○幻日






 太陽の左右に、光の点が現れることがある。太陽と同じような光の塊が現れることから、幻日(げんじつ)と呼ばれている。
 比較的頻繁に目にする内暈と違って、あまり見られない、珍しい現象だ。

 幻日はごく薄い雲が一様に空を覆っているときに現れることもあるし、雲の一部が光るようにして現れることもある。
 背景に暗い雲があると目立って見えるし、雲の分布などによっては、片方しか見えない場合もある。

 そしてほとんどの場合、幻日は虹のように色づいて見える。



 幻日は内暈と同じく、大気高層にある氷晶がつくる気象光学現象だ。

 多くの場合、その氷晶の姿勢はバラバラなので、太陽の周囲に丸い内暈が現れる。
 一方、高層の大気が静穏であれば、そこに浮かんでいる氷晶は、ゆっくり落下してゆく。
 このとき平べったい形をしている氷晶が多いと、空気の抵抗を受けて水平の姿勢になる。木の葉が一直線に落下せず、地面と平行に近い姿勢を保ちながら、ゆっくり滑るように落下してゆくのと同じだ。
 こんなときの内暈は、左右の縁の部分で特に光が強くなる。それが幻日だ。
 より多くの氷晶の向きが水平に揃っているほど、幻日は小さく、明るい光点になる。

 さて、氷晶の姿勢が揃っているということは、氷晶の底面に対する太陽の高度も揃っていることになる。
 内暈 その2では、内暈が白っぽくなってしまう原因のひとつに、氷晶の底面に対する太陽の入射角がバラバラであることだと書いた。しかし幻日ではその角度も揃っているため、内暈よりも色の分離がハッキリする。幻日の色付きが鮮やかに見えることが多いのは、そんなことにも原因がある。



 それともうひとつ。幻日は朝や夕方といった、太陽の高度が低いときに現れやすい。逆に言えば、太陽が天高く昇っている夏の昼間には出現しない。
 内暈 その2の後半に載っているグラフは、太陽高度が高くなるほど最小偏向角が大きくなることを示している。幻日の場合、太陽高度が高くなるにつれて氷晶の底面に対する入射角が大きくなるので、太陽から約22度離れた位置(内暈と同じ場所)にあった幻日も、太陽高度が上がるにつれて太陽から離れてゆく。
 太陽高度がある限界(約60度)に達すると、入射した光は氷晶内で全反射してしまい、観測者の目には届かないことになる。




 初めて見たとき、とても奇異な感じがした。空の一部が不自然に光っている。本でしか見たことがない現象を実際に目にできたことに、興奮した。
 不思議なもので、一度でもこのような現象を見た経験があったり、その理屈を知っていたりすると、それを発見する機会は多くなるように思う。





○撮影データ(ページ上の写真より)
・1枚目  日時:2008年2月2日   場所:東京都板橋区
 カメラ:ペンタックス K10D  レンズ:SIGMA 18-200mm F3.5-6.3 DC (撮影時18mm)
 その他:1/1500 F9.5 ISO100相当 JPEG撮影
 太陽の周囲に内暈があり、太陽の両側真横にある光点が、幻日です。
 薄曇りの日は、幻日に出会うチャンスです。多くの場合、このように内暈とセットになって出現します。


・2枚目  日時:2006年1月7日   場所:神奈川県横浜市
 カメラ:ペンタックス *istD  レンズ:ペンタックス SMC FA28-70mm F4AL (撮影時43mm)
 その他:1/4000 F9.5 ISO200相当 RAW撮影、JPEG変換
 横浜みなとみらい地区で見た幻日。画面左に夕日があり、右のビル上に雲を背景にして、虹のように色付いた幻日が見えます。



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