○虹 その1





子供の頃から 虹が好きだった

雨上りに それは突然現れる

空高く 弧を描いて伸びる 美しい七色の帯

僕は心を躍らせ それを見つめていた


そして その虹のある場所に行きたいと思った

自転車にまたがり その虹を追いかけた

でも いつまでたっても虹には近づけなかった

願いもむなしく 気付いたときには虹は消えていた

あこがれの 虹の場所

かなうことのない 夢だった



 虹は夕立など雨の直後、太陽の光が射し込んだときに現れる。注意深い人は、虹があるのは太陽とは反対側の空であることに気付いていると思う。そして、どんなに走っても、その虹のある場所にたどり着くことはできないことも。

 虹は、空気中の水滴に太陽の光があたり、それが水滴の中で反射・屈折することによって生じる。この反射・屈折する角度が色(正確に言うと光の波長)によって微妙に異なるため、白いはずの太陽光が分光され、あのような多彩な色を見せる。
 学校の理科の授業か何かで、プリズムに一条の光線を当てて虹を作る実験をした記憶のある人もいるかもしれない。プリズムはガラス製の三角柱だけど、虹の場合は空中にある球形の水滴がプリズムの代わりをするというわけだ。

 それと、虹は対日点(観測者から見た、太陽の反対側の位置)を中心とした約42度の円上に現れる。
 あたり前のことだが、昼間の太陽は地平線よりも上にある。だから対日点は地平線よりも下にある。ふつう地平線より下に雨粒はないので、実際の虹は円状ではなく、半円よりも範囲の狭いアーチ型となる。
 従って太陽の位置が高い日中は、対日点は より地面の下方になるため虹は見えない。逆に夕方など太陽位置が低いときは、対日点も地平線に近くなり、虹は高さのあるアーチ形となる。



 ところで、なぜ虹は対日点の周囲、約42度の円上に見えるのだろうか。
 太陽の光はプリズムでの実験で使ったような一条の細い光線ではなく、水滴の表面に一様に入射している。別々の場所から球形の水滴内に光が入射するのだから、屈折・反射して出て行く方向もバラバラなように思える。しかし、実はその反射した光が集中しやすい方向があって、それが入射光に対して約42度の方向であることが理論的にわかっている。
 広い空中に存在している水滴すべてが、太陽光の入射方向に対してその方向に集中的に光を反射させる(前述のとおり、この反射する角度は色により微妙に異なる)ので、虹が見えるということになる。

 つまり観測者から見た虹は、空中に無数に分布している水滴のうち、ちょうどその人のいる方向へ集中的に光を反射する位置にある水滴が見せているのだ。観測する場所が変われば、虹を見せている水滴の場所も変わる。
 だからどんなに場所を変えても、虹は対日点を中心とした半径約42度の円周上に見えるだけであり、虹を下から見上げたり、横から見ることは絶対にできない。いくら走っても、虹はそのぶん遠ざかってゆくように見えるだけ。虹の場所にたどり着くことはできないのだ。


 さて、虹は普通ひとつ見える(これを主虹という)だけだが、その外側にもうひとつ見えることがある。
 これは副虹と言って、対日点を中心として約51度の円周上に現れる。主虹が水滴内を1回反射した光によるものであるのに対し、副虹は2回反射した光が見せる現象だ。反射する回数が多いので、主虹に対して暗く見える。また、主虹が外側から内側へ向かって、赤、橙、黄、緑、青、藍、紫の順に並んでいるのに対し、副虹の並びかたは逆になっているのも特徴だ。

 右の写真はその副虹が見えている。太陽と反対側に厚い雲があるなどして背景が暗い場合に、この副虹が見えやすいようだ。この写真の場合がまさにそれで、にわか雨の直後、厚い雲の切れ間から太陽の光が射し込んだときに撮影したもの。
 さらにこの写真には、内側の主虹のさらに内側に白っぽい縞模様が見える。これは過剰虹と呼ばれるもので、水滴内で反射した光同士が干渉し合って生じる現象だ。




 虹は空中の水滴によるものだから、雨が降った後でなくても見ることができる。
 例えばこの2枚の写真だ。左側は池に滑り落ちて派手な水煙を上げる遊園地のアトラクション。一瞬だが、その水煙の中に虹が見えた。
(ちなみに撮影場所は遊園地とはいえ、このページのタイトルである「都会」には当てはまらないかも。でも人工物による自然現象ということでご勘弁願いたい。)

 右は噴水の中に見えた虹。ノズルから太い水の束を噴出させるタイプではなく、霧のような水滴を一様に出すタイプの噴水のほうが、虹が現れやすい。








大人になっても 虹は特別な存在だ

突然の夕立のため雨宿りするとき なぜか心躍るような気がするのも

虹が見られることを 期待しているからかも知れない

雨上り まだ濡れている道を目的地へと急ぐとき

ふと気付くと交差点の向うに虹が見えた

味気ない ありふれた景色に 空と太陽からの贈り物が彩りを添える

思わず立ち止り シャッターを切った


ちょうど目的地の方向に虹が現れたときは さらに 少しだけ嬉しくなる

虹の場所へと走ってゆけるからだ

かなうことのない 夢

でも たまには夢に向って走ってみるのも 悪くない





○撮影データ(ページ上の写真より)
・1枚目  日時:2000年8月12日   場所:千葉県市川市
 カメラ:コンタックス アリアD  レンズ:カールツァイス ディスタゴンT* 28mmF2.8
 フィルム:ベルビア50  その他:シャッター速度優先1/90秒

・2枚目  日時:2000年8月12日   場所:千葉県市川市
 カメラ:コンタックス アリアD  レンズ:カールツァイス プラナーT* 50mmF1.7
 フィルム:ベルビア50  その他:シャッター速度優先1/500秒

・3枚目(左)  日時:2002年11月10日   場所:山梨県富士吉田市
 カメラ:ペンタックス MZ-5  レンズ:ペンタックス SMC FA Zoom 28-70mmF4 AL
 フィルム:ベルビア50

・4枚目(右)  日時:2003年6月8日   場所:東京都江戸川区
 カメラ:ペンタックス MZ-5  レンズ:ペンタックス SMC FA Zoom 28-70mmF4 AL
 フィルム:ベルビア50

・5枚目  日時:2002年5月26日   場所:東京都品川区
 カメラ:ペンタックス MZ-5  レンズ:ペンタックス SMC FA Zoom 28-70mmF4 AL
 フィルム:ベルビア50



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