思いつきSSログ保管庫
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雑記掲載SS保管庫 2018年
12月23日 あいりすミスティリア!R SSS”ブーメラン” 7月13日 FORTUNE ARTERIAL SSS”風鈴” 5月20日 FORTUNE ARTERIAL SSS”そういのうつわ?” 5月13日 FORTUNE ARTERIAL SSS”母の日” 4月26日 sincerely yours short story「よい風呂の日」 4月6日 あいりすミスティリア!R SSS”真理を究めし大魔術” 4月2日 エイプリルフール企画 外伝・千の刃濤、桃花染の皇姫 3月19日 処女はお姉さまに恋してる〜3つのきら星〜SSS”お姉さまの為に” 3月15日 sincerely yours short story「最高」 3月1日 処女はお姉さまに恋してる〜3つのきら星〜SSS”二人の姫君” 3月1日 処女はお姉さまに恋してる〜3つのきら星〜SSS”境界線” 2月4日 sincerely yours short story「ツインテールの日」 1月14日 あいりすミスティリア!R SSS”袖踊る幽冥の刃”
12月23日 あいミスSSS「ブーメラン」 「クレアの新しい聖装ってさぁ……」 「すばらしいだろう? 私のような傭兵でも魔術が使えるようになる聖装だしね」 「あ、うん、そりゃすごいのはわかるよ、着るだけで魔術が使えるなんて反則だし」 「まぁ、確かに本職からすればあの程度大した魔術じゃないんだろうけどね」 「いや、常識的に着るだけで魔術使えるってだけでものすごいんだけど……でもさ」 「なんだい?」 「その聖装ってさ……布少なすぎない?」 「確かに気になる所だな、だがこれはこれで良い物だぞ?」 「へ?」 「肌を刺すような敵の視線に晒される、それを防ぐ盾を持たない。  ゾクゾクするじゃないか!」 「変態だー、変態がいるー!!」 「変態ではない、ただの性癖だ」 「変態だけじゃなくて痴女だった?」 「なぁ、ラディス。今の君にブーメランっていう言葉を贈ろうか?」 「わかってる! アタシだってこの聖装の布が少なすぎるの気にしてるんだから!」 「じゃぁなんで他の聖装にしないんだい?」 「それは……この聖装だと魔力が上がって上級魔術が遠慮無く使えるから……」 「ラディス」 「なによ」 「君の性癖はすでに把握した」 「うっさい! 何良い事行ったような顔してるのよ!!」 「なぁ、冥王。アイリスってのは変……個性的なのしかいないんだな」   ギゼリックの呆れ声が冥界に響いた。
7月13日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS”風鈴” 「今日も暑いな……」  手に持ったうちわを扇ぐ。 「そんなに暑いならクーラーの効いた部屋に行けば良いのではないかしら?」 「それもそうだが、夏は暑いのが当たり前であろう?」 「そうね、でも昔はこんなに暑くは無かったわね」 「そうだな」  まだここがただの村だった頃は、夏といってもここまで暑かった記憶は無い。 「時代の流れなのであろうな」  珠津島の山の中腹にある千堂家はこれでもまだ涼しい方だろう。  近代化された中心部の方では、日陰とはいえこうして縁側にすわって居られないほどの  暑さになっていることだろう。  ちりん。  風鈴が風に揺らされて、涼しげな音がなる。  遠くからは蝉の鳴く声。 「夏、だな」 「えぇ、そうね」  ・  ・  ・ 「伽耶、お昼ご飯は冷や麦にしたわ」  そう言いながら桐葉はお盆にのせた冷や麦を持って縁側に出てきた。  ガラスの器に盛られた冷や麦は、とても涼しそうに見える。 「はい、伽耶」 「ありがとう、桐葉」  小さなそばつゆの入ったガラスの器を受け取る。 「それでは」 「「いただきます」」  冷や麦を一房とり、つゆにつけてから一気にすする。 「冷たくて美味いな」 「そうね、夏は見た目から涼しい方が食が進むわね」 「そうだな……」  見た目が涼しくのどごしも良い冷や麦はこういう暑い日にはうってつけだと思う。 「……」  ガラスの器に盛られた白い麺の冷や麦。  手に持った黒いそばつゆにつけて食べる……うってつけのはずなのだが。 「のぅ、桐葉。おぬしの手に持ってるのは……」 「そばつゆよ?」 「……普通、そばつゆは黒いのではないか? 桐葉のはどうしてそこまで赤いのだ?」 「……そうね、少し七味唐辛子を入れすぎたかもしれないわね」 「少し、か……」  黒いそばつゆが赤くなるほどの七味を少し、か。 「結構美味しいわよ、伽耶も味見してみる?」 「謹んで全力で遠慮する!!」 「そう? 美味しいのに」  そう言って桐葉は箸を動かす。  ガラスの器に盛られてる白い冷や麦を一房、手持ちの器の赤いそばつゆにつけて口元に運ぶ。 「……涼しげなはずの食事なのだがな」  なんだか汗が出てきた気がする。 「まぁ良い、桐葉が美味いと言うのなら何も問題はなかろう」  そしてあたしは普通の黒いそばつゆで冷や麦を食べた。 「「ごちそうさまでした」」 「さて、この後はどうするかの」 「迎え火は暗くなってからですものね、その頃には伽耶ちゃん達もくるでしょう」  お盆に入った今日は迎え火をする。  それは、父様が帰ってくる日、だからこそ家族みんなで出迎えたい。 「そういえば、伊織君は来るのかしらね?」 「……知らぬわ」  来たら来たで色々と引っかき回していく伊織なぞ来なくても良いのだが。 「だが、あれでも息子だからな」 「ふふっ、居なければ居ないで寂しいものね」 「寂しくなぞないわ! あたしには伽耶がいるのだからな!」  お祖母ちゃんって言ってあたしに抱きついてくる孫の伽耶。  瑛里華が小さい頃を思い出すが、あのときとは違う愛おしさがある。  やはり初孫だからだろうか?  ちりん。  風鈴の涼しい音色が響く。 「今年のお盆も、騒がしいのだろうな」 「そうね、でもその方が楽しくて良いと思うわよ」 「そう、だな」  ちりん。  この青空の空高くまで、風鈴の音色が響いた。
5月20日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS”そういのうつわ?” 「やぁ、みんな元気にやってるかい?」  引退した会長、元会長が監督生室にやってきた。 「伊織先輩、こんにちは」 「こんにちは、白ちゃん」  挨拶しながら当たり前のように会長の椅子に座る。 「そこに座ると瑛里華似怒られますよ?」  無駄だとわかってるけど俺は一応忠告する。 「かまわないさ」 「お茶が入りました」 「ありがとう、白ちゃん」  引退しても会長は会長だった。 「ところで支倉くん、確認するが瑛里華は今は留守だよね?」 「はい、なんでも東儀先輩に呼ばれて出かけてます」 「そうかそうか、上手くいったんだな」 「今度は何をしたんですか?」 「失礼だな支倉くん」  そう言って立ち上がる元会長。 「何をしたのではない、これからするのだよ!」 「駄目ですよ?」 「なに、現会長は居ないし元会長の特権だよ」 「そんな特権はありません」 「気にしない気にしない」  そう言いながら元会長は何かの書類を取り出した。 「今のうちにこれを通してしまおう、承認印の場所は変わってないようだしね」 「あ、いつのまに!」  手には生徒会承認の印が握られていた。 「それ以上すると瑛里華にまた怒られますよ?」 「ふっ、この俺が何も策を弄さず行動すると思うのかい?」 「いつも最初は行き当たりばったりですよね」 「結果が出ればオーライさ!」  そう、イベントの企画はいつも思いつきや行き当たりばったりのはずなのに、それが何故か  すべて大成功させてしまう。  それが修智館学院の元生徒会長、千堂伊織のすごい……恐ろしい所だ。 「それに、今の瑛里華に俺をとらえる力は無いさ」 「それはどういう意味かしら、兄さん?」  いつの間にか扉の前に瑛里華が立っていた。 「げっ! 帰ってくるの早すぎる!」 「征一郎さんに言われたのよ、きっと今頃兄さんが何かを企んでるはずだろうって」 「ちっ、足止めにあの機会を壊しておいたのに」 「やっぱり兄さんのせいだったのね?」 「ふっ、だがもう遅い! この企画書に承認の印は押した後なのだ!」  確かに企画承認の印は押されてる。 「そうね、でもその企画書が最初から無かった事にすれば問題ないわよね、兄さん♪」  瑛里華が一歩前に進む。 「はははっ、今の瑛里華に俺はとらえられまい、はっ!」  窓から外に飛び降りた元会長。 「追うわよ、孝平!」 「はぁ、わかったよ」 「行ってらっしゃいませ、支倉先輩、瑛里華先輩」  手を振る白ちゃんに見送られながら俺たちは元会長を追うことになった。  元会長は裏山の方へと逃げていく。  それを追いかける俺たちだが…… 「離されていく!」 「やっぱり吸血鬼の身体体力は化け物よね」 「これでも俺たちはそのかけらを宿してるんだけどな……」  普通の人なら追いつけないだろうが、なんとか見失わないで済んでいるが、追いつく決め手は無かった。 「ここは?」  いつの間にか河に出ていた。 「兄さんは」 「遅かったな二人とも!」  元会長は河の中にいた。 「流石に水の中まで追いかけて来れないだろう? 今回は俺の……勝ちだ!」 「全く、伊織は何をしてると思えば……」 「げ、征?」  河の上流の方から東儀先輩が歩いてきた。 「征一郎さんが来てくれたってことは」 「あぁ、用意できたぞ」 「もう直したのか? だが想定済みだ! アレは水中では役に立てないだろう」  元会長の言葉に瑛里華は微笑む。 「兄さん、東儀家の技術力を馬鹿にしちゃいけないわよ。技術は進歩してるんだから、ね♪」  そのとき東儀先輩の背後から何かが転がってきた。  その何かは、瑛里華の前に止まる。 「うん、思ったより可愛いわね」  そう言うと瑛里華はそれに乗り込んだ。   「この子は水中用の兄さん殲滅ユニットよ!」 「ちょ、瑛里華!? 前の時は相違の器っていってたよね?  なんで今回は俺の殲滅ユニットなんて名前がついてるの!?」 「だって用途がそれしかないじゃない」 「征!? お前んとこ才能の無駄遣いしすぎだろう!?」   「くす、兄さん。覚悟はいい?」 「まだだ、まだ終わらんよ! いくら水中用とはいえそのままでは海まで逃げ切った俺には追いつけまい!」 「この子は水中用よ、こうして中に乗り込んじゃえば……」  そう言うと瑛里華は完全に乗り込んだ。   「それおかしくない? 絶対中に入りきれないよね?」 「ふふっ、覚悟はいいかしら、兄さん♪」 「瑛里華先輩、お茶です。 「ありがと、白」  白ちゃんからお茶を瑛里華はいつものように優雅に飲む。   「ふぅ、一仕事終えた後のお茶は最高よね」  あの後水中戦となった二人の戦いを知るものは居ない。  だが、帰ってきた瑛里華の手にはぼろぼろになった企画書と承認の印を持っていたから  何とかなったんだろう、と思う。 「……」  俺は元会長の冥福を祈る事しか出来なかった。
5月13日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS”母の日” 「はい、伽耶」   「桐葉、これはなんだ?」  桐葉から渡された一輪の花を見る。 「カーネーションよ、今日は母の日でしょう?」 「あたしはお前の母ではないぞ?」 「当たり前よ、私は伽耶の娘じゃ無くて親友ですもの」 「……」  当たり前のように言ってくれるその一言に、あたしは顔を背ける。 「あら、どうしたのかしらね、伽耶」 「なんでもない! それよりもこの花は」 「えぇ、伽耶の思ってるとおり、瑛里華さんからよ」 「……」 「いつもどこに居るかわからない貴方への伝言もあるわよ」 「誕生日だけじゃなくって、母の日にも帰ってきて私に祝われなさいよね!」 「だそうよ?」   「なんだ、その言いぐさは……」 「そうね、伊達に伽耶の娘ではないわね」 「どういう意味だ、桐葉?」 「さぁ?」 「……そう、だな。帰る回数を増やしてもいいかもな」 「あら、伽耶もとうとうデレたのね?」 「出れた?」 「ふふっ、なんでもないわ」  桐葉の笑顔がなんだか腹が立つが。    花の香りがあたしを落ち着かせた。 「母……か、あたしは母失格なのだがな」 「そうね、でも貴方が瑛里華さんの母親であることには変わらないわ」 「……そう、だな。よし、桐葉。来月珠津島へ戻るぞ」 「今すぐじゃなくて?」 「今は戻る理由が無い、だが来月ならあるであろう? 祝われなさいとほざいた我が娘を  祝ってやらねばな」 「全く、素直じゃ無いわね」 「桐葉、その笑顔はなんだ? なんだか馬鹿にされてるように思えるのだが?」 「温かく見守っているだけよ」 「それが馬鹿にしてるというのだっ!」 「はいはい、それで来月帰る事は伝えちゃいけないのよね?」 「当たり前だ、今日の礼に瑛里華を驚かせないと気が済まないからな」 「ふふっ、本当に不器用よね」 「何か言ったか?」 「なんでもないわ」  まぁ、良いか。さて、来月瑛里華にどう仕返しをしてやろうか?  そのことを考えると、面白くなってきた。 「ふふっ」 「ご機嫌かしらね、伽耶」 「さて、な?」
4月26日 ・sincerely yours short story「よい風呂の日」 「ただいま」 「おかえり、リリアちゃん。おやつにする? お風呂にする?」 「お母さん、どうしたの?」 「ん? リリアちゃんが帰ってきたからおやつにするかお風呂にするか聞いただけだけど?」 「そうじゃなくって、こんな昼間っからお風呂にするっておかしくない?」  夏場で汗をかいたならまだわかるけど、今の時期はそうそう汗をかく時期じゃない。  帰宅してすぐにシャワーを浴びる必要は無いと思うんだけど。 「今日はね、よい風呂の日なの」 「そうなの?」  今日は4月26日……4が良い、26で風呂、って事かな? 「ちゃんと制定された日なのよ?」  そう言うとお母さんはお茶を煎れながら説明を始めた。 「よい風呂の日はね、親子でお風呂に入って対話を深めたり家族同士のふれあいを促す記念日なのよ」 「そうなんだ」  昔の人は語呂合わせみたいにいろんな日を制定してるんだよね。  これもそんな日の中の一つなんだろうなぁ。 「そういうわけで、リリアちゃん、家族同士のふれあいしましょ♪」 「パス」 「……仕方が無いわね」 「え?」  お母さんがあっさり引き下がった? なんだか危険な気がする。 「それじゃぁ夜達哉が帰ってきたらみんなでふれあいしましょうね♪」 「お母さん、それ本気?」 「もっちろん♪」  このまま夜になれば間違いなくお父さんと一緒にお風呂に入る羽目になっちゃう。 「……お母さん、わたしは今お風呂に入ろうと思ってるんだけど」 「そう? お母さんも一緒していいの?」  眩しいくらいの笑顔のお母さん。  ……手のひらの上で踊らされてるのがわかって悔しいけど。 「いい、よ」 「リリアちゃんがデレた!!」 「違うからっ!!」 「〜♪」  すごく嬉しそうなお母さんと一緒に脱衣所に入る。  もの凄く負けた気がするけど、お父さんを巻き込んでの夜のお風呂よりまだ良いと思うんだけど…… 「なんだかやっぱり悔しい」 「どうしたの、リリアちゃん?」 「なんでもな……」  振り返るとすでに下着まで脱ぎ終わったお母さんの姿が目に入った。 「ほら、リリアちゃんも早く脱いで」 「っ、自分で脱げるから!」  お母さんに背を向けて下着を脱いで、先にお風呂場へと入った。  後を追うようにお母さんが入ってくるんだけど 「ぐすっ」  タオルを目に当てていた。 「……一応聞くけど、なんで涙目なの?」 「娘の成長を確かめようとしただけなのよ、なのに」 「それ以上言わないでいいから!」 「大丈夫よ、リリアちゃん!」 「ふわっ!?」  私はお母さんに抱きしめられた。 「まだまだリリアちゃんは成長期ですもの、きっと大丈夫!」 「……」  何処のこととは言わないでもわかる、そして抱きしめられることでお母さんのふくよかな胸に顔が  埋められる感触に、どうしてわたしのは大きくならないのかなぁと思ってしまう。 「さ、身体を洗って一緒に湯船に入りましょう♪」  ・  ・  ・ 「ねぇねぇ、達哉。今日はね、よい風呂の日なの」 「そうなんだ?」 「うん、親子でお風呂に入って親睦を深めたり家族でお風呂に入ってふれあう日なの」 「わたしは夕方に入ったからもう入らないからね?」 「えー」 「えー、じゃないの! お母さんも二人っきりで入った方が良いでしょう?」 「……リリアちゃん、ナイスっ!! そーゆーわけで達哉、一緒に入りましょう♪」 「わたしは部屋に戻ってるね」  夜のお風呂はなんとか逃げる事に成功したけど。 「……なんだかもやもやする」  すっきりとしない夜だった。
4月6日 ・あいりすミスティリア! SSS”真理を究めし大魔術” 「あれ、めーおー? どうしたの、こんな所で」  こんな所でって、いつもラディスが居る場所だろう? 「確かに、この中庭の芝生は冥界の中で一番居心地が良いんだよね〜」  わかる気がする。 「って、それよりもめーおーは何してるの?」  ちょっと悩み事。 「悩み? めーおーに?」  ……泣くぞ? 「あー、ごめんごめん。で、ほんと何してたの?」  ちょっと考え事をしてただけだよ。 「考え事?」  そう、世界樹の種子集め、今ちょっと中断しているだろう?  ……おとなのじじょーで。 「あー、うん、おとなのじじょーってやつだよね、うん」  まぁ、それはおいといてさ。  地上に出た際にフォロー出来ることを増やせないかなぁって思ってるんだよ。 「フォロー? あぁ、あの魔術”冥王の盾”の事?」  うん、あれもちょっと問題ある魔術だから改良したいとは思ってるんだ。 「問題あったっけ? あれってあたしのものすごく強力な魔術でさえ防いじゃうじゃん」  確かに、どんなに強い攻撃でも1度だけ確実に防げるような魔術にしたんだけどさ…… 「そういえば、逆に初級魔術でも1度で割れちゃったね、あの盾」  やっぱり術式に問題あったかなぁ。 「それもあるけど、名前もあるんじゃないの?」  名前? 「めーおーのたて、でしょう? あの肉壁の」  いや、確かに地上ではミートウォールでしか役に立てないから新しい術式を考えようと  悩んでたわけなんだよ。 「盾を改良したら?」  んー、弱い攻撃を複数回防げるようにすると、多分強い攻撃は防げなくなるかもしれないし 「とりあえず名前からだよね」  え? 名前? 「冥王の盾、じゃあまり格好良くないじゃん」  ……そー言われればそうかも。 「そーだなぁ、こんなのはどう? 我は与う冥府の盾!」  おおっ、なんだか格好良い! 「でしょでしょ? やっぱりオリジナルの魔術なら格好良い名前をつけないと!」  そういえばラディスの魔術にも格好良い名前の魔術、あるよね。  あれはラディスが組み上げた魔術なんだよね? 「その通り!! あたしが組み上げたあたしだけの魔術だから、格好良い名前なのだ!」  あ、でも一つ気になったんだけど 「なに?」  あの光の白刃の魔術、なんで上空から撃ってるの?  普通に手元から放てばいいじゃない? そうすれば我は放つ…… 「すとーっぷ!」  ん? 「それ以上は駄目、色々と抵触するから」  そ、そう? じゃぁ止めておこう。 「うん、それが無難だよ、師匠も言ってたし。天上人でさえ逆らえない力に飲まれるって」  そう言われると逆らってみたくなる。 「あー、めーおーってそう言う性格だったよね。ま、あたし達に被害なければいいよ、別に」  さてっと、とりあえず術式をいじってみたけど、上手くいったかな? 「え? もう? ってか、あたしとしゃべってただけじゃなかった?」  うん、話ながら術式いじってた。 「……相変わらず非常識」  失礼な、これでも冥界一の常識人だぞ? 「はいはい、それじゃぁ実験してみようか? あたしの最大級の魔術、いっくよー!」  ちょ、まった、まだ盾を展開していない! 「来たりて滅ぼせ、界雷の王!」  ……  ・  ・  ・ 「ラディスさん、言い訳はありますか?」 「これは事故だって!」 「大きな雷の音が聞こえたと思ったら、そこに雷に打たれて黒焦げになってぴくぴく痙攣してる冥王さまが  いたんですよ? 犯人はラディスさんしか居ません!」 「だーかーらー、事故だって! 「まぁ、追求は後でするとして今は冥王さまを部屋まで運ばないと」  それには及ばないよ、ユー 「冥王さま!? だいじょうぶなんですか!?」  冥界でなら俺は無敵だから 「まぁ、確かに冥界での冥王さまはミ……無敵ですものね」  ユー、今なんて言おうとした? 「……なんのことでしょうか?」  俺、やっぱり泣いていい? 「それで冥王さま。改良は上手く行ったのですか?」  あー……試行錯誤中かな。 「上手くいかなかったんですね」  夏前までには完成させる! ……たぶん。 「冥王さま、それももしかして」  うん、おとなのじじょー。 「……はぁ、それって便利な言葉ですよね」  俺もそう思った。
4月2日  最後尾の車の荷台。  呪装刀が積まれているはずなのだが、人の気配がする。  敵意は感じないので、とりあえず幌を切り捨てることにした。  俺は呪装刀を構え……  本能のまま、後ろに飛び去った。 「な……」  俺が居た場所にはいつの間にか女が立っていた。  その両手には…… 「呪装刀……武人か?」 「貴方様がどなたかは存じませんが、この車の中のお姉さまを斬らせる訳にはいきません」  両手の呪装刀を構えたその少女を観察する。  まず気になったのは着ている服だった。  多少は改造されてはいるが、間違いなくこれは巫女の着物だ。  いや、手に持ってる物が呪装刀なら、呪装具の可能性もある。  そして二本の呪装刀を構える。  本来武人は呪装刀の力を引き出すために一振りしか使わない。  その呪装刀をそれぞれの手で構えて……そして間違いなく呪装刀は二本とも力を発揮している。 「あり得ない……」  なにより、呪装刀を操る武人が共和国側につくこと自体あり得ない。 「……」 「ボクは貴方と戦おうとは思っていない、お姉さま……斎巫女様を助けられれば、手を引く」 「な、斎巫女、だと!? 斎巫女殿が居られるのか!」 「はい、ボクは個人の意思で……斎巫女を助けに来ました」 「と、いうことは……敵ではないのか?」 「巫女が武人と敵対する事などあり得ないでしょう?」  そう言うとその呪装刀を軽くその場で振り抜いた。  その一振りで車の扉の壊した。 「わひゃぁ!?」 「お姉さまっ!!」 「殺さないで殺さないで、私は人畜無害なただの巫女ですっ!」  中から転げ落ちてきた巫女の少女は高速で土下座する。 「お姉さま、お怪我はございませんか!?」 「その声は……あやちゃん?」 「はい、お姉さま。助けに来ました!」 「あやちゃん……ありがとう、でも無茶は駄目ですよ?」 「お姉さまを守るのがボクの役目です」 「そうだけど……全くもう」  斎巫女はその少女を抱きしめる。 「私を守ってくれるのは嬉しいですけど、ちゃんと自分も守らないと駄目ですよ?」 「……はい」 「その、取り込み中済まないのだが」 「え……わひゃぁぁっ!」  俺の問いかけに斎巫女殿は大きく驚いた。  呪装刀を持った巫女よりも上質な巫女の装束を纏ったその少女はどこかあどけなさが残る  大きな目を俺に向けた。それは驚きよりも好奇心を持った目だ。  二人は姉妹なのだろうか? 斎巫女に妹が居たとは聞いたことは無いがあり得ない話ではないだろう。  しかし……姉妹にしては似てなさ過ぎるな、特に胸が。 「むっ、貴方今なにか失礼な事を考えませんでしたか?」  呪装刀を構える巫女の少女。 「……いえ、なんでもありません。それよりも斎巫女殿が何故共和国軍の車に?」  誤魔化しましたね、という少女の声が聞こえた気がしたが、聞き流した。 「はい、軍の方に呪装刀を研ぐように言われたのです」 「なに、共和国軍が呪装刀を?」 「断りましたら、車の荷台に放り込まれました」 「神殿の警備は何をしてるんだ?」 「それは、共和国軍には逆らえないとのことで……」  勅神殿は進行の要となる神殿、その警備すら共和国の言いなりとなってるなんて。 「お姉さま、ボクが居れば阻止できたのに、申し訳ありません」 「良いのです、あやちゃん。あのとき諍いが起きれば問題が大きくなってしまったでしょうから」 「だが、それで斎巫女が拉致されたとなるのも問題かと思うのですが」 「はぅ……そう言われればそうですね」 「そんなことよりもお姉さま、早く神殿へ帰りましょう」 「でも、ここは街のどの辺なんでしょう?」 「でしたら、俺が途中までお送り致しましょう」 「よろしいのですか?」 「はい、車までご案内します」  この現場に長居するわけには行かない。呪装刀の回収は奉刀会に任せることにした。 「古杜音? 古杜音じゃないの?」 「へ? あ、朱璃様!?」 「それに彩花まで? どうしてこんな所にいるのよ?」 「朱璃様こそ、伊瀬野にいらっしゃったはずでは?」 「知り合いなら心配ないな、しばらく車にのっていてくれ」 「あ、うん。古杜音、彩花。早く車にのって」  この物語はもう一つの物語。  伊瀬野の巫女達を守る、巫女であって呪術を使わず守るために戦う巫女。  その少女が斎巫女と一緒に天京に来た時に始まった物語。  外伝・千の刃濤、桃花染の皇姫 ---  近々連載予定!
3月19日 ・処女はお姉さまに恋してる〜3つのきら星〜SSS”お姉さまの為に” TSUKIKO SIDE 「それでは密お姉さま、よろしくお願いします」  密お姉さまに料理を教わるようになってしばらくして、買い物から始めることになった。  簡単な料理ということで、今日はカレーを作ることになっている。 「では、まずはカレールーから買いましょうか」  カレーにどの野菜が入ってたかな? と考えてた私は密お姉さまの言葉を不思議におもった。 「ルーが最初なんですか?」 「えぇ、来てみればわかりますよ」 「ふぇ〜、ルーっていってもいっぱいあるんですね」  メーカーの違いも辛さの違いもいろんな種類がある。 「そうですね、今日は甘すぎず辛すぎずが良いかもしれませんね」  密お姉さまがとったカレールーには中辛と書かれていた。 「月子ちゃん、このルーの箱の裏をみてください」  言われたとおりに裏を見ると 「あ、レシピが書いてあります!」 「えぇ、何人分かのレシピが書かれています、そのレシピにあわせて野菜を買えば間違いはありません」 「なるほど……」  確かに私が先に野菜売り場に行ってしまえばどの野菜をどれくらい買えばいいかなんてわからなかったに  違いない。 「今日の寮生のみんなは……確か織女さんはご実家に帰られて居ないので7人ですね。それではルーの量も  人数にあわせて買っていきましょう」  私は密お姉さまに教わりながら、人数に合わせて野菜を買っていった。 「あの、密お姉さま。ちょっと量が多かったと思うんですけど?」  7人分の材料より多くの野菜を密お姉さまは買っていた。 「えぇ、少し多めに作ろうと思ってます。確かに人数分で問題は無いですが月子ちゃんも美海さんも  美味しいとお替わりするでしょう?」 「あ……確かに」 「それに、残ったカレーも美味しい料理に出来るの」 「そうなんですか?」 「えぇ、その話はまた今度してあげるわね」 「よろしくお願いします!」  残ったカレーはそのまままたカレーライスとして食べるものばかりと思ってたけど、密お姉さまがそう  言うのならきっと美味しい料理になるんだろうなぁ。  寮の厨房に戻ってからも大変だった。  作り方はルーの箱の裏に書かれているので大丈夫だとおもったんだけど。 「じゃがいもは角をこうして切っておくと型崩れしにくくなります」 「はい!」  箱に書かれてないいろんな事を教わりながら、私はカレーを作り上げた。 「おおっ、これがつっきーの手料理か」 「は、はい……でも、密お姉さまにもお手伝いしていただきました」 「私は今回はほとんど何もしてません、カレーは間違いなく月子ちゃんの手料理ですよ」 「密お姉さま……」 「よし、それじゃぁ食べよう。主よ。その慈しみに感謝し、この糧を祝福をもて、私どもの心と  身体の支えとなりますように。アーメン」 「「アーメン」」  美海お姉さまの少し早口なお祈りに苦笑いしながら、みんなでカレーを食べ始める。  私は緊張して、まだスプーンを持つことも出来ていない。 「ん……美味しい! つっきー美味いよ!」 「美海お姉さま? 本当ですか?」 「私がつっきーに嘘つく意味ないだろう? それに周りを見てみろ」  言われるとおりに他の人の反応を見る。 「美味しいですわ、月子ちゃん」 「えぇ、なんていうか……優しい味がします」 「どこかで食べたことのあるような味がします」 「それは市販のカレールーを使ってるから、家庭の味と同じになるからですよ」  鏡子さまのその言葉に美海お姉さまがはっとした顔になる。 「そっか、これが家庭の味なんだよなぁ」  そう言って改めてカレーを口に運ぶ美海お姉さま。 「……やっぱり美味しいな、つっきー、ありがとうな」 「お姉さま……」  美海お姉さまが喜んで食べてくれる姿をみて、とても嬉しくなった。 「「ごちそうさまでした!」」  みんな残さずカレーを食べてくれた。  美海お姉さまはお替わりもしてくれたし、私は胸が一杯になっていた。 「食後のデザートをお持ちしました」 「え?」  密お姉さまが器に盛ってきたのは、ムースだった。 「いつ作られたんですか?」 「午前中に用意しておいたの」 「あ、それじゃぁ私が紅茶を煎れますね」 「なら私も」 「月子ちゃんは今日はカレーを作ったんだから、ここから先はゆっくりして良いのよ」 「でも」 「片付けくらいは私に任せてください」 「はい、月子ちゃん。デザートをどうぞ」  渡されたデザートを見て、まだまだ私は密お姉さまには叶わないな、と思いました。  翌日の日曜日のお昼ご飯。 「こ、これはっ!?」  テーブルに置かれたお昼ご飯は、チーズカレーのドリアだった。 「昨日の月子ちゃんのカレーを使わせていただきました」  お祈りの後に食べたカレーは確かに昨日の私のカレーだったけど、チーズや玉子が  入った事でまた違った味わいになっていた。 「月子ちゃん、簡単なレレシピなので今度ちゃんと教えますね」 「ありがとうございます、密お姉さま!」 「ふふっ優しいお姉さまの為に、がんばってね」 「密お姉さまっ!!」  小声で言われた名前に私は大声をだしてしまった。
3月15日 ・sincerely yours short story「最高」 「ただいまー」 「おかえりなさい、あっ!?」  リビングから聞こえてきたお母さんの驚きの声。 「なに、なにがあったの?」  慌ててリビングに入るとそこでお母さんとお父さんが…… 「……将棋?」  何故か将棋の対戦、この場合は対局っていうんだっけ? をしていた。  お茶を煎れたわたしは二人の元に持っていく。 「ありがとう、リリア」  お父さんは笑顔で湯飲みを受け取り、 「うー」  お母さんは将棋盤をにらんで唸っていたので、側に置いた。 「お父さんが優勢なの?」 「どうだろう?」 「というか、そもそもなんでお母さんが将棋なんてしてるの?」  今まで将棋をしている所なんて見たことが無かった。  お母さんはわたしの質問に答える前に、駒を一つ動かした。 「んー? なんとなくかな?」 「……だろうね」  お母さんの性格からそうだとは思っていた。 「あ、でも、今流行してるっぽいし」 「そうなの?」 「なんでも可愛い女の子を弟子にするのが流行してるみたいなの」 「……え?」 「ほら、一昔前にもあったじゃない、小……」  なんだかその先を言わせてはいけない気がしたわたしは話題を変えようと口を開きかけたそのとき  パシッ!  良い音が将棋盤の方から聞こえてきた。  見るとお父さんが駒を一つ動かした、そのときの音だった。 「むっ!」  その手にお母さんが唸って、そして口元に手を当てていた。  これはお母さんの考えに没頭してるときの癖だ。  とりあえず危険な発言をされずに済んだ事にわたしはほっとした。 「リリアちゃん、見てるだけじゃ面白くないでしょう? 私が相手してあげる」  お父さんの番の時、お母さんがそう言ってきたけど 「わたしは将棋のルールしらないし、お母さんはお父さんとの勝負中でしょう?」 「うん、だからリリアちゃんでもできるオセロで勝負しましょう、もちろん一緒に♪」 「一緒って……まさか」 「えぇ、オセロ用意してね」  こうして何故かお母さんとオセロ勝負をすることになった、それもお父さんとの将棋の勝負と平行して。 「……負けました」  オセロの盤面はお母さんの黒色に染まっていた。全部黒色じゃないけど、ほとんどが黒色だった。  そして…… 「……負けました」  将棋の勝負はお母さんが負けを宣言していた。 「んー、久しぶりの並列思考は疲れるわね〜」 「普通は疲れるっていうもんじゃ無いと思うけどな」  お母さんの言葉にお父さんのツッコミがはいる。  というか、将棋とオセロの並列思考なんて、才能の無駄遣いのような気がする。  でも、お母さんだからって思えば納得も出来る。 「ねぇねぇ、今度は3人で3対局しない?」 「俺はシンシアみたいに並列思考なんて出来ないよ」 「そんなの慣れよ、慣れ♪」 「お母さん、お父さんに無理言っちゃだめだよ? 変なのはお母さんだけで充分なんだから」 「酷っ! リリアちゃんがいぢめるよ〜」 「まぁまぁ、シンシアのすごいところは俺が良くしってるからな」 「達哉、大好き♪」  お父さんに抱きつこうとするお母さんを反射的に止める。 「リリアちゃん、なにするの? ……あ、ヤキモチ?」 「え……?」 「ふふっ、なら一緒に抱きついちゃいましょう♪」 「ちょ、お母さんっ!?」  お母さんにお父さんごとまとめて抱きつかれたわたしだった。
3月2日 ・処女はお姉さまに恋してる〜3つのきら星〜SSS”二人の姫君” ORIHIME SIDE 「ねぇ、お嬢さん一人?」  駅前で待ち合わせをしている私に声をかけてきたのは見知らぬ男性の二人組。  これは、あのときのハンバーガーショップの前での時と同じですね。 「暇なら俺たちとお茶しない?」 「遠慮しておきますわ」 「まぁまぁ、そう言わずにさ、ちょっとだけだから」 「……声を掛けてくる蛮勇は大したものです、が私の都合を考えないのは愚行ですわ」 「はぁ?」  私の言葉に彼らの顔が歪む、前と同じ流れだった。  あのときの事を思い出し、私は手早くスマートフォンを取り出す。  警察に連絡するふりをすれば彼らは去って行くだろう。 「テメェ、なにするつもりだ?」 「これ以上つきまとうのでしたら、警察を呼びます」 「そんなことさせるわけ、ねーだろっ!!」  男が素早く手を上げようとした、その瞬間だった。 「見ず知らずの女性に、手を上げるなんていったいどういう了見なのでしょうか?」 「え?」  まるであのときと同じだった。私の前に立つ方が、男の腕を取り押さえている。  違うのは、密さんではなく、私の知らない人だった。  中性的な服装をした、でもその銀色に輝く長い髪が女性であることを示している。 「遅れて申し訳ありません、姫。さぁ、参りましょう」  男の手を離した彼女の手が私に向けられる。 「ちょっと待てって、俺たちと一緒にお茶しないか?」 「姫は嫌がっていました、それに私達には予定がありますので、失礼致します」 「っだよテメェは、こっちが下手に出てればいい気になりやがって」  怒った男の手がまたも振り上げられようとして、先ほどを同じく手を捕まれて止まる。 「いい加減にしなよ、アンタ」  男の手を止めた女性は、腰まで伸びる濡れ羽色の髪の持ち主だった。 「これ以上は警察だけじゃ済まないよ」 「そうですね、周りを見ていただければわかるかと思います」  その言葉に男達は周りを見る、遠巻きにこちらを見ている人が多かった。  その中には警察を呼ぼうとする声も上がっていた。 「あ、兄貴……」 「チッ、行くぞ!」  男達は慌てて逃げるように去って行った。 「大丈夫でしたか、姫」 「え? は、はい!」  銀色の女性から姫と呼ばれた私は、返事するだけで精一杯だった。 「ねぇ、千早。なんで姫って呼んでるの?」 「この方の名前を知らないからですよ、薫子さん」 「だからって姫って呼ぶのはどうかと思うけど?」 「お姉さまと呼ぶわけにはまいりませんし、なんとなく姫とお呼びするのが良いかと思ったので」 「そう言いたくなるのもわかるけどね、でもさ、ふふっ」 「何が言いたいんですか?」 「白銀の姫君に姫と呼ばれる人がいるなんて思わなかったからさ」 「お待たせしました、織女さん」  そのときになって密さんがやってきた。 「えと、その方々は?」 「お、騎士様遅れての登場、かな?」 「はい?」  黒髪の女性の言葉に密さんが警戒するようなそぶりを見せる。 「あの、密さん。この方々は先ほど私を助けてくださったのです」 「え? 大丈夫でしたか、織女さん」 「私は大丈夫ですわ」 「そうでしたか、疑って申し訳ありませんでした」 「その気持ちはわかりますから気にしないでください。それでは私達はこれで失礼致しますね。  まいりましょうか、騎士の君」 「もう、意趣返しのつもり? 白銀の姫君」 「ふふっ、それではご機嫌よう」 「ありがとうございました、ごきげんよう」  二人は仲良く去って行った。  その名の通り、姫と騎士のように。 CHIHAYA SIDE 「……」 「ん、どうしたの。千早」 「いえ、今回は手を出したのは失敗だったかと思ったんです」 「え?」  ナンパされてる女性を見て薫子さんが助けようと手を出すのはいつものこと。  それを押さえて先陣を切るのはいつものこと。  だけど…… 「あの姫君はよほど高貴な方なのでしょうね」 「だから、どういうことなの?」 「周りに隠れたSPが居ました」 「え?」  遠すぎず近すぎず、彼女を護衛する人が居ると言う事は、それだけの人物と言うことだ。  そして成り行きを見守って出なくて済む場面では出てこない。  その判断もしっかりとしてる、かなり優秀なSPだと思う。  おそらくは先ほどのナンパしてきた人達は今頃そのSPに取り押さえられている事だろう。 「んー、でもさ、助ける事が出来たから良いんじゃない?」 「……さすがは騎士の君ですね」 「それを言うなら千早なんてまさに白銀の姫君だったじゃない」 「それは、女性に声を掛けるならこの方が相手も安心するからですよ」 「そうだね……ところでさ、千早」 「なんですか、薫子さん」 「久しぶりにさ、お姉さまに戻ってみない?」 「……」 「なんだか懐かしいなぁって思ったらさ、このままお姉さまな千早と一緒にいるのもいいかなぁって」 「……はぁ」  一息いれてから声を高めにする。 「わかりました、今日だけですからね、薫子さん」 「やった、ありがと、千早お姉さま」 「……まったく、調子がいいんだから」 HISOKA SIDE  去って行く二人を見送った私はまだ警戒していた。  確かにあの二人には悪意は無かったし、周りの護衛が動かなかった所を見ると問題は  無いのかもしれない。  ただ、あの銀の女性の動きがあまりにも洗練されていた。  かなりの使い手だろう。後で調べた方が良いのだろうか? 「そういえば密さんは先ほどの方に、騎士と言われてましたね」 「え? 確かにそう言われましたね」 「密さんは騎士というより……王子様の方が似合うのに」 「織女さん?」 「あ、いえ、その、なんでもありませんですわ!」  最後の方は聞こえなかったけど、なんて言ったのだろう? 「そ、それよりも!」  織女さんが誤魔化そうとしてるから、ここは追求しない方がいいだろう。 「あの方々にちゃんとお礼をしなくてはいけませんね」 「別にそこまでしなくても良いと思いますけど」 「どうしてですの?」 「あの方々はお礼が欲しくて行動したわけでは無いと思います」 「えぇ、だからこそお礼をしなくてはいけません」 「えと、それにもうお会いする事も無いかと思うのですけど……」 「密さん、先ほどの会話に不自然な点があったの、気づきましたか?」 「不自然な点、ですか?」 「えぇ、まずはあの方々にも通り名があるという事、そして挨拶ですわ」 「……そういえばそうですね」  通り名なんてセラールの中でしか通じないはずだし、ましてやご機嫌ようと言って  別れる挨拶なんてセラールしか考えられない。  だけど、セラールの生徒にあそこまで目立つ生徒は居ないし、織女さん以外に姫と  呼ばれる生徒は存在していない。 「これだけヒントがあれば探すのは簡単ですわ!」 「……どうして、そこまでしてお礼をしたいのですか?」 「あの方々とは友達になりたいからです、それがきっと良い事だと思います」 「どうして、ですか?」 「私の勘、です!」 「……」  この後鏡子さんが苦労するのが目に見えた気がした。 「それはそれとして密さん、今日は楽しみましょう!」 「えぇ、そうですね」  後の苦労を考える事を、私は止めて今は織女さんのお付き合いの事を考える事にした……
3月1日 ・処女はお姉さまに恋してる〜3つのきら星〜SSS”境界線” 「最近は男女の境界線が無くなってきているそうですね」  食後のお茶の時間、誰かがつけたテレビから聞こえてきた台詞に私はドキリとした。 「境界線……ですか」  鏡子さんがそうつぶやいた。  この話題は危険だと思うから鏡子さんは乗ってこないとは思うんだけど…… 「境界線ってどういう意味なんでしょう?」  この話題が気になったのは花ちゃんだった。 「男性は男性だと思いますし、女性は女性でしかないと思うんですけど」 「花ちゃん。それはですね、昔の考え方から来てるのですよ」  私はいつものように花ちゃんに話しかける。 「一昔前は外に働きに出る男性を女性が家で待つ、というのが普通の家庭だったのです」 「それなら今でもあまり変わらないんじゃないんですか?」 「花ちゃんのお家はそうかもしれませんが、今では女性も働きに出てる方も多いじゃありませんか」 「その逆で男性が家に居る場合もあるのです」  鏡子さんも話に加わってきた。 「そういうときの立場は昔と入れ違ってしまってます、稼いでくる女性に家の事をする男性。  境界線とはそのことを言ってるのだと思うのです」 「なんだか想像がつきません」 「花ちゃんのお家ではそうかもしれませんが、織女さんが将来後を継ぐとなるとそういうことも  あるかと思います」 「あ、そういえばそうですね」 「しかし、その場合は家を守る男性が家事が上手でなくては大変ですね、私だったらそう言うお婿さんが  欲しいのです」  そう言って鏡子さんは私の方を見る。 「そ……そうですね、でもなかなかそう言う男性はいらっしゃらない……かと」 「そうですよね、見つけたらかなりの優良物件ですよね」 「あ、あはは……」  私は苦笑いをするしかなかった。 「なら、密お姉さまをお嫁さんに迎えればいいんじゃないですか!」 「え、あやめちゃん?」 「それは良い考えなのです、あやめさん、ぐっじょぶなのです」 「鏡子さんまで!」 「さすがは完璧な奥様ですね、密お姉さま」 「月子ちゃんまで……」 「そうだな、密さんを嫁にすれば安泰だな」 「美海さん……」 「人気者ですね、密さん」 「……」  こういうときはどう返せば良いかがわからないから苦笑いを続けるしかない。 「あーあ、密さんが男性だったらほんともの凄い優良物件なんだけどなぁ」 「っ!」  美海さんのその一言にどきっとした。 「ん、どうしたの、密さん?」 「い、いえ、なんでもありません」 「そう? 顔色悪くない?」 「さすがは密さん、私がこれから言う事を理解されて、そんな顔をしてしまってるのですね」 「鏡子さん?」  にやりと笑う鏡子さんの顔を見て嫌な予感しかしない。 「みなさん、密さんは淑女です、そして私達も同じなのです、だから嫁にはできません。  しかし、密さんに殿方になってもらえれば、婿にはできるのです」  ちょ、鏡子さん!? 「おー、その手があったか! それなら密さんを婿に出来るな」 「駄目です、それだと密お姉さまが密お兄さまになってしまいます!」 「いいんじゃね、婿なら」 「そうね、密様がお兄さまになってしまわれたら、キミリア館に居られなくなってしまいますね。  今は良いですけれど、休みになったらどうなるのでしょうね」  すみれちゃんのその一言にリビングに衝撃が走った。 「ごめん、密さん。密さんが居なくなったら休みの間の食生活が……」 「密お姉さま、お願いですからお兄さまだけはならないでください!! もう密お姉さまの食事なしには  生きていけません!!」 「美海さん……月子ちゃん……」 「そうでした!、キミリア館の救世主である密お姉さまはお兄さまになってもら訳にはいきません!!」 「あやちゃん、そもそもお姉さまがお兄さまになれるわけないでしょう?」  すみれちゃん……ごめんなさい、卒業したらそうなるんです。 「そういうことなのです、密さん」 「鏡子さん……私は部屋に戻って良いですか?」 「え? 見捨てないでください、密お姉さま!!」  逃げようとする月子ちゃんが抱きついてくる。 「ちょっと、月子ちゃん!!」  抱きついてくるから柔らかい物が腕にあたってる!! 「あー、月子ちゃんだけずるいですわ、私も密お姉さまを逃がしませんわよ?」 「あやめちゃんまで!」 「私もまざろっかなー、密さん♪」 「美海さん!?」  もみくちゃにされる、柔らかい何かが当てられて、このままでは不味い! 「もぅ、これ以上言うと週末のご飯は作ってあげないですからね?」 「「「ごめんなさいでした!!」」」 「……」  ぱっと離れてすぐに頭をさげる3人。 「密さん、モテモテのハーレムですね?」 「鏡子さん、もう勘弁してください……」
2月4日 ・sincerely yours short story「ツインテールの日」 「あ、達哉。おはよう」 「あぁ、おはよう……?」  朝、リビングに下りた俺が見た物は、椅子に座ってるリリアと、その後ろに立っている  シンシアだった。  どうやら髪の手入れをしてたようだが…… 「増えてる?」  そう、リリアの髪が増えていたのだ。  リリアはいつもサイドに髪をまとめているが、今日はそのまとめた髪が反対側にもある。  いわゆるツインテールという髪型だった。 「どう? 達哉。リリアちゃんのツインテール、可愛いでしょう?」 「確かに可愛いな」 「っ!」  俺の言葉にリリアの声にならない声をあげた。 「良かったわね、リリアちゃん。お父さんに可愛いって褒められたわよ?」 「−−−っ!?」  顔を赤くしたリリアは立ち上がって、そしてふらついた。 「えっ?」 「リリアっ!」  俺は転ばないように、リリアの身体を抱き留めた。 「大丈夫か?」 「あ、うん、ありがとう、お父さん」 「まぁ、リリアちゃんったら大胆ね、達哉の胸に飛び込むなんて♪」 「え、あっ……っ!?」  慌てて俺から距離をとろうとして、リリアはまたふらついた。 「おっと!」  結局また俺が抱き留める形になった。 「もぅ、リリアちゃん。お父さん好きはわかるけどそんなに抱きつくなんて……妬けちゃうわね」 「違っ……違くないけど、違うの! なんだかバランスがとれないの」 「いつものサイドポニーと違ってバランスは良くなってるはずなのに?」  確かにリリアの髪型だとバランスは偏ってるようにも見えるけど、いつもと違う髪型にするだけで  バランスって崩れる物なのか? 「ねぇ、お母さん。もうこのバンスとってもいい?」 「えー? 可愛いから今日1日くらいつけておかない? 達哉もそう思うでしょ?」 「可愛いのは良いけど、バランス崩して危険なら止めた方が良い、それにいつもの髪型でもリリアは  可愛いからな」 「……ありがと、お父さん」  そう言いながらリリアは増えた方のバンス、髪の束を外した。 「あれ?」  外したバンスを持ったリリアが声をあげる。 「どうしたんだ?」 「ねぇ、お母さん。もしかしてこのバンスに……仕込んでない?」 「な、何のことかしら?」  そう言って目を背けるシンシア。うん、間違いなくシンシアの仕業だな。 「……」 「……」 「……」 「……」 「ゴメンナサイ」  リリアの無言の圧力にシンシアは根負けした。 「ほら、リリアちゃんはサイドポニーでしょ? だから片方増やすときにバランスとりやすくできるよう  ちょっと重力制御の応用で軽くしようとしたのよ?」 「それで?」 「軽くすると髪がまとまらなくなりそうだから、ちょっとだけ重くしてみました♪」 「それじゃぁ逆にバランス崩れちゃうじゃ無いの!!」 「そうね、でも結果的に良い思いできたでしょ?」  そう言ってとても良い笑顔になるシンシア。  逆にリリアは顔を真っ赤にしていた。 「おーかーあーさーん?」 「きゃぁ、リリアちゃんが照れ隠しに怒った♪」 「照れ隠しなんてしてないから!!」 「ところでなんでいきなり付け毛……バンスなんてつけたんだ?」 「それはね、ツインテールの日だからよ?」  あの後お茶を飲みながら経緯を聞いていた。 「……まぁ、シンシアだしな」 「そうでしょう? 可愛い娘をより可愛くコーディネイトする、さっすが私♪」 「でも、それならシンシアもツインテールにすればいいじゃないか」 「それも考えたんだけどね、私がバンスをつけると、本当にそれだけで重くなって首が  痛くなっちゃうのよ。肩だって凝るし」 「いや、バンスじゃなくて普通に両サイドでまとめればいいんじゃないか?」 「あ゛……」 「お母さんも抜けてるところはほんと抜けてるわね」  リリアの一言がシンシアにトドメをさしていた。   
1月14日 ・あいりすミスティリア! SSS”袖踊る幽冥の刃” 「んー、せぃ! はっ!」  鍛錬場に来てみるとコトが自主練をしていた。  いつもの姿じゃなく、お正月の時に見せてくれた振り袖姿で。 「あ、にーさん♪ 視察?」  たまたま通りがかっただけだけど……それよりも 「もしかしてこの格好、気になる?」  そりゃ、気になるよ。 「そんなに?」  あぁ、結構窮屈そうな服装なのに、よく動けるなぁ、って。 「……にーさん、それわざと言ってる?」  実際にそう思ってたよ。 「思ってた?」  あのときの戦いを見れば納得できるよ。 「あぁ、トミクニでの戦い? あれはちょーと派手に暴れちゃったからねぇ」  ……ちょっと? 「そうそう、ちょっとだよ?」  …… 「……ごめん、若さ故の過ちって事にして」  いやいやいや、今でも充分若いでしょ? 「ありがと、にーさん」 「それで、にーさんはこの振り袖が動きにくいって言う話をしたかったんだよね?」  ……そーなる。 「ほんとう?」  疑ってる? 「だってねぇ、視線が振り袖からでてる脚や、胸元ばかりに行ってたからね」  ……ゴメンナサイ 「謝るのはやっ! でも、にーさんだからしょうがないよね」  …… 「もぅ、にーさんったら、膨れないで」  べ、別に膨れてなんかないんだからね! 「にーさん、決定的に似合ってない」  うん、自分でもそう思った。 「それで、ワタシに何か用事?」  特に用事は無いよ。 「そう? にーさんの事だからワタシの様子を見に来てくれたんじゃないの?」  な、なんのことかな? 「ふふっ、そういうことにしておくね、にーさん」 「でも、ワタシは大丈夫だよ。細雪の凶刃の溶けない雪は溶けたんだから。  今のワタシは雪解けの剣聖だもん」  …… 「にーさん?」  いや、雪が溶けきったらどうなるのかなぁって思って。 「へ? ……ふふっ、にーさんったら面白いこと考えるよね、本当に」  そうか? 「そうだよにーさん♪」  そう言うとコトは腕に抱きついてきた。 「雪が溶けきったら新しい呼び名を考えてね、にーさん♪」  冥王の傍らに寄り添う異国の剣士。  蒼色の振り袖を纏い、まるで踊るように願うように刀を振るう剣士。  その姿を見た人間界の人達は畏怖と尊敬の念をもって、こう称えた。 「袖踊る幽冥の刃」と。
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