思いつきSSログ保管庫
*このページに直接来られた方へ、TOPページはこちらです。

雑記掲載SS保管庫 2007年第4期 10月より連載 夜明け前より瑠璃色な Another Short Story -if-
12月21日 オリジナルショートストーリー 冬のないカレンダー #6「驚くと言葉が出てこないって本当だったんだな」 12月18日 オリジナルショートストーリー 冬のないカレンダー #5「お約束はお約束っていうからお約束なんです」 12月13日 オリジナルショートストーリー 冬のないカレンダー #4「バカップルは公害です」 11月29日 そして明日の世界より―― sideshortstory「クランク・アップ」  (未収納) 11月25日 夜明け前より瑠璃色な sideshortstory「そして明日の世界より――」 11月25日 月は東に日は西に sideshortstory「吸血鬼の物語」 11月21日 FORTUNE ARTERIAL sideshortstory「Kissの味」 11月4日 Canvas2 sideshortstory 「TRICK OR ?」 10月20日 夜明け前より瑠璃色な -if- sideshortstory 「ご褒美」 10月18日 D.C.II sideshortstory 「秋の花火と」 10月17日 そして明日の世界より―― sideshortstory 「夢」 10月14日 瑠璃色ショートストーリー sideshortstory「ファースト・ステップ」 10月4日 FORTUNE ARTERIAL 悠木陽菜誕生日祝SS「最高の贈り物」 10月1日 夜明け前より瑠璃色な -if- sideshortstory 「デザート」
12月21日 ・オリジナルショートストーリー 冬のないカレンダー              #6「驚くと言葉が出てこないって本当だったんだな」 「お邪魔します」 「あら、ただいまって言っても良いのよ?」 「・・・おじゃまします」 「もう、照れ屋さんなんだから。部屋まで案内しましょうか?」 「いえ、知ってるので大丈夫です。」 「そうよね〜、勝手知ってる我が家ですものね」  ・・・頷くおばさんを放っておいて俺は2階への階段をあがる。  案内されるほど広い家でもないし、幼なじみのアイツの部屋の場所は  良く知っている。  アイツの部屋の扉をノックする。 「いるか〜、入るぞ?」 「うん、いいよ」  返事を確認してから扉を開けて・・・ 「・・・って、え? えぇ!! きゃぅ!」 「・・・」  目の前の光景を見て、俺は妙に冷静にその光景を分析しはじめた。  アイツの部屋。いつもと変わらず・・・だと思う。  ベットがあって、その上に倒れ込んでいる。  なんで倒れ込んでるんだ?  そしてその格好。  まだ制服のままどころか、上着まで着ている。  いつもかぶっている帽子はベットの端の方へ転がっている。  長いマフラーはほどけてベットの上に広がっている。  スカート、何故か膝上の辺りまでずり落ちている。  そして何故かストッキングもずり落ちて可愛い下着に包まれているお尻を  丸出しにしていた。 「・・・」 「・・・」 「あら? もしかしてこれからお楽しみなのかな? んー、それじゃぁお母さんは  1時間ほど買い物に行って留守にするわね〜」  扉を開けた状態で固まっていた俺の後ろにいつの間にかおばさんがいて。  そして勝手に納得して勝手に出ていってしまった。 「・・・うぅ、私も買い物に行くっ!」  そう言ってその場から逃げ出そうとするアイツの頭をいつものように  鷲掴みにする。 「えぅ」 「その格好でどこへ行くつもりだ?」 「え?・・・きゃぁっ、えっち!!」 「・・・はぁ」  俺の口からでるものは言葉ではなく、ため息だった。  アイツはベットのシーツにくるまってる。  俺は勉強机の椅子に座って事情を聞こうとして・・・止めた。  何故止めたかというと・・・ 「学校の友達から面白い雑誌を借りたお前はすぐ読みたくて家に帰った。  帰ってきてその格好のまま雑誌に夢中になって、読み終わった時に着替えて  無いことに気づいて着替えようとした。  そこに俺が来た、そして慌てた。そんなところだろう・・・」 「すごい、もしかして今日の私、つけられてた?」  適当に言ったのに全部当たったのか・・・ 「それで、今日は何の用なのかな?」 「そんなこという口はこの口か?」 「いひゃい!」  俺は両頬を引っぱった。 「俺が貸した辞書を持って帰っただろう?」 「・・・あ」 「あれないと俺が課題出来ないんだぞ?」 「私は課題終わってるもん」 「お前なぁ・・・昨日課題が終わったことは聞いたよ。家でやったんだろう?  そのために辞書を持ち帰ってきて今日持っていくの忘れたから俺が貸した。  その辞書までしっかり持ち帰りやがりましたのはどこのどなたでしょうか?」 「・・・えっと、たぶん私かな?」 「わかってるなら辞書返せ」 「・・・はい、ごめんなさいでした」  辞書を取り返す目的を果たした俺は帰ることにした。 「え? もう帰っちゃうの?」 「お前は話を聞いてたか? 俺は課題終わってないんだぞ?」 「ん〜、良い案あるよ〜、私の写さない?」 「まる写しだとばれるからいらない」 「でねでね、写させてもらったお礼を私にくれるの」 「だからいらないといっただろう?」 「でね、お礼は私に優しくキス・・・きゃぁ♪」 「・・・」  間違いなく暴走して妄想してるな。  それはいつものことだからおいといて・・・一つだけ訂正しておく必要はあるな。  俺はアイツの名前を呼ぶ。 「なに・・・んっ!」  そして唇を重ねる。 「・・・何かの対価にキスだなんて俺は嫌だ。俺はしたいからする。  お前がしたいのならいつでもするさ。」 「・・・うん、ありがとう」  ・・・やばい、このままの流れだと押さえれなくなる可能性がある。  雰囲気に流されるのは俺としては避けたい、特に今日はおばさんがいる。  買い物に行くと行っていたが本当かどうか怪しい。 「ねぇ・・・私がして欲しいっていったら・・・してくれるんでしょう?」  頬を赤らめてそう聞いてくる。 「だったらいいよね・・・しよ?」  その後、あれからきっちり1時間後に帰ってきたおばさんは、特に俺達に何かを  問いつめることは無かった。それが逆に居心地が悪かったりする。  ただにこにこしてるだけのおばさん。  確信犯だな・・・きっと。
12月18日 ・オリジナルショートストーリー 冬のないカレンダー                #5「お約束はお約束っていうからお約束なんです」 「あらぁ、良いところで会っちゃった♪」  商店街をぶらついてたとき、俺の後ろの方から聞こえてきた聞き慣れた声。 「・・・こんにちは、おばさん」 「こんにちは、それと私のことはお母さんって呼んで良いのよ?」  俺が苦手としているアイツのお母さんだった。  最近知ったことだが、俺のお袋とアイツのお母さんが幼なじみで、ほぼ  同じ時期に相手を見つけて結婚したそうだ。 「もし子供が産まれて男の子と女の子だったらくっつけちゃいましょう♪」  とは、おばさんの台詞ではなく、俺のお袋の提案だったらしい。 「あらぁ、それはいいわね〜、女の子産んでも男の子も手に入るんだし♪」  ・・・人間知らない方が良いこともあるんだよな。 「なぁにたそがれてるの? 格好良いからいいけど」 「・・・いえ、ちょっと人生のことを考えてただけです」 「人生設計? お母さんはね、孫は3人くらい欲しいわ」 「・・・おばさん、用事はそれだけですか?」 「あ、そうそう。忘れるところだったわ。ちょっと荷物手伝ってくれないかしら?」 「えぇ、それくらいならいいですよ。」 「よかったぁ、それじゃぁこれお願いね」 「・・・」  出された袋にはお米が入っていた。 「やっぱり男の子よね〜、これくらいなんともないんだもん」  確かに米の10kgくらいは何とでもないけど、おばさんの歩く速度にあわせて  持っていくのは結構しんどい。 「んふふ〜、折角だからお礼しないとね」  そう言いながらおばさんはいきなりコートの前のボタンをはずした。 「えいっ!」  そして俺の腕を抱き込んだ。  コートに遮られないおばさんの胸の弾力がダイレクトに俺の腕に伝わる。 「どうかな? 私もまだまだなんだから♪」 「・・・おばさん、こういうパターンだとたいてい見つかります。  だから今の内にふざけるのは止めてください」 「そんなお約束じゃあるまいし・・・」 「お約束で申し訳ございませんですわ、お・か・あ・さ・ま?」 「・・・本当にお約束ってあるんだな」  俺のすぐ後ろにいつの間にかアイツが立っていた。 「お母さん、いつまで腕組んでるのよ!」 「あらぁ、いいじゃないの。そっちだって組んでるんだから」 「私はいいの、恋人同士なんだもん!」 「娘の物は母の物っていうことわざ知ってる?」 「そんなのあるかー!」 「・・・」  気づいたら俺の右腕におばさんが、左腕にアイツが抱きついていた。  さらに右腕で米を持ち、いつの間にか俺とアイツの首元にはバカップル用  マフラーが巻き付けられていた。 「ねぇねぇ、たまには経験豊富な人妻なんてどう?」 「そんなの必要ないもん、若い私で充分だよ!」 「あらぁ? 若さだけなの? 私のテクニックすごいわよ?」 「そ、そんなのこれから一緒に勉強していくからだいじょうぶだもん!」 「・・・おい」  俺はヒートアップしつつあるアイツに話しかける。 「なによ、いま大事な話してるんだから邪魔しないで!」 「いやさ・・・おまえ今どんな話してるかわかってるのか?」 「わかってるわよ、それがどうしたの?」 「それじゃぁさ、今どこにいるかわかってるか?」 「もちろん、商店街の・・・」  そう、商店街の出口まで来ているので人通りは少ないとはいえ往来の真ん中で  言い合いするような内容ではないだろう、普通。 「・・・うぅ、恥ずかしい」  そう言って逃げ出そうとする。 「おい、まて! それだと・・・」 「えぅ!」  つながったままのマフラーは今回もまたお互いの首をしめた。 「あなた達って本当に面白いわね〜、からかいがいがあって良いわ〜」  ・・・おばさんの言葉に俺はため息しか出なかった。 「だから気をつけろってなんどもいってるだろうに」 「えぅ〜ごめんなさい〜」 「まったく」 「さてと、私は買い物の続きがあるから行くわね。  折角だからデートでもしてきなさいな。それじゃぁまたね〜」  俺達のやりとりを微笑ましい笑顔で見ていたおばさんは商店街の方に  去っていった。 「いつものことだけど嵐のような人だな」 「その嵐が吹き荒れる中にいる私の苦労わかる?」 「・・・わかりたくない。でもいいおばさんだよな」 「うん。私、お母さんのこと大好きだよ」 「そうだな・・・それじゃぁ帰るか」 「え? デートは?」  さっきのおばさんの言葉を真に受けたようだ。  残念だけど、おれはある現実を伝えないといけない。 「あのさ、おばさんがこれ置いていったままなんだよ」 「・・・」  俺の足下にはお米の袋が置かれたままだった。 「さすがにこれを持ってデートってのは無理だろう。帰るしかない。」 「・・・」  肩が震えてる、この場合は・・・ 「えぃ」 「えぅ」  俺は先手を打ってアイツの頭に手を乗せてつかむ。  案の定アイツは走り出そうとしていた・・・マフラーをつけたままで。 「どこへ行くつもりだ?」 「お母さんを捜し出してお米の袋を返すの、そしてデートするの!」 「それはいいけどな、マフラーしたまま暴走するな?」 「え? ・・・あは、あはは。そ、そんなつもりなんてないよ」  目が泳いでいる、図星をつかれた証拠だ。  ・・・ふぅ、あんまり使いたくないけどこの手で行くか。 「なぁ、二人で仲良くお米を買って帰るのって、どういうふうに見えると思う?」 「ん・・・えとね、新婚さん?」 「俺達の今の状況は?」 「・・・あっ」  今置かれてるシチュエーションにやっと気づいたようだ。  本当はこういうのって恥ずかしいから嫌なのだが・・・ 「えへ、えへへ♪」  アイツの幸せそうな笑顔を見れるのなら我慢出来る。 「それじゃぁ帰るか」 「うん、帰ろう。あ・な・た。」 「・・・」  俺は無言で頭をつかむ。 「えぅ、なによぉ」 「まだ早い」 「早いって事はいずれそうなるって事だよね?」  こういうときだけ頭の回転が早いのはどうしてだろうな・・・  俺は答えずに米の袋をもって、そしてあいてる方の腕を差し出す。 「えへへ♪」  アイツは幸せそうに腕を組んでくる。  ・・・まぁ、こういう帰りかたも悪くはないな。  余談だが、このやりとりを近くで隠れてたおばさんにすべてみられてて。  ・・・後でいろいろ言われたのは言うまでもなかった。
12月13日 ・オリジナルショートストーリー 冬のないカレンダー                       #4「バカップルは公害です」 「ごめんね〜、あの子ったらまだ準備終わってないのよ」  デートの約束をし迎えに行ったらおばさんが出迎えてくれた。  俺はちょっと・・・おばさんが苦手だ。なぜならば・・・ 「ところでさ、娘はいつもらってくれるのかなぁ?」 「・・・」 「私ね〜、男の子も欲しいのよね〜」 「・・・」 「だからぁ、娘あげるから私の子供にならない?」 「・・・おばさん、それ以上言うとまた怒られますよ?」 「いやよ、私はおばさんじゃなくて、お母さんって呼んで♪」 「お・か・あ・さ・ま? そこで何をなさってらっしゃいますのかなぁ?」 「もちろん、将来の息子とのコミュニケーション♪」 「恥ずかしいから止めてって言ってるでしょ!」 「いいじゃない、スキンシップは大事よ」  そう言うと俺に抱きついてくるおばさん。  おばさん・・・っていうと怒られるくらいおばさんは見た目が若い。  一緒にいると親子じゃなくて姉妹に間違われるほどだ。  アイツと同じく胸もあって・・・ 「だめ! お母さん駄目! 私のだもん!」  ・・・俺は持ち物か? 「いいじゃない、娘の物は私の物っていうじゃない。」  ・・・どこをどうつっこめば良いんだろう? 「もういいから、行こうっ!」  俺は腕を引っぱられながら、連れて行かれた。 「今度は私も混ぜてね〜」  という、おばさんに見送られながら・・・ 「相変わらず仲がよい親子だよな〜」 「・・・最近お母さんもノリノリなんだよね〜なんか気に入っちゃった  みたいだし」  美人のお袋さんに気に入られるのは悪くない気分だけど・・・ 「大丈夫だって、俺はお前だけだから」 「・・・うん、ありがとう♪」  幼なじみの腐れ縁から始まった俺達の関係は、この夏一つのステップを超えた。  今は恋人同士といえる関係になっている。  けど、いつもは昔と同じような関係、幼なじみの腐れ縁のまま。  その距離が心地良いから。  よく物語では幼なじみが恋人になるといろいろと変わってしまうことが多いけど  俺達は何も変わらないまま、恋人になった。  いつものように馬鹿やって、遊んで、笑って。  そして時には抱いて抱かれて・・・ 「寒いね〜」 「そりゃ寒いな。去年の冬は暖かかったけど今年は寒いらしいからな」 「ねぇねぇ、首もと寒いよね?」 「・・・」 「そう、おもうよね、ね?」 「・・・前にも言ったこともう一度言うぞ?」 「愛の言葉なら何度でもおっけーだよ♪」  そういうアイツの頭を思いっきりつかむ。 「バカップルは公害だって何度言ったらわかるんだ!」 「えぅ」 「それにアレは危険すぎる。お前はいつもつっぱしるから何度首がしまった  ことやら・・・」 「それは注意するよぉ、だからしようよ〜」  涙目で俺の方を見上げて訴えてくる。 「う゛・・・」  いつの間にこんなに破壊力を持った攻撃が出来るようになったんだ。 「・・・仕方がないな」  俺はコートのポケットにそっと隠して置いたマフラーを取り出した。  とはいっても通常の2倍近い長さのマフラーがポケットに隠しておける  わけがない。  俺が持ってる事を知っていてアイツは誘ったんだよな、きっと・・・ 「ほらよ」  俺は自分の首に先にマフラーを巻く。 「ん〜」  目を閉じて顔ごと俺の方に差し出してくる。  俺はそっとマフラーを巻いてあげて・・・ 「え?」  頬にそっと口づけをする。 「え、え?」  何をされたかわかってないようだ、俺はこのときの顔が好きだから  たまにこうして不意打ちをする。 「・・・きゃぁ」 「ぐぇ」  アイツは恥ずかしがって逃げ出そうとして・・・お互いの首を絞めた。 「・・・」 「えぅぅ、ごめんなさいぃ。  でも急に恥ずかしいことするからびっくりしちゃって・・・」 「わかったわかった、今回は俺も悪かった」 「許してくれる?」 「許すも何も怒ってないからな」 「よかったぁ」  ほっとした顔をする。今回は俺の悪戯が招いた失態だから俺は怒るわけが  無い。怒るとしたら詰めの甘かった俺自身に、だ。  だから、今更だけどちゃんと最後まで詰めておかないとな。 「・・・腕出せよ」 「ここで? 恥ずかしいよぉ」 「・・・何想像してんだ? 腕組むぞ」 「え? いいの? だってバカップルは公害だって・・・」 「嫌なら止める」 「だめだめだめだめっ! 腕組む、絶対腕組む!!」  そう言って俺の出す腕に身体ごと抱きついてくる。  腕から伝わる暖かさと、マフラーでつながった気持ちと。  あぁ、今年も俺には冬は無いんだろうな、と確信した瞬間だった。
11月25日 ・夜明け前より瑠璃色な sideshortstory 「そして明日の世界より――」  映画はすでに終わりが近づいていた。  大きなスクリーンには、今しがた発見された物が写されていた。  それは木製のフォトスタンド。  その写真が画面一杯に映し出される。  たくさんの男女が楽しそうに写っている。記念写真なのだろう。  そしてそれを見てる人が写真に書き込まれてるメッセージを読む。 「――――」  そのメッセージを読み上げた瞬間、俺の手を握る力に手が入った。  耳をすまさなくても、俺にはわかった。  フィーナはきっと、涙を流しているんだろうって・・・  そして、俺もきっと泣いているのだろう。  お互いの休みが合う日はほとんどないといっていい今だが、フィーナが月に  帰った直後から比べると格段にフィーナと会える回数は増えていた。  外交が一段落しているからだろう。  そして今日は1日オフの日。俺達は部屋で過ごさず、デートをすることにした。  ウインドウショッピングにランチ、そして映画。  その映画を見終わった俺達は、物見が丘公園のモニュメントに背を預けて  座っていた。 「達哉って、涙もろいのね」 「フィーナもだろう?」 「私は違うと思ってのだけど・・・違わないみたい」 「良いと思うよ、今のフィーナは俺の婚約者の普通の女の子だから」 「えぇ・・・」  フィーナが俺の肩に頭を預けてくる。 「普通、か・・・」 「フィーナ?」 「そういえば、達哉も私と初めてあったときは普通に接してくれたわよね」 「あのときは子供だったからな」  忘れもしない、子供の頃の思い出。  フィーナと初めて会って、遊んで、悲しい別れをしたあのとき。 「たぶん、相手が王女様だって知ってても同じように接したと思う」 「私もそう思うわ。あのときは嬉しかったわ。私を一人の女の子として  みてくれたのだもの」  住んでいる国のどこに行ってもフィーナは王女であった。友達のような  関係であったミアでも、フィーナはやはり使えるべき主だったのだから。 「・・・ねぇ、達哉。もしも、世界が終わるって言われたらどうする?」 「わかんないだろうな。慌てるだろうし怖くてどうしようもないと思う」  映画の中の話だが、実際この世界もそうなる可能性は無いわけではない。  ただ、実感はもてない。  宇宙の、月に人が住んでいる時代なのだ、隕石の一つくらいは平気で  破壊できる技術があるからそう思うのだろう。 「でもさ、俺にはフィーナがいるから大丈夫だと思う。それに麻衣や姉さんや  みんながいてくれるなら、俺は俺のままでいられると思うよ」 「あら、私だけじゃ役不足かしら?」  フィーナがくすっと笑って言う。 「とんでもない。フィーナにはフィーナの役があるからいてくれないと困る」 「私もよ・・・達哉がいてくれないと困るわ」 「あぁ、知ってる」 「・・・なんか、ずるい」 「そうか?」 「えぇ、なんだか私だけが弱いみたいで」 「それも知ってる。フィーナは弱い女の子だって」 「か弱いじゃなくて?」 「そう言う意味ならフィーナは強い」 「もうっ、どっちなのよ」  俺はフィーナの目をまっすぐ見て答える。 「フィーナはフィーナさ。大好きで愛している女の子、フィーナさ」 「・・・やっぱり達哉はずるい」  そういって頬を赤くするフィーナ。 「フィーナもずるいさ、俺をいつもドキドキさせるんだから」 「それは、お互い様」  俺はフィーナを抱き寄せて軽く口づけをする。 「そろそろ帰りましょうか?」 「そうだな、冷えてきたし帰ろうか。」  フィーナは俺の一歩前に進んで、くるっと振り返る。 「そういえば、達哉。地球滅亡の危機って最近あったの知ってる?」 「え?」  地球滅亡の危機? 「あの映画と全く同じよ、数年前から楕円軌道を回ってる隕石と地球の  軌道がぶつかる時があったのよ」 「・・・本当?」 「その隕石は月の技術で軌道を変更させ、今は外宇宙に放り出されているわ。  混乱を招くから発表されてないんだけどね」  そんなことがあったのか・・・  そうショックを受けてる俺の前で、フィーナは映画に出てくる病弱な少女の  悪戯をするときのポーズを真似て、こういった。 「信じちゃった?」 「脅かすなよ・・・冗談としてはきついぞ?」 「ふふっ、帰りましょうか」 「あぁ」  二人で手をつないで公園の丘の坂を下りていく。  そういえば、フィーナは冗談とは一言も言っていなかった。  まさか、俺達の知らないところで本当にあった話なのだろうか? 「さて、どうなのかしらね?」
11月25日 ・月は東に日は西に sideshortstory 「吸血鬼の物語」 「本当にいいんですか?」 「はい、責任者が良いって言ってるんですから、だいじょうぶです」  結先生につきあってきたのは、時計塔の地下にある研究室。  それも時空転移装置の制御室。 「俺思いっきり部外者ですよ?」 「何を行ってるんですか? 久住君は関係者ですよ」 「いつ関係者になったんですか?」 「関係者の関係者は関係者じゃないですか」 「・・・」  友達の友達は皆友達っていうやつか? 「私一人だけだと暇で退屈なんですよ、つきあってくれたって  いいじゃないですか。それとも私と一緒じゃ楽しくないですか?」  語尾が尻ツボミになっていく。 「とんでもない、結先生とならどこでも楽しいですよ」  そう言うとぱぁっと言う効果音が聞こえそうなほどの笑顔になる。 「なら問題ないですよね、久住君?」  はぁ・・・惚れた者の弱みってこういうのなんだなぁ。  俺は頭をかきながら結先生の後をついていった。 「これでよしっと」  制御室に入って結先生は何かの作業を数秒で終わらせる。 「何したんですか?」 「今日はとび太の定期メンテナンスの日なんです」  とび太・・・あぁ、時空転移装置の事か。 「マルバス事件が解決したからもう使われることはないのですけどね。  定期メンテナンスはしてあげないと駄目なんです」  結先生がいた世界で流行したマルバスというウイルス事件。  そのワクチンが俺のいる世界で開発に成功、今は100年後の世界は  安定してきているそうだ。  事件解決後、未来へ帰る人もいるなか、結先生は残ってくれた。  一度は情勢安定の為に戻ったけど、今は俺の世界に帰ってきてくれた。  そうして、俺達は一緒にいる。 「ところで、結先生。メンテナンスって大変なんですか?」 「プログラムを走らせて問題無ければそれで終わりですよ」 「それだけ?」 「えぇ、それだけです。でも終わるまで長いんですよ〜」  そう言いながら事前に買ってきたプリンを冷蔵庫から出した。 「はい、久住君にもお裾分けです」 「あ、ありがとうございます」  ここは研究室に冷蔵庫があることにつっこみをいれた方が  いいのだろうか?  そのとき突然機械がうなる音が聞こえた。 「なんだ?」 「え? どうしてとび太が起動してるんですか?」  モニターされてる時空転移装置がうなってるようだ。 「結先生?」  結先生はキーボードを叩きながらモニターを確認している。 「・・・どうやら100年後から何か送られて来るみたいです。  でもそんな予定は聞いてません」 「じゃぁいったい何が?」 「わかりません・・・あ」  急に機械がうなる音が小さくなって消えていった。  結先生は状況を確認している。 「ちょっととび太の所に行ってきますね」 「結先生、俺も行きます」 「だいじょうぶです、危険はありませんから、すぐにすみます」  そう言うと結先生は通路に向かって歩いていった。  そしてすぐに戻ってきた。手には小さな包みを持っていた。 「結・・先生?」 「送られてきたのはこの包みだけのようです」 「大丈夫なんですか?」 「スキャンした結果、中身はデータディスクだと思います。」 「・・・なんだ、安心した」  思わずへたり込みそうになった。 「念のため恭子と玲さんを呼んでから開けましょう」  そう言うと電話を使って二人を呼びだした。 「あらら・・・私のコードじゃ開けられませんでした」 「それじゃぁ私がやってみるわ」 「どういうこと? 恭子先生」 「結の持つIDであけれないデータって言うことはそれだけ高い  セキュリティでガードされてるって事。つまりそれだけ重要って事よ」  理事長が自分のIDを入力しているのだろう。その後カードを通して  やっとデータディスクの中身を見ることができた。 「え?」 「これは?」 「冗談でしょう?」  三者三様の反応をする。俺はというとモニターを見ても意味が分かって  ないので反応しようがなかっただけだが・・・ 「どうだったんですか?」 「・・・これは警告書です」 「警告? 一体何の?」 「吸血鬼よ」 「は?」  吸血鬼? あの血を吸う怪物の事か? 「えぇ、久住の思ってる通りの化け物よ」 「それがなんで?」 「私が説明するわ」  玲さんが説明をしてくれた。  時空転移装置の研究は当時何カ所に別れて研究されてたそうだ。  いつマルバスに犯された患者に襲われるかわからないため、分散して  研究をし、軌道に乗ったチームの所へ情報を転送し、開発されたそうだ。  そして完成した装置が、今ここにある。  ただ、それを良しとしない一部のチームが情報をコピーし独自に研究し  開発に成功したところが1カ所今になって発見された。  何故今になってか、というとそこには誰もいなかったからだ。  装置も破壊されており稼働できない状態だったそうだが、そこから研究の  記録が回収された。 「その研究記録には、マルバスにうち勝つための方法が書かれてたそうよ」 「それって・・・」 「マルバスに勝つための遺伝子を開発し人に組み込む方法・・・ワクチンでは  なく、遺伝子を組み込むというのなら人体改造ね」  玲さんの言葉に誰もが口を挟まなかった。 「そしてその研究は成功し、そのチームすべてが改造を受けたみたい。  ただ、そこで問題が起きたみたいね。」 「玲さん・・・その人体改造の結果その人達は・・・」 「えぇ、マルバスにうち勝つ強靱な能力を得た変わりに、その身体を維持  するために血液を必要とする種族、まさに吸血鬼ね」 「玲さん、その問題ってもしかして?」  震える声で結先生がたずねる。 「たぶん野乃原先生が思ってる通りよ。吸血鬼は同族の血では駄目なのよ」 「それで、そのチームは開発中の時空転移装置を使って人がいる過去に飛んだ  そう言う訳ね?」  恭子先生が確認をする。 「えぇ、どの時代に飛んだかはわからないけど、同じ作りをしてる装置なら  この世界の同じ時間に来た可能性はあるわ」  部屋の中に降りる沈黙。 「あの、質問なんだけど・・・」 「なんですか、久住君」  疲れた顔の結先生。俺は、結先生のそんな顔を見ていたくない。  だから質問する。 「さっきから話を聞くと、可能性の話ばかりじゃないですか。本当にこの時代に  吸血鬼がいるんですか?」 「それは可能性でしかないわ」という玲さん。 「それじゃぁ、この警告っていうのは警告なだけじゃないですか」 「たしかにそうね」と、恭子先生。 「警告は警告として受ければ良いんですよ、その対策もすればいい。  ただ、それだけじゃないですか?」 「・・・」  3人とも驚いた顔をしている。俺は何かおかしいこと言ったのだろうか? 「ぷっ」 「あはっ」 「ははっ、久住。おまえは大したヤツだよっ!」  3人とも急に笑い出した。 「そう言う事ね。まだ実害が出ているわけじゃないし、必ずしもこの時代に  いるって言うわけじゃないんだし。今から暗くなっていてもしょうがないわね」 「そうよ、玲。少しは久住の脳天気さを見習わなくっちゃね」 「あの・・・なんか馬鹿にしてませんか?」 「そんなことないですよ、久住君。みんな誉めてるんですよ」 「・・・そう言うことにしておきますか」  俺はそっぽを向いた。 「久住ぃ、何照れてるのよ?」 「照れてなんかいません!」 「久住君可愛いです」 「結先生!」 「ふふっ」  部屋は笑いで包まれた。起きもしていない事件に結先生が暗い顔をする事なんて  必要ないからこれでいいんだ、きっと。俺はそう信じた。  実際この時代で吸血鬼の噂は都市伝説のたぐいしか無く、警告は警告だけで  終わったのだから。  ただ、この日本のとある小島を舞台に、吸血鬼が実在し俺達と同じような  物語があった。そのことは俺達は一生知る機会はなかった・・・
11月21日 ・FORTUNE ARTERIAL sideshortstory 「Kissの味」 「孝平、私を部屋に連れ込んで、何をするつもりなの?」 「まぁ、そっちで待っててくれないか?」 「えぇ、いいわよ」  桐葉を部屋に呼んでから、俺は前もってそろえておいた材料を取り出す。  備え付けの小さな冷蔵庫から卵を取り出す。  部屋にあるのは電気式の小さなコンロ、ガスじゃないけど火力、この場合は  電力に問題はない。 「後は俺次第だな」  ボウルの中に卵を割っていれ、手早く数回かき混ぜる。  塩と胡椒をほんの少量いれて、そして桐葉のための隠し味を少量いれる。  フライパンをのせて油とバターを薄くひく。  電気による熱でフライパンが熱せられたところにボウルから卵を落とす。  ジュッと卵が焼ける音がする。  手早くかき混ぜ、手早くまとめる。  そしてすぐにコンロからからおろしてフライパンの端にまとめる。  用意したお皿に移す。 「ふぅ・・・」  ほんの少しの時間の工程なのに、すごく緊張してしまった。  うっすらと汗もかいているだろう。 「なんとか出来た」 「手際は良いわね、卵はうまくまとまってないようだけど」 「え?」  気づくと俺のすぐそばに桐葉が立っていた。  いつのまに・・・ 「それで、このオムレツを私に食べさせるつもりかしら?」 「まぁ、そういうわけだ」  ケチャップとかはかけず、見た目は黄色いオムレツ。  以前桐葉が作ったオムレツは溶岩のように赤い色をしてた。  ・・・思い出すのは止めておこう。 「とにかく食べてくれないか?」 「えぇ、孝平がそこまで練習してくれたのだから頂くわ」 「れ、練習なんて・・・」 「見ればわかるわ、あの手際は練習しないと出せない物ね」  あっさり見破られてしまった。 「それでは頂くわね」  桐葉は綺麗な箸さばきでオムレツをひとかけらにきってつまみ  口元に運んだ。 「・・・」 「・・・ど、どうかな?」 「・・・」 「・・・」 「孝平、これにいれた物を見せてくれない?」 「わかるのか?」 「もしかすると、そうじゃないかと思うの」  俺はキッチンの所にある調味料の小さな瓢箪をとりだした。  そう、小さな瓢箪。 「これは・・・」 「親父に頼んで、取り寄せてもらったんだ。これはね」 「長野の八幡屋礒五郎の七味唐辛子」 「・・・なんで知ってるんだ?」  隠し味程度にしか使わなかったのに店の名前まで当てるって・・・  桐葉の誕生日を偶然知ることが出来た俺だったが、知ってから誕生日までの  時間がほとんど残ってなかった。  桐葉に花をプレゼントする事も考えたのだが、それは違う気もした。  いろいろ調べてる内に何故かたどり着いたのは七味唐辛子。  あのときの調理実習の時の印象が未だに俺の中に残ってのだろう。  ・・・印象というよりトラウマだけど。  それなら美味しいオムレツを、と思いついてから練習を開始。  そして親父に頼んで遠方の知人を経由し手に入れたものだった。 「桐葉、誕生日おめでとう。オムレツがプレゼントだなんて格好つかないけどな」 「孝平、ありがとう」  そっと目を閉じる桐葉と俺の唇は重なった。  夕陽の見える丘の時と同じ甘いキス・・・ではなく、キスの味は辛かった。  ちなみにこの取り寄せた七味唐辛子はすべて桐葉の手元に渡った。  俺は使うことは無いだろうし、桐葉が物欲しそうにしてたのでプレゼントした。  物欲しそうな桐葉なんて珍しい物を見れたのは良かったのだが。 「最高のプレゼントよ」  といって七味を抱く桐葉は美しかったんだけど。  俺の作ったオムレツより七味の方が嬉しかったのか。  ・・・わかってはいたけど、ちょっとへこんだ。
11月4日 ・Canvas2 sideshortstory 「TRICK OR ?」 「菫先輩の誕生日のお祝いとハロウインパーティーをするの。  お兄ちゃんもちゃんと来てね。」  11月3日の祝日、竹内の喫茶店で美咲菫の誕生会と一緒にハロウインの  パーティーを行う事になった。  友達を祝うパーティーだけど監督役が必要と竹内が主張したらしい。  その流れで俺がかり出されることになったのだが・・・ 「断る」 「えー、なんで?」 「俺は忙しいんだ」 「お兄ちゃん連休の予定なにもないの知ってるよ?」 「それでも忙しいんだって」 「可愛い妹がこんなに頼んでも?」  エリス、涙目は反則だぞ?  ・・・結局行くことになった。  誕生会出席を断った理由、それは前回の悪夢を思い出したからだ。  あのクリスマスパーティーの時は俺の詰めの甘さで酷い目にあった。  だから今回はハロウインに関していろいろと調べた。 「・・・だからって、何でお菓子を買っておかないといけないんだ?」  駅前でお菓子を人数分買っておき、これで「TRICK OR TREAT」と言われても  無事逃げ切れるだろう。 「ふっ・・・俺って完璧」  ・・・商店街を出てから美咲へのプレゼントの花束を予約してくるのを  忘れたのはご愛敬、ということで。  当日、集まった面々はいつものメンバーだった。 「誕生日おめでとう!!」  というお祝いの言葉と共に飛びまくるシャンパンの栓。  ・・・シャンパンの栓? 「なんでシャンパンなんだ?」 「なにをいってるの、せんせー、今日はハロウインだよ?」  と俺の下の方から声をかけてきた萩野可奈は・・・ 「何だ、その格好は?」 「よくぞ聞いてくれました、これは魔法使いさんなのです!」  ぱっと見た目セーラー服っぽい。  白いシャツに赤いスカートと赤いネクタイ。  ただ上から羽織ってるコートが黒で、いかにもっていう三角帽子を  かぶっている。 「ふっふ〜、せんせー、覚悟! トリックアンドトリート!」 「ほらよっ」  俺は用意して置いた洋菓子の紙袋を一つ手渡した。 「えー! せんせー用意してたの?」 「あったりまえだ、俺は用意周到の男なのだよ」 「つまんないー」  この調子なら乗り切れそうだ。 「美咲、誕生日おめでとう」 「ありがとうございます、先生」  順番が少し後になったが、花束をプレゼントした。 「プレゼント、よくわからなかったからこれでごめんな」 「いえ、嬉しいです・・・」 「美咲?」 「いえ、なんでもないです」 「菫、言いたいことがあったら言わないとだめだぞ?  この朴念仁な先生は言わないとわからないから」 「誰が朴念仁なのかな、竹内麻巳前部長殿?」 「言わないとわからないんですか? 朴念仁な上倉浩樹美術部顧問様?」 「・・・やっぱり私って存在感薄いんですね」  美咲の漏らす言葉に気づかず俺達の視線の間に火花が散ってた。 「浩樹、トリックオアトリート!」 「・・・霧、歳を考えろよな?」 「なによぉ、いいじゃないっと。さんきゅ」  俺がわたしたお菓子の袋をしっかり受け止めながら反論する。 「あー、でも残念。私だったら浩樹が喜ぶような悪戯するのにな〜」 「・・・おまえ、また酔ってるのか?」 「またって失礼ね〜、シャンパンくらいで酔うわけないじゃない」  そう言って手に持ったグラスを俺に見せる。  そこには琥珀色の液体が満たされていた。 「ってワインまであるのか?」 「何を言ってるの? 今日はお祭りなんだからいいじゃない」  そういってワインを一気に飲み干す。  ワインってそう言う飲み方するものじゃないんですけど・・・ 「ほら、朋子ちゃんも・・・」 「でも」 「だーめ、言うの」 「・・・おまえら何をしてるんだ?」 「っ! 盗み聞きだなんてこの変態!」 「おい、俺の前でこそこそしゃべってるのが盗み聞きになるのか?」 「お兄ちゃんだめだよ? 乙女の会話を聞いちゃ」 「・・・」  どこをどうつっこめば良いんだろう? 「ほら、朋子ちゃん」 「わかったわよ・・・」  ため息をつく藤浪。そして決意をしたような、まっすぐな顔をして 「上倉先生!」 「はいっ」  思わず緊張してしまう。 「と・・・とり・・・とり・・・」 「鳥?」 「その・・・とりっ・・・」 「・・・ほらよ」  何かを言うのに緊張してる藤浪にお菓子の袋を放り投げる。 「あー、お兄ちゃん横暴」 「何が横暴なんだ?」 「可愛い女の子が一生懸命告白してるのに無駄にした」 「・・・エリス、おまえは何が言いたいんだ」  と、そのとき横で肩をふるわせてる藤浪がいた。 「・・・この変態色情魔!」 「いてっ!」  俺の足を踏んづけてから奥の方へと去っていった。  って何で色情魔って言われないといけないんだろう・・・ 「お兄ちゃん、飲んでる?」 「エリス、前にも言ったけど、その問いは何か違うだろう?」 「いいの、特別な日なんだからっ!」  そういうエリスは何故か撫子学園の制服を着ていた・・・? 「エリス、その制服は?」 「撫子の前の制服だよ」  撫子学園は鷺ノ宮理事長が就任したとき、いろいろと変わり、  制服もそのときリニューアルされた。  その前の制服ということだけど・・・ 「そんなのどこから持ってきた?」 「それは〜、乙女のひ・み・つ。きゃっ」 「・・・」 「さてと、お兄ちゃん。覚悟はいい?」 「ふっふっふっ、今日の俺はひと味違うぞ?」 「それじゃぁ、行くね」  そう言うとエリスは深呼吸した。そして・・・ 「トッリクアンドトリック!」  ・・・  ・・・はい? 「エリス、そこはトリックオアトリートだろ?」 「ううん、これであってるよ。お兄ちゃんに悪戯するんだもん」 「・・・おい、それは趣旨が違うだろう?」 「だって、お兄ちゃん事前にお菓子用意しておくんだもん。これじゃぁ  悪戯できないから、トリックアンドトリックに変えちゃった、てへ」 「・・・」 「そーいうわけで、お兄ちゃん覚悟!」  飛びつこうとしてくるエリスを回避する。 「ひっどーい、美少女をよけるなんて!!」 「普通自分で美少女っていうか?」  そのとき俺のすぐ横に萩野がいた。 「せんせー、トリックオアトリック!」 「萩野、おまえはすでに終わっただろう? それに言葉も違うっ!」 「んー、じゃぁ、2度目ってことで」  そういって抱きつこうとする萩野を回避する。  カチャッ  そのとき、何かの音が聞こえた。  きっと気のせいだと思いたいのだけど、残念ながら以前も聞いたことのある  鍵をかけるような音・・・ 「竹内! 何を」 「覚悟をしてくださいね、先生」  その竹内の顔は赤みをさしていた。  ・・・あいつも相当飲んでるな。 「ここまでされて逃げるなんてさいてー」  すでに顔を赤くして・・・酔っている藤浪。 「今日は私が主役のはずなのに・・・」  一人でひたすら琥珀色の飲み物を飲み干している美咲。 「私の悪戯は天国行きよ?」  俺をロックオンしようとしている霧。 「せんせー、ちゅーしよっ!」  俺を追いかけてくる萩野。 「これでよしっと」  店のカーテンを閉めている竹内。 「お兄ちゃん〜、トリックアンドトリック! 私に悪戯してね♪」 「・・・エリス、悪戯するのはそっちの方だろうがっ!」 「え、いいの?」 「・・・しまったぁ!」  思わずつっこみをいれてしまったがそれは自爆だった。 「みんな〜、お兄ちゃんの許可がでたよ〜」 「だしてないだしてないっ!」 「お兄ちゃん、お覚悟をっ!」  ・・・  ・・・  ・・・  気がつくと朝になっていた。  何があったかは思い出したくない事を追記しておく。 「ふぅ」  ため息と既視感と共に、俺は思いを吐き出す。 「もうこのメンバーでパーティーには参加しないぞ・・・」
10月20日 ・夜明け前より瑠璃色な -if- sideshortstory 「ご褒美」 「ただいま〜」 「おかえりなさい、お兄ちゃん。」  左門でのバイトを終えて帰ってきた俺を麻衣が出迎えてくれた。 「お兄ちゃん、お願いあるんだけど」 「何?」 「お姉ちゃんに届け物頼んで良い?」 「姉さんまた泊まりになるの?」 「うん、さっき電話あったの。」 「わかった、準備出来るまでリビングで待ってるな」 「ありがと、お兄ちゃん」  麻衣の準備は夕ご飯のお弁当を作り、着替えをいれたバックを  用意するだけなので、すぐに終わる。 「それじゃぁイタリアンズの散歩も一緒にしてくるから」  少し遅くなるかも、と付け加えてから博物館に向かって出発した。  博物館まで来ると、いつもと様子が違うように感じた。 「電気が消えてるからか?」  正面玄関の電気は消えている。いつも姉さんが泊まり込むときは他の  職員さんもいるので館内は電気がついてるはずだ。  こうなると正面からは入れないので警備員さんがいる通用口に回る。  通用口を開けてもらうと、館内は非常灯以外電気がついていなかった。  警備員さんにお礼を告げてから、暗い館内を慣れた足取りで、館長室へ  向かう。  コンコン。 「はい、どなたかしら?」 「姉さん、達哉です」 「どうぞ」  扉を開けて館長室に入る。  部屋の中の明かりがまぶしく目を細める。 「わざわざありがとうね、達哉君」  制服に身を包んだ姉さんが出迎えてくれた。 「はい、これ麻衣から。夕ご飯まだだよね?」 「ありがとう、ちょうどおなかがすいてたところなの。」 「それとこれ」  手に持ったバックを姉さんにわたす。 「ありがとう、達哉君」 「姉さん、今日は館内真っ暗だけど、残ってるの姉さんだけなの?」 「えぇ、私だけよ」 「泊まり込むほどの仕事なの?」 「ん〜、そう言われるとそうではない、かな」  姉さんの話だと、今してる仕事は館長としての事務仕事だそうで、  別に明日でもかまわないらしい。 「でもね、今終わらせておけば、明日は別な仕事ができるでしょ?」 「確かにそうだけど・・・無理はしないでね?」 「だいじょうぶ、この仕事もそんなに時間かからないから。  今日泊まるのもね、この仕事終わった時間から帰るのが大変だからなの」  深夜に仕事が終わったとしても、夜道の女性の一人歩きは良くない。  そう言う意味では泊まってしまう方が安全だろう。 「そんなに遅くはならないと思うし、今日は宿直室の方を使って  ちゃんと寝るから安心してね」 「・・・わかった」  姉さんの言うことは間違ってないはずだけど・・・ 「達哉君、難しい顔しちゃって・・・そんなに心配?」 「そう言う訳じゃない・・・わけないか。やっぱり心配。  ちゃんと寝てるかどうかとか、調子悪くなってないとか・・・」 「ごめんね、心配かけちゃって」 「姉さんは悪くないよ、ただ・・・」  がんばってる姉さんに何も出来ない俺がふがいないだけだから。 「それじゃぁ、達哉君にお願いしちゃおうかな?」 「俺に?」 「うん、達哉君じゃなくちゃ出来ないこと。」 「俺に出来ることなら何でもするよ」 「・・・それじゃぁね、その・・・ご褒美くれる?」  姉さんが恥ずかしそうに、上目遣いでそう言ってきた。 「・・・そんなんでいいの?」 「そんなのじゃないわ、達哉君のご褒美って気持ちいいんだもの」 「姉さんが喜んでくれるのなら何度でもするよ」 「だめよ、何度でもされちゃうとありがたみなくなっちゃうもの」 「そういうものなの?」 「そういうものなの」  よくわからないけどそう言う物らしい。 「それじゃぁ」  俺は姉さんをそっと抱きしめる。  そして、そっと頭を撫でる。 「ん・・・」  そっとそっと頭をなで続ける。  いつも姉さんが俺にしてくれるように、俺が姉さんにしてあげる。 「達哉君に撫でてもらうと、安心しちゃうな」 「俺も、姉さんに撫でてもらうと安心できる」 「くすっ、ありがとう、達哉君。」  姉さんはそっと俺の腕の中から離れる。 「よしっ、パワー充電完了!」  小さくガッツポーズをとる姉さん。  俺はというと、それどころじゃなかった。  今更考えてみると、姉さんの頭を撫でるのに、姉さんを抱き留める  必要はなかった。  姉さんを抱き留めて、全身で姉さんを感じてしまった俺は自分を  抑えるのに必死だった。 「あら?」 「な、何?」 「うふふ」  姉さんが微笑む。いつもの天使の微笑みではなく、これは・・・ 「ねぇ、達哉君。着替えも持ってきてくれたから、お姉ちゃんシャワー  浴びようと思うの。」  俺はゴクリと唾を飲み込んだ。 「折角だから達哉君、もっとご褒美もらってもいい、かな?」  ・  ・  ・ 「ただいま」  もう日付が変わるような時間にやっと家に帰ってきた。 「おかえりなさい、お・に・い・ちゃ・ん」  玄関で出迎えてくれた麻衣の声にびくっとする。 「ずいぶんゆっくりだったね? お兄ちゃん」  麻衣はにこにことしてるけど、何故かすごい迫力を感じる。 「いや、その・・・」 「お姉ちゃんと一緒にいたんだよね?」 「・・・はい、遅くなってごめんなさい」  ここは素直に謝るしかない。 「ふぅ、いいの。お姉ちゃんも大変なんだし」  麻衣から発せられるプレッシャーは消えた。 「でもね、お兄ちゃん・・・連絡無く遅くなった罰は受けてもらうよ?」 「・・・」  麻衣から別なプレッシャーを感じる、それは・・・ 「お姉ちゃんにしてあげたことを、私にもしてね」
10月18日 ・D.C.II sideshortstory 「秋の花火と」 「ねぇねぇ、弟くん。この黒い袋なんだろう? 押入にあったんだけど」  夕食の後、掃除をしてた音姉は何かを発見したようだ。 「もしかして・・・えっちな本?」 「音姉、もうそういう本は見ないって約束したじゃないか」 「そ、そうだよね。私、弟くんの事信じてるから」  今さっきまで思いっきり疑ってたのは誰でしょうね、音姉。  と、声に出さずに思う。 「それじゃぁこの袋の中身は何かしら?」 「あけてみればいいんじゃない?」 「でもきつく縛られてるけど、だいじょうぶなのかな?」 「大丈夫だって、あけてみよう」  袋はきつく縛られていてあけるのにちょっと苦労した。  あいた袋の中身は 「花火だね」 「そういえば、夏に使った花火の残りをしまったっけ」  少しだけ残った花火を、しけらないようにときつく袋の封を縛ったのを  思い出した。 「ねぇ、弟くん。折角だから花火しない?」 「今から?」 「駄目かな?」 「もう秋だよ?」 「秋だと花火は駄目なの?」 「う・・・」  音姉のお願いのうるうるとした目に俺は押され気味になる。 「ね、少ししかないから遊んじゃおうよ」 「ふぅ、わかった。花火しようか」 「うんっ!」  芳乃家の庭先で一人待つ俺。 「私、準備してくるから弟くんはバケツにお水いれて準備しててね」  そういって部屋に戻っていった音姉。  きっと寒いから何か厚手の洋服に着替えてくるんだろうな。 「そこまでして花火したいだなんて、音姉も結構子供なんだよな」  と、口に出して俺はあわてて周りを見渡す。  まだ音姉は戻ってきてないようだ。  ふぅ、と一呼吸つく。  子供っぽい事は音姉も認めてるところはあるけど、面と向かって  言うと機嫌損ねちゃうからな、注意しないと。 「弟くん、おまたせ〜」 「よし、それじゃぁ花火を・・・って音姉?」 「何?」 「その格好は」 「浴衣だよ、せっかくの花火だもん。浴衣の方が気分でるじゃない」  その場でくるっと一回転する音姉。  作:ブタベストさま 「それにね、夏祭りの時に似合うって言ってくれた浴衣をもう一度見て  欲しかったから・・・」  そう言われてしまうと俺は何も言えない。 「よ、よし。それじゃ花火はじめようか」 「うん♪」  とは言った物の、残り物の花火は少しの時間で終わってしまう。  最後の線香花火を二人で持っていた。  線香花火の明かりに照らされた音姉の横顔はすごく綺麗で思わず  見とれてしまう。 「何? 弟くん?」 「いや、なんでもないよ」 「・・・あっという間に終わっちゃったね」 「俺はこれで良いと思う」 「なんで? ちょっとしかなかったんだよ? 私は弟くんともっと  一緒に花火したかったな」 「音姉、花火は来年の夏にまたやればいいよ。俺はもうどこにも行かないから」 「弟くん・・・」 「それに、いくら綺麗だからって音姉にその格好のままにさせていられない。  風邪ひいちゃうから」 「くちゅん」 「ほらね、後かたづけは俺がしておくから部屋に戻ろう」 「うん、ありがとう、弟くん。でも弟くんも風邪ひいちゃうから・・・  一緒に戻ろう」  確かに俺の身体も冷えてきている。 「そうだな、ゴミ出しは明日にして、部屋に戻ろうか」  使った花火のゴミをすべてバケツにいれて、玄関の中においておく。 「音姉、先にお風呂入っちゃいなよ。」 「ありがとう、弟くん。でも弟くんが先でいいよ? 身体冷えてるでしょ?」 「それを言うなら音姉が先。薄着なんだから風邪ひく前に暖まる事」 「・・・」 「音姉?」 「ねぇ、弟くん。このままだとどっちが先に入るか決まらない・・・よね?」  頬を赤く染めた音姉。  俺は何となくこの後どうなるか、考えてしまい・・・  きっと俺の顔も赤くなってると思う。  そして、俺の予想通りの提案を音姉はしてくる。 「一緒にお風呂、入ろうか?」
10月17日 ・そして明日の世界より―― sideshortstory 「夢」  あいている窓から入ってくる穏やかな風が、ベットの上で眠ってる  御波の前髪を揺らす。  俺はそれを見て、窓の外に目を向ける。  窓の外から空を見上げる。  そこにあるのはいつもの青い澄んだ空だった。 「ん・・・」 「御波?」 「あ・・・葦野さん? ここは・・・そういうことね」  御波は目が覚めてすぐに状況を把握したようだ。 「また葦野さんにご迷惑を」 「迷惑なんてかかってないからな、御波」 「でも」 「俺は御波の友達だぞ? これくらいは迷惑だとは思ってない」 「・・・ふふっ、ありがとうございます」  御波は生まれつき身体が弱い。  今日も午後の授業の終わりの時体調を崩して倒れてしまったのを俺が  保健室に運んでずっと付き添っていた。 「でも安心したよ。顔色は悪くないし・・・それどころか穏やかだった」 「・・・寝顔、見てたんですか?」 「え? あ、いや・・・その・・・」  しまった、夕陽の時とは違ったんだっけ。 「くすっ、看病していただいたのですからそれくらいは許して差し上げます」 「わりぃ」 「穏やか・・・たぶん、夢の所為だと思います。」 「夢?」 「えぇ、ちょっとした夢を見てたみたいです」 「どんな夢を見てたんだ?」 「・・・そこは大きな島でした。  人がいっぱいいてそこにある学院はたくさんの学生であふれかえってました。  全寮制で生徒はみんなそこで生活していて私はその寮の寮長さんでした。」 「寮長? ってことは先生なのか?」 「いえ、学園生です。妹と同じ制服を着てましたから」 「妹もいたのか」 「えぇ、妹と同じ学園に通って授業を受けて校内を走り回って・・・」  そこで言葉が途切れる。 「・・・今思ったんです。これが私の望む物だったのかな」  まただ。  友達が苦しんでいるのに俺は何もできない。ただそこにいることしかできない。 「・・・」 「葦野さん?」 「・・・そうだな、この学校は広いから泊まることくらいはできるよな」 「?」 「寮はないけど、夕陽や樹を誘ってみんなで泊まれば楽しいな」 「え?」 「御波さえ良ければみんなで合宿でもするか?」 「え、え?」 「さすがに人が一杯の学園ってのは無理だけどな」 「あ・・・」 「そのためには御波は今はゆっくり休まないとな」 「・・・はい、ありがとうございます」  御波に楽しい学園の思い出を作るために、俺は頭の中で計画を立て始めた。  少しした後、御波が帰るということになり俺が送っていくことになった。 「さっきの夢の話ですけど、どうせなら奇抜な夢を見たかったです」 「奇抜?」 「えぇ、普通の学園生活の夢は、夢で見る必要なんて無いのがわかったから」 「・・・そうだな」 「だから・・・そうですね。」  そう言うと御波は空を見上げた。  夕暮れ時の空には綺麗な月が浮かんでいた。 「あの月に人が住んでいて、私はその月に一つしかない国の  王女様なんてどうかな?」 「・・・確かに奇抜だな。だとすると俺もその月に住んでいるのか?」 「葦野さんは地球の普通の青年です」 「そうか、残念だな」 「でも、月の王女さまと地球の青年との恋なんて、面白い話だと思いませんか?」  思わず俺は横を歩く御波の顔を見た。 「すべては空想ですけどね」  大きなリボンを揺らして笑う御波がそこにいた。
10月14日 ・瑠璃色ショートストーリー sideshortstory「ファースト・ステップ」 「フィーナさーん、ミアちゃーん! またねー!」  私は往還船の窓の中で手を振ってくれてるミアちゃんとフィーナさんを  見つけて大きく両手をふった。  声が届かない事はわかってるけど、それでも二人の名前を呼び続けた。  昨日からずっとうつむいたままのミアちゃんが、微笑んでくれている。  涙を流しながら微笑んでくれて、手を振ってくれている。  笑って送ってあげなくちゃ。  私は往還船が見えなくなるまでずっと手を振り続けた。 「行っちゃったね・・・」 「麻衣ちゃん、私たちもそろそろ帰りましょうか」 「・・・」  私はその場から離れるのが惜しくて、何も出来なかった。  連絡港のロビーも、もう来ることはないだろう。 「・・・達哉君、私は退出の手続きしてくるわね、麻衣ちゃんを  よろしくね」 「あぁ」 「麻衣、そろそろ帰ろうか」 「お兄ちゃん・・・」 「でも、その前に」  そう言うとお兄ちゃんは私を後ろから抱きしめてくれた。 「泣きたいときは泣いていいんだよ、麻衣」 「わたし・・・笑顔で見送れたかな?」 「あぁ、だからもう良いんだよ、麻衣」 「っ・・・お兄ちゃん!」  お兄ちゃんは私をそっと抱き続けてくれた。  私はお兄ちゃんに抱かれながら、大声をあげておもいっきいり、泣いた。 「達哉君も我慢しなくていいのよ?」 「姉さん、俺は別に我慢なんてしてないよ」  落ち着いた私の頭を撫でながらお兄ちゃんはそう答えた。 「そうなの? 私は我慢してるようにしかみえないけど。  なんなら私の胸の中で泣く?」 「・・・だいじょうぶだって」  一瞬あったその「間」に嫉妬して私はお兄ちゃんに抱きつく腕の力を  強くした。 「ん? どうしたんだ?」 「・・・なんでもない」  ・・・鈍感。 「でもさ、我慢してないって言うとやっぱり嘘になっちゃうのかな。  俺だって家族がばらばらになるのは寂しいよ」 「お兄ちゃん・・・」 「でも、フィーナの家族は月にいる。ミアの家族もだ。  だから、こうなることは最初からわかっていたことだから・・・」  お兄ちゃんの目にひかる物が見えた気がした。 「でもさ、俺はこれが最後だとは思ってないんだ、むしろ最初だと思う」 「最初?」 「そうだよ、麻衣。ホームスティから始まるんだよ。歩く道は違うけど  俺達の道は交わった。これが最初なんだよ」 「お兄ちゃん・・・じゃぁ、この後フィーナさんやミアちゃんの歩く道と」 「そうだよ、麻衣。またいつか絶対交わるときが来ると思う。  月と地球の国交が回復した時に、きっと」 「そうね、フィーナ様ならきっとやり遂げてくださるわ」 「それじゃぁ、またいつか会える時がくるんだよね?」 「あぁ、今日は最後のステップじゃなくて、最初のステップなんだから」 「うんっ! 私もそのときが来るのをずっと待ってる!」  私はもう一度空を見上げた。  もう往還船は見えないけど、これが最後じゃないってわかったから。  最初なんだから、またいつか会える。  目を閉じて深呼吸して、私は空に向かって約束をする。 「フィーナさーん、ミアちゃーん、また絶対会おうねー!!」 ---  発売前の作品のSSを書くのと、本家シナリオライターさんが書いたSSの  二次創作を書くのと、どっちが「やっちゃった」事になるのでしょうか?(大汗)  正解:五十歩百歩(T_T)
10月4日 ・FORTUNE ARTERIAL sideshortstory 「最高の贈り物」 「陽菜、調子悪いのか?」 「え、何?」 「調子でも悪いのか?」 「ううん、そんなことないよ。私はいつもと同じだよ」  そういう陽菜は素人目に見てもいつもと違っていた。  調子が悪そうに見えるわけではないが、時折ぼーっとしている。 「ならいいんだけど・・・」 「だいじょうぶだって、孝平君は心配性だなぁ」  にこにこ笑いながらそう答える陽菜は、確かにいつもの陽菜に見える。  ・・・俺は違和感を拭えなかった。  食堂で昼食をとっている時も陽菜の様子がおかしかった。  楽しく会話しながらの昼食には変わらないのだけど、陽菜の箸が時折  止まってしまう。 「陽菜、調子悪いなら早退して寮で休んでた方がいいよ?」 「だいじょうぶだって、なんでもないから」  そういう陽菜はどうみても何でもないようには見えなかった。 「かなでさんなら何かしってるかもしれないな」  俺はそう思って放課後にかなでさんに事情を聞くことにした。 「・・・そういえば、かなでさんってどこにいるんだろう?」  いつも突然現れたりするかなでさんだけど、探そうとすると  どこにいるか想像がつかない。  寮に帰ってしまってるのだろうか? 携帯で連絡とれるといいのだけど・・・  リダイヤルの履歴から悠木かなでの名前を選択し電話をかける。 「あれ? こーへー、なにしてるの?」  電話に出る前に俺の後ろからかなでさんの声がした。 「かなでさん、いつからそこにいたんですか?」 「んー、少し前くらいからかな? ちょっとこーへーを観察してみました〜」  てへっと笑うかなでさん。どこからどうつっこめばいいのか・・・ 「って、それはいいとしてかなでさん。今日の陽菜はなんかおかしいんですけど  何か知ってませんか?」 「ひなちゃんがおかしい・・・か。やっぱりね」 「何がやっぱりなんですか?」 「んー・・・実はね、今日はひなちゃんの」  パシッ! 「えぅ」 「私の何なのかしら? お姉ちゃん?」  手に持った折り畳んだ扇子で頭をはたかれたかなでさん。 「・・・最近はスリッパ持ち歩かないんだね」 「うぅ、だからそこはつっこみ所じゃないんだってばぁ」  涙目になって頭を抑えてるかなでさん。  ・・・あれ? なんだ、いつもと同じ光景じゃないか。  別に陽菜は普通だし、叩かれるかなでさんも普通だし。  もしかして俺の気にしすぎだったのかな? 「お姉ちゃん、黙っててっていったじゃないの」 「でも、ひなちゃん、やっぱり・・・」 「いいの、孝平君に迷惑かけられないし」 「どうしたの? 二人とも」 「え? ううん、なんでもないよ」 「そーそー、なんでもないよ」  かなでさんのあわてる弁解はいつもと同じだけど、陽菜のあわてて  弁解してる姿は見たことがない。  やっぱり調子が悪いんだろうか? 「ふぅ、陽菜。俺には何も出来ないと思うけど何かあったら言ってくれよな」 「・・・ありがと、孝平君。でも何でもないから。それじゃぁね」  そう言うと陽菜は去っていった。 「・・・かなでさん、それで陽菜はどうなんですか?」 「どうって?」 「かなでさんは知っているんでしょう? 教えてください」 「・・・仕方がないなぁ、聞いて後悔しない?」  後悔するかどうかなんてわからないけど、陽菜のためになにかできるかも  しれないのなら 「しません」 「ふぅ、他言無用だよ?」  そう言ってかなでさんは俺にかがむように言い、かがんだ俺の耳元で  そっと、理由を教えてくれた。 「ひなちゃん、今日はあの日だから」 「・・・」 「そーゆーことになってるから、こーへーも詮索無用だよ?」  ・・・聞いて後悔した。 「こーへー、起きてる?」 「見ての通り起きてます、というかベランダから来るのは危険だから  止めてください」  いつものようにベランダの非常通路の梯子から俺の部屋に来るかなでさん。 「あのね、やっぱり昼間の話しておきたくて」 「あれは、その・・・そういう日だからなんでしょう?」  これだけは俺はどうしようもない。 「ううん、本当は違うの。」 「違う?」 「ひなちゃんから口止めされてたんだけど・・・今日はひなちゃんの  誕生日なの」 「陽菜の誕生日・・・」  10月4日、陽菜の誕生日・・・ 「・・・くそっ、なんで俺はそんな大事なことを思い出せなかったんだ!」 「こーへーは珠津島に帰ってきて間もないし、覚えてない方が普通だよ」 「それでもっ!」  幼なじみの誕生日を思い出せず、何もせず、何も用意せず、もうすぐ  日付が変わろうとしている。 「ひなちゃんはね、思い出せないならそれでいいって言ってたの。」 「何故?」 「孝平君の事だから、思い出せなかったことを孝平君自身を責めると思うから」  ・・・ずっと離ればなれになってたのに、俺のこと良く知ってるんだな。  かなでさんの話を聞いて俺は・・・ 「かなでさん、お願いがあります」 「うん、おねーちゃんに任せなさい!」  俺のお願いの内容を聞かずに、かなでさんは引き受けてくれた。 「どうしたの? 孝平君。こんな時間に」  俺はかなでさんに頼んで、まずかなでさんの部屋に陽菜を呼び出してもらい  そこから外を経由して俺の部屋に来てもらった。  この時間に男性の部屋に直接女の子を呼ぶわけにはいかなかったからだ。 「陽菜、ゴメン、思い出せなくて」 「・・・いいんだよ、孝平君。孝平君は帰ってきてくれただけでいいんだから」 「だめだ、俺自身が許せない」 「孝平君・・・」 「もう時間が無くて、何も出来ない、けどこれだけは贈らせてくれないか?」  俺は一度目を閉じて、深呼吸する。そしてそっと歌い出す。  ハッピーバースディトゥーユー   ハッピーバースディトゥーユー    ハッピーバースディディアー 陽菜  ハッピーバースディトゥーユー  人前で一人で歌うのはとても恥ずかしかった。  だけど、今の俺に出来ることはこれしかないから 「誕生日おめでとう、陽菜」 「孝平君・・・ありがとう、とっても嬉しいよ」  陽菜は笑いながら、目元から流れる涙を拭っていた。  翌日の陽菜はいつも通りだった。  いや、いつも以上にご機嫌のようだった。 「こーへー、昨日の夜はお楽しみだったようですね」 「かなでさんの協力には感謝してます」 「そーそー、困ったときはお姉ちゃんに任せてね」 「でも、あの理由は無かったと思いますよ?」 「あの理由? 別に間違ったことは言ってないよ?  誕生日って言っちゃ駄目だから、変わりの言葉を使っただけだもん。  それともこーへーは別なことを想像しちゃったのかなぁ?」  にこにこしてるかなでさん、絶対これは楽しんでいるな。 「ふーん、何の話の事かな。 お姉ちゃん?」  ピキッ!  俺達の背後から聞こえた陽菜の声に、かなでさんは石化する。 「ひ、ひなちゃん?」 「お姉ちゃん、昨日孝平君に何を言ったの?」 「え、えとね、ひなちゃんが誕生日だっていうお話・・・」 「ありがとう、お姉ちゃん。おかげで良い誕生日になりました」  頭を下げる陽菜。場が一気に和らいだ。 「でもね、それとこれは別だよ?」  にこにこしながら話を続ける陽菜。 「こ、こーへー」 「それじゃぁ、俺は監督生室に行きますね。かなでさん、陽菜。また後で」 「うん、また後でね」 「逃げるのか、こーへー!」 「お姉ちゃん、孝平君の邪魔は駄目ですよ? 私たちは寮に行きましょうね」 「えぅ〜」
10月1日 ・夜明け前より瑠璃色な -if- sideshortstory 「デザート」 「お疲れさまでした」  左門でのバイトが終わって、クローズの作業が終わってからすぐに家に戻る。  今日は家族3人で、家で食事をする日だからだ。  玄関まで戻ると、イタリアンズはそろって眠っていた。  どうやら麻衣か姉さんが散歩に連れて行ってくれたようだ。 「後でお礼言っておかないとな」 「ただいま」 「おかえりなさい、お兄ちゃん」  奥から麻衣の声が聞こえた。 「すぐにご飯の準備できるから、手を洗っていらっしゃい」 「わかった、着替えてから行くね」  姉さんの声に返事をしながら、俺は自室へ向かう。  左門のウエイターの制服から部屋着に着替えて、洗面所で手を洗う。 「おなかすいたな、今日は何かな・・・え?」  リビングに行くと、机の上には美味しそうなご飯が用意されていた。  そして向かいの席にはすでに麻衣と姉さんが着席してまっていた。  ただ、俺の目が見ている物が間違ってなければ・・・  二人はエプロンをしている。  胸元から上と、両肩から先は肌しかみえない。  座ってるから机に隠れて、下がどうなってるかはわからない。  ・・・  ・・・  ・・・  どう考えてもエプロンしか着てないように見える。  俺は両目をこすって、もう一度部屋の中を見る。  机には美味しそうな晩ご飯。  向かいに座ってる二人は、エプロンしか着てないように見える。 「何してるの? お兄ちゃん」 「達哉君が座ってくれないと食事始められないんだけど」 「あ、あぁ。ごめん、今行く。」  言われるがままに椅子につく。 「それじゃぁ、頂きましょう」 「いっただきまーすっ!」 「頂きます」  目の前にあるみそ汁を飲む。うん、いつもの味で美味しい。  白いほくほくのご飯もある、美味しいそうなおかずもたくさんある。  ・・・なんだ、普通の夕食と変わらないじゃないか。  そう、普通の夕食だった。  おかしいとすれば二人がエプロンだけしか・・・ 「って、二人ともなんでそんな姿してるんだ?」 「達哉君ったら、今まで気づかなかったの?」  いえ、気づいてたと思います。単に思考回路が麻痺してだけです。 「ふふふっ、そんなことより今はご飯にしよ、お兄ちゃん」  そんなことって、俺からすればすごいことなんですけど?  二人はいつも通りに食事をしている。  俺はそんな二人をなるべく視界に納めないよう努力しつつ、ただ  機械的に夕食を続けた。 「あっ」  緊張してたのか、箸からおかずがこぼれて机の下に落ちてしまった。  踏まないよう注意して、机の下に落ちたおかずをティッシュでつまみとる。  そのとき、机の下からみた二人の光景が一瞬で目に焼き付いてしまった。  暗いからよくわからないけど、二人ともスカートははいてない。  もしかして、下着も? 「お兄ちゃん、何みてるの?」  ゴンっ!  麻衣の言葉に思わず顔を上げて、そのまま机に頭をぶつけてしまった。 「いつつっ」 「大丈夫? 達哉君。」 「だ、だいじょうぶです・・・」  本当は大丈夫じゃない、ぶつけた頭じゃないところが・・・ 「ごちそうさまでした」 「ごちそうさまでした」 「・・・ごちそうさま」  夕食は終わったと思う。  俺は何を食べたかも覚えてないほど緊張してたようだ。 「それじゃぁ洗い物はシンクにいれておくわね」 「あ、お姉ちゃん。私も手伝うね」  そう言って洗い物を持ってシンクの方へ向かう二人を何気なく目で  追ってしまって・・・  二人の柔らかそうなおしりは・・・丸見えだった。 「いったいなんなんだ?」 「達哉君ってこういうの好き、なんでしょ?」  俺は姉さんのその言葉にドキっとした。 「お兄ちゃんの持ってる本にそう言うのあったから・・・」  もしかして・・・仁さんが無理矢理押しつけた本の事か? 「平気な顔してたかもしれないけど、私だって恥ずかしいんだから」 「でもね、お兄ちゃんのためだもの」  俺の返事を待たずに話を進める二人。 「それでね、達哉君・・・」  机の上に腰をかける二人。 「今日のデ、デザートなんだけど・・・」  麻衣は恥ずかしそうにエプロンのすそをめくる。  そこには淡い茂みが見え隠れしている。  姉さんも同じくエプロンのすそをめくる。  そこには綺麗に手入れされてる茂みが、見え隠れしていた。 「私達がデザートなの」 「お兄ちゃん、美味しく食べてね」 「・・・抑えきかないから」 「いいのよ、達哉君。抑えなくたって」 「いっぱいいーっぱい、愛してね」
[ 元いたページへ ]