「平和問題ゼミナール」
(旧)ユーゴ便り
Masahiko Otsuka Presents
-since 1998-
(Since 98/05/31)
選んでください!
最終更新 0:01 99/01/06



ベオグラード自宅前にて


   ベオグラードでは年の暮れから珍しく晴天が続いていますが、気温の方は朝夕マイナスふた桁で、マイナス5度くらいまでは許容範囲の当地の人々にもちょっとシンドい気候です。しかし祝日は祝日。この後の正教(ユリウス)暦のクリスマス(1月7日)、正月(同14日)まで、政情不安や経済不振を吹き飛ばせとばかり大いに飲んで騒ぐ季節です。皆さんはどのような新年を迎えていらっしゃいますか。
   いつも「(旧)ユーゴ便り」をお読み頂いて有難うございます。5月末に最初の寄稿をしてから7ヶ月ほどでアクセス数も4桁に入りました。改めてインターネットの力を実感しているところです。
   私は今年の春で旧ユーゴスラヴィアに渡ってから10年、内戦の始まった91年に報道通訳として情勢ウォッチをするようになってから8年になります。早かったような、長かったような・・・。
   昨98年も旧ユーゴ5カ国ではそれぞれにいろいろな動きがありました。最先進国スロヴェニアは欧州連合(EU)への加盟交渉を正式に始めました。ボスニアは問題を抱えながらも、戦後復興をまずまず順調に進めています。わがセルビア(ユーゴ)はコソヴォ紛争で大荒れの一年でした。
ベオグラードの冬
私の選んだユーゴという国はなくなって5つの国になってしまいましたが、毎年初めにはスロヴェニアからマケドニアまで、どの国にも平和と、それぞれが目指す発展の道を順調にたどることを祈りたい気持ちになります。
   昨年は私個人の生活の面でも変化がありました。
   一つは鹿児島大学の木村朗先生と出会い、それがきっかけとなってこのページでの発信を始めたことです。ちょうどHTM(インターネット)言語の勉強をしていたタイミングもよかったし、ページ管理者の河野克純さんほか「平和問題ゼミ」の皆さんの支援を得られたのも大きかったのですが、ネットという従来の通訳業や雑誌への寄稿とは違う形で(この「便り」はもちろん無報酬ですし「仕事」とは考えていませんが)旧ユーゴ事情を発表できる機会が持てるようになりました。
   もう一つは秋に転居してユーゴ人の女性と同居を始めたことです。それによってユーゴ人、セルビア人の社会を内側(メンタリティや人間関係など)からより深く知ることが出来るようになりました。。
   今年も通訳・ジャーナリストとして仕事を続けますが、同時に一人の日本人として外国に住み続けること、また一人間として国際結婚や出産といった、今まで考えていなかったことをいろいろ考えていかなければならないと思っています。
   「平和問題ゼミ」の姉妹サイトゆえ、民族、宗教、難民、経済など昨年同様硬い話題が多くなるとは思いますが、これからもどん欲にウォッチングを続けこのページから発信していきますから、皆さんのご教唆と応援をお願いします。旧ユーゴ関連のご質問はいつでも歓迎です。


第11回配信
冬はやっぱり煮込み!

   今回は政治・経済などの話は少し冬休みを頂いて、料理の話です。しかしたかが料理と侮ることなかれ。今までに多民族国家旧ユーゴスラヴィアの文化のいろいろな側面を知る機会がありましたが、音楽と並んで料理ほど旧宗主国の影響が見られる分野もあまりないのですから。
   第一次大戦後に成立した若い国ユーゴには「ユーゴ料理」というものはありませんでした。スロヴェニアでは豆や野菜を使った質素な食事にオーストリア・チロル地方との共通点を見出すのは簡単ですし、クロアチア北部ではグヤーシュ(グーラシュ)などハンガリーの影響が、南部海岸地方では、魚に恵まれていることもありますが、かなりイタリアの影響が見られます。一方ボスニアやセルビア、マケドニアなど旧ユーゴ東部ではブルガリアやギリシアなど他のバルカン諸国同様、トルコ料理に似たものが一般的です。
ちょっと煮崩れてしまったけど笑って下さい
ソガンドルマは典型的なボスニア家庭の味
   バルカン料理は大きく分けて「焼肉系」と「煮込み系」の二つの系列があります。焼肉料理は塩、コショウで焼いただけという至って単純なもので、素材の良さだけが勝負です。一方煮込み料理はロールキャベツ(サルマ)など、野菜にひき肉を詰めて煮込んだものが最もポピュラーです。こちらの人々は夏でも食べますが、やはり鍋料理の国の日本人には冬こそ煮込み、ですよね。
   今回紹介するソガンドルマ(玉ねぎのひき肉詰め)は、特に正月料理というのではありませんが、典型的なボスニアの郷土料理です。ボスニアのセルビア人はともかく、ベオグラードでソガンドルマと言っても「???」という反応が一般的です。トルコ語でソガンは(玉)ねぎ、ドルマは上述の野菜のひき肉詰め料理の総称のことで、言葉からみてもトルコの影響が一番強く残っているボスニアらしい料理という感じがします(セルビアでも玉ねぎは普通に入手できる野菜ですしキャベツやパプリカでドルマを作るのですが、なぜかソガンドルマは食べないし、だいいち「ドルマ」という言葉自体が知られていないのだから不思議です)。セルビアに住んでいてボスニア料理を紹介するのも変かも知れませんが、読者の皆さんの中で下記のレシピを見て挑戦される方がいらっしゃった時に日本では酢漬けのキャベツやパプリカよりも玉ねぎの方が入手しやすいと思ったからです。
こちらは右上の玉ねぎを生のまま付け合わせとして食する。同じ玉ねぎとひき肉の組み合わせでもこの違いは大胆。ちなみに上左はマッシュルームグリルとチキンソテー
チェヴァプチチ(小型チェヴァップ、手前)は塩コショウで焼いただけの「男性的」なミニハンバーグ

   「現代思想」(青土社)97年12月臨時増刊号「総特集ユーゴスラヴィア解体」の中でジェヴァド・カラハッサンが、レヴィ=ストロースを援用しながらサライェヴォの町と生活自体に構造分析を試みている文章があります(「サライェヴォ、ある内在的都市の肖像」)。全てに賛同は出来ないにしても魅力的な一文ですから皆さんにもご一読をお奨めしますが、この中でもドルマに触れられています。カラハッサンによれば、チェヴァップ(ひき肉を長細くして焼いた「ミニハンバーグ」)に代表される焼肉料理は「開かれた」「町の」「男性原理の」食べ物なのに対して、ドルマすなわち煮込み料理は「閉じた」「家庭の」「女性原理の」食べ物なのです。
   ちょっと待て待て、わが家では料理は男の仕事だぞぉ。肉を焼いただけの料理は料理じゃない(!?)。今日は私が腕をふるってベオグラード一の?ソガンドルマを作りましょう。もっとも焼肉料理は素早く出来るのでサライェヴォでもチェヴァブジニッツァ(チェヴァップ屋)は一種のファストフードとして機能していますが、じっくり煮込む料理は時間がかかりますから、確かに家庭をしっかり守っているバルカンの主婦にこそふさわしい料理かも知れません。カラハッサンによれば「ドルマの材料は、すべてそれぞれのもともとの味わいを保っていなければならない」。「煮込んでいる間に材料のひとつでももともとの味を失ったら失敗とみなされる」。また、「すべての材料がいっしょになって、全く新しい非常に複雑な味を生み出す」のですから。レシピをお読み頂ければ分かるように、低カロリーとは言えませんが肉あり、穀物(米)あり、有色野菜(トマト)、淡色野菜(玉ねぎ)、乳製品(ヨーグルト)、卵と、それなりに栄養のバランスが考慮されています。電子レンジでチン、と現代日本の慌しい生活を過ごしていらっしゃる諸姉&諸兄にはちょっとお奨めしにくいところですが、時間に余裕、腕に多少の自信のある方はお試しください。
   

ソガンドルマ(玉ねぎのひき肉詰め)

難易度中の上
調理時間120分
材料(4人分)◆玉ねぎの外形 玉ねぎ=大8個 ◆詰め物 ひき肉(筆者は牛豚合びきを使用しているがボスニアでは宗教上の理由から牛だけ)=400g 卵=1 生米=大さじ1から2 玉ねぎ=小1個分(外形の余りを使ってもよい)◆ソース 小麦粉=大さじ1 トマトピュレ(ジュースで代用可)=約250cc 半固形ヨーグルト=100cc ◆調味料 塩、胡椒、酢、油

@大きい切り口は半分より少し手前くらいに。この切り方が成功のカギ。B小さい切り口の方から一層ずつ押し出して外形を作る
C塩、胡椒でこの時点で十分に味を付けてしまう

◆ドルマの外形を煮て作る
@玉ねぎの天地を切って大きい切り口(普通は下側)と小さい切り口(普通は上)を作る。実はこれが一番重要なプロセス。大きい切り口が小さ過ぎると煮込んだ後(B)で押し出しにくいし、小さい切り口はドルマの底になるので、大き過ぎると後でひき肉がこぼれやすくなる。切り落とした天地の部分はみじん切りにしてCのひき肉に加えてもよい。
A鍋で湯を沸かし少量の酢を加え、玉ねぎを15分程度煮込む。煮ているうちに鍋の中で一部は自然にばらばらになってドルマの外形になるが、柔らかく煮過ぎないように注意。
B鍋の中で「自然解体」しなかった玉ねぎは冷水に放し、その中で小さい切り口を指で押して中心から一層ずつ慎重に押し剥がしていく。中心の部分や切れてしまった層は捨てないでフタ(D)に使う。
D短気は損気。時間をかけて一つずつ詰めていく
F玉ねぎはかき混ぜないで、ソースだけ時々かけながら弱火でじっくりと煮込む

◆詰め物をいためる
C玉ねぎのみじん切り、生米、ひき肉の順にいため、最後にとき卵を加えさらに混ぜる。塩、胡椒で調味。ひき肉の色が変わり、米以外に十分火が通ったらフライパンを火から下ろして冷ます。
photo by Jelena
ちょっと縮小ヴァージョンの3人前、90分強で完成!

D Bの玉ねぎの小さい切り口を下にして、スプーンと指でCのひき肉を詰めていく。山盛りにはしないで、すり切り程度にしてBで煮余った玉ねぎを粗く切ってフタとしてのせる。
◆ソースを作って煮込む
Eカレー粉からカレールーを作る要領で、鍋の底で油を熱し小麦粉を加えて伸ばす。パチパチはじけるほどに熱したら少量の水を加えてさらに伸ばし、トマトピュレ、続いてヨーグルトを加える。
F再びソースが沸いたら鍋をいったん火から下ろし、Dのドルマを小さい切り口を下にしてソースの中に並べる。あとは弱火で、時々ソースをドルマにかけながら煮込む。既に玉ねぎも、米以外の中身も火は通っているので、ソースの中で単に温めるくらいのつもりで絶対にかき混ぜないこと。玉ねぎが崩れてしまう。
G米が柔らかくなれば一応出来上がりだが、味を馴染ませるために弱火でさらに2、30分は煮込みたい。トマトの青臭さや酸味が気になる場合は酢や砂糖で好みの味に調える。パンでもご飯でも合うが付け合わせはボイルドポテトやサラダなどサッパリ系がマル。
(99年1月上旬)


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