○雷 その1



 いつの間にか、黒く険悪な雲が空を覆っている。
 冷たい風が吹き始め、今までとは違う雰囲気が辺りに漂う。
 ポツリ、ポツリと大粒の雨が落ち始めたかと思うと、加速度的にその数は増してゆく。
 焼けたアスファルトに落ちる雨粒から発せられる、特有の匂い。懐かしささえ感じる、あの季節の思い出。
 斑な模様を地面に作っていた雨はすぐに土砂降りへと変わり、地面は跳ね返る雨の飛沫で白く煙る。

 突然、巨大なフラッシュが焚かれたかのように、周囲が明るく光る。
 一瞬間をおいて、腹の底に響く大音響。

 雷は、ほとんどの人にとって怖い自然現象なのだと思う。
 突然の光や音に驚かされるだけではない。年に何名かの尊い人命が、雷による事故で失われている。
 これだけ文明の発達した現代においても、雷は人間の力を超えた、脅威的な存在になっている。





 雷は、雷雲(積乱雲)から発生する。
 だから雷雲が発達しやすい気象条件、例えば上昇気流が活発になる夏の午後は、雷のゴールデンタイムになりやすい。
 さらに、上空に冷たい空気が流れ込んできた時は春夏秋冬、昼夜関係なく雷が発生する。夜空を彩る雷の光と音は、花火のそれにも負けない迫力がある。

 この雷の正体は何かというと、皆さんご存知の通り、電気の放電現象だ。18世紀のアメリカの偉人、ベンジャミン・フランクリンが凧を使った実験でそれを証明した逸話も知っている人もいるかもしれない。
 プラスチックの下敷きを擦ったり、乾燥した時期にセーターを脱ぐときに静電気が発生して、パチパチと音を立てることがある。雷は、それがもっと大きな規模で起こったもの。
 つまり、雲の中で電気が作られている。雷雲はその中に、電気の元である「電荷(でんか)」を作り出し、溜めこむ仕組みがあるのだ。

 このことをもう少し詳しく見てみよう。
 電気の元である電荷には、当然プラスとマイナスがある。通常は磁石のN極・S極のようにお互いに引き合ってくっつき、プラスマイナスゼロの状態になっている。
 ところが雷雲の中は強い上昇・下降気流があって、水や氷の粒が溶けたり凍ったり、またお互いに衝突したりしている。
 このときプラスとマイナスの電荷が分離して、ある粒はプラスの電荷が集まってプラスに”帯電”し、ある粒はマイナスの電荷が集まってマイナスに”帯電”するようになる。

 完全に解明されているわけではないが、一般的に、比較的大きな氷の粒はマイナスに帯電し、小さな粒(氷晶)はプラスに帯電することが知られている。 小さなプラスの粒は雲の中の上昇気流に乗って雲の上部へと運ばれ、大きいマイナスの粒は上昇気流に逆らって落下し、雲の下部に位置する。
 つまり雲の上部はプラスに、底部はマイナスの電荷が集まり、その間には大きな電圧の差が生じる。雷雲が、巨大な電池のようになってゆく。

 ふつう、空気は電気を通さないから、これらのプラスとマイナスの電荷がお互いくっついて中和されることはなく、どんどん電荷が溜まってゆく。溜まれば溜まるほど、電圧の差も大きくなる。



 その差が一定以上に大きくなったとき、本来は電気を通さないはずの空気の一部が変質し、木が土中に根を張るように、空中に電気の通り道が伸びてゆく。ステップトリーダーと呼ばれるその”根”が伸びてゆくと、やがてそこを通って、溜まりに溜まっていた電荷が一気に流れる。

 狭い通り道にたくさんの電流が流れるので、その経路は急激に熱せられる。そこは空気を作る原子がバラバラになった「プラズマ」状態になっていて、明るく輝く。この電光現象が雷だ。稲光とか稲妻ともいう。

 この雷の通り道は1〜3万度といった超高温で、爆発的に膨張した空気が大きな雷鳴を轟かせる。
 千メートル以上の長さがある電気の通り道すべてが雷鳴の音源となり、しかもそれらが大気中で反響するので、ゴロゴロと長く響く音になる。

(補足)
細かい話で恐縮だが、ちなみに気象観測上の分類では以下のような定義になっている。
‥天気の種類の一つで、観測時刻の前10分間に雷電又は雷鳴があった状態のことをいう
雷電(らいでん)‥電光(雲と雲との間又は雲と地面との間の急激な放電による発光現象)と雷鳴がある現象
雷鳴(らいめい)‥電光に伴う鋭い音又はゴロゴロとなる音響現象

 もちろん、雷は雲の中だけで起こるわけではない。
 雲の底部にはマイナスの電荷が溜まっている。それに影響されて、(まるで磁石に吸い寄せられる砂鉄のように)地面にはプラスの電荷が集まってくる。つまり雲と地面の間にも大きな電圧の差が生じる。これがある程度大きくなったとき、雲と地面の間でも放電現象が起こる。これが落雷だ。
 このとき、雲と地面の間の電圧差は、1億ボルト程度とも言われている。

 そして1回の落雷で流れる電流は、だいたい2〜3万アンペアという、とてつもない数字らしい。でも落雷に遭った建造物がめちゃめちゃに壊れたり溶けたりしないのは、その電流が流れている時間が50〜100μS(1μSは百万分の1秒)と、極めて短いから。

 それだけ一瞬の光が我々の目にハッキリ見えるのは、強い光による残像の影響の他に、もうひとつある。実は雷は同じ経路を通って何度か落雷することが多いのだ。
 雲や地面に溜まっていた電荷は、1回の落雷で完全に無くなるわけではない。一方、雷の通った場所は空気がイオン化していて、電気が流れやすくなっている。そこを通って、溜まっていた電荷がなくなるまで、1秒足らずの間に3回4回と繰り返し落雷するというわけ。
 ピカピカッと点滅する感じの雷がそれで、注意深く見ていると、同じ場所で何度か光る雷を実際に目にできることが多い。




○撮影データ(ページ上の写真より)
・1枚目  日時:2006年5月24日   場所:東京都中央区
 カメラ:ペンタックス *istD  レンズ:SIGMA 18-35mm F3.5-4.5 ASPHERICAL (撮影時19mm)
 その他:露出時間4秒 F11 ISO200相当 JPEG撮影
 ビルの灯りと、青白い光の筋の乱舞。夜の都会ならではの光景です。

・2枚目  日時:2006年8月12日   場所:東京都中央区
 カメラ:ペンタックス *istD  レンズ:SIGMA 18-35mm F3.5-4.5 ASPHERICAL (撮影時43mm)
 その他:1/10 F19 ISO200相当 JPEG撮影
 ビル屋上に落雷した瞬間です。昼間の雷の撮影はシャッタースピードを遅くできないため、電光を捉えてシャッターレリーズさせる必要があります。




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