○積雲の底



 雲が発達する、つまり雲が厚くなってゆくと、太陽から地上へ届く光は少なくなって雲底(雲の底部)は暗くなる。
 逆の言い方をすれば、雲底が暗い雲ほど発達している証拠だ。


 午前中は青空が広がっていても、昼頃になると白い綿のような「積雲」が、空のあちこちに沸いてくる。あるものは途中で消滅するが、次第に大きく発達してゆく積雲も出てくる。

 その発達具合は、遠くから眺めるのがいちばん分かりやすい。でも雲の真下にいても、下から雲底を見上げてみれば、ある程度は雲の発達具合を予想できる。
 雲底の暗い部分ほど上昇気流も活発で、その上には雲が、ずっと高いところまで続いているのだ。

 厚い雲の中では雨粒がどんどん作られていて、間もなく雨が降り出すかもしれない。

 頭上にのしかかる暗い雲は、不気味な感じがする。そんな雲が近づいてくると、落ち着いた気分では居られなくなる。目的地へと向かう足も、自然と速くなってしまう。

 さて今回は、その雲底についての話です。



 積雲・積乱雲に代表される積雲系の雲は、地上付近の湿った暖かい空気塊が上昇し、そこに含まれる水蒸気が凝結して小さな水滴(=雲)となることで形成されている。
 上昇する空気塊は気圧の低下に伴ない膨張し、冷えてゆく。そしてその時の条件に応じた、ある決まった温度になると水蒸気が凝結し始めるから、雲ができ始める高度もほぼ一定になる。積雲の雲底が平らに見えるのは、そのためだ。

 しかしこれは一般的な傾向であって、中には雲底が平らでない雲もある。そのひとつが下の写真の、乳房雲(にゅうぼううん)だ。雲底の一部が丸くコブのように垂れ下がって見えることからこの名がある。乳房雲は、雲底に下降気流や渦などの気流の乱れがあるときに発生する。

 例えば、雲底付近では一様に上昇気流があるのではなく、場所によっては下降気流になっている部分もある。
 その原因のひとつに、雲の中で雨が降っている場合がある。落下する雨滴に引きずられて、周囲の空気も一緒に下降してくる。途中で雨滴が蒸発してゆくとその気化熱で空気が冷えて重くなり、さらに下降気流の勢いが増す。

 発達した積雲の雲底には、強さや大きさの違いはあれど、こういった下降気流やそれに伴なう乱気流帯が存在していることが多い。
 そんなときに、水に垂らした牛乳(「躍動する−積雲3」参照)のように、普通の積雲を上下逆さまにした形状の雲、つまり乳房雲ができることがあると想像できる。
 下降気流が強くて、それが地上まで達していたとしても、地上まで雲の帯が繋がることはない。水の中を沈んでゆく牛乳はやがてビンの底に達するけれども、雲の場合は少し事情が異なる。下降してゆく途中で水滴(=雲)が蒸発し、目に見えない水蒸気になってしまうから、雲は途中で消えてしまうのだ。

 実際、この乳房雲が出ている間は、雨が降ってこないことが多い。また、高層雲や巻雲といった大気中・上層にある雲の底に乳房雲が現れる時もあり、その後、天気が回復に向かうこともある。
 しかし多くの場合、乳房雲は雲底付近の気流の乱れを示す雲だから、天気の悪化を示唆する雲だと言ってもいい。特に積雲系の雲底に発生した乳房雲には要注意。突然の雨や雷、突風の前触れだからだ。





○撮影データ(ページ上の写真より)
・1枚目  日時:2003年8月7日   場所:千葉県千葉市
 カメラ:ペンタックス MZ-5  レンズ:ペンタックス SMC FA Zoom 28-70mm F4AL
 フィルム:ベルビア  その他:シャッター速度優先1/250秒
真夏の昼下がり。積雲は次第に大きく高く成長し、いつのまにか空を覆いはじめていました。

・2枚目  日時:2004年7月11日   場所:東京都中央区
 カメラ:ミノルタ TC-1  レンズ:ミノルタ G-ロッコール 28mm F3.5
 フィルム:ベルビア  その他:絞り優先 F5.6
上空の寒気の影響で、不安定な一日でした。暗い雲底のずっと先、地平線の上にも積乱雲が見えています。



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