平地でのグランドハンドリング

 初めてハンググライダーの機体を持ったとき、なんて重いのだろうかと思うかもしれません。こんなものを持ち運び、そしてこれを持って走れるのかと。しかし何事も経験で、同じ重さでも扱いに慣れてくると随分と軽く感じるようになります。
 次に、平地または平地に近い斜面で機体を持って走る、グランドハンドリング(略してグラハン)の練習に入ります。風に正対させ揚力の生じた機体は急に軽くなり、すこし走るだけで体を上へと持ち上げようとします。
 でも順調だと思ったのも束の間で、ゆっくりと傾き出した機体は必死の操作にもかかわらず傾きを増し、走る経路が右または左へと大きく逸れてしまいます。自分の意思に反して言うことを聞いてくれない機体に向かって何故だと叫んでも、答えは返ってきません。
 しかしこれも経験を重ねてテクニックを習得すれば、だんだん上手に、楽に、無意識にできるようになります。では最初に習うこのグラハンについて、私が苦労したこと、気付いたことを書いてみます。





1.構えかた

○手順
  • アップライトをチョキの形にした人差し指と中指の間を通して持ち、立ち上がる。機体を安定させたら、しっかりと正面を見据えて動き始める。


○ポイント

  • 腕をアップライト外側から回り込ませて、腕全体で機体の重さを支えて持つ。
  • 地面に付いていた機体を持ち上げるときは、腰をしっかり落とし、胸を張ってヘソを出すように、膝の屈伸を使ってゆっくり立ち上がる(=機体を持ち上げる)。
  • 左右の力加減のバランス+風の強さや走路の斜度(ここでは平地)に合わせたノーズの角度になるように機体を持ち上げる。
  • 膝とベースバーの間の距離が離れすぎないようにすること。離れすぎ=ノーズが上がりすぎか、腰が引けている。
  • 走り出す前に必ず機体を安定させておくこと。


○注意

  • 持ち上げるときはいきなりバンと持ち上げない。また、持ち上げてから前後左右のバランスをとるようではダメ。
  • 最初の一歩目二歩目を大切に、バランスの変化を探りながらゆっくりと動き出す。いきなりダッシュしないこと。







2.動き出して、次第に加速

○手順
  • 胸を張った姿勢から、アップライト(=機体)を体の後ろへ張り付けるよう意識しながら、胸を落としていく。そして次第に猫背になりながら加速する。翼に揚力が発生して軽くなり、上へと持ち上がってゆく。それに合わせて肘も上がってゆく。


○ポイント

  • 翼に揚力が発生して機体が軽くなるにつれ、肘が上がってゆく。猫背にする過程で、肩がアップライトの前に行く。
  • 浮いてきたからといって、肩を甘くしない(=アップライトを肩より前に出さない)。そのために、肘を背中方向に引き付ける。
  • 目標をしっかり定め、そこに向かって引いたレールの上を(修正しながら)一直線に走れるようにする


○注意

  • 翼は浮き始めるときに、勝手に前進する傾向がある。走行中の人間が後ろへ残されると、肝心のスイングラインを通して機体を引っ張る力がうまく伝わらない。アップライトを常に体の後ろへと引き付けておくこと。







3〜4.順手への持ち替え

○手順
  • 機体が持ち上がり、これ以上 肘が上がらなくなったら、いったん四本指をそろえながら手首を返し、アップライトを順手に持ち替える。持ち替えたらアップライトが常に自分の脇より後ろに位置するよう、前傾姿勢を保つ。


○ポイント

  • 持ち替えた時に左右の持つ高さが同じになるように注意。もし高さが違っていたら、走りながら握り直す。





5〜9.機体の水平維持

○手順
  • 機体の水平を保ちながら、目標に向かって引いた仮想レールの上を真っ直ぐ走ってゆく。常に前傾姿勢を保ち、アップライトは常に肩よりも後ろに位置するよう、手は後方へ、肘を背中方向に引き付ける。次第に速度をつけてゆく。


○ポイント

  • 腹を引っ込めて前傾し、スイングラインに吊り上げられる力に対抗する。レスリングで投げ飛ばされないような、構える姿勢で。
  • ただし、あまりがむしゃらに力を入れて走らない。気合を入れすぎると、アップライトから伝わってくる、翼からの色々なインフォメーションを見逃してしまう。
  • 上体を常に前に出すのを忘れないように。頭がアップライトの前に出ていれば、アップライトの棒が邪魔にならず、左右の修正も楽なはず。


○注意

  • 左右への修正操作をすると、そのたびに脇が甘く(=脇が開く)なり、結果して肩がアップライトよりも後ろになってしまう。(前傾して体を前に出してるんだと思っても、実は腕もそのぶん前にでてしまっている。)
  • 目標を意識して真っ直ぐ走る。下を見ないこと。
 



10.飛び出し準備

○手順
  • 平地で踏み切ってジャンプするために、十分速度をつけ、腰を落として機体への加重を一層強くする。いわゆる「ためる」動作を行う。


○ポイント

  • 短いランチャー台から安全に飛び出す練習のためにも、翼の状態を理解し、ここで踏み切るというポイントを作ってやる。持ち上げられている中でも、グッと踏み込んで腰を落として力を貯めて、この後一気に飛び出す。
 



11.飛び出し

○手順
  • 自分で決めた場所でタイミングを図ってジャンプ! 踏み切る時に少しアップライトを押し出して、揚力をつけてやる。


○ポイント

  • ジャンプするためには、しっかり体重を乗せ、前傾姿勢でスピードをつけなければならない。飛び乗りではない。
  • ジャンプして飛び出したら両ヒザを曲げる。


○注意

  • 翼が左右に傾いたまま無理にジャンプしない。
  • 傾きがとれない場合はジャンプせずそのまま進みながらフレアをかけ、止まる。
 



12.フレアー

○手順
  • 風の強さにもよるが、うまくいけば1メートル程度の高さにはジャンプできるはず。落ち始めたらアップライトを押し出し、フレアをかける。


○ポイント

  • フレアーするときは変な力を入れないようにする。意識的に手のひらを開くのも良い。
  • 傾いたままフレアをかけると、さらに大きく傾いたまま着地することになり、着地後ひっくり返されることもある。どうにかなるだろうと思ってはだめ。
  • フレアーをかけるときは胸を上に反らさず、猫背っぽい下向き姿勢で上方(背骨の向き)へ手を伸ばしフレアーをかける。
  • アップライトを押し出す量は風に応じて腕で調整。上体の起こし具合で調整しない。





○修正操作について

 平地でのグランドハンドリングで何が難しいかといえば、翼を水平に保ち、目標に向かって真っ直ぐ走ることだと思います。なぜそれが難しいのか。原因は主に二つあると思います。
  1. 翼の左右への傾きを早期に感じ取れないから(翼が傾き、その結果として左右に進路をとられて初めて気付く)
  2. 傾いた翼をうまく修正できないから(いつまでたっても傾いた翼が戻らない)


まず1.について説明します。
 第一に、グラハン中に大きく傾いて左右に進路をとられ始めた翼を元に戻すことは、初心者だけでなく上級者にも困難です。だから進路をとられた時点で既に失敗確定、本番のフライトならスタ沈、ということになります。

 従って、そうなる前の、まだ傾きが少ない段階でそれを察知することが必要不可欠です。その段階でなら、修正操作も簡単です。しかしその理屈は分かっていても、私の場合、傾きを早期に感じるのが難しかったです。
 ハンググライダーの翼幅は10メートル程度はありますから、少し傾いただけでも翼端では大きな傾きとなって現れます。だから常に左右の翼端と地面の距離を監視していれば傾きを察知することができるはずです。でも実際にこれをやってみても上手くいきません。正面、右、左と、同時に3方向を注視できないからです。

 視線はあくまで正面を向いたまま傾きを早期に察知するにはどうすればよいか。それは、コントロールバーから伝わる感触から「感じる」しかありません。でも感じると言っても、具体的にどうすれば出来るようになるのか。
 アップライトの角度で翼の傾きを感じるのではありません。左右の重さの違いで傾きを知るのです。そのためには、自分でわざとアップライトを左右に振ってみればよいのです。そうして、動かした時の重さの違いを感じ取ります。ただ持っているだけではわからなくても、左右に大きく振ってみると違いが分かりやすくなるのです。

 この左右に振る動作は、チョキの持ち方で走り出すときから始めます。最初の一歩目から、さあどっちだ、どっちかなーと、ソロリソロリと四股を踏むような左右の動きを入れながら探るのです。特に最初が肝心で、大きく傾くときは、スタート時からすでに傾いていることが多いからです。
 このトレーニングのために、カラビナをスイングラインに繋げずにグラハンしてみるのも有効だと思います。より翼の傾きがわかりやすくなります。

 なお、カラビナを繋げずにグラハンすると機体がどんどん上へと上がってゆきますが、この感触を体で覚えておくのも大切です。なぜなら、ハンググライダーの事故で最も恐ろしい”フックアウト”を早期に察知する訓練になるのでは、と思っているからです。(もちろんフックアウト自体を未然に防ぐのが一番大切ですが、万一の事態でも、早期に気付いて手を離せれば最悪の結果を防げるかもしれませんので)




次に2.について
 左右に傾いた翼を水平に戻すには、上がった側に有効な体重移動をしなければなりません。具体的には、例えば左の翼が上がった場合、コントロールバーの三角の中で左に寄ってやれば良いわけです。

 しかし操縦桿やハンドルなら腕を動かせば良いだけですが、ハングの場合は体全体を使った体重移動が必要で、これが思ったよりも難しいのです。本人は左に体重移動しているつもりでも、傍から見れば体を捩って頭を寄せただけの姿勢になっていて、全然体重移動していないということがよくあります。人間の体の重心は腰(または尻)にありますから、腰の位置をいかに左右にずらしてやるかがポイントです。スキーでストックを突くような、または杖を突くような腰を曲げた姿勢ではダメで、頭から足まで一本の軸線を通したまま、腰を移動させてやります。
 ここでは私が教わった二つの方法をご紹介します。



A.走るレールを乗り替える

 グラハンは予め定めた方向へ一直線に走ってゆくわけですが、これを一本のレールに見立て、一本隣のレールに乗り替えるイメージで体重移動をする方法です。
 例えば図のように左の翼が上がった場合、今走っているレールから40〜50cm離れた左隣のレールに乗り替えるように、走る場所を平行移動させてやります。同時に、上がっているアップライトを持つ左腕は脇を締め、肘を背中に持ってくるように後ろに引き付けます。

 注意すべき点は、上体(頭、肩)を左に傾けないこと。上がっている側に体重移動しようとすると、どうしても上体を傾けて体重移動したつもりになってしまいがちです。体を捩らず・傾けず、上体は地面に対して垂直を保ち、腰の位置を変えるのが大切です。

 


B.体はそのままで、アップライトのみを左右に動かす

 体全体を目標に向けてまっすぐ走らせたまま一切の修正操作は行わず、代わりに腕でアップライトを左右に動かし、コントロールバーの三角の中において、自分の場所を左右に変えてやります。自分が動くのではなく、アップライトのほうを動かすイメージです。(翼はすぐ動かないので、実際は自分が移動していることになるのでしょうけど)
 上体は傾けず地面に垂直を保ち、コントロールバーの三角の中を自在に動けるように、上体を前に出してアップライトが邪魔にならないようにします。
 体の動きとしてはA.のレール乗り替え方式と同じことだと思いますが、本人のイメージは違います。この方式のメリットは、体重移動を意識するあまり、体に余分な力が入り上体が捩れてしまうのを防止できる点にあります。

 注意すべき点は、常に上体をアップライトよりも前に出しておくこと。左右の修正に気をとられると、体が遅れがち(アップライトより上体が前に出なくなる)になります。すると余計に左右の修正操作が効かなくなるので気をつけてください。



 A,Bいずれの方式とも、修正を中途半端で終わらせないことも大切です。単に傾きを直せばよいのではなく、変化した風に合わせた、新しいバランスを作ってやる。あるいは、翼をとられる前にそれを予測し、新しい風の条件でのバランスを先に確立してやる、くらいの気持ちで臨みましょう。

 なお、一連のハンググライダーの左右方向の修正操作は、パラグライダーとは逆になります。パラグライダーの場合、傾いて低くなった方に足を進めれば、振り子の揺り戻しのように傾きは直りますが、ハンググライダーはますます傾くだけ。傾きを直すためには、パラとは逆方向に体を動かしていかなければなりません。パラグライダー出身者にとっては、まずこれが戸惑う一因です。
 また、修正操作はパラグライダーのようにすぐ効かない代わりに、効いたと思ったときは効きすぎて、反対側にオツリをもらってしまいがちです。動きをよく感じ、必要な修正操作の量とタイミングを会得してください。




ページ最終更新:2010/9

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