思いつきSSログ保管庫
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雑記掲載SS保管庫 2013年第3期 9月29日 夜明け前より瑠璃色なMoonlight Cradle sideshortstory フィーナ誕生日記念 「本当のパーティー」 9月24日 大図書館の羊飼い SSS”半袖が寒い朝” 9月23日 FORTUNE ARTERIAL SSS”変わらぬもの、変わりゆくもの” 9月23日 大図書館の羊飼い SSS”変わらぬもの、変わりゆくもの” 9月19日 大図書館の羊飼い sideshortstory「約束の証」 8月23日 FORTUNE ARTERIAL SSS”処暑の夜” 8月17日 夜明け前より瑠璃色な Moonlight Cradle SSS”秋のあしおと” 8月3日 夜明け前より瑠璃色な Moonlight Cradle sideshortstory「恋人つなぎ」 7月23日 夜明け前より瑠璃色な Moonlight Cradle sideshortstory「支えて、支えられて」 7月22日 夜明け前より瑠璃色な Moonlight Cradle sideshortstory「恋人の最後の夜」 7月15日 大図書館の羊飼い SSS”彼氏の威厳” 7月15日 大図書館の羊飼い sideshortstory「夜のデート」 7月12日 FORTUNE ARTERIAL SSS”現在と未来と(いまとさきと)” 7月7日 sincerely yours your diary short story「七夕の夜」
9月24日 ・大図書館の羊飼いSSS”半袖が寒い朝” Another View ... 「ん……」  部屋の気温の低さに一気に眠気が飛んでいった。 「思ったより冷えるな、そろそろ夏掛けだけでは身体を壊すかもしれないな」  だがいつまでもベットにいるわけにもいかない。  早く起きないと京太郎との待ち合わせに間に合わなくなってしまう。 「……熱いシャワーを浴びるか」  朝のシャワーでさっぱりした私は朝食を食べてから身支度を調える。  そしていつものように制服に着替える。 「……半袖か」  この時期の朝夕は冷え込む事が多いが日中はまだ汗ばむ陽気。  長袖の制服にはまだ早いし、何より衣替えはもう少し先の話だ。 「まぁ、大丈夫だろう」  半袖に着替えてネクタイを結ぶ。 「よし、今日も1日頑張ろう!」 Another View End 「おはよう、京太郎」 「おはよう、玉藻」  俺も玉藻も学園の寮に住んでいないので、学園の外で待ち合わせして一緒に通う  事が多い。 「玉藻、だいじょうぶか?」 「いきなりなんだ? 私をおかしい人みたいな言い方しないでくれ」 「そういうつもりじゃ……」 「冗談だ、京太郎はそういうことを言う人じゃないことを私が一番よく知っているからな」  そう言って笑う玉藻。 「それで何の心配だ? 私はもう前とは違う事を京太郎が一番良く知っているだろう?」 「あぁ、だけどそう簡単には変わらない物もあるからな」 「変わらない物?」  不思議そうな顔をする玉藻に答えを言う。 「制服だな」 「当たり前だろう、制服を着て通うのが規則だからな」 「だが、規則の中にもいろいろと補足事項があるだろう? 衣替え前でも寒い日は上着を  着てもいいとかさ」  そういう俺も半袖の制服を着ているが、今日は上着を持ってきている。 「なんだ、京太郎。これくらいの気温で上着を着るのか?」 「ガチンコ図書部員をなめるなよ? クーラーと外気の差が耐えられないと本屋には  出入り出来ないんだからな?」 「なんだその理論は……」  玉藻は呆れたようだった。 「なぁ、京太郎。少しいつもよりペースが遅いから路電に乗らないか?」 「そうだな」  早めに待ち合わせしたときはゆっくり歩いて教室まで行くのだが、今日はちょっと  遅めの時間だ。間に合わない訳では無いけど、余裕を持つために路電に乗る方が  いいのだろう。”そのための準備”もしてきてある。 「いつもながらものすごい混雑だな」  玉藻を車内の扉の方へ誘導し、俺が玉藻を周りから守るように立つ。 「京太郎、無理をしないでいいんだぞ?」 「すまないな、これは俺の癖みたいな物だ」  混雑した路電では見知らぬ女生徒と密着する恐れもある、その女生徒との誤解を  生まないよう、こうしてカバーして俺は本を読む事が多かった。 「そうか……京太郎には悪いのだが、私は結構良い気分だな」 「そうなのか?」 「あぁ、彼氏に守ってもらえることが嬉しいのだ」 「……玉藻、朝からその彼氏を殺すような発言しないでくれ」 「この程度の言葉で人が死ぬわけないだろう?」 「なら試してみるか?」  頷く玉藻に頭上からそっと声をかける。 「こうして彼女を守れるのは彼氏冥利だな」 「っ!!」  一瞬にして玉藻の顔が真っ赤になる。 「……京太郎、朝から殺し文句は止めてくれないか?」 「わかったか?」 「あぁ、身にしみてわかった」 「しかし暑いな」 「そうだな」  汗をかくほどの暑さではないが、秋になると路電の空調の設定温度が変わるため、  混雑してる時間体は蒸し暑く感じる。 「あ、停留所に着くな、降りるぞ」 「あぁ、任せておけ」  開く扉は反対側、波に逆らわず乗るのがポイントだ。俺はそれを本を読みながら出来るが  今は彼女である玉藻を守りながら降りるのが大事だ。 「玉藻、降りるぞ」 「きょ、京太郎?」  いつもより混雑してた路電の中の学生の波、その波から玉藻をかばうように抱いて  路電から降りた。 「っ!」  人の熱気がこもった車内から降りた瞬間、秋の朝の空気に触れる。  冷え込んだ朝の空気は、熱せられた車内の空気になれた俺の肌から一気に熱を奪っていく。  俺はこのために用意しておいた上着を広げて、 「京太郎?」  玉藻の肩にかけた。 「教室まで羽織っておくといい」  肌の熱を奪われるのは俺だけじゃ無い、玉藻のそうだ。  そして急激に冷える事は女性の身体には良くない。 「でも京太郎が」 「さっきもいったけど俺は図書部員だぞ?クーラーの効いた書店から熱い外へ出ることが  出来る身体が無いと本を探しに行けないんだからな?」 「だからなんだ、その理論は……でも、ありがとう、京太郎」 「あ、あぁ」  袖を通していない上着を玉藻は両肩を抱きしめるように、俺の上着をかけ直した。 「京太郎のにおいがするな、とても安心できるにおいだ」 「……教室に行くぞ」 「照れてるな? 京太郎」 「気のせいだ」 「では、そういうことにしておこう」 Another View ...  照れて先にいってしまった京太郎。 「男らしいのに、なんだか可愛いな」  たぶん最初から自分で着るつもりでは無かったであろう、京太郎の上着を落とさないよう  注意しながら追いつくために小走りする。 「ふふっ」  半袖が寒い朝は、京太郎の暖かを感じる朝になった。 Another View End
9月23日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS"変わらぬもの、変わりゆくもの” 「やっと着いたわね」 「そうだな」  私と伽耶は久しぶりに珠津島に戻ってきた。 「では行くとしようか」 「えぇ、でも連絡しなくていいの、伽耶?」 「構わぬ、すぐに旅に戻るからな」 「そう、伽耶がそう言うならいいわ」  珠津島に戻ってきてすぐに花を用意する、それから東儀家の外れの敷地から山へと入る。  普通の人にとっては険しい山道を私と伽耶は普通に進んでいく。  ……さすがに着物で歩く道ではないかしらね。  普通に進んでいけるけど、着物を草木で傷つけないよう気をつけて歩いて行くので  進みは遅かった。  一時期着ていたズボンが、こういうときだけは楽でいいと思ってしまう。 「疲れたか、桐葉」 「この程度で疲れるわけないでしょう? 私が疲れるときは伽耶のわがままの時だけよ」 「あたしはそんなにわがままを言っていないぞ?」 「えぇ、存在自体わがままみたいなものだから、言ってない時もあるわね」 「……桐葉、お前はあたしをどのように思ってるのだ?」 「伽耶は私の主」 「……」 「でも、その前に私の大の親友ね」 「桐葉……」  伽耶の声が少し震えてるのがわかる、でも私は用意してある言葉を続けた。 「そして腐れ縁」 「……もうよい」  落胆したのか、伽耶の声のトーンが少し落ちた。  相変わらずね、そう思いながら私は言葉を続ける。 「そう? まだ言えるわよ? だって伽耶のことですもの」 「……もうよい」  今度の拒絶は諦めの、いえ、照れね。  まったく、これが今の世の中で言うツンデレっていうものなのよね。 「桐葉、今なにを考えておった?」 「伽耶のことだけど、聞きたい?」 「……止めておこう」 「そう? ふふっ」  そんな会話を続けてるうちに目的の場所へと着いた。  目の前の開けた場所、珠津島の山の奥にある水源、千年泉。  私たちはその千年泉のほとりを歩いて進む、そして泉のほぼ対岸の辺りまで行くと  そこに小さな石碑がある。  名前も刻まれてないただの石碑、それはマレヒトさんのお墓だった。  数年前、千堂家が和解したその後、支倉君と瑛里華さんがマレヒトさんのお墓を  作ってくれた。  伽耶にとって父親が死んだという事実を突きつける物になる、お墓を伽耶は  受け入れた。 「父様も安心して眠る場所が会った方が良いだろうからな」  それから私たちは年に一度、春か秋かはその年ごとに違うが、必ずここに帰ってきて  報告することにしていた。 「あら?」  墓石の前に花束が置かれていた。 「瑛里華さん、来たのかしら?」 「違うな、これは伊織の仕業だろう」 「あら、どうしてわかるの?」 「瑛里華ならもっと丁寧に置いてあるだろうさ」  石碑の前の花束は無造作に置かれているようにも見える。 「それだけでわかるのはやっぱり伽耶だからね?」 「当たり前だ、こんな乱雑な仕事をするのは伊織しかおらん。征一郎が、東儀の者が  訪れたのであるのならもっと綺麗になっておるだろうし、瑛里華もそうであろう」 「そういう意味で言ったんじゃ無いのだけどね」  自分の息子の仕事だって、すぐに見抜けた事を追求したら面白いかもしれないわね。 「どういう意味かは後にしよう、まずは報告をしよう」  石碑の前に用意いた花束をおき、お線香に火をつけて石台の上に置く。 「父様、ただいま帰りました」  伽耶がマレヒトさんに報告する。  お墓が出来た当初は無言だったけど、今の伽耶は違う。  今を幸せに、マレヒトさんの願い通りに生きていることを伝えるようになった。  私はその間、少し下がって伽耶を待つことにしている。  気持ちの良い風が頬をなでる、私は風の向かう先を見て、そして空を見上げた。 「空が、高いわね」 「そうだな」  独り言に伽耶が相づちを打つ。 「もう良いの? 伽耶」 「あぁ、では旅に戻るとするか」 「そう? でも挨拶くらいはしていった方がいいんじゃないの」 「構わぬ、次に帰ってくるときに会えば良い」  そう上手く行くかしらね? 「あ、おばあちゃんだ!」  そのとき背後から聞こえてきた可愛い声は、伽耶ちゃんだった。 「わー、おばあちゃん、桐葉お姉ちゃん、お帰りなさい!」 「おお、伽耶か。ただいま」 「おかえりなさーい!」  そういって伽耶に抱きつく伽耶ちゃん。 「母様、お帰りなさい」 「伽耶さんも来てたんですね、お帰りなさい」 「あぁ、瑛里華に孝平、ただいま」 「紅瀬さんもお疲れ様」 「えぇ、疲れたわ、だから少し休んでいきたいのだけど」 「もちろん大歓迎よ、ねぇ、孝平、伽耶」 「うん! おばあちゃん今日はお泊まりしていくんだよね?」 「あぁ、伽耶がそう言うならお泊まりしていくとしよう」 「やったー!」 「伽耶、おばあちゃんをお迎えする前に曾お爺ちゃんのお墓参りしましょう」 「うん!」 「紅瀬さん、ありがとうございます」 「支倉くんも大変よね」 「えぇ、でも楽しいですから」  伽耶と私が珠津島に帰ることがわかったときに、私はすぐに支倉君に連絡をするように  している、そう、支倉君に頼まれているからだ。  そうしないと伽耶はすぐに旅に出てしまう、それを悪いとは言わないが支倉くんや瑛里華さん  そして伽耶ちゃんといられる時間は有限だ。  だからこそこういう機会を大事にして欲しいと私は思う。  それに…… 「ひいおじいちゃん、きょうはおばあちゃんが泊まっていってくれます、かやは嬉しいです」 「そうかそうか」  二人の伽耶の楽しそうな姿を見るのが、私は好きだから。 「さぁ、今日は腕を振るわよ!」 「久しぶりに見せてもらえるのが楽しみね、突撃副会長さん」 「もう違うわよ、紅瀬さんにとって私はいつまで突撃副会長なのよ」 「そうね、でも突撃するのは変わらないのではなくて?」 「……」  露骨に目をそらす瑛里華さん、変わらないわね。  私は空を見上げる。  変わっていくものと変わらないもの、今の私はどっちなのかしらね? 「桐葉お姉ちゃん、かやのおうちに行こう!」 「えぇ、伽耶ちゃんのお家に行きましょうか」 「うん!」  そう言うと私の手を取る伽耶ちゃん。反対側の手は伽耶とつながれている。 「伽耶、あまり迷惑かけちゃだめよ?」 「大丈夫だ瑛里華、これくらい迷惑じゃないぞ」 「そうね」  楽しそうな伽耶と伽耶ちゃんを見て、私も変わっていけたのね、そう思えた。
9月23日 ・大図書館の羊飼いSSS"変わらぬもの、変わりゆくもの” 「なんか、変な感じだよな」 「そうね」  俺と凪はお彼岸ということで、墓参りに来ていた。 「とりあえず掃除でもするか、凪は花を頼む」 「りょーかい」  俺は墓石に水をかけ布巾で綺麗に汚れを落としていく。  凪はその間に花を供え、線香に火をつける。  程なくして掃除も終えて、一段落ついた。 「……」 「……」  二人で手をあわせる。 「ねぇ、京太郎。ここには京太郎のお母さんが眠ってるんだよね」 「あぁ、最後のだけどな」 「……そう」  筧家の墓、そう書かれているこのお墓には俺の最後の母さんが眠っている。  記録上”失踪”した俺の父さんもここに眠っていることになっている。 「死んでいない人の墓は、やっぱり変な感じだな」 「確かに、でも人としては死んでいるのよね、羊飼いって」  そう、羊飼いになった俺の父さんは今もどこかで生きていて、羊飼いとして  人を導く仕事をしているだろう。  だが、羊飼いは人の記憶に残らず忘れられていく存在。  誰の記憶にも残らない人は、生きているといえるのだろうか? 「ま、いっか」  俺の思考は凪の単純な一言でで終わった。 「それよりも大事な事あるし」 「大事な事?」 「うん、報告。最後のお義母さん、なんだよね、初めましてかな? 小太刀凪です。  お父さんの義理の娘でした、そして今は……京太郎の恋人です」  俺の恋人と言う凪。  墓前とはいえ、そう言われるとなんだか恥ずかしくなってくる。 「あらぁ? 京太郎、何を照れてるのかなぁ?」 「照れてなんかない」 「そう? くすっ、可愛い♪」  凪にからかわれてるだけでは悔しいので反撃する。 「そ、そんなことよりも凪」 「なぁに、ごまかそうとしてる京太郎?」 「っ、凪、お前は間違ってる!」  照れてるのをごまかすために声が大きくなった。 「何を?」 「凪は俺の恋人だけど、まだ報告してない事があるだろう?」 「報告してない事?」 「あぁ、将来を誓い合った仲だって」 「……京太郎」  俺の言葉に驚いて、顔を赤くする凪。  よし、凪に反撃成功だ、ただし俺自身も相当のダメージを受けているだろう。 「京太郎、顔が真っ赤だよ?」 「……凪も」 「うん、だって恥ずかしいけど、それ以上に嬉しいんだもん」  そのはにかんだ表情に俺はどきっとする。  可愛いことは身をもってわかってるけど、わかっていたけど。 「可愛いのに上限って無いんだな」 「な、なにを言ってるのよ、京太郎ったら!」 「え? あ、もしかして口にだしてた?」 「わざとじゃなくて?」 「……そんな自爆する言葉をわざというか?」 「京太郎ならあり得るかも」 「おい」 「だって、エッチの時いつもそうじゃない、自分も恥ずかしいくせに私に  恥ずかしくなるような台詞ばっかり言うし」  思い返してみると、そうかもしれない。 「……なぁ、凪」 「なによ」 「こういう会話ってさ、墓前ですることじゃないよな」 「あ゛」 「全部筒抜けだよな」 「……と、とりあえずお参りしたんだから戻ろうか」 「賛成」  俺は改めて墓石に向かって手をあわせ目を閉じる。  母さん、そして人であった父さん。俺は凪と幸せに、人として生きます。  目を開けて空を見上げる、そこは秋の高い空。  羊飼いとなった父さん、また縁があったら会いましょう。  もう2度と会うことは無いかもしれない羊飼いの父さん、ナナイさんの事を思う。 「さ、帰るか」 「うん、疲れたからご飯はどっかで食べていかない?」 「そうだな、作るの面倒だしな」 「やったー!」  そう言って腕に抱きついてくる凪、その大きな山が俺の腕を包み込む。 「外食だと夜の時間たくさんとれるね、京太郎」 「そう、だな」 「ふふふっ、何を考えてるのかな?」 「凪のこと」 「え?」 「凪のことを考えてた」 「ちょ、ちょっと2度も言わないでよ」 「大事な事だから2度いいました、って言うところだよな」 「も、もぅ、京太郎のえっち」 「別に凪のことを考えてただけでエッチの事を考えてた訳じゃ無いぞ?  エッチな凪さん?」 「−−−−っ!」  声にならないうめき声をあげながら悔しそうにしてる凪の頭をなでる。 「そ、そんなんじゃごまかされないんだからね!」  そう言いながらもほにゃっとしてる凪、充分ごまかされてるな。  そんな幸せをかみしめながら、俺たちは帰る。今を生きるために。
9月19日 ・大図書館の羊飼い sideshortstory「約束の証」 「それじゃぁまた後で、京太郎」 「あぁまた後でな、仕事頑張ってな、紗弓実」 「言われなくても大丈夫ですよ」  プライベートと仕事の区別くらいちゃんとつきます、と以前から言ってるにも関わらず  京太郎はいつもそう言います。  私の事をどういう風におもってるのか、一度問い詰めた方が良いかもしれませんね。 「でも、最近の私は京太郎に勝てません……」  更衣室でアプリオの制服に着替えながら、ここ数日の勝負の結果を思い出します。  私の得意とするゲームでは京太郎は私に手も足も出せません。  ですが、私が苦手とするパズルゲームでは未だに京太郎に勝てません。  ゲームだけじゃありません、私生活のいろいろな面でも、最近勝てなくなってきました。 「この私が、恋に落ちただけでここまで弱くなるとは思ってもみませんでした」  そう思えるほど京太郎の横という居場所は心地よく、離れたくないと思わせられます。 「一度立場を思い知らしめる必要があるでしょうか?」  私と京太郎はパートナー契約を結んでいます。それは対等な契約のはずなのに。 「……私が京太郎の事を大好きになってしまった事くらいわかってます」  恋は盲目と言いますし、惚れた弱みとも言います。  だけど、負けっ放しは悔しいです。 「あ、そろそろ時間ですね」  京太郎にどのようにして反撃するかは後で考えることにしましょう。  私はプライベートを仕事に持ち込むような事はしません、今は仕事に集中しましょう。  着替え終わった私はバックヤードを経由してフロアに出ることにしました。  パンッ!  その音がした瞬間、横に跳ぶようにステップしスカートの中からモデルガンを取りだして  構えてしまいました。 「そう来ると思ってた」 「え、京太郎?」  横にステップした私の正面に帰ったはずの京太郎が立っていました。 「物騒な物は今日は無し」  一瞬の隙を突かれた私はモデルガンを京太郎に取られてしまいました。 「嬉野さん、ご案内です」 「鈴木さん?」  鈴木さんの足下には紙テープが落ちていました、あれは……クラッカー? 「ほら、紗弓実」 「あ、京太郎!」  それを確認しきるまえに京太郎に手を引かれてしまいました。 「これ……」  連れてこられたのは食堂の端、その一角は衝立に囲まれていた。  そして机の上にはすでに料理が並べられている。 「紗弓実、誕生日おめでとう」 「「嬉野さん、誕生日おめでとうございます!!」」  京太郎の言葉に、ここに集まったアプリオのウエイトレスのみんなが一斉にお祝いの言葉を  くれた。私は京太郎を見ます。 「どうしたんだ、紗弓実」 「もしかして私、はめられました」 「そうか? それよりも料理が冷めちゃうから食べようぜ」 「では給仕は不肖、鈴木佳奈が担当させて頂きます、あ、朔夜ちゃんはホールの方お願いね」 「わかりました」 「鈴木さん、この料理は」 「はい、アプリオ夜のディナーコースです」  良心的な価格で提供されてるアプリオの中でも料理長の趣味で作られた豪華なコースが  存在する。この前菜の並びは、間違いなく夜のディナーコースです。 「ほら、紗弓実。乾杯しよう」 「京太郎……」  無理矢理持たされたグラス、中にはミネラルウォーター。 「誕生日おめでとう、紗弓実。乾杯!」  グラス同士が触れあうような、乾いた音。 「もぅ、京太郎ったらキザですよ?」 「たまには良いだろう?」 「そうですね、たまには良いです」  毎日ずっとこうだったら私の方が持ちそうにありませんから、たまにで良いです。 「ふぅ、ごちそうさま」 「ごちそうさまでした」  デザートのケーキまで頂きました、さすが料理長良い仕事をされています。 「紗弓実、俺からのプレゼントはどうだった?」 「ディナーは海の見えるホテルが良かったのですけど、平日の忙しい日に時間を取ってくれた  だけで合格です」 「そっか、そう言ってもらえると助かるよ」 「……助かる?」  そこは普通嬉しいとか言うところです。助かるってどういう意味でしょうか? 「筧さん、申し訳ありませんけど」 「そっか、もうそんな時間か」  あいた食器を下げに来た鈴木さんが申し訳なさそうにしています。 「鈴木さん? 京太郎?」 「紗弓実、今夜のディナーは俺のプレゼントだけどさ、このディナーを俺がご馳走する時間は  アプリオのウエイトレスみんなからのプレゼントなんだよ」  言われて今更ながらに気づきました。  平日の夕方のこの時間はアプリオは一番忙しい時間。  衝立に囲まれていた程度で気づかなかったなんて……私は浮かれすぎていたようです。 「さぁ、紗弓実。仕事をしようか」 「しかたが無いですね、でも一番忙しい時間ですからお手伝いが欲しいです」 「……女装はしないからな」  私を驚かせたお返しをちょっとだけしちゃいました。 「うぅ、京太郎にいいようにはめられてしまいました」 「往来のど真ん中で物騒な事言うな」  仕返しをしたと思った京太郎の手伝いも、すでに最初から織り込み済みだったなんて。 「なんだかとても悔しいです」 「いいじゃないか」 「京太郎にはめられた私のプライドが許せないのです!」 「だから、危険なこと言うな」 「あら、京太郎は何を想像してるんですか?」 「……そうだな、紗弓実にはめてるシーンかな」 「な、ななななっ!?」  京太郎が私にはめ……はめてる、シーン!?  お、おお、おかしいです!  外で私がこう言えば京太郎は恥ずかしがってごまかそうとするはずなのに、今日に限って  どうして乗ってくるんですか!? 「よし、紗弓実。早く家に帰ろう」 「ちょ、京太郎!」  私の手を取る京太郎、思わず振りほどこうかと思ったのですけど……  大好きな人の手を振りほどく事を私が出来るはずがありませんでした。 「……あ、あの、京太郎?」  京太郎の部屋に帰ってきて私はすぐにベットの上に座らされました。 「……」  京太郎は机のところで何かを取り出してからこちらに背を向けたままです。 「せ、せめてシャワーくらい浴びたいんですけど……」 「紗弓実!」 「ひゃいっ!」  力強く名前を呼ばれて思わず返事をしてしまいました、それも噛んでます。 「その……目をつぶってくれないか?」  私の左手を手に取りながら、顔を近づけてきます。 「あ、京太郎……」 「紗弓実」  今度は京太郎の甘い声、私はこのままはめられちゃうんでしょうか?  ……それでもいいかな、と思って目を閉じた私はやっぱり京太郎には勝てないと  この後身をもって実感するのでしょう。  だけど、目を閉じても私の唇に甘い感触はいつまでたってもやってきません。  その代わりに左手の薬指に冷たい感触が…… 「え?」  左手の薬指!?  慌てて目を開けた私の左手の薬指には銀の指輪がはまっていました。 「京太郎……」 「これは契約書の代わり、って訳じゃないんだけどさ……俺の約束の証。はめてから  言うのもなんだけど……受け取ってくれる?」 「……私は今日、何度京太郎にはめられたのでしょう」  左手をそっと右手で包み込む。冷たく輝く銀の指輪が、とても温かかった。 「ふぅ」 「なんですか、その力の抜けたようなため息は」  京太郎のため息に感動がどこかに飛んで言ってしまいました。 「そりゃ俺だって緊張するよ、もし断られたらどうしようとか」 「ふふっ、やっぱり京太郎は馬鹿ですね」  私が断るという選択肢なんて無いのに、それでも緊張してしまうなんて可愛いです。 「どーせ俺は馬鹿だよ」 「はい、知ってます。放っておけないから、私が一生そばにいてあげます」 「……紗弓実、ありがとう」 「っ!」  優しく微笑む京太郎の顔に、私は鼓動が早くなってしまいます。  私だけに向けられるその微笑みに私は…… 「と、ところで京太郎。プレゼントはこれだけではないですよね?」 「サプライズはこれで全部終わりだけど」  えぇ、わかっています、だけど……今日くらいは素直になってもいいですよね? 「私はまだ……はめてもらってません」 「っ」  私の言葉に反応する京太郎、ここから先は誕生日じゃなくてもいつも行われてる行為。 「今年の誕生日を最高の1日に出来るかどうかの瀬戸際ですよ、京太郎?」 「……善処します」 「その前に、シャワーを浴びます。……京太郎も、どう、ですか?」  薬指にはめたばかりの指輪を外すのは残念だけど、銀の指輪をしたままお風呂には  入れませんし、その後の事も出来ません。 「今夜、寝る前にまたはめてくださいね、京太郎」  恋人が出来て最初の誕生日の夜は、まだまだこれからですからね、京太郎!
8月23日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS”処暑の夜” 「雨は上がったようね、孝平」 「そうみたいだな」  桐葉は部屋の窓から夜空を見上げる。  雲に覆われて星は見えないが、雨は完全に上がっていた。 「窓、開けるわね」  桐葉がシーツを巻き付けながら、身体を起こす、そしてベランダの扉を開ける。    部屋に入ってきた風は蒸し暑い夏の風ではなく、さわやかな風だった。 「今日はね、処暑なの」 「しょしょ?」  聞き慣れない言葉にオウム返しに聞いてしまう。 「立秋とかは知ってるでしょう?」 「あぁ、それくらいはわかる」 「簡単に説明すると、立秋も処暑も暦の上での季節の切り替わる日の事よ。春分や秋分の日は  祝日になってるからわかりやすいけど、実際には24つあるの」 「24もあるのか?」 「えぇ、そして今日は処暑。暑さのピークを越える日ね。これから季節は秋に向かっていくの」 「8月下旬が処暑で暑さのピークか、まだ残暑が厳しい時期だよな」 「……そうね、今は昔の暦じゃ季節をわけられなくなってるかもしれないわね」 「温暖化とか?」 「えぇ、発達した科学は季節を破壊してるのかもしれないわね」  昔から生きてきた桐葉からすれば今の文明は自然の、四季を破壊してるように  見えるのだろうか? 「でも」  外から入ってきた風が桐葉の髪を揺らす。 「一雨ごとに気温が下がってきて、秋はもうそこまで来てるのを感じるわ」 「そう、だな……」 「それなのに、孝平は……」 「その、申し訳ありません」  桐葉と監督生室からの帰り、夕立というか豪雨にあいびしょ濡れで部屋へと戻ってきた。  そのままそれぞれの部屋へと戻れば良かったのだけどフロアの床をぬらしたくない  桐葉の希望で俺の部屋からバスタオルを取ってきて制服の水気を取った。  までは良かったのだけど、濡れて肌が透けていて、髪が肌に張り付いてた桐葉は  妙に色っぽく。  そのまま部屋へと連れ込んで……我慢出来ずに襲ってしまったのである。 「でも桐葉もいつも以上に乱れ……」 「孝平」 「……なんでもありません」  最終的には桐葉の合意も取ったし「もうどうにでもして」と言わせる程激しく  愛し合ったのだが最初に襲った事実はかえられない。 「一雨ごとに秋が来て涼しくなっていくのに、孝平はいつも熱いままなのね」 「あぁ、それだけははっきりと言える。桐葉への想いに飽きは来ないし、熱いままだからな」 「……」  桐葉は何も言わずに顔を背ける。その顔が赤くなっていることは言わないでおくことにした。 「でも、涼しくなってきたのなら人肌が恋しくなるよな」 「……孝平はまだしたいの?」 「いや、そこまで俺は獣じゃ無い……と言い切れる保証はないか。だって桐葉が相手だからな」 「もぅ……孝平はどうしたいの?」 「このまま桐葉と一緒に寝たい」  素直にしたいことを言う。 「悪戯しないのなら良いわよ」 「ごめん、桐葉だから我慢できなくなるかもしれない」 「……ケダモノね」 「あぁ、桐葉相手にだけだけどな。そんな俺は嫌いか?」 「……馬鹿」 「そうだな、俺は馬鹿だな」 「でも……好きよ」 「あぁ、俺も好きだよ、桐葉」
8月17日 ・夜明け前より瑠璃色な Moonlight Cradle SSS”秋のあしおと” 「お兄ちゃん、ちょっと買い物行ってくるね」  階下から麻衣の声が聞こえた。 「麻衣!」 「なぁに?」  俺は部屋から麻衣を呼び止めて、素早く準備する。 「俺も行く」 「え? 何か買い物があるなら買ってくるけど?」 「いや、ちょっとした気分転換だから、麻衣につきあいたいんだけど……駄目か?」 「だ、駄目なわけなんて無いよ! 逆に嬉しいくらいだもん!」 「そっか、ありがとな、麻衣」  麻衣の頭をなでながらお礼を言う。 「あ……うん」 「それで何処まで買い物行くんだ?」 「ちょっと駅前までだけど」 「こんな時間にか?」  ちょうど日暮れ時を過ぎ、これから暗くなっていく時間。 「うん、調味料が切れてたから」 「珍しいな、麻衣が調味料切らすなんて」 「そうでもないよ? 良くあることだよ」  そんな世間話をしながら駅前の百貨店に着く。 「それじゃぁ買い物行ってくるね」 「なぁ、麻衣。俺は別に待って無くても良いんだろう?」 「え? 帰っちゃうの?」  麻衣が急に不安そうな顔をする。 「違うって、売り場まで一緒にいってもいいか、って事」 「あ……」  麻衣は自分の勘違いに気づいた。 「もう、お兄ちゃんの意地悪」 「悪い悪い、ほら、案内してくれ」 「はーい」  麻衣と一緒に食材のコーナーに行く。  目当ての調味料や、せっかく来たから、ということで他の食料品も買うことにした。 「あー、あれ特売になってる、買っていっちゃおう!」 「麻衣は将来いいお嫁さんになりそうだな」 「え、えぇぇっ!?」  突然麻衣が大きな声を上げた。 「麻衣、声が大きい!」 「え、あ……」  周りの人が何事かと思って俺たちを見るが、俺たちが軽く頭を下げるとそのまま  買い物に戻っていった。 「もう、お兄ちゃんが変なことを言うからだよ?」 「別に変なこと言った訳じゃ……」 「お兄ちゃん?」 「……その、ごめんなさい」 「わかればいいんです! ……なんてね」  麻衣は笑いながら俺の先をステップを踏むように歩いて行く。 「荷物重くない?」  くるりと振り返って麻衣が訪ねてくる。 「大丈夫だよ」  そんなに重くは無い荷物だが、ずっと持ってるとさすがに疲れてはくる。 「少し持とうか?」 「大丈夫だって」 「うん、それじゃぁお願いしちゃうね、お兄ちゃん」  弓張川の近くにさしかかると、涼しい風が吹いてきた。 「風が気持ちいいね、お兄ちゃん」 「あぁ、もう秋だもんな」 「秋って言うにはまだ真夏すぎるよ」  猛暑が続く毎日だが、暦の上ではもう秋。 「そうだな、残暑が厳しいな、ここは」  ふと視界に入っていた、輝きに目を向ける。  俺が上を向いたことで麻衣もその方向を見上げた。 「ねぇ、お兄ちゃん。制御された気温の中に住む人は四季を感じることはないんだよね?」 「あぁ」  俺の家族のうち、2人は今は居るべきところに帰ってしまっている。  そこには四季が無く管理された空間。 「でも快適かもしれないぞ? 常に過ごしやすい気温なんだからさ」 「うーん……でも夏はやっぱり暑くないと夏じゃないよね」 「そりゃそうだ。じゃぁ今夜はクーラーなしで過ごしてみるか?」 「え、そ、それはちょっと……」 「冗談だよ、麻衣」 「もぅ、なんだか今日のお兄ちゃんはちょっと意地悪だよ」 「そうか? でも可愛い子ほどいじめたくなるっていうじゃないか」 「っ!!」  俺の一言で顔を真っ赤にする麻衣。 「やっぱり今日のお兄ちゃん、いぢわるだよぉ」 「悪い悪い」  頭をなでると麻衣はほっとした表情になる。 「そろそろ帰ろうか、クーラーの効いた部屋に、さ」 「お兄ちゃん!!」
8月3日 ・夜明け前より瑠璃色な Moonlight Cradle sideshortstory「恋人つなぎ」 「麻衣、疲れてない?」 「お兄ちゃんこそ疲れてない? 私は家からでも良いんだよ?」 「麻衣が大丈夫なら一緒に会場まで行って見たい」 「……うん、実は私もそう思ってた」 「だろうな」 「お兄ちゃんには隠し事できないね」 「それだけ俺は麻衣のこと、ちゃんと見てられてるってことだよな」  俺は改めて麻衣を見た。  これから出かける先にあわせて、麻衣は浴衣姿だった。   「ん……お兄ちゃん、そんなにじろじろ見ないで……」  麻衣の色っぽい声に、俺は慌てて目線をそらした。 「行こうか、麻衣」  俺は麻衣に手を差し出す。 「……いいの?」 「あぁ」 「……うん! ありがとう、お兄ちゃん!」  二人の手はつながった。  麻衣の誕生日の日は記念の日でもある。  二人の想いが通じた最初の誕生日に海岸でのデートをした記念の日。  だから今年もあの海岸まで行って海でのデートを楽しんできた。  1日目一杯海岸でのデートでも良いのだけど、今日は早めに満弦ヶ崎に帰ってきた。  今日はタイミング良く、満弦ヶ崎花火大会の日だったので、花火を見ることにしていた。 「大丈夫かなぁ……」  そう言いながらもつないだ手を離さないように力を入れる麻衣。  まだ俺と麻衣の関係はすべてが認められた訳では無い、だからこそ公私のけじめは  しっかりとつけて生活している。 「大丈夫さ、だってそうしないと迷子になってしまうだろう?」  手をつないで向かう先は中央連絡港に面している物見が丘公園だ。 「私、子供じゃないもん」 「迷子になるのは俺なんだけどな」 「え、ええ! 私じゃなくて!?」 「だから、麻衣。手を離さないでくれるよな?」 「し、仕方が無いんだよね、お兄ちゃんが迷子になると恥ずかしいだろうし……てへ」  いかにも仕方がなさそうな言い方をしてる割には麻衣の顔は緩みまくっていた。 「あんまり人が居ないんだね」 「みんな間近で見たいから、会場のすぐ近くで見るんだろう」  物見が丘公園は花火大会の会場である弓張川の河口にあるので、打ち上げ会場より  少しだけ離れている。  だけど起伏が激しいこの公園の、丘の上の方まで行けば河口の空は充分に見上げられる。  モニュメントの方へと上っていくと、俺たちと同じ考えの人がかなり居たが、それでも  会場近くからくらべればすいてる方だ。  俺たちはモニュメントから少し離れた場所にシートをひいた。   「そろそろかな?」 「そうだな……お」  話している間に最初の花火が上がった。 「わぁ……」  少し遠い夜空に打ち上がる花火、音も心なしか少し後から聞こえてくる気がするけど  テレビの中継と違い、耳に響いてくる。 「綺麗……」  麻衣は夜空に咲く花火を見上げている。  俺も花火を見ては居るのだが、視線はどうしても麻衣の顔に向かってしまう。  義妹で、家族で、恋人で、俺との険しい未来を選んでくれた最愛の女性。  物見が丘公園の街灯は少なく、少しだけ暗いけど、今日だけは花火の明かりに照らされている。 「お兄ちゃん、すごいね!」 「あぁ……」  何かのドラマで見た記憶がある、花火を綺麗と言う彼女。  その彼女の顔の方が綺麗だっていう話。 「あれって本当だったんだな……」 「ん、どうしたの?」  小首をかしげる麻衣、その様子がものすごく愛らしくって…… 「麻衣」 「なに、お兄ちゃ……っ!」  そのままそっと口づけをした。  その瞬間、夜空にひときわ大きな花火が打ち上がった。 「お、お兄ちゃん……誰かに見られちゃうよ……」 「大丈夫、みんな花火の方を見てるよ」 「でも……あ」  俺は麻衣とつないでいる手を一度ほどいて、改めて握りなおした。  さっきまで迷子にならないようにつながれてた手とは違い、指と指を絡めるようにつなぐ、  恋人つなぎに。 「今はこれ以上はしないから、安心して花火を見ようか」 「……うん」  朝早くから海でのデート、夜の花火のデート。  麻衣の誕生日はまだ終わらない。 「ねぇ、お兄ちゃん……その、えっと……」 「部屋に戻ったらさっきの続きをしようか」 「……うん」
7月23日 ・夜明け前より瑠璃色な Moonlight Cradle sideshortstory「支えて、支えられて」 「お疲れ様、達哉」 「なんだか昨日の夜に同じ事を言った気がするな」   「えぇ……昨日の夜の事よね」 「……なんかすごい昔のような気がする」 「達哉もそう思うの?」 「あぁ、それだけ今日1日が充実してたんだろうな」  俺とフィーナの結婚式が今日執り行われた。  地球連邦の、満弦ヶ崎特設会場で午前中から式は行われ、その後披露宴。  その後すぐに往還船で月に行き、連絡港から王宮までパレードを行った。  王宮到着後は公式のスケジュールは組まれていないが、俺はフィーナとともに  原初の海を訪れた。  式の報告を、フィーナの母親である、セフィリア様にしたかったから。  そして、たぶん俺の親父もここに眠っているのだろうから。  親父にも報告するために。  そして、月と地球の未来を良い物にしていく誓いを立てるために。  王宮のフィーナの私室、今は俺の私室でもある、に戻ってきたのはかなり  遅い時間だった。  窓からは宇宙に浮かぶ地球が見える。  差し込むのは月明かりではなく、地球の明かり。  その明かりに照らされた、ドレス姿のフィーナ。 「今愛でるのは地球ではなく、貴方の花嫁ではなくて?」  そして今に至る。   「さすがに身体がだるいわね」 「フィーナでもそういうときあるんだ」 「私だって普通の女よ、あれだけ殿方に激しく愛してもらえれば、疲れるわよ?」 「あー、えっと……」  確かに限界までフィーナを抱いた。 「なんて言い訳すればいいかわからないけど、謝ることはない、かな」 「どうしてかしら?」 「俺がフィーナを愛することに間違いなんて何処にも無いからな」 「……もう、達哉の馬鹿」  フィーナが照れながら視線をそらす、そんな仕草が愛おしい。 「そういえば、貴族達の中ではもうロイヤルベビーの話をしてるらしいわね」 「気が早いな」 「そうね、私たちの子供に嫁がせようと考えてるみたいなの」 「……本当に気が早いな、だけどそれは叶わないかもしれないな」  俺は一息入れてから思ってることを伝える。 「俺とフィーナの子には、ちゃんと自分の意思でパートナーを決めて欲しいと  思ってるからさ、政略結婚なんて絶対にさせない」 「えぇ、私もそう思うわ。でもその前にさせたいことがあるの」 「それは、地球へのホームステイだろう?」 「達哉にはお見通しね」 「あぁ、だってフィーナの考えることだからな」 「じゃぁ、私は今何を考えてるかわかるかしら?」 「わからない」  俺は正直に答えた。 「だから何時ものように教えて欲しい、どうして欲しいかって」 「……達哉、本当はわかってて言ってるでしょう?」    少しだけ機嫌を損ねたフィーナの声に、俺は苦笑いする。  そしてフィーナのほほにそっと手を添える。 「あ……んっ」 「お休みのキス、これであってるかな?」 「……正解よ」  そう言うとフィーナからも口づけしてきた。 「また明日から大変になるな」 「そうね」    フィーナは顔を上げる、天窓の向こうに地球が見える。  俺たちは明日から外交と、新婚旅行をかねて、地球連邦の各都市を回ることになっている。  残念なのは、新婚旅行がおまけでほとんどが外交の執務ばかりということだ。 「でも、俺にはフィーナがいる」 「えぇ、私には達哉がいる」  二人で笑いあう。 「明日からもよろしくね、達哉」 「こちらこそ、よろしく、フィーナ」  明日からまた新しい日々が始まる。  けど、もう一人で頑張る必要は、無い。  俺はフィーナを支え、フィーナに支えられて、歩いて行くのだから。
7月22日 ・夜明け前より瑠璃色な Moonlight Cradle sideshortstory「恋人の最後の夜」 「お疲れ様、フィーナ」 「達哉もお疲れ様」  満弦ヶ崎に用意されたホテルの最上階のスイートルーム。  今このフロアには俺とフィーナしか居ない。  二人だけの時間……なんだけど。 「さすがにきついな」 「そうね」 「フィーナはそう言ってるけど平気そうな顔してるな」 「そういう風に見えるようにしてるだけよ、私だって疲れてるわ」 「だよな」  いよいよ俺とフィーナが正式に認められる、そして結婚する日が明日に  控えている。  俺たちはここ数日は式のリハーサルに費やされていた。  普通の結婚式なら段取りだけで済まされるだろうが、フィーナとの式では  そうはいかない。  地球、月、両星全世界に生中継される。その上、参列者には両国首脳や高官など  1000名を超える。  そのためのスケジュールが秒単位で組まれていた。  実はこのスケジュールには俺とフィーナのわがままも含まれている、だから  結婚式本番のタイムスケジュールが厳しくなってしまった。  式は月で行われるか地球で行われるかはやはり両国の間でもめたが、この件は  フィーナが折れる形で決着がついた。  月の王女の式が地球で行われる事になったのだ。  月の譲歩を引き出した地球連邦としては満足な結果だろうが、月の民達は不満に  思うことだろう。  だから、俺とフィーナの最初の結婚式のパレードは式の後、月で行われる。  もちろん、満弦ヶ崎の会場から中央連絡港までの移動もパレードになるが  正式なパレードは月が最初、ということで両国がフィーナに納得させられた形に  なっている。 「式とパレードの件、みんなには本当に申し訳ないわね」 「いいじゃないか、結果からいえば両国とも納得してるんだし、その中に俺たちの  意思も織り込めたのだからさ、フィーナ」 「ありがとう、達哉」  冷蔵庫に用意してあったドリンクをフィーナに渡してから、同じソファに座る。 「式を挙げたら二人で行こうって約束したんだからさ」  俺とフィーナは夫婦になって最初に行く場所を決めていた。  そのためには式の日に月に居なくてはいけないのだから。 「トランスポーターが使えれば楽なんだけどな」 「でも、私は往還船の方が良いわ。その方が実感できるもの」 「それもそうだな」 「ところでさ、フィーナ。もうこんな時間なんだけどさ……」  夜も遅い時間、普段ならまだ業務や執務が残ってる時間かもしれないが  今日はもう何も無い。 「フィーナは眠い?」 「そう言う達哉は?」 「まだ眠くない、ちょっと興奮してるのかも」 「達哉は子供っぽいわね」 「そういうフィーナもだろ?」 「えぇ、私もまだまだ子供なのかもしれないわね」 「フィーナは子供じゃないさ、立派な王女だよ」 「あら、私は王女なだけなのかしら?」 「……俺にとってはただの女の子だな、明日からは俺のお嫁さんになる女の子」 「……ねぇ、今夜は恋人として最後の夜、なのよね」 「そう、だな」 「達哉……」  寄り添ってくるフィーナ。 「そういえば、昔の俺はここで空気読まなかったんだよな」 「そうだったわね、汗臭いからお風呂に入ろうって言ったのよね」 「今は汗臭い訳じゃ無いけど……せっかくだから風呂に入ろうか」  ロイヤルスイートルームのバスルームは朝霧家の物より広かった。  二人が楽に浸かれる浴槽に、俺はフィーナを後ろから抱きかかえて入っていた。 「温かいわね」 「だな……」  お湯は温かい、だけどフィーナと密着してるところは温かいどころか熱く感じる。 「達哉、もう元気になってるわよ?」 「そりゃ裸のフィーナと一緒に居ればそうなるさ」 「あら、一緒に居なくてもそうなったときあったわよね。あの日の襲われた夜の時とか」  くすり、と笑いながらフィーナはあの夜のことを持ち出してきた。 「あの時はごめんなさい」  明かりがついていたフィーナの部屋に勝手に入ったあげくに、眠っているフィーナを  襲ってしまったのだ。  今なら若かったで済ませられる事……いや、今でも済ませられる事じゃない。  このことをフィーナが言うとき、俺に勝ち目は絶対なかった。 「どうすれば許してくれますか、俺のお姫様」 「そうね……優しく髪を洗ってくれるかしら?」  風呂上がり、俺はベットに倒れ込んだ。  精神的に興奮していても、肉体的には疲れているから眠気はやってくる。 「そういえばさ、フィーナ。俺一つ謝ることがあった」 「そうなの?」 「あぁ、結婚式の日を明日にしたことなんだ」 「式の日取りの事? 明日が日程的に式を挙げる事の出来る一番早い日なのでしょう?」  結婚式の日取りもフィーナと相談しながら決めたことだった。  俺たちの結婚が認められ、それが公表されてから一番早く式を挙げる事の出来る日程が  明日だったのだ。 「本当はさ、式の日をフィーナの誕生日にしようかって思ってたんだ」 「それは素敵な話だけど、ならどうして?」 「……俺が我慢できなかった」 「え?」 「やっとフィーナと結婚が認められて、夫婦になれるって思ったらさ、我慢出来なかった。  たった2ヶ月先なのにな」 「……やっぱり達哉は子供っぽいわね」 「言い返せないな」 「でも、私は明日で良かったと思うわ」 「どうして?」 「私だって……早く達哉と夫婦になりたいから」  うつむいてほほを染めるフィーナ。 「ったく、これ以上フィーナに惚れさせてどうするつもりなんだ?」 「達哉こそ、何度も惚れ直させてるくせに」 「……そうなのか?」 「そうよ」 「じゃぁお互い様だな」 「えぇ、一生私に飽きさせてあげないからね?」 「安心して、フィーナ。飽きることなんて絶対無い、俺は一生フィーナを愛し続ける」 「私もよ、達哉。愛してるわ」  二人でベットに入る。  いよいよ明日。  まるでおとぎ話だと思ったあの日から続いた物語の区切りの日。  そこはゴールでは無く……  フィーナと俺との、新たな物語が紡ぎ始める日。 「明日はよろしくね、達哉」 「こちらこそ、最高の日にしような、フィーナ」  お互いの体温だけを感じる世界を感じながら、ゆっくりと眠りに落ちていった。
7月20日 ・大図書館の羊飼いSSS”彼氏の威厳” 「ほら、こうしてベランダの扉を開けると涼しいだろう?」 「玄関も開けないと風が流れないですよね、筧さん?」 「……今汐美の上空にあるのは、寒冷高気圧っていって真夏でもこうして涼しい  風を運んで来てくれるんだ」 「……」 「それにさ、目の前に水が流れてるだろう? その上を風が通るから涼しいし  水の音って涼しげで良いと思うんだけど」 「……で、筧さん。言いたいことはそれだけですか?」 「……ごめんなさい」  俺は佳奈に頭を下げた。  今朝になってエアコンの調子が悪くなり、修理を頼むことになっていた。  なっていた、というのは、結局修理が来なかったから。  来なかった理由は、俺が電話で修理依頼をすると佳奈に言った事をすっかり  忘れていたからだ。 「いくら涼しいからって言ってもベランダの扉を全開で寝るのはちょっと抵抗  ありますよ、筧さん」  確かに男だけなら問題なんてないかもしれないが、佳奈は女の子。  さすがに扉全開で寝かせるのは俺だって止めるだろう。  かといって、扉を閉め切っていてはさすがに蒸すだろう。 「しかたが無いですね、筧さん。ちょっと別荘に行きましょうか」 「別荘?」  二人で身支度を調えてきた場所は弥生寮だった。 「別荘か、言い得て妙だな」  俺と同居するようになっても佳奈は寮の自室に戻ることがある。  部屋の掃除などの維持などあるが、俺の部屋はワンルーム、佳奈の私物すべてを  持ち込むほど広くなかった。  考えた結果、その季節に必要な物だけ持ち込んで他は佳奈の寮の部屋に置いておく  事になっていた。 「何にも無いところですけど、エアコンは完備してますよ?」 「俺はエアコンが無くても佳奈が居てくれれば何処でも良い」 「ぐはっ!」  俺の言葉に佳奈が小さな胸を抑える。 「ここに来て不意打ちですか、筧さん!? それと、今ものすごく不穏な事  考えませんでしたか?」 「いや、不意打ちも何も本音だし」 「意図的に私の疑問をスルーした点は今回見逃してあげますね」  そう言って微笑む佳奈の顔は何故かちょっと怖かった。 「ふぅ、涼しいなぁ」 「えぇ、エアコンの大勝利です、ぶい!」  いくら特別な高気圧のおかげで涼しいとはいえ、真夏には変わらない。  エアコンで管理された部屋はとても過ごしやすかった。 「ところで筧さん、この後どうします?」 「ん……」  本を読むのも良いかもしれないけど、それは部屋に置いてきてしまった。  佳奈の部屋にも蔵書はあるが、ほとんど読んだことある本ばかりだ。 「そう、だな……佳奈で遊ぶか」 「なんですと!? 私と遊ぶじゃなくて私で遊ぶですか!?」 「あ、ゴメン。言い間違え……たのかな、これって」 「酷い、私とは遊びだったのですね!」 「それは絶対無い」 「ぐはっ、即答……今夜の筧さんは私を殺す気ですか?」 「死なれると困るな、俺が生きていく意味が無くなる」 「ぐほっ!!」  なにやら女の子らしからぬうめき声を上げてベットに倒れ込んだ。 「私の精神的ライフはレッドゾーンですよ〜」 「精神的なのに体力ってどういうことだ?」 「そういうツッコミ待ってました、きゃほーい!」  佳奈はハイテンションになっていた、というかハイテンションになって  何かをごまかしているようにも思えた。 「とりあえずは寝るか」 「え?」 「無理はさせたくないし、一度部屋に戻るから明日は少し早めに起きないと  いけないしな」 「そ、そうですよねー」 「それに、ここに俺が泊まるのは本当はやばいんだろう?」 「あー、はい。明確な規則じゃないんですけどね」  弥生寮は男女とも入居している寮ではあるが、一応フロア別に男女の入居を  ちゃんと分けている。  佳奈が借りてるフロアはもちろん、女生徒用のフロアだ。  そこに男子生徒が遊びに来るだけならともかく泊まるのはまずい、ということだ。 「特に寮母さんが来るとかそういうのは無いんですけどね」 「あまり騒ぐとまずいだろうな」 「はい、残念ながらその通りです」 「そうだな、残念だな」 「はい……って何が残念なんですか!?」 「先に残念って言ったの佳奈だからな」 「私のせいですか!?」 「佳奈、声」 「あ」  慌てて声を抑える佳奈。 「まぁ、残念なのは取っておくとして今夜はゆっくり休むことにしようか」 「そうですね、たまにはそういう夜もあっても良いと思いますよ」 「それじゃぁ一緒のベットで寝ようか」 「私の葛藤を無視しないでください!」 「一緒に寝るだけだよ、何もしない」 「……何もしてくれないんですか?」 「……」  手を出したら間違いなく我慢出来なくなる、だけど佳奈の期待は裏切れない。 「……お休みとおはようのキスだけなら」 「はい!」  ・  ・  ・ 「それで、筧さん。言い訳はありますか?」 「……生徒会が忙しい、じゃ駄目ですよね。ごめんなさい」  翌日も修理依頼の連絡をし忘れた俺は、佳奈に頭を下げるしか無かった。 「そういえば筧さん、寮の私の部屋の隣の生徒、帰省したそうですよ」 「……佳奈?」 「それに、弥生寮って思ったより防音設備整ってるんですよ?」 「えっと……」 「汚名返上のチャンスですよ、筧さん」 「……わかった、ついでに彼氏としての名誉も挽回しておくか」 「期待してますよ、筧さん」
7月15日 ・大図書館の羊飼い sideshortstory「夜のデート」 「うー」  参考書を片手に問題を解いている凪がうなりだした。  どうやら限界が来ているようだ。 「その問題終わったら休憩にするか」 「京太郎の鬼! 悪魔! でも大好きだよ」 「っ! てかなんだ、その告白は?」 「あ、うん、この前読んだ雑誌に書いてあったの、どんなお兄ちゃんでも  一発で落としちゃうんだって」 「あのなぁ、落とすも何も俺はすでに凪に落とされてるんだぞ?」 「わ……いま、きゅんとした……落ちるってこういう感じなんだ」 「いや、俺に聞かれても。それよりもこの問題だけ解いてから終わりにしよう」 「京太郎の鬼! 悪魔! でも」 「俺も大好きだよ、凪」 「なっ!」  仕返しをしようと台詞を先回しに言ってみたが、思った以上にこれは恥ずかしかった。 「おわったー、べんきょーしゅうりょー!!」 「お疲れ様」 「つかれた〜」  ベットに飛び込むように倒れ込んだ凪。短いスカートの中身が見えそうになった。 「ねぇ、京太郎。これからデートしよ♪」 「外は暑いぞ?」 「だから、海!」 「海?」 「そう、今日は海の日だってさっきテレビで言ってたから」 「凪、そのニュースは俺も見たけど、ちゃんと内容まで覚えてるか?」 「見たっけ?」 「……」  俺は黙って自分のスマートフォンを操作して、画面を見せる。 「ん?汐美学園のweb新聞……あー」  webニュースの記事は学園都市内にある海岸の話題だった。  紹介されてるニュースの写真では、海岸にあふれるばかりの人、人、人。 「今から言ったら泳ぐことも出来なさそうね」 「行くなら朝から行かないとな」 「ざーんねん」 「……」  ふと思いついた。実行出来るかどうかシミュレートしてみる。  ……多少臨機応変にしないといけなくなりそうだが、出来ないことは無いかも。 「よし、休憩終わり」 「えー!! 勉強終わりじゃないの!?」 「昨日の夜、勉強そっちのけにしたのは凪だろう?」 「え、あ……」 「そのときのこと覚えてる?」 「う、うぅ……」 「じらさないでよぉ、京太郎〜」 「明日はちゃんと勉強するか?」 「する、するから早く!」 「というわけだ、俺が買い物行ってくる間にこの問題解いておくように」  問題集のページを指定しておく。 「買い物行くの?」 「あぁ、昼飯もそうだが、夕飯も買っておいた方が良いだろうから」 「あ、私も買い物行く、夕食作ってあげるからさ」 「その前にこの問題を解いておくように」 「うー、京太郎の鬼、悪魔!!」  今回は最後の好きという台詞は無かった。  買い物から帰ってきたとき、凪は言われた部分の問題をすべて解き終えていた。  なんだかんだ言っても凪は頭が良い、教えていけば行くほど、いろいろと吸収  していく。怠け癖さえ無ければもっと早く学力が追いついていただろう。 「ねぇ、この後どうするの?」 「今日はもう勉強は無しだから自由時間にしよう」 「やった、京太郎愛してる!」 「調子いいなぁ」 「で、ナニしようか?」 「今絶妙に発音おかしくなかったか?」 「え、そう?」 「……ま、いっか。とりあえず疲れなければ何でもいいか」 「なんだか年寄り臭いよ?」 「いいんだよ、俺は図書部なんだから」 「言い訳になってないって」  そういう凪も,この暑さの中、外に出る気も無いようで、結局日が暮れるまで部屋で  だべって過ごした。 「さて、そろそろかな」 「ん? あ、夕食の準備しなくっちゃね」 「あ、それはいい」 「材料買ってきたんじゃないの?」 「俺は夕飯を買ってくるって言っただけで、材料を買ってくるとは言ってない」 「何へりくつ言ってるのよ」  凪がジト目になる。 「それよりも今からデートしよう」 「……へ?」 「ほら、早く着替えて着替えて」  俺は凪を立ち上がらせる。 「ちょっと、京太郎?」 「服の下に水着を着ておいてくれ」 「ちょっと、京太郎ってば!!」 「へぇ、京太郎のくせにロマンチックじゃないの」  日が暮れてから訪れたのは、学園都市内にある海岸だった。  webニュースで報じられた午前中と違って日が暮れてからは人気が無かった。  俺は適当なところにレジャーシートをひいて持ってきた鞄を置く。 「凪、まずは準備体操だ」 「えー、ここはすぐに海に入るんじゃないの?」 「駄目だ」 「全く京太郎は真面目なのか不真面目なのかわからないわね」  そう言いながらも体操にはちゃんとつきあってくれた。 「それじゃぁ海に入ろうか、だけど腰の高さまでだからな」 「どうして?」 「夜の海の中は昼間以上に上下の感覚が鈍くなる、なにせ太陽の明かりがないから  どっちが上かわからなくなるんだ。それだけおぼれやすくなる」 「それじゃぁ今は泳げないの?」 「そんなに泳ぐほど俺に体力があると思うか?」 「いや、そんなに自慢するようにいわれても……」 「それよりもほら、行くぞ」 「あ、ちょっとまってよ」  凪は慌ててきていたスカートと上着を脱ぐ、赤い縞模様のビキニ姿となった。 「ん、どうしたの?」 「……あ、いや、なんでもない。」 「あー、もしかして私の姿に照れてるとか?」 「……」  俺は無言で凪の手を取り海に走り出した。 「ちょ、京太郎ってば、照れ隠し危ない危ない!」 「照れ隠しじゃない!」  岸からあまり離れず、腰くらいの高さの場所で俺たちは仰向けに浮かんだ。 「わぁ……」  学園都市の外れだけあって街灯も少ない、それだけに夜空が綺麗に見える。 「綺麗、だね」 「あぁ」 「……」 「……」  二人で手をつないで海に浮かぶ。 「ありがと、京太郎。私の願いを叶えてくれて」 「願い?」 「海に行こうっていったでしょ? あの写真見てすぐに諦めたけど、京太郎は  考えて、そして叶えてくれた。だから、ありがとう」 「そっか、ならどういたしまして」 「京太郎、返事が上から目線」 「俺にどうしろ?」 「ふふっ」  凪の笑う声が耳に心地よかった。 「ところでさ、帰りの着替えはどうするの?」  砂浜に戻ってきてすぐに凪がそう訪ねてきた。 「着てきた洋服を着ればいいじゃないか」 「身体はタオルで拭けるけど水着はなかなか乾かないよ?」 「家はそう遠くないし、そのままでいいかなぁって」 「……京太郎はやっぱり京太郎よね」 「どういう意味だよ」 「あのね、京太郎の水着は大きいズボンでしょ?」  確かにサーフタイプと呼ばれる半ズボンより大きい裾を持つタイプだった。 「あんた、その上からズボンはけるの?」 「……」  来るときは濡れてなかったから簡単だったけど、今ははけそうになかった。 「まぁ、俺はこのままシャツとパーカー羽織れば問題ないと思うけど」 「はぁ……せめてジャージくらい持ってくれば良かったわ」  そう言いながら凪は水着の上からスカートをはいた。 「やっぱりスカートにくっつく」 「ごめん、着替えれるとは思ってなかったからさ、そこまで考えてなかった」  夜に海の家は営業していない。水着ならすぐ乾くかと思ってたが甘かったようだ。 「別に良いわよ、脱いで帰る訳じゃ無いし」  シャツを着る凪、その胸のところがすぐにしめって水着のストライプが透けて見えた。 「……凪、これ着てくれないか」  俺はパーカーを脱いで渡した。 「へ、どうしたの?」 「頼む,何も考えずにこれを羽織ってくれ」 「あ、うん……」 「よし、それじゃぁ帰るか」 「えぇ」  海岸から歩き出した俺たちは女の子の悲鳴みたいな声に立ち止まった。 「何、今の!?」 「……」 「ねぇ、京太郎。今のって悲鳴じゃないの?」 「……悲鳴っぽく聞こえるのは間違いじゃない、よな」 「何落ち着いてるのよ、警察に連絡しないと」  スマートフォンを取り出す凪の手を押さえる。 「京太郎!?」 「凪、耳をすませてみろ」 「……?」  言われたとおりに耳をすませる凪。  聞こえてくるのは波の音、風の音、そして風にのってくる…… 「あ……」  女の人の甘い声だった。 「まさか、こんな外で?」 「凪、帰るぞ」 「う、うん……」  それから部屋につくまで二人は無言だった。 「ただいま」  二人で部屋に戻る。 「ふぅ、疲れた〜」 「凪、ベットに寝るのは着替えてからにしてくれ」 「あー、うん。着替えてくる〜」  着替えを持ってバスルームへと消えていく凪。そしてすぐに悲鳴が聞こえてきた。 「なにこれ、私のシャツ透けてるじゃない!! あ、だから?」 「そういうことだ」  俺は昼の買い物で買っておいたおにぎりを冷蔵庫から出し,お湯を沸かす。 「そっか……ありがと、京太郎は優しいね」 「そんなんじゃないさ、凪のその姿を誰にも見せたくないだけだよ」 「じゃぁ、京太郎は見たいの?」 「そりゃ……って、凪!?」  振り返った先に凪はバスタオル姿の凪が立っていた。 「着替える前にお風呂入りたいんだけど、まだお湯がたまってないの、だからね」  凪は俺の手を取る。 「お湯がたまるまでいつもの、おねがいして……いい?」 「……あぁ」  俺は凪と一緒にバスルームへと向かった。 「凪、かゆいところはないか?」 「うん、大丈夫、気持ちいいよ」  凪が座って俺がその後ろに立つ、そして凪の髪をシャンプーで洗う。  凪は頭を洗ってもらう事を良くおねだりしてくる。 「なんかこうしてもらうと安心できるの」  普通の子供なら小さい頃親にこうして頭を洗ってもらう機会もあったのだろう。  ただ俺たちの場合、そういう環境に無かった。 「よし、シャワーで流すぞ」 「うん」  頭からシャワーでシャンプーと汚れを一緒に洗い流す。  そしてすぐにトリートメントをつける。 「ん……んふぅ……」  凪は気持ちよさそうにしている、のは良いのだけど……  バスタオルを巻いているとはいえ、頭からシャワーでお湯をかぶればタオルは濡れる。  凪の大きな山にタオルが張り付き、身体のラインがしっかりと浮かんできている。  そしてバスタオル上からもわかる尖端。 「……」  心を空にして、トリートメントも洗い流す。 「ありがと、京太郎」 「あぁ、それじゃぁ風呂に入るか」  バスタブにお湯は半分くらいたまっている。二人で入るにはちょうど良い量だ。 「ねぇ、今日はどうする?」 「……」 「髪を洗ってくれたお礼に、何時ものように洗ってあげようか?」 「……」 「くすっ、京太郎は素直だね」  凪は視線を下ろしながらそう言う、確かに正直に反応してしまっている。 「それじゃぁ」  凪は手にソープをまぶし泡を作ると、まとっていたバスタオルを脱ぎ捨てた。 「背中から洗ってあげるね」  さっきまで凪が座ってた椅子に俺を座らせると背後に回る、そして 「えい!」  俺に抱きついてきた。 「な、凪さん!?」 「今日は嬉しかったから、最初からサービスしてあげる」 「疲れた〜」  凪は下着姿でベットに倒れ込んだ。 「俺もさすがに疲れたよ、凪、夕飯はどうする?」 「んー、たべるー」  わかしておいたお湯をインスタントの味噌汁のカップに注ぐ。 「こういうときコンビニって便利よね」 「そうだな」 「でも、明日はちゃんとしたの作ってあげるからね」 「あぁ、期待してるよ」 「その目は期待してないでしょ?」 「そうでもないさ、明日の夜は明日にならないとわからないからな」 「もぅ」 「なぁ、凪」 「何?」 「今度はちゃんと朝から海にデート、行こうな」 「……うん、期待してる」 「よし、それまでに問題集のノルマ終わらせような」 「えー!! 気分を持ち上げておいてここで落とすの!!  京太郎の鬼、悪魔!! でも」 「「大好き」」  二人の言葉と唇が重なった。
7月12日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS”現在と未来と(いまとさきと)” 「ふぅ、やっと落ち着けるな」 「そうね」  千堂家の離れに作らせておいた露天風呂、そこであたしは愛用の大きな  杯を手に、酒に浮かぶ月を肴にしながら、一息ついていた。  今年は帰ってくる予定では無かった、あたしの誕生日。  桐葉と瑛里華の策略にはめられたあたしは帰ってこざるを得なかった。 「でもよかったじゃ無い、伽耶ちゃんにあんなに嬉しそうになつかれて」 「ま、まぁな」  そう、その策略は瑛里華と支倉、いや、孝平の娘であたしの孫になる”支倉伽耶”に  電話で呼ばれてしまったのだ。  いつの間にか桐葉は携帯電話の操作をマスターしており、誕生日の数日前に  瑛里華から電話を受けていたのだ。  その際、孫の伽耶からあたしに話があると言われて受け取った電話。 「おばあちゃんのたんじょうびのお祝いをしたいので帰ってきてください!」  可愛い孫のお願いを断る事なんていまのあたしには出来ないことだった。 「まったく、桐葉もあたしをだますとは人が悪いな」 「ごめんなさいね、伽耶。私は人じゃなくて眷属だから」 「……」 「あ、でも眷属である前に伽耶の親友ね、そして伽耶の娘のクラスメイト」  そう言うと桐葉も杯に入っている酒に口をつけ、喉を潤す。 「そのクラスメイトの頼みですもの、気が向けば叶えてあげてもいいんじゃないかしら」 「何を言うか、桐葉だって伽耶には甘いではないか」 「えぇ、だって伽耶と違って可愛いんですもの、伽耶ちゃんは」 「む……」 「私の事、ちゃんときりはおねえちゃん、って呼んで慕ってくれるし」 「納得いかないな、あたしはおばあちゃんなのに」 「あら、伽耶はおばあちゃんって慕ってくれる孫は嫌なのかしら?」  桐葉は空になっていたあたしの杯に酒を足しながら、そう訪ねる。 「まったく、嫌じゃないから納得いかないのだ」 「そう?」 「当たり前だろう? 娘のクラスメイトなら、その子からすればおばさん、であろう?」  そういった瞬間、背筋に寒気が走った。 「っ!?」 「伽耶、私は”きりはおねえちゃん”で良いの」 「そ、そうだな……納得はしないが、納得しよう」  一瞬とは言え、恐ろしい殺気だった、さすがはあたしの眷属で……親友だな。 「……」 「伽耶?」 「なんだ?」 「何か悩み事?」 「いや、特には無いのだがな……」  あたしは伽耶のおばあちゃんをちゃんとしているのだろうか?  出来損ないの母が、その娘から祖母として見てもらえてるのだろうか?  いつも不安になる。 「いっそのこと身体を成長させるべきだろうか」  いきなり老けた身体になるのは精神的にきついし、何よりあたしは今の身体を気に  いっている。  いくら自在に変化出来るとは言え、さすがに一気に老けると伽耶を驚かせる事に  なってしまうだろう。 「伽耶、そんな心配はいらないわよ」 「桐葉?」 「伽耶は今のままで充分、おばあちゃんをしてるわよ」 「……そう、か」 「まぁ、見た目は子供同士で仲よさそうだけどね」 「……」 「それに、伽耶の身体を成長させても、たぶん大きくならないわよ?」 「桐葉、何の話だ?」 「あら、胸の話じゃなかったの?」  そう言いながら桐葉は身体にかかった長い黒髪をそっと手ではらう。  同姓から見てもわかる、良い身体……特に、良い胸だった。 「……あたしだって」 「夢見るのは勝手だけど、あとでショック受けて落ち込まないでね、伽耶」 「うるさい!」  まったく、桐葉はあたしをなんだと思ってるんだ。 「でも、私は今の伽耶が大好きよ」 「っ! ななな、何を言っておる!?」 「私の気持ちだけど?」 「そ、そうか。この場合は礼を言うべきなのだろうな……」 「良いのよ、礼なんて。私と貴方の仲、なんだから」 「そうか……」  気づくと杯の酒は空になっていた。 「桐葉、すまぬがもらえるか?」 「はい、伽耶」  酒が注がれた杯には、月が浮かんでいる。 「良い夜だな」 「そうね、良い日だったわね」 「そう、だな」  来年の今日、あたしは何をして、何を思うのだろう?  長い長い時を生きてきて、時の流れなど気にしない生き方をしてきたが。 「1年とは長いものなのだな」  桐葉は何も言わずに杯に酒を注いでくれた。
7月7日 ・sincerely yours your diary short story「七夕の夜」 「リリア、大丈夫?」 「うん、ありがとうお父さん」  そっとリリアの手を取り引き上げる。 「シンシアも……?」 「大丈夫よ」  危なげなく屋根の上に上がってきた。  七夕の夜、テレビ番組で満弦ヶ崎でも天の川が見れるという予報が出ていた。  満弦ヶ崎では梅雨という季節柄、星空の見ることが出来ない時期なのだが、今年は  梅雨明けが早く、今夜の天気は快晴だそうだ。  ならばせっかくだから屋根の上で星を見ようという話になった。   「思ったより見えるね」  リリアは屋根に寝転んで鑑賞モードに入っていた。 「……そうね」 「シンシア?」 「なんでもないわ」  シンシアの声は心なしか元気が無いように思えた。 「高いところが怖いのか?」 「あー、それはないわ。だって」  シンシアはポケットから何かを取り出した、それは飴の包みだった。  それを屋根の上に放り投げる。 「あ」  リリアの驚きの声がする、飴の包みは屋根の縁のところで突然止まった。 「ちょっとした重力制御技術の応用よ、今この家の屋根の外には誰も落ちないように  なってるの」 「何が応用よ、それってわたしの生まれた時代でも最新鋭の技術じゃないの!」 「んー、だって私にとっては別に最新でも失われてもいないんだからいいんじゃない?」  危なげない足取りで屋根の縁で止められた飴の包みを回収するシンシア。 「……ほどほどにしておいてくれよ」  それでも俺はシンシアの手を取る。落ちないとわかっていても心配なものは心配  なのだから。 「ありがと、達哉」 「……」  何かが引っかかる、それがわからない。  のど元まで出かかっているのに、出てこないもどかしさ。  それがとても大切なことだと思うからこそ、思い出さないといけない気がする。 「あれかな、天の川って。だとすると……織姫と彦星は、あれなのかな?」  俺は座ったまま夜空を見上げる、綺麗な星空が見える。  でもなんだか俺には感動が無い。  ……そこまで現実主義者って訳でもないはずなんだけどな。   「なんだか手が届きそう……」 「手が届く……」  その言葉にシンシアが握ったままの手に力を込めてきた。  それは、不安になった子供のような…… 「……」  思い出した、思わず声に出そうになったのをなんとか飲み込む。  これだけ綺麗に見える星空、俺はそれ以上の星空を見たことがあった。  そこは地上から見上げた星空ではなく、宇宙の中に浮かんでいたような空間。  周りは投影されていた映像だったはずだけど、それはあまりにもリアルに、まるで  宇宙の中に一人取り残されたかのように思えた遺跡の中で。 「リリア」 「何、お父さん」 「シンシアはやっぱり屋根の上が怖いみたいなんだ」 「へ? た、達哉?」 「だからさ、シンシアの……お母さんの手を握ってあげてくれないか?」 「わ、私は怖いだなんて思って無いわよ? 「……いいよ、お母さん」  そう言うとリリアは手を伸ばす。   「ちょっ、なんでリリアは達哉の言うことは素直に納得するの!?」 「だって、お母さんがそんなこと言うとなんか裏がありそうだし」 「が〜ん!!」  わざとらしくショックを受けるシンシア。 「それに、お父さんが意味も無くそういうお願いをする訳ないし、ね」  そう言いながらリリアはシンシアの手を握る。 「あ……」  俺とつながれたシンシアの手。  その反対側はリリアとつながれている。 「……暖かい」 「お母さん?」 「……もぅ、リリアったら可愛いっ!」 「え、きゃっ!」  シンシアはリリアを抱き寄せた。 「達哉も、えいっ!」  俺もシンシアに引っ張られた、その勢いにリリアを抱き留めてるシンシアごと  抱きしめる形になってしまった。 「お母さん! それにお父さんまで! お父さんのえっち!」 「ちょっと待て、これは俺のせいじゃないだろう!?」 「いいのいいの、私がリリアを抱いてるんだから問題無し、達哉はリリアを抱いてる  私ごと抱きしめてくれればえっちじゃないよ?」 「お母さん!!」  そういう問題か? と突っ込みたくなるが。 「……まぁ、いっか」 「お父さんまで!!」  夜の屋根の上での騒がしい星の鑑賞会はまだ続いていた。 「でもさ、あれだけ騒いで近所迷惑じゃなかったかなと思うんだけど」 「大丈夫よ、重力制御技術のちょっとした応用で、音も遮断してたから」 「へぇ、すごいな」 「……すごいっていうか、ちょっとした応用で出来る技術じゃないはずなんだけど。  それをさらっと流すお父さんもすごいよね」  リリアに呆れられてしまった。
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