フィーナ誕生日記念SS
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9月29日

・夜明け前より瑠璃色な Moonlight Cradle sideshortstory「本当のパーティー」

 今年も国を挙げての私の誕生日の催し物は秒単位のスケジュールで進行していく。
 貴族達との謁見での、形だけのお祝いの言葉。 
 今は以前と違って私の立場が変わったこともあって、一部の貴族達の態度が
 変わってきているのですべてがいやらしい話じゃなくなってるので気が楽になったけど
 それでも変わらない貴族はいつまでたっても変わらない。
 酷い話になると生まれてきてもいない私の子供に仕えさせたいと売り込んでくる。
 それもいつものことと割り切ってスケジュールをこなしていく。

 王宮のテラスで集まった国民への謁見。
 昼の会食、地球連邦高官との会談、そして夜のパーティー。
 いつもは物足りない誕生日のスケジュールも、今年は違って感じる。
 それは……
「フィーナ、次の謁見に来る貴族は……」
 私のすぐそばに常にいてくれる達哉のおかげだった。

 今年の夏、達哉と結ばれ大きな結婚式を挙げることが出来た。
 それからの達哉は、いつも私と共にいてくれる。
 もちろん、王女しか参加出来ない事柄まで着いてはこれないが、それが終わるまで
 ずっと待っていてくれる。
 執務が終わって部屋に戻れば達哉が待っていてくれる、たったそれだけの、ううん
 私に取って待っていてくれる人という存在がものすごく大きかった事を結婚してから
 実感していた。
 だから、貴族の嫌みも笑顔で受け流すことが出来る。
 もう何も怖くなかった。

 たった一つのことを除いては。


「姫様、お疲れでしょうけどもう少しです」
 そう言ってミアが持ってきてくれたシャンパンで喉を潤した。
「ありがとう、ミア」
「姫様、ご機嫌が悪いのはわかりますけど、今日は姫様の誕生日のパーティーです」
「わかってるわ、それよりも私は今機嫌が悪そうに見えるのかしら?」
「普通の方にはわからないと思います」
「そう、ならまだ大丈夫ね」
「姫様……あの!」
「なに、ミア」
「えっと……もう少しで本日のスケジュールが終わりますので」
「えぇ」
 ミアが何かを言おうとしたのをごまかしたのはわかった。
 けど、それが何かを考えることはしなかった。
「達哉……」
 誕生日のスケジュール最後のパーティーに達哉は参加していなかった。

 最後のパーティー会場までエスコートしてくれた達哉は別な用事があってどうしても
 ここだけは抜けないといけないから、と頭を下げた。
「いいのよ、達哉にだって執務はあるのだから。それよりもこのタイミングで執務を
 要請してくる貴族達の方が問題よね」
 私の怒りの矛先はこの最後のタイミングで達哉を奪った執務へと向かっていた。
「でも、ここで別行動をすれば夜はずっと一緒だからさ、フィーナ。部屋で待ってるから」
 達哉は周りを見回して誰もいないことを確認して、そして触れあうだけのキス。
「フィーナ、また後で」
「えぇ、ではまた後で」

 ・
 ・
 ・
「ふぅ、もうこんな時間なのね」
 普段の執務の終わる時間から比べれば早い時間ではあるが、それでも日付が変わる時間に
 今日のスケジュールは終わった。
「ふふっ」
 部屋に戻れば後は明日のために休むだけ、そんな執務の日々だけど、戻れば達哉が
 待っている、そう思うだけで足が軽かった。

「達哉、ただいま!」
「おかえり、フィーナ」
 扉まで出迎えてくれた達哉に私は抱きつく。
「今日は甘えん坊だな」
「今日くらいいいでしょう?」
「俺はいつでも良いぞ?」
「それは駄目よ、私は月の王女でもあるんだから」
「でも、甘えん坊の俺の妻でもあるんだから」
「……えぇ」
 どちらからともなく、自然に唇がふれあった。

「フィーナ、夕食まだだよね?」
「えぇ、パーティーではほとんど食べてないわ」
 食事もちゃんと用意されている立食形式のパーティーだったけど、たいていの場合
 私は主賓、今日は主役。
 貴族や高官の挨拶などで落ち着いて食事がとれることはほとんど無い。
「じゃぁフィーナ、夕食にしよう」
 そう言って私の手を取って控え室の方へと向かう。
「ミアが用意しておいてくれたの?」
「準備したのは俺だよ」
「達哉が?」
「ほら」
 隣室には夕食の用意がされていた。
「あ、これって」
「おやっさんに材料送ってもらって、俺が作ったんだ」
 ホームスティの時にマスターのお店で頂いた料理。
 私が地球に訪れる度にマスターが腕を振るって用意してくれた、トラットリア左門の
 メニューにある料理だった。
「……もしかして達哉」
「な、なにかな?」
 私の言いたいことにすぐ気づいてくれる達哉は、視線をそらす。
「ふふっ、私は怒ってないわよ?」
「そ、それは良かったです」
「せっかくだから頂きましょう」
「あぁ、味の再現は完璧じゃないけど、そこそこまでは出来てるはずだ」
「期待してるわ、達哉」

 こうして誕生日の夜の最後に、二人だけの本当のパーティーが始まった。

 ・
 ・
 ・
「でも、こんな時間にこれだけ食べると太っちゃうわね」
「それは大丈夫だよ、フィーナ。食べた分の運動をすればいいんだかさ」
「そうはいってもスケジュール的に難しいわよ?」
「大丈夫、フィーナ」
「あっ……んっ」
 今日何度目になるかわからないキス、でも深くつながったキスは始めて。
「……」
「フィーナ、運動する前にお風呂に入ろうか」
 私は黙って頷いた。

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