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page6 - 第 5期 第 80弾 1998年 12月 23日 発売

忍び寄る恋 / スティーヴ・キューン ヴィーナス原盤 TKCV-35062

1. No Problem (D.Jordan) 2.Land Of The Living Dead (A.Gafa)
3. Sunny (B.Hebb) 4.Love Walked In (G.Gershwin)
5. Saharan (S.Kuhn) 6.Prelude To A kiss (D.Ellington)
7. All Alone (I.Berlin) 8.Autumn Leaves (J.Kosma)
9. Lines (V.Storaas) 10.You've Changed (C.Porter)


Steve Kuhn- piano
Buster Williams- bass
Bill Stewart- drums

Produced by Tetuo Hara & Todd Barkan
Recording Engneer : Troy Halderson
Recorded at Clinton Studio"A"in N.Y. on September 11&12,1998

皆さん、明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。

さて今回はGD委員会特別企画として館山の「バードランド」
にて座談会形式で行われました。あいにく私は都合により
参加出来なかったのですが、当日参加された4名の委員の
皆さんの発言をまとめたものを頂きましたのでそれを転載致
しました。

こうやってみると、なにやら誌上討論みたいで新鮮な感じが
しますね。その場の雰囲気も伝わってきます。
なお、私自身の分は従来形式にて座談会のレポートに続けて
別個に掲載してあります。

なお、この企画は参加委員による共通のページとして、
各委員のサイトでもご覧になれます。ページのデザイン
やレイアウトは各委員のサイトで異なると思いますが、
文章の内容は全く同一のものが紹介されます。

現委員のメンバー及びリンク先はゴールド・ディスク品質向上委員会のページをご覧下さい。

bb 1/1/1999

第6回「ゴールドディスクを斬る」 '98年12月26日

** スティーヴ・キューン滅多切りに会う **

千葉県千倉町のペンション「バードランド」にて、第6回目の「ゴールドディスクを斬る」を、
「バードランド」の本格的オーディオシステムを使用して座談会形式で行いました。


こんばんは、油井正一です。(笑)違うか。
「ゴールド・ディスクを斬る」6回目にして初めて皆さんと
お目にかかったわけですね。今回はメッタ斬りになる可能性
の高いCDだと私は思うんですけれど。(笑)

1曲目は「危険な関係のブルース」。正直言ってスティーヴ・
キューンというのは、一番新しいのでもECMの「エクスタシ
ー」しか聴いたことがなくて、これ聴いて驚いたのはいつの
間に転向したんだと(笑)。

これブラインド・フォールドでキューンって当てる人は先ずいない
だろうね。前作や前々作を聴いている人なら判るんだろうけれども。
ということで、これが今の俺だという強烈な主張のある演奏です。

フレーズは淀みないし、猛烈なドライヴ感だし。ただ、よく聴くと何か
底が浅いんだよね。(笑)細かなフレーズを積み重ねてタラタラ弾き
流しているだけで、ああココ、コレコレという美味しいフレーズが出て
こないんだ。まあ、予測可能な展開で、4つ星止まりでしょう。

増間 
私もこれを最初に聴いたときはちょっとびっくりしました。
僕もあまりスティーヴ・キューンって聴いたことはないんですけれど、
イメージとしてはどっちかというとECMっぽい感じのイメージが頭に
あったんです。これを最初車に乗っているときに聴いたんですけれど、
いきなり車のスピードが上がってしまうような感じで、すごいノリが良く
てびっくりしました。

今日はこういう立派なシステムで聴いてみたんですが、確かに勢いは
あるんですけれども、途中から少し飽きて、もういいやという感じにもな
ってきました。イメージ的には覆すものはあったんですけれども、僕は途
中からは苦しかったです。

片桐 
私もあまりスティーヴ・キューンを聴いたことはなかったんですけれど、
ECMっていうかちょっと線の細いっていうようなイメージしかなかったん
です。確かにこの一発目は、おお、何だこれは、という感じでしたね。
お二人と同じような印象を持ちました。

 
全曲こんな感じだったら体力持ちませんよ。(笑)

片桐 
ライヴだとこういう曲がバンバンきてもいいんですが...。

工藤 
録音がけっこう熱い録音っていうのか、ヴィーナスでいうところの
ハイパーマグナムサウンドっていうんらしいんですけれど、それは
それで盛り上がっていいかと思うんですね。ただ、個人的に許せな
いのは、今スティーヴ・キューンっていうのはいろんな所でいろんな
録音していて多面性があるようなんですけれども、やっぱりECMラ
イクな音であってほしかったということなんですね。

しかも一発目からデューク・ジョーダンの定番の「危険な関係のブル
ース」を元気いっぱいやられた日には、というのがくすぶっていて、
今回のアルバムについてはちょっとその偏見に基づいて話していき
たいかな、と思っています。

次に2曲目の「ランド・オブ・ザ・リヴィング・デッド」にいきましょう。
雰囲気は好みのタイプなんですね。こういうのいいなあ、と思うん
ですけれど。でも人選について、バスター・ウィリアムスのベースが
、ちょっと骨太過ぎるなあ、っていうのが気になっていて残念です。
ドラムの人選はいいと思うんですけれどもね。この曲の路線で一枚
できないかなあという感じはあります。

片桐 
この曲はベース中心の曲だなっていう印象を受けました。
私にはちょっと重く、苦手なタイプの曲だなっていう印象を受けたん
ですけれど。

ところで最初の唸り声ってキューンなんですか?(笑)あの、なんと
も言えないあの唸りがちょっと...。私キース・ジャレットの唸りは
けっこう好きなんですけど(笑)。ちょっと違和感を感じました。

「ロミオとジュリエット」のテーマに似たようなメロディが出てきて、
部分的には好きなところもありました。

増間 
僕はキューンのイメージとぴったり、この曲だったら合ってるって
思います。1曲目のアグレッシヴな曲の後にこのような穏やかな
感じの曲がくるのはほっとします。バスター・ウィリアムスがこうい
う演奏に合っているかどうかというのは疑問ですけれど。

 
この曲はキューンらしくなったとは思うんですけれど、問題はやっ
ぱり、私の記憶からすると、角が取れて、ヒリヒリするようなリリシ
ズムが薄れていると思います。

それから皆さんおっしゃっているバスター・ウイリアムスなんですけれ
ど、こんな下手な人じゃなかったと思います。(笑)もっと上手かったと
思う。このCD全部に通ずることだけど、今のロン・カーターと変わらな
いぐらい下手なんだよ。(爆笑)ピッチは臭いし、音の選択もおかしい。

3曲目は「サニー」。意表をついたテンポですね。サニーといえばソニー
・クリス。でも私、ソニー・クリスは大嫌いです。(笑)サニーで一番好き
なのはパット・マルティーノ。これは二番手ぐらいに来るでしょう。ところ
が、もっとも彼らしくない、恐るべくブルージーです。困ったことに本作の
ハイライトの一つじゃないか。このねちっこさは彼らしくないなぁー。
名前を見ないで聴いたら、私4つ星半をつけます。

増間 
私は最初CDで聴いたときにこの曲はあまり好きになれなかった曲なん
ですけれども。

 
それがあなたと私との違いです。(笑)

増間 
ただ、ここで聴いてみますと、印象が変わりまして、特にソロの途中あたり
からモワっと熱気がこもってくるあたりが、ハチャメチャにはならないんだけ
ど内にこもるような熱気って言うんですかね、そういうのを感じて、最初の
印象よりだいぶこの曲を気に入るようになりました。

片桐 
この曲は6分8秒っていうタイムでちょっとびっくりしたんですけれど、聴い
ている感じでは3分か4分ぐらいかな、と思っていたんです。演奏の時間の
長さを感じさせないっていうことは、けっこう良かったんだな、と思います。
ブルースは大好きなんで、このテの曲はけっこういいです。

工藤 
実はこの曲は軽快なテンポで8ビートでやって欲しかった曲なんですけれど。
あと、果たしてキューンにブルース心はあるのかって言うと、やっぱりあるん
だろうなあ、って思うんですが、何だか、知り合った女の子の意外な側面が
見えてきちゃったっていう感じで(笑)、あらまあ、どうしましょうっていうのが
本当の気持ちです。

そして4曲目の「忍びよる恋」ですか。いいですね。先入観はさておき、
という形ではあるんですけれど、よく歌っているし、ノッている、という感
じで。時折ビル・スチュアートのドラムが前面に出る場面があって、そこ
のところがけっこう気持ち良くて、この曲は好きです。

片桐 
今まで聴いてきた曲の中で一番トリオ演奏らしいと感じましたね。
ただ、エンディングがしつこいっていうか、もうちょっとスパッと決め
てくれれば、もう少しいい気持ちだったんですけれど。ベースは私、
音程がどうとかいうのは良く分からないんですけれど、確かに今イ
チはずまないっていうのか、気持ちが良くないっていう感じは受け
ました。

 
音が合ってないの。だから乗らないんです。

増間 
私もこの曲はアルバムの中でもかなり好きです。同じアップテンポ
なんですけれど、1曲目みたいに無理に力が入ってないっていうん
ですか、リラックスした感じで。

でも、バスター・ウィリアムスのベースソロがいきなりきて、しかも長
いっていうのはいやですね。最後の方にちょこっとあればいいかなっ
ていう気はするんですけれど。

 
えーっと、この4曲目がタイトル曲ですよね。アルバム・タイトルにふさ
わしい、いい演奏だと思います。ちょっとビル・エヴァンス風だよね。
エヴァンスのノリノリの演奏って、だいたいこういう感じじゃないですか。
いわゆる快適なスインガーというか。淀みなくよく唄っている。間違いな
くこのCDのベスト・トラックでしょう。

問題はベース・ソロと最後にフォー・バース・チェンジが出てきますよね。
あれで流れが途切れちゃう。全編ワンマンで通して欲しかったな。それ
が残念だけど、4つ星半ぐらいは行くんじゃないかな。ただ、やっぱり彼
らしくない演奏には違いない。(笑)

5曲目の「サハラン」です。えーっと、これはこのCDで最もキューンらしい
トラックじゃないですか。彼の美意識が溢れかえっている演奏だと思います。
ところが残念ながら、何か突き刺さってこないんだな、昔のものと違って。
やっぱり角が取れているんでしょう。これは私は3ツ星半だな。

増間 
やはりこれがキューンの僕の中でのイメージと一番一致する曲です。
淡々と捕らえどころがないまま進んでいく感じで、気がつくと終わって
いる感じの曲なんですけれども、こういう曲がアルバムの真中に置い
てあるのはいいんじゃないかと思います。

片桐 
2曲目と共通した曲想の曲なんですけれども、ピアノの音が抜けて
いないというか、もうちょっと高いところがきれいにスッと出てくれば、
美しさっていうのが出るような気がするんですが...。

工藤 
曲目のリストを見てみると、この曲だけ唯一のオリジナルなんですね。
このアルバムには有名な曲ばかり並んでいて、何となくこの5曲目で、
俺、本当はこんな曲をやりたかったんだよ、っていうところを見せている
のかなと、考え過ぎかもしれないけれど、感じました。

捕らえどころがないって言えば捕らえどころがないかもしれないけれど、
フレーズ自体はものすごくきれいなフレーズがところどころにあって、コ
ード進行も印象的なんですね。好きな曲です。

片桐 
6曲目の「キスへのプレリュード」は、印象が薄いんですけれども、ドラム
が中心の曲かなっていう気はするんですけれども。最初は「カーニバルの
朝」のような感じで始まって、そのノリがなかなか良くて。

ただ途中で変化してきたあたりから何か、ベースがちょっと出過ぎかなって
いう気はしたんですけれど...。この曲は、まあまあ及第点だと思います。

 
じゃまにならない。(笑)

工藤 
メロディもいいし、ボサノバで軽快で、ソロの部分もノッているって言うんです
かね、なかなかいいメロディを奏でている部分があるんで、何か心地よく1曲
が終わっちゃったなっていう部分があるんですね。リズムが変わったっていう
せいなのかも知れませんけれど、僕はこういうリズムとメロディには弱いです。

 
最初のテーマのところの右手のタイム感覚が、やっぱり彼らしいって言うか、
独特なんですよね、あのズレ方がね。途中から次第に熱気を帯びて結構な
大団円を迎えるんじゃないかなと思っていたら、何の変哲もないプレイで終
わっちゃった。何だか詐欺みたいな演奏です(笑)。

元ネタというか、これに非常に近いプレイを思い出した。リチャード・ワイアン
ズの「リユナイテッド」(クリスクロス)で、サイドメンはこのサイドメンよりよっ
ぽど上出来、ピーター・ワシントンとケニー・ワシントン。同じようにボサノバ
でやっていたと記憶しています。でもこのCDは売り飛ばしたから(笑)、
確かじゃない。

ワイアンズみたいに世界の小さなプレイで、ワイアンズがこんなプレイをする
のは大いに許してしかるべきなんだけど、キューンがやるのはちょっと違うん
じゃないかなという気がします。

増間 
ボサノバ調の曲ということで、この曲があるがためにこのアルバムがバラエ
ティに富んでいるという印象を与えていると思います。これといって耳に残る
部分というのがないんですが、ソロの部分もシンプルというか誰が聴いても
分かりやすい気がします。そういう意味でもアルバムの中ではアクセントに
なっている曲ではないかな、と思います。

それから7曲目の「オール・アローン」。この曲も私のキューンのイメージから
かけ離れていますけれど、このアルバムの中では一番好きです。すごい躍動
感があって、一気に聴かせるという感じで、途中ドラムのビル・スチュワートが
フィーチャーされる部分があるんですけれど、そこもコンパクトにまとまってて、
曲の流れを止めるようなものでもなかったので、全体が一気に聴きとおせまし
て、この曲は私の好みです。

 
これもノリノリの快演ですね。4曲目もそうですが、大スタンダードの出来が
いいですね。歌心に溢れているし、ああ本当に、これがキューンでなかった
らなって(笑)、そう思える出来の良さですね。

工藤 
この曲は何も考えずに楽しめました。というわけで、この曲は何も考えずに
これだけっていうことで...。(笑)

片桐 
私も楽しいライヴを聴いているようなイメージで、余分なことを考えずにどん
どん終わったっていう感じです。ベースも割と気持ち良く聴けました。8曲目
の「枯葉」については、恥ずかしながら、私は最初にこれを聴いたときに「枯
葉」と分かるまでにかなりかかりました。かなりひねったって言うんですかね。

前にデヴィッド・S・ウェアのあのすごい「枯葉」があって、あれにちょっと似た
部分を感じたんですけれど、これが良いのか悪いのかというと、もう少し聴か
ないと...。ただ、ありきたりじゃないということを非常に感じました。

工藤 
何となく後半で曲名は分かったんですけれど、すごいのは、最後まで3拍子
で通していること。普通は盛り上げる部分はやるとすれば途中から4拍子に
なっちゃうんですよね。そこで勝負しているのがすごいなあっていう感じがし
たんですよね。イントロについても、よそではあまりないような感じなのでいい
と思います。私は、この曲はマルです。

 
これもビートはボッサですよね。ということは3拍子というより8分の6ですよね。

工藤 
そうだと思います。

 
で、このCDっていうのは曲想が3分されるんですけど、
これはエヴァンス風ですね。ただ、随所でエヴァンスだ
ったら決して弾かないようなフレーズは飛び出します。

カラー的にはエヴァンス色が若干勝っているかなという
気がします。これね、多分、レコード大賞で編曲賞ぐら
いは取れるでしょう。ものの見事に別の曲ですよ。これ
は4ツ星ぐらいかな。

増間 
私も、全然「枯葉」って気がつきませんでした。かなりデフォルメって
言うんですかね、変えられた「枯葉」になってますけども、あんまり
僕はこういうのになじめないんで、もう少し原曲の印象を残してほし
かったなという気はします。

 
この曲ね、節がすごくしつこいじゃない。
アドリブが様になりづらい難曲のうちに入ると思うんだけど。
名演て少ないじゃない。「サムシン・エルス」(キャノンボール
・アダレイ)と「ポートレイト・イン・ジャズ」(ビル・エヴァンス)
ぐらいしかないでしょう。あとはイヴ・モンタンぐらいか。(笑)

増間 
9曲目の「ラインズ」には、雰囲気的にもキューン的というか、
彼のイメージにマッチした曲だと思います。メロディもその割に
はすごく分かりやすくて、親しみやすい感じはしました。

ベースのソロがいきなり出てくるのはあまり賛成できないんで
すけど、ちょっとそこで少しぶち壊しにされたかのような気分です。
その後でキューンがそのマイナス点を取り返すかのような感じで
ソロをガーッと弾いてくれて、後味は良かったです。

林 
これも2、5曲目と同じキューンらしいトラックですね。
いわゆる自己陶酔型なのか自己没入型なのか、そう
いうプレイだと思います。メロディが非常に美しい。
残念ながらもう一押し足りないなという感はありますが。

工藤 
すごいきれいな曲だったんですけれども、どこが良かった
かっていうと、延々続くアルペジオの繰り返しで、そこがす
ごく美しく聴けたというのがこの曲の良いところ。私はこうい
うジャズらしからぬところが好きです。ただ、ベースとのアン
バランスがぬぐえないって言うのが、今ひとつ残念だったん
ですけれど。私はこの曲だけ何回も聴き返したい感じです。

片桐 
私はこの曲はちょっと眠くなりました。むしろ私は繰り返しが
むしろ退屈に聞こえちゃったんですけれど。まあ、メロディ自体
は非常にきれいに流れているんですけれども。

次に最後の10曲目「ユーブ・チェンジド」になりますが、一番
ピアノの音がきれいに聞こえました。トリオとしてもまとまりも
けっこう良かったように思います。ベースのソロもそんなに悪い
ようには思えません。この曲はアルバム中1、2番でしょう。

工藤 
親しみやすい曲だなあ、ていう感じは強かったです。でも、ドラ
ムは良かったんですけれどもベースはちょっと...というのが
ここでもあります。

林 
これも6曲目といっしょで、やっぱりワイアンズに近いなという
気がします。ブルージーでこぎれいで、こじんまりとまとまって
います。簡単に言ってしまえばB級トリオの典型作です。

別に彼が弾く必然性はありません。非常に心地よい。
こういうタイプのプレイが好きな方はワイアンズを是非
聴いてください。

増間 
非常にリラックスしてスインギーな感じで、アルバムの
最後に持っていくにはなかなかハマッた曲ではないかと。
こういう曲でアルバムが終わるのは僕は大好きです。
曲としてはとりたててこれだというものはないんですけれど、
気楽に聴けて良かったです。

工藤 
それではアルバム全体のまとめにいきましょうか。
早い者勝ちで、後から話すほうが言いたいことを先
に言われてしまうんで(笑)私から(笑)。

キューンらしさを追い求めていくと、このアルバムは
ちょっと違うかな、という気が何となく心の片隅にあり
まして、アルバムとしてはすごくいいな、って感じはあ
るんですけれど、普段街を歩いていて、買うか買わな
いかというと、普通のジャズと言ってしまえばそうなん
で、やっぱり私にとっては買う必要がないアルバムだ
な、と思います。評価でいけば星4つはいくと思うので
すけれど。

片桐 
でも買っちゃったんでしょう。(笑)

工藤 
彼のECMの96年作「リメンバリング・トモロウ」の方が、
まあ、ECMですからアルバムとしてはちょっと聴く人を選
ぶアルバムかもしれないですけれど、彼らしさがふんだん
に出ていると思います。私は、キューンならこっちのアルバ
ムを押します。

片桐 
私は最初に聴いたときは星3つ半かなと思ったのですが、
今1曲ずつじっくり聴いたら4つ星かなと。ただ、アルバム
を通して聴くと、構成がもうちょっと工夫があれば聴きばえ
がするというかね、そんな風に感じました。自分で買うかど
うかというのは非常に難しいんですけれど、毎日かけること
はないと思いますが、1週間に1回ぐらいはきっとかけると
思います。(笑)

増間 
アルバム全体として非常にバラエティに富んでいて、同じよ
うなタイプの曲が続かないように考えて配置されていると思
うんですけれども、そう言う意味では聴いていて飽きさせない
内容だったと思います。

ただ、工藤さんのようにキューンに対してあるイメージというか、
期待を持っている方にとっては、ちょっと首をひねってしまうんで
はないかなあ、と思います。僕個人としては、好きな曲の方が多
かったですし、おおむね平均以上です。ベースのミスマッチという
のは皆さん感じてらっしゃるのでしょうけれども、それを差し引いて
も、おおむね3つ星半に近い4つ星です。

林 
私の分類だと1、3、6、7、10曲目がハードバップ、4、8曲目が
ビル・エヴァンス風、2、5、9曲目はキューン風です。三分されて、
要するに統一感に欠ける。曲毎の採点は、4つ星半が3曲、4つ星
が4曲、3つ星半が3曲で、なるほど平均すると4つ星になるんです
が、バラツキがあるというか粒が揃っていない。ちょっと残念だな。

ワクワクするような躍動感とスピード感を見せた1、7曲目、エヴァンス
風の歌心を見せた4、8曲目がいいですね。一方でキューンらしいトラッ
クは、確かに彼らしいんだけど、特に傑出した出来ではないと思います。

冒頭で言った、いつの間に転向したんだ、驚いちゃった(笑)という話なん
ですが、これは実は驚くに当らないんですね。ジャズメンで名前の出た人
なら皆ストレート・アヘッドから出発して、その先に個性を確立していくわけ
ですから。

彼みたいに、希な個性を確立した人が何故それを放擲してここに戻って来た
のか、本当に解せないですね。レーベルのせいなのか、プロデューサーのせ
いなのか。キューンの作品である必然性が感じられない。それから、ゴールド
・ディスクということは98年を代表するアルバムの一枚ということになるのでし
ょうが、とてもそうは思えないですね。

結論としては、彼の作品ということを気にかけなければ、まずまずのピアノ
トリオ作だということになると思います。彼の作品としての採点は非常に難
しい。匿名のピアニストの作品としてなら3つ星半に近い4つ星ということに
なると思います。

あと、このアルバムの一番素晴らしいのはジャケットですね。今時こういう
ヌードは珍しい。子供の頃に隠れて見ていたレコードのカタログね。こういう
のが溢れていた。ラテンとか、タンゴとか、ムード音楽とか。ところでこのア
ルバムの邦題って、何でしたっけ?「忍びよる恋」? 石原裕次郎じゃある
まいに、何たるセンスだ!(笑)

工藤 
4人とも全員4つ星ということで、今回は評価にバラツキがなかったですね。

林 
また、いずれどこかで第2回のオフ会をやりましょう。


委員の声 (白岩 当日欠席のため別枠にて)

「ジャズ界にも異常気象現象?」

実はGD委員会なるものに参加させて貰ってから、
今回ほどその対象作品の発売を心待ちにしたこと
は無かった。それは至極単純な理由からで、単に
キューンがバップチューンの「危険な関係」をやって
るという興味からだったのですが、実際に聴いてみて
今度は初めて素直に五つ星が脳裏に点滅した次第です。

かなりのスピードで展開される「危険な関係」の
テーマ部分を聴いた瞬間、私がそれまでキューン
に抱いていたイメージ・・・それは一面、雪の大地
であったり、そびえ立つ氷山であったりしたものが
溶解して緑の平原にとって変わってしまいました。
食わず嫌いで、キューンを殆どまともに聴いたことが
ないので今、具体的には比較できないのですが、
このドライブ感は私にとって好ましい部類のものです。

(2)も胸がきゅんとするようなドラマチックな導入部から
ややもすると陳腐さと紙一重のマイナーのメロディが
ここでははっとするほど切ない。オリジナルの(5)もシン
プルなテーマの醸し出す情景がモノクロの仏映画のよ
うでこの陰影はあたかもジャズに於けるドビュッシーと
いった感じ。私の大好きな曲(10)では、これが本来の
キューンの持ち味なのかなと思える、あまりベタベタと
しない、さらっとした質感が、なんだかとても上品で、
これはこれでとても気にいってしましました。

ボトムをキープするバスター・ウイリアムスのベース
は全編にわたり、このアルバムの性格を決定づける
大きな要素のひとつで、彼のベースがあってこそ、
キューンのプレイが緑の大地化したのだと、個人的
には感じてます。

ということで、諸手を挙げて今回は最高点の献上です。

評点:★★★★★

bb - Web Site 【apple Jam /Jazz PEOPLE】 / 【Blues PEOPLE


■ ご意見お待ちしております。

如何でしたか?
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