○光環 (光冠)




 薄い雲を通して、太陽の周囲に色づいた環が見えることがある。光環(こうかん)とか、コロナと呼ばれている現象だ。光冠と書くこともある。
 多くの場合、太陽の10倍程度の大きさの環が、内側から青→赤の順に並んでいるのが観察できる。しかし太陽はかなり眩しいから、直視するには相当濃い色のサングラスでもつけてないと難しい。だから、意外とこの美しい光環には、気付きにくい。


 なぜこのような現象が現れるかというと、光が雲粒に当たって起こる「回折」が原因になっている。
 たとえば海面に突き出た岩礁に波が当たると、波は岩礁の後ろにまわりこむように広がってゆく。このような、本来は直進するはずの波が障害物の後ろ側に回り込む現象は、音波や電波でも同じように起こる。障害物の向こう側にいる人の声も聞こえるし、物影でもラジオの電波は受信できることからも、それが分かる。この現象が、回折だ。
 電波の一種である光も、同じように障害物の後ろへと回折する。


 空気中に浮かぶ水や氷の粒子に光が当たると、その粒子を回り込むようにして光は回折する。
 ここで肝心なのが、その曲がる角度(偏角)が、光の色(波長)によって違うことだ。赤い光(波長が長い)ほど、より大きく回折する。
 さらに回折された光が、お互いに強めあったり弱めあったりする「干渉」という現象も重なった結果、右の図のように、本来の粒子自体の影の周りに、色付いた光の環ができる。


 実際の空にある粒子は一つだけではない。左の図のように、それぞれの色を回折させる位置にある粒子からの光が、観測者の目に入ることになる。

 例えば赤い光の偏角が3度だと仮定する。観測者からみて、太陽から3度離れた位置にある粒子から、赤の回折光が届く。
 そのような位置にある粒子は無数にあるから、この赤い光は太陽を中心とした、半径3度の円をつくることになる。

 ちなみに、粒子が小さいほど光は大きく回折する。だから雲をつくる水や氷の粒子が小さく、その大きさが揃っているほど、色のハッキリ分離した、美しい光環になる。時には下の写真のように、光の環が二重三重に現れることもある。





○撮影データ(ページ上の写真より)
・1枚目  日時:2005年9月3日   場所:埼玉県和光市 丸山台
 カメラ:コンタックス TVS3  レンズ:カールツァイス バリオ・ゾナーT* 30〜60mmF3.7〜6.7
 フィルム:フォルティア  その他:絞り優先 F8 露出補正 -0.3EV
 街中でふと見た太陽に光環を発見。(上部は、彩雲になっているようにも見えます)
 光環を写真に撮るときは、明るい太陽にカメラの露出計が影響されて真っ暗けの写真にならないよう、注意が必要です。中央重点測光で撮る場合は、画面中心に太陽を入れない方が無難です。


・2枚目  日時:2003年1月20日   場所:長野県山之内町 横手山山頂
 カメラ:ニコノスV  レンズ:Wニッコール 35mm F2.5
 フィルム:ベルビア50  その他:絞り優先 F11  +1増感
 この写真は都会のものではなく、標高2000m超の雪山で目にした光環であることをご容赦ください。薄い雲が頭上を通り過ぎるとき、色付いた環が同心円状にいくつも現れました。サングラスを掛けていても眩しいので、肉眼ではここまで見事な光環とは思いませんでした。

 ちなみに光環は、空以外の場所でも見られます。例えば、曇ったガラス越しに見る灯りです。ガラスに付着した水滴に光が当たって回折が起こり、光源の周囲に光環が現れることがあります。
 また、もうもうとした湯気の立ち込む浴場では、湯気に霞む灯りの周囲に、光環のような色の滲みが見られることもあります。



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