61年(Bandstand)、「ライヴ・イン・オー
ストリア」 '62年(Stash)、「ザ・パリ・コンサート」'63年
(Pablo)

3曲目 Time After Time 「スターダスト」'58年(Prestige)

4曲目 All Or Nothing At All 「バラード」'62年(Impulse)

7曲目 Blue Train 「ブルー・トレイン」'57年(Blue Note)、
「ジ・ウルティメイト・ブルー・トレイン」'57年(Blue Note)ある
いは「ブルー・トレイルズ」'57年(Blue Note)どちらもブルー・
トレインの別テイク(両方とも同じ)。「ヨーロピアン・インプレッ
ションズ」 '61年(Bandstand)、「ブルー・コルトレーン・ブル
ー」'61年(Jimco)この2つは同テイクのような気がします。
何とエリック・ドルフィーも加わっています。

9曲目I Want To Talk About You 「ソウルトレーン」'58年
(Prestige)、「ブルー・コルトレーン・ブルー」'61年(Jimco)、
「アフロ・ブルー・インプレッション」'63年(Pablo)、「ザ・ヨーロ
ピアン・ツアー」'63年(Pablo)、「ザ・クラシック・クァルテット1
963」'63年(Bandstand)、「セルフレスネス」'63年(Impulse)
、「ライヴ・アット・バードランド」'63年(Impulse)


評点:★★★★★


工藤 一幸 

電子メール(1)   kudokazu@mtf.biglobe.ne.jp (2) kudo.kazuyuki@pep.ne.jp

ホームページ事務所 http://www2s.biglobe.ne.jp/~kudotax/         
ジャズ http://club.pep.ne.jp/~kudo.kazuyuki/


【委員の声】 其の三

「絶好調!シェップとヴィーナス・レコード」

 先月のスティーブ・キューンに続いてまたもやヴィーナスレコードだ。
分厚い骨太の録音はキューンにはちょっと合わない感があったが、
このシェップにはピッタリとはまっている。
冒頭のサックスがシェップ以外にはない音で響き渡る。
相変わらずムラーツのベースもどっしりとして素晴らしい。
もちろんジョン・ヒックスもビリー・ドラモンドも好サポートだ。
一曲ずつどうこう言う必要を感じさせないほどの充実ぶりで、
全編を通して自信と余裕に満ちあふれたプレイに聞こえる。
それにジャケットデザインも良い。
最近なかなかJAZZを感じさせるものが少ないが、
その点ヴィーナスの一連の作品は良い味を出している。
個人的には以前の”Blue Ballads”の退廃的な匂いに惹かれるが、
本作のあっさりした感じもまた良い。

評点:★★★★☆

from : STEP 片桐 俊英  

e-mail:step@awa.or.jp
HomePage:http://www.awa.or.jp/home/step/)


【委員の声】 其の四

「シェップにしか描けない音世界」

シェップは私のフェイバリット・ジャズメンの一人だが、
彼の新譜を購入するのは91年の「BLUES」以来で
ある。ここ3作のバラード集には何故か食指が伸びな
かった。なぜだろう。おそらく何となく内容が想像でき
てしまったからだろう。

しかし本作を聴いてみて、それが間違いであったと後
悔している。シェップは冒頭の一音で私の想像など吹
き飛ばしてしまった。とにかく深い。重い。渋い。ザラザ
ラとして濁ったサックスの音色。流暢でも流麗でも饒舌
でもなく、うめくようなすすり泣くようなたどたどしいフレ
ーズ。どれもまさしくシェップそのものではないか。

BやCのようなリラックスした曲調でもそれは変わらな
い。ADHのようなバラードも美しさやオシャレなサウ
ンドとは無縁の世界である。感極まったかのように(?)
時折聴かせるフリーキーな咆哮。これがなけりゃシェップ
じゃない。

圧巻はF。テーマを聴くとどうしてももう二管欲しくなるが、
聴き進んでいくうちに、すっかりシェップの世界にハマって
いる。この曲はもっともリズムセクション、特にドラモンドが
凄まじいパワーを見せつけるが、それさえも圧倒的存在
感でねじ伏せてみせるシェップ。

Gは淡々とした展開が続くがサックスの音を聴いている
だけで十分満足だ。Eで聴かせるボーカルも決して上手
くないが、スゴイ説得力で迫ってくる。 全体的にヒックス
が大人し過ぎる気がするが、シェップの前では仕方ある
まい。

万人に勧められる内容ではないが、教科書ジャズや美し
いだけのジャズに飽きた方、このダーティな世界を是非
体験して欲しい。


評点 :★★★★☆

増間 伸一(MASUMA SHINICHI)
E-MAIL JZB03622@nifty.ne.jp
HOMAPAGE http://www.asahi-net.or.jp/~kd5s-msm/
http://www.asahi-net.or.jp/~kd5s-msm/pats.htm
http://member.nifty.ne.jp/MASUMA


【委員の声】 其の五

「攻略不能なれど世評高し」

誰にでも難攻不落の名盤はある。筆者にとって、本作もその
仲間入りを果した。SJ誌のレビューはともかく、次々届く委員の
レビューを読むにつれ、他人事を 通り越し唸ってしまった。
不感症を疑い、縦になり横になり、朝に昼に夕に夜に、音量を上
げ音量を下げ、何度かトライしたが評価の所以は終ぞ解らなかっ
た。 

一体に、昔から彼の演奏には何処までが魂の奥底から湧き出た
ものやら訝しく 思える処があった。それでも昔の演奏にはそんな
疑念を一蹴する力が漲っていた。

転向後20年を経て、もはや同一
人物の演奏として云々すること自体見当違いかも 知れないが、
彼らしさが刻印されているから始末が悪い。益々演技力が強まっ
た。フリーキー・トーン然り、ブレス洩れ然り。個性的なら何でもよい
とは思わない。世に異様な美しさというものが存在することは事実
だが、歪な物とは違うだろう。

個性の御旗の下に歪な演奏を得々と披瀝するしたり顔が窺える。
見掛けと裏腹に 生臭い割に冴えと閃きに乏しい。退行の隠蔽を円
熟と取り違えてはいけない。 

@はドス黒い怪演。ADは超厚化粧。BCは比較的まともなダンモ
だが月並み。Eはペダンティック。Fが超弩級の力演。GHはストレ
ートな吹奏の好演〜快演。筆者のファンには悪いが(いればだが)F@
の2曲でお薦めするわけにはいかない。

一般のビジターは筆者の妄言に惑わされず他の委員の評価を参考に
されたい。

評点:★★★☆  

林 建紀 (現GD品質向上委員会長)

tatsunori hayashi web site : JAZZ DISC SELECTION
email : tatsu@netq.or.jp


■ ご意見お待ちしております。

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