思いつきSSログ保管庫
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雑記掲載SS保管庫 2007年第2期 6月上旬〜下旬 夜明け前より瑠璃色な sideshortstory series ss「福引き」 5月27日 夜明け前より瑠璃色な sideshortstory 「誕生日は5日後に」 5月24日 Canvas&Canvas2 -if- sideshortstory「似たもの同士」 5月16日 Canvas2 sideshortstory 「平凡で幸せな1日」 5月15日 夜明け前より瑠璃色な - Brighter than dawning blue -  sideshortstory 「人として」おまけ後日談「和服の似合う少女?」 5月14日 夜明け前より瑠璃色な - Brighter than dawning blue -  sideshortstory 「人として」 5月8日 FORTUNE ARTERIAL sideshortstory 獣耳娘狂想曲 5月7日 夜明け前より瑠璃色な - Brighter than dawning blue -  sideshortstory 翠色のそよ風 5月2日 Unlimited Canvas Works 外伝? 今まで出番が無かった人達の主張 4月21日 月は東に日は西に sideshortshortstory 吸血鬼? 4月20日 夜明け前より瑠璃色な sideshortstory「女の子の魔法」 4月15日 FORTUNE ARTERIAL sideshortstory 千堂瑛里華 4月8日 夜明け前より瑠璃色な - Brighter than dawning blue -  sideshortstory エステルが制服に着替えたら 4月5日 FORTUNE ARTERIAL sideshortstory 悠木かなで
5月27日 ・夜明け前より瑠璃色な sideshortstory 「誕生日は5日後に」 ・4日前で、当日。-05/23- 「誕生日おめでとう、菜月」 「ありがとう、達哉!」  毎晩かかってくる達哉からの電話、最初に聞こえてきた言葉は  お祝いの言葉だった。 「本当は直接会って伝えたかったんだけど・・・」 「ううん、いいの。ちゃんと伝わったよ」  想いが伝わってきたのは本当。  でも、私の言葉は嘘。  達哉に直接会って祝って欲しかった。  抱きしめて欲しかった、キスして・・・欲しかった。 「でもさ、やっぱりプレゼントは直接渡したいからさ・・・  菜月? 聞いてる?」 「え、なに?」  いけないいけない、ちょっと沈み込んでたみたい。 「だから、今度の日曜日はあいてる?」 「あいてるけど・・・」 「俺、行くから。プレゼント持って」 「本当に!」 「菜月、声大きいって。時間遅いんだから」 「あ・・・ごめんなさい」  でも、大きな声で確認したいから。 「時間とか決めたらまた連絡するな」 「うん! 待ってる! なるべく早く来てね」 「あぁ、なるべく早く着くようにする」  受話器を置いてもドキドキは収まらない。  達哉が私に会いに来てくれる。  今度の日曜日に・・・  机の上にあるカレンダーを見る。今日が誕生日の23日。  今度の日曜日は27日。 「後5日・・・」  達哉が来てくれるまで後4日・・・ 「よしっ! 後5日、がんばるぞ!」 ・3日前で、翌日 -05/24-  達哉との電話の後、私はいつものように机に向かう。  大学で習うこと、覚えなくてはいけないことはたくさんあるから  予習と復習はかかせない。  かかせない・・・はずなのだけど。 「うふふ」  教科書を開いて見ているはずなのに、私の目には教科書は映って  いない。思い浮かぶのは達哉の顔。 「そうだ、達哉にご馳走作ってあげよう。カーボンから完全脱出した  事を思い知らしめてやるんだから!」  教科書をしまって変わりに料理の本を数冊取り出す。  大学の勉強も大事だけど、料理も勉強も大事。  もっともっと美味しいもの作れるようになりたいから。  達哉に美味しいって言って欲しいから。 「あれ?」  料理の本の中に全然違う本が混ざっていた。 「この本は・・・」  大学の友達が無理矢理貸してくれた・・・その・・・  表紙に彼氏を悦ばせるためのテクニックと書かれてる・・・ 「こ、この本を読めば・・・達哉も喜ぶの・・・かな?」  貸してもらったときは目を通さなかった雑誌を開いてみる。  ・・・  ・・・  ぼんっ! 「え、えぇぇぇ! こんな事するの? でも達哉が喜ぶのなら・・・」  ・・・  ・・・ ・2日前で、3日後 -05/25-  達哉のために料理を作ってあげることは予定通り。  スーパーでちゃんと食材を買って来て・・・ 「アイス・・・買っちゃった・・・」  アイスなんて料理には関係ない、たまに食べたくなることはあるけど  別に今食べたいと思ってるわけじゃない。 「と、とりあえず料理の練習を・・・」  棒アイスが6本入った3割引で買った箱から目が離れない。  ・・・ 「だめだめ、それは後、あと!!」  ・・・ 「でも、1本くらい・・・」  ・・・今日の達哉との電話、平静で居られるかな。 ・前日で、4日後-05/26-  なんだか落ち着かない。  別に嫌な予感とかしてるわけじゃない。  それどころか達哉が少しずつ近づいてくる予感は・・・ううん、それは  予感じゃなくて確信。  まだ満弦ヶ崎に居ると思うけど、明日には私の前に来てくれる。  だけど・・・落ち着かない。  それはお昼頃に届いた達哉からのメールだった。 「ごめん、菜月。今日の夜の電話はちょっと遅くなる。  必ず電話するからまっててくれ 達哉」  今までだって電話が遅れたことはあったけど、なんだろう?  何かあったのかな?  あったとしても、達哉が必ず電話するっていうのなら必ずしてくれる。  だけど、かかってくる時間がわからない電話を待つのは・・・ 「達哉・・・」  私の意志とは無関係につぶやく、愛しい人の名前。  時計を見る。  お父さんのお店はもう終わって、達哉は家に帰ってる時間だろう。  イタリアンズの散歩をして、家のことが終わる頃の時間になったら  電話をしてくれる達哉。  そのいつもの時間まではまだあるけど、今日はその時間に電話は・・・無い。  ベットの上で横になる、手にはならない電話を持ったまま。 「達哉・・・」 「きゃっ!」  突然手の中にある携帯電話が鳴りだした。  電話が鳴るまでの記憶が無い・・・少し寝てしまったみたい。  ディスプレイを見ると・・・発信は「朝霧達哉」。  すぐに電話に出る。 「もしもしっ!」 「ごめん、菜月・・・遅くなって・・・」 「ううん、いいの。ちゃんと電話かけてくれたから」 「・・・」 「達哉?」 「すまない・・・ちょっと息切れ・・・」 「息切れ? 達哉は一体何をしたの?」 「あぁ・・・明日の準備・・・」  明日、達哉が来てくれる日・・・壁に掛かった時計を見ると、もうすぐ日付が  変わる時間。  日付が変わって朝陽がのぼって、そうしたら達哉が私の目の前に来てくれる。 「何の準備したのかわからないけど、無茶はだめだからね?」  本当は私のためにしてくれること、嬉しいけど達哉は放っておくと  無茶しちゃうからちゃんと釘を指しておかないとね。 「・・・ふぅ、やっと落ち着いた」 「お疲れさま、達哉。ちゃんとゆっくり寝て明日寝坊しないで来てね」 「寝坊するかどうかは菜月次第だけどな」 「私次第?」 「あ、えと、なんでもない」  ・・・おかしな達哉。 「・・・そろそろかな?」 「何が?」 「今さ、月を見てるんだ。菜月の所からも見えるか?」 「見えると思うけど・・・」 「見て見ろよ、綺麗だぞ?」  私はベランダへの扉を開けて、夜空を見上げる。  そこには、満月ではないけど、満ちている月が浮かんでいた。 「綺麗だな、月」 「えぇ・・・」 「でさ、菜月。月の下には誰がいると思う?」 「月の下って、フィーナのこと?」 「じゃなくてさ、今浮かんでいる月の下。」  私は目線を下におろす。 「誰って誰も・・・達哉?」 「正解」  マンションの前の公園に、月の明かりを浴びて立っているのは・・・  間違いなく、私の愛しい人だった。  気がつくと、日付が変わっていた。 ・当日で、5日後-05/27- 「達哉っ!」 「菜月!」  私は公園へかけだして、達哉に抱きついた。  達哉はそっと抱きとめてくれた。 「達哉ぁ・・・」 「菜月・・・誕生日おめでとう、遅くなってごめん」 「ううん、だいじょうぶ。」 「そうか、ありがとうな」  そっと私を抱きしめてくれながら、そっと髪を撫でてくれる。 「・・・ねぇ、達哉」  私は達哉から一度離れると、そっと目を閉じた。 ---  菜月誕生日記念SS「誕生日は5日後に」です。  構成自体は誕生日前にあったのですが、23日に間に合わず(T_T)  逆に間に合わないのならそのような話にしちゃえ、ということで  書きました。  更新日時を菜月と達哉が再開した時間、0:00頃にしたかったのですが  調整が間に合わず、もう0:30を過ぎています(T_T)  さて、この後何があったかはご想像にお任せします(笑)  ですが、このお話の後の今日の朝の出来事はすでに公開済み(笑)  実際前のSSでは土曜に達哉が来たことになってるので今回のお話から  つなげると矛盾ありまくりですが(^^;  きっと激しい夜だったのでしょう(*^^*)
5月24日 ・Canvas&Canvas2 -if- sideshortstory「似たもの同士」 「相変わらずあの教頭の話は長すぎる・・・どうにかならないかなぁ」  と言ってどうにかなるのならもうどうにかなってるか。  ため息をつきながら美術準備室に向かう。 「今日は1時間目はあいてたな・・・少し寝るか」  春眠暁を覚えず、うん、良い言葉だな。  準備室で惰眠でもするか。  廊下から準備室の扉を開けて入ろうとしたとき、美術室の扉が開いてるのに  気づいた。 「あれ・・・おかしいなぁ。昨日鍵を閉め忘れたっけ?」  俺ならあり得る事だが、部活の終わりには竹内がちゃんと確認してるから  そんなことはあり得ない。  美術部員が忘れ物でも取りに来たのだろうか?  それを確認しようとして美術室の扉の所まで来ると、そこには見慣れない  男性の後ろ姿だけがあった。  その男性は美術室におきっぱなしになってキャンバスの絵を見ていた。 「・・・あいつら、ちゃんと後かたづけしていかなかったな」  誰の絵かわからないが、その男性は絵に見入っている。  ・・・あれ?  こんなシチュエーション前にもどこかで・・・  あのときは、何て言ったっけ。 「良い絵だな・・」  そう、そんな事を柳は言ってたっけ。  でも今俺の目の前にいるのは柳ではない。それは間違いない。  では、誰なんだ?  声をかけるにかけられないまま、しばらくの時が過ぎて、そして唐突に  その男性は俺に気づいてたかのように、振り向いた。 「こんにちは、貴方が上倉先生ですね?」  振り返った男性の顔には見覚えがあった。 「・・・麻生、画伯?」 「えっ? 麻生画伯!?」 「本当? まじっ!」  俺が驚くよりも早く、俺の後ろから声が聞こえた。  そこにはエリスをはじめ美術部員達が集まっていた。  呆然としている俺を追い越して部員達は画伯の元に駆け寄っていった。 「麻生画伯、私ファンなんです」 「会えて光栄です!」 「握手してくださいっ!」 「・・・」  一体何がどうなってるんだ? 「すみません、先生。昨日の部活で時間いっぱい作業をしてたので  後かたづけを朝にしようってことになっていて・・・」  申し訳なさそうに竹内が俺に説明しているが、目線は俺ではなく画伯の方を  向いている。 「・・・俺のことは良いから、おまえも行って来い」 「は、はいっ!」  竹内も画伯を囲む輪に加わった。かと思うと。 「はい、みんな何しに来たか忘れてない? 授業まで時間ないんだから  かたづける!」 「えー、麻生画伯の話を聞きたい!」 「部長、おうぼー!」 「部長のけちっ!」 「・・・」  珍しく竹内が責められてる。その気持ちも分からないでもないが・・・ 「おまえら、麻生画伯の事情も考えろ、それにもうすぐ1時間目だぞ?  ほら、美術室しめるから教室に帰れ!」 「先生もおーぼーだ!」 「お兄ちゃんのけちっ!」 「・・・」  なんでここまで非難されなければならないんだろう・・・ 「片づけはやっておいてやるから、今すぐ帰れ!」 「申し訳ありません、上倉先生。」 「いえ、こちらこそ部員の後かたづけを手伝ってもらって」  ちょっとした台風みたいな嵐が過ぎ去って学園は1時間目の授業中。  俺は約束通り美術室内を片づけ始めた。  驚いたことに画伯も手伝ってくれた。 「オレが原因みたいなものですからね、それに久しぶりの部室だから」  2人で片づけたのですぐに終わった。 「準備室に来ます? インスタントで良ければご馳走します」 「そうだね、ご馳走になろうかな」  こぽこぽこぽ・・・  ポットからお湯を注ぎ、インスタント珈琲をいれる。 「どうぞ」 「ありがとう」  二人でゆっくりと珈琲を飲む。 「美味しいな」 「ありがとうございます」 「・・・」 「・・・」 「って、なんで麻生画伯がここにいるんですか!!」  今更事の重大さに気づいた。 「何でって。所用があって母校に来て、昔お世話になった部室に  来てた、ただそれだけですよ。」  そう言われて、麻生画伯が撫子卒業生だったっていうことに今更ながらに  思い出した。 「それに、キミにも興味あったんだ」 「俺に?」 「そう、紗綾さんが興味を持っているキミに。」 「理事長代理が?」  なんだろう? 俺は何か悪いことしてないと思うが・・・ 「良ければ見せてくれないかな、紗綾さんを描いたスケッチを」 「え? あぁ、良いですけど・・・」  以前屋上でスケッチした理事長代理の絵が描かれたスケッチを画伯に渡す。 「人に見せるほどの絵じゃないんですけどね」  俺は言い訳をしていた、なんで言い訳をしてしまったのかわからないのだが  何故かそう言っておきたかった。 「・・・なるほどな、良い絵だ」 「え?」  麻生画伯が俺のスケッチを良い絵だって? 「紗綾さんが興味を持つのもわかるな、こんな紗綾さんはオレでも描けない」 「ご謙遜を・・・」 「事実だよ、オレはこの絵は描けない。オレを見る紗綾さんはオレを弟として  しか見ていないから」 「それってどういう・・・」  意味なんですか? と聞こうとした矢先に、突然準備室のドアが開いた。 「こんなところでなぁに油売ってんの? お兄さま?」 「何って・・・」  扉から入ってきた学生の方を振り向いて、麻生画伯が突然固まった。 「お兄さま?」  俺は扉の方を見て、そこに金色の髪の美少女が・・・なんていうか 「仁王立ち?」  そう、そんな立ち方で立っていた。  見た目の印象がエリスとかぶって見えるのは、その髪の色とお兄さまと  呼んだからだろうか?  あ、でもエリスはお兄ちゃんって呼ぶんだっけ。  なんていうか、俺の中の冷静な部分がそう解析している。 「恋・・・なんで制服を着ているんだ?」 「だって、私って目立っちゃうじゃない? 木を隠すなら林の中っていうし」 「・・・」  おかしい、言ってることは間違ってないはずなのに、何故かそれは違うって  つっこみをいれたくなった。 「・・・歳を考えろ、恋」 「なによ、私だってまだまだ現役で通るわよ?」 「・・・」  あ、麻生画伯がため息をついている。  なんとなく共感してしまった。苦労してるんだなぁ・・・ 「あらあら、なんだか楽しそうですわね」 「あ、藍に紗綾さん。もう用事終わったの?」 「打ち合わせは終わりましたわ、恋ちゃん。」  いつの間にか準備室に入ってきた理事長と理事長代理。 「上倉先生、お久しぶりです」 「は、はい・・・」 「いつも姉がお世話になってますわ」 「もう、藍ったら何を言ってるんですの?」  理事長代理があわてている。  なんだか珍しい光景を見てしまった気が・・・ 「ところで大輔ちゃんはなんで準備室に?」 「紗綾さんったら、話題変えようと必死ね」 「恋ちゃん、よけいなこと言わないでください」 「そうだぞ、恋。折角話題を変えようと必死なんだから、駄目じゃないか」 「そ、そうですわ」 「で、オレがここに来たのは懐かしむのもありましたけどね、やっぱり  上倉先生を見ておきたかったんですよ、紗綾さん」 「・・・今日の大輔ちゃんは意地悪ですわ」 「くすくす」  なんだか会話がよくわからない方向に進んでるっぽい。  それに俺を見に来たっていう意味もわからない。 「でも、いつまでその余裕があるか楽しみですわ、大輔ちゃん?」 「さ、紗綾さん。何かしたんですか?」 「いえ、先ほどお客様が来られたんですの。もうそろそろ・・・」 「先輩!」  少し小柄な少女とよんでもおかしくない女性が俺の横を駆け抜けていった。 「先輩、来てるなら来てるって言ってくれないなんて酷いじゃないですか!」 「おい、彩。離れろって」 「大輔が困ってるじゃない、彩ちゃん? 離れましょう?」 「あ、桜塚さんいたんですか? こんにちは」 「・・・こんにちは、彩ちゃん」  一気に空気が張りつめていくのがわかる。  ・・・なに、この修羅場。 「とりあえず離れろって、それに挨拶くらいしないとだめじゃないか?  妹がお世話になったんだろう?」 「え? ・・・この方が上倉先生?」  小柄な少女は改めて俺の方に向いた。 「こんにちは、上倉先生。妹の菫がお世話になりましたっ!」  ぴょこんとお辞儀をする少女のツインテールが跳ねる。  ・・・妹が菫ってことは、美咲? そういえば麻生画伯は彩って・・・ 「美咲彩画伯?」 「はい、その通り! 美咲彩です」  ・・・俺はすでに驚きを通り越した世界に来ているのだろうか?  学園出身のいま第一線で活躍してる画伯が2人も目の前にいる。  いったい今日はなんなんだ? 「挨拶終わり、じゃぁ先輩、折角だから部室の方も見ていきましょうよ!」 「彩ちゃん? 大輔はこれから忙しいのよ? 勝手につれ回しちゃ迷惑でしょう?」 「・・・そういって独り占めするなんて許さないです!」 「ひ、独り占めなんて・・・」  気温が1度は下がった気がする。  ・・・だから、何? この修羅場。 「大輔ちゃんもそろそろ落ち着いたほうがいいかもしれませんわよ?」 「紗綾さん、そんなこと言わないで助けてくださいよ」  麻生画伯の助けを、にこにこした笑顔のまま理事長代理はこう答えた。 「先ほどの仕返しですわ」  なんだか麻生画伯に一気に親近感がわいた気がした。 「苦労・・・してるんですね」 「・・・わかってくれるのかい?」 「えぇ・・・」  なんだか言い合ってる女性二人。  それをにこにこしながら眺める理事長と、理事長代理。 「・・・」 「・・・」 「はぁ」 「はぁ」  俺達はそろってため息をついた。
5月16日 ・Canvas2 sideshortstory 「平凡で幸せな1日」  トクン・・トクン・・トクン・・  暗闇の中で最初に聞こえてくるのは、愛する人の鼓動の奏でる優しい調べ。  昔は嫌いな音だった、だって私のはこの音がとぎれるから、聞こえてきて  不安になる。いつ止まってしまうのか・・・  でも今は違う、それにこの音は私の音じゃない。  この優しい鼓動は、私の鼓動を包み込み、そして未来へ誘ってくれた音。 「ん・・・もう朝なのか?」 「おはよう、浩樹さん」 「おはよう、朋子。」 「・・・」 「・・・朋子」 「なぁに?」 「どいてくれないと起きれないのだが・・・」  私は目が覚めてから、いえ、目が覚める前からずっと浩樹さんの胸の上に  顔を埋めている状態だった。 「もうちょっと・・・」 「だめだ、シャワーを浴びなくちゃいけないし、朝飯も作れないぞ?」 「うぅ・・・」  浩樹さんのご飯はとても美味しい、毎日食べてたエリスちゃんに嫉妬するくらい。  その朝ご飯が食べれないのはいや、だけど離れるのもいや。 「とりあえずシャワー浴びてすっきりさせてこい」 「浩樹さんも一緒がいい」 「あのなぁ・・・」  本当は1日中浩樹さんと一緒がいい。でも現実にはそうはいかない。  だから、一緒に居ることの出来る時間は一緒がいい。 「それに、浩樹さんは一緒がいいって・・・主張してるから」 「・・・」  顔を背ける浩樹さん。  私は浩樹さんに抱かれるような形にだから、私のおなかの所の変化はよくわかる。 「ね、一緒にシャワーですっきりしよ?」  学園での生活はあまり面白くはない。  だって浩樹さんがいないから。  同じ建物の中にいるのに、会えない時間はすごく苦しい。  休み時間になるたびに、美術準備室に行くと浩樹さんはいつも困った顔をする。 「少しは友達との時間も大切にしろよな。この時期の友達関係はずっと続くぞ?」  たしかにそうだと思う。  今は留学してしまったエリスちゃんや、卒業してしまった萩野先輩とは今でも  メールの交換はする。萩野先輩に至っては気分転換を言い訳に原稿から逃げ出す  手伝いを良くしているくらい。  浩樹さんの言うことは正しいんだけど・・・やっぱり浩樹さんのそばにいたい。  そう言うと・・・ 「わかったわかった、そういう顔するなって」  そういって私の頭を撫でてくれる。ちょっとくすぐったいけど、とても幸せ。  でも、出来れば抱きしめてキスして欲しい・・・ 「それはだめだ、学園の中では公私混同は良くない」 「何を今更? 朝あんなに激しかったのに」 「・・・だからだ、遅刻しそうになったの忘れてないよな?」 「・・・うん」  そう言うわけだからちょっと寂しいけど学園の中では我慢。 「先生、おまたせ!」 「待ってない」 「酷いっ!」 「・・・泣き真似はやめておけ」 「ばれちゃった?」  放課後の美術室、私はこれでも美術部員だから顔を出すのは当たり前。  だけど・・・ 「なぜ朋子・・・藤波がここに居るんだ?」 「だって美術部員だから」 「だから、受理した記憶などないぞ」 「えー」 「どうせ絵を描かないんだから入部する必要なんてないだろう?」 「いいじゃないの、エリスちゃんの変わりに見張ってあげてるんだから」 「エリスめ、よけいなことを頼みやがって・・・」 「はいはい、上倉先生。漫才はそれくらいにして指導をお願いします」  田丸部長の一声で部活は再開された。  私は浩樹さんの背中に抱きついたまま、その光景を眺めていた。 「ただいま」 「ただいま」  二人で一緒に浩樹さんの家に帰る。  浩樹さんは教師の仕事があるから帰れるのはちょっと遅い。  職員室では一緒に居られないからちょっとの間離ればなれになっちゅから 「浩樹さん、ただいまの挨拶は?」 「・・・一緒に帰ってきただろうが」 「・・・」  私は目を閉じて待つ。 「・・・ただいま、朋子」  ふれるだけの優しいキス。そして私は少し照れながらだけど、笑顔で答える。 「おかえりなさい、浩樹さん」  一緒にご飯をつくって、一緒に食べて、一緒にくつろいで。  そして一緒にお風呂にも入って・・・ 「少しは恥じらいってものがないのか?」 「いいじゃない、何度も見られてるんだし」 「いや、たしかにそうだけど・・・」 「それに、私は浩樹さんのお嫁さんだもん。」 「・・・朋子、反則だよ、それは」 「反則? なんで? プロポーズしてくれたのは浩樹さんじゃない」 「いや・・・その・・・」  顔を背ける浩樹さん。私おかしいこと何も言ってないのに・・・ 「朋子、一応聞くけど・・・」 「ここが私の家だもん」  実家に帰っても両親は居ない。私の入院費用や手術費用を稼ぐために  いつも遅くまで仕事をしてくれている。  感謝してるけど、今の私には誰もいない部屋では眠れない。  ・・・浩樹さんと離れたくない。 「・・・わかった、寝るか」  そういって浩樹さんはベットの端による。  空いたスペースに私が潜り込み、そのまま浩樹さんに抱きつく。 「・・・だめ?」 「・・・好きにしろ」 「うん、じゃぁ好きにする」  電気を消して一緒のベットに入る。  トクン・・トクン・・トクン・・  暗闇の中で最初に聞こえてくるのは、愛する人の鼓動の奏でる優しい調べ。  今の私にとって無くてはならない子守歌。 「おやすみ、朋子。」 「おやすみなさい、浩樹さん・・・」 ---  翌朝、いつものやりとりのせいで早起きしたにも関わらず時間が  無くなってしまった。  朋子は生徒だから時間ぎりぎりでも問題ないのだが、俺は会議が  あるから生徒より早く登校しなくてはいけない。  今朝は食事も簡単な物にするしかなく、愛車を使わねばならない  事態になってしまった。 「教頭の小言なんて聞きたくないんだけどな・・・」 「ねぇ、浩樹さん。」  助手席に座ってる朋子は、顔を赤らめている。 「なんだ、調子悪いのか?」 「朝・・・しちゃうから時間なくなっちゃうと思うの」 「・・・誰が誘ってると思ってるんだ?」  そう、朋子がシャワーをあびてる内に朝食を作り、俺はその後  さっとシャワーをあびて、食事を一緒にとる。  だが、朋子の誘いで一緒にシャワーを浴びてると・・その・・  俺の葛藤をよそに、朋子は話を続ける。  その口から出た言葉は・・・ 「だから・・・これから夜にしない?」  次の日の朝、結局愛車で登校する俺達がいた。  夜、あまりに激しくて朝起きれないのが原因だった。 ---
5月15日 ・夜明け前より瑠璃色な - Brighter than dawning blue -   sideshortstory「人として」おまけ後日談「和服の似合う少女?」 「エステルさん、すみません」 「達哉が謝ることではありません」  マナーのなっていないカップルに注意したお祭りの会場で私は  何故か主役扱いをされてしまった。  屋台の人や見物客から手荒い歓迎をうけ、出店の人からは食べ物をいただいて  なんだかよくわからない状況になってしまった。  達哉にどうしてこうなったのか聞いたら 「それはエステルさんの行動が認められたからですよ」  嬉しそうな顔でそう答えてくれた。  認めてくれたのは嬉しかったけど、ゆっくりお祭りを見ることができず  両手いっぱいのお土産をもって達哉の家に帰ることになった。 「ただいまー」 「こんばんは、麻衣さん」 「お帰りなさい、お兄ちゃん、エステルさん・・・ってどうしたの?その荷物」 「とりあえず少し持ってくれないか」 「うん、いいよ。エステルさんのも持ちますね」 「ありがとうございます」 「お茶入れるね、ちょっとまっててね」 「麻衣、姉さんは?」 「ちょっと出かけてくるって」 「こまったなぁ、浴衣の着付けどうすればいいんだ」 「達哉、着付けは着るときだけです、脱ぐときは私一人でもできます」 「あ、そうか」 「少し苦しいですから、着替えたいのですけど・・・さやかさんがいないと  なると部屋には入れませんね」 「だいじょうぶなんじゃないか?」 「いえ、だめです。主の居ない部屋に勝手に入れません」 「やっぱり困った・・・」 「ただいま〜」  そのときタイミング良くさやかさんが帰宅した。 「あら、達哉君にエステルさん。おかえりなさい。お祭りどうだった?」 「いろいろあったよ」  簡単な経緯を話して聞かせる達哉。  その顔をみると、なんだか達哉が誉められたような、嬉しそうな顔をしながら  私のことを話している。  ・・・なんだかくすぐったい。 「そ、それよりもさやかさん。少し苦しいから着替えたいのですけど・・・」 「あらあら、タオルを抑えるのに帯びをきつくしすぎたかしら?」 「タオル? 浴衣着るのにタオルなんてつかうの?」  姉さんの分のお茶を淹れてきた麻衣がそう答える。 「えぇ、和服っていうのはね、寸胴に見せるのがちゃんとした着方なの。  胸を押さえるのには限度があるから、胸の下の所にタオルをいれて補正するの」 「それで寸胴になるんだ・・・」 「麻衣? どうかしたのか?」 「ううん、なんでもない。それよりもお姉ちゃん。エステルさんの着替えを」 「あらあら、そうだったわね。エステルさん、部屋へ行きましょう」 「はい、お願いします。」  さやかさんに案内されて部屋に行く前に、ちらっと麻衣さんの方をみる。  先ほどほんのちょっとだけど、落ち込んだような気がしたからだ。  でも、いつもと同じ元気な麻衣さんがそこにいる。  ・・・気のせいだったのかしら?  気になるけど、今は着替えるのが先。さやかさんの後について2階への階段を  あがった。 --- 「それでは、夜分遅く失礼しました」 「エステルさん、またいらしてくださいね」 「達哉君、ちゃんと送っていくのですよ?」 「わかってるって、イタリアンズの散歩もかねて行って来る」 「イタリアンズ・・・達哉、早く行きましょう!」 「エステルさん、腕をひっぱらないで・・・それじゃぁ行ってきます!」  お兄ちゃんはエステルさんに引っ張られながら玄関を出ていった。 「お姉ちゃん、お風呂先にどうぞ」 「えぇ、いただくわね。」 「私は部屋にいるから」  部屋に戻って、ベットの上に寝ころぶ。  仰向けになって・・・視線を下におろす。  そこに見えるのは小さな二つのふくらみ・・・ 「浴衣着るときタオル使うなんて知らなかったな・・・」  その事実は、浴衣を着るときに体型を補正する必要はない、ということ。  それは、浴衣を着るのに美しい体型・・・寸胴。 「私はまだ成長期だから・・・」  ・・・  ・・・  ちょっと、立ち直れそうにないかも。 ---
5月14日 ・夜明け前より瑠璃色な - Brighter than dawning blue -   sideshortstory「人として」 「お祭り?」  いつもの日曜日、礼拝の後の掃除や後かたづけを終えた後の  ささやかなティータイム。  いつも手伝ってくれる達哉との会話に出てきた単語だった。 「えぇ、今日神社でお祭りがあるんですよ。行ってみませんか?」 「神社ということは、地球の神様が奉られてるのですね。」 「あ・・・やっぱり司祭という立場だと難しいんですか?」 「そんなことはないです、神の前には人は平等ですから、ただ・・・」 「?」 「そのお祭りは神の恵みに感謝する、感謝祭みたいなものですか?」  ちゃんとした祭なら、静寂の月光の司祭として恥ずかしくない行いを  しないといけない。 「ん・・・そこまで固い物じゃないですね。神に感謝するという意味合いは  すでに薄れてると思います」 「では、どんな祭になるのでしょうか?」 「俺も詳しくないけど・・・」  達哉の話は曖昧なところが多かった。  最初は神様に祈願する神事から始まった物だけど、今はそれにこじつけて  騒いでるだけのようだ。 「それでも、その祭りが人々の心のよりどころになっているのですね」 「・・・説明してる俺の方が説明を受けてるみたいだな」 「達哉、私は本職ですよ?」 「たしかに」  夕方、礼拝堂で達哉と待ち合わせして、お祭りに行くことになった。  いつものように手をつないで付き人居住区を出る。 「達哉、その神社はどこにあるんですか?」 「すぐ近くだけど、その前に俺の家に行きます。まずは準備しないと」 「準備? お祭りに行くのに準備が必要なのですか?」 「えぇ、その方が楽しく過ごせますから」  と、達哉は嬉しそうに返事をした。  ・・・あれ?  なんだか、こういう展開を以前にあった気が・・・  達哉の家についたら、さやかさんが出迎えてくれた。 「エステルさん、いらっしゃい。それじゃぁ私の部屋に行きましょうか」 「あの?」 「姉さん、準備よろしく」 「はい、頼まれました」  妙に嬉しそうな笑顔のさやかさん。 「それでは、エステルさん。こちらに」 「えっと・・・」  気がつくと洋服を脱がされて、薄手の和服に着替えさせられていた。 「・・・達哉、なんでこんな格好に着替えなくてはいけないのですか?  それにこの服は・・・その、薄すぎて落ち着かないのですが・・・」 「・・・」 「達哉?」 「・・・あ、ごめん、その・・・」 「達哉君、見とれるのも良いけどちゃんと言うことは言わないと駄目ですよ?」  ・・・見とれてた? 「その・・・すごく似合ってます、エステルさん」 「っ!」  頬に熱を持つのがわかった。 「あらあら」  よこで微笑むさやかさんの顔がちらっと見えた。 「それじゃぁ達哉君、エステルさん。遅くならないうちに帰ってくるんですよ」 「うん、それじゃぁ行って来ます。エステルさん、行こう!」  はき慣れてない変わった靴、草履というこの浴衣に合わせてはくものだそうだ。  着慣れてない浴衣に草履、いつもと同じ歩幅で歩こうとすると、浴衣の合わせ目  から足が出てしまう。  いつものスカートと違う、すーすーとした感触が不安になる。  でも・・・  いつもより遅い歩みにちゃんと併せて達哉は歩いてくれる。  つないだ手が、不安をうち消してくれる。  そして数分歩いた先にあった神社は・・・  明るい提灯がたくさん灯っていて、屋台がたくさんでていて、  子供達がはしゃぐ声がたくさん聞こえてきて。  私が知っている祭とは、全然違っていた。 「エステルさん、人が多いからはぐれないでくださいね」 「こ、子供じゃないんだからだいじょうぶです!」 「そうでしてね、では行きましょうか」  私と手をつないだまま、中に私を連れて行ってくれた。 「最初はお参りするのですけど・・・」 「達哉は気にしすぎです、神の前では生まれは関係ないのですから」  それに、今の私は司祭のエステルじゃない。  達哉の彼女である、普通の女の子のエステルですから。  恥ずかしくて言えない言葉は胸の内でそっと思うだけにした。  ご縁があるように、という語呂合わせから5円玉をお賽銭として  奉納して手を合わせる。  地球の神様へのルールは私は知らないから、達哉の真似をする。 「エステルさんは何をお願いしたんですか?」 「それは・・・秘密です」 「残念。それじゃぁお店を回りましょうか」  地球の神様へお願いはしなかった。それは月人だから、地球人だから  ではない。ずっと達哉のそばにいたい、という願い。  それは私自身が努力して叶える物だから・・・  露店はすごくにぎわっていた。  美味しそうなお菓子、色とりどりのおもちゃ。  月の孤児院の妹たちを連れてこれたら良かったな・・・  そう思わずにはいられない。  でも、だいじょうぶ。月にはモーリッツ様がいらっしゃる。  だから何の心配もいらない。  それでも私は、私の妹たちと年齢の変わらない子供達が  楽しそうに笑ってる姿から目を離せなかった。  そのとき事件が起こった。  笑いながら駆けていた子供が、出会い頭に人とぶつかって転んでしまった。 「だいじょうぶ?」  私はその子供の所に駆け寄る。 「・・・う、うぇぇぇぇん」  その女の子は火がついたように泣き出した。 「だいじょうぶ、痛くない、痛くないから・・・」 「ちょっと、貴方その子供の関係者?」  私が子供をあやしていると、ぶつかった大人の女性が私に詰め寄ってきた。  隣に男性もいる、カップルのようだ。 「その子が持っていた飴で私の浴衣が汚れてしまったの。  弁償してくれなかしら?」 「これから楽しむ所を邪魔しやがって、このガキが・・・」  忌々しげに泣いてる子供を見る男性。  だから地球の人は・・・ 「あなた方がよそ見をしてたのも悪いんですよ? まずはこの子に謝ってください」 「達哉?」 「なんだ、おまえは。俺達は被害者なんだぞ? 謝る必要なんてないだろうが!」 「そうよそうよ、せっかくの浴衣が台無しなんだから!」  自分のことしか考えてないこのカップルをみて、私は限界を超えた。 「およしなさい! 他人に当たる前に自分を振り返るべきです」 「な、なんだよ、急に偉そうに・・・」 「あ・・この声聞いたことあるわ、ほら、この前礼拝堂で・・・」 「お、おまえ月人だな? なんで月人が地球の祭りにいるんだ!」  あぁ・・・またこうなるのですね。  月と地球の距離は、未だに一向に縮まらない事を実感して・・・  以前の私はそこで立ち止まってしまった。  でも、今の私は違う。そう、地球で生まれ育った愛する彼が、私を変えてくれた。 「たしかに私は月人です、ですがそれが関係あるのですか?  神の前では月人も地球人も関係ない、ただの人です」 「月人が地球人と平等な訳ないだろう!」 「平等だ、何も変わらない! 月も地球も住むのは同じ人だ!」 「達哉・・・」  私の横にたって、私の手を握ってくれる。 「だいじょうぶ、エステルさんは何も間違えてないから」 「当たり前です」  そして二人でカップルを見据える。  そのとき周りの雰囲気が変わっていたのに気づいた。  喧噪はなりを潜め、私たちとカップルを囲むように人がわかれていた。  周りの人たちは、みんなカップルの方を見て・・・一部の人たちは  にらみつけるようにしていた。 「・・・」 「ね、ねぇ・・・」  急におろおろし出した女性と、何も言えなくなった男性。 「・・・けっ、帰るぞ!」 「あ、まって!」  カップルは逃げるように去っていった。  私は泣いてた子供の目線までしゃがむ。  その子はもう泣いてはいなかった。 「もうだいじょうぶだからね、でもキミも注意しないとだめだぞ?」 「うん、ありがとうお姉ちゃん!」  笑いながら元気良く駆けていった。 「お疲れさま、エステルさん」 「・・・」  正直どうなるかわからなかったし、怖かった。  でも、私はあのカップルの態度が許せなかった。  月人の司祭ではなく、人として・・・ 「よぉ、姉ちゃん。月人さんなんだってな?」  突然近くの屋台から初老の男性の方が話しかけてきた。 「え、えぇ・・・」 「よくやったっ!!」 「え?」 「最近の若い者にしては芯が通ってるな、俺は気に入ったぜ!  これをもってけ!」 「えぇ?」  ふわふわのビニール袋を手渡された。 「お嬢ちゃん、迫力あったわね〜、若い頃の私みたい」  年輩の女性の方が話しかけてきた。 「これは私からのお礼よ、彼氏さんと一緒にたべてね」  紙パックを渡された。 「あ、あの・・・」 「今日は祭りだ、このお嬢ちゃんの勇気に乾杯!!」 「おー!!」 「え、えぇ!?」 --- 「私が出ていくまでも無かったようですね」 「そうね、カレン」  さやかに誘われて気分転換に来たお祭り。  まさかエステルが来ているとは思わなかった。  いや、それは違う。さやかのことだ、エステルが来てるから  私を誘ったのだろう。 「でも驚いちゃったわね、カレン」 「えぇ」  地球に来た頃のエステルでは考えられない行為だったと思う。  地球人に偏見をもっている、普通の月人のエステルが、今私の  目の前でたくさんの地球人とふれあってる。  この光景をセフィリア様とフィーナ様に見せて差し上げたい。  あのお方が目指し、今目指そうとしている世界が、私の目の前に広がっている。 「案外、思いのほか早いかもしれない・・・」  私の独り言は涼しい夜風に流されていった。 ---
5月8日 ・FORTUNE ARTERIAL sideshortstory 「獣耳娘狂想曲」 「先輩」  声をした方を振り向いて、少し視線を下に落とす。  そこにはツーテールの小柄な少女、東儀白ちゃんがいた。 「白ちゃん、これから行くの?」 「はい、一緒に行きませんか?」 「もちろんいいよ、行こうか」 「はい」  放課後、白ちゃんと一緒に監督生室へ向かう。  これでも俺は生徒会の一員・・・らしいから、顔だけでもだして  おかないと瑛里華に何いわれるかわかったもんじゃない。 「・・・あれ?」  白ちゃんが不思議そうな顔をして前の方を見つめている。  俺も同じ方向を見てみる、普通の放課後の校舎の中の風景だけど。  ・・・  ・・・ 「なんだ? あのふさふさした耳は」  人だかりの中に、ふさふさした耳をつけた女の子がいた。  ・・・なんだか嫌な予感がした。  そして、そう言うときの予感ほど当たるんだよなぁ・・・ 「おっ、こーへーと白ちゃん発見!」  人混みの中から出てきたふさふさした耳を頭の上につけた少女、  それは俺の予想通り、悠木かなでであった。 「こんにちは、こーへー、白ちゃん」 「こ、こんにちは、先輩」 「かなでさん・・・また何か企んでるの?」 「こら、こーへー。挨拶はちゃんとしなくちゃ駄目でしょう。  お姉さんはそんなふうに育てた覚えはないよ?」  ・・・育てられた覚えはないんだけど、かなでさんの言ってることは  今は正しい。 「・・・こんにちは、かなでさん」 「はい、良くできました!」  そういって俺の頭をなでようとぴょこぴょこ跳ねるかなでさん。  そのたびに頭の上に乗せてある?耳が揺れる。 「かなでさん、その耳は何?」 「よくぞ聞いてくれました、この猫耳はね・・・」  猫の耳だったのか。 「可愛いから買っちゃいました!」 「・・・」 「こ−へー、可愛いでしょ?」  手首を曲げて、猫っぽい仕草をしてるかなでさん。  これはたしかに可愛い、少し小柄のかなでさんだけに、よけいに猫の  仕草が似合う。 「ん、もう、孝平君リアクション薄いっ! こういうときはお世辞でも  可愛いっていってくれないと駄目だぞ?」 「は、はぁ・・・」 「そしてっ! 白ちゃん!」 「は、はい!」 「この前のお礼、これをプレゼントですっ!」  言い終わるよりも早く、手に持っていた紙袋の中からカチューシャを  とりだす、なるほど、あれに耳がついていたのか・・・って 「かなでさんっ!」  止めようとするより早く、カチューシャは白ちゃんの頭に付けられていた。 「え? えと・・・」  白ちゃんはあわてて頭の上にある物に手を伸ばす。  そこには白くて細い2本の長い耳・・・ウサギの耳がついていた。 「んーっ! やっぱり白ちゃんにはウサ耳が似合う! もう、可愛い!!」  白ちゃんに抱きついてるかなでさん。 「ヒナちゃんがいなければ私のヨメにしたのに!」 「かなでさん、白ちゃんが困ってるから、可愛いのはわかるけど・・・」 「そうなのです、可愛いからって抱きつくと怖い姑さんに捕まっちゃうのです!」 「・・・姑ね」  東儀先輩が姑・・・たしかにぴったしだ。 「というわけで、私は次に行かないといけないのですっ!。  それでは、こーへー、白ちゃん。またね!」  そう言うと目の前から駆けて去っていった。 「おっ、あそこにいるのは桐葉ちゃんじゃありませんかっ!」  振り返るとちょうど俺の教室に入っていくところだった。  ・・・ another view 東儀白 「んーっ! やっぱり白ちゃんにはウサ耳が似合う! もう、可愛い!!」  先輩に抱きつかれた、かなで先輩はいつもこうして抱きついてくる。  でも、悪い気はしない。 「ヒナちゃんがいなければ私のヨメにしたのに!」 「かなでさん、白ちゃんが困ってるから、可愛いのはわかるけど・・・」  え? 今なんて?  支倉先輩が私の事を可愛いって?  ・・・ another view end 「追いかけて止めた方がいいかな」  これ以上は騒ぎになる気がする、そうなるとまた俺は生徒会役員ではなく  犯人扱いで監督生室に呼ばれることになる。 「白ちゃん、ごめん。ちょっと追いかけて止めてくるから・・・白ちゃん?」  白ちゃんは顔を真っ赤にして、俺の袖をつかんでいる。 「白ちゃん?」 「は、はい?」 「かなでさんを追いかけたいんだけど・・・袖、いい?」 「え、ええ!?」  どうやら今まで袖口をつかんでいたことに気づいてなかったようだ。 「じゃぁ、ちょっと行って来る。白ちゃんは」 「わ、私も行きます。先輩・・・お友達だから」 「・・・そうだね、一緒に行こうか!」 「はいっ!」  追いかけようとしたとき、俺の目線の高さに白いウサギの耳が  目に留まった。 「白ちゃん、そのカチューシャだけど・・・」 「い、いまはそれどころじゃないから、早く先輩を」 「・・・わかった」  まぁ、本人がいいって言うなら良いか。  それに、似合ってるし、と口には出さずに言った。  一緒にかなでさんを追いかけるときの白ちゃんは、嬉しそうに微笑んでいた。  教室の扉を開けると中には人がほとんどいなかった。  一人だけ、窓辺の席に座って読書しているのは、紅瀬さんだけだけど・・・  ・・・何故かふさふさした耳をつけていた。 「紅瀬さん、ここにかなでさん来なかった?」  読んでいる本から目線だけをこちらに向けて・・・ 「・・・」  特に何も言わなかった。 「って、来たのはわかってたっけ。どこ行ったかしらない?」 「私の前からは去った」 「そ、そう・・・ありがと」  触らぬ神にたたりなし、だな。とりあえず次を当たるとしよう。  そういえば、紅瀬さんのカチューシャはかなでさんのと違って毛の色が  白銀っぽい色だなぁ、猫、じゃないよな・・・ 「・・・狼と、寮長は言っていた」 「・・・あれ? 俺声に出してた?」 「・・・」  うわ、俺って恥ずかしいヤツだな。  と、とりあえずかなでさんを探さないと・・・ another view 悠木かなで 「桐葉ちゃん、こんにちは!」 「・・・」 「ん、もう、いっつもクールなんだからっ!」 「・・・何かご用でしょうか?」 「そんなクールな桐葉ちゃんには、狼さんがよく似合うよね!」 「っ!」  あれ? なんか反応がいつもと違う・・・っていうか、反応してる?  気になるけど、今は目の前の物をつけさせるのが先だよね。 「と、いうわけで」  ひょいっと、黒い髪の上からカチューシャをかぶせる。  これには狼さんの耳があしらってある。 「・・・うん、想像通りぴったし♪」 「・・・それで?」 「うーん、クールな桐葉ちゃんも素敵!」 「・・・」  そのとき後ろの方の扉の窓から、見慣れてないけど見慣れた白い耳が  見えた。 「やばっ!」  とっさに私はかがみ込み、教卓の影へ移動する。  それと同時にこーへーと白ちゃんが教室に入ってくる。  入ってきたのが二人なことに安心した。  いつものパターンだと、ヒナちゃんと合流して、私を捜しに来てる  っていう感じだからね。  こーへーたちが桐葉ちゃんに気を取られてる隙に・・・  私はそっと前の扉から抜け出そうとして・・・ 「見つけた、お姉ちゃん!」 another view end 「見つけた、お姉ちゃん!」  教室の前の入り口、俺達が入ってきたのと反対側の所に・・・ 「・・・」  なぜか猫耳をつけた陽菜が立ちふさがっていた。  そしてその足下に、四つん這いになった、本当に猫になったような  格好をしている、猫耳のかなでさんがいた。  ・・・なんだか目眩がしてきた。 「お姉ちゃん、今度は何をしようとしたの?」 「えっと、そのぉ・・・可愛いアイテムゲットしたので可愛い子に  配ってました!」 「・・・お姉ちゃん」 「だって、可愛い子をもっと可愛くするアイテムなんだよ?  使わないともったいないじゃない!」  ・・・まぁ、理論は間違って無いと思うけど。 「はぁ・・・」  呆れてため息をつく陽菜。 「そういえばさ、陽菜。」 「なに? 孝平君、いま忙しいから・・・」  俺はゼスチャーで頭の上を指す。  不思議そうに陽菜は頭の上に手を伸ばす。  そこにあるのは・・・ 「・・・あーっ!、いつのまに!」  ・・・本当に気づいてなかったのか。 「どうりでさっきから私の方をみる人が笑ってた訳だ」 「そりゃ、可愛い子を可愛くさせるんだから、ヒナちゃんに最初につけないとね」  えっへんと、いいたげそうな顔で説明するかなでさん。 「・・・お姉ちゃん」  すぱーんっ! 「えぅ」  いつものあれが炸裂した。 「というか、この状況を見つかったらまた、あれだろうな・・・」 「残念、もう手遅れよ? 孝平。」  開け放たれた教室の扉の外に、腕を組んで立っているのは瑛里華。 「手遅れ?」 「そーゆーこと、関係者一同監督生室へご招待致しますわ」 「・・・はぁ」  俺と陽菜は同時にため息をついた。  監督生室。  中央にいつものごとく、千堂伊織会長。  その横に副会長の瑛里華、会計の東儀征一郎先輩。  征一郎先輩の後ろにいるのは白ちゃん。  部屋の中央に、かなでさん、その後ろに俺と陽菜。  そしてその後ろに参考人として紅瀬さんがいる。  そして・・・  瑛里華以外の女性陣は、未だに耳をつけていた。 「・・・異様な光景だな」 「まぁ、そうでもないと思うぞ、支倉君」  俺の独り言に会長はまんざらでもなさそうな返事をした。  その返事を聞いて、なんとなく・・・嫌な予感がした。 「わざわざお越しいただいてすまないね、悠木かなで君。」 「今日は何の用事ですか?」 「著しく風紀を乱す行いがあったという報告を受けたのでね。  確認したいわけだが。」 「風紀? 私は可愛いアクセサリをつけてるだけでーす」 「たしかにそれだけなのだがな、そのアクセサリをつけてる君たちを  見て、一部の男子生徒が暴走してしまったのだよ」  ・・・暴走? 「正確に言えば、急に叫びだしたりその場で転げ回ったりしたそうだ」  征一郎先輩がそう、補足する。  ・・・ここの学院生っていったい。 「可愛すぎるって・・・罪なのね」 「その件に関しては私も納得だな」 「・・・伊織、そこは問題じゃないだろう? 風紀を乱す件の方が問題だろう」 「征一郎、可愛いのは仕方が無いだろう? 現に・・・」  会長は征一郎先輩の後ろに視線を送る。 「征一郎、うさぎの耳をつけた白ちゃんはどう思う?」 「可愛いに決まってるじゃないか」  即答ですか・・・ 「では仕方がないではないか、可愛いのだから」 「む・・・」  いつも千堂兄妹を抑える役目の征一郎先輩も、白ちゃんを使われると  だいたい陥落する。今回もそのようだ。 「というわけで、残念だが少し自重してくれるとありがたい」 「了解であります」  何故か軍隊みたいな敬礼をするかなでさん。  その頭の上に猫耳がついてるのが、ほほえましい・・・のだろうか? 「そして、2点目だが・・・」  まだあるのか? 「悠木かなで君。瑛里華の分はないのかね?」 「え?」  会長の言葉に驚いた顔をする瑛里華。 「可愛い子へのアクセサリなら、瑛里華の分がないわけはないだろう?」 「もっちろん、準備はしてあるよ♪」 「準備がしてあるなら、仕方がないな。瑛里華、つけてみなさい」 「お、お兄さま?」 「と、いうわけで瑛里華ちゃん・・・ふふふっ」 「か、かなで先輩、なにか怖いんですけど」 「気のせい気のせい、痛いのは最初だけだから〜」 「痛いって何のことよっ!」  ・・・その後の騒ぎは思い出したくも無かった。  後に、この事件で起きた男子生徒と一部女子生徒の暴動は  「獣耳娘狂想曲」として後世に語り継がられた、という・・・ ---  イメージイラスト:ブタベストさま。感謝ですm(_ _)m  
5月7日 ・夜明け前より瑠璃色な - Brighter than dawning blue -   sideshortstory「翠色のそよ風」 「と、いうわけで達哉君に寝てもらいます!」 「・・・どう言うわけだよ」  あ、さすがに説明不足だったか。 「んとね、麻衣から話を聞いてたのよ。河原での練習の話。」 「それとどうつながるんだ?」 「達哉君って麻衣のフルートの練習につきあうっていってもいつも  寝てたんでしょう?」 「あ、あぁ。あんまりに気持ちよくて・・・」  少しバツが悪い顔をしている。 「それを聞いてね、私もやってみようかと思ったのです!」 「・・・」 「あれ? どうしたの?」 「いや、翠らしいなって思っただけだよ」 「そこはかとなく誉めてる?」 「どこをどーとったらそう聞こえる?」 「あはは、やっぱりそうか」 「それで、俺はどうすればいい?」 「んとね、ソファーに座って私の演奏聞いてくれるだけで良いの」 「・・・」  あれ? 達哉君ちょっと難しい顔してる?  ほんのちょっとだけだけど・・・なんだろう? 「どうしたの?」 「ん? あぁ、なんでもない」  そう言うとソファに座る達哉君。  何かが引っかかるけど、私のわがままにつきあってくれてる達哉君の  ために、立派なα派を出すとしましょうか!  くらりねっとを準備して、ロングトーンから始める。  ・・・うん、だいじょうぶ、絶好調! 「それじゃぁ、行くね!」 「おう!」  私は目を閉じて、演奏を始める・・・  1曲演奏を終えてソファを見ると、達哉君は寝ていなかった。 「あれ? 眠くない?」 「あぁ、これくらいじゃ眠くならない」 「うぅ・・・よし、次っ!」  2曲目を終えても達哉君は眠る気配が無い。  3曲目も、4曲目も・・・  5曲目を演奏してるとき、私は今更ながらあることに気づいた。  達哉君は、私をずっと見ているという、当たり前の事に・・・ 「あっ」 「翠、どうした?」 「・・・またやっちゃったみたい、初心者じゃないのに」  そういって下唇の内側をちょっとだけ見せてみる。  たぶん、ここに傷が出来ているとおもう。 「だいじょうぶか?」 「だいじょーぶだいじょーぶ、こんなのなめておけば治るって」  ・・・全く、初心者じゃないっていうのに、何やってるんだろう?  それとも達哉君のこと意識しすぎて力が入り過ぎちゃったのかな。 「ふぃ〜」  ため息をついたとき、目の前に達哉君がいることに気づいた。  いつの間に私の前に?  それに・・・なんだか顔が赤いよ? 「翠・・・」 「なに・・んっ」  一瞬何をされたのかわからなかった。  気づいたとき、私の唇は達哉君の唇にふさがれていた。 「・・・んっ!」  え?  私の口の中に達哉君が入って・・・きた?  達哉君の舌が私の中に入ってきて・・・ 「んんっ!」  私の下唇に出来てる傷をそっと撫でてくる。  私は・・・ただ、なすがままにされている。  嫌・・・じゃない、逆に・・・気持ちいい・・・ 「ぷはっ」  長い長いキスの後、思わず呼吸を止めていたことに気づいた私は  深呼吸をしていた。 「翠・・・その、いきなりでゴメン」 「・・・もう、達哉君っては強引すぎる。」 「その・・・翠の唇見たら、欲しくなって・・・」 「・・・」  私は顔を真っ赤にしてるとおもう。 「それに、その、傷はなめれば治るっていうし・・・」 「・・・達哉君、それ今考えたでしょ?」 「・・・」  あ、目をそらした。 「そ、そこで即答してくれないと困るんだけど・・・」 「その・・・」 「ま、いっか。気持ちよかったし」 「え?」  あ゛  今さらっと私すごいこと言っちゃった? 「・・・」 「・・・」  二人で赤くなってうつむいてしまった。 ---  結局クラリネットでの演奏で眠るのは止めにして、いつものように  お茶をしながら話する事になった。 「でもさ、なんで翠のクラリネットで眠らなくちゃいけなかったんだ?」 「だって・・・麻衣がうらやましかったんだもん」  ・・・麻衣がうらやましい? 「麻衣の演奏で達哉君、良く寝てたんでしょう?」 「あ、あぁ」 「それは麻衣のフルートに癒しの効果があったからでしょ?  達哉君が眠るほど癒されてるのなら、私も達哉君にしてあげたかったから」  ・・・翠、そんなこと思ってたのか。 「ありゃ、もしかして呆れちゃった?」 「・・・少し」  翠がうつむく、落ち込んでるみたいだ。  俺はわざと咳払いをしてから、こう続けた。 「少し呆れたけど、嬉しかったよ。翠がそこまで思ってくれたんだもんな。  それに、俺は翠と一緒にいるだけで癒されてると思う」 「・・・達哉君」 「翠・・・」 「・・・言ってて恥ずかしくない?」  ・・・翠、顔を真っ赤にしてそう聞くのは反則だぞ? 「・・・顔を真っ赤にしてそう問われる方が恥ずかしい」 「そういう達哉君だって真っ赤じゃない」 「・・・」 「・・・」 「ははっ」 「あははっ!」  おかしくなって二人で笑い出してしまった。  こんな出来事も、10年後20年後に思い出すんだろうか?  ・・・きっと二人で思い出して笑うんだろうな。  そんな確信をしながら、俺は翠と一緒に笑いあっていた。
5月2日 ・Unlimited Canvas Works 外伝? 今まで出番が無かった人達の主張 「いいなぁ、麻巳ちゃんやエリスちゃん出番あって〜、私も出番欲しいっ!  と、いうわけで〜、行くよ! バーサーカー!」 「・・・可奈ちゃん、だーれーがー、バーサーカーなのかしら?」 「いたひいたひ、紫衣さんほっぺたひっぱらないでー」 「バーサーカーなら私じゃなくて鷺ノ宮さんの方が似合うじゃないかしら」 「あら? なんで私がバーサーカーなんですの?」 「さ、鷺ノ宮さん・・・あの、その・・・」 「私は車じゃないですわ、乗り手はライダーって言うんですわよ?」 「・・・あはは、たしかにライダー、だよね。」 「あら、美咲さんどうしたの? 気分悪そうだけど・・・」 「桔梗先生・・・いいんです、私ははぶられたのですから」 「は、はい?」 「だって、私だけドラマCDに呼ばれなかった事あるんですよ?」 「あ、えっと・・・」 「いいんです、一番陰が薄いヒロインだって噂されてるの知ってますから」 「あ、あの、美咲さん?」 「いいんですよ・・・・ふふふ、ノートに書き留めておかないといけない  ですね、ふふふふふ」 「・・・」 「そういえば、桔梗先生は最初のドラマCDで一人で1話担当されてましたね」 「あ、その・・・えっと・・・」 「あのときは姉のおかげで私の出番が減ってしまいましたっけ・・・」 「・・・あは、あははは」 「桔梗先生はいろんな作品でそれとなく出番があるからいいですよね」 「・・・それもそれで考えようなのだけど」 「ふふふふふ」 「あははは・・・はぁ」 「出番がない人を救済しようとして無理矢理全員を出そうとして、  失敗してるよい例よね?」  ・・・ 「さらに、役割分担も上手くいってないし、桔梗先生が全員と当たる  だけだからランサー?っていう説明も私にさせるくらいの失敗してるし」  ・・・ 「そりゃ、作者である以上普通はSSに出てくるわけにはいかないだろうから  反論できないのはわかってるけど・・・」  ・・・ 「現実って厳しいのよね」  ・・・ 「だから一言だけ、言って良い?」  ・・・ 「理想(ネタ)を抱いて溺死しろ!」 ---  Unlimited Canvas Worksまとめはマクさんの日記にまとめが  掲載されていますので、正伝はそちらから作者の皆様の作品をお読み下さい。
4月21日 ・月は東に日は西に sideshortshortstory 吸血鬼? 「吸血鬼?」  いつものように保健室で珈琲をのみながら煎餅をかじる放課後。  いつものように結先生はプリンを食べて。  いつものように恭子先生は珈琲片手にテレビをみて。  いつもと違うのはテレビから流れた話題だった。 「なんだかなぁ・・・」 「そう? 面白そうじゃない」 「恭子、本当に吸血鬼がいたら怖いですよ〜」  恭子先生と結先生の会話を流しながらテレビのニュースを見てみる。  ニュース、ではなくワイドショーの1コーナーみたいで、とある島で  吸血鬼の騒ぎが起きているそうだ。 「ここまで科学が発達した世界でいきなりファンタジーな話題を見ても  全然実感わかないな」 「あら、久住。発達した科学は魔法となんの差もないのよ?」 「そうそう」  結先生はプリンを食べながら相づちを打っている。 「どういう意味ですか?」 「わかりやすく言うと、空を飛ぶ魔法があるとするじゃない?」 「はい」  なんとなくほうきで空を飛ぶ魔女というイメージが浮かんできた。 「それと同じ事は科学でも実証されてるのよ」 「反重力を扱う装置のことですね〜」  難しいことは良くわかんないけど、言いたいことはわかった気がした。 「それじゃぁ吸血鬼は?」 「例えだけど、もし血をなんらかの形で補充出来ない人がいるとするわね?。  体内で作ることが出来ない人が、補充の方法を求めて進化したら?」 「・・・他から血を吸う?」 「そう、そんな感じで解明できるのよ。実際はそうはいかないけどね」 「じゃぁこの騒ぎはいったい何なんですか?」 「私がわかるわけないじゃない」 「・・・」  今までの説明はいったい何だったんだろう? 「でもね、血を吸うっていうわけじゃないけど、結も似たようなものよね」 「私が、ですか?」 「・・・何を根拠に?」  恭子先生に問いかけつつ、少しさめた珈琲をすする。 「ほら、血は吸わないけど久住のを吸ってるじゃない。」  ぶっ!  俺は飲みかけの珈琲を吹き出した。 「ごほっ・・・きょ、恭子、何をいうんですか?」  結先生はプリンを喉に詰まらせていた。  ・・・プリンって喉に詰まるんだ。変なところで感心してしまう。  ってそんなことより! 「あら、違うの? 久住」 「え? いや・・・」  た、たしかに結先生の・・・その、吸い取られる感じもしなかったわけじゃない  ですけど・・・ 「ふふっ、冗談よ」 「恭子〜、悪趣味。」 「いいの、独り身なんだからそれくらいいいじゃないの」 「・・・」  恭子先生、せめて結先生の前でそういう話題をするのを止めて欲しいんですけど  と、心の中でお願いをした。  口には出さなかったのは、返事がわかっているからだ。 「だいじょうぶ、結と久住がそろってる時だけだから」と・・・
4月20日 ・夜明け前より瑠璃色な sideshortstory 女の子の魔法 「誕生日おめでとう!」  パン、パンッ!  クラッカーの鳴る音と拍手の中、リースの誕生会は始まった。 「・・・」  リースは相変わらず何も言わないけど、この場を立ち去らないのは  悪くない証拠だ。 「ささ、リースちゃん。いっぱい食べてね」 「ケーキは私の自信作なの、食べてね」  姉さんと麻衣が料理を勧めている。  本当はフィーナやミアも呼びたかったけどそう簡単に呼べる場所には  いないし、主賓が来るかどうかわからない誕生会に呼べるわけもなかった。  そう、この誕生会は主賓であるリースが参加してくれるかどうか当日まで  わからなかったのだ。  リース自身が神出鬼没であるのが最大の理由だが、教団の仕事の関係もある。  俺はその辺のことは全く知らない。  出来たことといえば、リースにあったときに念を押しただけだった。 「4月19日、美味しいご馳走用意しておくから絶対来て」と。  結果から言えば、こうしてリースが来てくれたので良かったと思う。 「・・・くるしい」 「リースちゃん、張り切って食べてたもんね」  食後のリビングのソファーで座ったまま苦しそうにしてるリース。  単純に食べ過ぎたようだ。 「リース、水飲むか?」 「・・・飲む」  俺の手からコップを受け取ると両手でグラスを持ち、水を飲む。 「落ち着くまでゆっくり休んでていいからな」 「そうする」  テレビをつけながら雑談をする。  雑談といっても、俺達の会話に時折頷くだけだが。  そうして少したった頃、突然。 「・・・帰る」 「あら、もう遅いから今日は泊まっていきなさい」 「だいじょうぶ」 「でも、最近物騒だから夜道の一人歩きは危険だよ?」  なんか、聞き慣れない単語を聞いた気がする。 「物騒?」 「あら、達哉君は知らないの? 吸血鬼の噂」  姉さんの口からでた単語を頭の中で理解するのにちょっとだけ  時間がかかった。 「・・・吸血鬼?」 「そうそう、最近吸血鬼が出るようになったんだよ?」 「満弦ヶ崎に?」 「ううん、違うの。噂では瀬戸の方らしいけど・・・」 「最近満弦ヶ崎でも噂になってるわ、紅い瞳を持つ吸血鬼の事」 「それってただの都市伝説じゃないの?」 「そうかもしれないけど・・・」  なんだか姉さんも困ってるみたいだけど、実際の所はどうなんだろう? 「まぁ、何はともあれリースちゃん、お風呂一緒に入りましょう」 「・・・いや」 「あ、さんせーい! 私も一緒に入る!」 「そうね、女の子同士仲良く入りましょう」  にこにこしながら姉さんが提案しつつ、いつのまにかリースの背後に  回っていた。 「・・・」  それに気づいたリースが逃げようとするより速く、リースをしっかり  捕まえていた。 「は、はなせ!」 「はいはい、お風呂入りましょうね〜」  あ、なんか姉さん上機嫌だ。 「・・・達哉君?」 「ん?」 「のぞいちゃ駄目だからね?」 「ぶっ!」  俺は飲みかけの麦茶を吹き出しそうになった。 「だ、だれがそんな危険なことするかっ!」 「・・・危険?」 「あ、リースちゃん、いいのいいの。気にしないでね」 「それじゃぁお風呂行って来ま〜す」 「だから、はなせ!」  結局リースは姉さんと麻衣につれられてバスルームに消えていった。  洋服をはぎ取られ? パジャマに着替えさせられたリースは、今日は  泊まっていくしか無くなっていた。 「・・・笑うな」 「照れない照れない」 「・・・照れてない」  寝る前のちょっとした時間、姉さんの部屋から抜け出してきたリースは  ベットの上に座る俺の腕の中にいた。  ここはリースの特等席だ。  俺はリースを抱き留めながら、髪をそっと梳いている。  窓の外には雲一つない夜空の向こう側に、月が浮かんでいる。 「科学がここまで発達した世界に吸血鬼か・・・」 「・・・」 「リース?」 「・・・タツヤ、発達した科学は、魔法と何も変わらない」 「え?」  科学が魔法と変わらない? 「装置で空に浮く、でもそれを知らない人が見れば魔法」 「・・・たしかに」  知っている人が見れば失われた技術だとわかっても、知らない人が見れば  それは魔法でしかないわけだ。 「・・・あれ? でも吸血鬼と何の関係があるんだ」 「・・・」  リースは一度目を閉じた、そして開いたときには・・・ 「人は足りない物を補おうとする、もし血が足りないのならどうすればいい?」  紅い瞳の少女がそこにいた。 「・・・フィアッカ」 「達哉、質問に答えておらぬぞ?」  えっと、血が足りないのなら? 「輸血?」 「ご名答、ではそれで間に合わない場合は?」  ・・・もしかしてそういうことか? 「達哉が思ってるとおりだ。そういう事例もないわけではないのだ」 「なるほど、納得した・・・」  なにも幻想の生き物じゃなかったのか、吸血鬼は。  あれ? でも麻衣は言ってたよな?  この満弦ヶ崎でも噂があるって・・・ 「じゃぁ、満弦ヶ崎にもそういう症状の人が」 「いない」  俺の質問にフィアッカは即答する。 「この町での吸血鬼の目撃例は、たぶんすべて私だ」 「・・・え?」 「最近何故かこの場所でロストテクノロジーの反応が多くあるのだ。  その調査を夜行っているのだが・・・」  コホン、とわざとらしい咳払いをいれるフィアッカ。 「まぁ、細心の注意をしてても、誰かに見つかってしまうこともあるのだよ」 「それが、満弦ヶ崎での吸血鬼の伝説?」 「・・・そう言うことだ」  ・・・おれは身体から一気に力が抜けていくのがわかった。  世間を騒がす吸血鬼騒動が、まさか身内のせいだったとは・・・ 「・・こんなこと、誰にも言えないな」 「まぁ、そう言うことだ。達哉の胸の内に秘めておくがよい」 「でも、なんでフィアッカが説明しに出てきたんだ?」 「そ、それはだな・・・リースが心配だからだ」  急に落ち着きが無くなった。 「リースが心配? おかしくないか? 吸血鬼騒動の主がフィアッカなら  リースは全く問題ないじゃないか?」 「・・・ふぅ、リースも大変だな」 「?」 「まぁ、そう言うことだ。私は少し眠る」 「おい、フィアッカ?」  俺の質問を答えないまま、瞳を閉じるフィアッカ。  そして・・・ 「・・・ん」  俺の腕の中にはリースが戻ってきていた。 「結局なんだったんだろうな?」 「・・・」 「リース?」 「・・・眠い」 「そうか、もう寝ようか」 「うん」  そう言うとリースは俺の布団の中に入っていた。 「リース?」 「・・・ここがいい、タツヤと一緒」 「・・・そうだな、寝ようか。お休み、リース」 「・・・お休み」 「あ、そうだ。その前に・・・」 --- 「世の中には本物の魔法も存在するのだぞ? 達哉。  そしてその魔法をリースに使えるようにしたのだ誰か、  わかっているのだろうな?」  寝ている達哉に語りかけても、返事があるわけがない。  私はそっと自分の胸元にかかっている物を手に取った。  小さなシルバーのアクセサリがついたネックレス。  一つの鎖に二つのアクセサリがついていた。  一つはリースの誕生日祝いに、そしてもう一つはこの私にだそうだ。 「・・・達哉らしいな」  私は私の分のアクセサリをそっと両手で包み込む。 「・・・悪くはないな」  そう想いながらリースの想い人の胸の中で眠ることにした。 ---
4月15日 ・FORTUNE ARTERIAL sideshortstory 千堂瑛里華編 「あぁ、そうだ」  昼休み、監督生室でお弁当を食べてた時、突然お兄さまが切り出してきた。  こういうときのお兄さまは何かを考えている事が多い。  それも私が思った想像の斜め上を行くような事を・・・ 「瑛里華、すまないけど悠木かなで君を呼びだしてもらえないか?」 「・・・あの寮長さん、また何かしたんですの?」  お兄さまからの問いかけに、またかと私は思う。 「大したことはしてないよ、ただちょっと報告を受けたのでその確認を  するだけさ」  お兄さまの目線はちょっとの間だけ、会計の征一郎先輩の方を向いた。  征一郎先輩は何も言わないけど、いつもより落ち着きが無く感じる。 「何をなさったんですの?」 「まぁ、おいおいわかる。それよりも呼び出しを頼む」  ふぅ、と私はため息をつきながらあの寮長の呼び出しをどうやって  成功させるかを考える。  普通に放送で呼び出しても捕まらない可能性が高い。  そうなるとやはり・・・ 「妹の悠木陽菜さんに頼むしかないか」  毎度の事ながらそれしか方法がないというのも困りものだ。 「それでは呼び出しておきますわ、放課後でよろしいですか?」 「あぁ、それでいい」  もうすぐ昼休みも終わってしまう、本来ならすぐに内線を使って放送室から  呼び出しを依頼するのが手順なのだが寮長を直接呼び出せないため、  そうなると陽菜さんを呼ばないといけない。  何の問題も無い陽菜さんを放送で呼ぶのにはいろいろと問題もある。  お昼休みが終わる前に陽菜さんを見つけられればよいだけど・・・  放課後。  私とお兄さま、征一郎先輩と妹の白ちゃんがいる監督生室。  そこに妹の陽菜さんにつれられて寮長、悠木かなで先輩が出頭してきた。 「わざわざお越しいただいてすまないね、悠木君。」 「私に何の用事ですか?」 「用件は2点ある。」  2点? 事前に説明を受けたときは一つしかなかったはずなのに。 「まず、先日下級生を脅迫したというたれこみがあってな」 「あらら、そんな噂が流れてたの?」 「とぼけないでくれないか? その相手が白だってことは調査済みだ」  あ、やっぱりこのタイミングで征一郎先輩が割り込んできた。  事前にお兄さまが説明した内容は先日の昼休み、白ちゃんがかなで先輩に  詰め寄られてたということだった。  あのかなで先輩のことだから何も問題ないとはおもうのだけど、白ちゃんの  お兄さまである征一郎先輩が難色を示し、呼び出しての事情聴取になった  わけだけど・・・  いつも冷静な征一郎先輩も、白ちゃんの事にたいしてだけは冷静さを欠く傾向に  ある。今日も悪い方にそれが出ないといいんだけど・・・ 「征一郎、今は私が発言しているんだ。少し落ち着いてくれ」 「・・・すまない、伊織」  お兄さまは咳払いをわざとらしくして、話を続ける。 「という噂が流れた訳だよ。その真意を問いただすために来てもらった訳だが」 「じじつむこんでーすっ」 「火のないところに煙は立たないと言うが?」 「誰かが勝手に火をつけて振り回した噂じゃないの?」 「それではかなで君は別に放火した訳じゃないのだな?」 「あったりまえじゃないですか」  いつもと同じやりとり、お兄さまはこういうやりとりが大好きだから  今回も楽しみながらしているのがわかる。  そしてこのまま終わるはずだった。 「だが、君の思惑はどうあれ白は間違いなく被害者だ。」  征一郎先輩の一言で監督生室の温度が急激に下がった。 「それは認めてもらおう、そして白に二度とこういうことをしないと  誓ってもらう」  ・・・悪い方向へ流れてきている、私はそう感じた。 「そっか・・・友達への協力を頼もうと思ったんだけど、白ちゃんには  迷惑だったんだね、ごめんなさい」 「お姉ちゃん・・・」  いつもと違った、少しテンションが下がった声で語るかなで先輩。  そのかなで先輩の手をぎゅっと握る陽菜さん。 「そんな・・・」 「そう言うわけだ、これでこの件はおしまいだ」  何かしゃべろうとした白ちゃんを押しのけてこの件を片づけようとする  征一郎先輩。  ・・・これは違う。  何が違うかって言われるとわからない。でも、絶対違う!  私が反論をしようとしたとき、肩にそっと手を置かれた。  見上げるといつのまにか、お兄さまが私の後ろまで移動してきていた。  ちょっと驚いたけど、お兄さまが何を言いたいのかわかった気がした。 「お兄さま、よろしいのですか?」 「あぁ、好きにやりたまえ」  いつもの何かを企んでいるような笑いではなく、優しい微笑みを私に  投げかけてくれる。  あぁ、たしかにこんな微笑みをされたら落ちない女の子はいないんだろうな  と、頭の片隅で納得する。  ・・・って今はそんなこと関係ない。 「かなで先輩、確認したいのですが」 「なに?」 「かなで先輩は、友達としての白ちゃんに協力を依頼したんですよね?」 「うん」 「それでは、白ちゃん。」 「は、はいっ」 「白ちゃんにとってかなで先輩は、何?」 「え?」 「寮長さん? 先輩? ・・・それともお友達?」 「白、正直に言いなさい。寮長は・・・」 「征一郎、瑛里華はおまえに聞いていない。白ちゃんに聞いてるんだ」 「・・・」  正論、だから征一郎先輩も黙るしかない。 「白ちゃん、どう?」 「あの・・・先輩は・・・」 「・・・」 「かなで先輩は私の友達ですっ!」 「なら、何も問題はないですわね。友達同士のちょっとしたコミュニケーション  だったのですから、そうですよね? お兄さま」 「そうだな」 「でも・・・」  なおも食い下がろうとする征一郎先輩。 「征一郎、おまえはどうしたいんだ? 可愛い妹の友達関係を壊したいのか?」 「・・・」  これでこの件は無事解決した。 「お姉ちゃん、お疲れさま」 「いやいや、このくらいなんてことはないのです。  それじゃぁ、私たちは帰っていいかな?」 「ちょっと待ってもらおう。一応騒ぎを起こした訳だからな。  それだけは注意しておかないといけないから。」 「一応って、生徒会長の言う言葉じゃないでしょ?」 「まぁまぁ良いじゃないか、大団円なんだから」  お兄さまったら・・・ 「それで、2点目の件だが・・・」  そう言えば、呼び出しの内容は私にも1件しか伝えられてない。 「かなで君」 「・・・」 「君の企画してる事に俺達も混ぜてもらおう」 「・・・ほえ?」  企画? かなで先輩は何かをしようとしているの? 「面白そうなことを行うのに俺達を誘わないのは駄目だろう?」  にやにや笑いながら、いつの間にか生徒会会長の肩書きをはずしている  お兄さまがいた。 「お兄さま、面白そうなことって?」 「かなで君と陽菜君の幼なじみが転入してきた。その転入生が面白そうな  逸材らしいからな。会っておきたいんだ」  そういえば、先日隣の陽菜さんのクラスに転入生が来たのは知ってはいたけど 「あの八幡平君とすぐに意気投合し、あの紅瀬桐葉君に関わったという  話がここまで届くくらいだ。面白いじゃないか」  だいたい話がわかってきた。  幼なじみとの再開でお祝いをしようとしてるわけね。  八幡平君はそういうお祭りが好きだし、あの面々がそろえばそうなるわけね。 「なるほど・・・それでは私も参加させていただきますわ」 「え、えぇ?」 「白ちゃんは来るんだよね? だとすると・・・征一郎も一緒か?」 「・・・僕が行かないで誰が現場での暴走を止めるんだい?」 「うぅ・・・こっそりパーティするつもりだったのにぃ。  それに、孝平君を甘やかしていいのは私だけなんだからっ!」 「だいじょうぶよ、かなで先輩。私たちは甘やかす訳じゃないから」 「そんなこといってもだーめ、ひなちゃんも孝平君もあげませーんっ!」 「なんでそこで私が出てくるの? お姉ちゃん」 「ひなちゃんも孝平君もわたしのだもーんっ!」 「いつから私はお姉ちゃんのものになったの?」 「だって私のヨメだもんっ!」  いつもの調子を取り戻したかなで先輩はいつも以上に暴走していた。  それを、いつものように冷静な視線でみる征一郎先輩。  こういうやりとりが大好きなお兄さまは楽しそうに見ている。  白ちゃんは・・・あ、笑ってる。  やっぱりよかったんだ、かなで先輩は白ちゃんの友達であってたんだ。  私はというと、いつのも風景だなって思っただけ・・のはずだった。  今思えばこのとき最初に転入生の存在が気になり始めたのだろう。  あのかなで先輩が陽菜さん以外に最大級の好意を向けている事。  陽菜さんもかなで先輩以外に、かなりの好意を向けている事。  それが、転入生「支倉幸平」君を認識した、最初の事だった。  そしていつもと同じようでいつもとちょっと違う監督生室の風景は、  この後私の思っても見なかった方向に進んでいくことになった。  そのことを知るのはまだちょっと先だった。  寮の部屋で行われた歓迎会。  その場所には思った以上の面々が集まった。  企画した悠木姉妹以外に八幡平君や、あの紅瀬さんがいるのには驚いた。  生徒会役員がそろっているのもすごい光景だとおもう。  主役である転入生君は、さすがにこの光景に圧倒されて落ち着きが無いように  見える。私は彼のことは知らない。でも、何故か励ましたくなった。 「支倉君」  彼の返事を待たずに、私は伝える。 「胸を張りなさい、今日は貴方が主役なんだから」
4月8日 ・夜明け前より瑠璃色な - Brighter than dawning blue -   sideshortstory「エステルが制服に着替えたら」 「達哉っ、そんなに手を引っ張らなくても歩けますっ!」 「ごめん、エステル。でも早く見たいから」  日曜礼拝が終わった後、礼拝堂の自室で達哉をお茶をしてたときのこと、  話の流れから「桜」を見に行くことになった。 「桜は本で見たことありますけど、実際には見たことはないんです」 「それじゃぁ、見に行きましょうよ、ちょっと遅いけどまだ間に合います」 「遅い?」  桜を見に行くのに遅いというのはどういう意味だろう?  時間ならまだお昼前だし遅くはないと思うのだけど 「えぇ、もう満開の時期は過ぎちゃってるんですよ。桜はすぐに散ってしまうから」  あぁ、そう言うことか。  自然に咲く花は、すぐに枯れてしまう物だったということを思い出した。 「だからすぐに見に行こう、エステル!」  私の手を引いてすぐにでも出かけようとする達哉。  達哉と一緒にいるようになってわかったことがあった。  普段思慮深い面を見せるのだけど、本質の部分はすごく子供っぽいとこ。  そして、達哉は鈍感だって事。  ・・・でも、達哉は達哉ですもの、そんな達哉に惹かれたのは私だから。 「達哉、せめて着替えさせてください。法衣のままでは目立ちすぎます」 「あ・・・ごめん、エステル。外で待ってるね」 「はい、なるべく急ぎますね」  以前なら気にしなかった格好、聖職者の法衣は私にとって信仰の証で  あると同時に、私が私であるための誇りでもあった。  でも、今は違う。  聖職者である私も私だけど、達哉と一緒にいる普通の女の子も私だから。  たしかに、法衣は目立ちすぎる。最近の日曜礼拝には地球の、現地の人も  訪れるようになったから、達哉が言うには私の知名度が上がってるそうだ。 「月人居住区の司祭様は地球のことも理解してくれている可愛い女性」  という、知名度らしい。  まだ地球のことは理解しきってないとおもうから、この言われ方には  ちょっと抵抗がある、と反論したら達哉は 「可愛いって所には反論しないんだね」  って、笑いながら言われてしまった。  私だって、聖職者であるまえに女の子なんですからね?  普段着に着替えてから達哉は手をひいて、ではなく引っ張るように歩き出した。 「達哉、どこに行くんですか?」  この方向は商店街の方、つまり達哉の家がある方向。 「まずは俺の家に。そこで準備してから行くから」 「準備? 桜を見るのに準備がいるのですか?」  そのまま行けば何も問題無いように思えるのですけど、達哉の嬉しそうな顔を  みてると何も言えなくなってしまう。  ただ、この笑顔がいたずらをしようとしてる顔だって事に気づくのはもう少し  後になってからだった。  達哉の家についたら、さやかさんが出迎えてくれた 「エステルさん、いらっしゃい。それじゃぁ私の部屋に行きましょうか」 「え?」 「姉さん、ちょっと準備してくるからよろしく」 「はい、頼まれました」  妙に嬉しそうな笑顔のさやかさん。 「それでは、エステルさん。こちらに」 「ええ!?」  気がつくと、さやかさんのお下がりだという、達哉の学院の制服を  着せられていた。 「・・・達哉、なんでこんな格好に着替えなくてはいけないのですか?  それにこの洋服は・・・その、スカートが短すぎます」 「・・・」 「達哉?」 「・・・あ、ごめん、見とれてた」 「っ!」  頬に熱を持つのがわかった。 「あらら、達哉君ったら正直ね〜。それにしても似合うわね、私が  学院に通ってたころみたい」 「・・・」 「あら、達哉君。何か言いたそうね?」 「いや・・・そのころの姉さんってあんまり覚えてなくって。  ほら、俺はまだガキだったし」 「あのころの達哉君は反抗期だったものね、残念だわ」 「・・・二人とも、私の話を聞いてくださいっ!」  いつのまにか二人の世界に入ってしまった達哉を見て思わず声を  だしてしまった。 「ごめん、エステル。」 「あ・・・いえ・・・」  ・・・嫉妬してた。この程度で、家族の会話に嫉妬してしまうなんて。 「あらあら、それじゃぁ達哉君。遅くならないうちに帰ってくるんですよ?」  私の内面の葛藤に気づかないのか、気づかないふりをしてくれるのか  さやかさんは話題を変えてくれた。 「うん、それじゃぁ行って来ます。エステル、行こう!」  達哉は気を取り直して、私の手をとって歩き出す。 「なるほどね、ここにはいるから必要だったわけですね」  つれてこられたのは達哉の通う学院。 「無理矢理すみません、学院内の桜ならそんなに人がいないと思ったので」  桜を見れる場所には人がいっぱいいて、宴会をしてるらしい。  そんな人が多いところにはつれていけないと思った達哉は、人が少ないと  おもう、学院の中に連れて行くことを思いついたらしい。  問題なのは、私が部外者だということ。  それをごまかすために、制服を着せたということだけど・・・ 「本当は私の制服姿が見たかったのではないですか?」  本で読んだことがあります、男の人はこういう制服が好きだ・・・って  達哉も年頃の男の方だから、そういう興味が無いわけではない、と思います。 「・・・」 「た・つ・や?」  私は達哉の正面にまわり、下から達哉を見上げる。  こうすると達哉はたいてい、折れてくれる。 「ごめん、エステル。エステルの制服姿見てみたかった」 「正直でよろしい」  男の人が女の人にどう言うことを求めるのか、本で読んだこと以上のことは  よくわからない。  でも、達哉は私に、エステルという女の子を求めてくれている。  そこには月人も、地球人も、教団の司祭も関係ない。  そのことが私は嬉しかった。  そのままの私を見てくれる、血筋も生い立ちも関係ない、今の私をちゃんと  見てくれる・・・ 「ねぇ、達哉。今思ったのだけど・・・学院生がいれば私が部外者ってこと  すぐにばれちゃいませんか?」 「あ・・・」 「ふふっ、達哉らしいです」  学院の生徒の姿をしていても、学院生から見ればすぐにわかってしまうことに  気づかないなんて、やっぱり達哉らしいです。 「そ、そんなことよりも・・・エステル、桜の所に行こう!」  そういうとごまかすように私の手を取って歩き出す。   「これが・・・桜」  学院の桜並木に案内された私は、それを見た瞬間、一歩も  動けなくなってしまった。  本で見た満開の桜は、ただ綺麗だなと思っただけだった。  でも、それは間違いだとわかった。 「ちょっと散りすぎてるかな・・・遅かった」  達哉はよこで気を落としているみたいだったけど、私は気づいてなかった。  ただただ、桜に心を奪われていた。  樹は桜の花で満開ではなく、緑のところが見えている。  後で知ったことだけど、桜の花が散ったら枝だけになるわけではなく、  青々とした葉がはえてくるそうだ。  そして風が吹かなくても散っていく、桜の花びら。  その1枚1枚が日の光を浴びて輝いている。  散っていく事はもの悲しいと思うのだけど、桜の花が散っていくときの輝きが  悲しさを感じさせず、神々しさを感じる。  ただただ、その光景にずっと見入っていた。 「エステル?」 「・・・」 「エステル?」 「は、はいっ!」  達哉の呼びかけに我に返った。 「だいじょうぶ? なんだか惚けてたようだけど・・・」 「だいじょうぶです、達哉は心配しすぎです」 「はぁ・・・それより、桜並木のベンチに行きましょうか」 「え? あの中を歩いても良いのですか?」 「良いも何も、遊歩道ですからだいじょうぶです」 「・・・」  あの中を歩けるなんて・・・思っても見なかった 「行こう、エステル」  達哉は、今度は優しく手をひいてくれた。  地球に上ってから、ずっと手を引いてくれる達哉。  これからも、ずっとずっと、私の手を離さないでくださいね、達哉。 --- 「あのときは驚いたわ、ねぇ、達哉君」 「もう勘弁してって」  制服を貸してくれたお礼にケーキをお土産に、エステルと一緒に  家に帰った。  姉さんはすぐに紅茶を淹れてくれた。  私服に着替えたエステルと一緒にケーキを食べてるとき、姉さんの  話題は、俺のことばかりだった。 「だって、達哉君ったら電話で私に何て言ったと思う?」 「・・・何て言ったのですか?」 「何も聞かずに姉さんの制服貸して! だもん。普通は驚いちゃうでしょう?」  姉さん、あのときのことを思い出して笑ってる。  俺は直視できずに、思わず顔を背ける。 「達哉君にそんな趣味があるなんて、お姉ちゃん驚いちゃった」 「だから、あれは学院に忍び込むために必要だったんだってば!」  変な誤解をされないために力一杯否定する。 「でも先生に見つかればあっさりばれちゃうんじゃない?  ミアちゃんの時もそうだったんでしょ?」 「う・・・」  そういえば、そうだった。 「前にもこういうことあったんですか?」 「えぇ、ミアちゃんが学院のこと気になったときにね、麻衣ちゃんの制服を  借りて忍び込んだことがあったのよ。でもね、生徒にはばれなかったけど  先生にばれて、一悶着あったのよ、ね? 達哉君」 「・・・」  何も答えれない。 「でもね、達哉君。一つだけ約束してくれる?」 「・・・なに?」 「変なことに制服使わないでね」 「ぶっ!」 「変なことって?」 「エ、エステルは知らなくても大丈夫!」 「私にだって知る権利はあります。教えてください、達哉!」 「あらあら」  姉さん、何て事を・・・  たしかに興味がないわけじゃないけど・・・ってそんなことよりも  エステルになんて説明すればいいんだよ? 「達哉っ!」  そのうちエステルは、あの手を使ってくるだろう。  俺の前に回り込み、下からまっすぐ俺を見上げてくるあのラベンダー色の  視線に、俺は耐えれない。  そのときの言い訳をちゃんと、考えておかないとな・・・  今も詰め寄ってくるエステルを見ながら、苦笑いするしかなかった。
4月5日 ・FORTUNE ARTERIAL sideshortstory 「ほら、お姉ちゃん。早く行かないとお昼休み終わっちゃうよ?」  ひなちゃんと腕を組んで歩く廊下。  正確に言えば、腕を組まされて引っ張られて歩く廊下。 「えぅ〜、めんどーだよ〜」 「だめ、ちゃんと東儀さんに謝るの、ね?」 「うぅ・・・何も悪いことしてないのにぃ」  お昼休みのはじめに白ちゃんとお話したとき、ちょっとだけ悪のりしちゃって  それをよりにもよってひなちゃんに見つかっちゃったのがまずかったな〜。  その後の逃走も失敗に終わり、今現在連行中。 「えぅえぅ」 「嘘泣きしても駄目です」 「あ、ばれた?」 「何年お姉ちゃんの妹やってると思うの?」 「さすがひなちゃん、伊達に私のヨメじゃないよね」  その言葉を聞いたひなちゃんが、にこにこしながら 「・・・お姉ちゃん、そんな甲斐性捨てちゃってね」 「なんで私の言うことわかったの!?」 「・・・はぁ。早く行きましょうね」 「えぅ〜」 「おぉ、これはこれは麗しきスィートハニーは陽菜さん、こんにちは」 「こんにちは」  廊下の途中で男子生徒が挨拶してきた・・・なんか嫌みっぽさそうなヤツ。  ひなちゃんも丁寧に挨拶なんてしなければいいのに。  挨拶だけをすませてひなちゃんと、連行されてる私はそのまま通り過ぎる。  はずだった。 「陽菜さん、そろそろ返事を聞かせてくれてもいいんじゃないかな?」 「その件はお断りしました。」  ひなちゃん、にこにこしてるけど、ちょっと難しそうな顔になってる。  この微妙な変化は今のところ私にしかわからないんだよね。 「用事があるので、失礼します。」 「用事って、そこにいる姉の事かい?」  姉・・・って私のことか。  うーん、なんだかひなちゃんのおまけっぽい扱いが納得いかない。 「そうか、やっぱりその姉が原因か・・そうだ、そうに違いない!」 「え?」  私は思わず声が出てしまった。 「そうだとも、麗しき陽菜さんが、この僕を拒む理由なんて無い!  そう、僕には全く持って欠点が無いのだから。」 「・・・」  こいつ、何言ってるんだろう? 「そう、陽菜さんと僕の未来を拒む障害は、そこにいる姉なのだね?  そんなお荷物があるから、僕の願いを受け入れられないんだ!!」  ・・・なんかすっごい言われ方。  むっかむっかしてきた。  私が一言文句を言おうとするよりもさきに、男子生徒の口が開く。 「そう、この姉さえいなければ美しい陽菜さんが汚れることも無く、  恋いを知らないまま学生生活をすごさなくてもすむのだ!」 「おい、そこの男子生徒F」 「だ、男子生徒F? な、なんだい? その呼び名は」 「名前なんて知らないからいいの。男子生徒F」 「僕の名前を知らない? この麗しき僕の名前を?  これだからお荷物は・・・」 「うるさい、通行人F」 「つ、通行人?」 「おまえがどう思おうと、私をどう言おうと勝手。  だけど、ひなちゃんを悪く言うのは許さない!」 「何を言う、この諸悪の根元。おまえさえいなければ陽菜さんは  明るい学生生活を送れるのだ、この僕と共に! そうだろう?」  私は怒りのままに反論しようとした。  でも、それは出来なかった。組んでいる腕を、つないでる手に  ひなちゃんが力をいれてきたからだ。  痛いわけじゃない、暖かさを、力強さを感じる。  「大丈夫だよ、お姉ちゃん」、そう言ってるような、そんな強さで。 「通行人Fさん、それ以上の暴言謹んで下さい」 「なにっ! 陽菜さんまで僕の事を? 僕には麗しき名前が・・・」 「関係ありません、通行人Fさん」 「がーん・・・」  がーんなんて口で言う人初めてみた。 「貴方が私をどう思おうと勝手です、でもお姉ちゃんの事を酷く言う事は  私が許しません。」  静かに、力強い意志で語られる言葉。  軽い言葉でしかしゃべれない通行人Fには重すぎる言葉。 「金輪際、私たちの前に姿を現さないでください、通行人F、いえ、  通りすがりの人さん」 「・・・」  あ、ショック受けてる。  面倒見の良いひなちゃんは誰とも友達になれる。  そのひなちゃんに絶交宣言されたということは、他の生徒からも見方を  変えられてしまうだろう。  ・・・まぁ、見方変えられる以前に駄目そうな性格だったけど。 「それと、私を名前で呼ぶなんて、馴れ馴れしいですから、止めてください」  いつもにこにこして人当たりの良いひなちゃんだけに、一度嫌った相手は  徹底してる。 「それでは、用事がありますので失礼致します。」  いつの間にか出来てる人垣をわけて、私たちはその場を立ち去った。  ・・・立ち直れるだろうか? あの通行人Fって人。  ひなちゃんに引きずられるように歩いて、廊下の角を曲がったところで  立ち止まった。 「ひなちゃん?」 「・・・ごめんね、お姉ちゃん。私のために嫌な思いさせちゃって」 「ううん、ありがとう、ひなちゃん」  私のお礼の言葉に、驚いた顔をしたひなちゃん。 「私のために怒ってくれたんでしょ? 私、嬉しかったよ」 「ううん、そんなことない。最初に私のためにおこってくれたの  お姉ちゃんだもん」 「あったりまえじゃない、私のヨメの悪口なんて許すわけないでしょ?」 「・・・くすっ」 「あはっ」  なんだかおかしくなってきて、二人で笑い出しちゃった。  そのときお昼休みを終える予鈴がなった。 「お昼休み終わっちゃったね」 「そうだね、教室戻ろっか?」 「・・・お姉ちゃん」 「なに、ひなちゃん」 「生徒会室には放課後行きますから逃げないでくださいね」 「えぅ、まだ覚えてたの?」  私の問いに、ひなちゃんはまぶしく微笑んだ。 「えぇ、私はお姉ちゃんのヨメですから」  放課後。 「ねぇ、お姉ちゃん。さっきの通行人さん、なんでFだったの?」 「んとね、Aだと脇役で一番目立つでしょ? だからFまでランク下げただけ」 「・・・お姉ちゃんらしい」 「えっへん」
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