メルクリンZ車両のモーターメンテナンス


メルクリンZ車両は走らない・・・という声を良く聞きます。
ここでは、その主因となるモーターメンテナンスについて述べます。


●メルクリンZは、まともに走らない?

メルクリンZはNゲージに比べ小さく精密です。

Zは走らない・・・という声も良く聞かれます。
「走らない」とは、具体的には、

(1)けん引車両数が限られていて、特に勾配やカーブではスリップする。
(2)走行中にギクシャクしたり、車体が過熱して止まってしまう。

といったことですが、(2)を指すことが多いようです。



●レール側の問題

ロクハンの道床付きレールでフロア運転を行う時などはそう問題になりませんが、レイアウトを制作する際にはレールを敷設するベースのソリやねじれが無い事を確認してから注意深く行う必要があります。

レイアウトを制作してバラストを撒く際には、丁寧に隅々までバラストを取り除かないと脱線や停止の原因になります。
特定の車両が脱線するような場合でも、脱線の原因はレール側にある事がほとんどです。

レールはレールクリーナーやアルコールを用いて、汚れと油分を取り除いておきます。
油分にはアルコールが有効で、油分がなくなるとスリップしにくくなり、けん引可能な車両数がはっきりと増加します。
長年、放置したレールや、クリーニングをサボったレールには頑固な酸化膜ができてアルコールなどで拭いても復活しないことがあります。
そんな時は、サンドペーパーを用います。鉄道模型のレールにサンドペーパーを用いる事はゴミを付きやすくすることからご法度とされていますが、メルクリンZのレールは洋白素材の高品質なものですのでやりかたによっては大丈夫です。
ただし、サンドペーパーは♯800番以上の目の細かいものを使用し、仕上げはさらに目の細かい♯1000〜♯1500で丁寧に仕上げるのが無難です。
車両もOK、レールクリーニングもOKなのに、なぜか車両が止ってしまう...。そんな時には最後の手段としてサンドペーパーは有効です。私はタミヤの「フィニッシングペーパー」を使用しています。



●車両の問題

メルクリンZは走らない・・・。
そう言われる原因の大半は車両にあります。

メルクリンZのモーターは、1970年代からの3極モーター、2000年頃に改良された5極モーター、2016年ごろから徐々に採用が始まった新型モーター(New-Generation Motor、Bell-Shaped Armature等と記載されています)の3種類があります。
2022年時点のモデルは、5極モーターか、新型モーターが使われています。
この中で、「走らない」と言われているのは、旧3極モーターと現行5極モーターです。

旧3極モーターと現行5極モーターの車両は、必要に応じて分解清掃を行い、車軸付近に溜まった埃を取り除いたり、モーター整流子とブラシのカーボンを綿棒でふき取ったりするメンテナンスが必要です。
ブラシが減っていれば、ブラシを取り寄せて交換します。
車両の汚れが酷い場合は、バラバラにして各部品をアルコールやリグロインで洗い、再度組み立てるというメンテナンスが必要です。


このあたりは、リンク先でもご紹介している静山さんサイトに詳しく紹介されています。
「Zゲージのメンテナンス by 静山さん」

Osaka Z Workshopで静山さんが発表された資料にもわかりやすく丁寧にメンテナンスの事が紹介されています。
「メルクリンZゲージのメンテナンス 安定走行のために by 静山さん」


しかし、分解して清掃しても、また直ぐに走らなくなる・・・。
と言う事が多いのです。



●走らない真の原因

メルクリンの3極/5極モーターの構造は非常に良くできていて、発売後50年近く経つ現在まで基本構造は変わっていません。
設計が古くダメだとおっしゃる方もいらっしゃいますが、設計どおり組み立てられて、正しいメンテナンスをされた車両は驚くほど安定に良く走ります。
3極モーターは、さすがにロケットスタート気味ですが、5極モーターの車両はスロー走行も難なくこなします。


では、なぜ、「走らない」のでしょうか?


モーターの構造は下の絵のようになっています。
モーターが回転すると、ブラシと整流子の接触部分が順々に切り換って巻線に流れる電流が順々に切り換り、回転を続けます。





メンテナンスをしても走らない車両は、モーターの整流子に傷が入り、「整流子とブラシとの接触に問題が生じている」のです。

モーターの整流子に生じた傷により、スパークが発生し過熱します。
スパークの熱によって、整流子は削れ、金属溶融痕が残ったり金属溶融片が付着したりします。

また、ブラシのカーボンが削れて整流子のスリットにつまったり、金属溶融片がつまったりしてショートしてしまうのです。

特に激しいスパークを起こした整流子は、回転によってブラシが削られるほど鋭利な形に変形をしている事もあります。



こうなると、いくら掃除をしても、また、ブラシを交換しても直ぐにダメになります。
接点復活剤などを使っても、恒久対策にはなりません。

根本的な対策は、『モーターの交換』しかありません。


では、どうして、このような「整流子とブラシとの接触に問題が生じている」状態になるのでしょうか?


その答えは『オイル』です。


調子が悪くなると、むやみにオイルをさす人が多く、そのオイルが整流子とブラシにまわって接触不良が生じ、最初のスパークの原因となるのです。
メルクリン社の製造工程においても出荷時に多くのオイルを注していて、新品から調子が悪いという事もあります。
私は、新品を購入しても、まず、外装を外して過多に塗られたオイルを拭き取っています。

注油は、取扱説明書に記載があるように、1滴までを守る事が重要なのです。
また、保管中に、注したオイルが整流子にまわることもあるため、保管は箱を寝かさずに、車両の車輪が下向きになるような方向で保管したほうが良いです。
このように、十分に気をつけてケアした5極モーターは、大してメンテナンスしなくても長きにわたって好調に走行します。一度、不調になるとブラシやモーターの交換、あるいは高度なメンテナンスが必要になります。



●復活させる荒ワザ

ブラシは数百円で買えるのでいいのですが、モーターを交換するとなると数千円の出費になります。

そこで、ダメになった整流子を生き返らせる方法として、以下のような方法(荒ワザ)をご紹介します。

モーターのブラシを取り外し、整流子の部分に先のとがった精密ピンセットを差し込み、整流子をモーター軸方向に磨くのです。



使用するピンセットは、先が細くとがった精密なものが必須です。
たとえば、幸和ピンセット(KFI)のK-1やK-3です。
力の入れ過ぎは禁物で、整流子を回転させながら何度も何度も時間をかけて軸方向に往復動作で磨きます。

下の写真は傷の入った整流子です。
これは、まだマシな方です。




磨いた整流子。
ガタガタがマシになっています。



こうする事で、金属溶融片や整流子の回転方向の傷は減り、回転中のスパークはずいぶん軽減され起りにくくなります。
多少の傷は残っていても、鋭利な傷が取れるだけで、状況はかなり緩和します。

そして、このような作業の後は、必ず、整流子の溝を「丁寧に」清掃します。
やはり、幸和ピンセット(KFI)のK-3のように鋭利な精密ピンセットが必要です。


ここまで小さくなると、さすがのハズキルーペも歯が立たず、5X〜10Xのルーペで確認しながらの作業になります。
これまでの作業を丁寧に行えば、安定走行が『完全復活!』します。

何度、掃除をしても、ブラシを交換しても、過熱でダメになるモーターには、一度試してみる価値がありますよ。



●注意事項

・車両を分解する時は、説明書の図をよくみて分解順序や部品の方向に注意しましょう。
 同じ形に見えても前後で微妙に形状が違っている事もあります。途中写真を撮りながらすすめるのも一案です。

・モーターや樹脂部品をアルコールやリグロインで洗う時は、浸けおき洗いをしてはいけません。
 材質によっては溶かしてしまう事があります。
 小皿にアルコールやリグロインをとって、そこに浸して洗いますが、数分以内に作業を終わらせましょう。
 何れも揮発性が高いので、ふき取りは不要です。


・間に合わせの工具で無理やり分解しては行けません。
 手持ちに工具がなければ、必ず工具を用意してから作業を始めましょう。



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