○飛行機雲(番外編:半円形の雲)




 前回の「飛行機雲」の中では、飛行機の翼付近に発生する、俗にベイパーと呼ばれている白い雲について書いた。このベイパーは空気の湿度が高い日に発生しやすく、飛行機が比較的遅い速度で飛びつつも、翼が大きな揚力を発生しているとき(例えば離陸やアクロバット演技中)に発生する。

 一方、音速に近い高速でジェット機が直線飛行しているときに、瞬間的に白い雲が発生・消滅することがある。それが今回紹介する、半円形の雲だ。
 どういう雲かというと、下記の動画を見ていただくのが一番かと思う。これは航空ショーで撮影されたもので、地上近くを通過するジェット戦闘機の後ろに、瞬間的に白い半円形の雲が発生するのが見える。

半円形の雲の動画(MPEG1, 2.4MB)


 なぜこのような雲が現れるのか? 実は正確な理論は私もよく分からない(ゴメンナサイ…)のだけれども、調べた範囲では、音速に近い高速で飛ぶ飛行機の周囲に流れる空気中で、急激な圧縮や膨張が生じることに原因があるらしい。このような白い雲はどこでも現れるわけではなく、低高度かつ湿度の高い条件でのみ現れる。

 空気は膨張すると気圧が下がり、温度が下がる。温度が下がると、空に雲ができるのと同じように、空気中の水蒸気が凝結して雲になる。それがこの半円形の雲の正体というわけだ。
 ただし、飛行機の周囲に生じる空気の急激な膨張は、常に同じ場所に生じるものではない。だからこの半円形の雲は突然現れたり、突然消えたりする。



 <蛇足>

 ちなみにこの半円形の雲のことを、”マッハコーン”と呼ぶこともあるらしい。
 実はマッハコーンという名前自体は、もともとこの雲のことではない。飛行機の速度が速くなって音速を超える(音の伝わる速さより飛行機の方が速くなる)と、音は飛行機よりも先に進むことができなくなる。音は、飛行機の先端を頂点とした円錐状の領域の中でしか伝わらなくなる。この円錐のことをマッハコーンという。
 このマッハコーンの表面では空気が部分的に圧縮され、それにより生じた衝撃波が地上に伝わると、ソニックブームと呼ばれる爆発音がして、窓ガラスが割れたりする。

 ここでひとつ補足。音速というのは音が空気中を伝わる速さのことで、地上ではおよそ 340m/secだ。音速は気温によってその値が変わり、気温が低くなるほど音速も遅くなる。例えばジェット旅客機が飛ぶ成層圏の気温はマイナス50℃くらいで、そのときの音速は約 300m/secとなる。
 音速に近い飛行機の速さはマッハ数で表すことが多い。マッハ数とは、音速に対する飛行機の速度比をいう。例えばマッハ1なら音速と同じ速さ、マッハ2なら音速の2倍の速さといった具合だ。
 そして飛行機の速度は、このマッハ数によっていくつかに分けられている。
1.亜音速(マッハ0.5〜0.75) マッハコーンや衝撃波も生じない
2.遷音速(マッハ0.75〜1.2) 飛行機の周囲の空気が部分的に音速を超えている状態。
3.超音速(マッハ1.2〜5) 飛行機の周囲の空気がどこも音速を超えている状態。
4.極超音速(マッハ5以上) 大気圏突入時のスペースシャトルのように、空気との摩擦による熱が大きな問題になる速さ。

 実のところ今回の半円形の雲は、飛行機が超音速で飛んでいなくても現れている。(その証拠に冒頭の動画を撮った時、飛行機が超音速飛行をしたときに発生するソニックブームは発生していなかったそうだ。)
 そうは言うものの、超音速で飛ぶ飛行機の周囲に発生するマッハコーンをイメージして、あの半円形の雲のことも同じ名前で呼ぶようになったのかもしれない。




○撮影データ
 日時:2002年9月   場所:青森県三沢基地
 機体:US NAVY FA18C HORNET
 デジタルビデオカメラよりキャプチャー
 撮影&画像提供:(私の先輩であり、航空マニアでもある) 浅海 氏




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