思いつきSSログ保管庫
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雑記掲載SS保管庫 2008年第1期 3月22日〜   FORTUNE ARTERIAL sideshortstory「楽屋裏狂想曲〜人気投票編〜」 3月20日 夜明け前より瑠璃色な sideshortstory「おはよう」 3月10日 FORTUNE ARTERIAL sideshortstory「午後の日差し」 3月6日夜明け前より瑠璃色な さやか誕生日SSS 「Blue Rose」 2月19日 FORTUNE ARTERIAL 東儀白誕生日SSS「幸せへの招待状」 2月15日 さくらシュトラッセsideshortstory  「春美さん、お花見行きませんか?」 2月14日 FORTUNE ARTERIAL sideshortstory「バレンタイン狂想曲」 2月10日 夜明け前より瑠璃色な 翠誕生日SSS「Morning Kiss」 2月3日 FORTUNE ARTERIAL sideshortstory「節分」 1月31日 夜明け前より瑠璃色な エステル誕生日SSS「素直な願い」 1月24日 FORTUNE ARTERIAL sideshortstory「扉ひらいて、ふたり未来へ」
3月22日 ・FORTUNE ARTERIAL sideshortstory「楽屋裏狂想曲〜人気投票編〜」 「・・・というわけだそうだ」 「人気投票、か・・・」  会長の説明はそのまんまだった。  出演者で人気投票が行われるということ。  期間は4月の半ば、10日間かけて行うこと。  投票は1位と2位に投票し、2点・1点がそれぞれカウントする。  投票資格は、学院生も含め、投票したい人すべてに与えられるが  1日1回のみ。  そして・・・ 「俺たちが投票対象であると同時に投票者でもあるわけですね」 「そういうこと、支倉君は飲み込みが早いね」  飲み込みが早いというのは関係ない気がする。 「まぁ、支倉君以上に飲み込みが早すぎる人もいるようだけどね」  会長が見る先には・・・ 「ふ、ふふふっ、これはチャンスね」 「え、瑛里華?」 「この人気投票で私は紅瀬さんに勝つわ、今度こそ1位を手に入れるわ!」 「それは数学の話じゃなかったっけ?」 「だからね、孝平」 「なに?」  俺は白ちゃんが用意してくれたお茶を飲みながら返事をする。 「あたしに入れてね!」 「ぶっ」 「ちょ、ちょっとなに吹いてるのよ、汚いじゃない!」  瑛里華に言い方に思わず吹き出してしまった。 「瑛里華が変なこというからだって」 「変なことなんて言ってないわよ? 私は孝平にいれてほしいって・・・」 「だからその言い方やめろ」 「ははーん」  会長がすがすがしい笑いを浮かべる。  ・・・俺にはいやな笑い方に見えるけど。 「支倉君、君は投票者でもあるのだよ。だから誰に投票するのも君に自由さ」  急にまじめに解説する会長。  そしてなぜか監督生室の窓を開ける東儀先輩。 「だから、支倉君。俺にい・れ・て♪」 「気色悪い言い方するなっ!!」  瑛里華の一撃で会長は星になった・・・っていうか、東儀先輩これを  見越してたな。 「・・・無様ね、千堂さん」 「なにかしら、紅瀬さん?」  今までパソコンとにらめっこしてた紅瀬さんが瑛里華を挑発する。  ・・・って何で挑発してるの? 「あなたがいくらアピールしようとも支倉君がだれにいれるかは支倉君の  自由意志よ」 「そうだけど・・・」 「自信ないの?」 「そ、そんなことないわ。だって支倉君・・・孝平は本編で私にあれだけ  なんどもいれてくれたのだから・・・」 「ぶっ!」  俺はまたもやお茶を吹き出した。本編って・・・ 「確かに、本編では貴方が一番入れてもらえたようね。でもここは楽屋裏。  番外編なのよ?」  ・・・あの、紅瀬さん?  話がだんだんややこしくなってきたような気がする。 「そういう意味では私だって、支倉君に・・・その・・・なんども・・・」  顔を真っ赤にして声が小さくなっていく紅瀬さん。 「そ、そういえば東儀先輩は参加されるんですか?」  俺は話を逸らそうと、東儀先輩に話しかける。 「興味はない・・・と言いたいところだが、俺は白に投票するだろう」 「あ、ありがとうございます、兄様」  会長が星になったのを目撃して小さくふるえてた白ちゃんがにぱっと  笑顔になる。  うん、やっぱり白ちゃんは笑顔が一番だな。 「白はどうするつもりだ?」 「私ですか? 私はやっぱり支倉先輩に・・・あっ、ゆきまるにも投票  できるんですよね? 私、わたし・・・」 「白、自分でよく考えるんだぞ」 「はい、兄様。まだ開始まで日があるのでよく考えます」 「それで、支倉はどうする?」  東儀先輩のこの一言で、そらそうとした話題があっさり帰ってきてしまった。 「ちょっとまったぁっ!!」 「お、お姉ちゃん。大声ださないでよ」  陽菜の制止を無視?して監督生室に入ってきたかなでさん。 「こーへーは優しいお姉さんにいれるのが決まってるのだよ!」  ・・・こうなることを予想して俺はお茶を飲むのをやめていた。 「お姉ちゃん、そんなことを大声で言わないでよ、恥ずかしい・・・」 「え? なんで恥ずかしいの? こーへーが私にいれるだけだよ?」 「だからぁ・・・」 「えりりんにきりきり、いれてもらった回数なら私だって負けないよ?  こーへーの好みだって知り尽くしてるし、エプロンだってしたんだから♪」 「孝平・・・」 「支倉くん・・・」  あぁ、瑛里華と桐葉の目が怖い。 「それに、お約束の王道の、ブルマとスク水でもいれちゃったんだから!」 「っ!」  真っ赤になる陽菜。 「あ、水着なら私も・・・」  白ちゃんの言葉に部屋の一角が凍り付いた気がした。  俺は怖くてそちらを見ることができない。 「でも、それならメイド服だったのは私だけ、かな?」  ・・・陽菜さん、状況を悪化させないでくださいませんか? 「なら答えは簡単だな」 「母様!?」  いきなり監督生室に現れたのは伽耶さんだった。 「皆は一度でもいれてもらったのだろう? なら今回は遠慮するがよい。  まだ一度もいれてもらってない私が優先されるのがすじ、というものだろう?」  いきなり現れてなにをいうんですか、伽耶さん! 「そんなのたとえ母様でもだめ! 孝平は私にいれるの!」 「千堂さん? 支倉君は支倉君の意志で私にいれるとおもうわよ?」 「えりりんもきりきりも違うよ、こーへーはお姉ちゃんの私にいれるに  決まってるよ!」 「・・・孝平くん、できれば私にいれてほしいな・・・中でいいから」 「支倉先輩・・・私にはいれてくれないのかな?」  俺はこのやりとりから逃げ出したくなった。  そっと部屋を出ようとしたのだが。 「あら、孝平、どこに行くのかしら?」  ・・・瑛里華にあっさりつかまった。 「孝平?」  と、微笑む瑛里華。ちなみに目は笑ってません・・・ 「支倉君?」 と、まるで捨てないでと言わんばかりの顔をしてる桐葉。 「支倉先輩?」と、信じてますオーラ全開の白ちゃん。 「こーへー?」と、ちょっと不安そうな顔をしてるかなでさん。 「孝平くん?」 と、私だけを見てほしいっていう顔の陽菜。 「誰にいれるの?」 --- おまけ、其の壱 「ねぇ、八幡平君は人気投票どうするの?」 「興味無いっす。それよりもお嬢は?」 「・・・いいのよ、本編で名前がでなかった私は」 「・・・」 おまけ、其の弐 「天池先生、今回の企画は・・・」 「えぇ、かまいませんわ、青砥先生。ふふふっ」 「天池先生?」 「私だってまだまだ現役で通じるんですもの、負けませんわよ?」 「・・・程々にしておきましょうよ、天池先生」 「あら、いやですわ青砥先生、ちょっとした軽い冗談ですわよ。  ふふふっ」 「・・・」 おまけ、其の参 「・・・」  ・・・ 「・・・」  ・・・  雪丸は眠っているようだ。それ以前に理解してるかどうか。 --- ・SS紹介感想感謝&さらにおまけ  M-A-T別館 ふみぃさん  宇宙の星の片隅から 朝霧玲一さん  柳の風まかせ ブタベストさん  まったり空間 マクさん  雑記さいと FiRSTRoN Faxiaさん 瑛里華:先日の楽屋裏協奏曲〜人気投票編〜の紹介や感想     ありがとうございましたm(_ _)m 白  :みなさん、本当にありがとうございますm(_ _)m 桐葉 :この人たちは誰に投票するのかしらね? 瑛里華:・・・ 白  :えと・・・どうなんでしょうね? 桐葉 :みんながみんなの自由意志で投票するわけだから、     恨みなしよ?、千堂さん。 瑛里華:な、なんで私が恨むのよ? 桐葉 :・・・なんとなく、かしら 瑛里華:わ、わたしがそんなことするわけないじゃない。     だって、エレガントに・・・ 桐葉 :朝霧さんに指摘されるまで忘れてたくせに?     おねだりなんてはしたない。 瑛里華:っ! それを言うならマクさんのところで姑息な手段使ってるじゃない! 桐葉 :姑息? 瑛里華:えぇ、眼鏡かけて好感度あげようだなんてしてるじゃない。 桐葉 :・・・あぁ、向こう側の私がした事ね。     別に好感度をあげようとしたわけじゃないわ、ただ私の順位を下げて     支倉君と並べるようにしただけよ。 白  :支倉先輩の隣・・・いいなぁ、私も隣がいいです。 瑛里華:ちょっと、白まで・・・ 桐葉 :でも5人が上位を独占するのは予想されてるでしょう?     支倉君が私たちの中に食い込むのは不可能。     なら、私の順位を下げるしかないじゃない。 瑛里華:あの・・・紅瀬さん? それ本気で言ってる? 桐葉 :えぇ 瑛里華:ブタベストさんが描いてくれた絵をを見ると絶対に     逆効果だと思うんだけど・・・ かなで:ちょっとまったぁ! 白  :ひゃぁっ! 陽菜 :お姉ちゃん、また大声出しながら乗り込まないでよ。 かなで:私たちをおいて昨日の続きを始めるなんてえりりん、この策略者! 瑛里華:策略者って・・・ かなで:それにね、ブタベストさんは私に投票してくれるって     もう決まってるんだから。 瑛里華:な、なにを根拠に・・・ かなで:ふっ、私が根拠なしに断言なんてすると思う? 陽菜 :違うの? かなで:・・・おほん、根拠はこれこれだぁ! 白  :わぁ、かなで先輩のお話ですね。 かなで:そうなのだ、えっへん。うらやましいでしょう? 桐葉 :・・・悠木さん、この話が前提だと、序盤は順位が低いってことよね かなで:え゛? 陽菜 :あ、確かに序盤は低くないと逆転って事にはならないものね。 瑛里華:それまでに上位が逃げ切ったら逆転もなにもないわよね かなで:・・・ 陽菜 :だ、だいじょうぶだよお姉ちゃん。     ふみぃさんも投票してくれるよ、きっと。 かなで:バナーみるとひなちゃんへの投票はいいとして、美術部部長や     雪丸にまで投票してる・・・これじゃ票数が分散しちゃうよ。 白  :雪丸に投票してくださるんですか? ありがとうございます! 桐葉 :意外に美術部部長も票を集めそうね、マクさんも投票するでしょうし かなで:うぅ、確かに特典テレカの絵も少なかったけど・・・ 陽菜 :大丈夫だよ、お姉ちゃん。みんなきっとわかってくれると思うよ。 かなで:ひなちゃん・・・私にはひなちゃんだけで十分だよ! 陽菜 :泣かないで、お姉ちゃん 白  :美しい姉妹愛です、感動しました! 瑛里華:・・・ 瑛里華:後は無党派層をどう取り込むかよね。     朝霧さんやFaxiaさんが誰に投票するのかしらね。 桐葉 :朝霧さんは投票しないって言ってるわね。 瑛里華:せっかく投票権があるのにもったいないわ。     それに、できれば関わってくれたみんなに楽しんで参加してほしいし。 白  :それは大丈夫ですよ、瑛里華先輩 瑛里華:白? 白  :きっとみなさん、楽しんでくれますよ。 瑛里華:そう、よね。楽しんでもらえるよう私たちもがんばらなくっちゃね! 白  :はい、がんばりましょう♪ 桐葉 :・・・え? これを読むの?     このお話はフィクションであり、登場する人物名、団体名等は     オーガスト様に著作権があります。     また、登場してもらった管理人のみなさまには・・・ 瑛里華:どうしたの、紅瀬さん。 桐葉 :許可。 瑛里華:え? 桐葉 :とってないって。 瑛里華:・・・ 桐葉 :・・・ふぅ、もし問題があるようでしたらこのエントリー自体を     削除しますので、ご連絡くださいm(_ _)m かなで:あ、あと登場人物はすべて18歳以上でーす! 白  :あれ? 私は今年後期課程に入ったばかりだから 瑛里華:白! 白  :ひゃぅ! 瑛里華:登場人物はみんな18歳以上なの、わかった? 白  :は、はい・・・ 陽菜 :あ、あははは・・・ ---
3月20日 ・夜明け前より瑠璃色な sideshortstory 「おはよう」 「・・・ん」 「・・・フィーナ?」  フィーナの声で俺も目が覚める。 「たつ・・・や?」  俺の腕の中で目をこすってるフィーナ。 「私・・・眠っちゃったのね」 「あぁ、疲れてたみたいだな」 「・・・もったいないわ、せっかくの達哉との時間なのに」 「そうでもないよ、俺はフィーナと一緒に眠れて幸せだ」 「ん、もう、達哉ったら・・・」  昨日の夜、予定より大幅に遅れてフィーナは家に帰ってきた。  本当なら夕方にはこれるはずだったのだが、大雨と風で先方の  スケジュールに遅れがでてしまい、会議と会談が大幅におして  しまったそうだ。 「私は次のスケジュールがあると言ってるのに、今日の官僚の方は  ずいぶんしつこかったわ」  少し機嫌が悪かったフィーナはそう漏らしていた。  会談が終わった後退室しようとしたフィーナをかなり強引に  引き留めようとしたらしい、わざわざ豪華なディナーの席を  用意してまで。 「どんな豪華なディナーであっても家族と食べる夕食に勝るものは  ないから」  そういいながら俺たちと食事をするフィーナは本当に楽しそうだった。  遅い夕食も終わり、入浴を順番に済ませた俺はフィーナに誘われて  部屋で一緒に過ごした。  ベットに一緒に座って、ただおしゃべりをするだけの夜。  伝えたいこと、言いたいこと、聞きたいことはたくさんある。  でも、疲れていたのかフィーナは眠ってしまった。  俺はそっとフィーナをベットに寝かせ、そのままフィーナの寝顔を  みているうちに眠ってしまったようだ。 「雨はもうあがったのかしら?」  そっと窓のカーテンをあける。  窓の外にはまだ雲で覆われている夜空があったが、雨はもうあがっていた。  俺も窓際のフィーナの横に並んで空を見上げる。  このぶんなら日が昇る頃には良い天気になってるな。  雲の流れが速いから、朝日が昇る頃には雲一つないだろう。 「そうだ、フィーナ。散歩にいかないか?」 「今から?」  フィーナは壁に掛かってる時計を見る。時間はもうすぐ5時になる頃だ。 「あぁ、行こうよフィーナ」 「わかったわ、準備するからちょっとだけ待ってて」  誰も起こさないようそっと準備をする。  俺は念のためリビングに書き置きを残しておく。 「フィーナ、足下気をつけてね。あちこちに水たまりができてるから」 「えぇ、ありがとう・・・」  そう言うフィーナは足下の水たまりをずっと見つめていた。 「フィーナ?」 「綺麗ね・・・ただの水たまりなのにこんなにも綺麗に世界を映し出してる」  俺もフィーナに習って水たまりをのぞく。  そこには夜空が映し出されていた。  速く流れる雲の合間から淡い色の夜空が映し出されている。 「やっぱり自然ってすごいわね」  月では自然に雨は降らない。だから、水たまりはできない。  水たまりに映る世界も月にはないだろう。 「そうだな、自然はすごいよな、きっと」 「達哉?」 「だからさ、フィーナ。行こう!」 「達哉っ!」  俺はフィーナの手を取って歩き出した。  雲がとぎれて夜空が広がってくる、その夜空はあのときに見た瑠璃色から  うっすらと明るくなり始めてきた。  俺たちは公園のモニュメントのところにきていた。 「この場所には何度もきたことあるけど、明け方だとまた違って見えるのね」  見晴らしのよい高台から満弦ヶ崎の町が一望できる。  夜に来れば夜景が綺麗だろうけど、朝方は明かりが少ない。  まだ町は眠っているからだ。 「達哉、これが見せたかったの?」 「あ、ばれてた?」 「えぇ、達哉の考えてることくらいわかるわ」 「そっか、でもはずれ。今日見せたかったのは・・・」  ちょうどそのとき、朝日が昇り始めた。 「・・・」  少しずつのぼってくる太陽、その光を受けて輝き出す海。 「綺麗・・・」  ・・・  俺は朝日の光を浴びているフィーナに目を奪われていた。  日の輝きを見つめる瞳に、光を受けて輝く髪に、そしてそこにいる  フィーナという女神に・・・ 「達哉?」  俺の視線に気づいたフィーナが不思議そうに俺を見る。 「・・・あぁ、フィーナ、言い忘れてたことがあった」 「なぁに?」 「おはよう、フィーナ」  フィーナはくすっと笑う。 「おはよう、達哉。朝の挨拶はこれだけかしら?」  俺は返事のかわりにフィーナを抱きしめる。  そして朝日を浴びながらおはようの口づけを交わした。
3月10日 ・FORTUNE ARTERIAL sideshortstory「午後の日差し」 「はい、こーへー。あーん」 「・・・あーん」  ぱく。  かなでさんが俺の口にレンゲを運んでくれる。 「美味しい?」 「えぇ、美味しいです」 「うんうん、こーへーは良い子だ」 「・・・良い子はかなでさんに迷惑かけないと思います」  週末風邪をひいて寝込んでしまった。  昨日の夜は起きあがれないほどの高熱でうなされてたらしい。  それに気づいたかなでさんが保健の先生を呼んで診察してもらい  一晩中俺の看護をしていてくれたらしい。  らしい、というのは俺は今朝目覚めるまでのことを何も覚えてないからだ。 「こーへー、私は迷惑に思ってないよ? それよりも怒ってるくらいなんだから」 「かなでさん?」 「調子が悪いなら頼ってよ、なんでも自分の中だけで片づけないで。  私は部屋に来たとき、ベットで唸ってるこーへーを見てどれだけ心配したと  思うか、わかる?」 「・・・ごめんなさい」 「そうそう、わかればいいの。だから今は風邪を治すことを考えて。  はい、あーん」  かなでさんが用意してくれたお粥はとても美味しかった。 「ご飯も食べたし熱も下がってるし、もう大丈夫だよ、こーへー」 「ありがとうございます、かなでさん」 「いーのいーの・・・」  そう言うかなでさんの上体が揺れる。 「かなでさん?」 「え? なんでもないよ? 安心したら気が抜けちゃって・・・」  そういえばかなでさんは一晩中俺についていてくれたんだよな。  ちゃんと寝たのだろうか?  いや、寝てないだろう。ずっと頭のタオルを取り替えていてくれたのだろう。 「かなでさん、俺はもう大丈夫ですから少し休んでください」 「だめだよ、こーへー。治りかけが一番大事なんだから」 「でも」 「でももないの、お姉ちゃんの言うことを聞きなさい」 「・・・」  このままだとかなでさんが倒れかねない。  ・・・そうだ、こうすれば。  俺は良いアイデアを思いついた。後から思えばまだ熱があったのかもしれない。  普段じゃ考えられない、恥ずかしいアイデアだったから。 「かなでさん、お願いがあるんですけど」 「なに、こーへー。お姉ちゃんが何でも聞いてあげるよ?」 「その・・・添い寝、してもらって良いですか?」 「え・・・えぇっ!」 「一人で寝るのが不安なんです、だからかなでさんに添い寝して欲しいんです」 「・・・えっと、こーへーがそこまで言うなら仕方がない、よね」  顔を真っ赤にしてるかなでさん。  俺はそっとベットの手前による。 「なんで手前に動くの?」 「奥の方だと落ちる心配がないでしょう?」  俺のベットはベランダへの壁の所にある。手前には本棚もあるけど  奥の方なら俺が動いても下へ落ちる心配は無い。  ・・・つぶされる心配はあるけど。 「まったく、こーへーはこんな時でも優しいんだね」  そう言いながら俺が開けたスペースに滑り込む。  そのしなやかさは猫を想像させた。 「こーへーが安心して眠るまでいてあげるね」 「出きればずっといて欲しい・・・」 「こーへー? ・・・もう、今日だけだぞ?」  嬉しそうに微笑むかなでさんの顔を見てると心が安らいでくる。 「かなでさん・・・お休みなさい」 「お休みなさい、こーへー」 another view 悠木陽菜 「孝平くん、入るね」  ノックをそっとしてから部屋へそっと入る。 「寝てるのかな?」  部屋に入ってみると・・・ 「・・・ふふ」  ベットの上で寝息をたてている二人を見つけた。  普通に眠っている孝平くんと、その横で孝平くんの胸の所に頭を乗せて  丸くなって寝ているお姉ちゃん。 「この分ならもうだいじょうぶそうだね」  暖かい午後の日差しに照らされて二人で眠っている姿を確認してから  そっと部屋を出ようとしたとき・・・ 「あれ?」  目の錯覚かな? お姉ちゃんの頭に猫の耳が見えた気がした。  もう一度お姉ちゃんをみても、当たり前だけどそんなものはない。 「私も疲れてるのかな・・・」  改めてお姉ちゃんの寝顔を見てそう思う。  でも・・・ 「気持ちよさそう」  暖かい日差しが降り注ぐベットの上で眠っている孝平くんとお姉ちゃん。  私はそっとベットの横に座る。 「・・・なんだか眠くなっちゃった」  やっぱり私疲れてるのかな・・・そう思いながら眠りに落ちていった。  another view end  その後様子を見に来た副会長に発見され、要らぬ誤解を受けた事は。  語りたくはない・・・ ---  副会長への説明もなんとか終わり、陽菜も部屋へ戻っていった。 「・・・なんでこんな事になったんだろう」  病み上がりにいきなり疲れた。 「まぁまぁ、終わりよければすべて良しだよ、こーへー」 「そう言うことにしておきますか・・・ふぅ」  あの恐ろしいオーラを纏った副会長を目の前に緊張したのか  相当汗をかいてしまった。 「かなでさん、俺風呂に入りますから」 「え、えぇ?」 「ちょっと汗かいてるし、昨日は入ってないから汗くさいですし」 「え、あ、そうだね。眠ったから汗かいてるよ・・・ね、あはは」  挙動不審なかなでさん 「かなでさん?」 「ひゃっ!」 「どうしたんですか?」 「・・・」 「かなでさん?」 「うぅ・・・絵日記には書けないけどこーへーのためだもんね」 「?」 「よし、こーへー。お風呂入ろっか!」 「ですから俺はそうする気でいるのですけど」 「でも、あまり激しいのは駄目だよ? こーへー、病み上がりなんだから」 「激しい?」  お風呂にはいるのに激しいって・・・え? 「かなで・・・さん?」 「私がこーへーの背中流してあげるね」 「えぇっ!」  今度は俺が驚いた。もしかして? 「ほらほら、お風呂へ入ろう」 「か、かなでさん!」 「こーへーはまだ病み上がりなんだから、お姉ちゃんに任せなさい!  全部・・・私がしてあげる」  狭い浴室で、今までかいた汗を流して、そして別な意味で汗を  流してしまいました。
3月6日 ・夜明け前より瑠璃色な sideshortstory 「Blue Rose」 「ただいま」  扉を開けて最初に言う言葉。  でも、開けた扉の先は真っ暗で何の返事もかえってこない。  玄関のスイッチを入れると電気がつく。  そこは見慣れた、でもなれないマンションの一室だった。  正確に言えばマンションではない、宿舎の中の自室だった。  それでも外からこの建物に入るにはオートロックされた鍵を開けなくては  ならないから、マンションといった方がしっくりくる。 「ふぅ・・・今日も疲れちゃったな」  入り口の所にある小さなダイニングスペースを抜けて、奥の部屋へと向かう。  服がしわになってしまうのも構わず、私はベットの上に倒れ込む。 「・・・」  顔だけ横を向けると、机の上にある写真立てが目に入る。  私がここへ来る前に撮った写真。  達哉君と、麻衣ちゃんと、私と・・・ 「いけないいけない、まだまだこれからなんだから!」  自分に言い訳するように気を奮い立たせる。けど・・・ 「まだ1年も経ってないのに、すごく長い間離れてる気がする」  月への再度の留学をはたし、今は勉強しながら仕事をしている。  月のことを学べ、月と地球の架け橋になれる仕事を始めて、とても充実  していると思う。  でも、仕事が終わって部屋に戻ると嫌でも実感してしまう。  ここには家族がいない。  愛する達哉君が、待っていない部屋・・・  最初は仕事が終わって部屋に帰るのが苦痛だった。  それでも今の私の居場所はここだ。帰ってこなければいけない。  寝る前に何度涙で枕をぬらしたことだろう。  1日、また1日と過ぎていき。  なんとか心の痛みをごまかせるようになった。 「・・・」  壁に掛かってるカレンダーを見る。  今日は月の暦で3月6日。地球での満弦ヶ崎でのこの日は私の誕生日。  朝霧の家に来たときから毎年家族みんなで祝ってくれた日。 「・・・今年は一人か」  ふぅ、とため息をつく。  なんだか穂積の家に戻った気がした。  あのときのことはもう思い出せないほど昔のような気がする。  最近ふとしたことで思い出してしまうのは今の私の環境が昔と似ている  からだろう。 「・・・こんな事じゃ達哉君に笑われちゃうわね」  それとも怒るかしら?  怒った達哉君の顔を想像して、なんだかおかしくなってしまった。  ・・・うん、だいじょうぶ。私を送り出してくれた達哉君の為にも  私はまだまだがんばらなくっちゃ!  そのとき部屋を呼ぶインターフォンがなった。 「ミアちゃんかしら?」  今いる宿舎は留学生の為の地球人の宿舎だった。  満弦ヶ崎での月人居住区と同じように、月では地球人の居住区は大使館の横に  まとめて作られている。  そんな地球人居住区に訪れる月人は数少ない。  そして私の数少ない友人に、ミアちゃんがいる。  忙しい中の合間を縫って私の月での生活のフォローをしてくれる。 「はいはーい」  そう言って部屋の扉を開けると、いつもの格好のミアちゃんがいた。 「こんばんは、さやかさん」  そしてもう一人。 「こんばんは、さやか」 「フィ、フィーナ様っ!」  いつものドレス姿のフィーナ様がミアちゃんと一緒に立っていた。 「お疲れの所ごめんなさいね、さやか」 「い、いえ。フィーナ様こそお疲れでしょう」  確かフィーナ様はつい最近地球へ外交で向かわれてたはず。  帰ってくるのは今日だから、月にいるのはおかしくないけど・・・ 「いいのよ、さやか。私が来たかったのだから。ミアもそうなのよね」 「はい、姫様。さやかさん、誕生日おめでとうございます」 「おめでとう、さやか」 「あ、ありがとうございます」  涙が出そうになった。  そして自分が大事なことを忘れていた事に恥じた。  地球でのホームスティを得て、私は月に住む大事な家族を得たことに・・・ 「さやかさん、新作のジャムです。私はこんなのしかプレゼント出来ませんけど」 「ううん、そんなこと無いわ。とっても嬉しいわ。ありがとう、ミアちゃん」 「はい♪」 「さやか、私はこの箱をプレゼントするわ」  そう言って差し出してくれたのは、本当にただの箱だった。 「後で開けてね、私にはこれくらいしか出来なくてごめんなさいね」 「いえ、フィーナ様。気になさらないでください。  私はこうしてお祝いの言葉をいただいて、こうして訪ねてきてくれただけで  とても満足してますから」 「あら、それでいいのかしら? その箱を開けたら私の事なんか忘れて  しまうかもしれないわよ?」 「フィーナ様?」  フィーナ様の顔は、まるで悪戯をしかけてるような、そんな顔をしていらした。 「ミア、もう時間も遅いし戻りましょうか」 「はい、姫様」 「何のおかまいも出来ずにすみません」 「いいのよ、さやか。今度時間が出来たら一緒にお茶しましょうね」 「はい」 「それでは失礼します、さやかさん。お休みなさいませ」 「おやすみなさい、フィーナ様、ミアちゃん」 「さやか、良い夢を」  フィーナ様とミアちゃんが帰っていった部屋は、さっきよりも寂しく感じられた。 「・・・そういえば、あの箱」  私はベットに腰掛けてフィーナ様から頂いた箱を見る。  普通の段ボールで出来た箱で・・・ 「宅配便?」  そう、宅配便に使われるような箱だった。思ったより軽い。  中に何が入ってるのだろう?  私はそっと梱包をといて箱を開けて・・・ 「え?」  そこには青い花で作られたリースと、1つの包み。そして2枚のカードが  入っていた。 「もしかして!」  私は2枚あるカードを手にとって見る。  そこには私の見慣れた字でこう書かれていた。  誕生日おめでとう、姉さん 「達哉君・・・」  もう一枚のカードには麻衣ちゃんの字でお祝いの言葉が書かれていた。 「麻衣ちゃんも・・・」    私はベットに腰掛ける。そして窓から外を見上げる。  月は今、夜の時期だった。そして夜の周期の時、この窓から見上げると  漆黒の闇の中にとても蒼い惑星が浮かんで見える。  その蒼い惑星からフィーナ様が持ち帰られた物は達哉君と麻衣ちゃんからの  誕生日プレゼントだった。  地球からの持ち込みは宇宙港で厳しくチェックされる。  特に害虫などには厳しく、達哉君が作ったドライフラワーのリースは  簡単には持ち込めない物だろう。 「フィーナ様ったら、これしかできないだなんて・・・」  フィーナ様だからこそ出来ることだろう。  私は達哉君が手作りしてくれたという、この青い花の・・・青い薔薇で  編まれたリースを胸に抱く。 「達哉君・・・」  リースから達哉君のぬくもりを感じる。 「遠く離れてても、いつも一緒よ、達哉君・・・ありがとう」 another view フィーナ・ファム・アーシュライト 「そうだったんですか、達哉さんと麻衣さんのプレゼント」  帰り道、ミアとの話はあの箱の中身だった。  私がタイミング良く地球での公務で上る事が決まったとき、さやかに  内緒で達哉に連絡を入れた。  そうして用意されたのはあの青い薔薇のリースだった。  本当は私は中を見る気は無かったのだが、いくら私の私物扱いでも  検疫は通さないといけない。だから梱包は地球の月大使館で本人の  目の前で行った。 「ふふっ、達哉もロマンチックよね」  その昔、遺伝子の組み替えで生まれた青い薔薇。  生まれるはずのない青い薔薇にも花言葉があった。それは「不可能」。  でも、その花言葉は、青い薔薇が生まれてから変わった。  それは「奇跡」。そして「神の祝福」。  二人の未来へ、祝福あれ。  私は心の中でそう、祈った。 another view end
2月19日 ・FORTUNE ARTERIAL sideshortstory「幸せへの招待状」 2月15日 金曜日 another view 千堂瑛里華 「そういえばもうすぐね、支倉君。何か考えてるの?」 「何かって、何の話?」  あら? 支倉君のこの反応はもしかして・・・ 「ねぇ、今度の火曜日って何の日だか知ってる?」  支倉君は壁に掛かってるカレンダーを見る。 「特に生徒会でのスケジュールは無いようだけど」  やっぱり。この反応で私は確信した。 「白の誕生日が19日だって事知ってる?」 「え?」  支倉君はもう一度壁のカレンダーを見る。 「白から何も聞いてないの?」 「・・・聞いてない」 「はぁ・・・白ったら」  何となく想像出来る。生徒会活動が忙しくて誕生日の話が  切り出せないまま新年を迎えたのだろう。  誕生日が近づいてくると誕生日を教える事が催促するものだと思って  言えなくなった。そんなところだろう。  ショックを受けてるのか固まってる支倉君に去年の話をしてあげた。 「去年は監督生室で身内だけで小さなパーティーを開いたの。でも今年は  支倉君がいるし、どうするかはお任せするわ」 「・・・あ、あぁ。ありがとう、会長」  そう言うと考え始めたようだ。 「いえ、どういたしまして。とりあえずこの話はここでおしまいね。  どうやら白が来たようだから」  私の聴覚は1階の扉が開いたことを聞き取った。  現在の生徒会は3人、そのうち二人がいるのだから残りは自ずと・・・ 「こんにちは、支倉先輩、瑛里華先輩」 another view end 「こんにちは、支倉先輩、瑛里華先輩」 「こんにちは、白」 「・・・」 「支倉先輩?」 「あ、白ちゃんいつの間に?」 「今来たところです、私が来たことに気づかないなんてすごい  集中力なんですね。そんなに大変なお仕事が入ったんですか?」 「あぁ、大変だっていえば大変だけど」 「お手伝いしましょうか?」 「いや、いい。白ちゃん、これは男の仕事なんだよ」 「そうなんですか?」 「あぁ、だからこの問題が上手くいくように美味しいお茶煎れてもらえる?」 「はい、わかりました。少々お待ち下さい」  男の方っていろいろと大変なのですね、女である私がお手伝いできない  お仕事が何だかわからないけど、支倉先輩ががんばれるよう、美味しい  お茶を煎れてあげなくちゃ。 another view 千堂瑛里華 「支倉君、今のごまかし方・・・兄さんそっくりね」 「え?」 「生徒会的には良いんだけど人としてどうかしら」 「・・・」 another view end 「支倉先輩、お茶が入りました・・・支倉先輩?」  支倉先輩は頭を抱えてうなっていた。 「白、そっとして置いてあげなさい。行き詰まっただけだから」  何故か笑っている瑛里華先輩。 「・・・わかりました。大変なお仕事を手伝えなくて申し訳ないです」 「支倉君も果報者よね」 「瑛里華先輩?」  どういう意味なんでしょう? 「それよりも白、見ての通りだから支倉君は戦力として期待できそうにないから  今日はがんばってね」 「はい、大きなお仕事を抱えてる支倉先輩の為にも他のお仕事は  私ががんばります!」 「はぁ・・・独り身って寂しいわ」 「?」 2月16日 土曜日  生徒会のお仕事も無い週末なのに支倉先輩は忙しそうにしていた。  予定のないお休みはいつも一緒に過ごしているのに、支倉先輩だけが  大きな仕事を引き受けてるらしくて、私にも瑛里華先輩にも手伝わせて  くれなかった。 「支倉君が自分から引き受けたことですもの、一人でやらせてあげなさい」  そう言いながら瑛里華先輩は部屋へ戻っていってしまった。  仕方がないので私も部屋に戻る。  部屋の中ですることもなく、ベットの上に座り込む。 「・・・寂しいです、支倉先輩」  ふと、机の上のカレンダーに目がとまる。  週明けの火曜日が私の誕生日。 「私の誕生日、一緒に過ごしませんか?」  結局言うことが出来なかった。  わかってはいる、支倉先輩は生徒会副会長だから、財務の私よりやるべき  仕事がたくさんあることも。  生徒会副会長の支倉先輩は、みんなの副会長だから。  でも、支倉先輩は私の大事な人だから・・・ 「支倉先輩・・・」 2月18日 月曜日 「白、よかったら一緒に食堂に行かないか?」 「兄さま」  兄さまにつれられて来た月曜のお昼。  食堂で一緒に食事をとる。 「・・・白?」 「え? 何でしょうか?」 「・・・やはりな、支倉は少し配慮が足りない」 「兄さま? 支倉先輩がどうかなされたんですか?」 「・・・今の俺にはこれしか言えない。白、お前は支倉を信じられるか?」  兄さまの急な質問だった、でも私はその質問の意図を考えるよりも早く  答えた。 「はい」 「良い返事だ。なら支倉を信じて待てば良い」 「待つ、ですか?」 「・・・」  兄さまは黙って食事を再開した。  何を伝えたかったのだろうか、漠然としかわからない。  でも、今私が兄さまに返す言葉はわかる。 「ありがとうございます、兄さま」 「きにするな」 「はい、兄さま」 2月19日 火曜日 「あれ? これは?」  朝起きて身支度を整えて部屋を出ようとしたとき、扉の下から2通の  封書が部屋の中に届けられているのを見つけた。  一通目には「東儀白ちゃんへ」と書かれた封書。  そして二通目は・・・ 「お誕生日おめでとう!」 「ひゃぁ」  一通目の招待状に書かれた時間の通り監督生室を訪れると、部屋に入った  瞬間、クラッカーと紙吹雪に襲われた。 「ほら、白。早く中に入りなさい。主賓が来ないと始まらないわよ?」 「あ・・・はい」  瑛里華先輩が手を取って中に招き入れてくれた。  かなで先輩に陽菜先輩、八幡平先輩に伊織先輩に兄さまに紅瀬先輩も・・・  そして支倉先輩・・・ 「さぁ、白が到着したところで始めましょう!」  一番奥の椅子に座らされた私の前には大きなケーキが置かれていた。  いつも仕事をしてる机の上には色とりどりのお菓子と、紙コップに注がれた  ジュース。 「みんな、行くわよ!」  瑛里華先輩の号令に合わせて始まったバースデーソング。 「ほら、白ちゃん、ろうそく消して」  歌が終わって支倉先輩に促されて、私はふぅーっとろうそくを吹き消す。 「おめでとう! 白ちゃん!!」  みんなのお祝いの言葉に私は涙が出そうになった。  瑛里華先輩がいる、伊織先輩もいる。兄さまもいる。みんないてくれる。  そして支倉先輩も・・・ 「あ・・・ありがとうございます!」  私はそう言うのが精一杯だった。 「それじゃぁあのときの難しい仕事って・・・」 「あぁ、白ちゃんの誕生日の企画を考えてたんだよ」  その夜、私は2通目の招待状をもって支倉先輩の部屋を訪れた。  2通あった招待状はみんなで祝う誕生会と、支倉先輩と二人っきりでの  誕生会の物だった。 「ごめんね、白ちゃん。しばらくの間何も出来なくて」 「いえ、いいんです。支倉先輩には考えがあった事だと思いますから。  それに・・・ちゃんと二人でお祝いしてくれたから」 「ありがとう、白ちゃん」 「お礼を言うのは私の方です、ありがとうございます」  私は誕生日プレゼントに支倉先輩からもらった大きなうさぎさんの  ぬいぐるみぎゅっと抱きしめる。 「支倉先輩、誕生日プレゼントもありがとうございました」 「俺さ、女の子にプレゼントってしたことなくて、良くわかんなくて・・・  この前の週末一人で探してきたんだ。喜んでくれて嬉しいよ」 「それでこの前の週末は・・・」 「あぁ、こればかりは一人で決めないと意味がないからね」 「支倉先輩・・・、私幸せです」 「まだだよ、白ちゃん」 「?」 「これから二人でもっともっと幸せになるんだから、これくらいで満足  しちゃだめだよ?」 「支倉先輩・・・私をもっと幸せにしてください」 「白ちゃん・・・」  私はそっと支倉先輩に寄り添って目を閉じた。  今年の誕生日にもらった最後のプレゼントは、とても幸せなキスだった。 --- --- 「あの、あの! 支倉先輩。その、シャワー浴びてきていいですか?」 「あ、あぁ」 「それじゃぁお借りします!」  そう言うと白ちゃんは持ってきた小さなバックを手にしてバスルームへと  消えていった。 「・・・ふぅ、焦りすぎたかなぁ」  白ちゃんとキスをして、そのままベットに行こうとしたら拒否されてしまった。 「・・・」  俺は一人ベットに座って白ちゃんが出てくるのを待つ。  ・・・この時間がもどかしい。 「餌を目の前にした狼ってこんな気分なんだろうか?」  別に俺は白ちゃんの身体だけが目的というわけじゃない。  俺が好きなのは白ちゃんのすべて、その中に身体があるわけで・・・その・・・ 「あー、だめだめ、今何を考えてもそっちに行ってしまう」  落ち着け・・・と念じて落ち着くわけがない。  同じ部屋の壁1枚を隔てて大好きな女の子がシャワーを浴びている状況下で  落ち着けるわけがない。  かといってがっつけば白ちゃんを傷つけてしまう。  白ちゃんの為にも・・・ 「・・・何を考えても白ちゃんのことばかりだな。俺はもう白ちゃん無しでは  生きていけないのかもな」 「支倉先輩・・・」 「え? 白ちゃん・・・?」  聞かれてた! 俺の独り言を聞かれてた・・・と衝撃を受ける所だったはずだが  俺は白ちゃんを見て別な衝撃を受けていた。  細い足を包む編みタイツ。  手首の所には大きなボタンがついたカフス。  胸元が大きく開いた白いレオタード。  その大きく開いた胸元には・・・谷間は無かった。  首元には蝶ネクタイ、たぶんお尻の所には白いしっぽがあるだろう。  そして、頭には長い耳をかたどったヘアバンド。  つまりこれは・・・ 「支倉先輩が他の人の前では来て欲しくないって仰いましたよね?」 「・・・あぁ」 「だから、可愛いって言ってくれた支倉先輩の前でまた着てみようって思って」 「・・・」 「あの、支倉先輩?」 「・・・」 「その・・・変だったでしょうか?」 「いや、変じゃない! 可愛いよ、白ちゃん」 「あ・・ありがとうございます」  照れながらもちゃんとお礼を言う白ちゃんが愛おしい。 「そ、それでですね・・・その・・・支倉先輩が可愛いって言ってくれた姿で  ・・・思い出が欲しかったので・・・その・・・きゃぅ」  俺は我慢できなくなって白ちゃんを抱きしめた。 「ごめん、白ちゃん。俺、白ちゃんを抱きたい」 「はい、私も抱いて欲しい・・です、今日の思い出がもっともっと欲しいです」 「・・・白」 「・・・支倉先輩」  お互いの距離がゼロになった瞬間だった。
2月15日 ・さくらシュトラッセ sideshortstory 「春美さん、お花見行きませんか?」  さくらシュトラッセの桜が咲き始めた頃の買い出しの時の  マリーの一言から始まった。 「春美さん、お花見行きませんか?」 「花見か・・・」 「はい、お花見です。私がここに来たばかりの時に行ったお花見です」  にこにこしながらマリーが続ける。 「あのときは春美さんとまだ仲良くなかったです、だからもう一度  お花見に行きたいって思ってたんです!」  初めてマリーとお花見に行ったときは、マリーの魔法の使い方に納得が  行かなくてすれ違いを起こしてた頃だったな。 「だから春美さん、お花見行きましょうよ!」 「そうだな、今度の休みあたりにでも行くか?」 「はい、行きましょう! 美味しいお弁当たくさん作りますね♪」  あれからマリーの腕はめきめきとあがり、今では主菜も任せられる腕前に  なっている。  そのおかげで店が満席になっても充分回せるほど余裕が出来てきたのだが  大事なときのドジだけは治ってなかった。 「それで、二人だけで行くのか?」 「えっ?」  マリーがきょとんとした顔をしたと思うと・・・ 「ふふふ、ふたりだけにして何をするつもりなんですか!!」 「落ち着け、マリー」 「そそ、そんな、外でなんて・・・でも春美さんが望むのなら・・・」 「何勝手に想像してるんじゃ!」 「ひゃぅ」  何に対しても勉強熱心で、そして天才肌のマリーは料理以外の事もどんどん  覚えていったのはよかったのだが・・・  そっちの方向でも天才肌を発揮してしまい、その・・・夜がすごいんですけど。  それを思い出しただけで俺も・・・ 「俺も落ち着け」 「春美さん?」 「あ、あぁ、すまない。それでお花見だけどゆー姉達も誘うのかってことだよ」 「・・・出来れば二人っきりが良いんですけど」 「・・・駄目だろうな、きっと」 「はい、やっぱり優佳さん達を置いていくと後が・・・」  デートならまだしも、こういうイベントにゆー姉を誘わないと後が怖い。  それを思い出すだけで身体が震えてくる。 「は、春美さん震えてますよ? 風邪でもひいたんですか」 「いや、武者震いだ」 「はぁ・・・」  マリーもゆー姉の事を知ってるだけにこれ以上詮索はしてこなかった。 「母さんやかりんもさそってみんなで行くか」 「はい、それが一番だと私も思います」  屈託のない笑顔で答えるマリー。  マリーの優しい所は本当にそう思ってくれているところだろう。  本心は二人っきりでいたいと思っていても・・・  だから俺は。 「それでさ、マリー。それとは別にデートしよう」 「え?」 「二人でお花見デート」 「え、えぇぇ!?」 「嫌か?」 「そ、そんなわけありません! 嬉しいに決まってるじゃないですかっ!!」  顔を真っ赤にして、困りながら、でも嬉しそうに答えるマリー。  ・・・器用なやつだな。 「ねぇ、春美さん。お花見にクラウディアとクリスと・・・  おばあちゃんも呼んで良いですか?」 「・・・」 「春美さん?」 「あぁ、別にかまわないぞ。ただ緊張するなって・・・」 「そうですか? おばあちゃんは春美さんの事信頼してくださってますよ?」 「だから緊張するんだってば」  孫を奪った張本人だからな、俺は。 「大丈夫ですよ、春美さん。いつものように食べた人を幸せにする魔法を  使えばみんな笑顔でいてくれますよ」 「・・・マリー、その台詞恥ずかしくない?」 「えぇぇ! だってこの台詞は春美さんの台詞じゃないですかぁ!!」 「恥ずかしいヤツ・・・」 「えぅぅ・・・ふふっ」  真っ赤になったマリーだったが、突然穏やかな笑い声をあげた。  ちっ、気がつかれたか。  俺が恥ずかしいからマリーをからかってごまかそうとしたことに。 「い、行くぞ! 午後の仕込みが間に合わなくなる」 「はい、春美さん。ごまかされてあげますね」 「ところで春美さん」 「何だ?」 「あの・・・お花見におばあちゃんを呼ぶのは良いのはわかったのですけど  クラウディアとクリスは?」 「あぁ、呼ぶ必要無いだろう? 呼ばなくてもどこからかかぎつけて来るさ」 「あは、あはははは・・・」 「あ、でもクリスだけにはちゃんと招待状送った方がいいな。」 「そんなことしたらクラウディアがすねちゃいますよ?」 「それはそれで面白いからOK」 「春美さん?」 「冗談だってば、ちゃんと3人分招待状送らないとな、マリー。そして  お前のおばあちゃんに今幸せだって見せつけて安心させてやろうぜ」 「はい!」
2月14日 ・FORTUNE ARTERIAL sideshortstory「バレンタイン狂想曲」 「こーへー、おっはよー!」 「・・・」  気づくと寝ている俺の上にかなでさんが乗っていた。 「ほら、朝の挨拶は?」 「・・・おはようございます、かなでさん」 「はい、良くできました♪」  そう言うと俺の頭を撫でてくる。 「・・・って何で朝から不法侵入してるんですかっ!」 「何で?って、玄関は鍵がかかってるでしょ? だからだよ」  いや、それは答えになってないですから。 「・・・」 「まぁまぁ、そんなご機嫌斜めのこーへーのご機嫌を天にも昇る気持ちに  してあげるプレゼント持ってきたんだよ」 「なら最初からわざわざ機嫌悪くさせないで下さいよ」 「うむむ、今日のこーへーはなんか悪い子さん?」 「眠いだけです」 「そっかぁ、それじゃこれをあげるね♪」  そう言うと後ろに隠してたらしい、小さな包みを取り出した。 「バレンタインだよ、こーへー」  そういえば、今日は2月14日だったっけ。  どこかのお菓子メーカーがチョコの販売促進の為に企画したお祭りだって  いう話を聞いたことがある、あのバレンタインか。 「はい、こーへー」  かなでさんから手渡されたチョコの入った包み。 「あれ? どうしたの、こーへー?」  今まで転校が多かった俺は特定の友達を作ることが無かった。  この時期学校にいてもいつも俺は蚊帳の外だった。  チョコをもらえることは別に嬉しいとは思っていなかったけど・・・ 「ありがとう、かなでさん」 「うん、そんなに喜んでくれるとお姉ちゃんも嬉しいよ」  こうしてもらえるとすごく嬉しかった。  コンコン。 「孝平、起きてる?」 「あれ? あの声はえりりんかな?」  瑛里華が訪ねてきた? こんな朝から・・・って  もしかして今の状況は相当やばくないか?  ベットの上で俺は上半身を起こしていて、俺の太股の上当たりに  かなでさんが座っている。  さらに言えば、何故か瑛里華は部屋の合い鍵を持っている訳で、ということは  つまり・・・ 「孝平、入るわよ」  こうなるわけで・・・ 「孝平、おはよ・・・」 「えりりん、おっはよー。それじゃぁ私は部屋に戻るね。  こーへーの一番をゲットだにゃぁ、にゃぁ♪」  歌いながらかなでさんはベランダ経由で部屋へ帰っていった。 「・・・」 「・・・」  窓も開いていて、扉も開いていて、びゅーっと風が通り抜ける。 「孝平のばかっ!」 「ぐはっ」  瑛里華の一撃は俺にクリーンヒットした。 「だいじょうぶ? 孝平くん」 「あぁ、それよりもすまない。陽菜まで巻き込んで」  瑛里華の一撃で沈んでいた俺を陽菜が発見してくれたおかげで  遅刻だけは免れそうだった。  もちろん、並木道を走っていく羽目にはなってはいるが。 「いいの、どうせお姉ちゃんが何かしたんでしょう?」 「いや、別にかなでさんのせいじゃ無い・・・と思う」 「くすっ、孝平くんは優しいね」  そうしてなんとか昇降口にたどり着いた。 「朝飯抜きはきついな・・・」  かなでさんがくれたチョコでも持っていれば少しは何とかなったとは  思うけど、朝のごたごたで置いてきてしまった。 「そ、そう? それじゃぁ、これ・・・どう、かな?」  そう言うと陽菜は鞄から小さな包みを取り出した。 「本当はルール違反なのかもしれないけど、非常事態、よね。  孝平くん・・・バレンタインのチョコ、もらってくれる?」 「あ、ありがとう」  今日2個目をもらった。小さな包みだけどとても暖かい。 「ねぇ、よかったら食べてくれる?」 「あ、あぁ」  包みを開けてみると、小さなチョコが小さくラッピングされていた。  これなら1個ずつ食べれる。  早速口に運ぶ。 「・・・どう?」 「・・・美味いよ、ありがとう、陽菜」 「えへ、どういたしまして」  はにかむ陽菜。その笑顔を見ながらふと思った。  ルール違反?  このとき昇降口の先の柱の所に瑛里華がいたことには全然気づかなかった。 「・・・孝平の馬鹿」  1時間目が終わった直後、俺は千堂先輩に呼び出された。 「すまないね、支倉君。貴重な休み時間に」 「いえ、だいじょうぶです。それよりも急用ってなんでしょうか?」 「あぁ、お願いがあるんだけどいいかい?」  なんだか嫌な予感がする。 「・・・内容次第です」 「もう、そんなに警戒しないでいいよ。ただね、今日は休み時間のたびに  こうして俺につきあってくれるだけで良いんだよ」 「どうしてですか?」 「それは・・・おっと、もう時間がないようだね。それでは次の休み時間に」 「千堂先輩!」  俺の呼びかけに手を振りながら去っていった。  一体何だったんだろう?  無視しても良かったのだが、休み時間が始まるたびに教室前で待たれてしまえば  注目を浴び、無視するわけにも行かなかった。  昼休み、パンを買って校舎の屋上で食べることになった。  もちろん、千堂先輩と東儀先輩と3人で。 「・・・寒いですね」 「最近の若い者はこれくらいでだらしないぞ?」 「無茶言うな、伊織」 「・・・」  会話が続かない。 「あの、東儀先輩。今日は一体何なんですか?」 「伊織、説明はしてないのか?」 「あぁ、だってその方が面白そうだしな」 「・・・」 「悪いな、支倉。実はな、今日はバレンタインなんだ」 「えぇ、それは知ってますけど」 「生徒会役員は賄賂を受け取ることは禁止されている」 「はい?」  賄賂ってチョコが? 「だから今の時間はもらうわけには行かない」 「でもそれじゃぁ女の子達の気持ちが台無しだろう? だから  放課後になってから受け取ろうとおもってるんだよ。  これは修智館学院での暗黙の了解なんだよ」 「・・・本当ですか?」 「あぁ、伊織の言うことは本当だ。だから今日の放課後は生徒会の  活動は無し。つまりただの一学生となる。」 「それでもフライングする子がたまにいるんだよ。それをもらうわけには  行かないけどもらわないわけにも行かない。だからそうならないようには」 「・・・わかりました。でも一つだけいいですか?」 「なんだい?」 「先輩方はすでに引退されてます。それでも駄目なんですか?」 「あぁ、俺達は引退はしてるが発言力が無くなった訳じゃないからな」  なるほど。  バレンタインのチョコ一つとっても大変なんだなぁ・・・ 「わかりました、俺も協力します。この後何か手伝えることはありますか?」 「っ」 「・・・」  二人とも驚いた顔をしている。 「なぁ、支倉君。手伝うって言ってるけど、君の立場はわかってるのかい?」 「生徒会副会長ですから、手伝おうと」 「支倉、鈍感は美徳とは言いかねないぞ?」 「?」 「はぁ・・・こりゃ瑛里華も苦労するわけだ」 「??」  言ってる意味が分からなかった。  放課後、俺は拉致されるように千堂先輩につれだされ、人目に付かないように  監督生室に運び込まれた。そう、吸血鬼としての身体能力をフルに発揮し、  文字通り人目に付かないよう運ばれた。 「さて、準備しようか」 「・・・」 「ほら、支倉君も」 「は、はい・・・」  食べた後だったら戻してたかもしれない・・・  準備は監督生室の前に折り畳みの机を置くだけ。  そして段ボール箱。  簡単な準備を終える頃、本敷地の方に人が集まり始めた。  それも女子ばかり。  あれがみんな千堂先輩や東儀先輩のファンだと思うとすごい人数だ。  下手すると修智館学院の女生徒全員がいるのかもしれない。 「・・・来ませんね」  人が集まっているのに、監督生室に向かう階段の先に向かおうとする  女の子は誰もいない。 「伺ってるようだな」 「そのようだな、大変だね〜、女の子って生き物は」  あきれ顔で言う千堂先輩。 「よし、発破をかけるとするかな」  そう言うと千堂先輩は机の前にでる。 「あぁ、良い香りがする・・・これは何の香りだろう?  芳しき乙女が愛を込めた甘い香り・・・これは一体誰への愛なんだろう?」 「・・・」  俺は呆れるしかなかった。 「僕はもうすぐ卒業してしまう、だから僕への愛ではないのだろう。  それは寂しいけど仕方がないのかもしれない。  この飢えを癒してはくれないだろうか?」 「はいはい、時間がなくなっちゃうから順番に並んでください〜」 「・・・」  千堂先輩の演説は階段の下の瑛里華の声で中断された。 「・・・」 「伊織、固まってないで机の後ろに下がれ、来るぞ」 「・・・しくしく」  瑛里華の先導で女の子達はこちらへと向かってきた。  俺も人の整理をしようと思い机の前に出たとき 「は、支倉先輩! 宜しかったらもらってください!」  下級生の女の子が俺にチョコを差し出した。 「お、俺に?」 「は、はい! その・・・もらってはくれないのでしょうか?」 「い、いや・・・その、こういうのってあんまり経験無くて。あ、ありがとう」  チョコを受け取ると女の子は顔を真っ赤にして去っていった。 「支倉先輩! 私の愛ももらってください!」 「えっ?」 「支倉先輩!」 「支倉さん!」 「支倉君!」  気づけば俺も千堂先輩や東儀先輩と同じように女の子に囲まれていた。  初めての経験に俺はただ流されるがままにチョコを受け取っていた。 「・・・孝平の馬鹿」 「瑛里華先輩!」 「え?」 「その、瑛里華先輩! ファンなんです、チョコをもらってください!!」 「え? あの、私は女性なのよ?」 「性別なんて関係ないです、瑛里華先輩! その、宜しければお・・・  お姉さまとお呼びして良いでしょうか?」 「え、えぇぇ!?」  ふと、横を見ると瑛里華も下級生の女の子に囲まれていた。 「お疲れさまです、今お茶入れますね」  すべてが終わったであろう時間にやっと監督生室の中に避難出来た。  部屋に戻ると白ちゃんがお茶を煎れてくれる。 「支倉先輩、どうぞ」 「ありがとう、白ちゃん・・・」  俺は妙に疲れていた、いままでいろいろと生徒会の仕事をしてきたが  こんなにハードな1日は無かった気がする。 「支倉先輩、このお茶請けも一緒にどうぞ。バレンタインのお菓子です」 「これは?」 「はい、菓子舗さゝきのバレンタインの新作だそうです。みなさんの分も  あるのでどうぞ」  見た目は普通のきんつばなのだが、チョコの香りがする。  早速一口食べてみる。 「どうですか?」 「・・・餡がチョコの味がする。変わった味だけど美味しいよ。  ありがとう、白ちゃん」 「喜んでいただけて嬉しいです」  みんなで美味しいといいながらお茶を飲む、まったりとした時間は来客者に  よって終わりを迎えた。 「失礼します」 「おや、紅瀬ちゃんじゃないか。どうしたんだい?」 「支倉君に伝言があってきたの」 「俺に?」 「えぇ、伽耶が呼んでるわ。良かったら来て欲しいって」 「母様が?」  瑛里華が過剰に反応する。  昔、ことあるたびに呼び出されてたときのことを思い出してるのだろう。 「一体何のようだろう?」 「私も行くわ」 「千堂さんは駄目よ、伽耶は支倉君一人を呼んでるのだから」 「大丈夫だよ、瑛里華。俺行ってきます」 「あ、そうそう。これ、あなた達にあげるわ」  そう言うと持っていた鞄から小さな包みを取り出した。 「バレンタインはお世話になってる人にもあげる物なんでしょう?  だからみんなにあげるわ」  包みを開いて机の上に置かれたチョコは・・・ 「・・・」  みんな一斉に息をのむ音が聞こえた。  そのチョコは・・・紅かった。 「い、イチゴのチョコなんですか?」  白ちゃんが少し震えながらそう訪ねる。 「食べてみればわかるわ、支倉君」 「そこで何で俺にふるか?」  試しに一つ手に取る。 「・・・」  赤い、いや、紅色というべきか? それとも緋色? 「・・・あ、そういえば俺は伽耶さんに呼ばれてたんだっけ」 「あ、こら、支倉君逃げるのか!」 「逃げるなんて人聞きの悪い、俺は約束があるから行くだけです」 「そうよね、支倉君は逃げないわよね?」 「うっ」  紅瀬さんの視線に圧倒される。これが紅瀬さんの本気か? 「・・・」  俺は思いきって赤いチョコを口の中に入れる。 「・・・なんだ、思ってたよりも・・・辛っ!!」  最初はチョコの甘さがしたとおもったら急に辛くなってきた。 「み、みずっ!」  俺は給湯室に駆け込んだ。 「ね、ねぇ、紅瀬さん。これはチョコレートよね?」 「えぇ、でも甘い物ばかりじゃ飽きるかと思って辛い物を作ってみたの」 「ちなみに聞いても良い? 何をつかったの?」 「唐辛子よ。ブート・ジョロキアっていうの。  日本名だと悪霊の唐辛子っていうらしいわね」 「・・・」 「ふぅ、酷い目に遭った」  口の中がまだひりひりするような気がするなか、俺は一人千堂家の本家に  向かって歩いていた。 「でも、伽耶さんは一体何のようなんだろう?」  程なくして本家につく、そのままいつものように裏手の屋敷へ向かう。 「失礼します」  そう言ってから家にあがる。  無駄に広いこの家の奥にある謁見の間まで行くと、伽耶さんが・・・ 「おぉ、やっと来たか」  いつもの和服の上からエプロンをした格好で出迎えてくれた。 「今日はばれんたいんという日だそうだな。世話になった者にたいして  ちょこれーとでねぎらう日という話を桐葉から聞いてな。  お前には世話になったからねぎらわないといけないだろうと思い  用意してみた。・・・もらってはくれぬか?」 「・・・」 「どうした? 妾は何か間違ったことを言ったのか?」 「いや、その・・・あまりに可愛い格好でしたので・・・」 「か、可愛い!? そなた、何を!?」  顔を真っ赤にしてふざけたことを言う出ないとかぶつぶついってる伽耶さん。 「エプロンは料理をする物にとって必要なものだと桐葉も言ってたのだぞ?  何もおかしくないし、か、可愛い訳などあるものか?」  ・・・紅瀬さん、あまり親友をからかわないであげてください。 「伽耶さん、チョコレートありがとうございます」 「え? あ、あぁ。そうだったな。これだ。遠慮なく食すがいい」  そう言って渡されたチョコは結構な量があった。 「これはみんなの分ですよね」 「何を言う? お前の分だけだぞ。瑛里華や桐葉の分は別に用意してある」 「・・・」  結局その場で全部食べることになった。 「・・・さすがにきつい」  1日を振り返ってみて朝食がチョコ、昼はかろうじてパン。夜飯じゃないけど  今までチョコを食べていた。 「糖分とりすぎだろ、これは・・・」  千堂家の敷地から寮までの道のりが妙に遠く感じた。 「・・・ふぅ」  なんとか部屋に戻ってベットの上に倒れ込む。  さすがに今日はこれ以上何も食べれないし、動けもしないだろう。 「・・・」  今までの生活と比べれば天と地の差があるほど良いバレンタインだったと思う。  でも、足りない、満足はしていない。それは・・・ 「良い身分ね、孝平」 「・・・瑛里華か」  いつの間にか部屋の中に瑛里華がいた。 「俺、もしかして寝てたか?」 「えぇ、寝てたっていうより倒れていたって言った方があってるかもね」 「そっか・・・」 「今日は良い日だったわよね、孝平。あーんなにいろんな子からチョコを  もらって・・・」 「・・・いや、そんなに良い日じゃなかったよ」 「あれだけもらっておいて良い日じゃない?」 「あぁ、本当に欲しいのがもらえてない」 「・・・」 「俺は一番欲しい人からのチョコが欲しいし、それが一番嬉しいと思う」 「孝平・・・そ、そんなに欲しいならあげなくはない事もないわ」  顔を真っ赤にしながら可愛いことを言う瑛里華。 「欲しいさ、どうすればくれる?」 「・・・キス、してくれたら」 「瑛里華」 「孝平・・・」  それは、今日1日の中で一番甘い味だった。
2月10日 ・夜明け前より瑠璃色な sideshortstory 「Morning Kiss」 「ふぅ・・・ちょっと念を入れ過ぎちゃったかなぁ」  お風呂から出てきた私はふらついていた。  明日は私の誕生日、達哉は私をデートに誘ってくれている。 「どこに連れて行ってくれるんだろう」  明日のことになると自然と顔がにやけてくる。  そんな誕生日を明日に控えた私は、お風呂で念入りに身体を洗って  それからお湯につかって、考えてしまうのはやっぱり明日のこと。 「♪」  思わず歌ってしまいたくなるほど明日のことが楽しみで、どこに行くの  だろうか、何をしてくれるのだろうか、楽しい事を考えているうちに  のぼせてしまった。 「こんな話、達哉にしたら何て言われちゃうだろう」  呆れたっていうのかな?  翠らしいって笑うのかな? 「・・・んふふ〜」  何て言われても嬉しいと思っちゃうだろうなぁ。 「惚れた弱みってヤツだよね」  あー、早く明日にならないかなぁ。 「・・・くしゅん」  いけないけない、湯冷めしてきちゃった。  未だにバスタオルを巻いただけの姿でいたことに気づいた私は手早く  洋服に着替える。  そしてバスタオルで丁寧に髪についた水分を落としてからそっと  ドライヤーで整える。 「少し・・・のびたかな?」  後ろで一つにまとめるようになったきっかけは覚えていない。  なんとなく・・・まとめられるようになったからまとめたような  その程度の理由だったのかもしれない。 「遠山のその髪型って似合ってるな」  いつか達哉が言ってくれた事のある台詞。  まだつきあう前だったけど、私は今でもそのことを覚えている。  何となく始めた髪型だったけど、このときから私はこの髪型が  似合う遠山翠で居ようと、改めて自分に誓ったっけ。  ・・・きっとこのころにもう、達哉に恋してたのだと思う。 「ん?」  ベットサイドに置いてあった携帯が鳴り出した。発信者は「朝霧達哉」。  その表示を見た瞬間に私は通話のボタンを押す。  携帯から聞こえてくるのは今でも恋をして、愛してる達哉の声だった。 「もしもし、こんばんは」 「やっほー、こんな時間にどうしたの?」 「あぁ・・・えっと、その、今大丈夫か?」 「うん、だいじょうぶだよ。もうお風呂も入ったし時間はオッケーだよ♪」 「そっか、夜遅くに悪いな」 「何を言うかな? 私と達哉の仲じゃない」 「・・・ありがとうな、翠」  こうも素直にお礼を言われるとすごく恥ずかしくなる。  それを悟られないよう、話題を変える。 「え、えっと・・・それでこんなに遅い時間に何の用かな?」 「あぁ、そのことなんだけどさ・・・」  そのとき玄関のチャイムの音が鳴る。 「あれ? こんな時間に? 達哉、ちょっと確認するから電話待っててくれる?」 「翠、ごめん。俺だから・・・」 「・・・はい?」 「いま、家の外にいる。」 「・・・え、えぇぇぇ!?」  インターフォンのカメラには達哉が写っていた。 「どうしたの? こんなに夜遅くに」 「えっと、そのさ・・・」  何かを気にしてるような達哉。一体何を・・・ 「翠、誕生日おめでとう!」 「え?」  慌てて携帯の時計を見ると、2月10日 0:00になっていた」 「・・・」 「夜遅くにごめん、女の子の家に来る時間じゃないってわかってたんだけど。  どうしても直にお祝いの言葉を言いたくてさ・・・」  ・・・ 「そ、それじゃぁ俺は一度帰るから。また朝に・・・」 「達哉・・・達哉!」 「翠?」 「格好つけすぎだよ、達哉」  私は達哉の胸に飛び込んだ。  達哉は私をそっと抱きしめてくれる。 「ありがとう、達哉。すごく、すっごく嬉しい」  達哉は何も言わずに私の背中をそっと撫でてくれる。  その暖かさが心地よく、幸せを実感できる。  私の最高の誕生日は、こうして始まった。 「それで、お祝いを言う為にだけ出てきたからプレゼントを  忘れてきた、ということでファイナルアンサー?」 「・・・はい」  私にお祝いの言葉を直接伝えたくて夜中に家を出てきた達哉は  用意してあったプレゼントを忘れてきたそうだ。 「達哉らしいよね」 「反論の余地がありません」  あ、少し落ち込んでいるみたい。まったく、達哉ったら可愛いんだから。  そんな姿を見ると愛おしくなる反面、困らせたくもなる。 「ねぇ、達哉。誕生日プレゼント、私からリクエストして、いい?」  顔を上げる達哉に私は想いと願いを込めて伝える。 「今日の朝・・・おはようのキスを、くれる?」
2月3日 ・FORTUNE ARTERIAL sideshortstory「節分」 「あ、こーへー、えりりん。ちょっといい?」  談話室で瑛里華と一緒にテレビを見てるとき、かなでさんが声をかけてきた。 「ねぇねぇ、どっかに鬼さんいないかなぁ?」 「え?」  瑛里華の驚く声がする。  俺も声は出さなかったが内心すごく驚いていた。  鬼を探してるって? 「悠木先輩、もしかして鬼って・・・」 「うん、明日の犠牲者♪」 「明日の犠牲者?」 「こーへー、生徒会役員たるもの行事を忘れるなんてけしからんぞ?」 「明日は節分よ、だから悠木先輩は鬼役の人を捜してるのよ」 「あー、なるほど」  明日は節分だったっけ。でも鬼役まで用意する必要はあるのだろうか?  ・・・まぁ、かなでさんの事だから何か考えてるんだろうな。 「去年は大変だったから、今年は慎重に選ばないといけないの」 「大変だった?」 「あ、そっか。こーへーは去年を知らないんだね、あの節分の悪夢を」 「節分の・・・悪夢?」  俺は瑛里華に説明をしてもらおうと想い瑛里華の方を向くと・・・ 「思い出したくもないわ・・・」  かなり疲れた表情をしていた。 「よし、お姉ちゃんがこーへーの為に去年の話をしてあげるね」  去年の節分は普通に豆をまいて終わらせるだけだったそうだ。  ただ、その話を聞きつけた会長が・・・ 「よし、俺がみんなの幸せのために鬼を引き受けようじゃないか」  という事になったそうだ。  そして節分の夜・・・ 「俺は覚悟出来てるさ・・・寮の女生徒の幸せの為、あえて豆を受けよう。  さぁ、豆を俺に投げつけてくれっ!」 「・・・」  沈黙する女生徒達。 「何をためらってるんだい? さぁ、俺を追い出して福を呼ぶんだ!」 「でも・・・」 「君たちの幸せのためなんだ! だから豆を!」 「出来ませんっ!」 「伊織様を追い出すなんて出来ません!!」 「俺は鬼なんだよ? 追い出さないと襲っちゃうかもしれないんだよ?」 「かまいませんっ! 伊織様に襲われるなら本望です!」 「そうです、私たちの幸せには伊織様が必要なんです!!」 「みんな・・・鬼のためにそこまで思ってくれてるなんて・・・  俺はとっても幸せだよ」 「伊織様っ!」  そのとき他のフロアで豆をまいてた男子生徒達がやってきた。  鬼役の人を追い出すという事になっていたので会長に向かって豆をまく。 「何をするの!」  それを見ていた女生徒が騒ぎ出す。 「何って、鬼を追い出すだけ・・・」 「この人は鬼じゃない、私たちの伊織様よ。伊織様を追い出すなんて  あなた達の方が鬼じゃない!」 「そうよそうよ、鬼はあなた達よ!」 「あなた達こそここにいるべきじゃないのよ! 鬼は外!!」 「うわっ!」  女生徒達の豆まきに男子生徒達は一度待避するものの、この後男女対抗で  豆まき合戦になった・・・ 「・・・」  俺は頭を抱えていた。 「だからね、今年は生徒会に隠す形で企画したんだけど、鬼役が見つからなくて  困ってるの。」 「そうね、兄さんが鬼をやると去年と同じになっちゃうし征一郎さんは・・・  同じになっちゃうか」  確かにこうなると適材者が存在しないだろう。でも俺なら・・・ 「かなでさん、今年は俺が鬼をやります」 「え?」 「えぇ、俺なら誰でも遠慮なく豆をまけるでしょうから」  少なくとも去年の会長のような事にはならないだろう。 「・・かなでさん?」 「うーん・・・確かにこーへーなら同学年より上は問題ないんだけどね」 「どういう意味ですか?」 「はぁ、こーへーって下級生の女の子に人気あるの知らないの?」 「・・・は?」  そんな事初耳だ。 「またかなでさん、そんな冗談を」 「・・・はぁ、無自覚って一番怖いんだよね、えりりん」 「えぇ、そうね」 「っ!」  瑛里華の方を見るとにこにこ笑っているのだけど妙なオーラが漂っていた。  なんか怖い。 「なら話は簡単だよ」 「に、兄さん。いつからいたの?」 「いまさっき、で面白い話をしてたから準備してんだんだよ」 「いおりん、今年は鬼は駄目だよ? 去年大変だったんだからね?」 「大丈夫だよ悠木姉、今年は傍観者に徹するさ。だってその方が面白そうだし」 「・・・」  なんか嫌な予感がした。 「ときに瑛里華、今年は瑛里華も鬼をやりなさい」 「はぁ?」 「支倉君だけだと下級生の女の子に匿われちゃうからね、瑛里華が一緒にいれば  だいじょうぶだよ」 「おー、なるほど、いおりんさっすがー!」 「いやぁ、それほどでも」  得意げな会長。 「それに、瑛里華がいれば男子生徒諸君も支倉君に豆をまきやすくなるしね」 「・・・何故ですか?」 「男の嫉妬って言えばわかるかな?」 「・・・」 「ついでにこれを機に下級生の子達にも二人の仲を見せつけておけばこの後の  恋人生活も保障されるだろう」 「恋人生活・・・」  瑛里華はその言葉に顔を赤らめていた。 「というわけで、悠木姉。二人をよろしく頼む」 「おっけー、まっかせてっ!」  瑛里華がぼーっとしてる間に話はまとまってしまった。 「はぁ、それでかなでさん。鬼役って何をするんですか?」 「んとね、この衣装を纏って逃げるだけ」  そう言うと虎縞模様のまえかけを取り出すかなでさん。  童話の中で鬼が着ているような物だった。 「瑛里華にはこれをあげよう」 「・・・」  会長が瑛里華に渡した物は・・・ 「わぁ、虎縞のビキニだね。えりりんこれ着るの?」 「もちろん、角がついたカチューシャも用意してあるよ」 「・・・」 「これで準備は万端だな、瑛里華。しっかり鬼を・・・」 「なんで私がこれを着ないといけないのよ!!」 「ぐはっ!」  瑛里華のつっこみが会長の鳩尾にクリーンヒットした。 「はぁはぁはぁ・・・まったく兄さんはどこでこんなの用意してくるのよ。  それになんで私のサイズぴったしなのよ!!」 「・・・」 「って孝平、なにその顔は?」 「え?」 「いますごくえっちな顔してた。もしかしてこれを着たところを想像してたの?」  ・・・やばい、ばれた。 「いや、あのな、瑛里華・・・その、似合うんじゃないかなぁって」 「・・・」  ジト目で見られた。 「あ、でも絶対着ないでくれ」 「え? なんで? 着て欲しいんじゃなかったの?」 「そんな姿、他の誰にも見せたくない」 「あっ・・・」 「・・・」 「・・・うん、誰にも見せない、着るなら孝平の前だけにするね」 「冬なのに熱いね、いおりん」 「冬だからこそだろう、悠木姉」 「・・・ねぇ、いおりん。明日の企画だけどこういうのどうかな?」 「・・・うむ、良いと思うぞ悠木姉、というかナイスアイデア!」  かなでさんと会長がにやにやした顔で相談していた。  翌日の豆まき大会の時、俺も瑛里華も普通の鬼に仮装していた。  あの虎縞ビキニは瑛里華と俺が断固講義したことで採用されなかったのだが・・・ 「さぁ、バカップルな鬼は1階に逃走しました、さっさと追い出しましょうー!」  豆まきはいつのまにかバカップルな鬼を追い出す企画にすり替わっていた。  そういう放送が入る中俺と瑛里華は仲良く手を握ったまま逃げていた。 「か、かなでさんノリ過ぎっ!」 「あは、でも楽しいわね、孝平!」  豆をぶつけられながらもにこにこしてる瑛里華が生き生きとして、  とても可愛くて抱きしめたくなる。  でもここでそんなことをしたらどうなるかわからないから 「行くぞ、瑛里華! まずはここを乗り切るぞ!」 「オッケー!」
1月31日 ・夜明け前より瑠璃色な sideshortstory 「素直な願い」  いつもと同じ朝。  神への感謝を捧げ、朝食をとって。  教会の掃除をしながら、時折訪れる人々の悩みを聞いて。  そうして過ぎていく普通の1日・・・ 「ふぅ、わかってはいるのですけど・・・」  午後のお茶の時間に紅茶をいれて落ち着こうと思ったのだけど  全然落ち着かない。 「・・・はぁ」  口を開けばため息しか出てこなかった。  今日は1月31日、私の誕生日。  でも、今この地で私の誕生日を知っているのはカレン様しかいらっしゃらない。  だから誰からも祝われることの無い誕生日。 「・・・達哉」  ため息以外に出る言葉は私の愛しい人。  本当は祝って欲しかったのかもしれない、でも出来なかった。  私の凍り付いた心を溶かし癒してくれた愛しい人、でも私の性格はそうは簡単に  治らない。  誕生日を教えるのは祝って欲しいから・・・  その当たり前の願いを口に出すことが出来なかった。 「・・・はぁ」  そのとき、ドアをノックする音が聞こえた。 「何方様でしょうか?」  今居るのは私の自室、通常ここまでは人は入ってこない。  それなのにドアをノックする人がいる。  また不届きな地球人かしら?  ・・・と、いけないけない、地球人も月人も関係ない。  そう思い直してるとき再びドアをノックする音が聞こえた。  返事もないその来客者に私はいらいらとしてきた。  毅然とした態度で出迎え、説教をして差し上げましょう。  そう思い・・・八つ当たりかもしれないけど思ってしまったのだから仕方がない。  ドアを開ける。  そしてドアの向こうの光景を見て私は声が出なかった。 「誕生日おめでとう、エステルさん」  そこには花束を抱えた達哉の姿があった。 「驚いた?」  呆然としてる私の横を通って部屋に入る達哉。  花束と一緒に持っていた紙袋を机の上に置くと、私の前に来る。 「誕生日おめでとう」  そう言いながら花束を私の手に持たせてくれた。 「・・・」 「あの・・・エステルさん?」  私は持っていた花束をそっとベットの上に置いた。  そして深呼吸してから達哉の方を向いて 「達哉の・・・馬鹿っ!」  そのまま達哉の胸に顔を埋めた。 「悪趣味です」 「すみません、でも驚かせたかったから」 「それが悪趣味だというのです」  達哉が買ってきてくれたケーキを切り分け、私はとっておきの紅茶を  いれてのささやかな誕生会。 「でも良かったです」 「何がですか?」 「エステルさん、喜んでくれましたから」 「あ、あれは、その・・・」  思わず達哉に抱きついたことを思い出してしまう。 「・・・不可抗力です」 「はい、わかってます」 「絶対わかってないでしょう?」 「大丈夫、これだけは自信ありますから」 「うぅ・・・」  どうしてなのだろう、私が強がってうそをつく時、そのときだけ達哉は  その嘘を必ず見抜いてくる。  不快ではない、むしろ私を知っていてくれる嬉しさがあるくらい。  でも・・・ちょっと悔しいかも。 「エステルさん、プレゼントを作ってきました」 「作ってきた?」 「えぇ、正直に言うと女の子へのプレゼントなんて経験なくって、何に  したらいいかずっと迷っていたんです」  経験がないという言葉に、私が最初なんだという嬉しさがこみ上げてくる。 「アクセサリとか考えたんですけど、それも違うような気がして・・・  だから、これを作りました」  達哉がそっと差し出した物は・・・ 「栞?」 「えぇ、押し花の栞です。良かったら受け取ってください」 「あ、ありがとう、達哉」  小さな押し花の栞、その中に綺麗な紫色の花が咲いていた。 「浅黄水仙っていうんです、その花。」 「アサギスイセン?」 「えぇ、またの名前をフリージアって言うんです」 「フリージア・・・」  私の名前・・・こんな素敵な花だって知らなかった・・・ 「エステルさん?」 「ありがとう、達哉。大事にします・・・」  そっと栞を胸に抱きしめる。  私の名前の花で、愛しい人が作ってくれたプレゼント。  涙がこぼれるのもかまわず、ただただずっと抱きしめた。 「驚きました、急に泣き出すんですもの」 「泣いてません・・・そう、目にゴミが入っただけです」 「はい、そう言うことにしておきますね」 「・・・もぅ、達哉ったら」  やっぱり達哉の前では強がれない、すぐに見抜かれてしまう。  私は達哉の前ではどんどん無防備になっていってしまうのがわかる。  ちょっと怖いくらいに・・・ 「エステルさん、一つお願いがあります」 「お願い?」 「えぇ、エステルさん。もう少しわがままになってください」 「え?」  わがままに? 「俺はまだエステルさんを支えるくらいにつよくはないかもしれない。  でも、言ってくれないとわからないこともあるんです。  エステルさん気づいてましたか? 最近元気がなくなってたことに」 「・・・」  誕生日のお祝いをして欲しいけど言えなかった、それは甘えすぎのような  気がしてたから、誕生日のお祝いをして欲しいから教える、そんな気が  したから・・・ 「最近元気がないから、俺心配になって、エステルさんには申し訳ないけど  カレンさんに相談したんです。そうしたら誕生日が近いから祝ってあげれば  元気になるって」 「カレン様・・・」 「何かして欲しいことがあったら遠慮なく言ってください。俺も言います。  それが・・・恋人同士だと俺は思いますから」 「達哉・・・わがままでも、いいのですか?」 「俺もわがままですから、おあいこです」 「達哉・・・もっともっと求めてもいいのですか?」 「俺も求めるから大丈夫です」 「達哉・・・」 「エステルさん・・・」 「・・・達哉、それでは早速お願いをしていいですか?」 「い、いきなりですか?」 「えぇ、達哉がわがままでいいって言ってくれたからいきなりです」 「お手柔らかに」  達哉が緊張してるのがわかる。さっきまでの良い雰囲気が無くなって  しまったのが残念。 「達哉は何で私のことをさん付けで呼ぶのですか?」 「え?」 「私は達哉って呼んでるのに達哉だけエステルさんって言うのはおかしいです」 「えっと・・・何でだろう?」 「達哉は・・・その、えっちなときはちゃんと呼び捨てにしてくれています」 「・・・」  達哉が照れてるのがわかる、ここは私の方がお姉さんなんだから余裕を持って  行かないと。 「その・・・エステル」 「っ!」  不意打ちだった。いきなり名前を呼ばれるとは思ってもなかった。  そして、名前で呼ばれただけなのに心が温かくなってきた。 「・・・はい、達哉」 「・・・その、恥ずかしいかも」 「駄目ですよ、もうさんは絶対つけないでくださいね?」 「わかったよ、エステル」 「それでは、次のお願いです」 「つ、次?」 「えぇ、達哉がわがままでいいって言ってくれたからもう遠慮なんてしません」  そう、私はもう彼に遠慮はしないことにした。  だから今なら素直にこういうこともできる。 「達哉・・・キス、してください」 「それは・・・俺の願いでもあるよ、エステル。愛してる」 「私も愛してます、達哉」
1月24日 ・FORTUNE ARTERIAL sideshortstory「扉ひらいて、ふたり未来へ」 「ふぅ、さっぱりした」  私はバスタオルをまいただけの姿で部屋の中へ戻る。  戻ると言っても今までいた場所は部屋の備え付けのユニットバス。  だから裸のままでも問題は無いけど、やっぱり恥ずかしいものね。  そのままベットの上に腰掛けて、ハンドタオルで髪についている水分を  そっとふき取る。  ある程度ふき取れた所でドライヤーで髪を梳きながら整える。  その作業が終わった頃には火照った体も落ち着いてきた。  バスタオルをはずし、下着をつけようとして。  ふと、気になったので姿見の鏡の前に立つ。  そこにうつるのは自分の生まれたままの姿。 「・・・やっぱり負けてるのかなぁ」  頭の中に思い浮かぶは、長い黒髪の女の子。  数学だけ私の上に君臨するその女の子は、もしかするとプロポーションでも  私の上を行ってるのかもしれない。 「愛情を持って揉んでもらうと大きくなるって言うらしいけど・・・」  とはいっても、そんな相手はいない。  私の正体を知ったら普通は逃げていってしまうだろうから・・・ 「・・・よし、今度こそ数学で勝つ!」  プロポーションはすぐにどうすることも出来そうにないので、  まずは数学で勝つ事にしよう。  室内着に着替えた私は、机に向かう。  机の上には生徒会での資料の写しが置かれていた。 「転入生・・・か」  全寮制であるの学院に途中から編入するのはかなり難しい。  勉強の進行状況などもあるけど、全寮制故に寮の部屋が空いている必要もある。  私は資料をもう一度見る。  名前は支倉孝平。修智館学院の5年生に編入。  両親の都合で過去の転校回数がかなりあるらしい。  そんな人が全寮制の学院を選ぶ、それは・・・ 「落ち着いて学生生活を送りたいのね、きっと。」  彼は今までずっと舞台の上には立ってこなかったのだろう。  すぐにその舞台にたてない場所へと行かなくてはいけないから。  でも、この学院に来れば卒業まで舞台に立っていられる。 「ここを選んでくれた彼の為にも、楽しい学園生活を送ってもらえるように  私もがんばらなくっちゃね」  そのためには最初が肝心。  彼がこの学園に来るのは明日の午後。編入の最後の手続きの時間から逆算すれば  この島にやってくる電車の時間もわかる。  そこで私は彼を出迎える。  ・・・でも、どのように出迎えよう?  転入生一人のために歓迎会は開けない。  だから私の出来る範囲で最良のスタートが出来るようにするしかない。 「うーん・・・」  なかなか良い案が思い浮かばない。  そういえば、同じように最近悩んだ記憶があった。  あのときは入学式での新入生への歓迎の挨拶の時だったっけ。 「・・・そうね」  あのとき征一郎さんが言った言葉を思い出す。  私が歓迎する気持ちを持って出迎えればいいのだ。 「何か言葉を考えるのではなく、明日彼の目の前で思ったことを言えば  いいのよ、きっと」  そう思った。  私は部屋の窓から夜空を見上げた。  作:ブタベストさま  どんな男の子が来るのだろう? 「願わくば、兄さんに気に入られるような人じゃありませんように・・・」  同じ頃。  一人の少女は読んでいた本から顔を上げ、窓の外の夜空を見上げた。 「・・・」  そして何事もなかったように本に目線を落とした。  一人の少女は明日の事を楽しみにしていた。 「お姉ちゃんの誕生日、とっておきの紅茶をいれてあげなくっちゃ」  部屋の窓から夜空を見上げる。いつもより星が綺麗に見える。 「明日も良い日でありますように」  一人の少女は落ち込んでいた。 「今日も監督生室にはいけませんでした、兄さまに申し訳ないです」  ふと、窓から夜空を見上げる。 「明日こそはがんばります!」  一人の少女は予感を感じていた。 「明日の誕生日、私にとってきっと何か良いことがある!  うん、きっとそうにちがいない!」  窓の外の夜空を見上げる。 「きっとヒナちゃんをお嫁にもらえるに違いない!」  そして・・・ 「貴方が、支倉孝平君ね!」  「あぁ、そうだけど」 「私はこの学院の生徒会副会長、千堂瑛里華よ。  学院を代表して歓迎するわ、ようこそ、修智館学院へ!」  新たな物語の扉がひらかれる、それは二人の未来へと・・
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