フィーナ誕生日記念SS
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9月29日
・夜明け前より瑠璃色なMoonlight Cradle sideshortstory「何度でも」

 国を挙げての私の誕生日の催し物を秒単位でこなしていく。
 いつから誕生日の式典や行事に、物足りなさを感じたのだろう?
 それは考えるまでもない。
 あのとき、達哉が祝ってくれた誕生日の後からだ。

 地球にホームスティし、お互いに惹かれていき、すれ違って、そして結ばれて。
 私の生涯のパートナー、朝霧達哉。
 彼は私と婚約したときから毎年かかさず誕生日に駆けつけて来てくれた。
 それは、まだ達哉が学生の頃で月と地球の国交正常がまだされてないとき。
 そんなときでも月まで駆けつけてくれた。
 ある時は忍び込むように、ある時は私から会いに。

 そして今、二人の立場はあのときと大きく変わってしまった。
 私はスフィア王国の王女であるのは変わりない。
 達哉は月大使館一の切れ者として、そして私の婚約者としての立場を不動の物とした。
 それ故に、婚約者であるまえに地球連邦大使館の一員という立場のために
 身動きがとれず
「・・・」
 こうして今日のスケジュールの予定に達哉と会う項目は含まれることは無かった。
「でも、達哉の事だから」
 きっとどこかで私に会いに来てくれることだろう。
 今まで私の誕生日の日のスケジュールに達哉と会う、という項目は一度も無かった。
 それを私たちは乗り越えてきたのだ。
「今日は何処で私を驚かせてくれるのかしら?」
 そう思うとスケジュールの消化が楽しくなってきた。

 しかし、私の期待は叶えられること無く、今日最後のスケジュールが消化された。

「・・・ふぅ」
 自室に戻ったときに達哉が隠れてるのではないか、と期待したけど、それも無かった。
 私はドレスを脱ぎ捨てナイトドレスに着替えずそのままベットに横になった。
 時計を見る、もう日付が変わってしまっている。
「・・・」
 わかってはいるつもりよ・・・いえ、わかってる!!
 心の中で叫ぶ。
 お互いの立場もある、それを乗り越える為に今までがんばってきたのだ。
 今年の誕生日に会えず、祝ってくれなかっただけで達哉との関係が変わる訳ではない。
 それでも毎年乗り越えてきたこの日に達哉と会えなかった、話せなかった。
 ・・・抱きしめてもらえなかった
 そう、それだけのことなのに。
「ぐすっ・・・」
 涙を抑えることが出来なかった。

 パタン、と小さな音がした。
「・・・誰?」
 もしかして泣かれたところを見たかもしれない、そう思うと恥ずかしさで顔が火照る。
「・・・フィーナ、ごめん」
「え?」
 部屋に入ってきたのは・・・達哉?
「間に合わなかった、ごめん」
「・・・達哉!」
 私はベットから起きあがり達哉の胸に飛び込んだ。
「フィ、フィーナ?」
「もう、こんな大事な日に遅刻だなんて絶対許さないわ!」
「ごめん、許してもらえるとは思ってない」
「でも、会いに来てくれたから許してあげる」
 そう言ってから私はそっと達哉と口づけを交わした。

「・・・あの、さ、フィーナ。その」
「なに?」
 私の目の前にある達哉の顔は赤くなっていた。
 キスくらいで恥ずかしがるなんて・・・そこで何か大事なことを
 忘れていることに気づいた。
 達哉に抱きついてる私の胸にあたる感覚は妙、そう、それはまるで
 服を着ていないような・・・
「・・・」
「・・・その、ごめん」
「もぅ、気づいてるのなら早く言って、達哉のえっち!」

「今年は色々とあってさ、誕生日の日は丸1日全く時間とれなかったんだよ」
 月側の一部貴族の申し出や会合や、嫌らしいといえるくらいの無理難題。
 それを正式に月から申請、提案する形で地球連邦大使館に押しつけてきたらしい。
「昨日まで結構暇な時間とれてたんだけどね、今日にあわせて一気に仕事を出してきた
 みたいだ」
「もぅ、今度私から抗議しようかしら?」
「いやいいさ、それもちゃんと終わらせたからさ」
 どれだけ無茶で難題であっても、それが正当な手続きで来た以上、
 達哉側は答えねばならない。そしてそれをこなす技量を達哉は持っている。
 月の貴族が無理難題を押しつければ押しつけるほど、達哉の手腕と名声が
 上がっていく。そのことに貴族達が気づけない訳無いのだけども・・・
「今回はメイドさん達にもお礼を言わないとな」
「え?」
「王宮への進入経路、メイドさんに助けてもらったからさ」
「・・・」
 この件については私は少し複雑な感情を持っている。
 大使館員として王宮に出入りするようになった達哉は、すぐにメイド達と
 仲良くなっていった。あまり地球の人と接点が無かったメイド達は最初警戒していた。
 その頃から達哉のことを知っているミアが率先して対応していたが、達哉の人となりに
 触れる内にメイド達の間に”姫様の婚約者”ではなく
 親しみやすい”地球連邦大使館員のエース”という認識が広がっていった。
 また、下級貴族や平民から仕事に来ているメイド達は上級貴族の事を良く思ってない
 人が多い。そんな貴族達に仕えるよりも達哉に仕えたい、と思うようになるまで時間は
 かからなかった。
「もう、達哉。婚約者の前で他の女の人の話をするのはマナー違反よ?」
「ごめんごめん、でも他の女の人は他の女の人だよ」
 そして達哉はまっすぐに私を見つめながらこう言った。
「俺にとっての・・・俺の女は今はフィーナだけだから」
「今は?」
「あぁ、将来はわからないからな」
 その意味に私は不安になる。
「おっと、勘違いしないでくれよ? フィーナ」
「・・・勘違いってなによ」
「俺の女はフィーナだけ、でも生まれてくる娘も俺の、いや俺達の女の子になるからな」
 その意味することに顔が一気に火照ってくる。
「でも、男の子が産まれるかもしれないわよ?」
「そうかな? これは俺の予感なんだけどさ、最初は絶対フィーナ似の
 女の子だと思うんだよな」
「私は達哉似の男の子でも良いわよ」
「なら」
「結婚したらいっぱい子供つくりましょうね、達哉」
「あぁ」
 私たちはそれが自然であるかのように、口づけを交わした。
 ・
 ・
 ・
「そういえばさ、フィーナ。最近仕事きつくなかった?」
「きつくない業務なんて無いわ・・・でも最近ちょっといつもより多かった気は
 するわ」
「それは、ミアが調整してくれてたみたいなんだ」
「ミアが?」
「あぁ、毎日少しずつ仕事を前倒しで進めてもらってたみたいなんだ」
「・・・ということは」
「明日の午前中までフィーナはお休みだよ、そして俺もそれにあわせて休みを取った」
「本当に!?」
「王宮から出かけることは出来ないけど、明日の昼間ではずっと一緒に居られるんだ」
「嬉しい・・・後でミアにお礼を言っておかないといけないわね」
「そうだね、でもそれは後で」
「もぅ、また?」
「フィーナとなら何度でもさ、もう飽きちゃった?」
「そんなことあると思って?」
「無いな、だってフィーナだもん」
「それを言うなら達哉だからでしょう?」
「そうかも」
「ふふっ、それじゃぁ・・・」

 こうして夜は更けていった。

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