思いつきSSログ保管庫
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雑記掲載SS保管庫 2012年第3期 9月29日 夜明け前より瑠璃色なMoonlight Cradle sideshortstory    フィーナ誕生日記念 「何度でも」 9月3日 FORTUNE ARTERIAL SSS”プール解放日”かなで編 8月29日 夜明け前より瑠璃色な Moonlight Cradle SSS”続いていく熱さ” 8月28日 FORTUNE ARTERIAL SSS”プール解放日”伽耶編 8月24日 乙女が紡ぐ恋のキャンバス SSS”男装の麗人?” 8月20日 乙女が紡ぐ恋のキャンバス SSS”ボクっ娘” 8月19日 FORTUNE ARTERIAL SSS”プール解放日”白編 8月11日 FORTUNE ARTERIAL SSS”プール解放日”瑛里華編 8月7日 夜明け前より瑠璃色な Moonlight Cradle SSS”夏の通り雨” 8月5日 FORTUNE ARTERIAL SSS”プール解放日”陽菜編 8月3日 夜明け前より瑠璃色なMoonlight Cradle sideshortstory 「記念日」 7月27日 FORTUNE ARTERIAL SSS”プール解放日”桐葉編 7月16日 夜明け前より瑠璃色なMoonlight Cradle SSS”送り火” 7月13日 FORTUNE ARTERIAL SSS ”迎え火” 7月7日 夜明け前より瑠璃色なMoonlight Cradle SSS”雨の七夕” 7月6日 FORTUNE ARTERIAL SSS ”クールシェア” 7月3日 FORTUNE ARTERIAL SSS 楽屋裏狂想曲”幻の議事録〜クールビズ編〜” 7月2日 FORTUNE ARTERIAL SSS ”クールビズ”
9月3日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS”プール解放日”かなで編 「またロリっ子に順番越されたー!」  俺の部屋にベランダから侵入してきたかなでさんは開口一番謎の叫びをあげた。 「あ、でもこのフレーズ懐かしいよね、こーへー」 「懐かしいも何もいきなりなんですか?」 「もう、こーへーったら最初からなの? なら!」  かなでさんはベットの上に立つ。 「私は最初からクライマックスだぜ!」 「・・・」 「あれ? つっこみ無し?」 「いや、どこをどうつっこめばいいのかわからないんですけど」 「もう、だめだぞこーへー、つっこみは大事なんだから」 「はぁ・・・それで、何の用事ですか?」 「おっと、大事な用事を忘れるところだったよ」  照れ笑いしながらかなでさんはベットの上に座る。 「とっても大事な用事なの」  そう語りだしたかなでさんの顔は真剣だった。  その様子に俺も気を引き締める。 「忘れたくても忘れられない、重大な・・・重大な・・・あれ?」 「かなでさん?」 「用事ってなんだっけ?」 「忘れられないんじゃなかったんですか!?」  思わずつっこみをいれる。  なるほど、確かにつっこみは大事だなと確信した。 「だいじょーぶだよ、こーへー。忘れられないんじゃなくて覚えてないだけだから」 「駄目じゃないですか!?」 「と、いうのは冗談でーす」 「・・・」 「や、やだなぁ、こーへー。ちょっとしたジョークだよ」 「それで、用事っていうのは何ですか?」  大事だと思ったつっこみよりも、話を先に進めるべきだと思った俺はその先を  かなでさんに促した。 「うん、実はね・・・最近私・・・こないの」 「・・・はい?」 「だからぁ・・・私の・・・こないの」 「・・・えと、一応確認したいんですけど、何が来ないんですか?」 「出番」 「・・・そんなことだろうと思いましたよ」 「酷っ!」  かなでさんはショックを受けた顔をしている。 「確かに制服シリーズやビーチクイーンズでも最後でも、ちゃんと出番あったんだよ?  それに、恥ずかしいけど裸エプロンも立体化されてるから別にはぶられてる訳所か  優遇されてるとおもうの」  突然言い出した説明のほとんどは意味がわからない。 「でもね! 夏休み中にプールのお当番まわってこなかったのは何故!?」 「あぁ、それはですね、かなでさん受験生ですよね? 勉強の邪魔をしちゃいけないと  思ってローテーションにいれてなかったんですよ」 「じゅけんせ・・・い?」 「・・・かなでさん?」 「あ、あはは、もちろん自覚してるからだいじょーぶだよ、こーへー」 「・・・」  俺はまっすぐかなでさんの目を見る。 「・・・」  すぐに視線を逸らされた。 「はぁ・・・まぁ、そう言うことです」 「でも、そのせいで出番ないのは駄目だよ、私だってメインヒロインなんだから」 「そのメインヒロインって・・・」 「駄目だよ、こーへー。考えるんじゃないんだ、感じるんだ!」 「・・・で、かなでさんは何がしたいんですか?」 「んとね、プール解放日のお当番でこーへーのお手伝い」 「手伝ってくれるのはありがたいんですけど、夏休みも終わってもうプールを開放  する日がほとんどないんですよ。それに俺のローテーションは終わってます」 「それはだいじょーぶ、今年の夏休みあけはちょうど土日だからお休み延長でしょ?」  確かに9月最初は土日なので事実上休みが終わり登校は月曜日からになる。 「でも、次の解放日のローテーションは会長と副会長って決まってますし」 「あ、いおりんならさぼるって公言してたよ」 「なっ!?」  会長、また逃げるのか? 「でね、その話をえりりんにしたら凄い勢いでどこかに走って行っちゃった」  その様子が目に浮かぶ。 「征ちゃんは秋のお祭りの事で忙しいから、こーへーの出番だね♪」 「・・・そうなるよな、やっぱり」 「でね、私、えりりんにエール送っておいたの。プール解放はこーへーと私にまかせて  遠慮なくいおりんにおしおきしてきてね、って」 「・・・準備万端ですね」 「えっへん、お姉ちゃんはすごいんです!」  ここまで外堀を埋められてしまったらどうしようもない。 「それじゃぁ今度の日曜日、お願いします」 「まっかせなさいっ!」  そうして日曜日のプール解放日。 「なんでみんないるのー!」  テントからかなでさんが叫ぶ。 「思ったより早く兄さんを見つけられたから今日は暇なのよ」  そう言う副会長。 「瑛里華先輩にお誘いを受けたので・・・」  白ちゃんは誘われただけのようだ。 「生徒である私が居るのに何か問題でも?」 「学院長であるあたしが居るのに何か問題でも?」  紅瀬さん&伽耶さんコンビ。 「私は、お姉ちゃんのお手伝いに来たんだけど・・・もしかして邪魔だった?」 「そんなことない、私のヨメが邪魔な訳ない! ありがとう、ひなちゃん!」  陽菜に抱きつくかなでさん。 「これだけ関係者が居れば何かあってもだいじょぶそうだな」  俺はテントに戻り椅子に座る。 「でも、これじゃぁこーへーとふたりっきりになれないじゃない、ぶーぶー」  その時、突然雨が降ってきた。 「これ、これだよこーへー、これでみんな寮に帰って私とこーへーで・・・」 「いきなり雨なんて・・・白、大丈夫?」 「はい、瑛里華先輩こそ大丈夫ですか?」 「・・・」 「うむ、今日は雨が降りそうとは思っておったがこんなにはやいとはな」 「そうね」 「・・・」 「孝平くん、プールどうしよう?」 「・・・なんでみんなテントに非難してくるのー!?」  かなでさんが叫んだ。 「更衣室よりこっちの方が近かったからよ、悠木先輩」 「むー!」  かなでさんの叫び声がプールに響いた。  テントに非難してきたのは生徒会関係者ばかり。  元から利用者が少なかった一般生徒はみんな更衣室に非難したようだ。 「どうしてこうなるのかなぁ・・・」 「別にいいんじゃないですか、かなでさん」 「こーへー?」 「こういう夏の想い出も良いと思いますよ」 「・・・そう、かもね。この夏最後の想い出がこういうのも良いよね」  かなでさんはそう言うと笑った。 「なら、雨の中みんなでプールで遊ぶのも良い思い出になるよね?」 「え?」 「ひなちゃん、こーへー、いっくぞー!」 「ちょっとお姉ちゃん!?」 「かなでさん!?」  かなでさんに引っ張られてプールへと連れて行かれる俺と陽菜。 「ほら、えりりんも白ちゃんもきりきりも伽耶にゃんも!」  その言葉に雨の中プールサイドに出てくるみんな。  こうしてかなでさんとの夏の最後の想い出は雨のプールとなった。 「こーへー」  遊んだ後、更衣室に戻る前にかなでさんに呼び止められた。 「夏の想い出づくりに、今夜いくから、ね♪」  そう言うとかなでさんはウインクした。
8月29日 ・夜明け前より瑠璃色な Moonlight Cradle SSS”続いていく熱さ” 「麻衣〜」  学院の中庭で草むしりをしてる麻衣に声をかける。 「あ、お兄ちゃん。どうしたの?」   「これ、差し入れ」  コンビニで買ったペットボトルを麻衣に放り投げる。 「ありがとう、お兄ちゃん!」  麻衣は嬉しそうに額の汗を拭ってからお茶に口を付ける。 「他の人の分も用意したけど、どこにいるんだ?」 「今日は私一人だよ」 「え・・・今日は何人かと一緒って昨日言ってなかったっけ?」 「その予定だったんだけどね、みんな都合が悪くなっちゃったみたい」  もう夏休みも終わりの時期だからね、と言いながら麻衣はお茶を飲む。 「宿題の追い込みとか、友達との約束とかいろいろあるみたいだし」 「それで今回も麻衣一人か?」 「うん」  一人しか来ないなら別に草むしりなんてしなくてもいいと思うけど  麻衣は真面目な性格で、こういうところで手を抜けないということを  俺は知っている。 「はぁ・・・来て良かったよ」 「お兄ちゃん?」 「それじゃぁ草むしり、ぱぱっと終わらせちゃおう」 「お兄ちゃんも草むしりするの?」 「あぁ、これは自由参加なんだろ? 駄目って言ってもするからな」  「お兄ちゃんは吹奏楽部じゃないんだよ?」 「麻衣が吹奏楽部に所属してる、それだけで理由になるさ」 「・・・ありがと、お兄ちゃん」 「暑いな・・・」  夏の終わりとはいえ、まだまだ残暑の続く時期。  さすがに日差しが照りつける中庭は暑かった。 「そうでもないよ、お兄ちゃん」 「麻衣は暑くないのか?」 「日差しにあたってれば暑いけど、でもね」  そう言うと麻衣は大きな木の下の、木陰に入って見せた。 「日陰だととっても涼しいよ」  俺は麻衣に誘われて木陰に入る。 「・・・本当だ」  木陰に入ったとたん、一気に暑さから解放された。  肌を撫でる風は、今までのなま暖かい風はなく、さらっとした涼を運んでくる。 「もう暦の上では秋だし、処暑も過ぎてるから」 「処暑?」 「うん、季節の区分手法にある、二十四節季の一つだよ。お兄ちゃんも立秋は  知ってるよね?」 「あぁ」 「その立秋の次の区分が処暑で、処暑が暑さの峠なの。これを越えたらどんどん  涼しくなっていくんだよ」 「へぇ、麻衣は物知りだな」 「そんなこと無いって」  そう言いながら麻衣は照れてるようだった。 「それよりも草むしり続けちゃおうか」 「そうだな」  中庭はすぐにおわり、校舎裏手の林に来る。 「この前やったばかりなのにもうこんなに・・・」  麻衣は定期的に草むしりをしていたようだが、それを越える速度で校舎裏の  林では雑草が育っているようだ。 「目立つ物だけむしるか」 「そうするしかないかなぁ・・・人手があれば一掃できるのに」  人手ばかりはどうしようもない。  俺達は草むしりを始めることにした。 「ふぅ」  疲れたような麻衣の声に、俺は振り向く。  俺に背中を向けている麻衣。  校舎裏は日陰とはいえ、やはり動けば汗をかく。    ・・・気のせいか、体操着が透けて下着が見える気がする。  パシッ! 「お兄ちゃん、どうしたの?」 「いや、なんでもない」  自分の両頬をはたいて気合いを入れ直す、その音に麻衣が驚いたようだったが  そのおかげで気づかれずに済んだようだ。 「・・・」  だが、気にしないようにと思えば思うほど、気になる。  それは、やはりこの場所が、あの時の場所だからだろうか。  麻衣と恋人になって、2度目の、あの場所・・・  パシッ! 「お兄ちゃん?」 「・・・なんでもない」  麻衣は一生懸命部活の為に動いている、それを俺が邪な考えで  邪魔をしてはいけない・・・  俺は一心不乱になって草をむしり続けた。 「これくらいでいいか?」 「お兄ちゃんすごい・・・」  雑念を捨てようと集中した結果、思った以上に吹奏楽部が使う場所が  綺麗になった。 「ありがとう、お兄ちゃん!」 「あ、あぁ・・・」  邪な事を考えないように集中しただけの結果に感謝されるのはなんとも  心地が悪い。   「お兄ちゃん、手伝ってくれたお礼・・・してあげようか?」 「俺はお礼が欲しくて手伝った訳じゃないからいいよ」 「それじゃぁどうして手伝ってくれたの?」  麻衣は下から俺の顔をのぞき込むように見上げてくる。  その目線に俺は思わず引き込まれてしまう。 「麻衣と一緒に居たかっただけ・・・はっ!」  言うつもりの無かった言葉が、思わず口からでてしまった。 「・・・お兄ちゃん」 「麻衣、その・・・」 「お兄ちゃん!」  麻衣は俺に抱きついてきた。 「これ以上お兄ちゃんに惚れさせてどうするの?」 「えっと、そう言うつもりじゃないんだけど・・・それはそれで嬉しいかな」 「もう、お兄ちゃん、大好き!」  処暑を越えて暑さの峠を越えた夏。  だけど、まだまだ熱い日々が続いていく・・・
8月28日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS”プール解放日”伽耶編 「それでは伽耶さん、半日の間ですけどお願いしますね」 「うむ、請け負ったからには最後まで勤めは果たすから安心せよ」 「はい」  少し気負ってるような気もする伽耶さんの返事だった。  夏休みも終わりに近い月末のプール解放日、教員や生徒会役員のスケジュールの  調整がつかず開催できなくなりそうだった。  そんなとき、瑛里華が伽耶さんに助けを求めることになり、こうしてなんとか  開催出来る運びとなった。 「それで、あたしは何をすればいいのだ?」 「基本的に何もする必要はありませんよ」 「何?」 「伽耶さんには居ていただくことが大事な仕事ですから」 「どういうことだ?」 「見ての通り、プールには前期課程も含め生徒が多数利用します」  さすがに夏休みの終わりが近い月末、最初のプール解放日と比べれば利用する  生徒の数は減ってきている。 「もちろん、生徒には男子と女子がいるわけで、伽耶さんには女子に何かあった  時に対応していただければと思ってます」 「何かとは何だ?」 「そうですね、万が一ですけど、女子が溺れた時の介抱とか着替えとかそういう  事です」 「うむ、たしかに年頃の女子が男に身体を触られるのは意識が無くても苦痛だろう」 「はい、だからプール監視には必ず男子と女子がペアを組んで行うんです」 「それで瑛里華はあたしに頼んできたのか」 「ですから何もなければする事もないんですよ」 「そうか・・・退屈になるな」 「この仕事は退屈なのが一番平和なんですよ」 「それもそうだな」  そう言って伽耶さんは納得したようだ。  それで会話が途切れてしまった。  なんか気まずい気がする。とりあえず話題を・・・そうだ。 「伽耶さん」 「なんだ?」 「今更ですけど、似合ってますよ、その水着」 「な!?」  俺の言葉に伽耶さんが驚いた顔をしたと思ったら赤くなって震えだした。  失敗したか? 「すみません、伽耶さんに似合ってて可愛いだなんてやっぱり失礼ですよね」 「な、か、かわ!?」  外見だけなら白ちゃんより幼いけど、瑛里華のお母さんなんだし、年齢だけなら  俺の何十倍も・・・ 「支倉」 「はい!?」  伽耶さんが俯きながら俺の名を呼ぶ、もしかして怒ってる? 「あたしがかか・・・かわ、可愛いだと?」 「ごめんなさい、つい本音が・・・あ」  なんだか自爆しまくってる気がする。  後悔してた俺の前で顔をあげる伽耶さん。  その顔は、怒ってはいなかった。 「そ、そうか・・・まぁ、生徒の水着だから素っ気ないのだがな、支倉に免じて  許してやろう」 「あ、ありがとうございます」  よくわからないけどなんとかこの場は乗り切れたようだった。 「伽耶さん、お茶をどうぞ、それとこれを」  俺は用意しておいたパーカーを伽耶さんの肩にかける。 「水着だと身体が冷えてしまいますからね」  テントの下に居る俺達に直射日光は当たらない、それに水面の上を渡ってくる  風は思ったより冷たい。 「すまないな」 「いえ、お願いしてるのは・・・そこ! 飛び込まないの」 「ごめんなさーい!」  プールに飛び込んだ生徒に注意する。 「支倉、よく見て居るな」 「それが仕事ですから」  俺は用意してあった水筒から熱いお茶を注ぐ。 「熱いので気をつけて下さいね」 「あぁ」  伽耶さんはゆっくりとお茶を飲んでから、プールの方を見渡す。 「・・・みな、楽しんでおるな」 「はい」 「これが瑛里華が作りたかった学院か」 「はい」 「・・・」  その時、俺達と目があった女生徒が手をふってきた。  俺は軽くそれに答える。 「気をつけて遊ぶんだぞ」  伽耶さんもそれに答えた。  修智館学院、もともと千堂家の幼い吸血鬼の、安心して居られる狩り場。  そのために創設された学院ということは俺も知っている。  でも、今は変わった。瑛里華が望む、みんなが楽しく過ごせる学院に。  そして誰もが主役になれる、学院に。 「まったく、みな子供なのだな」 「伽耶さんから見ればみんな子供ですよ。でもそれを言うなら伽耶さんは生徒の  お母さんですね」 「お母さん・・・か」 「えぇ、理事長なんですし、みなを見守って送り出す修智館学院の生徒の母親ですよ」 「・・・そうか、みなあたしの子供達か」  伽耶さんの横顔は、とても優しく、生徒を見つめる目は慈しみを持っていた。  これなら、俺達が卒業しても伽耶さんは大丈夫だな。  別にわかれる訳じゃないけど、卒業したあとの学院の事が気になっていたけど  もうそんな必要はないと確信できた。 「ねー、副会長」 「何?」 「さっきから一緒にいる女の子って副会長の新しい彼女?」 「っ!」 「そうなのか!?」 「ってなんで伽耶さんが驚いてるんですか!」 「いや、なんとなくだな」 「ったく、この方は今日のプール監視のお手伝いをしていただいてる理事長だよ」 「え? 理事長って学院長より偉い人?」 「そうだよ」 「・・・偉そうに見えない」  女子の言葉に俺は固まった。 「でも可愛いね、りじちょーせんせー。一緒に遊びませか?」 「あ、あたしとか?」 「こんなに可愛いりじちょーせんせーなら仲良くなりたいですし」 「うむ、でもあたしには監視の仕事が」 「行ってきていいですよ、伽耶さん」 「支倉?」 「生徒達とのコミュニケーションも大事ですしね、ほら!」 「こら、おすな!」 「大丈夫ですって、プールに飛び込んだら俺が注意しますから」 「するか!」  戸惑いながらも前期課程の女生徒達と遊ぶ伽耶さんを見て。  もう何も心配はいらなかった。  ・  ・  ・ 「でも、母様と生徒達の遊ぶ姿を見守るだなんて、まるで父親よね」 「・・・」  報告書を監督生室に届けた俺は瑛里華にそう言われて  なんだかちょっとだけ、ショックを受けた俺がいた。
8月24日 ・乙女が紡ぐ恋のキャンバス SSS”男装の麗人?” 「〜〜♪」  今日もいつものように厨房でお嬢様方の朝食の準備をする。 「そういえば昨日の配達で届いた野菜、あったんだっけ」  みずみずしい野菜達を手に取る。 「わぁ・・・どう調理すればお嬢様、美味しく食べて頂けるかなぁ」  頭の中でレシピを考える。  栄養のバランスと見栄えと、味もすべてにおいて喜んでもらえるように  がんばらないと! 「これだけみずみずしいなら、生のままの方が美味しいかな」  足りない栄養はドレッシングの方で調整すればいいかな。 「うん、そうしようっと♪」 「あら?」 「あ、昭江さんおはようございます!」 「今朝は早いですね、どうなさったんですか?」 「何となく目が覚めちゃったんです、だから朝食の準備に時間とれるかなって  思ったら居ても立ってもいられなくって」 「そうですか、あまり無理はしては駄目ですよ?」 「はい、わかりました♪」  昭江さんに心配されてしまったけど、お咎めはなかったので朝食の準備を  再開する。 「私も手伝います」 「お願いします」  昭江さんが厨房に立つ。 「・・・もはやどこから見ても立派な鳳のメイドですね」 「ありがとうございます♪」  立派だって誉められた、嬉しいな。  お嬢様にもそう誉められるように努力しないと。 「・・・あれ?」  何か根本的に間違えてるところがあるような気がする。 「・・・あ゛」  その事実に思いあたった。 「あの、昭江さん? 私って立派なメイドなんですか?」 「何を今更言われるんですか? 瑞希さんほどのメイドなんてそうそう居ませんよ?」 「あの・・・メイドって普通女性の事を言うんですよね」 「そうですけど、何か間違ってます?」 「・・・私、おと・・・女性じゃないんですけど」  男という単語は禁句なので遠回しに否定する。 「・・・あ」 「いま、あって言いませんでしたか!?」 「気のせいです」  しれっと答える昭江さん。 「大丈夫です、瑞希さんはメイド服が似合う、どこからみても立派なメイドです」 「スカートじゃなくてズボンが恋しい・・・」 「ズボン?」 「え?」 「あ、怜奈!?」  どういう神の悪戯か、このタイミングでお嬢様が厨房に入ってきた。  私は慌てて昭江さんの方を見る、昭江さんは諦めたような表情を・・・ 「あれ?」  なんか似たようなことが最近あった気がする。  その時のことを思いだして、それからもう一度昭江さんの方を見る。  その顔は間違いなく「諦めたような顔」ではなかった。 「怜奈、黙っていてごめんなさい」 「どうしたのよ、昭江」 「実は、瑞希さんの事なんですけど」 「・・・」  なんだかすっごく嫌な予感がした。けど、ぼろを出したのは私の方だから  口を挟む事が出来ない。 「実は、瑞希さんは男装の趣味があったんです」 「「はい!?」」  お嬢様と私の声がはもる。 「それはそれで個性なので良いとは思うのですが、仮にも鳳のメイド。  仕事とプライベートはわけるように指導をしてはいました。  ですが、最近プライベートの時間がとれず、瑞希さんに負担をかけてたようです」 「そんなことはありません!」  昭江さんのフォローに思わず口を出す。 「私は今の仕事が充実してますから、プライベートの時間が無いだなんて、  そんなことありません!」 「瑞希さん・・・」 「だから、お嬢様も昭江さんも気にしないでください」 「瑞希がそこまでいうなら私は何も言わないけど・・・」  なんとかお嬢様も納得されてくれたようだ。 「でも、男装の瑞希も見てみたいわね」 「・・・あはは」  男装の私って・・・それが本来の僕なんだけどなぁ・・・ 「でも瑞希って可愛いから男装しても男装した美少女になっちゃうんじゃないかな?」 「わぁ・・・」  男装しても美少女って、私にいったいどうしろと!? 「怜奈、そろそろ支度をしないといけない時間ですよ?」 「わ、本当だ。それじゃぁまた後でね」  そう言ってお嬢様は厨房から出て行かれた。 「何度も申し上げておりますが、迂闊な発言は控えてください」 「申し訳ございません・・・」 「でも・・・ふふっ」 「昭江さん?」 「男装しても美少女ですか・・・言い得て妙ですわね」 「・・・泣いても良いですか?」 「試しに怜奈の前で男装してみます?」 「うわわわぁん、昭江さんのいじわるー!」  その日の夜、昭江さんがわざわざズボンとシャツを用意してくれた。  本当に男装させる・・・ 「バカな・・・」  男装って思ってる段階でおかしいだろう、僕?  でも久しぶりのズボンやシャツ、パジャマに着替える前に袖を通してみるのも  悪くないかな。  メイド服を脱いでからシャツとズボンを着てみる。 「・・・あれ?」  なんかシャツはすーすーするし、肌触りが良くない。  ズボンは逆に布が脚にぴったりしてて歩きづらい。  これならシャツは身体にフィットしてるメイド服や制服の方がいいし  スカートの方が動きやすい気がしてきた。 「・・・バカな」  その事実にへこみながらもいつもの可愛いパジャマに着替える。  なめらかなシルクの肌触りが心地よい。 「うぅ・・・」  明らかに少女趣味のパジャマだけど、この肌触りの良さには抵抗できなかった。
8月20日 ・乙女が紡ぐ恋のキャンバス SSS”ボクっ娘”  今日もいつものようにメイド服を着て厨房でお嬢様方の朝食の準備を始める。 「今まで昭江さんが一人で作ってたんですよね」 「はい」 「こんなに人数多い寮を一手に引き受けてるなんて、やっぱり昭江さんって凄いですね」 「瑞希さん、何を言われてるんですか?」 「何って昭江さんが凄いなぁって」 「それと同じ事、いえ、それ以上の働きをされてる瑞希さんも凄いと思います」 「そ、そうですか?」  こんなに凄い人にほめられるなんて、なんだかとっても嬉しい。 「世の中探しても瑞希さんほどのメイドなんてそうそう居ません、自信をもって  良いことですよ」 「はい!」  なんだか誉め殺し? でも悪い気分じゃないからいいかな。 「これからもがんばってメイドを続けてくださいね」 「はい、がんばります!」  私はスープの味の調整に入る。 「・・・あれ?」 「どうかなされましたか?」 「いや、メイドを続けるって・・・女装のままって事ですよね?」 「それが何か?」 「・・・バカな」  昭江さんに誉められて嬉しくて、それが当たり前のように思ったけど、今の僕って  女装してるんだよね・・・ 「僕は何を喜んでるんだろう・・・」 「僕?」 「え?」 「あ、怜奈!?」  しまった、こんなタイミングでお嬢様が厨房に入ってくるなんて・・・  僕・・・じゃなかった、私は昭江さんの方を見る。  昭江さんは諦めたような表情をしていた。  もしかしてものすごくピンチ? 「怜奈、黙っていてごめんなさい」 「どうしたのよ、昭江」 「実は、瑞希さんの事なんですけど」  さすがにだましきれないと思ったのか、昭江さんは覚悟を決めたみたいだった。 「・・・」  当たり前だよね、女子寮に女装した男子がメイドとして住むなんていう非常識な  状態が続く事がおかしいんだから。 「実は、瑞希さんはボクっ娘だったんです」 「「はい!?」」  お嬢様と私の声がはもる。 「それはそれで個性なので良いとは思うのですが、仮にも鳳のメイド。  言葉使いはちゃんとしないといけません。ですので最初に矯正するように指導を  したのですが、まだ完全に治っていないのです。これも私の指導が足りなかった  為です、申し訳ございませんでした」  そう言って頭を下げる昭江さん。  ボクっ娘っていったい何の事なんですか? 「そ、そうね。確かに鳳のメイドなんだから言葉使いの矯正は必要よね」  え・・・納得した!? 「でも、ボクっていう瑞希も可愛いかなぁ・・・」 「はい?」 「ななな、なんでもないわ! それよりも朝食の準備お願いね」 「かしこまいりました」  昭江さんがまた頭を下げると、お嬢様は厨房を出ていった。 「これでなんとかごまかせましたね」 「あの・・・ありがとうございました」  ごまかし方はよくわからないけど、昭江さんに迷惑をかけたのは確かだったので  私は謝った。 「いえ、構いません。実際ボクっ娘は萌えますから」 「はい?」 「いえ、何でもありません」  しれっとした顔で昭江さんは答える。 「それよりも瑞希さん、いくらごまかしようがあるといっても、限界はあります。  一人称は「私」で統一してください、わかりましたか?」 「はい・・・すみません」 「よろしい、ではペナルティは無しに致しましょう」 「っ!・・・ありがとうございました!」  私は震える身体を押さえ込みながら全身全霊を込めて頭を下げた。
8月19日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS”プール解放日”白編 「支倉先輩、今日はよろしくお願いします!」  深々と頭を下げる白ちゃん。 「こちらこそよろしくね、白ちゃん」 「はい!」  夏休みの間に定期的に行ってるプール解放。  寮に残ってる生徒からは好評で、休み前半だけの試験的な処置だったのが  要望があり、夏休み後半も行うことが決まった。 「白ちゃん、こっちは大丈夫だよ」  プールを開放する前の安全点検や確認事項をマニュアルを見ながら二人で  チェックしていく。 「私の方ももう終わります」 「ご苦労様、白ちゃん」 「支倉先輩もご苦労様です・・・でも、大丈夫でしょうか?」  白ちゃんは空を見上げる。  俺も同じように空を見上げる。  山の方から雲がものすごい早さで流れてきている。 「天気まではどうしようもないし、少し様子を見てみようか。駄目なら今日の  プール解放は中止にしよう」 「はい」  俺達はプールサイドのテントの下で一休みする事にする。  まだ解放時間になっていないのと、天気の様子を見るからだ。 「白ちゃん、お茶でいい?」 「はい、ありがとうございます」  クーラーボックスからお茶を取りだして白ちゃんに渡す。  俺はスポーツ飲料を取りだして喉を潤わした。 「あ」  テントをぽつ、ぽつと雨が叩く音が聞こえた。 「これじゃ今日は中止にした方が良さそうだな」 「そうですね、雨じゃプールには入れません」 「ならそうするか、白ちゃん。着替えて戻ろうか」 「はい」  俺達はテントの中の撤収をはじめようとした、その瞬間。 「きゃっ!」  突然光ったと思ったら大きな雷がどこかで落ちたようだ。  そう、ぼんやりと頭では理解してるけど俺の感情は固まったままだ。  なぜなら・・・ 「白、ちゃん?」  白ちゃんは雷におびえて俺の胸の中で小さく蹲っている。 「・・・大丈夫だよ、白ちゃん」  俺はそっと白ちゃんの背中を抱きしめる。 「それとも、俺じゃ心細いかな?」 「そんなことありません!」  白ちゃんは即答してくれた。 「支倉先輩が居てくれれば、平気です」 「なら、もう少しこうしていようか」 「・・・ご迷惑じゃなければ、お願いします」  テントの外は豪雨。  足下には雨が流れ込んできているが、プールサイドなので特に問題はない。  時折鳴る、雷。  俺の腕の中でびくっ、と身体をすくめる白ちゃん。  その白ちゃんを安心させるようにずっと抱きしめている俺。 「・・・」  まるで下界から切り離されたような感覚に陥っていた。  テントの中だけの静寂。  外はバケツをひっくり返したような豪雨、風も強い。  雛壇になっているプールからは、外の様子が見える高さのはずなのに  雨のせいで視界が凄く悪い。  だからだろうか。  この世に俺と白ちゃんしかいないような錯覚に陥る。 「そんなことないんだけどな」 「・・・支倉先輩?」 「なんでもない、白ちゃんは大丈夫? 寒くない?」  時折吹き込んでくる風と雨で身体が濡れる。  二人とも水着なので濡れる心配は無いけど、それでも体温を奪うには  十分な風雨だろう。 「大丈夫です、支倉先輩が暖かいですから」 「そっか・・・」 「それに、支倉先輩のが、熱くて、その・・・」  白ちゃんがもじもじとしている。 「・・・その、ごめん」  やっぱりわかってしまうよな。  水に濡れた白ちゃんを抱きしめてる、そんな白ちゃんが色っぽくて  裸じゃないけど、水着しか間にあるものがなくて。  こんなに長い間抱き合ってれば、身体は勝手に反応してしまう。 「私も・・・熱くなってきました」  俺は周りを見渡す。  さっきより弱くなったとはいえ、まだ雨は強い。  こんな雨の中にプールに様子を見る生徒はまずいないだろう。  万が一誰かが来ても、表の鍵はまだ解放していないからプール内に入ることは  出来ない。 「白ちゃん」 「支倉先輩・・・んっ」  プール解放日の日誌。  天候、曇りのち豪雨。  突然の豪雨の為、本日の解放は中止。  解放時間前なので生徒に混乱や怪我は無し。  役員は雨が上がるまでプール施設内で待避後、帰寮。 「・・・雨が上がるまで施設内で待避、か」  その間のことは書くことは当たり前だが出来なかった。
8月11日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS”プール解放日”瑛里華編  突然携帯で俺は瑛里華に呼び出された。  その先は学園内のプール。  内容は聞いてないけど、想像はつくのでちゃんと準備して、呼び出された時間に  俺はプールへと来た。 「ごめんね、孝平」 「一応、いきさつを聞いてもいいか?」 「うん、でも話すよりこれを見た方が早いかも」  そう言って瑛里華が差し出したのは一通の封書。  瑛里華に促されて、俺はその封書の中にある手紙を取りだして、あけてみた。 「有明が俺を待っている! 後のことは頼んだ!」 「・・・確かに、百聞は一見に如かず、だよな」 「ごめんなさい、馬鹿な兄さんで」 「あ、うん、それはもう諦めてる。それじゃぁちゃっちゃと準備しちゃおうか」 「いいの?」 「良いも悪いも、プール解放には男女ペアでの監視が必要なんだしな、ここで俺が  断ったらプールを利用しようとした生徒に悪いしな」 「でも、孝平は今日は非番なんだし、断ってもいいのよ?」 「ならどうして俺を呼びだしたんだ?」 「そ、それは・・・」  瑛里華が困ってしまったようだ、別にいじめるつもりはなかったんだけど。 「なら、貸しにしておくよ、それなら良いだろう?」 「・・・うん、借りておくわ」 「それじゃぁ準備を始めるか」  男子更衣室に入ってまずは水着に着替える。  それから水温のチェックやプールの設備チェックなど、安全性を確認する。 「こんなもんかな」  一通りチェックを終えた俺は時計で時間を確認する。 「まだ相当早いな」  瑛里華に呼び出された時間が早かった為か、準備を終えた段階で解放時間まで  まだ結構余裕があった。 「どうする、瑛里華?」 「うん、実はね、したいことがあるの」 「何?」 「孝平、こっちに来て」  そう言うと瑛里華はプールサイドに寝そべった。   「日焼け止めを塗って欲しいの」 「・・・え?」  俺の返事に満足したのか、満面な笑みで瑛里華は続ける。 「肌が焼けちゃうのよ、だから日焼け止めを塗って欲しいの、だめ?」 「えっと・・・」  確かに肌が焼けるのは大変だ。  だから、日焼け止めを塗る必要はある。  その理論であってるよ・・・な? 「くすっ」  俺の葛藤を見て瑛里華は笑っていた。 「それじゃぁお願いね」    そう言うと瑛里華は水着の肩ひもをはずした。 「え!?」 「だって、こうしないとちゃんと背中に塗れないでしょ?」 「水着着たままでも大丈夫・・・じゃないか?」  そう言いつつも、俺は瑛里華の肌に目を奪われていた。 「肌が出ている所だけ日焼け止め塗ってもだめなの、水着がずれたらお終いじゃない」 「そう、なのか?」 「えぇ、だからお願いね」  俺は以前瑛里華に教わった方法で日焼け止めを背中に塗る。 「ん・・・」 「冷たくないか?」 「大丈夫よ、そのままお願いね」  言われるがままに、日焼け止めを塗っていく。 「はぅ・・・ふぅ」  俺の手が触れるたびに瑛里華は艶やかな声をあげる。 「んんっ!」 「瑛里華?」 「な、なんでもないわ、ムラが出ないようにお願いね」 「あ、あぁ・・・」  その後も瑛里華は艶やかな声を上げ続けた。   「ありがと、孝平」  瑛里華は立ち上がって、お礼を言う。 「それよりも早く水着をなおしてくれないか?」  先ほどの瑛里華の声と、見えそうで見えない水着のライン。  俺自身の理性の限界が近かった。 「そうね、でもその前に今度は孝平に日焼け止め塗ってあげないとね」 「お、俺は良いよ」 「駄目よ、ちゃんとしておかないと後で大変なんだから」 「でも、テントの中に居るのがほとんどだから大丈夫だよ」 「だ・め・よ!」  そう言うと瑛里華は詰め寄ってくる。 「ちゃんと、して、おかないと後で大変なことになっちゃうでしょ?」  そう言う瑛里華の目は妖しい輝きを放っていた。 「え、瑛里華?」 「この後このプールには女子も来るのよ? だ・か・ら」  瑛里華は俺の正面に立ち、下からのぞき込んでくる。   「ちゃんと、先に、して、おかないと、ね?」  プール解放時間帯、俺は疲れ切っていてテントの中からの監視にとどまった。 「そこ、飛び込み禁止よ!」  逆に瑛里華は元気いっぱいにプール監視をしている。 「なんであそこまでしてあんなに元気なんだよ」  まぁ、瑛里華のおかげでよけないことを考えないで・・・いや、考える余力が  無いので助かってはいるけど。  立ち上がる気力がない俺は、早めに今日のプール日誌をつけることにした。  天候、晴れのち曇り。  お盆で帰省してる生徒が多いためか生徒の利用は少ないが、居ないわけではなく  プール解放の有用性は示されてると思う・・・ 「ふぅ」  解放時間前の事は、もちろん日誌に書くわけにはいかなかった。
8月7日 ・夜明け前より瑠璃色な Moonlight Cradle SSS”夏の通り雨” 「ん?」  部屋で本を読んでいた俺は、ふと窓の外から見える空に気づいた。 「黒い雲、降りそうだな」  そういえば麻衣が洗濯をしてたっけ、もし干してあるなら取り込まないとな。  俺は念のため庭に行くことにした。  部屋から出てすぐ、雨が屋根を叩く音が聞こえてきた。 「降るのが早すぎる」  俺は階段を降りようとした、その時雷まで鳴った。 「ひゃぁっ!」 「麻衣?」  麻衣の部屋から悲鳴が聞こえてきた、そのあと大きな音もした。 「麻衣? 大丈夫か、麻衣!」  俺は慌てて麻衣の部屋の扉をあけた。 「あ、お兄ちゃん」 「大丈夫か、麻衣?」 「う、うん、ちょっと雷に驚いただけだから」 「そっか、良かった・・・」  安心して余裕が出来た俺は、今更ながら麻衣の格好に気づいた。 「麻衣、その格好は?」 「え・・・きゃっ!」  着替えの途中で雷に驚いて尻餅をついていた麻衣。  そう、制服を着ている途中だったのだろう。  上着とスカートが中途半端に脱げかけていた。  そしてその下に可愛い下着が見える訳ではなく、紺色の生地の水着が見えていた。 「あ、あのね、友達と学院のプールに行こうかって思ってたの」  麻衣が佇まいをなおしながら慌てて説明する。 「でもこの雨じゃプールなんて入れないよね」 「・・・あ」  そうだった、雨が降っているんだった。 「麻衣、洗濯物!」 「え・・・あーーーっ!」  リビングから庭を見る。  そこに洗濯物が干されている、言うまでもなく強い通り雨は今も降っている。 「もう取り込んでも手遅れだよね」 「あぁ」  取り込んだとしても水気を吸った洗濯物は部屋の中に干すことは出来ない。  乾燥機にかけようにも、雨水は決して綺麗な水ではない。  そのまま乾かしても汚れが付いたままになってしまう。 「それ以前に、取り込みにでれないよな」  俺は窓から空を見上げた。  夏の通り雨はゲリラ豪雨と言っても良いくらい強い雨になっている。 「ん・・・そうだ! お兄ちゃん、バスタオル1枚用意しておいてくれる?」 「良いけど?」 「せっかくだから私が取り込みに出るね」  そう言うと麻衣は制服を脱ぎだした。 「麻衣?」 「せっかく水着着たんだもん、役に立ってもらおうかなっておもったの」  そう言うと麻衣は豪雨の中庭へと出ていった。 「きゃっ!」 「麻衣!」 「大丈夫だよ、お兄ちゃん。思ったより雨が強いから驚いちゃっただけだから」  そう言うと麻衣は嬉しそうに洗濯物を取り込みはじめた。  俺はすぐに脱衣所へ行き、洗濯物を回収するかごと麻衣の為のバスタオルを  持ってきた。 「ありがと、お兄ちゃん」 「なぁ、麻衣。なんだか嬉しそうに見えるんだけど?」 「そう、かな? 嬉しいのかな?」  麻衣は俺の言葉に考え込むようなそぶりを見せた。 「嬉しいかどうかはわからないけど、貴重な体験だとは思うよ」 「まぁ、普通はそんな事しないよな」  豪雨の中、洗濯物を取り込むために水着に着替える人は普通は居ない。 「ほら、いくら夏でも風邪ひくぞ?」 「はぁい」  濡れた洗濯物をかごに押し込め、麻衣はリビングへと戻ってきた。  すぐにバスタオルを麻衣にかける。 「・・・今風呂沸かしてくるから、ちょっとだけ待ってて」 「あ、うん、ありがと、お兄ちゃん」  俺は逃げるようにかごを持って脱衣所へと向かう。 「はぁ・・・」  雨に濡れた麻衣。  紺色の水着が肌に張り付いて、身体中水びだして、妙に色っぽかった。  それに、以前あの水着でエッチをしてるから、意識してしまった。 「そんなことよりも麻衣が風邪をひかないようにしないと」  俺は風呂にお湯を張る事にした。
8月5日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS”プール解放日”陽菜編  夏休み前の生徒会の議題にあがったクールシェア。  その一環の内の一つ、プール解放日。  長い休みに実家に帰らない生徒が少しでも楽しく過ごせるように、  そう瑛里華の一言で実施されることとなった。 「ごめんな、陽菜。せっかくの休みの日なのに」 「そんなことないよ孝平くん」  そう言うと陽菜は微笑みながら続ける。 「楽しい学園生活をおくってもらうなら、白鳳寮だって協力を惜しまないよ。  楽しい寮での生活もおくって欲しいから」 「そう言ってもらえるのは嬉しいんだけどさ、陽菜だって寮長であるまえに寮生だろ?」 「それを言うなら孝平くんだって副会長であるまえに寮生だよ?」 「・・・」 「孝平くん、私の勝ちでいい、かな?」 「あぁ、降参」 「やったぁ」   「でも、陽菜も楽しんできて良いんだからな」 「大丈夫だよ、孝平くん。私は、孝平くんと一緒に居られるだけで楽しいし、  幸せだから」 「・・・」 「孝平くん?」 「あ、ごめん、あまりに嬉しすぎて声が出なかった」 「も、もぅ、孝平くんったら・・・」  そう言う陽菜だったが、美化委員の友達に誘われて今はプールの中に入っている。  誘いを断った陽菜だったけど俺が強引に勧めてしまったのだ。  このプール解放は監視に生徒か先生が必ず男女ペアで行う事になっている。  男の俺が女子に何かあった場合、対処仕切れない場合があるからだ。  もちろん、その逆もある。  だけど、その何かがなければ狭いプール、監視員は一人で充分だった。  だからこそ、陽菜を友達の元へと送り出したわけだが・・・ 「思ったより地獄だな、これ」  炎天下のプールサイド、俺はプールが見渡せる場所に特設されたテントの下にいる。  プールの上をわたってくる風は涼しいが、テントの中であってもかなり暑い。  その上プールを監視し続けなくてはいけない。  一応、簡単な生徒会の仕事を持ってきてはいるが、この仕事をしてしまい注意が  厳かになってはいけないので、結局は出来ないでいる。 「・・・」  そして、プールを監視しなくてはいけないのに、俺は気づくと陽菜を探している。    そして見つけては目を反らす。  プールの中にいる陽菜。  髪が首筋に張り付いているのが妙に色っぽい。  紺色のスクール水着に包まれている身体の、そのラインがはっきりと浮かび上がって  いるのも艶めかしい。その下に隠されてる素肌を知っているからだろうか。  その素肌の感触を思い出すと、下半身に血が集まってくるのがわかる。 「・・・」  俺は空を見上げる、青い空、白い雲。  そうしながら、自分自身を落ち着ける。  何かあったときの為に水着を着ているから、反応してしまったら外から簡単に  ばれてしまう。  プールには陽菜以外の女の子だっているし、前期課程の生徒もいる。  そんなところでこんな姿を見せる訳にはいかない。  だが、監視はしなくてはいけない。  そして気づくと陽菜を追っている。   「・・・」  さすがに今のはまずかったかもしれない・・・  そんなことの繰り返し、時間の流れがとても遅く感じた。 「孝平くん、女子更衣室の方はもう誰もいないよ」 「ありがと、外の扉の鍵を閉めたら陽菜も着替えていいよ」 「うん、孝平くんももう着替えるの?」 「あぁ、でもその前に」  俺はプールに飛び込んだ。 「孝平くん?」 「ちょっとくらいはいいかな、ってね」 「そうだね、孝平くんずっと我慢してたもんね」    そう言うと陽菜はプールサイドに座った。 「でもね、私だって我慢してたんだよ?」 「陽菜が?」 「うん、だって孝平くん、ずっと私を見てたでしょう?」 「う・・・」  ばれてた。 「女の子は視線に敏感なんだよ? だから、ずっと見られてて・・・  恥ずかしかったんだよ?」 「ご、ごめん」 「でもね、恥ずかしい以上に嬉しかったの」 「陽菜?」   「だって、周りに素敵な女の子がいっぱい居るのに私だけを見てくれてたんだもの」 「当たり前だろう、陽菜より素敵な女の子なんて居るわけないから」 「あ、ありがとう・・・でね、孝平くん」 「何?」 「だから・・・その、孝平くんも我慢してたんだよね?」 「・・・あ」  陽菜が言ってる事に心当たりがあった、というかありすぎた。  頭を冷やすつもりでプールに入ったけど、この位置からだとプールサイドに座ってる  陽菜を下から見上げる形になっている。  すらりとした足、柔らかそうな太股、その奥の水着に隠されてる陽菜の身体。  そして陽菜の顔まで視線をあげた俺が見た物は・・・    驚く、というか恥ずかしそうな顔をした陽菜、その視線は俺に向いている。 「・・・あ」  いや、正確に言えばプールに浸かっている部分だった。 「あ、あの・・・」 「孝平くん・・・」  そう言うと陽菜は立ち上がった。 「その、そのね・・・私も我慢してたんだよ?  孝平くんがずっと私の事を見ていてくれて・・・その、ね?」    陽菜が言いたい事はよくわかった。  だからこそ、これ以上言わせる訳にはいかない。 「陽菜」  俺はプールからあがった。 「その、さ・・・女子更衣室は外の鍵、閉めてあるんだよな?」 「え? ・・・うん」 「それじゃぁさ、その・・・今日のお礼をしたいんだけど、いいかな?」 「・・・いいの?」 「陽菜さえよければ」 「・・・うん! 私も孝平くんにお礼してあげたいから」 「お礼? お礼するのは俺の方だと思うんだけど」 「いいの、私だけを見てくれてたお礼だもん」 「ならさ・・・二人でお礼しあおうか?」  陽菜は無言のまま頷いた。 「今日の報告日誌か・・・」  プール解放は学園の設備を使ってるのでちゃんと日誌を書かないといけない。 「生徒は多数利用で好評、事故はなし・・・」  もちろん、終わった後のことは書く訳にはいかなかった。
8月3日 ・夜明け前より瑠璃色なMoonlight Cradle sideshortstory 「記念日」 「お兄ちゃん、起きてる?」  日付が変わる頃に部屋のドアがノックされた。 「あぁ」  俺はドアを開けて、そこに立っている麻衣を招き入れた。 「どうしたんだ、麻衣?」 「ん・・・あのね、なんだか寝付けなくって」  そう言いながら麻衣は困ったような顔をしていない。  むしろ嬉しそうに”ほにゃ”っとしている感じだ。 「気持ちはわかるけどさ、寝ておかないと明日が辛いぞ?」 「うん、わかってるんだけどね、なんだか嬉しくって」  そう言って笑う麻衣。  明日の誕生日、今年はスケジュールの調整が出来たので1日麻衣とデートする事と  なったのだ。  そして俺は麻衣を誘って海水浴に行く事を伝えてある。 「寝不足のままだと泳げないぞ?」 「うん、わかってる・・・だから、お兄ちゃん。一緒に寝ても、いい?」  その問いが来るのはわかっていた、なぜなら最初から麻衣は枕を持参していたからだ。 「・・・」 「お兄ちゃん?」  俺の無言に緊張した麻衣の声。 「そう、だな。もう今日だし一緒にいる約束だもんな」 「え? あ」  壁に掛かってる時計が零時をまわった。 「麻衣、誕生日おめでとう」 「ありがとう、お兄ちゃん」 「それじゃぁ約束だから一緒に居よう」 「うん!」  麻衣は嬉しそうに俺に抱きついてきた。  ・  ・  ・ 「ん・・・」  目が覚めた、というかまだ眠い。  麻衣と一緒に眠るのに結構時間がかかってしまったからだ。  その麻衣はもう起きたのか部屋には居なかった。 「お兄ちゃん・・・」 「な、何かな?」  麻衣は俺の腕の中にすっぽりと収まる形で一緒に横になっている。 「その・・・お腹の所なんだけどね」 「・・・ごめん」 「ううん、謝らなくて良いの、私でそうなってくれるのは嬉しいから」  そう言ってもらえると助かる・・・のか? 「だからね、その・・・する?」 「・・・駄目だ」 「え?」 「俺も麻衣としたいけど、ここでしちゃうと明日大変だぞ?」 「うーん・・・じゃぁ1回だけなら」 「1回で済む自信が俺にない、それに麻衣も1回で済むと思うか?」 「・・・思わないかも」 「だから、今日は寝るだけにしよう。するのはまた今度、な」 「お兄ちゃんがそう言うならそうするね」  そう言うやりとりの後、麻衣は安心したのかすぐに可愛い寝息を立てはじめた。  俺は自分を抑えつつ、麻衣と同じ夜を過ごしたのだが・・・ 「やっぱりきつかったかな」  本音を言えば麻衣を一つになりたかった、けど歯止めが利かないようじゃ  これからもやっていけない。  それにこれからのデートを楽しく過ごすために、麻衣の為に。  そう思えば我慢も出来る物だった。 「ふあぁ・・・」 「おっきなあくびだね」 「見なくていいから」 「大丈夫、お兄ちゃんしか見てないから」  電車の揺れが寝不足の身体にちょうど良い感じに襲ってくる。 「ごめんね、お兄ちゃん」 「ん?」 「私が一緒に寝ようだなんて言ったから」 「それは無い」  俺は麻衣の言葉をすぐに否定した。 「実はさ、俺も楽しみで寝付けなかっただけなんだよ」 「・・・お兄ちゃん、嘘が下手だよね」 「そ、そうか?」 「うん、でもそう言うことにしておくね」  満弦ヶ崎から5つほど離れた駅。  そこには地元しか知らないと言われてる穴場の海水浴場があった。  満弦ヶ崎には大きくて立派な弓張海岸海水浴場があり、みんなそこへ行く事になる。  わざわざ離れた海水浴場へ来た理由。  最初は、誰にも見つからずふたりっきりで過ごしたかったから。  でも、今日は違う。 「わぁ〜っ!」  眼前に広がる海に麻衣は感嘆の声をあげる。 「お兄ちゃん、海だよ!」 「わかってるって、まずは海の家で着替えるか」 「うん!!」  前と違って水着を着てこなかった俺は、麻衣と一緒に海の家の更衣室に入る。  女の子と違って着替えは早く、先に出て麻衣を待つ。 「お兄ちゃん、待った?」  女子更衣室から出てきた麻衣は、もうお約束といえる格好、水着の上にTシャツを  着ていた。 「麻衣〜」 「い、いいじゃない、肌が焼けちゃうんだもん」 「そうだな、それじゃぁ泳ぐ前に日焼け止め塗らないとな」 「お、お兄ちゃん、目が怖いよ?」 「大丈夫、別に脱がそうと思ってないから」 「嘘、お兄ちゃん嘘ついてる!」  そう言いながら後ずさる麻衣、でも顔は笑顔のままだった。  海岸に出て、まずは準備体操をする。  そして海の家から借りてきたビーチチェアに麻衣を座らせる。   「自分で出来るって」 「遠慮しなくて良いんだぞ?」 「だいじょうぶ、手の届かない所は肌が出てないから」 「そっか、それじゃぁ麻衣、俺の背中を頼めるか?」 「うん、良いよ!」  二人で日焼け止めを塗った後。 「・・・麻衣、そろそろ泳ごうかと思うんだけど」 「やっぱり、そうだよね・・・」  相変わらずTシャツを脱ぐ気が無い。  ならば、今回も強硬手段と行くことにしよう。 「麻衣」 「なに、え、きゃっ」  麻衣の背中に手を回し、もう片方の手は膝裏へと回し、抱き上げる。  それはいわゆる、お姫様だっこという物だ。 「お、お兄ちゃん、恥ずかしいよぉ」 「大丈夫だ、麻衣。俺も結構恥ずかしい」 「それ、大丈夫じゃないよぉ・・・」 「でも、こうでもしないと俺のお姫様は海に入ってくださらないからな」  そう言いながら俺は海へと歩く。 「お、お兄ちゃん」  麻衣は俺の胸に顔を埋めて周りを見ないようにしている、うなじが赤くなってる。  よほど恥ずかしいんだろうな。  ・・・俺も恥ずかしいけど。 「よし、麻衣、おろすぞ」  以前はおぼれかけたから今回はそっと海に下ろす。 「きゃっ、冷たい!」 「大丈夫か、麻衣」 「う、うん・・・」 「ピンクのワンピース、可愛いよ、麻衣」 「・・・もぅ、お兄ちゃんのえっち、えいっ!」  麻衣は水をぱしゃぱしゃとかけてくる。 「そこでえっちと言われる理由がわからない、けど負けないからな!」  二人で水のかけあいから始まった海水浴だった。  麻衣お手製のお昼のお弁当を食べた後、ちょっと一休みすることにした。 「朝居ないと思ったらお弁当作ってたのか、全く気づかなかったよ」 「前もそうだったよね」 「なんだか面目ない」 「ううん、いいの。お兄ちゃんに美味しいって言ってもらえたから」 「そっか、でも何かお返ししないとな」 「うーん、それじゃぁかき氷のフルコースで手を打とうかな」 「いいぞ」 「え、本当に!?」 「あぁ、それじゃぁ買ってくるな」 「ありがとう、お兄ちゃん大好き!」 「・・・」  いきなり大好きと言われて、俺の顔は多分真っ赤になってるだろうな。  その顔を見られたくないから、俺はすぐに立ち上がって買いに行くことにした。 「いいのか? 麻衣」 「うん」  午後になって少し遊んだ後、麻衣は帰ろうと言い出した。 「お兄ちゃん、わがままいってごめんなさい」 「構わないさ、でもまだ俺は麻衣と一緒に居ていいんだろう?」 「もちろんだよ!」 「ならどこでもいいさ」  俺達は早めに海水浴場から帰ることになった。 「ただいまー」 「ただいま」  誰もいない朝霧家、思ったより早めに帰ってきた。 「お兄ちゃん、洗濯機回すから洗濯物だして」 「あぁ」 「それと、お風呂沸かしてもらってもいい?」 「了解」  海水浴で使った水着やタオルを脱衣所まで持っていって麻衣に渡す。  そのまま俺は浴室に向かい、お湯を入れる。 「ねぇ、お兄ちゃん」 「どうしたんだ、麻衣・・・!?」  お湯を入れはじめた浴室に麻衣が入ってきた。  一糸まとわぬ姿で。 「ま、麻衣?」 「お風呂、一緒に入ろ?」 「え、あ・・・」  急なことで言葉が出てこない。 「今日は一緒に居てくれるんでしょう? 私と一緒じゃ・・・だめ、かな?」 「・・・」 「それにね、私やっぱりお兄ちゃんに我慢させるの嫌なの。だから、夜の続きを  ・・・してあげたいの」  そう言うと麻衣は棒立ちに立ってる俺の前でかがみ込む。 「ねぇ、お兄ちゃん・・・」  ・  ・  ・ 「今日もいろいろとあったね、お兄ちゃん」 「そう、だな」  海水浴から帰ってきて家の事を片づけながら、麻衣と一緒に過ごす。  夜から左門で麻衣の誕生日パーティーを開いてもらって。  そして夜。  俺は麻衣と一緒にベランダから夜空を見上げていた。 「お兄ちゃん、今日はありがとう。私、とっても楽しかった。  でも・・・今日はもう終わりだね」  麻衣の言いたいことはわかる。  楽しかったが故に終わってしまう悲しさ。  だから、俺は麻衣に。 「ん!?」  口づけをする。 「・・・はぁ」 「麻衣、これから8月3日は麻衣の誕生日だけじゃなくって記念日にしよう」 「お兄ちゃん?」 「まずは初めてデートした記念日だな」 「覚えててくれたの?」 「当たり前だ」 「嬉しい・・・」 「そして今日は海水浴にいった記念日」 「お兄ちゃん、それはちょっと無理がないかな?」 「・・・でさ、将来はこの日は結婚記念日にしたいと思ってる」 「え?」 「麻衣さえ良ければ、だけどな」 「駄目なわけないよ・・・嬉しいよ、お兄ちゃん」  麻衣は少し涙目になっていた。 「だからさ、来年までまたがんばろうな、麻衣。そしていつか本当の記念日にしよう」 「うん、うん!」  涙を浮かべつつも微笑む麻衣の顔はとても綺麗で。 「麻衣」 「お兄ちゃん・・・あ・・んっ」  俺は麻衣に誓いの口づけをした。
7月27日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS”プール解放日”桐葉編  夏休み前の生徒会の議題にあがったクールシェア。  その一環の内の一つ、プール解放日の初日を迎えた。  水泳部の練習の時間をはずしての、一般生徒への解放。 「それは構わないのだけど、なんで私まで巻き込むのかしら?」   「それは大変申し訳ない思ってる」  プール解放といっても監視員なしでは何かあったとき対応できない。  生徒会が自主的に行ってるイベントなので教師陣には協力を頼むことはできても  強制はできないし、先生方にもスケジュールがある。  そして、プールに来る生徒は男子も女子もいる。  女子に何かあったとき、男子の役員では色々と問題も出てくるから、生徒会からは  男子と女子が1名ずつ監視員に参加する事となった。 「・・・はぁ、もういいわ。私はテントの下にいるわよ」 「お願いします」  俺は頭を下げる。 「別に頭を下げる必要は無いわ」 「でもさ、無理してお願いしちゃったわけだし」 「別に無理ではないわ」 「え?」 「なんでもないわ、何かあったら呼んで」    そう言うと桐葉はテントの中へと入っていった。 「?」  よくわからないけど機嫌は直ったようなので俺は安心して、監視台の方へと向かった。 「暑そうね」    気がつくと桐葉が監視台の方へと来ていた。 「まぁ、夏だしな」 「交代しましょうか?」 「いや、だいじょうぶだから桐葉はテントの方で待機してて」 「そう・・・ならそうさせてもらうわ。でも」  そう言うと桐葉は手に持っているペットボトルを俺に向かって放り投げる。 「水分と塩分の補給はしなくてはだめよ」 「さんきゅ、ありがとう」 「え、えぇ・・・ではまた後で」  そう言うと桐葉はテントへと戻っていった。  試験的に行われたプール解放。  ある程度のデータ収集もかねてカウントしていた参加生徒数は、それなりだった。  夏休みに入ってるので生徒全員が白鳳寮に居るわけではないので、そう考えると  結構な割合のような気もする。 「桐葉、女子更衣室の方はもう生徒は居ないか?」 「えぇ、全員退去しているわ」  男子更衣室の方も居ないので、これで今日の解放時間は終わりとなった。 「お疲れさま、桐葉。先にあがって良いよ」 「孝平はどうするの?」 「あぁ、ちょっとプールサイドが汚れてるから掃除してあがるよ」 「手伝いましょうか?」 「いや、充分過ぎるほど手伝ってもらったからいいよ」 「・・・もう、鈍感」 「え?」  桐葉はそれだけ言うとプールサイドに座る。    足だけをプールにいれている、その姿はとても絵になっていて思わず見とれてしまう。 「孝平、やっと二人っきりね」 「え・・・」  そういえば二人きりだ。 「誘ってくれたと思えば生徒会の仕事の手伝い・・・  孝平は私の事をどう思ってるのかしら?」  二人きりという単語の後とは思えない、桐葉の声は鋭かった。  その鋭さにひるまずに、俺は答える。 「桐葉は俺の大事な彼女で、いつまでもずっと一緒に居たいと思う人だよ」 「っ!」  俺の言葉に桐葉は顔を逸らす。   「そ、そう・・・」 「本当は遊びに行きたかったけど、生徒会もあるからそうはいかないからさ・・・」  言いながら恥ずかしくなってきた。 「だから、千堂さんや東儀さんじゃなく、私を誘ったのね」 「・・・そう言うことになるかな」 「くすっ」  桐葉が微笑む、その笑顔に引き込まれそうになる。 「なら、最後くらいデートらしいことしてもいいわよね?」 「え・・・なっ!?」  俺は桐葉に手を捕まれたと思ったら、プールの中に引き落とされた。 「孝平、私を捕まえて。もし捕まえたら、何でもしてあげるわ」  そう言うと桐葉は見事な泳ぎのフォームで俺から離れていく。 「・・・良いんだな?」 「それ以上を女に言わせるの?」 「わかった、絶対捕まえる、いや、俺から逃がさないからな、いくぞ!」  夕方に終わったプール解放時間。  俺達が寮に戻ったのは夕食の終わる頃の時間になってしまった。  その間に何があったかは・・・ 「報告書に書けない事だらけだよな」  部屋に戻った俺は幸せな時間を思い出しながら、今日のプール解放日の事だけの  報告書の制作をはじめた。
7月16日 ・夜明け前より瑠璃色な Moonlight Cradle SSS”送り火”  左門での夕食後の朝霧家の玄関の前。  麻衣と姉さんと、ここ数日地球に来ていたフィーナとミア。  今の朝霧家全員が揃っていた。 「じゃぁ火をつけるわね」  姉さんがかがみ込んで、積み上げられた茎に火をつける。  迎え火の時と違って、馬を模した人形も一緒だ。  火がつくと茎が一気に燃え上がる。  そして煙は天へと上っていく。 「達哉」  フィーナがそっと俺に寄り添ってくる。 「母様も安心して戻っていってくれたわよね」 「きっとそうだと思うよ」  そう言って俺は空を見上げる。 「達哉、達哉のお父様も一緒よ」 「・・・あぁ」  お盆の時期、フィーナは地球に公務で来ていた。  少ない時間を使って朝霧家に来たのは、迎え火をする直前だった。  姉さんが迎え火の説明をしたとき、最後にこう言った。 「せっかくだからセフィリア様にもきて戴きましょう」 「え?」 「お姉ちゃん、フィーナさんのお母さんは帰ってくるところは月じゃないの?」 「月じゃ迎え火はしないでしょう? せっかくフィーナ様がいらっしゃるの  ですもの、今年は朝霧家に来ていただきましょう」  とても良いことを言ったというような姉さんの顔に俺は反論する気がなかった。  それどころか賛成だった。 「そうだな」 「お兄ちゃんまで?」 「あぁ、せっかくだ。フィーナのお母さん、セフィリア様にも報告したいしな」 「何を、かしら?」  フィーナが嬉しそうな顔で俺に問いかけてくる。  その顔を見ればわかる、俺に言わせたい言葉が。 「・・・そりゃ、挨拶くらいはちゃんとしないとな」 「だから何の挨拶なのかしら、達哉?」 「・・・はいはい、お兄ちゃんもフィーナさんも、まずは迎え火を焚かないとね」  麻衣にあきれられた。  それからほんの数日、フィーナは公務の合間を縫って、どんなに夜遅くなっても  出るのがどんなに朝早くても、朝霧の家に帰ってきた。  フィーナのお母さんの、セフィリア様の霊が還ってきているからだろう。  そんなフィーナの地球での滞在期間は明日まで。  そして、先祖の霊が滞在するのは今夜までだった。 「還っていってしまったわね」 「あぁ」 「でも、本当に来ていてくれたかは私にはわからなかった」 「霊は見えないからな、でも俺はセフィリア様は来てくれてたと思うよ」 「達哉・・・」 「あれだけ地球の事を思ってくれた人だからな、地球の習慣も知ってたと思う。  それにさ・・・」 「それに?」  恥ずかしいけど、思ったことを言う。 「娘を奪う相手は見てみたいとおもうだろうさ、普通」 「・・・くすっ」 「そこ、笑うところじゃないだろう?」 「そうかしら、きっと母様も笑ってくれるところよ、それに達哉のお父様も一緒に  なって笑ってるかもしれないわよ?」 「親父がか?」 「えぇ、だって月の姫を奪うのでしょう?」  ・・・親父だったらどう反応するだろうか?  子供の頃の記憶と、恨んでいた記憶があるせいか、はっきりと想像できない。  ・・・多分、親父は俺のしたいようにさせてくれたと思う 「何の話、お兄ちゃん?」 「あ。いや、なんでもないぞ、うん」 「麻衣、達哉は帰ってきてくれた私の母様に良いところを見せられたかどうか  心配してるのよ?」 「フィーナ?」 「なんだ、そんなことか」 「麻衣まで?」 「そうよ、達哉くん。セフィリア様なら達哉くんの事気に入ったと思うわよ」 「姉さんまで!」 「はい、私もそう思います、達哉さん」 「・・・」  俺は恥ずかしくなって玄関へと向かう。 「あー、お兄ちゃん照れてる」 「ふふっ、達哉ったら」 「達哉くんは照れ屋さんね」 「達哉さん」  確かに恥ずかしいけど、こんなにぎやかなお盆は初めてだった。  麻衣がいて、姉さんがいて。  短い時間だけど、フィーナとミアが帰ってきてくれて。  そして、おふくろと親父と、セフィリア様・・・いや、義母さんと呼ぶべきだろうか?  俺は夜空を見上げる。 「また、来てくれますか? お義母さん」 「きっと来てくれるわよ、達哉」 「フィ、フィーナ!?」 「くすっ、聞こえたわよ」 「な、何がだ?」 「さぁ、何かしらね」  そう言うフィーナは優しい顔で微笑んだ。 「また今度、一緒に先祖の霊を迎えましょうね、母様と、お義父様と、お母様と  みんなで、ね」
7月13日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS”迎え火” 「いいのか、俺も一緒で」 「いいのよ、こういうのはみんなでするものだから」  そう言う物だろうか?  でも瑛里華がそう言うならそれで良いと思う。  週末の夜、千堂邸の玄関前で、行われるのはお盆の行事でもある迎え火。  その行事に俺も誘われて参加することになった。 「では、はじめるわね」  紅瀬さんが玄関前に積み上げられた茎に火をつける。  その様子をじっと見つめる伽耶さん。  その眼に写る火に、伽耶さんは何を思ってるのだろうか?  マレヒトさんが絶対に生きていると信じて思いこんできた過去を思って  いるのだろうか。  でも、この行事は先祖の霊を迎えるためのもの。  それは、マレヒトさんが死んでいる事実をただ伽耶さんに知らしめてるだけなの  かもしれないと、思ってしまう。 「・・・」  なんでこんな事を思うんだろうか、いつもの俺らしくない気がする。  今週も生徒会の仕事が忙しかったし、急に暑くなったし、疲れてるのだろうか。 「なぁ、桐葉。父様は毎年この時期に、あたしに会いに来てくれてたのだろうか」 「さぁ、私は霊は見えないからわからないわ」 「・・・」 「でも、もし来ていたとしても霊は迎え火を見つけられないと帰って来れないわね」 「・・・そう、だな」 「母様・・・」  伽耶さんと桐葉をただ見ることしか出来ない瑛里華。  何か声をかけようと思ったが、何も言葉に出来ず、俺もただその迎え火を見ている  事しかできなかった。 「父様、昨日あたしは誕生日でした、今年も家族が派手すぎるくらいの宴を開いて  くれました」  暗くなった空を見上げながら、伽耶さんは、そこにいるかのように話しかける。 「ずっとずっと父様を一人にしてしまって・・・ごめんなさい」 「伽耶・・・」 「でも、もう大丈夫。あたしには桐葉がいる。瑛里華もいる。・・・一応伊織もいる」  元会長の扱いが悪い気がするのはいつものことだった。 「母様の子孫の東儀家も居てくれる。あたしは、一人じゃない。だから父様・・・  安心して見てて下さい」  夜空を見上げる伽耶さんの眼に涙が浮かぶのが見えた。 「そうか・・・安心した」 「え?」  突然伽耶さんが俺の方を見た、驚きの顔で。 「孝平?」 「支倉くん?」 「どうかしたのか?」 「どうもこうもないわよ、今なんて言ったのよ?」 「俺、何か言ったか?」 「・・・聞き違い、なのかしら? ねぇ、伽耶」 「あぁ・・・あの声は間違いない」 「??」  紅瀬さんと伽耶さんは何かに納得してるようだけど、俺は全く意味がわからない。 「ちょっと孝平、頭だいじょうぶ?」 「瑛里華、何その可哀想な物を見る目は。なんだか酷く傷つくんだけど・・・」 「だって」 「もうよい、瑛里華」 「母様?」 「いいのだ、ほんの少しだけ還ってきてくれただけ、なのだろうな」 「そうね、そう言うことにしておきましょう」 「ちょっと、紅瀬さんまで?」  いったい何があったか俺には全然見覚えがないし、聞き覚えもない。  瑛里華の問いかけからすると、俺は何かを言ったらしいが、  もちろん、言い覚えもない。  だけど、伽耶さんと紅瀬さんには何かがあったらしい。 「伽耶、これからどうする?」 「そうだな・・・まずは霊前に酒でも供えるか。そして父様と一緒に飲むとするか」 「それもいいわね、私もつきあうわ」 「母様、飲み過ぎは駄目よ?」 「なら瑛里華もつきあえ、あたしが飲み過ぎないよう見張ってれば良かろう?」 「見張られる前に自重してくれればいいんだけど・・・」  瑛里華があきれた声で、でもどことなく嬉しそうな声でそう言う。 「なら俺もつきあいます、伽耶さん」 「いい、のか?」 「はい、理由はよくわからないんですけど、俺がそうしたい気分なんです」 「ちょっと孝平、孝平まで飲むなんて駄目に決まってるでしょう?」 「瑛里華、支倉がつきあうと言ったのだ、おまえが止めてどうする?」 「止めてどうするって、止めるに決まってるでしょ!? だって私たちはまだ」 「千堂さん、それ以上は言っちゃ駄目よ」 「紅瀬さん!?」 「いいのよ、今日だけは。そうでしょう、支倉君?」 「そうですね、何故かそう思います」 「孝平!?」 「よし、とっておきのをあけるとしよう、桐葉、瑛里華、支倉、いくぞ!」  部屋に戻る伽耶さんの背中を、俺は何とも言えない気持ちで見る。 「何をしてるのだ、支倉。今日は朝までつきあってもらうぞ?」 「朝までは俺が持つかわかりませんけどね」 「軟弱なやつだな、千堂家の娘をもらうつもりがあるのなら強くなくてはだめだぞ?」 「ちょ、母様っ!?」 「なら強くなるしかないですね」 「こ、孝平!?」 「ふふっ」  いつもと同じようで違う伽耶さんと一緒に部屋へと入る。  その後ろで固まってる瑛里華を引っ張ってくる紅瀬さん。  将来、このメンバーの中に千堂先輩が一緒に居てくれたら楽しくて嬉しいだろうな。  そう、思った。
7月7日 ・夜明け前より瑠璃色な Moonlight Cradle SSS”雨の七夕” 「雨、酷くなってきたね」  俺の部屋の窓から暗い夜空を見上げる麻衣。 「せっかくの七夕なのに、これじゃ会えないね」 「そうでもないと思うよ」 「え?」 「だってさ、天の川は雲の上にあるんだから大丈夫だろう?」 「それはそうかもしれないけど・・・」  麻衣は納得いかないようだ。  確かに七夕の日の、彦星と織姫の出会いは地球上で雨の場合、天の川の水が  反乱し会えなくなる。それが一般的な言い伝えだからだ。 「月からだと、天の川は晴れてるかなぁ」 「今の時期だと月は昼の周期だから星は見えないんじゃないか?」 「もぅ、お兄ちゃんったら現実的すぎるよ」 「そうはいってもなぁ・・・」  月学の勉強をしてると、そう言うところは現実的に見てしまう事もある。 「麻衣、この前聞いた話なんだけどさ」  少し機嫌の悪くなった麻衣に思いついた話を切り出す。 「言い伝えでは七夕の雨は涙雨って言うだろう?」 「織姫が会えないから流した涙の事でしょう?」 「こういう話もあるんだよ、七夕の日の雨は二人の時間を邪魔されたくない  想いだって」 「え?」 「1年に1回会えるこの日、地上の人たちは注目するだろう?  せっかくのデートを邪魔されたくないから、雨にして見上げられないように  してしまったっていう話」 「なんだか嘘くさいね」 「まぁね」  実際嘘だし。 「でも・・・わかる気がするな。せっかく二人っきりになれたのに遠くから  ずっと見られてると落ち着かないものね」 「だから今日の雨は、二人のための雨なんだよ。今頃二人は誰にも邪魔されず  二人の時間を過ごせてる、そう思えば雨でもいいんじゃないかなと思わないか?」 「うん、そうだね」 「だから」  俺は立ち上がって窓のカーテンを閉める。 「麻衣、こうすれば俺達も二人っきりだよ」 「・・・お兄ちゃんの言った話、実感出来る」 「雨だから誰にも邪魔されないって事?」 「うん」 「明日は日曜で休みだしな」 「・・・お兄ちゃんのえっち、休みの前をわざわざ確認しなくたって」 「俺はただ麻衣とおしゃべりで夜更かししてもいいと思っただけだぞ?」 「え?」 「麻衣は何を想像したのかな?」 「うぅ・・・」  照れて顔を真っ赤にしてる麻衣が可愛い。 「いいもん、私はえっちな妹だもん!」 「すねるなよ」 「すねてないもん!」 「でも、えっちな麻衣も大好きだよ」 「っ!」 「それに、俺だってエッチだしな」 「お兄ちゃん・・・んん」  俺を見上げてくる麻衣をそのままそっとベットに押し倒した。
7月6日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS”クールシェア” 「さて、今日の議題なんだが」  会長がいきなり会議を開くと駄々をこねたので仕方なく始まった会議。 「適当な内容だったら怒るからね」 「瑛里華、俺がそんな適当な事で会議を開くと思うか?」 「うん」 「・・・」  あ、会長がいじけた。 「伊織、続ける気があるのなら続けろ」 「あ、あぁ、伊織負けない!」  力強く立ち上がった会長は改めて議題を提示した。 「今日の議題はクールシェアだ!」 「クールシェア、涼しさを共用する事だ」 「共用、ですか?」 「あぁ、たとえばだが一人一人がクーラーを使うのではなく  どこかで一緒になってクーラーを使えばそれだけ節約が出来る」 「それは節約出来るわね」 「そうだろそうだろ、そうすれば学院の運営もしやすくなる」 「あの、会長。一つ質問があるのですけど」 「なんだい、支倉君」  俺は気になったことを会長に聞く。 「生徒会が学園の運営に関わるかどうかは別として、学園の運営って  厳しいんですか?」 「あぁ、そうだよ」 「そうなの!?」  会長の返事に瑛里華が驚きの声を上げる。 「確かに楽ではないはずだ」  東儀先輩が静かに語りはじめた。 「この前の有名シェフをスカウトしたときにかかった移籍費用やその雇用費が  相当大きかったな」 「なんだ、兄さんのせいじゃない」 「ちょ、俺のせい!? 征、それだけじゃないだろう?」 「そうだな、予定外のイベントでの出費も酷いものだ」 「やっぱり兄さんのせいじゃない」 「征、なんで俺のせいばかりにする!?」 「事実だ」 「だから最近兄さんがクールビズとか言い出したのね」 「え?」 「そうなんですか、伊織先輩」 「あ、あぁ、少しは学園の運営も楽になるかなぁって思ってのことだよ」 「すごいです伊織先輩」 「そ、そうだろうとも、あはははは」 「会長、大きな汗かいてますよね」 「孝平、見なかったことにしておいてあげて」 「はぁ・・・」  成り行きの結果白ちゃんに尊敬のまなざしで見つめられた会長。  さすがにばつが悪いようだった。 「それで実際、クールシェアってどうするの、兄さん?」 「そうだな、休日の日、生徒皆が部屋で各自クーラーをつけると大変だろう?」  確かに白鳳寮でどれだけの電気代がかかってるかはしらないが、あれだけの  部屋すべてがクーラーをつければものすごい消費料になるだろう。 「かといって談話室に集めるわけにもいかないだろう」 「そこでだ、毎週日曜日にプールを開放しようかと思うんだが、どうかな?」 「それはいいかもしれないですね」  日曜日の暑い日に部屋にこもってるよりプールで泳いでる方が涼しいし  運動も出来る。悪くない案だと思った。 「それはいいけど、監視員はどうするの?」 「それは俺達が交代でやればいい」 「仕事に支障でるわよ?」 「瑛里華、おまえは何のために生徒会にいるんだ?」  突然会長がまじめな顔になった。 「え? えっと・・・生徒みんなによりよい学院生活をしてもらうため」 「だったらこれくらい苦にもならないだろう! プールを開放するだけで  生徒が喜んでくれるし、クールシェアで電気代も節約できる!」 「そうですよ、瑛里華先輩!」  白ちゃんがきらきらとした目で瑛里華を見つめる。 「あー・・・わかったわよ、プール解放の件で話を進めましょう」 「はい!」  その日の内に教師との協議の場を設けた会長、協議の結果、期末考査の  後から試験的に実施してみることで決まった。  監視員は生徒会から最低2名以上を出すことで決まった。  その夜、消灯時間間際。 「なぁ、なんでまだ瑛里華が俺の部屋にいるんだ?」  俺の別途で横になって何をするでもなく、ただそこにいる瑛里華に  訪ねてみる。 「あら、孝平。今日の議題の事覚えてないの?」 「プール解放の事だろ?」 「違うわよ、その前の事」 「その前・・・クールシェアか?」 「当たり」  そう言うと瑛里華は起き出した。 「一人一人がクーラーを使うより、二人で一部屋に居た方が節約できるでしょ?」 「確かにそうだけど・・・」  ラフな格好で居る瑛里華と二人っきりだと落ち着かない。 「それとも、孝平は私がここにいることは迷惑、なのかしら?」 「そんなわけはない!」 「っ、ったく、孝平はこういうときはいつも即答ね」 「本音だからな・・・たださ、逆に落ち着かないんだよ」 「ふふっ、どうしてかしら?」  そう言って俺の顔をのぞき込むように見上げる瑛里華。 「わかっていてやってるだろう?」 「えー、なんのことかしら?」 「なら教えてやる」  俺はそのまま顔を近づけて瑛里華に唇を奪う。 「ん・・・ふ・・・んんっ」 「・・・わかった?」 「ん・・・孝平がえっちだってことがわかったわ」 「・・・そうだよ、俺はエッチだから瑛里華と一緒にエッチなことしたく  なっちゃうから、困るんだよ」 「どうして困るの?」 「もう時間だろう?」  消灯時間はもうまもなく、こんな時間に女子が男子フロアの、それも男子の部屋に  居ることがばれたらまちがいなくシスターのフライパンが飛んでくるだろう。 「大丈夫よ、孝平」 「大丈夫?」 「えぇ、だって生徒会長が推奨するクールシェアを私たちは実験してるんですもの」  それは屁理屈というものではないだろうか? 「明日は土曜日だから大丈夫よ、だから孝平・・・」  その先の言葉は無かった。
7月3日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS 楽屋裏狂想曲”幻の議事録〜クールビズ編〜” 「それじゃぁ会議を始めようか」  さわやかな笑顔で会長が会議の開始を宣言する。 「兄さんがやる気になってる!?」 「ちょ、瑛里華、その感想はいったいどういう意味なんだい?」 「聞きたい?」 「聞きたいけど、今日はそれよりも大事な会議が先だ!」 「会長テンション高いな、何かあったんだろうか?」  俺は横に座ってる瑛里華に小さい声で聞いてみる。 「私にわかるわけないでしょ? それにいつもあんなでしょ?」  酷い言われようかもしれないけど、なんとなく納得した。 「今日の会議はこれ、要望目安箱だ!」  そう言うと会長は目安箱のふたを開け、中から要望の書かれた紙をとりだした。 「これを見たまえ!」  会長はすでに内容を知ってるようで、瑛里華に紙を渡す。 「はいはい、読めばいいんでしょ? えっと・・・学院のクールビズについての要望?」 「そうだ、そうだよ瑛里華、俺の考えは間違ってなかったんだ!  生徒諸君も立派にクールビズの事を考えていたんだ!」 「征一郎さん、鑑定お願いします」 「あぁ、わかった」 「ちょ、二人とも何やってるの?」  要望の書かれた紙を東儀先輩がじっくりと見る。 「・・・残念だが、これは伊織の筆跡ではない。どうやら本物のようだ」 「えー」 「なに?二人ともその反応は!? いおりん、泣いちゃうから!」 「はいはい、わかったわかったから、要望読むわよ」  改めて要望の書かれた紙を手に取った瑛里華は読み上げる。 「冷房の温度を上げても快適に過ごせるように、クールビズを実施するのが良いと  思います」 「まじめな意見だな」 「続きを読むわよ・・・えっと、そのためには自由な服装での登校が良いと思います」 「私服登校か、それもまた案件にはなるな」  瑛里華の読む生徒の声に東儀先輩が確認するように返事をしていく。 「私服が駄目なら、たとえば浴衣とか良いと思います・・・却下ね」 「え、なんで? 浴衣いいじゃん、可愛くて最高じゃない!」  会長が慌ててフォローする。 「それに試してみないことには」 「却下よ」  会長の言葉を遮るように瑛里華は却下した。 「いや、だめだ! せめて試すくらいはしないと駄目だ!  会長権限で試すこと決定!!」 「会長、いったい何を企んでるんですか?」 「企むなんて人聞きの悪い事いうなぁ、支倉君。この後のゲストの為だよ」 「ゲスト、ですか?」 「そうだよ、白ちゃんの大好きなゲストが待ってるんだ、カムヒアー!」  会長の声と共に外に通じる扉が開かれる。  そしてそこにいたのは 「紅瀬さん?」    ものすごく不機嫌そうな紅瀬さんが、何故か浴衣姿で立っていた。 「これで満足かしら? 私は帰るわね」 「ちょっとまって紅瀬ちゃん、クールビズの為に浴衣について熱く語ってくれないか?」 「確かに熱くはなく涼しいわ、以上よ」 「すまなかったな、紅瀬。伊織のわがままにつきあわせて」 「えぇ、いい迷惑よ。伽耶の頼みじゃなければこんな事しないわ」 「え、母様が?」 「そうよ」 「なんで母様が兄さんなんかに協力するのかしら?」 「そこ、瑛里華くん? なにげに酷いこといってないかい?」 「千堂さん、伽耶は千堂君に協力してるのではないわ、貴女に協力してるのよ」   「私・・・に?」 「えぇ、より良い学園生活をおくってもらおうと、伽耶なりに考えてるのよ」 「・・・母様、ありがとう」  なんだか良い話だな、瑛里華も嬉しそうだし良かった良かった。 「ちょっとそれで話をまとめようとおもって無いかい? 支倉君」 「・・・いえ、別に」 「何かな、その間は?」 「気のせいです、それよりも東儀先輩」 「何だ」 「浴衣の件ですが、納涼会みたいなものを企画すれば良いかと思います」 「そうだな、そう言うイベントなら問題も無かろう、支倉、早速企画案をまとめてくれ」 「私も手伝います!」 「ありがとう、白ちゃん。みんなで浴衣着て夏の想い出作りしような」 「はい!」  こうして”浴衣を着て集う夕べ”という納涼会の企画作りが始まった。 「・・・しくしくしく」  部屋に端で体育座りしてのの字を書いてる会長に気づいたのはだいぶ後の事だった。
7月2日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS”クールビズ” 「暑い〜」  監督生室の会長の席で机に倒れ込んでるのはいうまでもなく、会長その人だった。 「ちょっと兄さん、そんなに暑い暑いって言わないでよ!」 「だってぇ、クーラー壊れてるんだもん、暑いに決まってるじゃないかー」  そう、7月に入ってクーラーを使おうと思ったら動かなかった。  どこかが壊れてるようだが、素人の俺達に直せるわけもなく修理依頼をした。  もちろん、すぐに直るわけではない。 「そうだ、クールビズでいこう!」 「瑛里華、この書類の案件なんだけど」 「あ、これはね・・・」 「無視しないで、寂しくて泣いちゃうから!」 「・・・鬱陶しいわね、それで兄さん、何がしたいの?」 「クールビズだよ、COOL BIZ!」 「クールビズって最近政府が打ち出した方針でしたよね」 「あぁ、一時期、電力不足に悩んだ政府が打ち出そうとした方針だ。  室内温度28度以上で対応出来る軽装の着用を呼びかけた運動だ」  今まで黙ってた東儀先輩が説明してくれた。 「詳しいんですね、兄さま」 「これくらい常識だ」  白ちゃんの言葉に眼鏡のずれをなおしながら答える東儀先輩。  心なしか口元がゆるんでるような気がする。 「で、兄さんは何がしたいの?」 「クールビスだよ、COOL BIZ!」 「話がループしてますよ・・・」  暑さのせいか会長のテンションが異常に高い。 「で、会長はどうしたいの?」 「征が言ってただろう? 涼しげな格好をすれば良いんだよ!」 「はぁ・・・」  とは言ってもすでに夏服になっているこの制服ではこれ以上涼しくしようにない。 「だいじょうぶ、まだ脱いでも平気なものがあるじゃないか、なぁ瑛里華」 「え? な、なによ」 「その赤いベストさ!」  会長は瑛里華の胸の当たりを指さしながら力説する。 「その赤いベストが暑さを助長させてるんだよ! 赤いブレザーから解放されたのに  まだ赤に縛られてる。それがいけないんだよ!!」 「べ、別にいいじゃないの、ベストくらい。それに冷房が効いてる教室じゃこれくらいが  ちょうど良いのよ!」 「はい、ちょっと寒すぎると感じる時もあるくらいです」 「何をいう、悠木妹はベストを着ていないじゃないか!」  そういえば陽菜はシャツだけだったな。 「さぁ、まずはベストを脱ごう、クールビズだ!」 「え? でも」 「伊織、そこまでにしろ」  困ってる白ちゃんを助けるように東儀先輩が止めに入る。 「女子には女子の事情がある、男子である俺達がそれを強制する事はできない」 「そっか、それならベストの件は諦めよう」  あっさり会長が手を引いた。 「じゃぁ、クールビズ用の制服を新たに作ろう!」 「伊織、予算すべては伊織持ちだぞ」 「だいじょうぶ、当面は体操着で良いと思うんだけどどうかな、支倉君」 「そこで俺に振りますか」 「ほら、体操着の瑛里華や白ちゃんと一緒に仕事出来ると思うと効率あがるだろう?」 「これはどう答えても角が立つじゃないですか」 「そうかい?」 「ですからノーコメントです」 「なら以前みたいに水着で」 「伊織」 「!?」  いつもよりトーンの低い声で東儀先輩が会長を呼ぶ、その声だけで室内の気温が  下がった気がした。 「クールビズの意味、全部知っているか?」 「え、えっと、さっき征が言ってた通りだろ? 涼しい格好で」 「それ以外にもある」  そう言うと東儀先輩はゆらりと立ち上がった。 「室内温度の上限が28度、その室温の中でも涼しく効率的に働くことができる  ような環境を整える事だ」 「だから、それならさっきと同じじゃんか、征」 「そうだな、効率よく働けるようにしないといけないな、伊織」  そう言い終えた瞬間、東儀先輩は会長の腕をつかむ。 「せ、征?」 「瑛里華、支倉、白。ちょっとだけ留守にする。その間の業務は任せる」 「えぇ、わかったわ、征一郎さん。兄さんが居ない方が効率良いから大丈夫よ」 「ちょっと瑛里華? 何そのさわやかな笑顔は、それに俺が居ないと出来ない仕事も  あるだろ?」 「安心しろ、夜に伊織の部屋に届けよう」 「ちょ、それって俺に徹夜しろってこと?」 「安心しろ、一人で出来るように仕上げて置いておこう」 「それって何も安心できな、ちょっと、征、はなせー!」  二人が監督生室から出ていった。 「・・・続けるか、瑛里華」 「えぇ、でもその前に一つ聞いて言いかしら?」 「何を?」 「さっき、兄さんの質問の返事、孝平はどう答えようとしたのかしら?」 「あ、私も気になります」 「・・・それを俺の口から言わせるのか?」 「えぇ、聞いてみたいもの、ね、白」 「はい!」 「・・・」  俺の答えを聞いて、顔を赤くした二人。  下がった気がした室温が、一気に上がった気がした。
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