思いつきSSログ保管庫
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雑記掲載SS保管庫 2011年第2期 6月24日 FORTUNE ARTERIAL SSS”熱くする言葉” 6月20日 FORTUNE ARTERIAL SSS”肌寒い日のクールダウン” 6月17日 FORTUNE ARTERIAL SSS”温もりと熱さと” 6月11日 穢翼のユースティアSSS 「楽屋裏狂想曲〜人気投票編〜 結果発表編」 6月10日 穢翼のユースティアSSS「楽屋裏狂想曲〜人気投票編〜 feat.ティア」 6月10日 FORTUNE ARTERIAL SSS”早朝決戦” 6月8日 穢翼のユースティアSSS「楽屋裏狂想曲〜人気投票編〜 feat.聖女イレーヌ」 6月7日 FORTUNE ARTERIAL sideshortstory「約束の証」 6月6日 穢翼のユースティアSSS「楽屋裏狂想曲〜人気投票編〜 feat.フィオネ」 6月4日 穢翼のユースティアSSS「楽屋裏狂想曲〜人気投票編〜 feat.エリス」 6月2日 穢翼のユースティアSSS「楽屋裏狂想曲〜人気投票編〜 feat.リリウム」 6月1日 穢翼のユースティアSSS「楽屋裏狂想曲〜人気投票編〜 第1回中間発表」 5月31日 穢翼のユースティアSSS「楽屋裏狂想曲〜人気投票編〜 fate.リシア」 5月30日 穢翼のユースティアSSS「楽屋裏狂想曲〜人気投票編〜」 5月24日 夜明け前より瑠璃色なMoonlight Cradle SSS”同じ夜空” 5月19日 FORTUNE ARTERIAL 楽屋裏狂想曲予算争奪編「完結編?」 5月17日 穢翼のユースティアsideshortstory「失われた秘宝」 5月12日 ましろ色シンフォニーSSS”ちっちゃい妹” 5月8日 夜明け前より瑠璃色なMoonlight Cradle SSS”達哉専用” 5月5日 FORTUNE ARTERIAL 楽屋裏狂想曲予算争奪編「陽菜編」 5月3日 FORTUNE ARTERIAL 楽屋裏狂想曲予算争奪編「テニス編」 4月27日 穢翼のユースティアSSS”闇の中の光” 4月26日 穢翼のユースティアSSS”闇の中の闇” 4月25日 穢翼のユースティアSSS”イレーヌ” 4月24日 穢翼のユースティアSSS”欲する物” 4月23日 穢翼のユースティアSSS”強さと誇りと” 4月22日 穢翼のユースティアSSS”水入らず” 4月21日 ましろ色シンフォニーSSS”バスタイム” 4月20日 FORTUNE ARTERIAL 楽屋裏狂想曲予算争奪編「弓道部編」 4月19日 夜明け前より瑠璃色なMoonlight Cradle sideshortstory「二人の時」 4月12日 FORTUNE ARTERIAL 楽屋裏狂想曲予算争奪編「柔道の特訓」 4月10日 FORTUNE ARTERIAL 楽屋裏狂想曲予算争奪編「柔道部編」 4月2日 FORTUNE ARTERIAL sideshortstory 「約束の証」 3月29日 FORTUNE ARTERIAL 楽屋裏狂想曲「予算争奪戦」
6月24日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS”熱くする言葉” 「それっ!」  その言葉とともに俺の身体は浮き、そして落下する。  視界が一転し、水色の世界に俺は・・・って、悠長に考えてる余裕なんてない。 「ぷはっ! なにするんだよ」 「いいじゃないですか、副会長に続けー!」 「危ないからプールに飛び込まないで!!」  そう、俺はプールに投げ込まれたのだった。  涼しい梅雨、まだ梅雨明けはしてないが急に夏がきたような気温の日が続いた。  生徒達からプール使用に関する要望が一気に増え、梅雨の合間の今日、水泳部を中心と  した有志一同でプール掃除をする事になったのだ。 「ふぅ、参った参った」  俺はプールサイドへとあがって腰を下ろす。  濡れても言いように最初から水着だったので特に問題はなかったのが幸いだった。 「はぁ、少しだけですからね」  俺の言葉に水泳部員と有志はプールの中から元気に返事を返してきた。 「これでもう人はいないな」  プール掃除が放課後から行われたため、掃除が終わってすぐに夕方となった。  何人か遊んでいきたいと抗議したが、今日は掃除の日ということでなんとか  プールからでてもらい、俺は男子更衣室の戸締まりをしたところだった。 「あの、副会長」 「お疲れさま、どうかしたの?」 「はい、女子更衣室に一人分の制服が残ってるんです」 「更衣室に? 確かプールにはもう誰もいなかったよね」 「はい、どうしましょうか?」  プールには誰もいない、女子更衣室に残ってる制服・・・ 「あとで会長に確認してもらうよ、だからもうあがっていいよ」 「はい、それじゃぁよろしくお願いします」  女子生徒はそういうと寮へと帰っていった。 「てっきり帰ったかと思ったんだけどな・・・たぶんアレだな」  女子更衣室の戸締まりも外側からして、おれはプールを後にする。  そして寮へは向かわず、裏山の方へと向かって歩き出した。 「・・・なんていうか、すごいな」  小高い丘の上、ここは桐葉のお気に入りの場所だ。  そして、強制睡眠の時にここに来る事が多い。  だから、桐葉が行方不明になったときは俺は真っ先にここに迎えに来る。  それはいつも通りなのだが。  ・・・  俺は改めて桐葉を見る。  整った顔立ち、きれいなまつげ、浅く呼吸してるのだろう、上下する胸。  いつ見ても非の打ち所がないと言える眠り姫の姿なのだけど。 「水着ってのがな」  そう、桐葉は水着姿だった。  桐葉にプール掃除に手伝いにきてもらったのだが、途中からいなくなっていた。  飽きたのか・・・いや、桐葉は一度引き受けたら責任を持って成し遂げるから  飽きるという理由はない。  急用があったか、それでなければ強制睡眠が襲ってきたか。 「・・・まぁ、いいさ」  俺は桐葉の横に座り、桐葉の頭をそっと俺の太股のところに乗せる。  起きるまでこうしているつもりだ。  そっと髪を撫でながら、そのときが来るのを待つことにした。 「ん・・・孝平?」 「起きたか? 桐葉」  桐葉は返事をせず、髪を撫でていた俺の手を握る。  そして頬に当てた。 「・・・暖かいわ」 「そうだね、さすがにそろそろ寒くなってくる時間だしな」  陽はちょうど沈むところ、その夕日に照らされた桐葉の顔は綺麗だった。 「もうだいじょうぶか?」 「えぇ」 「それじゃぁ一度プールに戻るか」 「なんで?」 「その格好のままじゃ帰れないだろう?」 「あ」  俺に言われて桐葉は今の自分の格好を思い出したようだ。  しかし、こんな屋外の丘の上でスクール水着って、すごい違和感あるよな。 「・・・ねぇ、孝平が着替えを持ってきてくれれば問題なかったんじゃないかしら?」 「それは考えた、だけど女子更衣室の中に入る訳にはいかないだろう?」 「私は別にかまわないわ」 「俺がかまうの」  さっきから強い海風が吹き出している、いくら初夏の陽気とはいえ完全に陽が  落ちれば、水着では寒いだろう。 「ほら、いくぞ」 「えぇ」  そういうと桐葉は俺の腕に抱きついてきた。 「き、桐葉?」 「少し寒いの、だからいいでしょう?」 「そ、そうか・・・」  桐葉に抱かれた俺の腕は、ものの見事に桐葉の胸に挟まれている。  肌に妙にフィットするスクール水着、そのざらついた感触と桐葉の柔らかさに  俺は寒さを忘れるどころか熱くなってくる。 「どうしたのかしら?」 「な、なんでもない。いくぞ」 「ふふっ」  桐葉が笑う声が聞こえたが、俺は自分を落ち着かせることに集中した。 「なんとかばれずに着いたな」  よく考えてみたら、プールに戻るということは新敷地を通らなくてはいけない。  この時間に俺が歩いてるのは問題ないが、その連れがスクール水着の桐葉。  見つかったときの言い訳なんて全くできない状況だった。 「だから着替えを持ってきてくれてれば良かったって言ったでしょう?」 「わかってるよ」  確かに人がいなくなってから女子更衣室に入った方が安全だったのかもしれない。 「だけどさ、早く桐葉のところに行きたかったんだよ」 「っ!」  俺の言葉に桐葉がびくっと身体を震わせた。 「・・・もぅ、孝平ったら」 「ちょっとまった」  近くから人の気配がする。こんなところを見つかったらまずい。 「桐葉、中に!」  俺は更衣室の鍵を開けて桐葉と中に隠れる。  むろん、すぐに中から鍵をかけることは忘れない。 「・・・」  外で誰かの話し声が聞こえた気がしたが、すぐにそれは遠ざかっていった。 「ふぅ・・・よかった・・・って!」  振り返ると水着を脱いで一糸まとわぬ姿になった桐葉がたっていた。 「き、桐葉さん?」 「孝平のせいよ」 「はい?」 「私は確かに寒いっていったけど、身体の芯に火をつけてなんて言ってない」  確かにそういう事は言ってないと思う。 「それなのに、孝平ったら私に火をつけるんだから」 「な、なんのことだ?」 「それはもうどうでもいいの、孝平。私に火をつけた責任はとってね」
6月20日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS”肌寒い日のクールダウン” 「ちょっと寒いですね、支倉先輩」 「そうだね」  白ちゃんと一緒に監督生棟に向かいはじめてすぐに俺もそう思っていた。  冬服の白ちゃんは白いストッキングをはいていて修智館学院の短めのスカートでも  寒そうには見えなかった。  でも今は夏服、白ちゃんの足は素肌、そしてこの雨上がりの気温ではさすがに  寒く感じるだろう。 「寮に寄って着替えていく?」 「いえ、そこまではしなくても大丈夫です」 「そっか」  白ちゃんがそう言うなら俺が強く言うことはないだろう。  こう見えても白ちゃんはしっかりしてるからな。 「でも・・・ちょっとだけ寒いです。だから・・・支倉先輩。腕組んでもいいですか?」 「いいよ、白ちゃん」  俺の返事にぱぁっと微笑んだ白ちゃん。 「ありがとうございます」  そう、一度頭を下げてから俺の腕に抱きついてきた。 「・・・」 「白ちゃん?」 「ひゃい!?」 「どうかしたの? 難しい顔をして」 「い、いえ・・・なんでもないです」  さっきまでの笑顔は俺と腕を組んですぐに消えてしまった。  代わりに浮かんでいるのは、戸惑いの表情。 「白ちゃん、何かあったの? 俺で良かったら聞くよ?」 「・・・あの、支倉先輩!」  そういうと白ちゃんは俺の腕を強く抱きしめる。 「なんだい?」 「・・・」  俺の返事に白ちゃんはしゅんとしてしまった。 「・・・言えないことなら無理に言わなくていいよ、でもいつでも俺を頼って  いいんだからね、白ちゃん。だって、俺は白ちゃんの彼氏なんだから、ね?」  そうして俺はあいてる手で白ちゃんの頭をなでてあげる。 「ふぁ・・・支倉先輩、ありがとうございます」 「実は・・・その、支倉先輩。笑わないで聞いてくれますか?」 「あぁ、約束する」 「ありがとうございます」  白ちゃんは深呼吸する、緊張するほど大事な問題なのだろうか?  俺も緊張してきた。 「あの・・・支倉先輩はおっぱいが大きい方が好きですか?」 「・・・は?」  白ちゃんの口からでた言葉に、俺は逆に言葉を失った。 「ですからおっぱいは大きい方がお好きですか?」  白ちゃんの真剣な表情をみる、これは俺も真剣に答えないといけない。 「・・・そうだな、俺は大きさは気にしないよ」 「でも、小さいよりは大きい方がいい・・・ですよね」 「どうだろう? 俺は白ちゃんのおっぱいしかしらないからほかはわからないな」 「え?」 「だって、俺の彼女は白ちゃんだろ? ほかの女の子の胸なんてもう関係ないしな」 「で、でも、男の人は大きい方が好きだって」 「人それぞれじゃないかな、それは。俺は白ちゃんのおっぱいが一番だとおもうな」 「っ!」  俺の言葉に顔を真っ赤にする白ちゃん。  ・・・今更だけど俺はすごいことを言ってると思うな。  ひかれてなければいいんだけど。 「で、でも、腕を組んでも支倉先輩は全く気にされてませんでしたし」 「・・・白ちゃん、無理にそういうことしなくてもいいんだよ?」 「でも」 「そんな事言う白ちゃんにはおしおきが必要かな」 「え? きゃんっ!」  俺は素早く白ちゃんの背後に回って抱きしめる。 「これが、おしおきですか?」 「あぁ、俺の言うことを信じてくれるまで離さないおしおき」 「支倉先輩・・・それだと私はずっと信じないでいたくなります」 「それはやだな、ならこうするか」 「ひゃんっ!」   抱きかかえてた手を白ちゃんの胸に回し、そっと揉む。 「や、支倉先輩・・・え?」  そしてすぐに手を離す。 「俺の言うことを信じてくれないなら、これ以上はしない」 「・・・」  白ちゃんは顔を真っ赤にしてうつむいている。  しまった、さすがにちょっとやりすぎたかも。 「・・・支倉先輩が私のおっぱいが好きだって事、信じます」 「そ、そっか。信じてくれて良かったよ」  なんとかこの場は収まりそうだな、良かった・・・ 「だから・・・続きをして・・・くれませんか?」 「え?」 「信じたら続けてくれるんですよね?」 「そ、それは・・・それに、ここで?」 「身体が熱いんです、お願いします支倉先輩!」  肌寒かったはずの監督生棟までの道のり。  だが、監督生室につく前にクールダウンが必要になった。
6月17日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS”温もりと熱さと” 「ちょっと肌寒いわね」  放課後、瑛里華と一緒に教室棟の玄関をでた時のことだった。 「そうだな、ちょっと寒いかもな」  午前中の雨はあがったものの、空は曇り空。  今日は梅雨時のじめじめとした湿気はないものの、気温が低め。  そうなると半袖の瑛里華の姿は確かに寒そうに見える。 「寮によって上着着ていくか?」 「そこまではしないでいいと思うわ」  二人で監督生棟へ向かって歩き出す。  本敷地への階段を登り始めると、風が少しでてきた。 「やっぱり寒いわね」 「風邪ひくと困るから一度戻ろう」 「ここまできたらもう同じよ、それよりも良いアイデアがあるの」  そういうと瑛里華は俺の腕に抱きついてきた。 「瑛里華?」 「こうすれば暖かいでしょう?」  そういって微笑む瑛里華。  確かに触れ合っていれば身体は暖かくなる。  だけど、俺の腕に押しつけられている柔らかなふくらみが、俺の身体の芯の部分の  熱を上げてしまう。 「ふふっ、孝平どうしたのかな?」 「瑛里華、わかっててやってるだろう」 「何のことかしら?」  そういいながら腕に胸を押しつけてくる。 「瑛里華、暖かくなる前に熱くなっちゃうよ」 「そうしたら孝平はどうなるの?」 「・・・襲っちゃう」 「きゃっ、襲われちゃう♪」 「ったく、襲ってほしいみたいな言い方するなよ、我慢できなくなるだろ?」 「そうね、これから仕事があるのだから我慢しなくちゃね」  そういって腕から離れようとする瑛里華を、俺は抱き留める。 「こ、孝平?」 「寒いんだろう? 少し暖まってから監督生室にいこう」 「・・・だめ、私の方が我慢できなくなっちゃう」 「これから仕事なんだから我慢しなくちゃな、生徒会長」  からかわれた仕返しをする。 「・・・あ」  俺の腕の中でもぞもぞと動いてた瑛里華が何かに気づいた。  いや、気づかれたというべきか。 「孝平は我慢できるの?」 「これから仕事だからな・・・我慢する」 「もぅ・・・そこで我慢できないっていってくれればいいのに」  瑛里華の小声のつぶやきが妙にはっきりと聞こえた。 「・・・なぁ、今日は白ちゃんは遅くなるんだったよな?」 「え、えぇ・・・ローレルリングの活動があるそうだから」 「・・・」 「・・・」 「瑛里華、とりあえず監督生室までいくか」 「そ、そうね」  そう、まずは監督生室にいかないとなにも話にならない。 「ねぇ、孝平・・・熱いわね」 「あ、あぁ・・・」 「監督生室についたら・・・その、クールダウンした方がいいわね」 「そ、そうだな」 「えぇ・・・」  会話がとぎれる。 「と、とりあえずは監督生室だな」  監督生室について、すぐに仕事が始められれば良いのだけど、と思いながらも  期待してしまってる俺がいた。
6月11日 ・穢翼のユースティアSSS 「楽屋裏狂想曲〜人気投票編〜 結果発表編」  ジークの思いつきで始まった人気投票の結果が今日発表される。 「不蝕金鎖の長の名において、不正が無かったことをここに宣言する」  元関所前の広場を借り切る事になるくらい、この祭りは大きくなっていた。  関所のバルコニーには忙しいはずのリシアがフィオネを伴って来ている。  俺は万が一の為のジークの護衛ということで、ジークの立つ舞台の横に  待機し気を張っている。 「はい、カイムさん。お茶が入りました」 「・・・」  張っていた気が一気に緩んだ。  舞台横のテントの中でティアがスタッフにお茶を配っていた。 「お気に召しませんか?」 「いや、飲もう」  なんかもうどうでもよくなった気がするが、一応護衛の仕事を請け負ってるので  真面目に回りを観察しながら、ティアのいれてくれたお茶を飲む。 「まずは多数の参加者に厚く御礼を申し上げる、皆のおかげでこの人気投票は  多大に盛り上がった!」  舞台上ではジークの熱演が続いている。 「盛り上がったか・・・」  ここ数日の俺の回りの騒がしさを考えると、素直に喜べないな。 「多数居る麗しき乙女達、その全てをここで発表するには時間がとても足りない。  だから、栄誉あるベスト6を発表する。7位以下は後ほど発表する事に・・・」 「本当は10位からにしたかったって話よ」  横の救急用テントから来たエリスが耳打ちする。 「なんでも10位の人が表沙汰に出来ない人らしいのよ。カイムは知ってる?」 「思い出したくもない」  たぶん、あの狂犬の事なんだろうな。出来れば二度と関わりたくない。 「・・・なんで第6位からなんだ?」  10位が発表できないのなら9位からでもいいが、そう言うときは3位からとかの  方が妥当だろう。 「カイム、大人の事情があるのよ」 「そうか・・・」  まぁ、大人の世界には事情がよくあるものだからな。 「それでは第6位は!!」  こうして人気投票の結果が発表された。  俺は特に順位を気にしては居なかったが、何故か俺に関係してる女の名前ばかりが  呼ばれた気がする。 「おつかれさん、いやぁ面白かったなぁカイム」 「・・・お前、どこまで本気だ?」 「もちろん、全てだ」  あの人気投票の結果発表のあと、ジークはとんでもないことを言い出した。 「リシア国王陛下の1位を記念して、抱き枕を作ろうと思う、みんな買うか!!」 「おーっ!!」  この発言の後、近衛騎士が押し掛けてくるのではないかと思ったが、何故か  それはなかった。  後で聞いた話では、下層や上層でも抱き枕化の賛成者がいるそうだ。 「ある意味この国は安泰だよな、本当・・・」  そしてジークは続いてジェントルメン部門での人気投票の開始を宣言した。 「今度は俺達が投票対象か・・・面倒だ」 「構わないじゃないか、沢山いれてもらえよぐはっ!」  裏拳で殴っておく。 「俺にそう言う冗談は止めておけ、殴るぞ」 「もう殴ってないか?」 「気のせいだ、ほら」  俺はジークの杯にワインを注ぐ。 「お、すまないな」  ジークがその杯を飲みほす、それと同時にヴィノレタの扉が開いた。 「ジーク殿」 「フィオネ?」  入ってきたのはフィオネと、そして 「邪魔する」 「リシア」 「なんだ、カイムもいたのか。それよりもジーク」 「何でございましょうか、国王陛下殿」 「単刀直入に聞こう、なぜ抱き枕を作るのだ?」  やっぱりその話だったか。俺は軽く腰を上げていつでも動ける体制を作る。 「以前カイムから聞いた話ですが、国王陛下は国民全ての母になられると  仰ったそうですね」 「あぁ」 「だが、母がすべての子を抱きとめる事は不可能。それをお手伝いするために  このグッズを作ろうかと思った所存でございます」 「そ、そうか。だから抱き枕なのだな・・・ジーク、大儀である」 「はっ」 「なら何も問題はないな、フィオネ」 「・・・はっ」  一瞬何かを考えたようなフィオネであったが、結局返事をした。 「なら戻るとしよう・・・だがその前に」  リシアは俺の横の席に座る。 「カイム、ここでは何がお勧めだ?」 「今日は鳥の煮込みスープが勧めだが」 「ならそれを2人前戴こう」 「陛下?」 「フィオネ、たまには息抜きも良いだろう。私につきあってはくれぬか?」 「陛下がそう仰るのでしたら」 「カイム、最近の話を聞こう」 「特に面白い話は無いが」 「うそを言うな、カイムが関わって面白くない話など無いだろう?」  そう言って笑うリシア。 「確かにそうだな、カイム。お前の負けだな」 「ジーク・・・半分以上はお前が関わってるだろう」 「そうだったか?」 「ったく、面倒だな」  国王陛下と近衛騎士、牢獄地区の王に何でも屋。  ある意味トップ会談とも言えるこの組み合わせの食事は、何故か  世間の話題で盛り上がった。 「平和の証だよな」 「カイム、何か言ったか?」 「なんでもない」  その後ジークが業者に作らせた抱き枕。  その絵柄の件で一悶着起きることは、今はまだジーク以外の誰も  知らない事だった・・・
6月10日 ・穢翼のユースティアSSS 「楽屋裏狂想曲〜人気投票編〜 feat.ティア」 「お掃除終わりました、次はお洗濯です♪」  ティアが嬉しそうに俺の部屋を掃除し、洗濯物を持って井戸へと向かっていった。  しばらくすると帰ってくる。 「それじゃぁお昼の支度をしますね」 「あぁ・・・」  俺はそれを黙って見ているだけだった。  ティアの家事はいつものことで、俺がいても居なくても関係ない。  いつもと違うのは俺が部屋にずっと居ることくらいだろうか。 「カイムさんお疲れのようですから、精の付く物にしましょうか?」 「まかせる」 「まかされました♪」 「ごちそうさま」 「お粗末様でした」  昼食も終わり、その後かたづけもティアがしてくれている。 「・・・なんだかこれじゃ俺が駄目人間みたいだな」 「何か言いました?」 「なんでもない」  確かに今日の俺は駄目人間かもしれないが、ここ数日の騒ぎの犠牲に  なっていたことを考えれば、この休息もささやかな報酬だと思う。  ジークの気まぐれで始まった人気投票も先日で終了している。  これでもう、俺が誰にいれたいれないの話は無くなった訳だ。 「カイムさん、お茶が入りました」 「ありがと」 「ふぅ」  俺の向かいに座り、お茶を飲むティア。 「美味しいですね、カイムさん」  その満面な笑みは、何故かひまわり畑を思い浮かべる。 「そういえば、ティアの頭にはひまわりが咲いてたっけな」 「カイムさん、いきなり酷いこと言わないでください」 「酷くないさ、事実だからな」 「それなら仕方ありません・・・あれ?」  一瞬言いくるめられたティアだが、すぐにそのことに気づいたようだ。 「もぅ、カイムさん。私はこれでもすごいんですよ?」 「あぁ、知ってるさ」 「え?」  俺の返事に戸惑うティア。 「世界を救った天使様だものな」 「・・・あー、そういえばそうでした」 「おい、すごいんじゃなかったのか?」 「私はカイムさんを助けたかっただけです、世界はついでです」  世界が俺のついでって・・・ 「まぁいいさ、ティアのおかげでこの世界があるんだからな」 「ですから、私は」 「わかってるさ、ありがとうな、ティア」 「・・・カイムさんにまっすぐにお礼を言われるのが不思議な気分です」 「じゃぁもう言わない」 「い、いえ、不思議な気分なだけであって嫌ってわけじゃないんですよ?  どっちかというと嬉しいなんておもったりもしてないわけじゃ」  いつも通りのティアだった。 「まぁとにかく、やっと平穏が訪れた訳だ」 「平穏ですか?」 「ジークの思いつきに振り回されるのはもう終わったんだ」 「人気投票の話ですね。カイムさんは嫌だったんですか?」 「嫌ってわけじゃないさ。ただ回りがうるさかっただけだ」  ティアがお茶のおかわりをいれてくれる。 「それで、カイムさんは結局どうなされたんですか?」 「どうって?」 「投票です」 「・・・ティアもそう言う話をするのか?」 「い、いえ、別にそう言うわけではありません!」  俺の不機嫌な声に慌てるティア。 「で、ですけど、私もやっぱり、いれてほしいなって・・・」 「もう投票は終わってる、明日には結果がでる。だから今さら投票の  話をしてもどうしようもない」 「ですから、私は投票の話しじゃなくって・・・その・・・  私にも・・・いれて欲しいな・・・中で出して欲しいなって、その・・・」  さっきからめまぐるしく変わるティアの表情、それはまさに小動物のようだ。 「やっぱり今の話無しです!」 「いいのか?」 「え?」  慌てて否定するティアの言葉を否定してみる。 「えっと、できるのなら・・・欲しいです」 「そうか」 「はい」 「・・・」 「・・・」  無言の時間が続く。 「あの、カイムさん?」 「なんだ?」 「今の話の流れからだと・・・その、してくれるのではないのでしょうか?」 「そうなのか?」  わざとおどけてみる。 「そうなんですっ! だから私にいれてください!! ーーーーっ!」  思わず大声で言ってしまった事にティア自身が恥ずかしくなってしまったようだ。 「もう、カイムさんの意地悪です!」 「嫌いになったか?」 「・・・本当にカイムさんはいぢわるです、嫌いになれるわけ無いじゃないですか」 「すまなかった、その分今夜は期待しててくれ」 「また私を騙していませんか?」 「ティア、お前は何を期待してるんだ?」  俺はわざとそう言う。 「カイムさんは本当に意地悪です! でも・・・大好きです!」  最後の最後に俺はティアの反撃を受け、負けを認めた。
6月10日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS”早朝決戦” 「ん・・・」  小さな携帯のアラームで目が覚める。  部屋の中はまだ暗く、窓から朝陽も差し込んでいない。  もう少し寝てられるわね、私は毛布をたぐり寄せようとして、下半身の  違和感に気づく。 「・・・あ」  まだ眠っていた頭が一気に覚醒する。  慌てて自分の携帯を手元に寄せ、時間を確認する。  時計はまだ午前4時だった。  起きるには早く、二度寝できる時間ではあったが、今の状況を考えると  早い時間ではない。  私は起きあがると、ベットから出て下着を身につける。 「うー・・・シャワー浴びたい」 「浴びていけばいいんじゃないか?」 「え?」  突然の声に私は驚く。 「やだ、孝平見ないで!」 「・・・」 「孝平?」  返事をしない孝平の方を見ると・・・ 「やだ、朝からそんなに」 「・・・だって大好きな瑛里華がそんな格好で目の前に居るんだぞ?」  孝平の好きって言葉に胸とお腹の奥がキュンとする。  そうなってしまうと、孝平の物から目が離せなくなる。 「瑛里華」 「孝平・・・」  ・  ・  ・ 「もぅ、孝平のけだもの!」 「面目ない、それより時間は」  携帯の時間はもう5時を過ぎている。早起きの生徒なら目覚める時間だ。  孝平にこれ以上襲われないように下着だけは身につけてから、私は髪を結わえる。  ばれないよりはマシの程度だけど、ちょっとした変装だった。 「これでよしっと」  ダミーの眼鏡をかけてから、あらかじめ用意してあるジャージに着替える。 「どう?」  扉を少しあけて外の様子を窺う孝平。 「今のところ大丈夫みたいだが、今日はどうする?」 「・・・そうね、念のため外から行くわ、孝平。いいかしら?」 「あぁ」  そっと二人で廊下にでる。孝平の部屋は棟の一番奥なので階段まで男子生徒の部屋の  前を何度も通らなくてはいけない、それだけ危険が多い。  その点、棟の一番奥は外にある非常階段への通路まですぐなので男子フロアから  出るのは楽だ。  このために私たちはいろいろと手を回し誰にも見つからないよう、女子フロアの  非常口の鍵を用意しておいた。 「それじゃぁまた後で」 「二度寝は駄目よ?」 「わかってる」  私は非常階段を足音を忍ばせて4階まであがる。  携帯で時間を確認する、まだシスターも巡回するような時間ではない。  扉に耳をつけ、中の気配を窺う。  昔ならすぐにわかったけど、吸血鬼じゃない今は簡単にはわからない。 「・・・よし」  覚悟を決めて、鍵を開ける。  そっと開けた扉の向こうは・・・ 「ふぅ」  誰もいない、暗い廊下だった。  私の部屋は1号室、非常口からは一番遠い部屋で中階段から一番近い部屋。  それだけに、部屋に近づけば近づくほど発見される危険もある。 「けど、大丈夫そうね」  私は低い姿勢で滑るように走り、そして部屋へと帰還を果たした。  変装をすぐに解き私はバスルームへと向かう。  昨日の夜と今朝ので、身体中べたべた、その上こんな緊張を強いられる行動を  したせいで汗もかいている。  湯船にお湯を溜めたいが時間がそんなに無いのでシャワーだけにする。  熱いシャワーを頭から浴びてやっと一息つけた。 「もうこんな事無しにしないとね」  そう思いながらも、次はもっと上手く帰ってこれる方法はないだろうか?  と私は考えていた。
6月8日 ・穢翼のユースティアSSS 「楽屋裏狂想曲〜人気投票編〜 feat.聖女イレーヌ」 「納得いきません!」 「そうはいってもな、勝負だからな」  俺の一手でチェックメイトとなったチェス盤を見てコレットは不機嫌な顔になる。 「私の言ってる話はこのチェスでは・・・いえ、チェスもそうですけど」 「そうなのか」 「この人気投票の途中結果です!」 「ほら、コレット落ち着いて」 「これが落ち着いてなどいられますか!」  いつものようにラヴィリアがコレットをなだめる風景。 「まったく、民衆は何処に目を付けてるのでしょうか?」  そう言いながら、手元にあったパンを口に運ぶ。  何とも行儀の悪い聖女様だな。 「・・・」 「カイム様、どうなされましたか?」 「いやな、なんでコレットとラヴィリアがここに居るんだ?」 「チェスをしにきただけです」 「その割に準備万端だな」  ラヴィリアが持ってきた包みにはメルトが作ったのであろう、パイの香草包み焼きや  ワインの瓶が入っていた。 「そんなことよりチェスの続きをします」 「続きって、勝負あっただろう」 「ですから、次の勝負です!」  コレットはチェスの駒を定位置に並べ始めた。  当初より腕前が相当あがったコレットではあったが、こんな怒りながらでは冷静な  判断が出来るわけはない。  もう何戦目になるかは覚えてないが、この調子でははコレットはチェスで勝つことは  出来ないだろう。 「まだやるのか」 「当然です」 「相変わらず負けず嫌いだな」  つきあわされる身としては大変だが、ラヴィリアが持ってきた包みには俺の分も  含まれていた。  まぁ、この食事代くらいはつきあってやろう。 「まだやるのか?」 「当然です!」 「・・・相変わらず頑固だな」 「そんなこと初めて言われました」 「えぇ!?」 「ラヴィ?」 「い、いえ、なんでもありません」 「・・・で、コレットは俺にどうさせたいんだ?」 「っ!?」  俺の一言に傍目に見てわかるくらい動揺する。 「で、ですから勝負をしていただいてるだけです」 「チェック」 「あ」  動揺して打った手は明らかなミスだった。 「まだ終われません!」  コレットはステイルメイトを狙う動きに切り替える。 「最後の一手まで諦めません!」  陽が暮れるまでつきあわされたチェスの勝負、結果から言えば俺は  一度も負けなかった。 「納得いきません!」 「コレット、もう終わったことなのだから」 「だからといって納得出来ません」  ラヴィリアがいつの間にか仕入れてきた夕食を3人で囲んでの団らん。 「・・・なんで夕飯まで一緒なんだ?」 「嫌なのですか?」 「別に嫌だとは言ってない」  ただ、何故か理不尽を感じるのだ。  結局1日中チェスと愚痴につきあわされた、だがその間の食事や酒は  相手持ち。待遇は悪くない、なのに理不尽を感じる。 「これが理不尽空間なのか?」 「カイムさん、何を仰ってるのですか?」 「いや、なんでもない」  俺は火酒を煽る。 「・・・そう、だからなんですね」 「コレット?」  うつむいたと思ったら何か意味不明の事を言いだし始めた。  だいじょうぶか? 「わかりました、すべてはカイムさんが悪いのです」 「何でそうなる? 俺が何かしたのか?」 「してないから悪いのです!」  何もしてないで悪くなるのか? 「チェスもそうですが、勝負に勝てないのは、カイムさんがいれてくれない  からです!」 「コ、コレット! なんてはしたないことを」  コレットの言葉にラヴィリアが慌てる。 「はしたないことなどありません。ラヴイ、貴方もいれてもらいなさい」 「な、ななななっ」  澄まし顔のコレットと、顔を真っ赤にしてるラヴィリア。  面白いことになってるな。 「わ、私は別にその・・・カイム様にいれ・・・いれて・・・はぅ」  コレットの言葉に動揺したラヴィリアは、手元の杯を飲み落ち着こうとする。 「・・・」  そしてうつむいたまま動きを止めた。  様子がおかしくないか? 「ラヴィリア?」 「カイム様!」  顔を上げたラヴィリアはいつもと同じ表情なのだが、凄く嫌な予感がする。 「そうですよね、コレットにいれてくれないからこうなったんですよね?」 「その通りです、ラヴィ」 「だから、今ここでコレットにいれてください」 「ラヴィ?」 「そしてその次は私です、私にもいれてください!」  その変貌ぶりは以前記憶していた、あの時のことを思い出させる。 「なぁ、コレット、もしかしてこれは」 「えぇ・・・間違えて私のを飲んでしまったようです」 「ほら、コレット。早くいれてもらいましょうね、次が待ってるのですから」 「ちょっと、ラヴィ。そんなところさわらない・・・きゃん!」 「カイム様も早く」 「ひっぱるな、危ないだろ!」 「きゃんっ」 「あっ・・・」  ラヴィリアに腕を引っ張られた俺は、ベットの上に倒れ込む。  その下にコレットとラヴィリアを、まさに押し倒した形になって。 「カイムさん・・・優しくしてくださいね」 「カイム様、早く私にもいれてくださいね」
6月7日 ・FORTUNE ARTERIAL sideshortstory「約束の証」 「瑛里華、後で部屋に来てもらってもいいか?」  いつものお茶会が終わって部屋に戻った私の携帯に届いたメール。  差出人はもちろん、孝平。 「ちょっと時間たってからでいい?」  そう返事を出すと、すぐにそれでいいって返事が返ってきた。 「よし、汗流しちゃおうっと」  私はバスルームへと向かう。  いつものメンバーのお茶会の後の、私と孝平の密会。  生徒会の仕事をするときもあれば勉強するときもある。  でも、たいていは二人だけの甘い時間。 「・・・」  いつもより力を入れて身体を綺麗に洗う。何があってもいいように・・・ 「って、私期待してる?」  うぅ・・・私っていつのまにこんなにえっちになっちゃったんだろう。 「孝平のせい・・・よね、うん、孝平のせいに決定!」  そう思いながらも、いつもより丁寧に身体を洗う私だった。  シャワーを浴びて身支度を整えてから時計を見る。 「もうすぐ消灯時間ね」  このタイミングでは部屋から出ることは出来ない、見回りのシスターに  すぐに見つかってしまう。  ちょっと遅れるというメールを孝平に送っておく。孝平もその辺がわかってるから  だいじょうぶという返事。 「さて、と・・・」  私は机の引き出しにしまってある、鍵をとりだした。  兄さんや他の人にばれないように作った合い鍵。 「これで準備オッケーね、あとはタイミングね」  もうまもなく消灯時間になる、その直後にシスターの最初の巡回がある。  それをかわせば、孝平の部屋への障害はなくなる。 「そろそろいく」というメールを送ると、すぐに孝平から返事が来る。 「進路グリーン」。  その返事を確認してから、私は自室を出た。 「もぅ、私は品行方正な生徒会長なのよ?」 「その品行方正な生徒会長が、消灯時間後に男子の部屋にいるんだからな」 「孝平の意地悪、呼んだのは孝平じゃない」 「あ、あぁ・・・そうだよな」 「孝平?」  いつものやりとりのはずなのに、孝平の態度がおかしい。 「どうかしたの?」 「いや、どうかしたわけじゃないんだ」 「だって孝平の態度おかしいわよ?」 「・・・」 「もしかして、私に大事な話とかない?」 「っ」  孝平の動揺で確信する、孝平は私に何か大事な話がある。  大事な話・・・まさか、それって・・・ 「・・・ごめん」 「ごめんって・・・」  まさか別れ話? 「瑛里華に心配かけさせてすまない」 「しん・・・ぱい?」 「あぁ、俺がもうちょっとしっかりしてればいいんだけどな、瑛里華」 「こうへ・・・」  私の言葉は孝平の唇にふさがれた。 「ん・・・孝平?」 「瑛里華、愛してる」  孝平の一言で心に広がった不安は一気に消えて無くなった。 「孝平! 私も好き、愛してる!」 「やだ、なんで止めちゃうの? 私もう少しなのに」 「その前に渡したい物があるんだ」 「なに?」  孝平は私の下という無理な体勢のまま、枕元にあった小箱を取り出した。 「瑛里華、誕生日おめでとう」 「あ・・・」  もう日付が変わったの? 私は時計を見ようと顔を動かす。 「瑛里華」  そんな私の左手を孝平は手にとった。 「これをもらって欲しい」  そう言うと小箱から取り出した銀色の・・・ 「ゆび・・わ?」 「あぁ、これを瑛里華にもらって欲しい、そして俺が瑛里華をもらう・・・っ!」  その瞬間、孝平が私の中ではぜた。  私は突然の衝撃に声も上げれずに、そのまま孝平の胸元に倒れ込んだ。 「え、瑛里華。いきなりしめないでくれ」 「わ、私はそんなことしてない・・・」  と、思う。でも孝平の言葉に心と体が震えたのはわかった。 「もぅ、もう少しムードってものを考えてよね。私の中にいれたままのプロポーズ  だなんて、孝平の変態!」 「う゛・・・でも、誕生日にすぐに送りたかったんだよ」  そう言って顔を背ける孝平。 「あーあ、私ったらこんな変態を好きになっちゃって・・・孝平、責任とってよね」 「元からそのつもりだ・・・って、だからしめるな!」 「私はなにもしてない!」 「そんなこと言うなら、こうだ」  いきなり動きだす孝平。 「やん、ちょっとまって! まだ敏感なんだから」 「俺を気持ちよくさせようとする瑛里華にお返しだ」 「だから、ちょっとまって・・・んっ!」 「ふふっ」  横で疲れて寝てる孝平のほっぺをつついてみる。  孝平はうーんと言うだけで、目を覚ます気配はない。 「もぅ、孝平ったら」  誕生日になってすぐにプレゼントを渡したかった孝平だけど、それまで  上手く間が持たせられず、私を心配させてしまったと、あとで説明してくれた。 「孝平ったら不器用なんだから・・・」  でも私の下にいながら指輪を取り出してはめてくれるのは器用なのかな? 「ふふっ」  私の左手の薬指にはまってる銀色の指輪。 「ありがとう、孝平」
6月6日 ・穢翼のユースティアSSS 「楽屋裏狂想曲〜人気投票編〜 feat.フィオネ」 「なんでカイムがここに居るんだ?」 「遊びに来ただけだ、別に構わないだろう?」 「遊びに来ただけの割には重装備だな」 「まぁ・・・な。いろいろあってな。だが泊まること意外の迷惑をかける  つもりはない」 「泊まる気か!?」 「玄関でいいから、頼む」 「・・・はぁ、カイムには世話になってる。世話になった恩人を玄関先に  泊まらせるわけには行かないからな、今日だけだぞ」 「すまない、本当に助かる」 「それで、何があったんだ?」 「・・・とりあえずこれは手みやげだ」  俺はあらかじめ用意しておいた袋を机の上に置き、中の物を取り出す。 「これは、メルト殿の?」 「あぁ、ヴィノレタのパンだ。もちろん、フィオネの分だ」 「すまない、カイム」 「それで、これはそこで仕入れてきた」  下層で流通しているワインも取り出す。 「今は執務中じゃないだろ?」 「・・・そうだな、メルト殿のパンには良くあうからな」 「それじゃぁ戴くか」 「あぁ」  こうして食事の時間となった。 「それで、何があったのだ?」 「・・・」 「あれでこの私をごまかせると思ったのか?」 「いや、そうは思ってなかったが、フィオネは意外に意地が悪いな」 「誰のせいだと思う?」 「むっ・・・」  やぶ蛇だな、これは。 「まぁいいか、泊めてもらうのだから誠意を示さないとな」 「そうだ、それが礼儀と言う物だぞ、カイム」  羽根狩り隊の隊長だった頃から幾分柔らかになったとはいえ、やっぱり  フィオネはフィオネだった。 「実はな、俺は平凡が欲しい」 「・・・は?」  俺の言葉にフィオネがぽかんとする。 「ここ数日、牢獄で。いや、ジークが何をしてるか知ってるな?」 「あぁ、人気投票だな」 「その通り、それが普通に行われるのなら何も問題ない」 「もしや不正か?」 「それもない、メルトの前で不正すると後が怖い」 「そ、そうか・・・メルト殿も大変なのだな」  大変になるのはメルトじゃないんだけどな、と口には出さずに置く。 「それはおいといてだな。人気投票の投票権がヴィノレタでの食事にあるのは  知っての通りだ」 「そうだな、さすがはジーク殿というべきだな」 「あぁ、祭りに乗じて売り上げを伸ばす算段もしてるのだからな・・・  話が逸れたな」 「すまない」 「俺は良くヴィノレタで飲む」 「あぁ、知っている」 「そうなると嫌でも毎日投票コインを渡される」 「何か問題でもあるのか?」 「・・・誰にいれても角が立つ」  そう、誰にいれても誰にもいれなくても回りがいちいち反応する。  それが凄く鬱陶しいのだ。 「だが、投票は自由意思なのだろう? 無投票でも構わないと思うのだが」 「メルトの視線が痛い」 「・・・納得した」  納得されてしまった。  メルトよ、お前はすでに下層でも上層でも名が通っているようだぞ。 「それで逃げてきたのか」 「迷惑をかける、1日で良いから置いてくれ」 「仕方がないな、だが明日はどうする? なんなら祭りが終わるまでここにいるか?」 「いや、それは止めておく、おそらく明日にはこの場所に居ることが発見される」 「何故わかる?」 「ここ数日の経験からだ」 「・・・カイム、お前も大変なのだな」 「あぁ・・・」  二人で静かにワインを飲んだ。 「さて、俺は物置で眠らせてもらうか」 「客間を用意する、そちらで寝ると良いだろう」 「そこまで迷惑をかける気はない」 「もう充分かけている」 「・・・そうだな、ありがとう」  俺はフィオネに感謝する。 「では、食事の後かたづけを・・・なんだ?」  フィオネが捨てるために持ち上げた、空になったはずの袋。 「何かが入っているな・・・これは」  フィオネは袋を逆さまにした、そこからおちてきたのは投票用のコイン。  それも、何故か二人分ある。 「・・・」 「・・・」  どうやら俺の行動は完全に読まれていたようだ。 「どうする、カイム?」 「無視する・・・と言いたいところだが、後が怖い」 「今からヴィノレタに行くのか?」 「もう遅いしな・・・」 「・・・なら・・・その、私に・・・いれてくれないか?」 「なに?」 「順位など関係ないのだ! ただな、やはり顔が知られていると仕事がしやすく  なるのだ」  今のフィオネは国王付きの近衛騎士、過去の経験を買われて牢獄の治安維持も  担当している。 「牢獄地区と下層、上層を結ぶにはいろいろと大変なんだ。私はその点有利なのだが」  そこでフィオネはうつむく。 「確かにそうだったな」  フィオネは最初羽根狩りで牢獄に来ていた、そのことを忘れてない住人もいる。 「だからだな、この祭りを利用しようと思う・・・だから、よければ私に・・・  いれて・・・っーーーー!」  フィオネは途中で顔を真っ赤にして聞こえない音域の悲鳴をあげる。 「わ、わたしは部屋に戻る!! いれる気になったら来てくれ!!」  そうして逃げ出すフィオネを見送る。 「・・・」  どうやらここも安住の地ではなかったようだ。 
6月4日 ・穢翼のユースティアSSS 「楽屋裏狂想曲〜人気投票編〜 feat.エリス」 「カイムの馬鹿っ!」  目を覚ました俺にエリスは怒鳴りつけてくる。 「私が来たとき、どんな気持ちだったかわからないでしょ!」  俺はまだだるい身体を起こす。  どうやら昨晩の疲れと、薬のせいで朝方は死んだように眠っていたらしい。  そこに来たのがエリスだった。 「・・・すまない」 「謝るくらいなら注意してよ!」 「・・・悪い」  俺はそれ以上言葉にすることは出来なかった。 「落ち着いた?」 「あぁ、なんとかな・・・」  エリスが調合した薬を飲まされた俺は、なんとか落ち着き始めていた。  その薬、苦いってレベルじゃなかった。  目の前に差し出されたとき、生命の危機を思わず感じたくらいだった。 「ほら、飲んで」 「大丈夫だから、いい」 「・・・」 「・・・戴きます」 「ん」  あの時の無言の圧力は怖いくらいだった。  だが、そのおかげで朝方より気分はだいぶ良い。 「カイム、犯人は誰?」 「・・・」  俺はそれに答えられない、なぜなら犯人はいないからだ。  あれが合意の上であったかどうかはわからないが、俺は犯人だとは思っていない。 「まったく、クロ達ね?」 「なんでわかった?」 「当たり前よ、三人そろって昨日は休みもらったって話だもの。まさかとは思ったけど  本当にそうだったのね・・・雨が酷くても様子を見に来るべきだったわ」  地上に降りたとはいえ、人の住んでいる範囲はいまだ、空に浮いていた頃となんの  変わりもない。  休みだからといって遊びに行ける所など以前と何も変わらないのだ。 「あの三人・・・どうやって殺そうかしら」 「おい」  今思いっきり物騒な台詞が聞こえたぞ? 「当たり前じゃない、カイムにこんな事して生きていられると思ってるのかしら?」 「やめておけ」 「どうして?」 「あいつらは、ジークの思いつきの被害者だ」  そう、人気投票の順位が気になっての相談・・・だったはずだよな? 「じゃぁジークを殺す」 「どうしてそう言う考えになる?」 「だって、カイムが被害を受けたから」 「はぁ・・・俺は被害なんて受けてないさ」 「・・・わかった、ほんとカイムって気を許した人には甘すぎる」 「迷惑かけたな」 「本当よ!」  それから俺はベットに寝かされた。  エリス曰く、まだ本調子じゃないからだそうだ。 「・・・あの、俺はもう大丈夫だから」 「・・・」  問題があるとしたら、エリスがずっと見張って・・・いや、看病してることだ。  それも、相当不機嫌な状態で。 「ヴィノレタに行こうかと思ってるのだが」 「なんで」 「いや、なんでって、腹も減ってきたし」 「はい」  エリスは机の上にあるバスケットをあけた。  そこにはメルトが作ったであろうパンが入っていた。  これがエリスが作った物なら逃げ道があったのだが、メルトが作った物なら  ごまかして逃げることは出来ない。  俺は次の手を考えた。 「あのさ、確か2回目の中間発表、あったよな」 「えぇ」 「気になるから見に来たいんだけど・・・」 「1位は国王陛下、2位は羽根狩りの隊長よ、そして3位は私を抜いて小動物。  私は4位に転落で5位が偽救世主よ」  誰の名前も言ってないのに、全て俺にはわかってしまう。 「なんなら、その下の順位も全て言いましょうか?」 「・・・降参だ」 「そう」  エリスのことだから最下位まで全ての順位を把握してるだろう。  もはや逃げ道はなかった。 「はぁ・・・そういえば、エリスは順位下がったのか」  娼館街で人気の高いエリスだ、結構上位に食い込むかと思ったのだが 「そうね、特に順位なんて気にしてないわ。ただ・・・」 「ただ?」 「カイムがいれてくれない」 「・・・」  思わず何を、と聞き返したくなって、それをかろうじてこらえた。  もし条件反射的に言ってしまえば、昨日までの二の舞になる。 「だから、カイム。今日は私にいれてもらう、注いでもらうから」 「エ、エリス? 投票はともかく後半の言葉の意味が解らないぞ?」 「大丈夫、今日は私がリードするから」  さっきまでの不機嫌な顔から一気に妖しい微笑みを浮かべるエリス。 「と、投票するならヴィノレタに行かないと」 「大丈夫よ、いれるだけならここで出来るわ、ちゃんと準備してあげるから」  今日も俺の退路は断たれた・・・ 「カイム、いっぱいいれてね」
6月2日 ・穢翼のユースティアSSS 「楽屋裏狂想曲〜人気投票編〜 feat.リリウム」 「ねー、カイム。私が人気無いのはわかってるけどさー」  そう言って手元の火酒を煽るのはリサ。 「でもさー、クロやアイリスが低いのっておかしくない?」 「そんなことはありませんわ、リサ」  いつもの微笑みを浮かべながら、ワインを優雅に飲むクローディア。 「殿方にはいろんな嗜好がありますもの」 「だからってあんな低い順位でいいの?」 「人気なんて気にならない、これ以上人気者になったら身体がもたない」  そういうアイリスだった。 「というかだな、なんで俺の部屋にみんな来てるんだ?」  そう、何故か俺の部屋にクロ・リサ・アイリスの3人が集まっている。  そしていつの間にか、俺の酒を皆が勝手に飲み始めてる。 「いいじゃない、たまにはやけ酒つきあってよー」 「たまなのか?」 「う゛・・・カイムのいぢわる」 「俺がいつお前を虐めた?」 「そうですわよ、リサ。カイム様はリサが可愛いから虐めたくなるのですよ」 「え、そうなの!?」 「クロ、無いこと無いことリサに吹き込むな」 「そう、カイムは不能だから」 「アイリス、お前も無いことを吹き込むな!」 「え、そうなの? カイムって不能なの!?」 「・・・」  俺は黙ってリサを睨み付ける。 「もぅ、カイムったらそんなに怒らないでよー、ほら、一杯」  俺のカップにワインを注ぐ、その仕草はさすが娼婦だけあってリサでも  色っぽく見える。 「あー、いま私の事変な風に思ってなかった?」 「・・・思うもなにも変だろう?」 「あ、そっかぁ、そうだよね・・・あれ?」  とりあえず納得してるリサをおいておいて、俺はグラスのワインを飲む。 「でさー、結局私たちの人気ってそんなものなのかな」 「そう言う訳じゃないだろう?」  確かにクロ達の順位は低いが、娼婦達の中で見ればベスト3に選ばれてる。  というか、投票対象が広すぎて娼婦の票は相当ばらついているってジークが  言ってたな。 「そんな中でリリウム勢の3人が上位にいるのだからいいんじゃないか?」 「でもさ、それでも他の女の子達より低いし」  ジークの思いつきで始まった人気投票だが、娼婦達にとっては無視できる  事ではないのかもしれないな。 「で、結局どうしたいんだ?」 「うん・・・私、カイムにいれてほしい」  っ! リサのいきなりの不意打ちに咽せた。 「それはよい考えですわ、カイム様。出来れば私にもいれていただければ幸いです」 「カイムじゃ無理、だって不能」 「だから、アイリス!」 「怒った」 「当たり前だ、勝手に不能にするな!」 「じゃぁ、証拠を見せて」 「は?」 「証拠が無いなら、やっぱりカイムは不能」  これは・・・はめられたか? 「はめるのはカイム、私はいれてもらう方」 「おい・・・」 「ふふっ、話はまとまりましたか?」  そう言いながらクロがワインをつぎ足してくれる。 「勝手にまとめるな」  そう言いながら叫んだ喉を潤すためにワインを飲む。 「まったく、そろそろお前達も帰った方がいいぞ」 「あら、外は雨のようですわね。そんな中カイム様は女達を追い出すのでしょうか?」 「雨の中わざわざ俺の家まで来たのは誰だよ」 「あら、女の過去はミステリアスなのですわよ? 詮索はいけませんわ」  そう言ってクロが俺に顔を寄せてくる。  柔らかい微笑みを浮かべるクロの、唇の端が艶めかしく濡れている。  そんな光景を見て、俺は動悸が速くなる。 「・・・クロ、また盛ったな」 「あら、何のことでしょう? 私はただ、いれて欲しいだけですわよ。  そう、あの時のように」  そう言ってクロが俺の胸板に指を這わす。 「っ!」 「あ、カイムがたった」 「よかったぁ、カイムは不能じゃなかったんだね」 「アイリス・・・リサ、後で覚えておけよ」 「あら、アイリスもリサも後でいれてもらえるだなんて、さすがはカイム様ですわ」 「勝手に解釈を変えるな!」 「ふふっ、女とはそう言う生き物ですわ・・・それではカイム様、まずは私に  いれてくださいませ」 「じゃぁ次は私にいれてね、カイム」 「・・・私にいれたいなら、いいよ」  外は雨、明日は晴れるだろうか。  その晴れの日を俺は見ることができるかどうか・・・
6月1日 ・穢翼のユースティアSSS 「楽屋裏狂想曲〜人気投票編〜 第1回中間発表」 「わ、私が1位!?」  ジークが趣味で始めた人気投票は恐ろしいほどの投票者を集めていた。  その集計に不蝕金鎖の一部の業務が麻痺するほどだった。 「不蝕金鎖の名に置いて誓おう、今の段階で不正は無い」  そう前置きした上で発表された順位、その第1位はなんとフィオネだった。 「そ、そんな、私が陛下を差し置いて1位だなど・・・」 「人気投票の順位に地位は関係ない」 「カイム!」  俺の言葉に非難の声をあげるフィオネ。 「そんなことよりも、なんで私がメインヒロインの中で最下位なのですか!?」  ヴィノレタに食事に来ていたコレットが不満そうに、いや、不満を爆発  させている。 「御子も順位が低すぎます、この街の住人は一体どこに目をつけていらっしゃる  のでしょうか?」 「コレット、それは言い過ぎだ。投票は自由意思だ」  こんな事で一喜一憂するのもおかしな話だ。どうせジークのただのきまぐれに  過ぎない。 「そうよ、コレット。文献によれば以前、メインヒロインでありながらサブヒロインに  負けた人もいるのだから、まだ良いほうよ」 Another VIiew 「くしゅんっ!」 「どうしたの、お姉ちゃん。風邪ひいたの?」 「んー、だれかがわたしの噂をしてるみたい。いやぁ、もてる女はつらいね」 「そうなのかなぁ?」 Another VIiew End 「・・・なんだ、いま脳裏に響いてきた声は」 「気にしない方がいいと思いますよ、カイムさん」  ティアが火酒を運んでくる。 「ありがと、ティア」 「どういたしまして」 「そういうティアは気にならないのか?」  ティアは今回第4位。先ほどから悪態を付いているコレットの一つ上だ。 「わたしはきになりません。だってわたしなんかが上位に入れる訳  ありませんから」 「そうね」  エリスが相づちを打つ。 「それでも私を狙える位置に居るわね、小動物のくせに」 「す、すみません!」  ティアはエリスの目線に怯えてしまっていた。 「・・・ふぅ」  投票結果に一喜一憂する女達はかなり鬱陶しい・・・ 「ん? そういえばリシアの姿が見えないが」 Another VIiew 「私もヴィノレタで発表を見たかったのだぞ?」 「陛下は先日視察に行かれてるではありませんか。その分遅れてる  執務をお願いいたします」 「これでは体験版の時と同じく一人だけ仲間はずれではないか!」 「陛下・・・」 Another VIiew End 「今、悲痛な叫びが聞こえた気がした・・・」  酔うほど飲んではいないはず、だとしたら俺は疲れているのだろうか? 「それよりもカイム、聞きたいことがあるの」 「なんだ、エリス、そんなに真剣になって」 「カイムは誰かにいれたの?」  そのエリスの問いに、ヴィノレタに居る女達の視線が一斉に俺に集まる。  そのあまりにも強い視線に思わず身体が反応する。  そう・・・これは強敵を前にしたときの、そんな反応。 「・・・馬鹿らしい」  そうつぶやいた、たかが女達の視線になんでこんなに緊張しなくては  いけないんだ? そんな自答だったのだが 「そうね、こんな投票馬鹿らしいわね」  エリスが賛同してきた。 「私は、カイム専用なのだから」  そのエリスの声にヴィノレタの空気が凍る。 「ねぇ、カイムは今度はいつ私にいれてくれるの?」 「カイム! これはどういうことだ!」  フィオネが俺に詰問してくる。 「別にそう言う事よ、羽根狩りさん」 「私は今は近衛騎士だ! それに防疫局だ、間違えるな!」 「別に構わないわ、カイムが貴方にいれなければいいもの」 「私を愚弄する気か!」 「やるの?」 「おいおい、ヴィノレタで乱闘はやめろ。酒が不味くなる」 「えぇ、いいわ」 「くっ・・・そもそもカイムがしっかりしてればいいのだぞ?」 「無茶を言うな」 「そうです!!」  会話に参加してきてなかったコレットが俺の前に乗り出してくる。 「素直に私とラヴィにいれればいいのです」 「どうしてそうなる・・・メルト、勘定」  俺はもうこの話題を切り上げるために、ヴィノレタを出ることにした。 「今日もツケにすればいいのかしら?」 「あぁ、頼む・・・ってこれは」  俺の前までやってきたメルトは、コインを3枚渡してきた。 「はい、今日の分。今日はお姉さんにいれてくれるのかしら?」 「カイムさんは私にいれるに決まっています」 「カイム!」 「カイム」 「カイムさん・・・」  もはや誰が叫んでるのかわからない。 「・・・」  ジークの人気投票、もし俺も投票対象であったのなら、俺自身に投票して  この場を逃げれたかもしれない。  だが・・・ 「・・・はぁ」  皆の緊張した視線が注がれる。  俺は、いつもしてるような暗示をかけようとした。  ここから俺が上手く逃げ出せる、という成功例。  だが、どう考えてもそれを思い浮かべる事が出来なかった・・・
5月31日 ・穢翼のユースティアSSS 「楽屋裏狂想曲〜人気投票編〜 fate.リシア」 「よ、ごくろうさん」 「カイム様、お待ちしておりました。ではどうぞ」 「あぁ」  朝早くからリシアに呼び出された俺は、牢獄地区から下層を経由し、  上層の王城へとこうして赴いている。 「・・・今さらだけど王城への出入りがフリーだなんて、おかしくないか?」  確かに色々とはあったが、それでも俺は牢獄の何でも屋に過ぎない。 「ま、いいか。呼んだのはリシアなんだからな」 「リシア、来たぞ。入ってもいいか?」 「あぁ、待ってたぞ」  確認をしてからリシアの私室へと入る。 「カイム、苦労をかける」 「今さらだ、それで何の用事だ?」 「あぁ、ジーク殿が面白いイベントを開いてるそうだな」 「・・・」 「なんだ、その苦虫をかみ潰したような顔は」 「いや、まんまその通りだと思う」  ジークの楽しい思いつきはたいてい俺に面倒事としてふりかかる。  このリシアの呼び出しもその一つになるんだろう。 「人気投票だそうだな、これは良い機会だと思う」 「良い機会?」 「あぁ、下層や牢獄地区にも私を知ってもらう良い機会だと思わないか?」 「確かに・・・」  下層でもつい最近まで王城の事は知らされてなかったし、リシアの顔は  全く知られてない、牢獄地区ならなおさらだ。 「というわけで、視察に行く。カイム、警備を頼むぞ」 「なんでそうなる?」 「話を聞いてなかったのか? 牢獄地区へ視察に行くのだ。だからカイムを  呼んだのだぞ」 「リシア、何をするつもりだ?」  裏の意図があることに俺はすぐ気づいたので、問いつめてみる。 「う・・・いや、その・・・私だって投票権はあるのだろう?」 「まさか自分に投票するつもりなのか?」 「それはないぞ!」  すぐに返事を返す、そのタイミングや態度からは嘘は感じられない。 「なら、なんで牢獄に行く?」 「・・・カイムが私にいれてくれるのを確認したいのだ」 「は?」 「カイムは投票できるのであろう? なら誰にいれるのかをだな・・・」 「それは俺の自由だろう」 「確かにそうだ・・・でも、な・・・カイムが他の・・・その・・・」  リシアは深呼吸をする。 「カイムが他の娘にいれるのが嫌なのだ!」 「嫌って」 「私にいれてほしいのだ!」 「・・・」 「駄目、か?」 「・・・検討はしておく」 「おお、そうか」  リシアは俺の返事に安堵したようだ。 「なら早速牢獄地区へ行こうではないか!」 「だから何でそうなる」 「視察だ、何度も言わせるな」 「はぁ・・・わかった、つきあおう」  私室を出て大広間へと出たとき、そこに見知った顔があった。 「カイム、来ていたのか?」 「ルキウス・・・それと、雨の日の友さん」 「その呼び方は止めてください」 「カイム、それはなんの意味だ?」 「陛下が直接お聞きになればよろしいかと、なぁ?」 「くっ」  システィナは顔を真っ赤にした、もしここでリシアが訪ねたら  答えない訳にはいかないだろう。 「陛下、お出かけでございますか?」  それを察したのであろう、ルキウスが話題を変える。 「なに、牢獄地区への視察だ」 「今でございますか?」 「あぁ、今日のことは今日中にしないといけないからな。  そういえば、ルキウスはどうするのだ?」 「何のことでしょうか?」 「人気投票の件だ」 「その話は耳にしております、しかしながら私は興味はございません」 「そうか、ルキウスの事だからシスティナにいれるものかと思ったのだがな」 「っ!」  リシアの言葉にシスティナが先ほど以上に顔を真っ赤にしている。 「そうだな、ルキウスはシスティナにいれるといい」  俺もリシアにあわせてそう言う。 「しかし、私は陛下に仕える身」 「そんなことは関係なかろう、ルキウスの思うがままにいれてやるがよい」 「はっ!」 「リシア、そろそろ行かないと明るい内に帰ってこれなくなるぞ」 「それは問題だな、では行くか」 「ルキウス様が私にいれ・・・いれてくださる? その、優しくして・・・」  後ろの方でシスティナがなにやら壊れてるような気もするが、今は  放っておこう。あとでルキウスがどうにかするだろう。 「さぁ、カイム。行こう!」 「はいはい」 「それとだな、カイム」 「なんだ?」 「・・・後でちゃんといれてくれないと駄目だぞ」
5月30日 ・穢翼のユースティアSSS 「楽屋裏狂想曲〜人気投票編〜」 「というわけでだ!」 「どーいうわけだよ」  ヴィノレタでの酒の席でジークは上機嫌にいきなり語り出す。  まぁ、いつものことだが・・・ 「人気投票を行おうと思う、いや、決定だ!」 「人気投票?」  話を聞きつけたメルトがやってくる。 「なんだか面白そうね〜、でどうするの?」 「そうだな・・・ルールを決めないと面白くないな、オズ」 「はい」  ジークは背後に控えてるオズと何やら相談を始めた。 「カイムはどうするの?」  新しい火酒を持ってきながら、メルトが訪ねてくる。 「メルトは知ってるだろう? こう言うときのジークの行動力を」 「えぇ、知ってるわ」  メルトの笑顔は苦笑いになっていた。 「今さらどうあがいたってその人気投票、絶対やるだろう。  俺に被害が無ければどうでもいいさ」 「あら、興味ないの?」 「あぁ」  別に誰の人気があろうがなかろうが関係ない。  すでに物語は全て終わっている、今さら余興につきあう必要などないのだ。 「というわけだ!」 「だから、どういうわけだよ」 「いつも律儀にツッコミをいれるわよねぇ、カイムは」 「ほっとけ」 「ルールは決まった、不蝕金鎖の名にかけて不正は出来ないよう見張る事も決まった」 「・・・」  俺は無言で火酒を飲む。 「エントリは推薦で決めよう、とりあえずリリウムから数人は出そう」 「私は?」 「メルト? 今さら出るまでもないだろう、歳を・・・」 「ジーク?」 「・・・メルトは俺が推薦する」 「ありがと♪」 「弱いな」 「うるせぇ!」  まぁ、俺もメルトには頭が上がらないから人のことは言えないな。 「投票はここ、ヴィノレタで行う。ヴィノレタを利用する人に3枚のコインを渡す」 「3枚? そんなの1枚で充分だろう?」 「ちっちっちっ、だからカイムは素人なんだよ」 「別に人気投票に素人も玄人もないだろうに」 「3枚は、1枚と2枚で分けて使う、つまり1日に2票と1票を分けて投票できる  仕組みだ」 「面倒だな」 「その方が面白いだろう?」  ま、確かに1日に1票だけよりは面白いかもしれないが 「集計、面倒だな」 「構わないさ、どうせ俺が集計する訳じゃないからな」  俺は思わずオズの方をみる、オズは済ました顔をしているが、  額の汗はごまかせなかった。 「よし、早速準備だ。オズ、行くぞ!」 「わかりました」  二人でヴィノレタを出ていった。 「さて、私はどれくらいの順位になるのかしらね」 「どうだかな」 「あら、カイムは私にいれてくれないの?」 「俺が参加するっていつ言った?」 「そ、残念。前のカイムならいつも私にいれてたのにね」  その言葉に飲みかけの火酒を吹き出しそうになった。 「メルト!」 「きゃ、カイム怒った? ごめんね」 「・・・火酒一杯で良いぞ」 「もう、しっかりしてるんだから」  ジークの話は冗談かとは思っていた、いや、そう思いたかっただけだったの  かもしれない。  こういう楽しみなイベントをジークはいつも全力で行う。  それも、回りが迷惑を被るならまだいい。  何故か、俺にばかり迷惑がかかる。 「はい、私のおごりね」 「サンキュー」  俺はメルトのおごりの火酒を飲む、喉に、腹に、焼けるような感覚を味わう。 「・・・これはなんだ?」  一緒に持ってきたのはつまみかと思ったのだが、どう見てもコインに見える。  それも、3枚ある。 「あら、人気投票の話聞いてなかったの?」 「いや、それはさっき聞いたが」 「ほら」  メルトの指さす方をみるといつの間に投票の箱が置かれていた。 「いつのまに」  ジークの指示も素早いが不蝕金鎖の仕事の速さに驚いた。 「それじゃぁ、最後に必ずいれてってね、私に♪」 「懐柔するな」 「もしいれてくれたら、久しぶりにいれて・・・みる?」 「メルト!」 「やん!」  こうしてノーヴァス・アイテル牢獄地区で人気投票を開催されることとなった。  投票対象に元聖女様や国王陛下や、あの暗殺者まで含まれてる事に驚きつつも 「・・・ジークだからな」  そうして納得することにした・・・
5月24日 ・夜明け前より瑠璃色な Moonlight Cradle SSS”同じ夜空” 「ねぇ、菜月。昨日はあれからどうだった?」  講堂からの帰りに友達に尋ねられた。 「どうって何が?」 「愛しの彼氏は来てくれたのかしら?」  愛しの彼、その言葉に頬に熱が集まるのがわかる。 「それでどうだった?」 「どうって、ただ電話でお話しただけだけど?」 「って、マジ?」 「うん」  何かおかしいことでもあるのかな? 「彼女の誕生日に会いに来ないの?」 「うん」 「菜月、その彼との事考えた方が良いんじゃない?」 「なんで?」 「なんでってさ、恋人の誕生日に電話だけだなんてさ・・・」  ・  ・  ・ 「なんて言われちゃったよ」 「確かにそうかもな、俺は彼氏失格だな」 「何言ってるのよ、達哉」  その夜のいつもの電話、私はさっき友達に言われたことを達哉に話した。  前に達哉とした約束、楽しいことだけを伝えるんじゃなくて、大変なことも  全て隠さずに伝える事。だから、私は達哉に話した。 「達哉が頑張ってるの、私は知ってるから」 「それを言うなら菜月が頑張ってるのも俺は知ってるぞ」 「うん、そうだね。お互い知ってるもんね」 「あぁ・・・」  誕生日の日に達哉に本当は来て欲しかった、会いたかった、という話は昨日のうちに  電話で話した、出来るのなら私から会いに行きたかった、という話も。  でも今年の私の誕生日は平日、お互い授業もあるし予定もあるから無理な話だった。  その時の達哉は申し訳なさそうな声をしていたっけ。 「私は大丈夫だよ、こうして電話でだけど、達哉とつながって居るんだから」 「そう・・・だな。でも俺は声だけじゃなくて、もっとつながりたいな」 「声だけじゃないって・・・えーーっ!?」 「菜月、何を考えてるって、聞くまでも無さそうだね・・・」 「そりゃそりゃ、私も声だけじゃなくって達哉と一つになりたいとはいつも  思ってたりもしてたりしてなかったり」  なんだか今とんでもないことを口走ってしまった気がする・・・ 「・・・菜月、ベランダにでれるか?」 「え?」 「そこから月は見える?」 「ちょっと待って・・・えっと」  窓を開けてベランダに出る、見上げた夜空には月が浮かんでいた。 「うん、見えるよ。フィーナの故郷だよね」 「あぁ、俺も今見ている」  月を見ると思い出す、ホームスティにきたお姫様の事を。 「なぁ、俺達は今同じ月をみてるよな」 「うん」 「それは、声意外のつながりだよな」 「あ」  確かにそうかもしれない。電話で声で達哉と私はつながってる。  その達哉と同じ月を見ているのも、もう一つのつながり。 「達哉」 「何?」 「格好付けすぎだよ」 「・・・」  くぐもった声がした、きっと照れてるんだろうな。 「ふふっ、これ以上私を好きにさせてどうするの?」 「菜月?」 「なんでもない」  私はもう一度月を見上げる。  達哉が今見上げてるのと同じ月を見上げながら、もう一つのつながり、  私と達哉と同じ時間を過ごした。 「達哉、大好きだよ」
5月19日 ・FORTUNE ARTERIAL 楽屋裏狂想曲予算争奪編”完結編?” 「今日も疲れたな」  もうまもなく寮に着く。今日も夕飯は買い置きになりそうだな。 「・・・ん?」  寮が見える所まで帰ってきたとき、俺を呼ぶ声が聞こえた気がした。 「こーへー!」  気のせいかな、かなでさんの声が聞こえる。  そんなはずはない、かなでさんは卒業して今は大学生。  この修智館学院に居るわけがない。 「こーへー!」  寮の方から走ってくるのは、見間違いたくても見間違えようのない、まさに  かなでさんだった。 「こーへーっ!」  もう間近まで迫ってきたかなでさんは、見慣れた修智館学院の制服姿だった。 「かなでさん、どうしたんですか?」  そう声をかけた瞬間、かなでさんの姿がかき消えた。 「真!」  その声は下の方から聞こえた。それに釣られて俺は下を向く。  そこにはまるで、何かを溜めてるようなかなでさんの姿が・・・ 「かなですぺしゃるっ!」  その衝撃に俺は吹っ飛ばされる、そして意識が闇に飲まれていった。  終わり。 「って、勝手に終わらないでよっ!」  気づくとかなでさんは俺の襟元を持ち身体を前後に揺らしていた。 「こーへー!」 「わ、わかりましたから手を離してください」  なんとか起きあがった俺はまだふらふらする頭を抑えた。  一体何をされたかはわからないけど、普通の人だったら死んでるんじゃ  ないだろうか? 「とりあえずこーへーの部屋に行こ♪」 「えぇ、そうですね。いろいろと聞きたいですから」  部屋へと招待し、いつものようにお茶を煎れる。 「ひなちゃんほどじゃないけど美味しく煎れられるようになったね」 「ありがとうございます」  そうして静かな時間が過ぎて行・・・ 「って、どうしてかなでさんがここに居るんですか?」 「え? そりゃこーへーに部屋に招待されたからでしょ?」 「さっきかなでさんが行こうって行った気がしないでもないです。  それは百歩譲りましょう」 「譲っちゃうんだ」 「えぇ、それよりもなんでかなでさんが修智館学院にいるんですか?」 「それはね、こーへーが悪いんだよ?」 「なんで俺が悪いんですか?」 「だって、こーへー、楽しそうな事してるのにわたしに知らせないんだもん」  楽しそうなことって・・・あったっけ? 「忘れたとは言わせないよ? ここ2ヶ月間にあった予算争奪戦」 「・・・それは成果発表会であって予算争奪戦という名前じゃないです。  というか、何でそんなこと知ってるんですか?」 「うん、この前いおりんがわたしの所にやってきて自慢していったから」  千堂先輩・・・どこまで俺達を引っかき回せば気が済むんですか! 「そんな楽しそうなイベントにわたしを誘わないなんて、こーへーが悪い!」 「いや、でもかなでさんは大学生ですし」 「そんなの関係ないもん!」  関係ないって・・・ 「だって、わたしのヨメも戦ってたんだよ? わたしが参加しない理由がない!」 「どんな理由ですか・・・」  なんだか一気に疲れてきた。 「それにほら、ひなちゃんは今度のシリーズでトップでしょう?」  シリーズ? っていうかいきなり何の話だ? 「ひなちゃんが最初なのはわたしのヨメだしそう言う順番なのは当たり前だよね」 「はぁ・・・」 「その後えりりんはメインヒロインだから限定版があるのは良しとしよう。だが!」  そこで立ち上がるかなでさん。 「なんで今回もわたしのフィギュアの発売が最後なの!」  俺にそう言われても・・・ 「でないよりはマシだけど、発売10月だよ? ひなちゃんは7月なのに!  本編で8月下旬に海行ってくらげの季節だなんて言われたけど、10月じゃそもそも  海で水着着る季節じゃないよ?」  まぁたしかに、10月は海で泳げる季節じゃないよな。 「それくらい良いじゃない」  突然ドアの方から声がかけられた。 「紅瀬さん?」 「あなただけフィギュアが多くでてるの、忘れてない?」 「あ」 「制服のシリーズと今回の水着のシリーズ、その合間に出てるわよね」 「ちょっと、きりきりすとっぷ! それ以上は言わな・・・」 「裸エプロン」 「−−−−−−−っ!」  かなでさんが耳に聞こえない悲鳴をあげた。 「それじゃぁ孝平、また後でね」  それだけを言うと紅瀬さんは去っていった。  ・・・一体何しに来たんだろう? 「それで、かなでさん」 「ひゃいっ!?」  一体どんな返事をすればそうなるんだと言えるような返事だった。 「今日は遅いですしもう帰った方が良いと思いますよ?」 「うーー」 「いや、そこで唸られても・・・」 「こーへーはか弱い乙女をこんな夜遅くに追い出すの?」 「・・・じゃぁ、どうすればいいんですか?」 「そんなこと・・・女の口から言わせるの?」 「それじゃぁ陽菜の部屋で泊まるんですね」 「なんでそーなるの!」 「なんでって・・・」 「もぅ・・・女の子の口から言わせたいの?」  何をって聞くことが出来なかった。 「わたしがね、今日ここに来た本当の理由はね・・・」  その先の言葉は、必要無かった。
5月17日 ・穢翼のユースティア sideshortstory「失われた秘宝」 「カイム様、先ほど国王陛下がカイム様をお捜しになられておりました」 「リシア様が?」  何か問題でも起きたのか? 「ありがとう、リシア様の所へ行ってみる」 「はっ」  衛兵は礼をすると去っていった。 「さて、と」  今日のリシアのスケジュールは・・・この時間は空いてるはずだな。  本来秒単位での執務をこなす国王ではあるが、今のノーヴァス・アイテルは  落ち着いている為緊急性のある問題は起きていない。  それにヴァリアスやルキウスが補佐しているから寝る間を惜しんで、というほど  執務のスケジュールは詰まっていなかった。 「それだけ今は平和って事だよな」  正確に言えば、平和になったと言うことだ。  リシアの自室の前にたどり着く。 「リシア、俺だ。入っても良いか」 「あ、あぁ・・・」 「?」  リシアの返事が違っていた。  いつもなら入れ、と言う所なのだが、なんだか躊躇っているような、そんな  印象を声から感じた。だが、入るのを拒否されてはいない。 「入るぞ」  俺はドアを開け、部屋へと入った。 「リシア、俺を捜していたそうだが何か用か?」  部屋の中にリシアの姿が見あたらない・・・いや、ベットの中にいるようだ。 「カイム、戸を閉めよ」 「あ、あぁ・・・」  俺は扉を閉めて鍵をかける。  この鍵をかける行為が、リシア・ド・ノーヴァス・ユーリィ国王陛下がただの  リシアになる事を意味する。 「これでいいか?」 「あぁ・・・」  ベットの中で布団にくるまってるリシアが顔だけをこちらに出す。 「・・・」 「あ、あのだな、その・・・」 「なぁ、俺の眼の錯覚じゃなければ・・・なんだ、その耳は?」  いつもの結わえてる髪の所に、獣の耳がついていた。 「えっとだな、これには深い事情があってだな・・・」 「わかった、事情をきいてやるからとりあえずベットからでてこい」 「にゃっ!」  まるで猫のように驚くリシア。その声を聞いて、獣の耳が猫の耳であることに  俺は気づく・・・けど、気づいたって何の意味は無いだろうな。 「ったく、今度は何を企らんでるんだ?」 「企むだなんて人聞きの悪い事を言うな!」 「じゃぁ、何を計画してるんだ?」 「カイム、さっきと言ってることが同じではないか」 「わかったわかった、とりあえず話してごらん」 「うー・・・」  リシアは何かを躊躇ってるようだ。 「とりあえずでてこい、まずはそれからだ」 「だがな・・・」 「わかった、俺からそっちへ行こう」 「にゃっ、ちょっとまった! まだ心の準備が」 「何を今さら恥ずかしがる、リシアの裸なら嫌ってほど見てるぞ」 「嫌って、嫌なのか!?」 「そう言う意味じゃない、いくら見ても飽きないぞ」 「そ、そうか・・・」 「・・・」  というか、なんでそんな話になってるんだ? 「なら・・・私も覚悟を決める」 「何の覚悟だ・・・」 「カイム、これならどうだ!」  リシアは布団を跳ね上げる。 「・・・」 「・・・」  そして二人で固まってしまった。    俺は、元暗殺者の癖でその姿を分析してしまう。  リシアの着ている服は紺の布地の肌にフィットするワンピースタイプの  変わった物だった。袖とスカートはない。  何故か胸の所に白い布地が張り付けられていて、ご丁寧に「リシア」と  名前が書かれている。  だが、機動性は良さそうな服だと思う、これで対刃繊維で編まれているのなら  短剣クラスの武器なら弾くだろう。  でもそれらな、袖や足を覆う部位も無くては意味がない。  そこまで分析したところでリシアが俺の顔をのぞき込む。 「ど、どうだ?」 「どうって言われてもな・・・その、変わった服装だな」  今気づいたが、猫の耳にあわせるようにしっぽもついているようだった。 「動きやすそうだが、通気性は良く無さそうだな。隠密行動の時に着る服か?」 「・・・おかしい」 「ん?」 「おかしい、そんなはずはないのに!」 「リシア、お前何を言っている?」 「・・・カイム、これは失われた秘宝なのだ」 「・・・は?」  失われた秘宝? この隠密行動用の服が、か? 「あぁ、この前読んだ古代の文献に書かれていた、古代に存在していた服で  その名もスクールミズギと言うのだ」  スクールミズギ? 一体それはどんな意味なんだ? 「それよりもこれが古代の秘宝?」 「あぁ、その文献を元に作らせた」  古代の秘宝は簡単に作れる物なのか? 「それは理解出来ないけど、わかった、それでその秘宝とやらで何をする?」  俺の言葉にリシアは顔を一気に真っ赤にした。 「そ、それはだな・・・」  その慌てようが微笑ましい。 「じ、実はだな、この古代の秘宝はだな・・・その、男女関係に刺激を与える  効果がある・・・そうなのだ」 「男女関係に効果がある秘宝・・・そうなのか?」  本当なんだろうか? 「あぁ、他にもタイソウギと呼ばれる秘宝もあるのだが、とりあえずスクール  ミズギを再現させてみた」 「それはわかった、でもこれで男女関係がどうにかなるのか?」 「わからん」 「わからん・・・って」 「だがな、古文書にはこれを着るとだな、その・・・殿方が参倍頑張ると・・・」  そこまで言ってリシアは言葉を失った。  さすがの俺もリシアの言いたいことはわかってきた、いや、身体が理解したと  言うべきだろうか。  最初分析したとき、大した服ではないと思ってたのだが改めてみると身体にフィット  した分、ラインがはっきりと浮かび上がる。  リシアが行動をするたびに柔らかな曲線がまるで芸術の用に動きだす。  そこまで身体が理解した、というか生まれる前からこの秘宝には逆らえない何かが  刻み込まれてるような、そんな気もしてきた。 「わかったよ、リシア」 「ん」  俺はそっとリシアを抱きかかえる、リシアは気持ちよさそうな声をあげる。 「今日はスケジュールも開いてるし、問題ないな」 「あ、あぁ・・・」 「その、参倍がんばれるかどうかはわからないけどな」  俺はリシアの耳元でそっとささやく。 「優しく、激しくリシアを愛するよ」  ・  ・  ・ 「いつもより気持ちよかったぁ・・・もう動けない」 「・・・その、すまない」 「何で謝るのだ? お互い良かったのだから良いではないか」 「・・・」  こう言うときは男の方が肩身が狭い、それは俺とリシアの時だけだろうか? 「秘宝はやっぱり秘宝だったな、カイム」 「・・・」 「ふふっ、今度はタイソウギも再現してみよう」 「勘弁してくれ・・・」  あの服を縫わされる侍女達のことを思いつつも、タイソウギなるものを  見てみたいと思ってしまってる俺がいた・・・
5月12日 ・ましろ色シンフォニーSSS”ちっちゃい妹” 「ただいま」  玄関を開けて家の中に入る。  ・・・あれ?  いつもなら桜乃が出てくるのに今日は出てこない。  靴は・・・あるから家に居るのは間違いない。 「下ごしらえでもして忙しいのかな?」  いつも瓜生家の台所を一手に引き受けてくれている。  たまには手伝おうかな。  俺はキッチンに顔を出す、けどそこに桜乃は居なかった。  いつもと違う家の中。  なんだか胸騒ぎがしてきた。  もしかして桜乃は調子が悪くて部屋で寝ているのかもしれない。  そう思うと、俺は駆け足で階段を上がった。 「桜乃、だいじょうぶか!」 「あ、お兄ちゃん。お帰りなさい」  俺の問いかけに普通に返事をする桜乃の声を聞いて、俺は脱力してその場に  座り込んでしまった。 「心配しすぎだよな・・・」  単に家に帰ってきたばかりで着替えてただけじゃないか。  それなのになんで病気になったとか考えちゃったんだろう? 「・・・これじゃただの妹馬鹿だよな」 「ん?」  部屋の扉が開く。 「・・・え?」  そこに桜乃が居る、それは間違いない。  だけど、着ている洋服がおかしかった。   「どうして座ってるの?」  桜乃は不思議そうに俺にそう聞いてくる。 「えっと、まぁ、ちょっとした事情があったんだけど・・・桜乃さん?」 「なに?」 「その御格好は?」  思わず敬語になってしまった。 「・・・似合う?」    その場で手を広げて、それからくるっと一回転する。  可愛いな。でも背中が開きすぎてる気が・・・って!   「もしかして、似合わない?」 「いや、似合ってるし可愛いよ」 「・・うん、ありがとう」  って、違う違う、俺はなんで感想なんて言ってるんだ?  聞かなくちゃいけない事があるだろう。   「・・・お兄ちゃん、ごめんなさい」 「な、何が?」  急に謝られた。桜乃が謝るようなことが今までの流れにあっただろうか?   「おっぱいちっちゃい妹でごめんなさい」 「いやいやいや、そんなこと謝ることじゃないから」 「でも、男の人は大きい方が良いって言ってた」 「そんなの関係ない、俺は桜乃のおっぱいだから好きだから」  ・・・あ、俺今とんでもないこと言わなかったか? 「・・・」  桜乃が恥ずかしそうに背中を向ける。   「お兄ちゃんのえっち」  言わせたのは桜乃だろう・・・ 「でも、そんなお兄ちゃんが大好きな妹もえっちかも」   「えっちな妹は・・・きらい?」 「・・・大好きだよ、桜乃」 「私も、お兄ちゃんが大好き」  ・  ・  ・ 「で、なんでそんな格好というか、その洋服を持ってるの?」 「これ、今度の学園祭でのクラスの出し物」 「・・・」 「大正浪漫喫茶の制服の内の一つ」 「桜乃、それはどうしても着ないと駄目なのかい?」 「だいじょうぶ、当日は下に水着着る」 「・・・」  俺の脳裏にノリノリでこの件を了承した学園長の顔が思い浮かんだ。  ・・・結女、大丈夫なのか? いろんな意味であの学園の先行きが心配になった。
5月8日 ・夜明け前より瑠璃色な Moonlight Cradle SSS”達哉専用”  姿見の鏡の前に立って、今の私の姿を映してみる。 「いくらなんでも・・・ちょっとこれは・・・」    さすがに肌の露出が激しすぎるし、スフィア王国の王女としての品格さえ  疑われそうな格好だった。何より私が凄く恥ずかしい。  絶対この格好で人前に出れない。  なのに、何故この衣装に袖を通したのかというと、全てはメイドの一言だった。 「フィアンセに見せたら惚れ直しますよ、絶対に!」  昔の私とメイドの関係だったら絶対なかったやりとりだった。  地球へのホームスティとその時の事件は月王宮のメイド達と私の距離を一気に  近づけた。今まで私に仕えてたとはいえ、雲の上の人という仕え方をしてた  メイド達はこの一件で私も年相応の女の子だと、改めて認識してくれた。  とは、クララから聞いた話だった。  別に悪いことはないので気にしてなかったのだけど、最近どうしてか、達哉の話に  なることが多く、こんな衣装まで用意してくれるようになった。 「せっかく用意してくれたのだから・・・着るくらいはいいわよね」  その結果がこれだった。   「下着が無いのがこんなにも心細いだなんて」  普段のドレスもブラジャーは無い、だけどドレスはコルセットになっているので  全然気にならない。胸元がすーすーして全然落ち着かない。   「背中が開いてるのはいつもと同じだからいいのだけど」  やっぱり胸元が気になる、ちょっと着崩れしたら見えてしまいそうだ。    問題の胸の下には、この衣装を支える帯が回されている、それに飾り紐で  しっかりと着付けされてるので、こうして手を入れない限り服装の乱れは  全くといって無い・・・ 「だからといって不安が無くなるわけではないわね」    合わせ目をちゃんとする。 「でも・・・」  メイドの言葉が浮かんでくる。   「達哉が見たら、どんな反応をするのかしら?」  惚れ直すよりも先に、顔を真っ赤にして目線を逸らしてしまうのが簡単に想像  出来てしまい、思わず吹き出してしまう。 「ふぅ」    ベットにそのまま腰掛け、天井を見上げる。今は月の上に地球が見える時期。  その地球に居る達哉。先ほど想像した達哉の顔や、達哉の仕草。  間違いなくそうなるであろう未来の事を・・・ 「この衣装、今度地球に持っていこうかしら」  実際に達哉の前でこの姿を見せたときの事を思う。  ふと、私の想像の中にいつもと違った達哉が浮かんできた。  顔を真っ赤にして目線を背ける達哉ではなく、私を熱い目で見る達哉が・・・ 「襲われちゃうかもしれないわね」  ずっと離ればなれになってる、そんなときこんな格好をしたらきっと。 「・・・」    それはそれでいいかな、だって私も・・・ 「達哉」  今はここにいない達哉を思って、私はそのまま眠りについた。  夢の中で達哉に会えますように、そう祈りながら。
5月5日 ・FORTUNE ARTERIAL 楽屋裏狂想曲予算争奪編”陽菜編” 「あ、孝平くん。おかえりなさい」  生徒会の仕事を一段落させてから白鳳寮へと帰ってきた俺を出迎えてくれたのは  陽菜だった。 「ただいま、陽菜」 「うん、おかえりなさい。ねぇ、孝平くんは夜ご飯は食べたの?」 「まだだ、今日は学食の方は・・・無理そうだな」  玄関の時計をみる、もうすぐ門限となる時間だった。 「部屋に買い置きあるからそれで済ませるよ」 「駄目だよ孝平くん、ちゃんとしたもの食べないと」 「わかってはいるんだけどな」  部屋にある簡易キッチンは電熱式のコンロなので火力はほとんど無い。  まぁ、ちゃんとしたガスキッチンだったとしても俺じゃまともに料理は出来ないから  同じなんだけどな。 「明日は気をつけるさ、それじゃぁまたな」  俺は陽菜に別れを告げて部屋に戻る。  部屋に戻った安心感からか、すぐに眠気が襲ってくる。 「・・・まだやることあるしな、風呂にでも入るか」  備え付けのユニットバスにお湯をためようとして、やめた。  へたするとその時間で寝てしまうかもしれない。  まだ大浴場は使える時間だ、そこで疲れをとるか。  夕飯は、帰ってきてから考えるか。 「あ、孝平くんおかえりなさい」 「ただいま、陽菜・・・って」 「ごめんね、鍵が開いてたから中で待たせてもらっちゃった」  風呂上がり、部屋に帰ってきたら陽菜がいた。  まぁ、俺の部屋に誰かが居ることは良くあることなので驚きはしない。  何故かプリム服で居ることも、気にならない。  ・・・慣れって恐ろしいな。 「はい、孝平くん。夜ご飯まだなんでしょう?」  机の上に、ご飯にみそ汁、焼き魚が並んでいた。 「これは?」 「食堂で買って来ておいたの・・・迷惑、かな?」 「いや、そんなことはないよ。ありがとう、陽菜。早速食べてもいいかな?」 「もちろんだよ、孝平くん」 「ごちそうさま」 「おそまつさまでした、って私がつくったんじゃないけどね」 「陽菜のおかげで美味しい食事ができたよ、ありがとう」 「生徒会で頑張ってる孝平くんにはこれくらいしかできないから」 「そんなことないよ」  陽菜の言葉をすぐに否定する。 「陽菜だって委員会の仕事や寮長の仕事で頑張ってるだろう? 俺にはとても  出来ないことだよ」 「でも、孝平くんも大変だったでしょう?」  確かに最近は大変だった、普通なら無いはずの業務、成果発表会のおかげで  予算編成に多大な時間と労力がかかってしまった。 「大丈夫だって、俺だけが忙しかった訳じゃないし」  会長だって白ちゃんだって忙しかったけど、紅瀬さんの応援と、陽菜の力添えで  何とか乗り切った。 「陽菜だって手伝ってくれたし、そのおかげで助かったよ」 「私は、何もお手伝い出来なかったよ?」 「充分手伝ってくれたよ」  栄養ドリンクの差し入れや、運動部との成果発表会の時はいつも応援に  来ていてくれた。  陽菜は生徒会の一員、と言える。  だが、それは言っては行けない事だった。  もし伝えてしまえば責任感の強い陽菜は今まで以上に協力してくれるだろう。  けど、それで陽菜の負担を増やすわけにはいかない。 「陽菜、ありがとう」 「え? 私は何も」 「いつも気にしてくれてただろう? それだけで俺達はがんばれるんだよ」 「孝平くん・・・ありがとう」 「俺がお礼を言ってるのに陽菜がお礼を言うことじゃないだろう?」 「だって、孝平くんだっていつも・・・私のことを気にしてくれてるから」 「・・・そんなことはしてないさ」 「くす、孝平くんは嘘が下手だよね」  あっさりばれた。 「あ、食器片づけないとね」  陽菜は何かに慌てるように、俺の食器を片づけ始めた。 「はい、お茶をどうぞ」 「ありがとう」  陽菜の煎れてくれたお茶を飲んでから伸びをする。 「孝平くん、疲れてるんだよね?」 「あ、あぁ」 「それじゃぁ肩を揉んであげる」  そう言うと俺の後ろに素早く回り、肩を揉み始めた。 「ん」 「痛い?」 「いや、もう少し強くしても大丈夫だよ」 「わかった、がんばるね」  陽菜の柔らかい指が俺の肩に食い込む・・・とまではいかないけど気持ちよかった。 「気持ち良いよ、陽菜」 「うん・・・」 「どうした? 疲れたのならもう良いよ?」 「孝平くんの肩って広いなって思ったの」 「俺も一応男だからな」 「うん・・・知ってるよ。孝平くんは男の子で、私は女だってこと」 「・・・」 「・・・」  無言の時間が流れる。 「ねぇ・・・まだ私にも見込みは・・あるのかな?」  何のこと・・・とは口に出せなかった。 「ねぇ、孝平くん・・・」  陽菜は後ろから俺に抱きついてくる。  背中に当たる二つの大きな、そして柔らかな膨らみを感じる。 「陽菜・・・」  その先に言葉はいらなかった。
5月3日 ・FORTUNE ARTERIAL 楽屋裏狂想曲予算争奪戦「テニス部編」  成果発表会、紆余曲折ありながら生徒会のメンバーで何とか乗り越えて来た。  そして最後に待ってたのはテニス部だった。  だけど・・・ 「孝平、よろしくね!」 「あ、あぁ」  相手コートにいるのはテニス部の部長と女子テニス部の部長のペアだった。  同じテニス部ということで合同で行われることになった、男子も女子も部長の  ペア、こちらは俺と瑛里華。テニスの経験があるとはいえ分が悪いかもしれない。 「さ、いくわよ!」  そう言って前にでて姿勢を低くする瑛里華。  俺は瑛里華と反対の方で同じようにボールに備える。  相手コートの奥に居る女子部長がサーブしてくる、それは的確に俺達の間を縫う  鋭いサーブだった。だが、俺ならまだ間に合う! 「はっ!」  俺は同じように打ち返す。  力を入れすぎればボールはコートを飛び越えてしまう、その辺の練習は昨日までに  瑛里華としていたので問題ない。  それを相手がうちかえす。 「甘い!」  瑛里華がボールに飛びつき、打ち返す。その打ち返すボールを追おうとしてふと  白い輝きに目が奪われた。 「孝平!?」  気づくと相手はボールを打ち返していた。 「しまった!」  慌てて追うが届かない。 「どうしたの、孝平? 調子悪いの?」 「いや、ごめん。次は大丈夫だから」 「わかったわ、しっかりお願いね」  気持ちを切り替えてのテニスの試合、それでも相手は強く一進一退。  結果、紙一重で負けてしまった。  テニス部が勝った瞬間、部員達が歓声をあげた・・・ 「負けちゃったわね、孝平」 「・・・ごめん、俺のせいだ」 「別に孝平のせいじゃないわよ、私たちが相手に届かなかっただけよ」  そう言って瑛里華は俺を責めようとはしなかった。 「だけど、試合中に集中しなかったのは確かだから・・・やっぱりごめん」 「もう、孝平ったら仕方がない子ね」  そう言う瑛里華の微笑みは優しかった。 「調子が悪くて集中出来なかったんでしょう? そう言う日もあるわ」 「いや、調子は悪くはなかったよ・・・」  瑛里華が心配してくれてる事が余計に罪悪感を感じさせる。 「それじゃぁどうして?」 「・・・」  親身になって心配してくれる瑛里華に理由は言いづらい。 「まさか、私に見とれてたとか? なんてね」 「・・・」  冗談を言う瑛里華、だが俺には冗談じゃなかったから言い返せない。 「まさか・・・本当なの?」 「・・・ごめん、見ちゃいけないって思えば思うほど気になって」 「そ、そう・・・」  何のことか瑛里華も気づいてしまったようだ。 「でも、これのこと知ってるでしょう?」  そう言って瑛里華は短いスカートをつまむ。  そこから見えるのは白い下着、ではなく。 「アンダースコート、これは見られても良いように出来てるのだから、そんなに  気になる物じゃないでしょう?」 「・・・でも、やっぱり駄目だ」  俺は目をそらす。 「もぅ、孝平ったら照れちゃって可愛い」 「茶化すなよ、それに見られても良いからって見せたくない物だってあるだろ?」 「ん?・・・あ」  ・・・しまった、失言だった。 「そ、そっかぁ、そうだよね。こんなもの見せられても嬉しい訳ないわよね」 「違う!」  瑛里華の勘違いを否定する。 「それじゃぁ・・・そういうことなのかしら?」 「・・・」 「まったく、男の子って肝心なときに何も言ってくれないんだから・・・」  そう言って呆れる瑛里華。 「でもいいわ、許してあげる」 「瑛里華?」 「孝平の気持ちはわかったから、許してあげるわ。その代わりこの後の予算再編  頑張ってもらうからね」 「あぁ、失敗はそこで取り戻す」 「よろしくね、副会長さん」 「わかったよ、会長!」  ・  ・  ・ 「でも不思議よね、見られても良いものだから私は見られても気にならないのに。  アンダースコートより水着の方がもっと恥ずかしいわよ」 「だから駄目だって、見られても良いからっていったって、そこにあるものは  刺激が強すぎる」 「そうよね、これは孝平には刺激が強すぎたのよね」  そう言ってスカートをつまみ上げる瑛里華。 「っ!」 「顔を真っ赤にしちゃって、可愛い」 「え、瑛里華! 何してるかわかってるのか?」 「だいじょうぶよ、体操着を着てるような物だもの」 「だからって見られて平気なのか?」 「えぇ」  そう言って笑う瑛里華の顔は間違いなく俺をからかっている。 「なら、見る」 「え?」 「見られて平気なら見ても良いだろう?」 「えっと・・・その」 「それともやっぱり駄目なのか? 瑛里華は嘘言ってたのか?」 「そんなこと無いわよ、ほら。遠慮なく見て良いわよ?」  そう言って瑛里華は完全にスカートをまくり上げた。  俺はその光景に釘付けとなった。 「・・・ねぇ、まだなの?」 「・・・」 「ねぇ・・なにか言ってよ」 「・・・綺麗だ」 「え? あ、ありがと・・・」  異様な光景だった。  テニス部との試合が終わって帰ってきた監督生室。  テニスウエアの瑛里華はスカートをまくり上げて、おれはそれを見ている。 「・・・」  気のせいか瑛里華は太股を擦りあわせるように動かしている。  そのたびに小さな、でもしっりと水気のあるような音が聞こえてくる。 「・・・ねぇ、孝平、もう良いでしょう?」 「恥ずかしいのか?」 「ううん・・・恥ずかしくないわ」 「瑛里華、無理しなくていいんだぞ?」 「・・・恥ずかしいよりもどかしいの。だって、孝平のそれ」  瑛里華の視線は俺の下部に向いていた。  俺の姿はテニスウエア、その変化は外部からはっきりと見て取れる。 「・・・孝平」  俺は立ち上がり、瑛里華に近づく。 「私にここまでさせたんだから、責任・ん・・・」
4月27日 ・穢翼のユースティアSSS”闇の中の光”  『穢翼のユースティア』は2011年4月28日発売予定です。  どうしてこうなったんだろう?  揺れる馬車の中で私は自分の足を抱え込んで座りながら考えてみた。  つい先日までお屋敷で召使いとして雇ってもらえてた。  仕事はきつかったけど、寝る場所はちゃんとあったし、生きていけるくらいの  食べ物もあった。  なのに、なんで追い出されたんだろう?  理由は・・・何も思いつかない。  酷い失敗をした記憶もないし、ご主人様の気を害する事もしていないはず。 「・・・」  きっと、理由なんてないのかもしれない。  それこそご主人様の気まぐれで、捨てられただけなのかもしれない。  この世には辛いことしかないのかな。  この世には、悲しいことしかないのかな。  私は何のために、生まれてきたのだろう? 「降りろ」  馬車の扉が開く、闇に包まれた荷台の中に差し込んでくるものは  光ではなく、開いた先も闇だった。  私と一緒に運ばれてきた女の子は重い腰をあげる。 「いや、いやっ! きゃっ!」  嫌がる女の子は殴られて静かにさせられる。  私は、どうしようもない運命に流されるかのように立ち上がり、馬車を降りた。  ここは何処なのでしょう?暗くてわかりません。 「来い」  男の方が手招きする方へと皆が歩いていく。  何かの建物の、たぶん裏口だろうか。  そこに入ると衛兵が居たが、その衛兵は何も言わなかった。  そして、その先に階段があった。  深く、暗く、何処までも墜ちていけそうな階段。  あぁ、そうか。  ここは、牢獄への入り口なのだ。  長い長い階段を降り、出た先も闇だった。  そこに用意されてた馬車に乗せられる。  先ほど抵抗した女の子は今度はだまって馬車に乗っていった。  私は、振り返る。  そこには闇の出口であった扉と、大きな壁が見えた。 「乗れ」  言われるがままに馬車に乗る。  全員が乗ったところで馬車は走り出した。  私は牢獄に墜とされて、どうなるんだろう?  また、新たなご主人様の元で働くのだろうか?  それとも・・・  その先を考えて、身が震えた。  でも。  それでも、私は生きていたい。  生まれた意味を知りたい。  私にある、運命を知りたい。それはきっとすごい運命なのかもしれない。 「私は・・・」  何処まで墜ちても光を見つける、そして・・・ 「なんだ?」  外の方の大きな声が聞こえた、と思った瞬間馬車が突然倒れた。 「っ!」  私たちは荷台から投げ出された。  そこには、闇があった。  黒く深い闇をたたえた・・・ 「・・・羽?」  次の瞬間、その闇は赤く彩られた・・・
4月26日 ・穢翼のユースティアSSS”闇の中の闇”  『穢翼のユースティア』は2011年4月28日発売予定です。 「やっと片づいたわね」 「先生、お疲れ様でした」 「後は経過観察、何かあったら連絡ちょうだい」  患者である娼婦が寝かされてる部屋から出て、一応あてがわれている  部屋へと移動した。帰る前にやることがある。 「痛っ!」  自分の腕に消毒液を塗る、刺すような痛みが走る。  先ほどの患者を取り押さえ治療するときに引っ掻かれた傷だった。  大した傷ではないけど、浅い故に痛覚を刺激する。  それに、患者は中毒症状を訴えていた。  爪から私の身体に妙な成分が滲入してきているかもしれない。  「そこまで気を使っても仕方がない、か」  医者である私だって治せない病気がある。  恋の病と、羽化病だった。  どちらも発生したら最後、恋煩いに身を焦がすのならまだいいが、  羽が生えたら治療院へ連行、隔離されてしまう。 「今回もそうなら、楽だったのに」  今回の患者は、麻薬中毒だった。  牢獄では麻薬が流通している、だが不蝕金鎖では一切流通させていない。  当たり前だ、大事な商品がちょっとした儲けの為に壊れたのでは意味がない。  不蝕金鎖は不蝕金鎖なりに、商品を大事に扱っているのだ。 「風錆・・・」  不蝕金鎖の先代が亡くなった際、構成員を連れて去っていった副頭領が立ち上げた  組織、生まれた瞬間に牢獄で2番目の規模となった。  そこが、儲けの為に麻薬を取り扱ってる。  その対象は、上層、下層、そして牢獄の住人。その影響はリリウムの娼婦達にまで  達している。 「あの娘、麻薬との相性が悪かった・・・いえ、良すぎたのかもね」  最近流行しだした麻薬は、中毒性は無いはず。  だけど、その麻薬と相性が悪い、いえ、良い人間は一発で墜ちる。  一度墜ちた人間は、もう再起は不能だろう。  性交など身体が得た快楽は、強靱な意識で制御することは可能だろう。  だが、この麻薬は脳に直接作用する。  普通の人の脳が得た快楽を、意識を司る脳で止めることは不可能だ。 「2日、ってとこかしらね」  あの娼婦の経過がわかるまで後2日。  上手く抜けてくれれば、助かるのだけど・・・  そこまで考えて、ふと思う。  薬が抜けて助かる、それがあの娘の為になるのだろうか?  助かって、でもその先は娼婦としての道しか残っていないだろう。 「ほんと、中毒患者って治療のし甲斐が無いわね」  治っても闇、治らなくても闇、何処まで行っても闇。 「闇の中・・・なら私も、か」  自分の傷の手当てを終えた私は、帰ることにする。  闇の中の闇のある場所へ。 「自由に生きろっていいながら私は何処まで行っても自由にはなれないのにね」  夜の娼館街を歩く。  牢獄での夜の女の一人歩きはとても危険だ。  女であるだけで襲われ、犯される危険がある。だけど、ここは不蝕金鎖の  なわばりの中。  そして・・・ 「カイムの目の届く場所、ね」  ヴィノレタの扉の前に立つ。 「いるかな? ううん、いる。私にはわかる。」  私は扉を開けた。
4月25日 ・穢翼のユースティアSSS”イレーヌ”  『穢翼のユースティア』は2011年4月28日発売予定です。  浮いてるのか沈んでいるのかわからない、そんな水の感覚に身をゆだねる。  ざばんという音が聞こえて、私の身体は水の中から外へと生まれでる。  そして神に祈りを捧げる、それを繰り返す。  そう、何度も何度も、毎日、そして私がイレーヌである限り永遠と。 「お疲れ様です、イレーヌ様」  ラヴィの声のする方へと向かい、私は水場からでる。  身体全てが外気に触れる、その感覚に肌が震える。  ラヴィリアがそっとタオルを頭からかけてくる、そして別なタオルで私の  身体から水気をふき取る。 「ん・・・」  優しく拭かれる感覚に、肌が敏感に反応する。  それさえもそっとふき取るように、ラヴィは手を動かす。 「イレーヌ様、お召し物を」 「ありがとう」  渡された聖衣に袖を通す。 「それでは、失礼致します」  ラヴィは役目があるので、退出していった。  残された私は、今日をどう過ごそうかと考える。  次の祈りの儀式までは自由時間だ、本来ならば聖女としてやらなくては  いけない事が多数あるのだろう。先代はそうであったと話に聞く。  だが、私はそれができない。  なぜなら私は「盲目の聖女」だからだ。 「ふぅ・・・聖女、か」  第29代聖女イレーヌ、それが私の役目。  人生を祈りに捧げることを宿命とし、生涯をかけてノーヴァス・アイテルを  浮遊させるシステムに組み込まれた存在。 「聖女イレーヌ・・・それが私」  真なる名前を奪われ、イレーヌで居ることが、私の・・・  ふと、イレーヌで居られなくなったときのことを考える。  それは、あり得ないことだった。  私はイレーヌである限りイレーヌでいなくてはいけない。  イレーヌで無くなったとき、私は見せしめに処刑されるであろう、先代のように。 「それでも私の信仰の心は、本物だから」  そっと立ち上がり、中庭の方へと向かう。  まるで見えてるかのように、壁にあるハープを手にとる。  中庭へでると、花の香りがしてくる。その中を歩き、そして腰を下ろす。  手に持ったハープを奏でる。  私の手から奏でられるとは思えないほど、綺麗な音がする。 「もうすぐ・・・あの日がくる」  3日後、私は牢獄の民に信仰を説くべく、関所に赴く。  それは、イレーヌであることを理由に教会に進言し、実現させた事。  数日前に私が感じた何か・・・異変ではないとおもうなにか。  胸騒ぎ、が一番しっくりくる、何か。それは、下層の下より感じ取った物。 「私の中に感じる何かが、私であるための何かになるのかどうか・・・」  3日後にわかるだろう。もしかするとわからないかもしれない。 「くす、その時がくれば・・・」  結果はでるだろう、良きにしろ悪きにしろ。  私はまたハープを奏でる、綺麗な音が中庭に響いた。
4月24日 ・穢翼のユースティアSSS”欲する物”  『穢翼のユースティア』は2011年4月28日発売予定です。 「下がってて良いぞ」  そう言うと侍女達は一礼し、部屋から去っていった。 「さて、今日はまだ時間があるな」  椅子に座ってから窓の外を見る。今日は雲一つない良い天気だった。 「こんな日は洗濯物が良く乾きそうだな」  そう思った私は、クローゼットを開ける。  これから洗濯を始めるわけじゃない、まずは着替えからだ。  以前手に入れておいた侍女達のメイド服を取り出してから着替える。 「一番小さいサイズでもあまる・・・」  胸元が緩いメイド服、着るたびに実感する、それは屈辱的な事実。  だが、わたしはまだ成長期だ。これから大きくなる。・・・と思う。  まぁ、エプロンをしてしまえば問題は何もないだろう。  ヘッドドレスを付けて鏡の前でくるっと一回りする。 「よし、これで準備オッケー」  私は部屋からそっと抜けだし、王宮の侍女達が働いてる区画へと移動を開始した。 「全く・・・」  私の社会勉強はギルバルトのせいで切り上げざるをえなくなってしまった。 「良いではないか、別に迷惑をかけてる訳ではないのだぞ?」  そう言う私の言葉にあ奴は反論する。仕事を失うメイド達の事を考えてくださいと。 「別に奪った訳じゃないのだぞ? 手伝っただけであろう」  だが、結局こうして部屋に戻されてしまった。 「・・・」  戻ってきた部屋を見回す。  浮遊都市ノーヴァス・アイテル。ノーヴァス家が収める街だ。  浮遊都市故に、広げる領土がないので、侵略するための戦いは起きない。  浮遊都市故に、侵略してくる隣国が無いので、防衛するための戦いも起きない。  広がることもなく、狭まることもない、ノーヴァス家が収める都市。  その中で、私、ノーヴァス家の第一王女、リシア・ド・ノーヴァス・ユーリィが  真に持ち得てる領土は、この部屋だけだった。 「無いものねだり・・・か」  いらない物は手に入る。だが、本当に欲しい物は手に入ったことはない。  私の本当に欲しい物、それは・・・ 「・・・ふぅ」  考えるのを止めた。 「そういえば、聖女が下層の下に、牢獄を訪れるのであったな」  確か、4日後のはずだった。  王宮のテラスからは快晴の日であっても、靄に包まれて見渡すことの出来ない場所。  視察に行こうにも、執政公を始め全ての大臣達が反対する。 「あそこには何があるというのだろうか?」  我が国の民達はあの被災区でも生活している、だが私は実態をしらない。 「早く視察に行けるようになれば良いのだが」  牢獄の生活が安定してるなら問題ない、だが何かがあるのなら、我が民達の為に  変えていかねばならないだろう。 「これも・・・無い物ねだりになるのだろうか?」  私の言葉に明確な答をくれる人物はこの王宮には居ないだろう。  もう一度、窓から空を見上げる。  そこは、私の心とは正反対の、雲一つない青空だった。
4月23日 ・穢翼のユースティアSSS”強さと誇りと”  『穢翼のユースティア』は2011年4月28日発売予定です。  ドアを開け部屋の中に入る。  暗いが、住み慣れた部屋だから足下に注意する必要はない。  奥にある窓を開けて外の空気を中にいれる。  窓から入ってくる風が、私の髪をそっと撫でる。 「・・・ふぅ」  このままベットに倒れ込みたい衝動を抑え、窓を閉めてから、  私は着ている服を脱ぐ。  今日の任務も大変だった。  ・・・思いかえしてみて、大変じゃない任務などあっただろうか? 「何を弱気に・・・」  そう、自分を叱咤しても頭の中から消えてくれない。  いつものように特別被災地区での哨戒任務と、通報のあった羽化病の患者の確保。  誰かがやらねばならない、だからこそ誇りを持ってこの職に就き、今まで自分を  磨き続けてきた。  それなのに・・・ 「っ」  脳裏に浮かんでくる、幼い子供の怯えた表情。  羽化病患者を確保した時、近くに隠れていた子供は、私と目線が合った瞬間  怯えて逃げていった。 「わかってる、わかってたことだろう、フィオネ・シルヴァリア!」  少し大きな声をだしてしまった、他の隊員に聞かれていないだろうかと心配に  なったが、それが杞憂であることは私自身が一番知っている。  ここは隊員宿舎の上層、部隊長クラスの部屋しかない。  下層の隊員より待遇が良く個室が与えられている。  私は女性ということもあり、一番奥の部屋を与えられてるので、声が隣に  漏れる心配も少ない。 「・・・」  もっと強くならなくては、身体も心も。 「そういえば、あと5日か・・・」  聖女様が特別被災地区、牢獄のテラスにて説法を説かれる日。  その日はルキウス卿もお出でになられる。  私たちは下に降りての任務となる。 「・・・今日はもう休もう」  脱ぎかけだった服を全て脱いで一糸纏わぬ姿になってから、隣の小部屋に移る。  湯を用意して置いたその小部屋で、タオルを使い身体の汚れを落としていく。  湯浴みは、身体の汚れと当時に、心の澱みを落としてくれるような気がする。 「・・・」  だが、今日は心が軽くならなかった。  ランプの明かりを消し、何も着ないままベットに倒れ込む。 「もっと、もっと強くならなければ。誰にも頼らず自分の意志で・・・」  その先は言葉にならず、意識は闇に抱かれていった。
4月22日 ・穢翼のユースティアSSS”水入らず” 「暇」  リリウムのロビー、アイリスがぼそっとつぶやく。 「そうですわね」  クローディア姉さんが相づちを打つ。  私は窓から外を、空を見上げる。  ほんの少ししか見えない空は、今夜は全く見えない。  暗く、黒く、そこからは強い雨が降り注ぐ。 「まったく、雨くらいで外出してこないなんてどういう事よ」  強い雨ではあるが酷くはない。それなのに今夜は人の出が少なすぎる。  というか、何故か全くいない。 「これじゃ客がこない」 「困りましたわね」  困ったように相づちをうつ姉さん。  確かにこのままだと今日の売り上げは全くなくなってしまう。  もうすぐ日が変わる時間、娼館の夜はまだまだ長い。  普段ならこの時間からでも客の相手が始まる事もあるのだが、さすがに  深夜になって人が訪れることはあまりない。  牢獄で深夜出歩く危険が高いからだ。 「今日はもう上がっちゃいましょうか」 「ん」 「それしかないかなぁ・・・」  客が取れずに売り上げが悪ければ上から怒られる、だがその客が全く  射ないのであれば、上もそうそう文句は言ってこない。  その辺りはリリウムではしっかりとしているので安心だ。  その時扉が開いた。 「邪魔する」 「カイム」  アイリスが反応した。 「あら、カイム様。今日はどのようなご用件で?」  カイムは無言で階上を指さす。 「お疲れ様ですわ、カイム様」 「あぁ、それじゃぁな」  カイムは階段を上がっていく。あの先にはジークの私室がある。 「・・・そうだ、良いアイデア思いついちゃった♪」 「リサの良いアイデアははずれが多い」 「そうですわね」 「酷っ!」  二人のツッコミにちょっとめげる。 「それで、良いアイデアとは何ですの?」 「それはねぇ、今夜私たちをカイムに買ってもらうのよ」 「カイムに?」 「うんうん、カイムならここも文句言わないし、ちゃんと払ってくれるし」  何よりすっごくすーーーっごく、気持ちよくしてくれるから。  他の客は自分が気持ちよくなることしか考えてない。  その点カイムはちゃんとしてくれる。  ・・・まぁ、ちょっといぢわるな所もあるんだけどね。 「俺にだって選ぶ権利はあるぞ」 「あ、カイム」  いつの間にかカイムが降りてきていた。 「そうですわね、カイム様。でもせっかくですから遊ばれていきますか?」 「カイム、サービスするから買わない?」 「ちょっとぉ、私が最初に提案したんだから、私が最初!」 「俺が買うことを前提に話を進めるな」 「でもでも、最近ご無沙汰だし、サービスするからぁ、どう?」  そう、本当にご無沙汰なのだ。  前に買ってもらったのはいつだったっけ?  あの時は本当に天にも昇る気持ちよさだったなぁ、とその時のことを思い出すと  顔が火照ってしまう。 「俺は安くないぞ?」 「うん、知ってる。カイムは安くない、いつも高い金を落としていく」 「そう言う意味じゃないんだけどな」  カイムは辺りを見回す、客がないロビー、他の娼婦達もぼーっとしている。 「そうだな、クローディア。チェスの相手でもしてもらおうか」 「いいの?」 「お前には聞いてない」  私の言葉は否定された。 「えぇ、カイム様のお相手なら喜んで致しますわ」  クローディアがカイムに買われた。 「リサ、アイリス。今日は一緒にチェスの勉強をしましょうか」 「姉さん良いの?」 「えぇ、どうせ今夜はこれ以上ここにいても仕方がありませんもの。  せっかくですからいろいろとカイム様に教わりましょう。いろいろと。」 「うん♪ カイム、よろしくね」 「私はカイムにいろいろと教える」 「ったく、勘弁してくれよな」  そう言いつつも否定はしないカイム。 「それじゃぁ参りましょう」  私たち3人とカイムは、クローディア姉さんの部屋へと向かう。  これで今夜のスケジュールは決まった。  久しぶりにカイムに抱いてもらえる、そう思うとお腹の奥がきゅんとする。 「カイム、天にも昇る気持ちよさ体感させてあげる」 「リサに出来るのか?」 「私だって出来るわよ!」 「駄目」 「アイリス!?」  駄目だしされてしまった。 「そうですわね、今夜は3人一緒に、カイム様のお疲れを癒して差し上げましょう」  そう言って微笑むクローディア姉さんは綺麗で、そして淫靡だった。 「ったく、ほどほどにな」  久しぶりに気を使わない相手と、気の合う仲間との夜を過ごす事となった。
4月21日 ・ましろ色シンフォニーSSS”バスタイム” 「うう・・・」  家に帰ってきた時、俺はずぶぬれだった。  ちょっと駅前まで買い物に行く時は晴れてたのに、いきなりこんな酷い  雨になるなんて思っても見なかった。 「桜乃は大丈夫だっただろうか?」  俺と同じように出かけてたはずの桜乃。  雨に濡れてなければ良いんだけどな。 「・・・さむっ」  4月になり暖かくなって来たとはいえ、雨に濡れれば体は冷える。  さすがにこのままだと風邪を引きかねない。 「風呂入ってくるか」  俺は風呂場へと向かう。 「あれ・・・なんか、既視感」  そういえば、以前も雨に濡れたときこんな事をしたような記憶があった。  あの時は桜乃の着替えに出くわしたんだっけ。 「・・・まさかな」  風呂場に入る前にノックをしよう、おれはそうすることにした。  ・・・のだが。 「うわっ!」  脱衣所の扉の前で俺は足を滑らせた。  濡れてる靴下のせいか、床が濡れてたからかはわからない。 「痛ててて・・・」  尻餅をついてしまった俺の目の前の扉がひとりでにすーっと開いていく。  どうやら完全にドアがしまってなかったようだ。 「あ・・・」 「え・・・」    開いたドアの向こうには、桜乃が立っていた。  うん、立ってるのはいい。いいんだけど・・・  着替えの最中だった。 「ご、ごめん!」  俺は慌てて立ち上がろうとして 「えっ!」  また足を滑らせて今度は前のめりに倒れる。  床へとぶつかる覚悟をした俺は暖かい何かに包まれた。  それが桜乃だとわかった俺はとっさに体を入れ替えた。 「痛っ!」 「お兄ちゃん」  なんとか桜乃を下敷きにしないで済んだ。   「お兄ちゃん、大丈夫?」 「あ、あぁ・・・」  俺は痛む背中をさすりながら、その場に座り込む。  下手に立ち上がろうとすればまた足を滑らすかもしれないからだ。 「桜乃は大丈夫か?」 「お兄ちゃんが助けてくれたから大丈夫」  それならよかった。 「・・・でも、私びしょびしょ」 「あ」  風呂上がりの桜乃に、俺は濡れた体のまま抱きついてしまったのだから  桜乃の体がまた濡れてしまったのだ。 「ごめん」 「だいじょうぶ、またお風呂に入ればいい」    そう言うと桜乃は着ているシャツに手をかけた。 「ちょ、ちょっとまって」  俺は顔を背ける。 「今すぐ脱がなくても」 「だって、私びちょびちょ」  確かに桜乃の着ているシャツは肌に張り付くほど濡れてしまっていた。  ささやかな膨らみも、薄桃色の先端もシャツに・・・って何を思い出している! 「お兄ちゃんもびちょびちょだよ」  桜乃が俺の体に触れてくる。 「っ!」  その感触に、濡れた俺の体がびくっと反応してしまう。 「お兄ちゃん、風邪引いちゃうよ?」 「だ、だいじょうぶだよ」 「・・・」  桜乃が何かを考えてる。 「お兄ちゃん、お風呂・・・一緒に入ろう?」  少し照れが声に含まれてるのがわかる。 「で、でも」 「お兄ちゃん、今の私はお兄ちゃんの妹だけじゃないよ?」 「当たり前だ、妹であって、俺の大事な恋人だ」 「わ、即答・・・恥ずかしくない?」 「・・・」  そう言われると恥ずかしくなってきた。 「私は・・・嬉しいよ」  そう言って微笑む桜乃。 「だから、一緒にお風呂入ろう」 「どうしてそこにつながるんだ?」 「恋人同士は一緒にお風呂するのは当たり前」 「・・・誰の受け売りかは聞かないで置く」 「うん、だから・・・ね、お兄ちゃん。一緒じゃ・・だめ?」 「駄目なわけ・・・ないよ、桜乃」  桜乃の声に俺は抗えなかった。 「お兄ちゃんとお風呂、お兄ちゃんとお風呂」  桜乃が良いなら、良しとするか。 「お兄ちゃん、いっぱい身体を洗ってあげるね」 「・・・」  少しだけ判断を誤ったかもしれないかな・・・  そう思いながらも、二人だけのバスタイムは始まった。
4月20日 ・FORTUNE ARTERIAL 楽屋裏狂想曲予算争奪編「弓道部編」 「お疲れ様、白ちゃん」 「あ、ありがとうございます」  監督生室で俺は白ちゃんにお茶を煎れてあげた。 「白ちゃんほど上手くは煎れられないけどね、これでも練習してるんだ」  白ちゃんはそっとティーカップを口に運んでお茶を飲む。 「・・・美味しいです」 「そっか、よかった」 「・・・」  また白ちゃんは口を閉じてしまった。  部活動の予算争奪の、成果発表。  生徒会に成果発表をし、予算アップを挑んでくるのは主に運動部。  だが、今日はちょっと違っていた。  それは弓道部、去年この弓道部を相手にしたのは前会長ではなく東儀先輩だった。 「こ、今年は私が出ます!」  白ちゃんの発言に驚いた俺と瑛里華だった。 「白、弓道部は今年は試合を挑んできていないわよ?」 「はい、でもやっぱり試合の方が弓道部さんも実力を出せると思います」 「確かに、ただ見せるだけより試合の方が良いとは思うな」 「ちょっと孝平」  瑛里華がとがめるが、俺は白ちゃんに賛成だ。 「いいよ、白ちゃん。今回は白ちゃんに頼むよ、がんばってね」 「はい! ありがとうございます支倉先輩!」  結果から言えば生徒会の負けだった。  だがそれは大差ではなく僅差、俺と瑛里華もそうだったが、弓道部員が驚くほどの  腕前だった。 「せっかく支倉先輩や瑛里華先輩が応援していただいたのに負けてしまいました」 「そんなこと無いわよ白、私や孝平だったら試合にすらならないもの」  確かに俺は弓道の経験はない、いくら身体能力が高くても未経験の事をいきなり  上手くできるわけはない。 「そうだよ、白ちゃん。それを言うなら俺だって柔道で負けたよ」 「でも、私が自ら志願したのに・・・」 「その話は後よ、とりあえず監督生室に戻りましょう。孝平、後はお願いね」  瑛里華はこの後他の部活への視察が入っているため、俺と白ちゃんだけがここに  戻ってきた、それがあらましだった。 「そうだな、白ちゃんにご褒美をあげようかな」 「え? あっ」  俺は白ちゃんの後ろにまわって肩に手をかける。 「今日はお疲れの白ちゃんの肩を揉んであげるね」 「え、だいじょうぶです支倉先輩」 「まぁまぁ、そういわずに」 「んっ」  壊れてしまいそうな細い肩、白ちゃんはこの肩にいろいろと背負ってるんだな。  いや、溜め込んでいるんだろう。 「支倉先輩・・・ん」 「大丈夫だから、力を抜いて」 「は、はい」  俺はそっと白ちゃんの肩を揉む。 「ねぇ、白ちゃん。そんなに自分を責めなくて良いんだよ」 「でも・・・」  その先を言いよどむ白ちゃん。 「誰にも言わないから、言ってごらん」 「・・・私は、生徒会にふさわしいのでしょうか」  白ちゃんの話は思ったより重かった。 「兄様のお手伝いをしたくてここに通うようになりました。でも、私はみなさんの  お役に立てるどころか、逆に迷惑を・・え?」  俺はマッサージを止め、後ろから白ちゃんをそっと抱きしめる。 「白ちゃんには白ちゃんしか出来ないことをいつも頼んで俺は申し訳ないと思ってる」 「そ、そんな支倉先輩が謝る事なんて」 「そうかもね、だったら白ちゃんがそう思うこともないんだよ」 「でも」 「生徒会には白ちゃんは絶対必要だから、そんなに自分を低くみないで」 「ありがとうございます、支倉先輩」  白ちゃんも悩んでいたんだな、もっとちゃんと見てあげないとな。 「支倉先輩、あの・・・」 「なに?」 「ご褒美の続きを・・・いい、ですか?」 「あ、あぁ。ごめん、すぐに始めるよ」  俺は白ちゃんから一度離れようとした。 「え?」  その腕を白ちゃんが止める。 「私、もっともっとがんばります。だから、がんばれるようにご褒美を・・・下さい」  そう言うと白ちゃんは俺の手を持つ、そして 「んっ」  自分の胸にあてた。 「白ちゃん?」  白ちゃんは潤んだ瞳で俺を見上げてきた。 「支倉先輩、私にご褒美を下さい・・・」  ・  ・  ・ 「瑛里華先輩、お茶が入りました」 「ありがと、白」 「支倉先輩もどうぞ」 「ありがとう、白ちゃん」 「それでは私は部の視察に行って参りますね」 「えぇ、がんばってね」 「はい、がんばります!」  白ちゃんは嬉しそうな笑顔を見せてから監督生室から出ていった。 「白ももうだいじょうぶのようね」 「そうだな」  弓道部の件の後落ち込んでいる姿を見た瑛里華はすごく心配したそうだが、  いざ監督生室に帰ってきたとき、白が活き活きとしてたのを見て逆に不安に  なったそうだ。 「大丈夫だよ、白ちゃんも子供じゃないんだしな」 「そうね、弓道部の方でも上手くいってるようだし」  今日の視察は弓道部、それも部長の白ちゃんのご指名である。  この前の試合でいい刺激を受けた部長は、弓道部の視察を白ちゃんにして欲しいと  嘆願してきたのだ。  白ちゃんも快くそれを受け、視察だけど弓を射ってるようだ。  その腕前に、他の部員も良い刺激をうけてるそうだ。 「孝平、あとどの部が残ってるの?」 「成果発表、残りは・・・」  俺は白ちゃんの事を心の中で応援しながら、書類に目を通し始めた。
4月19日 ・夜明け前より瑠璃色なMoonlight Cradle sideshortstory「二人の時」 「リース」 「ん・・・」  ささやかな誕生会も終わり部屋へと戻ってきた俺とリース。  昔と変わらない姉さんの攻撃にリースはかなりダメージを受けていたようだ。 「ほら、リース。寝る前に風呂入った方が良いぞ」 「ん・・・タツヤが洗ってくれるならはいる」 「わかった、リースは甘えん坊さんだからな」 「私が甘えるのはタツヤにだけ」 「あぁ、わかってるさ」 「ん」  俺はいつものようにリースを抱きかかえる。  いわゆるお姫様抱っこというやつだ、この抱き方はリースのお気に入りだ。  こうすると、リースは俺に身体を預けてくれる。  まるで、甘える猫のように。  脱衣所まで来ると俺は来ていた服を先に脱ぐ。  そして風呂場へと入る。  これが俺とリースの決まり事。  この後、リースがどういう格好で風呂場に入ってくるかで、この後の行動が決まる。 「タツヤ、おまたせ」  風呂場に入ってきたリースは、水着を着ていた。  カテリナ学院指定のスクール水着だ。どうしてリースがこれを持ってるかは  未だにわからないが、成長した今でも似合ってると思う。 「ほら、それじゃぁここに座って」 「うん」 「髪はどうする?」 「洗って」 「了解」  温度を確認したシャワーをそっとリースに浴びせていく。  髪も湿らせた後に、俺はリース用のシャンプーを手にとり、そっと髪を撫でていく。 「ん・・・」  リースの気持ちよさそうな声が聞こえる。  その声を聞きながら、そっと優しく髪を撫でるように洗い、汚れを落とす。  トリートメントを付けてから、またシャワーで流す。 「それじゃぁ入ろうか」 「ん」  リースの長い髪をバスタオルで頭の上にまとめてからリースと一緒に湯船にはいる。  俺が先に入り、俺の胸の所にリースが背中を預けてくる、それがいつもの入り方だ。 「今日も災難だったな」 「ん」 「でもさ、俺は嬉しいよ」 「・・・」 「リースがこうしてちゃんと約束を守って帰ってきてくれる事が嬉しいんだ」 「そう」 「あぁ、ありがとな、リース」 「タツヤが礼を言う方じゃない、お礼をするのはワタシのほう」 「俺もお礼がしたかったからいいじゃないか」 「タツヤは変」 「ありがと、リース」 「・・・やっぱり変なタツヤ」 「変な俺は嫌いか?」 「それと、タツヤはずるい・・・ふぁ」  リースが欠伸をする。 「そろそろ温まったし、出るか?」 「ん」  リースが立ち上がり、湯船から出る。  追いかけるように俺も湯船から出てリースの身体をそっとふく。 「ありがとう、タツヤ」  そう言うと脱衣所へと出ていった。 「さて、と」  俺も少しだけ待ってから追いかけないとな。  水着姿で入ってきた場合は、お風呂は温まるだけ、それだけリースが眠いと  いうことだ。  ちなみに、水着を着てこなかった場合はその先もある。  それがリースの可愛いおねだりなのだ。  そっと脱衣所にでる。リースはもう居ない。  それを確認してから、おれも身体を拭いて着替え、部屋へと戻る。 「ただいま、リース」  俺の部屋の中、リースはすでにベットに入っている。  もう眠っているようだ。 「・・・相変わらずだな」  布団の中で丸くなって眠っているリースは猫のようだった。  猫と違うのは、壁側に寄って寝ている事だ。  それは、俺の寝る場所を意味している。  俺は電気を消してからベットにそっと入る。 「リース、おやすみ」 「・・・」  眠ってるから返事はない、けど俺は気にしない。  こうしてリースと一緒に眠れるだけで良いからだ。  朝起きたとき、リースがまだいるかどうかわからない。  だけど、今だけは一緒にいような、リース。
4月12日 ・FORTUNE ARTERIAL 楽屋裏狂想曲予算争奪編「柔道の特訓」 「さて、どうしたものかな」  瑛里華が柔道部と交渉しているが、恐らくは交渉は失敗に終わるだろう。  そうなれば成果発表という名の元に柔道部と生徒会の勝負が行われる事だろう。  それも、俺達生徒会の土俵ではなく、柔道という土俵で。  今の生徒会の主要メンバーは俺以外に瑛里華と白ちゃんだけだ。  試合になったら俺は負けるわけにはいかない。 「とはいえ、授業で習った程度の俺と部員じゃ話にならないな」  紅珠のかけらを飲み込んでいる俺の身体能力は、人より少しだけ吸血鬼よりに  なっている。  単純な力比べならそうそう負ける自身はない、 「柔道は力勝負じゃないからな」  なんていったっけ。 「柔よく剛を制す、ね」 「そうそう・・・って紅瀬さん?」 「独り言をしゃべってると危ない人に思われるわよ」 「俺、声に出してた?」 「えぇ」  知らず知らずに声に出していたらしい、恥ずかしいな。 「それで、柔道部と喧嘩でもするのかしら?」 「喧嘩って・・・そう言う訳じゃないよ。実は・・・」  今生徒会で起きている問題を簡単に説明した。 「それで、孝平は柔道の特訓をしたい訳ね」 「まぁ、そうなるな」  特訓といっても相手が居る訳じゃないし、柔道部との戦いに柔道部に習う  事もできない。  結局教科書や参考書を見て自習するしかできない。 「それなら私がつきあってあげましょうか?」 「え?」  紅瀬さんが特訓につきあってもらえる? 「それは助かるけど、紅瀬さんは柔道経験あるの?」 「正式なのは無いわ」 「無いって・・・」 「相手が居たほうが練習になるでしょう? それに」  紅瀬さんは一呼吸開けてから俺にこう伝えた。 「私は強いわよ」  夜の体育館。  特訓の事は部外者にばれるわけには行かないので、忍び込んでいる。 「意外に明るいな」 「そうね、それじゃぁ始めましょうか」 「あぁ、よろしく頼む・・・」  体育館に入ってきた紅瀬さんは俺と同じ白い柔道着に身を包んでいた。  それが妙に様になっていて驚いた。 「孝平、マットを持ってきてもらえるかしら?」 「あ、あぁ・・・」  本来なら柔道場に潜り込む所だが、ばれるわけには行かないので体育館で  特訓、というわけだがさすがに床の上で投げられると痛い。  俺達は準備室からマットを数枚持ってきて床に引いた。  畳とは感触が違うが、背に腹は代えられない。 「それじゃぁ始めましょう」  そう言うと紅瀬さんが両手を前に構える。  俺もそれに習って構える。 「・・・行くわ」  そう紅瀬さんが言った瞬間、俺は投げ飛ばされていた。 「・・・何だったんだ?」 「ただの投げよ」 「そりゃそうだろうけど・・・」  かろうじて受け身を取れたが、これって普通の人だと受け身取れないんじゃないか? 「孝平、投げられる瞬間力を入れたでしょう?」 「あ、あぁ」  確かに投げられると思った瞬間身体に力が入った、どちらかといえばこわばったと  言うべきだろうが。 「投げられるときに逆に力を抜く方法もあるわ」 「そうなのか?」 「えぇ、力が入ってない人の身体は意外に重い物よ。試してみましょうか」  そう言うと紅瀬さんは俺の背後にまわりこみ、そのまま背中におぶさってきた。 「紅瀬さん・・・?」 「私の腕をとって、投げてみて」  俺は言われたとおり、右腕をとって投げようとする。 「あれ・・・」  妙に紅瀬さんの身体が重く感じる、というか重くて投げれない。 「・・・では、今から抵抗してみるわ」  そう言うと紅瀬さんが投げられないように抵抗を始める。  そうすると逆に投げやすくなった気がした。 「わかったかしら?」 「なんとなく・・・っ」  俺の頬に紅瀬さんの髪が一房流れてきた。  その髪の香りに今の俺達の状態を認識する。  すぐ後ろに紅瀬さんがおぶさっている状態。  つまり、それは当たってる訳で、そう思うと背中の胴着越し感じる暖かいふくらみを  意識してしまう。 「どうしたの、孝平・・・っ!」  慌てて紅瀬さんが飛び退く。 「・・・貴方の煩悩を昇華させる方が先のようね」 「その・・・すみません」 「それじゃぁ私から一本とってご覧なさい。そうしたら特訓は終わりよ」 「え?」  そんなんで良いのか、特訓になるのだろうか? 俺はそう言おうとした。 「大丈夫、そう簡単に取れないわ。私は強いわよ?」 「・・・お願いします!」  どれくらいたったのだろうか?  マットの上に仰向けになりながら、思う。  数分? 数十分? そんなに時間は過ぎていないよな、でもその間中ずっと俺は  紅瀬さんに挑み、そのたびにいろんな技で投げられた。  さすがに疲れが溜まってきた。 「もうお終い? だらしないわね」 「・・・行くよ」  俺は立ち上がり、紅瀬さんに挑む。  もう力はほとんど残ってない、意地だけで挑んだ。 「今の動きよ」 「え?」 「今の孝平は疲れてる、だからこそ身体は一番良い動きをしてるわ」  そういえば、さっきより紅瀬さんと組んでる時間が長い気がする。 「今の状態を覚えなさい」 「あ、あぁ」  その時足がもつれた。 「え?」 「くっ!」  なんとか紅瀬さんを下敷きにしないように足を前にだし倒れこむが、結局紅瀬さんを  押し倒す形になった。 「だいじょうぶ、紅瀬さ・・・」  俺のしたで仰向けになってる紅瀬さん、その胴着が完全にはだけていた。  そこには形の良いふくらみが・・・ 「いつまで見てるのかしら?」 「あ、ごめん、つい見とれてて・・・」  俺の言葉に顔を真っ赤にする紅瀬さん、当たり前だよな。  俺は立ち上がろうとして・・・ 「あれ?」  力が入らないどころか、そのまま紅瀬さんに覆い被さってしまう。 「孝平?」 「ご、ごめん・・・身体に力が入らないんだ」 「そう・・・限界までがんばったものね」  紅瀬さんはそっと俺の背中に腕を回す。 「紅瀬・・・さん?」 「がんばったご褒美をあげるわ」  ・  ・  ・  マットをかたづけて体育館を出る。 「孝平、まだまだ余力あったわね」  紅瀬さん・・・桐葉の言うことに俺は反論できなかった。 「貴方は立ち技より寝技の方が得意だって事もわかったわ」  本当に何も言い返せない。 「くすっ、今度の勝負絶対勝ちましょうね」 「あぁ、もちろん」 「孝平が勝ったら、またご褒美をあげるわ」  そう言って頬を赤らめて微笑む紅瀬さんの顔はとても綺麗だった。
4月10日 ・FORTUNE ARTERIAL 楽屋裏狂想曲予算争奪編「柔道部編」 「結局こうなるのね・・・」  そう言って深いため息をつく瑛里華。 「うぅ・・・」  その後ろで不安そうな顔をしてる白ちゃん。 「・・・」  俺の横で涼しい顔をしてる紅瀬さん。 「今回は仕方がないって納得しただろう、瑛里華」  そう、今回は仕方がない事になってしまった。 「そろそろ始めたいのだけどよろしいですか?」 「あ、もうちょっと待ってください」  声をかけてきたのは柔道部員。  ここは畳敷きの柔道場。  俺達生徒会役員は皆柔道着に着替えてる。念のため女性陣は体操着を着た上に  柔道着を着ている。  去年の予算案の時、前会長の千堂先輩が行った方法。  それが、成果報告。  1年間どれだけ頑張ってきたかを報告する場・・・のはずなのだが、前会長は  生徒会との勝負を発案し、それら全てに勝ってしまった。  その結果、予算分配はスムーズに事が進んだそうだが、今年はその雪辱をはらすと  各部や委員会が成果報告を申請してきた。 「去年は去年、今年は今年よ!」  そう言う現会長の瑛里華の説得も成功せず、結局柔道部との試合に挑む事に  なってしまった。 「まったく、兄さんのせいで・・・」 「千堂さん、それより順番を決めましょう」  未だ納得行かない瑛里華に紅瀬さんは先を促した。 「そうね」  柔道部の成果発表は試合形式となった。  現生徒会役員は4人、それに合わせて変則的な4対4の勝ち抜き戦となった。 「最初は俺が行くよ、あとの順番は適当でいいさ」 「孝平?」  俺の言葉に瑛里華が驚く。 「柔道は一応授業でもやったしな、それに」  俺は紅瀬さんの方を向く。 「紅瀬さんに特訓してもらったから」 「いつのまに?」 「特訓? 支倉先輩すごいです」 「たいしたことはしてないわ」  そういって目をそらす紅瀬さん。心なしか顔が赤くなってる気がする。 「むー」  瑛里華が何故か不機嫌になっていた。 「次鋒は私が行くわ。千堂さんは副将で東儀さんが大将ね」 「わ、わたしが大将さんなんですか?」 「えぇ、そこまで回さないから安心して見てるといいわ」  これは俺と紅瀬さんが特訓の時に考えた順番だった。  まずは俺が闘い、出来るのなら全てのメンバーを倒す。  それが無理でも二番手の紅瀬さんで止める、という作戦だ。 「孝平、大丈夫なの?」 「あぁ、ちょっと本気だすから大丈夫だ」  そう、俺はちょっとだけ全力で行くことにしている。  そうすれば俺の身体能力は人より上回るからだ。 「お願いします」  俺は試合場に立つ、そして相手と向かい合う。 「始め!」  審判の号令の元、俺はちょっとだけ後ろに下がり距離をあける。  相手は距離を縮める為に前にでる、その瞬間を狙い俺は距離を詰めた。 「なにっ!」  相手の驚愕の声が横から聞こえる。  そう、俺は瞬時に距離を詰め、身体側面から相手を掴む、そして足を払った。 「・・・」 「審判」  呆気にとられてる審判に、紅瀬さんが結果を促す。 「い、一本!」  その瞬間、ギャラリーから歓声があがる。 「ふぅ、上手くいったな」  紅瀬さんから教わった奇襲が上手くいって安堵する。  さっきは瑛里華に大丈夫とは言ったけど、柔道は力だけが高くても勝てない。  それを受け流されてしまえば例え吸血鬼相手でも試合に勝つことは出来るだろう。  それ故に、俺は奇襲をかけ相手に受け流す隙を与えなかったのだ。 「まずは一人」  だが、奇襲は最初の一人にしか通用しない。  次からが本番だ。  柔道部員の次鋒戦、さすがに奇襲は出来なかった物のなんとか一本  とることができた。だが、それまでだった。  副将戦、さすがに副部長だけのことはある。  俺の本気をいれた力は上手く受け流されて、逆に投げられそうになる。  俺は相手に投げられないよう、それでも積極的に覚えてる限りの技を仕掛けていく。 「そこまで!」  審判の声に俺達は離れた。  お互い有効打をとれないまま、試合は終わった。  副審はどちらもドローの判定をしている。 「勝者、柔道部!」  その声にギャラリーから落胆の声があがる。 「審判、それは公平な判定かしら?」 「紅瀬さん?」  審判の判定に紅瀬さんが抗議する。 「あ、当たり前だ。俺だって柔道部員だ、公平な判定はしている!」  ムキになって反論する審判。そんなにムキになっていると、回りはそう思えなく  なってしまうと思うんだが・・・  柔道部の方では副将の副部長が大将である部長に何かを説明している。  部長はあまり良い顔をしてなかった。  もしかして向こうも納得してないのだろうか?  とはいえ、負けは負けだ。  俺は生徒会のメンバーの所に戻った。 「お疲れ様、孝平」 「悪い、負けちゃった」 「いいのよ、ここまでがんばってくれたのだから、負けは仕方がないわ」 「でもさ、やっぱり紅瀬さんや瑛里華や白ちゃんを闘わせたくなかったよ。  今からでも良いから辞退しないか?」  いくら人ではないとはいえ、あんな大男に紅瀬さんや瑛里華を挑ませたくない。  白ちゃんなんて絶対だめだ、そんなことがばれたら東儀先輩に何をされるか  わかったものじゃない。 「あら、私の心配をしてくれるのかしら。 特訓をしたのは私なのよ?」 「あぁ、紅瀬さんの強さは知ってる、けど女の子なんだからさ」 「っ」  俺の言葉に声を失う紅瀬さん。 「あ、ありがとう。でも辞退はしないわ。不正を行った代償を払ってもらうから」 「不正?」  そんなのあったのか? 「えぇ、さっきの孝平の試合。どう見ても引き分けね。それなのに柔道部を勝者と  したのは明らかに不正よ」 「そうだったのか?」  そう言えば技ありはお互い無く、有効も同数くらいだったきがしたが・・・ 「だから、私も本気を出す」  そう言うと紅瀬さんは試合場へと進んでいった。 「髪、結んで置いた方が良いぞ?」 「その必要は無いわ」  副部長は紅瀬さんに警告をするが紅瀬さんは意に介していないようだ。 「倒されて押さえつけられると痛むぞ」 「だいじょうぶ、あり得ないから。貴方は本気で倒す」 「出来るのかな?」 「・・・」  紅瀬さんは声を発しない、それでお互い試合に入る体制になる。 「始め!」  審判の声がかかる、その瞬間紅瀬さんが消えた。 「なっ!」  聞こえてきたのは部員の声だけ。  そして、ドスンを大きな音が試合場に響いた。 「審判」 「・・・」 「判定は?」  唖然としてる審判に紅瀬さんは判定を促す。 「・・・い、一本」  判定を聞いてから、紅瀬さんは髪に手を通す。 「必要無かったでしょう?」  その瞬間、ギャラリーが沸いた。  紅瀬さんは試合開始直後、一気に距離を詰め相手の襟を掴み、そのまま  投げ飛ばした。その間1秒もなかっただろう。  倒れた副部長は受け身が取れなかったらしく、他の部員に肩をかしてもらいながら  試合場の端に去っていく。 「さぁ、次を始めましょうか」  試合場の中心で立つ紅瀬さんは圧倒的に見えた・・・ 「お疲れ様」  監督生室に戻った俺達は白ちゃんの煎れてくれたお茶で一息ついた。 「でも、まさか部長さんが辞退されるなんて思ってませんでした」  そう、あの戦いの大将である部長は負けを認めた。 「さすがはスポーツマンね」  部長の判断に瑛里華は上機嫌だった。  俺と副部長の戦いの結果を不服と思ってた部長だったが、審判の判断ということと  副部長の「部のために」という口添えに乗ってしまったことを後悔したそうだ。  紅瀬さんの怒りも尤もで、それ故に負けを認めて成果発表の試合は終わった。 「でもさ、よく考えてみればこの戦い、俺達に良いこと全くないよな」  相手が勝てば予算増額を請求してくる。  負けても別に減額はされない、なぜなら生徒会はちゃんと判断しての予算分配を  するからだ。 「でもないわよ、負けた部は予算に文句つけてこれないもの」  こちらが正式に考えての予算なら、それに文句は付けて来れない。 「でも、紅瀬先輩格好良かったです」 「ありがとう」 「柔道されてたんですか?」 「別にしてないわ」 「え?」  紅瀬さんの言葉に驚く。 「時間だけはあったし、昔は自分の身は自分で守るしかなかったから。  ただ、それだけのことよ」  その紅瀬さんの言葉に、生きてきた時代の違いを思い知らされる。 「でもさ、今はそうでもないだろう?」 「えぇ、そうね。回りにお節介が多いから」 「それって誰の事よ?」 「言われないとわからないかしら?」  瑛里華と紅瀬さんのいつものやりとり。  最初の頃はおろおろしてた白ちゃんも、今は笑って見ている。  そんな白ちゃんにそっと俺は訪ねる。 「一番お節介なのは紅瀬さんだと思わない?」 「はい、私もそう思います」 「だよな」 「そこ、うるさいわ」 「孝平、うるさい!」 「・・・それに、仲も良いしね」 「はい、似たもの同士です」 「「一緒にしないで!」」  二人同時の否定の言葉に、俺と白ちゃんは苦笑いするしかなかった。
4月2日 ・FORTUNE ARTERIAL sideshortstory「約束の証」 「かなでさん、もう朝ですよ」  夢の中にいたわたしは夢の外から呼びかけられる。  うー、まだ眠っていたいよー 「起きてください、かなでさん」  やだ。 「やだって・・・どうすれば起きてくれますか?」  こーへーがおはようのちゅーしてくれたら起きてもいいよ? 「・・・わかりました」  そうそう、素直なこーへーはおねーちゃん大好きだよ。  ・・・ってあれ? 何か変だ。  夢の中にいるはずなのに、なんでこーへーの声が聞こえてくるの?  それに、なんで会話してるの?  そのとき、わたしの唇はふさがれた。 「おはようございます、かなでさん」 「・・・こーへー?」 「まだ寝ぼけてるんですか?」  回りを見る、ここは実家のわたしの部屋。  目の前を見る、なぜかこーへーがいる。 「え・・・えーーーーっ!! なんでこーへーがいるの!?」 「落ち着いてください、かなでさん」 「落ち着いてなんていられないよ、なんでこーへーがわたしの寝起きを襲ってるの?」 「いや、襲うつもりは無いし襲ってませんから」 「でも唇奪った!!」 「それはかなでさんがお願いしたからですって」 「・・・へ?」  数分前の夢の中の会話を思い出す。  あれって夢じゃなくて、現実の会話だったの? 「−−−−−っ!」  わたしはふとんを頭からかぶった。 「わたしったらなんてことおねがいしてるのよー」 「別に良いじゃないですか、それくらい」  こーへーは涼しげな顔をしながら話を続ける。 「だって、俺はかなでさんの彼なんですから」 「だからはずかしいのっ!!」 「俺だって恥ずかしいですよ」 「え?」  こーへーが何かを言ったけど、わたしは上手く聞き取れなかった。 「ねぇ、こーへー。もう一度言って?」 「な、何をですか?」 「んふふー、こーへーったら照れちゃってる、可愛い♪」 「と、とりあえず一度部屋からでますね」 「逃げるの?」 「えぇ、かなでさんに怒られる前に逃げます」  そう言うとこーへーは部屋から出ていこうとする。 「なんでわたしが怒るの?」 「・・・いつまでもそんな格好でいると風邪ひきますから」  そう言うとこーへーは部屋から出ていった。 「・・・」  わたしは今の自分の格好を思い出した、寝起きのパジャマ姿・・・ 「こーへーのえっち!!」  こーへーと二人っきりの朝食をとる。 「なんか、こー・・・くすぐったいかも」  白鳳寮でもない、実家のリビングにこーへーと二人で居ることが新鮮で  なんだか恥ずかしかった。 「そういえば、ひなちゃんとお父さんは?」 「かなでさんのお父さんは仕事だそうですよ、陽菜から聞きました。陽菜は  俺を家に上げてくれた後、買い物に出かけましたよ」 「うー、お父さんは仕方がないけどひなちゃんからは作為的な匂いがする」 「まぁ・・・俺的には良い条件なんですけどね」  こーへーが意味深い発言をする。 「なになに、どういうことなのかな? もしかして結婚指輪をくれるとか?」 「・・・」  黙り込んでしまうこーへー。 「へ? もしかして・・・本当?」 「まったく、かなでさんには敵いません」  そう言うとこーへーは小さな小箱を取り出した。  それはテレビのドラマで見る、まさに給料三ヶ月分が入っていそうな  小箱だった。 「かなでさん、誕生日おめでとうございます」 「う、うん・・・」  震える手でこーへーから小箱を受け取る。 「あ、あけてもいいかな?」 「はい」  こーへーの返事を聞いてからそっと小箱をあけ・・・あれ?  手が震えちゃって上手く開けれないよ。 「かなでさん」  震える手をこーへーの手が包んでくれた。  そしてそっと小箱の蓋を開けてくれた。 「あ・・・」  そこにはわたしの想像した通りの物が、銀の指輪が入っていた。  こーへーはその指輪を手にとると、そっと私の左手の薬指にはめてくれた。 「本当はもうちょっと雰囲気を作ってから渡すつもりだったんですけどね」  そう言いながら頭をかくこーへー。 「でも、この方がわたし達らしくない?」 「そう・・・ですね。かなでさん、受け取ってくれますよね?」 「受け取るも何も、返事を聞く前に私の指にはめてくれたのは誰かな?」 「う・・・」  こーへーが言葉に詰まる。  そんな顔を見ながら、私は左手をかざす。  薬指に輝く銀色の約束の証。 「ふふっ、これは絶対返さないからね?」
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