B級生のためのテイクオフ



 テイクオフで何が怖いといえば、スタ沈です。
 ほとんどの日本のエリアは周囲が森なので、スタ沈しても地面にぶつかる前に木に引っかかり、ある程度衝撃は吸収されます。このため怪我をしない場合が多いのですが、それも運次第で、死亡事故の事例もあります。
 また、体は無事でも機体が損傷することが多く、パイロットが重いほど破損箇所は増える傾向にあるようです。これも状況次第ですが、軽い女性パイロットなら回収時のセールの傷・穴開き程度で済むものが、大柄なパイロットになるとアップライト+スパー折損等、被害が大きくなります。最も重いタンデムの場合、使える部品は片側クロスバーだけであとはすべて折損、などといった機体全損に至る場合もあるようです。
 怪我をしなくても、エリアクローズとなることが多い上に、回収のために仲間に多大な迷惑をかけてしまいます。

 このようにスタ沈は絶対したくないものですが、どうすればこれを防ぐをことができるでしょうか。
 それにはまず。どのような時にスタ沈するのか考えてみます。私が見た範囲でのスタ沈のパターンは、
(1)走り出しでノーズが上がり、十分な対気速度がないまま浮かされ、コントロールできぬまま傾きが増大し、180度回って斜面に沈。
(2)強風時、サポートでサイドワイヤーを持つ人の、ワイヤーを離すタイミングが遅れたため、走り出しから大きく傾き、沈。
(3)走り出し時、翼端が見学者に当たり、大きく傾き、沈。

 このうち(2)(3)は事前に防ぐことができるものです。特に(2)について、走り出し時にサイドワイヤーを持ったままでいられると、100%スタ沈します。私は、知らない人・講習生レベルの人にサイドワイヤーを持ってもらっている時は声をかけ、機体を持ち上げたら手を離すようにしてもらっています。
 しかし何といっても一番多いパターンが、(1)だと思います。


 このパターンでスタ沈した人のテイクオフを見ていると、以下の3つの悪さが重なっています。

悪さ1:機体を持ち上げた時、握力だけで機体を支えている。
   (1点のみの保持なのでノーズアップを抑えられない)
悪さ2:いきなり走り出している
   (上記と合わせて更にノーズアップを招く)
悪さ3:アップライトをめいいっぱい押し出して飛び乗り
   (そうでもしないと機体が浮かないので無意識に押し出してしまう)

 悪さ1を直すためには、写真のように肘から先を内側に絞り込むようにして、肘〜手首にかけての全体でアップライトを保持することです。この状態であれば、掌でアップライトを握らなくても機体は保持できます。握った掌を開いてみて、この体勢ができているかチェックしてみてください。

 そして機体には慣性がありますから、人間だけダッシュしても上部にある機体はそれに付いて来れず、ノーズアップしてしまいます。動き出しはゆっくりと、次第に加速するのがポイントです。
 ノーズアップしてしまうと、空気抵抗が大きくなるためさらなるノーズアップを招くし、過大な迎え角で一瞬発生した揚力で体が浮いてしまうので翼に十分なスピードをつけることができません。飛び出したはいいものの、揚力が弱いと感じたパイロットは、それを増そうと反射的にベースバーを押し出します。これが「悪さ3」の状態です。
 翼は過大な押し出しで何とか浮いているだけで、コントロールは全く効かない状態。傾きを修正できぬままスタ沈することになってしまいます。

 それでは、どうするか。
 手本となるテイクオフ動作を4枚の連続写真で次に示します。上がベテランエキスパートパイロットのランチャー台からのテイクオフ。下は神様マンフレット・ルーマーの貴重なグラハン写真です。
 肘〜手首にかけての全体でアップライトを保持し、ゆっくりと動き出したら、上へと上がる肘に合わせて肩を入れて(上体を前に出して)ゆく。アップライトの持ち替えの動作をする際、いかに肩が入っているかがポイントです。
 悪さ1を修正するための練習はグラハンでできますが、2を防ぐ練習は斜度のあるランチャー台でないと難しいかもしれません。






 さて、ここでテイクオフ時、何が一番大事なのか考えてみましょう。
 機体を、揚力を発生させる翼として機能させるためには、適切な角度で風を当ててやる必要があります。風の吹いてくる向きに対して、適正な翼の迎え角は1点しかありません。翼が飛びたがっている向きに迎え角を維持して、動き出すことが大事です。
 ノーズを上げすぎると(迎え角が大きすぎると)、十分な機速がつく前に浮き上がり、スタ沈等の原因となります。逆にノーズを下げすぎるといつまでもテイクオフできず、いろいろ危険なことになりそうです。(ノーズを下げすぎてスタ沈したパターンを見た記憶がないので、定かではありませんが)

 「極楽鳥人」(1995年イカロス出版、阿施光南著)という本に、ウインドスポーツのアントンさんがテイクオフについて語った文があります。
「テイクオフのイメージは、『キミは豆腐を薄紙で切れるか』という言葉に集約されてくると思います。(中略)要するに豆腐のようにやわらかく、崩れやすい物にいいかげんな角度で硬い刃をぶつけた場合、簡単にくずれてしまうわけで、逆に薄紙のように弱々しいものであっても、入れ具合によってはスッパリと豆腐を崩すことなく切ることができるということ。 ハングのテイクオフでも同じように、ハネの面を空気に対してどれだけ安定して進ませることができるか、ということになります」


 つまり安全なテイクオフをするために重要なことは、いかに翼の迎え角を適正に保ったまま走るか、ということ。ただこれだけです。
 肘〜手首にかけての保持とかいろいろと書きましたが、それはあくまで迎え角を適正に保つための手段の一つであって、目的ではありません。目的はあくまでも、適正な迎え角を保ってテイクオフすることにあります。
 この姿勢になっていればOKというわけではなく、常に迎え角を意識してテイクオフするようにしてみて下さい。




ページ最終更新:2013/10

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