タンデムフライト



タンデム


 講習にインストラクターと一緒ぶ飛ぶタンデムフライトを採り入れているスクールがあります。私の所属するスクールでは初日からタンデムでの講習が始まりますが、ある程度、斜面での講習が進んでからタンデムを行うスクールもあります。
 いずれにしてもタンデムは空中でリアルタイムにアドバイスを聞きながら操縦に習熟でき、いきなり一人で飛ばなければならないプレッシャーも軽減できるので、優れた練習方法のひとつだと思います。自動車やボート、飛行機など他の乗り物でも、免許をとるときは教官同乗で操作を習いますから、ハングのタンデムフライトも理に適っているわけです。

 さてここでは、私の経験をもとにタンデム講習の流れを追ってみて、どういうことに気をつけて飛んだらいいか書いてみたいと思います。


・初めてのタンデム

 まずは機材の名称や空中での心得について、簡単な説明を受けます。タンデムといっても、講習生はイントラと一緒にランチャー台で走り、ランディングでも一緒に走りながら着地する必要がありますから、地上で二人一緒に走る練習もしておきます。
 ランチャー台というのは高高度フライトをする山の上に設けられた、ハンググライダーがテイクオフするために走る人工の斜面です。急傾斜の下り勾配は10メートルもないほど短く、その先には何も無い空間が広がっています。この上に立つと、これから飛ぶのかという緊張感が広がるとともに、本当にこの「滑走路」の短さで離陸できるのか心配も広がります。でも、ちゃんと走れば大丈夫です。


・テイクオフ

 説明を聞きながら、ハンググライダーの機体を組み立てます。機体各部の名称はもちろん、組み立ての順序や注意点など覚えることはこの時点からたくさんあります。
 他の講習生のフライトで自分は順番待ちの時でも、積極的に機体の組み立てなどを手伝い、他パイロットやイントラの話している内容に耳を傾けると良いと思います。ランチャー台に座ったり寝そべったりしてボーッとするのは、上手くなってからにしましょう。特に、若くもなく運動神経が良くも無いサラリーマン・OLの皆さんは、こういう所で頑張るしかありません。
 機体の準備が整ったら、ハーネスとヘルメットを装着し、ハーネスのカラビナを機体のスイングラインに掛け、しっかりロックします。次に機体にぶら下がってみて、吊られ具合の確認や、簡単な操縦方法の説明を聞きます。
 いよいよランチャー台の上に立つと、イントラが風の向きや強さを確認し、テイクオフの合図を出します。テイクオフ時、講習生はコントロールバーには一切触らず、イントラの両腰あたりのハーネスを掴んだまま、急斜面を一緒に駆け下ります。


・旋回操作

空中に飛び出して機体が安定すれば、インストラクターがコントロールバーを渡してくれるので、操縦体験&練習開始です。
 ハンググライダーは右に体を寄せれば機体は右へ傾き、左へ寄せれば左へ傾きます。バーを前に押せば機首が上がり、減速。手前に引けば機首が下がって加速する。知識として知っていたその動作を実際にやってみると、ハンググライダーはたしかにその通りに動きます。
 実際の操縦では、それらを組み合わせて行う必要があります。例えば右に旋回するには、
     
  1. ベースバーを少し引き込みスピードをつける  
  2. 右へ体重移動して翼を傾ける(ベースバーの右側に体を寄せる)  
  3. 翼が傾き出したらベースバーを押し出し旋回開始(押し出すことによりスムーズに旋回できる)  
  4. あまりバンク角がつきすぎる前に体を中央付近に戻す  
  5. 旋回終了点が近づいたら反対側へ体重移動しベースバーを引き込む「当て舵」操作を行う
という総合的にコーディネートされた一連の操作を行なう必要があります。
(確かに、単に右に体重移動するだけでも右旋回はできますが、大回りになったり、バンク角がつきすぎたり、大きな沈下を伴ったりします。)

 ハンググライダーの操縦として当たり前のこの操作は、フライト回数を重ねてゆけば次第に出来るようになるのですが、最初の頃はそれだけで頭が一杯になったものでした。
 ですので、タンデム講習の際は漠然と操作をするのではなく、こういう操作をしたら機体がこう反応した、ということを常に考え、感じながら飛ぶことが大切だと思います。そしてなるべくたくさん旋回操作を行い、予定した通りのバンク角で旋回し、予定した場所で旋回を終了させることができるように努力してください。


・直線飛行

 空には車と違って道やセンターラインはありませんから、真っ直ぐ飛ぶためには何か遠くにある目標(山とか大きな建物など)を定めて飛びます。
 しかし、これがなかなかうまくいきません。もともとタンデム機や講習に使われる機体の安定性はかなり良いはずなのですが、風の影響などによって常に飛行姿勢は変化します、そんなときはすぐに機体を安定させなくてはなりません。
 目標からちょっと右に逸れたので左に体重移動して修正する。しかし今度は左に逸れすぎてしまう。この繰り返しで、左右に蛇行する羽目になるのです。これは修正操作が大きすぎたり、戻すタイミングが遅すぎるのが原因ですが、それは分かっているけれども、思ったように飛んでくれない翼の動きに、心は焦るばかりです。

 例えば機首が右に振れたとき、
  →その振れがかなり大きくなった時点で気付く
  →左への修正をする
  →左へ戻る動きに勢いがつき、正面を通り越して左へ振れる(オツリをくらう)
  →あわてて右への修正をする
  →いつまでもフラフラ...
 ということになります。修正操作は必要な量を素早く、機体の動きを見越して先行して行う。口で言うのは簡単でも、それがうまくいきません。

 そういえば車の免許をとるときに初めて教習所でハンドルを握ったときも、直線道路を蛇行させながら走ったような記憶があります。 今となっては何ともない操作なんですが、その時は必死で操作しても、真っ直ぐ走らせることは困難でした。
 ハングの場合はさらに、手で回すだけのハンドルではなく自分の体を動かして修正しなくてはならないし、操作に対する機体の反応も車よりも遅いから、車よりずっと難しいはずです。
 そして左右の操縦に懸命になっていると、こんどは速度への配慮が疎かになります。ベースバーを手前に引き込めば機体は下向きになり速度が上がる。ベースバーを前に押し出すと機体は上向きになって速度が下がる。 一定のスピードを保つには、つねにこの仰え角を気にしていなければなりません。

 このように、ただ真っ直ぐ飛べばいいはずなのに、いつまでも左右へ蛇行を繰り返したり、速度が上がったり下がったりします。一緒に飛んでいるイントラに何か言われてしまいやしないかと焦っても、どうすることもできません。(イントラもそのへんは十分に分かってるので、実際に何か言われることは多分ありませんが)
 修正操作は早めに行った方が修正量も少なくて済みます。旋回操作と同様に、考え・感じながらフライト経験を重ねていってください。


・着陸

 空から見るランディングエリアは、とても小さく狭く見えます。それどころか、最初のフライトでは緊張のあまり、ランディングエリアがどこにあるのかさえも分からなくなっているかもしれません。そんな場所へ、満足に真っ直ぐ飛ばすこともできないハングを着陸させるなんて自分には絶対無理、と思ってしまうかもしれません。
 しかしその不安も、タンデムフライトの本数を重ねるたびに、少しづつ薄れてゆきます。決められたエリアに着陸するには風下で8の字を描いたアプローチをして高度処理するのが基本ですが、そのやりかたも少しづつ覚えてゆきます。そして最後はランディングエリア中央に向けて最終進入。着地寸前にかけるフレアのタイミングや量も、風の強さなどに応じていろんなパターンを経験してゆきます。

 スクールにもよりますが、タンデム講習と平行してグラハンや斜面での低空フライトも行っていることが多いでしょうから、そこで習得した技術を実際のフライトに応用していきます。
 着陸はフライトの中でも最も重要で、習熟が必要とされる部分です。せっかくのタンデム講習を有効に活用するためにも、そして確実な高度処理を身に着けるためにも、漠然とイントラの指示に従うのではなく、自分ならどこで旋回してどこでファイナルターンをするのか、計画をたてながらフライトするのが大切です。
 そして、このまま進むと着地地点より手前に降りてしまうのか、それとも奥まで飛んで行ってしまうのかを判定する目を養うことも大切です。タンデムにおいても、自分一人で飛んでいるんだという心構えで、常に進入パターンを考えながら飛ぶようにしてください。




ページ最終更新:2010/10

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