空高く浮かぶ、筋状の雲。尾を引いたように真っ直ぐ伸びているものもあれば、曲がったり、ちぢれたようになっているものもある。
巻雲(けんうん)は、最も高い空にできる雲だ。
一年を通して見られる雲だが、秋から冬にかけての空を代表する雲、という印象がある。その理由としては、春〜夏に比べて空気が澄んでいて、高い空の雲まではっきり見える日が多いのと、筋状の尾を引いた独特の姿が頻繁に見られるようになるからだと思う。
巻雲は、どうしてあのような形になるのだろう。
あくまで雲だから、空気中の水蒸気が冷やされて出来るのに変わりはないが、例えばもっと低い高度にできる層雲や積雲などとは、ちょっと違う。
なにが違うかというと、雲を作っている水の状態が違う。
雲ができるのは地上から高度 10数km付近まで。この対流圏と呼ばれる範囲内では、高度が高くなるほど気温が低くなる。
普通の雲は小さい水の粒(水滴)から出来ているが、巻雲が発生する5〜10km超の高度ではマイナス数十℃という低温だ。凍りにくい水滴も、さすがに液体ではいられない。だから巻雲は水滴ではなく、氷の粒(氷晶)でできている。
巻雲を形成している氷晶は、やがてゆっくりと落下してくる。小さい粒なので、すぐに蒸発して無くなってしまうように思えるが、実はすぐには蒸発しない。
雨上がりの道路に残る水溜りは、晴れれば半日程度で蒸発してなくなってしまうけれども、降り積もった雪はなかなか消えない。実は固体である氷には、液体の水よりも蒸発しにくいという性質があるのだ。
この性質のため巻雲から降る氷晶は、蒸発して消えてしまうまで時間がかかる。それが遠目には、巻雲から長く伸びる、白い尾のように見えるというわけだ。
そして日本付近の上空には、一年を通じて西寄りの風が吹いている。偏西風と呼ばれる風だ。
季節によってその強さが違うが、秋から冬にかけては、特に強い西風が日本上空を吹くことが多い。
風の強さが一定していれば、巻雲から真下に垂れる雲が観測できるはずだが、普通は高度が高いほど風が強い。風向きも高度によって変わっていることもある。
だから巻雲から伸びる氷晶の尾は、その風に流されて、筋状に横に伸びたり、カールしたような形になるというわけだ。
上の写真は、9000m程度の高度で飛ぶジェット旅客機からみた巻雲で、雲がだいたい同じぐらいの高さに見える。巡航中の旅客機は巻雲とだいたい同じ高さを飛ぶことが多いので、巻雲が筋状の尾を引いている様子を間近に見る良いチャンスだ。
この写真は、2004年5月15日に東京で見られた巻雲。右側上部にうっすらと魚の鱗のような巻積雲があり、その中から巻雲の尾が伸びている。面白いのは、写真中央部右側の小さい巻雲と、左側の大きい巻雲の尾の向きが逆になっていることだ。
たぶん左右から吹いてくる風が、この周辺でぶつかっていたのだろうと思う。風は上空ほど強いので、いちばん上にある巻雲の本体は、そこから伸びる尾よりも早く移動する。左右両側で違う方向の風が吹いているから、尾の伸びる向きも違う。
何気なく見上げている空にも、注意深く観察すれば、いろいろな発見がある。
下を見て歩くのとは違ってお金を拾うことはないけれど、代わりに想像力をかきたててくれる、面白い雲を見つけることができる。
○撮影データ(ページ上の写真より)
・1枚目
日時:2003年11月18日 場所:東京都中央区
カメラ:ニコン ニコノスV レンズ:Wニッコール 35mm F2.5
フィルム:ベルビア50 その他:絞り優先 F4
出勤途中、晩秋の寒さに身を縮めながら見上げた空には、長い尾を引いた巻雲がありました。巻雲は、最も高い場所にできる雲だから、いちばん最初に朝焼けに染まります。
・2枚目
日時:2005年8月22日 場所:東北地方上空約9000m
カメラ:コンタックス TVS3 レンズ:カールツァイス バリオ・ゾナーT* 30〜60mm F3.7
フィルム:フォルティア その他:-0.5EV補正
千歳から羽田へと向かう旅客機の窓からみた巻雲。旅客機の窓から見る雲は白く輝き、そして空はどこまでも蒼く美しいのです。
・3枚目
日時:2004年5月15日 場所:東京都北区
カメラ:ミノルタ TC-1 レンズ:ミノルタ G-ロッコール 28mm F3.5
フィルム:ベルビア その他:絞り優先 F8
荒川の土手からみた巻雲と巻積雲。巻積雲は「いわし雲」や「うろこ雲」、あるいは「さば雲」とも呼ばれます。
なぜあんな形の雲になるのか、いちおう科学的に考え、ひとり納得して悦に入るのも、それはそれで面白い...かも?
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