○内暈 その1




 高層に巻層雲などの薄い雲があるとき、太陽の周囲に大きな光の輪が現れることがある。内暈(うちかさ)、あるいは22度ハロと呼ばれる現象だ。一般には日暈(ひがさ)とも言う。様々な種類のある”暈現象”のうち最も頻繁に目にする現象で、薄曇りの日であれば、かなりの確率で見ることができると思う。
 観測する人からみて、角度でいうと半径22度の大きな円が、眩しい太陽を中心にして取り囲んでいる。よく見ると、この円は虹のように色付いていることがわかる。

 天気のことわざで、「日暈が出ると雨」などと言われるように、たしかに内暈が出た翌日あたりは雨になることが多い。これは内暈をつくる巻層雲が、低気圧の前面に出来ていることが多いから。つまり、
 内暈が出る→上空に巻層雲が広がっている→低気圧が近づいている前触れ→明日は雨
というわけだ。



 内暈は、空に色付いた大きな円を描くという点では虹と似ているが、大きく異なる点も多い。

 まず違うのが、それが見える場所だ。 虹は太陽とは反対側の空に現れるが、内暈は太陽の周囲に現れる。

 大きさも違う。虹は対日点を中心とした半径約42度の円だけど、内暈は太陽を中心とした半径約22度の円になる。虹と比べれば、小さい円だ。

 そして虹をつくり出すのは水の粒だけれども、内暈をつくるのは氷晶と呼ばれる、ごく小さい氷の粒。たとえ熱気ムンムンの真夏でも、何千メートルもの上空は氷点下の世界。そこにある氷の粒が、このクールな気象光学現象を見せている。

 もうひとつ違う点がある。色の並び方だ。虹の場合は外側から赤→橙→黄色…と並び、いちばん内側が紫になる。しかし内暈はその逆で、内側が赤になる。しかも暈は虹のように綺麗に色が分離しておらず、特に外側は白っぽい光になっていることが多い。


 さて、ここからは内暈という現象を、もうすこし突っ込んで考えてみよう。
 夏でも高層の空は気温が非常に低く、薄い雲をつくっているのは水滴ではなく、主に氷晶だ。この氷晶は雪の結晶の卵とも言えるもので、氷点下10度以下にもなる極寒の地では、地上でも見られる。これは別名「ダイヤモンド・ダスト」とも呼ばれる。
 氷晶は六角形の断面をもっていて、平べったい板みたいなものもあれば、鉛筆のように長い柱状のものもある。


 これらの氷晶の側面に光が当たると、空気と氷の境界面で2回屈折して、再び外へ出てゆく。(右の図)
 氷晶はいろいろな向きで空気中に浮かんでいるけれども、側面に光が入射した場合、ある一定の方向に集中して射出させる性質がある。その一定の方向というのが、入射方向に対して約22度の角度になる。それが内暈として見えるわけだ。

 ではなぜ約22度の角度に光が集中するのか。興味をお持ちの方のために、概略を数式で説明してみると...


 下は、氷晶の断面図。正六角形の辺を延長すれば正三角形になるので、氷のプリズムだと思えば分かりやすい。

 さて、光が氷晶に入るときと出るときに、屈折して向きが変わる。入射した光の方向と、射出する光の方向の差が偏向角だ。
 この偏向角は、光が入射する方向によって変わる。


空気の屈折率をn1、氷の屈折率をn2として、光が入射角θ1で入射したとき、
屈折の法則(スネルの法則)より
  n1sin(θ1) = n2sin(θ2)

上式を変形してθ2を求めると
  θ2 = asin(n1sin(θ1)/n2)

右側の境界でも光は屈折する。そのときの入射角θ3は
  θ3=180-120-θ2=60-θ2

同じように屈折の法則より
  n2sin(θ3) = n1sin(θ4)

上式を変形してθ4を求めると
  θ4 = asin(n2sin(θ3)/n1)

以上まで求めたθ1〜θ4から、偏向角が求められる。
  偏向角:θ5=(θ1-θ2)+(θ4-θ3)

 空気に対する氷の屈折率は1.309なので、n1=1, n2=1.309を代入して入射角θ1と偏向角θ5の関係を計算した結果が、下のグラフになる。
 なお入射角θ1が約14度以下では、氷晶内を進んだ光が境界に当たる角度が浅くなる(θ3が大きくなる)ことにより、光は全て反射してしまい、外に出てこれない。(これを全反射という) 下のグラフで、入射角θ1=0〜14度の間がないのはそのためだ。

 さて、ここで肝心なのが、入射角が33〜50度くらいの間では、偏向角が約22度付近で極小となり、ほぼ同じ値になること。(これを最小偏向角という)
 氷晶にあたる太陽光線の方向は一定だが、その氷晶自体は様々な方向に向いているから、入射角はバラバラになっているはずだ。しかし、上記の角度で入射する光は、すべて同じ方向に射出される。どういうことになるかというと、集中して光が射出される方向がある。
 言い換えれば、空に無数に浮かんでいる氷晶のうち、太陽から約22度ずれた方向にある氷晶からの光が、特に強いことになる。それが内暈として見えるというわけだ。



○撮影データ(ページ上の写真より)
・1枚目  日時:2003年6月7日   場所:東京都江東区
 カメラ:ペンタックス MZ-5  レンズ:ペンタックス SMC F Fish-eye Zoom 17-28mm F3.5-4.5
 フィルム:ベルビア50  その他:シャッター速度優先 1/250秒
 主にゴミや残土を埋め立てて造成された、東京都江東区若洲。そこにある公園で出会った内暈です。対角線方向で180度の画角をもつ魚眼レンズで、空をまるごと写し込みました。広々とした埋立地は障害物もなく、空の観測・撮影に適していると思います。
 なお、半径約22度の内暈の他に、半径約46度の外暈(そとかさ)もあります。内暈に比べて光が弱いので、滅多に見られないようです。
 それから内暈は、月の回りにも現れます。太陽の場合は日暈ですが、月なら月暈です。月は太陽に比べて眩しくないので、見つけやすいかもしれません。


・2枚目  日時:2004年4月11日   場所:千葉県浦安市
 カメラ:ミノルタ TC-1  レンズ:ミノルタ G-ロッコール 28mm F3.5
 フィルム:ベルビア50  その他:絞り優先 F16
 ディズニーランドで有名な千葉県浦安市で見た内暈。羽田空港が近いため、写真内に旅客機が見えます。
 内暈は太陽の周囲に見える現象なので、光環ほどではないにしても、けっこう眩しい方向を見なければなりません。
 ちなみに内暈全体をカメラで撮影するなら、35mmフィルム換算で焦点距離28mm以下の広角レンズが必要になります。(28mmレンズの画角が、フィルム中心から上下方向で atan(フィルム上下幅の半分=12mm/焦点距離=28mm)≒23度 のため)




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