marklin_Zの基礎知識

marklin_Zの、入門解説ページです
(一部、内容が製作記と重複しますが、ご了承下さい)



  

●メルクリン社とZゲージ

メルクリン社はドイツ、ゲッピンゲンに本社がある鉄道模型の老舗です。
1859年に創業。鉄道模型は創業後数十年を経過した1890年代から生産をはじめました。

メルクリン社の現在の主流はHO(軌間16.5mm)ですが、1番(軌間45mm)やMini TRIXブランドのNゲージもあります。
Zゲージは、世界最小1/220スケール、軌間6.5mmの量産型鉄道模型として、mini-clubというブランド名で1972年に発表されました。

現在は、marklin_Zというブランド名になり、基本的に発表時と同じシステムが継承され現在も継続して新製品が発表されています。
(2010年頃から、mini-clubブランドが復活しています)
メルクリン社は2009年に破産手続きを行いましたが、その後も事業は継続され立て直しが図られました。
そのせいもあってか、新製品リリースのスケジュール遅れは慢性化しています。

メルクリン社以外では、過去にいくつかの日本のメーカが参入しましたが、現在は「ロクハン」が有名です。
海外では、アメリカのマイクロトレインズ社がアメリカ型の車両やプラ道床付きレールを製品化しています。
また、アメリカやドイツを中心に、小さなメーカーがいくつかあります。
何れも品種は限られており、これまでに発売されたmarklin_Zのシステム、品揃えには遠く及びません。

  


●marklin_Zのシステム

電気系は、日本のNゲージなどと同じく一般的な直流2線式で、電圧はやや低く10Vになっています。
同社のHOのような交流3線式ではありません。
marklin_Zには日本型は無く、主なものはドイツ型で、他にスイスをはじめとする欧州型や、北米型などもあります。

システムは完成度が高く、照明アクセサリ、信号機は点灯し、ターンテーブルやトラバーサ、踏切、腕木式信号機まで可動式のものが用意されています。
また、架線システムも充実しており、ELの場合は通常の線路からの集電のほか、切り換えで架線からの集電も可能になっており、架線集電でも安定な走行を楽しめるそうです。

これらの製品は、極めて繊細、かつデリケートにできており日本メーカのNゲージの比ではありません。
パッケージには「14歳以上」(一部のものは15歳以上)の表示がありますが、特に照明関連アクセサリや、動力車のブラシ交換等、大人でも丁寧に扱わないと壊してしまうでしょう。
気持ちに余裕を持って愉しむべき製品のような気がします。

カーブレールの標準半径は、R145、R195、R220となっています。
ピッチが50mm、25mmと不規則で、R145とR195の間にR170があっても良さそうなものですが、R145とR170で複線カーブを構成すると、26m級、120mm長さの客車がすれ違ったときに接触してしまうのでこのような規格になっているようです。
個人的には、R170は欲しいです。
日本の棚には奥行き45cmのものが多く、これにフィットしたレイアウトを作ろうとするとR170がちょうどいいからです。

ストレートレールは110mmが基本で、1/2の55mm、2倍の220mmなどがあります。

フレキシブルレールもありますが、日本のメーカのものに比べると使いにくいので、レイアウト製作時には標準レールを基本に構成することが多いようです。


●カタログ

日本でmarklin_Zを愉しもうと思ったら、まずはカタログが必要です。
カタログは国内の取扱店から通販などでも購入できます。
年によって、Zのみ独立したカタログが発刊されたり、HOや1番ゲージが一緒に掲載された総合版のものが発刊されたりしています。
また、その年に発売される製品のみを掲載したダイジェスト版も発刊されています。

言語はドイツ語の他、数カ国語がありますが、日本で入手できるものは英語版が普通です。
日本語版はありませんが、ダイジェスト版に限っては近年日本語版が刷られたこともあります。

カタログの値段は数千円で、国内メーカのNゲージカタログと同等程度です。
CD-ROM版がmarklin insider club会員(メルクリン社が運営する会員制クラブ・要年会費)向けや販売店向けに配布されています。
また、スマホのアプリ版カタログやメルクリンのサイトからダウンロードできるPDFカタログもあります。

  


●価格と購入

日本国内で販売されている、marklin_Zの車両や線路、アクセサリ類の価格は、日本メーカのNゲージなどと比べると2〜5倍と大変高価です。
ドイツ国内の販売価格(ユーロ)を円に換算しても、日本メーカのNゲージとは2倍近い開きがあります。

日本国内でmarklin_Zを扱っているお店は非常に少なく、首都圏でも数えるほどしかありません。
大阪周辺でも数店舗で、扱う量も限られています。
したがって、実物を見ると言う機会もほとんどありません。

地方にお住まいで、どうしても品物を見て買いたいという人の場合、首都圏か関西圏まで出かけないといけないので、調達のハードルは高くなってしまいます。

利便性のよいところに国内の取扱店があったとしても、marklin_Zは輸入販売になりますので、ドイツで購入する場合の2倍を超える価格設定になっています。
単純に比較すると、SLの場合で、日本メーカのNゲージは概ね1万円程度ですが、marklin_Zの個人輸入では2.5〜3万円、国内の取扱店では約4〜6万円という感じになります。

従って、大半は、

 (1)ドイツやアメリカから個人輸入する

 (2)ネットオークション(国内ではYahoo!、海外ではeBay)で主に中古を購入する

 というのがメジャーな調達方法のようです。

ネットオークションの場合は、前記のSLが1〜2万円で入手できるといった具合でしょうか。
ただ、欲しいと思った商品を気長に探す努力(ネットオークションでの購買スキル)が必要です。

しかし、この調達難が魅力を増す一要因にもなっていて、探すことも愉しみの一つなんですね。
日本型Nゲージャーさんが、在庫の無い製品の再生産を、首を長くして待ったり、ネットオークションで安く手に入れる算段をするのと全く同じ事情です。

高価なものですし、絶版も多いので、「ゆったりかまえてチャンスを狙う」くらいの気持ちで愉しむのがいいと思います。
私も、ネットオークションや個人輸入を主に利用していますが、時々、国内のお店にお世話になっています。
国内では大阪のメルクリンショップ、HRSさんがリーズナブルです(Zは基本お取り寄せですが、在庫もあります)。

海外の調達先は、参考文献と参考ホームページで紹介しています。

marklin_Zには、車両とレール、パワーパックがセットになった、スタータセットがいくつか用意されています。
スタータセットは、単品(バラ売り)に比べてかなりリーズナブルな価格設定になっています。
数万円かかりますが、一気にそろうので、最初はまずスタータセットを購入するところからはじめるのがお勧めです。


●車両

車両自体の精密さ、塗装等は国内メーカのNゲージと同等以上の仕上がりのものが多く、小さくても緻密で完成度は高くなっています。

SLや一部のDLは亜鉛ダイキャストでできており、小型精密模型としての質感を十分に感じることができます。
(カタログにはダイキャストと記載されていましたが、掲載写真はロストワックスという別のプロセスのものでしたので、正確なところはわかりません)

樹脂成形の金型技術もレベルの高いもので、最近の車体の仕上がりは日本型Nゲージと同等以上の精細さです。

また、車番等の文字印刷が、高度のタンポ印刷技術によって極めて精細に表現されているのもmarklin_Zの大きな特徴になっています。

SLロッド、パイピング等の省略や、大きく目立つ連結器は残念な部分で、Nゲージの域には到達していない部分もありますが、SLのロッドに関してはかなり改善されました。

  


●走行性能

このようなmarklin_Zですが、小ささのわりに走行性能はなかなかのものです。
最近の、フライホイールを内蔵した日本メーカのNゲージには及ばないものの、比較的スロー走行も可能で安定した走りを愉しめるようになってきました。
特に、最新の"bell-shaped armature" 又は、”New generation motor”と記載されたコアレスモーターは静かで安定した走行を実現しています。

旧型モーターでは、DL、ELなどプラボディのものは、比較的ギア音がボディに響きジィーという音で走ります。
旧型モーターでも、小型の凸型DL(BR212やBR361)はボディが金属製なので走行はとてもスムースで、大変静かな走りです。
SLも金属ボディのため一部例外はあるものの、概ね静かに走りますがギア数が多いので前記のDLにはかないません。

一方、小型ゆえ機関車の単位体積あたりの自重が軽く、牽引力が低いため、最大でも7両程度の牽引が限界になっています。
4%以上の登坂やR145のカーブが入ると、牽引力の低い機関車では4両以下しか牽引できないこともあります。
決して、モータの力が弱いと言うことではなく、重さからくる制約なので、自分で重りを追加している方もいらっしゃいます。
Nゲージのようにゴムタイヤを履いた動力車を出してくれればと思いますが、今のところありません。


●モータとブラシ

動力車の心臓部となるモータは、以前は3極モータでしたが、2000年頃から順次5極へ切り換えられ、走行性能が向上、走行音も幾分改善されました。
前述の通り、2016年からは、全く新しい缶タイプの新型モーター(bell-shaped armature、あるいは、New generation motorと記載されているコアレスモーター)の採用が進んでおり、走行性能が格段に改善されています。

旧型の3極モータのロータ(回転子)には120°ごとに計3つのコイルが巻かれていますが、5極の場合は72°ごとに計5つのコイルが巻かれています。
したがって、5極のほうが変動トルク(コギングトルク)が少なく、起動トルクも少なくてすむので、主に低速性能が向上するというわけです。

だいたい、5極モータで最低スケールスピードが15-25km/h、3極では30-40km/hではないかと思います。
3極モータでは、どうしても、ロケットスタートは避けられません。
かといって、40km/hは十分スローなスピードですので低速で走る車両を眺めるのに全く不満はありません。

一方で、ブラシ(*参照↓)の清掃などのメンテナンスは、3極に比べると5極のほうが精細なぶん、こまめに行う必要がある様です。
気楽に走らせられると感じて3極モータを好む人もおられるようです。
私も「走らせ屋」なので、3極はそれなりに好きです。

なお、動力車の製品番号が5桁のものが5極モータ搭載、4桁のものは3極モータ搭載ですが、まれに8878などのように4桁型番でも5極モータ搭載のものがあります。

他のメンテナンスパーツと同様にモータは補修用部品として単品で入手可能です。
ですから、旧い3極モータのモデルを中古で購入し、5極に載せ替える事も可能です。
3極モータや5極モータの製品を、新型のコアレスモーターに換装する事はできません。

ブラシも3極用と5極用で異なります。通常、3極用ブラシ(製品番号4桁)よりも、5極用ブラシ(製品番号5桁)のほうが薄くできています。
現在流通している5極用ブラシは、3極用ブラシに使えます。旧い3極用ブラシは5極には使えません。


*ブラシ:
摺動子とも言われ、直流を交流に変換する機構の一部品です。
モータ回転軸に設けられた整流子に常に接触させて機能するものなので消耗部品です。
実物は、りん青銅の板バネにカーボン接触子がはんだ付けされた小さな部品です。
なお、モータのブラシは日本型Nゲージにも使われていて、marklin_Zだけの話ではありません


●marklin_Zの愉しみ方

marklin_Zは、1/220と大変小さいので、その小ささを活かした愉しみが主流です。

(1)レイアウトの製作

HOやNでは不可能な小型レイアウトを実現できますので、3〜400mm角の板やトランクなどにもレイアウトを構成できます。
900mm×600mmという限られたスペースでもNゲージに換算すると1320mm×880mmということになりますのでスペース面ではかなり有利です。

marklin_Zの標準レールの最小半径はR145で、Nゲージに換算してもR213という急カーブです。
しかし、marklin_Zの車両は一部の特殊なものを除き、ほぼ全ての車両がR145を走行できるように設計されています。
R145が通過できない特殊なものは、カタログにその旨記載されていますので、記載のないものは基本的にOKです。

    

  トランクレイアウト(NOCH製)  車両は、情景の中に置くとぐ〜んとよく見えます



(2)生活スペースにおけるレイアウトの常設

HOでもNでも、通常はレイアウトスペースか、収納スペースが要ります。
しかし、Zの場合、奥行きが最低で320mmあれば標準カーブレールのR145で楕円軌道が組めますので、
リビングルームのAVラックや本棚の上にレイアウトを構成し、アクリル樹脂カバーを被せて常設化が可能です。

このようにすることで、時間のとれないサラリーマンであっても、日々、夜な夜な運転を愉しめます。

十分、インテリアになりますので家族の反発も少なく、場合によっては巻き込めたりします。
お客さんも、大概、「おや?これは・・・」とおっしゃいます。
思いの外、みなさんミニチュア模型がお好きなようです。

これは非常に大きなメリットです。


(3)編成を飾る

例えばHOの客車列車をフル編成にすると3m程度の長さになってしまいます。
一方、Zでは1m程度の長さで構成できるうえ、非常に軽いので、壁や棚などに欧州の長編成列車を何編成も飾ると言うことが容易に可能です。




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