思いつきSSログ保管庫
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雑記掲載SS保管庫 2009年第2期 6月20日 FORTUNE ARTERIAL SSS”活動記録" 6月19日 FORTUNE ARTERIAL SSS”舞い" 6月18日 FORTUNE ARTERIAL SSS”月下美人" 6月14日 FORTUNE ARTERIAL SSS”逆襲の逆襲" 6月12日 シンシア・マルグリット誕生日SS  夜明け前より瑠璃色なMoonlight Cradle             sincerely yours After Short Story「約束の証」 6月7日 千堂瑛里華誕生日SS「家族」 6月1日 FORTUNE ARTERIAL sideshortstory「衣替えの日」 5月28日 FORTUNE ARTERIAL sideshortstory「親子水入らず」 5月26日 FORTUNE ARTERIAL sideshortstory「魅惑のお茶会」  改め? FORTUNE ARTERIAL sideshortstory「楽屋裏狂想曲〜誘惑のお茶会〜」 5月23日 夜明け前より瑠璃色なMC sideshortstory「素直に」 5月21日 FORTUNE ARTERIAL SSS”薔薇と苺" 5月17日 FORTUNE ARTERIAL SSS”薔薇の館" 5月15日 FORTUNE ARTERIAL SSS”策略の影" 5月14日 FORTUNE ARTERIAL SSS”無我夢中" 5月11日 FORTUNE ARTERIAL SSS”成就" 5月10日 FORTUNE ARTERIAL SSS”桃色吐息" 5月6日 FORTUNE ARTERIAL sideshortstory「最高の焼きおにぎり」 5月5日 夜明け前より瑠璃色な Another Short Story -if- Intermission Episode 「Moonlight Cradle」 5月3日 FORTUNE ARTERIAL sideshortstory「楽屋裏狂想曲〜こーへーの嗜好?〜」 4月29日 FORTUNE ARTERIAL SSS”目に毒なカラフル” 4月27日 FORTUNE ARTERIAL SSS”風が強い日に” 4月23日 バイナリィ・ポット SSS”不安” 4月21日 FORTUNE ARTERIAL SSS”にわか雨の日に” 4月19日 リースリット・ノエル誕生日SSS「約束の証」 4月17日 FORTUNE ARTERIAL SSS”肌寒い日には” 4月15日 FORTUNE ARTERIAL SSS”魅惑?誘惑?” 4月12日 FORTUNE ARTERIAL sideshortstory「幼女誘拐事件」 4月5日 FORTUNE ARTERIAL sideshortstory「楽屋裏狂想曲〜誕生日の秘密〜」 4月5日 FA楽屋裏小劇場”役割” 4月5日 悠木かなで誕生日SS「こーへーとエプロン」 4月1日 FORTUNE ARTERIAL SSS”嘘を嘘に”
6月20日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS”活動記録”  美化委員会の制服に身を包んだ女の子達が、俺に向かって手を振る。  俺は声を出すわけには行かないので、空いてる手で答える。  それを見た女の子達は嬉しそうに笑う。 「・・・」  その時横にいた陽菜の表情が曇ったことに俺は気付いていなかった。 「活動記録?」 「うん、そうなの。来年の新入生へのアピールに使おうと思うの」  ヴィクトリア朝におけるハウスメイドをモチーフに作られた美化委員の制服。  可愛いこの制服に女の子達の感心は一気に高まり、美化委員に所属する生徒は  増えている。 「これ以上増えてだいじょうぶなのか?」 「うん、6年生が引退しちゃうから」  そのために美化委員が普段どんな活動をしているかをわかりやすく紹介するために  記録映像を撮る、ということになったそうだ。 「それでね、撮影を孝平くんにお願いしたいの。駄目、かな?」  不安げに聞いてくる陽菜。  そんな顔をされて、俺が断れるわけがない。 「あぁ、俺で良ければいいよ」 「ありがとう、孝平くん」  そうして、美化委員会の清掃強化日に撮影は行われた。  ハンディビデオカメラで記録を淡々と撮る・・・はずだったのだが美化委員の  女の子達がカメラを意識してしまっている。  それは悪い意味じゃなくって、カメラに向かって手を振ってくれるのだ。  その中には明らかに俺に手を振る女の子もいる。  なんだか、委員会の活動記録を撮っているのではなく、アイドルグループの  プロモーション映像を撮っているような気がしてきた。  ・・・あれ?  そういえば陽菜はどこだ?  撮影しているファインダーの中に陽菜の姿を見た記憶が無い。  俺は録画しているファインダーから目を外して回りを見回す。  ・・・いた、女の子達の一番端でいつものように清掃活動をしている。  俺はファインダーに目を戻し、陽菜の方へとカメラを向けようとして。 「・・・」  向けるのを止めた。  もやもやする気持ちを押さえ込み、仕事として活動記録を撮ることに専念した。 「・・・ふぅ」  その時の陽菜のため息に俺は気付かなかった。 「今日はありがとう、孝平くん」 「みんな喜んでくれてよかったよ」  撮られたビデオはすぐに委員会室で上映され、女の子達には好評だった。  陽菜もみんなと楽しくビデオをみてたけど、少し元気が無いように思えた。  今も、何かを抱え込んでいるような・・・ 「なぁ、陽菜。俺の気のせいじゃなければ・・・いや、今確信した。  何かあったのか?」 「え? なんでもないよ?」 「陽菜」  俺は陽菜の目をまっすぐ見つめる。 「・・・孝平くんはなんでもお見通しなんだね」 「そうでもないさ、陽菜が何か抱え込んでるのはわかるけど、その内容までは  わからないさ」 「でも、これは私のわがままだから」 「いいんだよ、陽菜。わがままで。だから、話してくれないか?」 「孝平くん・・・ありがとう」 「・・・ごめん、俺が悪かった」 「ううん、そんなことないよ。私が勝手に嫉妬しただけだから」  陽菜は美化委員の他の女の子と仲良くしている俺に嫉妬していたそうだ。 「それに、私をあまり撮ってくれなかったから・・・」  そう、俺はあんまり陽菜を撮っていない。  陽菜自身が撮られたくなさそうにしていたのもあったのだが・・・ 「・・・そうか、そういうことか」 「孝平くん?」 「ごめん、陽菜。俺も嫉妬してたのかもしれない」 「え?」 「可愛い陽菜の姿を新入生に見せたくなかったんだと思う・・・」  話すことは恥ずかしかった、でも陽菜も話してくれたんだ。  俺が話さない訳にはいかない。 「孝平くん・・・私はいつだって孝平くんのものだから大丈夫だよ」 「あぁ、そうだったな。陽菜は俺のものだし、俺は陽菜のものだ」 「孝平くん・・・」 「陽菜」  お互いの距離は零になった。 「ねぇ、孝平くん。お願いがあるの」 「何?」 「私を撮って欲しいの、活動記録じゃなくって、孝平くんのものである私を」 「・・・あぁ、俺も撮りたい」 「それじゃぁ着替えをとってくるね」  一度部屋に戻った陽菜は、俺の部屋のユニットバスで美化委員の制服姿に  着替えた。  俺は自分のデジタルカメラの動画モードで陽菜の姿を撮影する。  ファインダー越しの陽菜は俺に向かって微笑みながら控えめに手をふる。  俺は空いてる手でそれに答える。 「やっぱり、ちょっと恥ずかしいね」 「俺しか見ていないから大丈夫だよ」 「だから、恥ずかしいの」 「ははっ」 「ふふっ」  陽菜はせっかくだから、ということで俺の部屋を掃除しはじめた。  掃除をしながら、俺の構えるカメラに顔を向けて微笑んでくれる。  そうして始まった掃除は、すぐに終わってしまった。 「ありがとう、陽菜。掃除までさせちゃって悪かったな」 「・・・まだ、終わってないよ」  そう言う陽菜の顔は、妖艶な微笑みを浮かべていた。 「陽菜?」 「ねぇ、孝平くん・・・私をもっと見たい?  ・・・ううん、違うわ。私をもっと見て欲しいの」  そう言うとエプロンの紐を外す陽菜。  そして上着のボタンを外す、そこにはピンク色の可愛い下着に包まれた  大きな胸が現れた。 「私の胸で、孝平くんのを掃除してあげる」
6月19日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS”舞い” 「白ちゃん、お願いって何?」  夜、お願いがあるから来て欲しいと言われて、俺は白ちゃんの部屋へと来ていた。 「はい、折り入ってお願いがあります」  真剣な顔をしている白ちゃん。一体何のお願いなんだろう? 「あの、私を撮ってくださいませんか?」 「え?」  白ちゃんを撮る、写真ということなのか? 「実は・・・」  話を要約するとこう言うことだった。  白ちゃんはもう少ししたら東儀家から出ることになる。  そうなると、今まで舞っていた舞いが、舞えなくなるそうだ。  だから東儀で居られる内に舞いを撮っておきたいということだった。  舞うだけなら別に将来好きなときに舞っても良いと思う。  けど、白ちゃんはそうはおもってないみたいだった。  東儀として舞うことと、それ以外で舞う事はやはり違うのだろう。 「いつ撮ればいいんだい?」 「準備が出来たらお願いします」 「わかった、いつでも呼んでくれ」 「ありがとうございます、支倉先輩。それと、もう一つお願いが  あるのですけどよろしいですか?」 「あぁ、俺で良ければ」 「ありがとうございます。舞いの練習にもつきあってくださいませんか?」 「練習?」 「はい、あの時からほとんど練習をしていないんです。  ですから本番で失敗しないよう練習しておきたいんです」  こんなちっちゃい体で東儀の舞いに真剣に向かい合ってるんだな。  俺に断る理由など何処にもなかった。  善は急げということで、今から練習を始めることになった。  俺は白ちゃんからデジタルカメラを受け取った。  このカメラは短い時間なら動画も撮れるタイプで、練習ではこのカメラで  撮影する事になった。 「お待たせしました」  ユニットバスに着替えに行ってた白ちゃんが戻ってきた。 「白ちゃん? その格好で舞うの?」 「はい、練習の時は体操着で舞います」  一瞬、あの時の装束を着てくるのかとおもってしまったが、さすがに装束を  寮に持ってきているわけじゃなかった。 「それではお願いします、支倉先輩」  カメラを構えて録画を開始する。  そのファインダー越しに白ちゃんが舞う。  寮の狭いスペースでの練習だから、大きくは動けない。  一つ一つの型を確認するように、静かに舞っていた。  静かな動きに呼応してはねるツーテールの髪。  なだらかな胸も舞うたびに上下する。  体操着からのびるしなやかな、白い足。 「・・・」  いけないいけない、白ちゃんは真剣に舞っているんだ。  邪な考えは駄目だ!  俺は撮ることに集中した。 「・・・」  時折白ちゃんは俺の方を見る、その瞬間顔を真っ赤にして目線を逸らす。  そして舞う。  しばらくするとまた俺の方を見て、顔を真っ赤にして、舞う。  その繰り返しだった。 「白ちゃん?」 「ひゃぅ!」  俺の呼びかけに驚いた白ちゃんはその場にぺたっと座り込んだ。 「白ちゃん、だいじょうぶ!」 「は、はい・・・だいじょうぶだと思います・・・」  白ちゃんの少し息が荒い。顔も赤くなっている。  素人目にはそんなに激しく動いてるように見えなかったけど、やはり凄い  運動量なんだろうか? 「少し休もう、白ちゃん。立てるかい?」 「え? はい・・・」  白ちゃんが立とうとする、そのときぴちゃっという音が聞こえた。 「っっっっ!」  その音に白ちゃんは顔を真っ赤にして座り込んだ。 「うぅぅ・・・」 「白ちゃん?」 「支倉せんぱぁぃ・・・」  俺を見上げる白ちゃんの顔は不安そうだった。 「私、どうしたらいいんでしょう?」 「白ちゃん?」 「先輩に見られてる、撮られてるって思ったら身体が熱くなってしまって・・・  こんなはしたない女の子、嫌・・・ですよね?」  今にも涙がこぼれそうな白ちゃん。 「そんなことはないさ、俺が白ちゃんの事嫌いになるわけ無いじゃないか」 「でも・・・」 「ねぇ、白ちゃん」  俺は白ちゃんの手と撮る、そして俺の胸に触れさせる。 「凄く・・・どきどきしています」 「白ちゃんの綺麗な舞いを見てこうなったんだよ。俺も白ちゃんと一緒なんだよ」 「支倉先輩・・・」 「俺も一緒だから、大丈夫だよ」 「あ、ありがとうございます、支倉先輩!」  そう言って白ちゃんは俺の胸の中に飛び込んできた。 「あ・・・」 「・・・」 「その・・・支倉先輩?」 「・・・だから、言っただろう。俺も一緒なんだって」 「・・・はい、その・・・支倉先輩。私が、しましょうか?」  ・  ・  ・ 「私、今なら素直に舞えると思うんです」 「だいじょうぶなの?」 「はい、だから見ていてください」  照明の落とされた白ちゃんの部屋。  窓から入ってくる月明かりがまるで白ちゃんの為だけに部屋を照らしている。  一糸纏わぬ姿で舞う白ちゃん。  その舞いは美しかった。妖精がいるのなら、きっと今の白ちゃんみたいなんだろう。  この白ちゃんの舞いは、俺は一生忘れることはないだろう。  白ちゃんの舞い、デジタルカメラではなく、俺の心に焼き付いた。
6月18日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS”月下美人”  暗い夜、月明かりを頼りに俺は裏山の中を進んでいた。 「あの丘で待ってる」  と、一言しか書かれていないメール。  誰が差し出したかなんて調べるまでもない、だってこんなメールの書き方を  するのは紅瀬さんだけだから。  しばらくすると視界が開ける。  そこは一面の野原、見慣れた光景・・・のはずだったのに  俺は声を失った。  紅瀬さんに、綺麗な夕焼けが見れると聞かされたこともあるし、実際に  見たこともある野原なのだけど・・・ 「輝いてる・・・」  月明かりに輝く野原は初めて見た。  凄く、幻想的だ。ここは本当に学園の裏の山なんだろうか? 「遅いわよ」  その声の方に向く、その時の俺は今日2度目の、声を失うこととなった。  そこにいるのは確かに紅瀬さんだった。  しかし、服装がいつもと違う。  着物を着て、番傘を差している、その服装はこの場では明らかに場違いだと  思う、のに。  ・・・似合っている。 「孝平?」 「あ、いや・・・その、用事ってなに?」  どきどきする鼓動をばれないように深呼吸して抑えた俺は呼び出された理由を  聞いた。 「私ね、カメラを買ったの」 「カメラ?」  紅瀬さんがカメラを? 使えるのか? 「今、失礼なこと考えなかったかしら?」 「・・・そ、それよりも話の続きを」  鋭い紅瀬さんの言葉に冷や汗が流れた。 「そうね・・・私、カメラを買ったの」 「それは聞いたよ」 「なら話は簡単よ。カメラで今の私を撮って欲しいの」 「わかった」  カメラの使い方を教えて欲しいではなく、撮って欲しいか。  紅瀬さんも今を撮って欲しいって、やっぱり女の子だよなぁ。  今は、今しかないんだから。 「・・・あれ?」  何か違うような気がする。 「準備は良いわ」 「あ、あぁ・・・」  呼びかけに思考を中断させられてしまった、おかしいと思う何かが  喉元まで出かかっていたのに思い出せない。  まぁ、いっか。  俺はカメラを構える。 「撮るよ」 「えぇ」  紅瀬さんはポーズを取るわけでもなく、ただその場にたたずむだけ。  なのに、凄く絵になる。  月を背景に、番傘を差す着物の美女。 「確かに、絵になるわけだ」  俺はシャッターを切る。  紅瀬さんは注文を付けるわけでもなく、俺もポーズをお願いするのでもなく  ただ、自然に立っている紅瀬さんの回りを回りながら写真を撮った。 「こんなものかな?」  何枚撮っただろうか、いや、何十枚だろうか。  それを確認しようとしたとき、紅瀬さんが背中を向けた。 「・・・」  月の前に紅瀬さんが立っている。  今は番傘は差していない、いつの間にかどこかにおいたようだ。  少しだけ、紅瀬さんが振り向く。  長い黒髪が月明かりに照らされて輝く。 「見返り美人・・・」  良くあるフレーズだけど、本物を見るのは初めてだと思う。  俺は自然にカメラを構えて写真を撮る。 「ふふっ」  紅瀬さんが微笑んだ、その微笑みはいつものフリーズドライの張り付けた  微笑みではなく、妖艶な笑みだった。 「え?」  紅瀬さんは背中に手を回すと、なれた手つきで帯をほどいてしまった。  そのまま両手を前に回したと思うと、ばさっという音とともに着物は足下に  脱ぎ捨てられた。  そこにいるのは白襦袢姿の紅瀬さん。  今までの艶やかな着物ではなく、真っ白な姿となった。  黒く輝く髪とのコントラストが眩しすぎる。  紅瀬さんは一度こちらを振り向くと、その白襦袢まで脱ぎ捨てた。  その姿に、今日3度目の、声を失う出来事だった。  黒い髪に隠された、綺麗な背中。そのラインは細くくびれ、そして丸みを描く。 「撮らなくていいの?」  紅瀬さんの言葉に俺は思わずカメラを構えて・・・止めた。 「どうしたの?」  紅瀬さんが身体ごと振り向く。  月が背後にあるため、逆行となり身体がよく見えない。  だが、それが余計に艶やかに、そして妖艶に感じさせる。 「撮って」  俺はその言葉に逆らえなかった。 「ふふっ」  一歩ずつ近づいてくる紅瀬さん。 「孝平、ここ、こんなにして・・・」 「・・・」 「撮って、孝平に愛されてる私を」  この日の一番の写真は、桐葉を下から見上げた時の写真だった。  綺麗な桐葉の顔の向こうに月が写っている。 「この写真、どうするんだ?」 「どうもしないわよ、今日の思い出よ」 「でも、一人で見れるのか?」 「一人でなんか見ないわ・・・見るときは貴方と一緒の時だけよ」
6月14日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS”逆襲の逆襲” 「なんだろう、お願いって・・・」  瑛里華に電話で呼び出された俺は、女子フロアへの入り口の階段前に来ていた。  ここから先は男子は自力では入ることが出来ない。 「わざわざ部屋に来て欲しいっていうほどのお願いか・・・」  家具の模様替えでもするのだろうか?  今の瑛里華は吸血鬼じゃない、だから身体能力は年相応の女の子のものだ。  それでも昔と変わらず運動神経は良いし頭も良い。  それにスタイルも良いし笑顔も可愛い。  ・・・俺には勿体ないくらいの彼女だよな。 「お待たせ、孝平」 「お、おうっ!」 「どうしたの? 顔赤いわよ?」 「な、なんでもない。それより行こうか」 「えぇ」  俺が考えてたことが顔に出ていたのだろうな、きっと。  瑛里華に見られた顔はきっとしまりのないものだっただろう・・・ 「その辺に座ってくれる? すぐにお茶を煎れるわ」 「ありがとう、瑛里華」  用意してあったクッションに座る。  キッチンへ向かう瑛里華を見送ってから部屋の中をさっと見回す。  特に模様替えをするような雰囲気ではなかった。  それじゃぁ一体なんのお願いなんだろうか? 「はい、孝平」 「ありがと」  受け取ったティーカップから良い香りがする。 「・・・美味いな」 「ありがとう」  二人でお茶を飲む。 「ところでさ、瑛里華。お願いってなんだ?」 「うん・・・実はね、最近これを買ったの」  そう言って机の上の箱から取り出したのはデジタルカメラだった。 「使い方を教えればいいのか?」 「違うわよ、私を母様や紅瀬さんと一緒にしないでくれる?」  軽く睨まれてしまった。 「ほら、私はもう吸血鬼じゃないでしょう?」 「あぁ」 「これから普通に歳をとっていくの」 「そうだな、それが人だものな」 「だからね、今を残しておきたくなったの」  それで写真か・・・ 「俺は瑛里華を撮ればいいのか?」 「そうよ・・・頼める?」 「もちろん、おやすいご用さ!」  そんな簡単な事なら、と請け負った。 「それじゃぁ、始めるわね・・・」  デジタルカメラを渡された俺は、そのカメラを軽く弄ってみる。  そう難しい機能は付いていない、普通のカメラだった。 「よし、俺の方は準備でき・・・」  瑛里華の方を見た俺は声を詰まらせてしまった。  そこには下着姿の瑛里華が立っていた。 「そ、それって・・・」 「えぇ、この前の誕生日に孝平が私に贈ってくれた物よ」  確かに俺が贈った物だった。  最近下着の事でからかわれてる俺がちょっとした、ささやかな逆襲のつもりで  手に入れて贈った下着。  それを瑛里華は着てくれていた・・・けど・・・ 「さぁ、私を撮って」  瑛里華は自然にベットに倒れ込む。  ・・・ごくっ  自分の唾を飲む音が嫌に大きく聞こえる。 「ほら、早く」  瑛里華に言われるがままに、デジタルカメラを構えてベットに向かう。  シャッターのきる電子音が響く。  そのたびに瑛里華の扇情的な姿がメモリーにおさめられていく。 「ん・・・」  瑛里華の頬が上気している。  呼吸が荒くなってきているのは、俺の方か、それとも瑛里華の方か。  わかるのはブラに包まれた瑛里華の胸がその呼吸に会わせて上下していることだ。  寝そべっている瑛里華が上半身を起こした。  そして俺の方を向いて、ぺたっと座る。  その座り方だと、足の付け根が・・・ショーツが丸見えになってしまう。  思わずそこに視線が行ってしまう。  ・・・濡れてるのか?  染みが出来ているような気がする。それは俺の目の錯覚なのかそれとも・・・ 「ふふっ、孝平がみているのがわかるわ」 「え、瑛里華・・・」 「ほら、ここでしょう?」  そう言うと瑛里華はそこに手を持っていく。  そして人差し指と中指をあてて・・・ 「っ!」  そっと開くような仕草をする。もちろん、下着の上からなので見えるわけではない。  だが、おれはそこを知っている。だからこそ、見えないのに見えてしまう。 「ねぇ、孝平・・・撮るだけで、いいの?」  瑛里華のその言葉に、俺の理性はうち砕かれた。  ・  ・  ・ 「なぁ、このデータどうするんだ?」 「最初に言った通りよ、私の今を記録してとっておくの」  そう言うと瑛里華はデジタルカメラからメモリーを抜き取ると、そのまま  ケースの中にしまった。 「パソコンにいれないのか?」 「いれないわ、このままずっととっておくの」 「面倒じゃないか?」 「いいの、最近はウイルスとかで勝手にパソコンの中見られちゃうんですもの。  他の人に見られたら恥ずかしいから・・・」 「それじゃぁ、俺にも見せてくれないのか?」 「えぇ、孝平にもこのデータは見せてあげない」  そう言うわれるとちょっと残念になってくる。 「だって・・・孝平にはデータじゃない、今の私を見てもらいたいから」 「・・・ったく、瑛里華には敵わないな」 「そうよ、そう簡単に勝たせてなんかあげないからね?」
6月12日 「ただいま」  返事の帰ってこない部屋に私は今日も帰ってくる。  着ている服を脱ぎ捨てて、ベットに倒れ込む。 「ふぅ、今日も疲れたぁ」  そのまま眠りに落ちそうになる。 「んー・・・お風呂入りたい〜」  落ちそうになる意識をなんとか保ちつつ、お風呂にお湯を張る。 「ん、ん〜」  湯船の中でのびをする。 「やっぱりお風呂って最高〜」  疲れが取れていくのがわかる。  ついこの前まで水が貴重な世界に居た私。  そしてついこの前の、数日の間、水が自由に使える世界にいた。  その時知ったお風呂は、私の楽しみとなっている。 「今度お姉ちゃんとも一緒に入ってみようっと」  あのころ出来なかった事が今なら出来るから。でも・・・ 「一緒に入ってみたかったな」 ・夜明け前より瑠璃色なMoonlight Cradle             sincerely yours After Short Story「約束の証」  ベットの上に腰掛けてタオルで丁寧に髪の水分をふき取る。  バスタオルしか巻いてない、はしたない姿だけど誰にも見られる心配は無い。  それに、見て欲しい人はこの世界には居ないから・・・  少し前に私が眠っていたターミナルが発見された。  やっと技術が追いついて、独自にターミナルがある次元へのアクセスが可能に  なったのだ。  私はこれで使命から解放される、と安堵した。  だけど、それはまだ先の話になりそうだった。  空間跳躍の為の中継点になるターミナル、今の技術はそこにたどり着いた  だけだった。  そう、まだ追いついただけで追い越してはいなかったのだ。  月の古代遺跡のターミナルの発見はこの時代で大きな話題となった。  私は遺跡の守護者としてこの時代の表舞台に立つ・・・事はしなかった。  私を英雄視する声もあり、いつの間にか伝説にもなっていた。  でも、私は英雄でもなく、伝説になるような人物でもない。 「シンシア・マルグリットはただの科学者よ」  それが私の答だからだ。  それからの私は多忙だった。  私たちが作ったターミナル作成技術はまだこの時代には早すぎた。  ターミナルを発見した研究チームは、今後新たなターミナルを作成し  これから先の技術発展に尽くしていくことになった。  この時代に適応し、追いついている技術を提供し、その後の私は  科学者を引退することにした、そして私は私の生きている限り、その  技術を見守ることにした。  この時代でもお姉ちゃんは存在し続けていた。  私との再開を喜んでくれたお姉ちゃんは、今も教団の裏側で私たちを  見守っていてくれている。  今のお姉ちゃんは滅多に表に出てこない。技術が安定し監視する体制が  整った今、お姉ちゃんの役目は終わりなのかもしれない。  今は宿主の中で眠りについている。  寂しいけど、それがお姉ちゃんの生きる道なのだから。  髪を拭き終えた私はそのままベットに仰向けに倒れ込む。  サイドテーブルに置かれている、ひびが入ったフォトスタンド。  その中には幸せそうな私と、私の愛する人の驚く顔が写っていた。  しばらくの間写真を眺めてた私は、その横に置かれているデジタルの時計を  見て、ふと気が付いた。 「明日は私の誕生日だ・・・」  自分で発した言葉に、強い衝撃を受けた。 「誰も私の誕生日を知らない・・・知ってる人がいない世界・・・  そんなの、分かり切った事じゃない、覚悟したじゃない!」  月と地球の戦争に私たちが生涯をかけた技術を使わせたくない。  その一心でターミナルを封印した時から、こうなることはわかっていた。 「わかっていたのに・・・」  最後のデバイスを回収しにいった時代で会ってしまった、私の家族と。  私の最愛の人。 「タツヤ・・・」  名前を口に出した瞬間、私の思いはせき止めきれずに溢れだしていく。 「うぅ・・・うああぁぁぁぁぁっ・・・」  タツヤッ!!  ・  ・  ・  枯れたと思った涙は枯れることはなく  私はこの先いつまでこうして生きていくのだろう・・・  ねぇ、タツヤ。  私、がんばったよね?  そっちに行っても、いい・・・よね?  ・  ・  ・ 「・・・朝?」  何度目だろうか、こんな朝を迎える事は。  頭が取れも重い、顔は涙でぐしゃぐしゃになっている。  喉がひりついて痛い。 「・・・」  無気力だった。  何もする気が起きない。  もうこのまま目が覚めない方が良いと思える。 「・・・あれ?」  サイドテーブルに昨日の夜まで無かったはずの物が置かれていた。  何か私宛に荷物が届いたのだろうか?  いや、そんな訳は無い。いくら疲れてたとはいえ、昨日の夜にそれは間違いなく  無かった物だ。  私はそっとその箱を手に取る。  そんなに大きくないその箱には何処にも何も書かれていない。 「何かしら・・・」  その時、サイドテーブルに一枚のカードが置かれているのに気付いた。  箱の下に置かれてたからだろう、最初に気付かなかった。 「・・・っ!」  そのカードには一言だけ文字が書かれていた。  Happy Birthday To Cynthia. 「お姉ちゃん・・・もぅ、甘いんだから」  今の宿主の事を考えて表に出てこなくなったお姉ちゃん。  まったく、家族のことになると甘いんだから・・・ 「ほんと、甘いんだから・・・ぐす」  まだ涙は枯れていなかった。  おちついて着替えた私は、お姉ちゃんからのプレゼントの箱を  開けてみることにした。 「・・・本?」  箱の中には本と小箱が入っていた。  小箱はロックがかかっているらしく開けることが出来ない。  本も何故か開くことが出来ない。 「これは・・・」  開けられない本に、私が知っている技術が使われている事がすぐにわかった。  空間跳躍に関する技術書?  いや、そんな物は存在しないはず。  それじゃぁ、ロックされているこの本と小箱は一体・・・?  ピピッ! 「今度は何?」  私の持つ携帯端末が鳴っていた。  端末を手に取る、そこに表示されているメッセージを読む。 「え!?」  それはターミナルからの通信だった。 「一体何が起きてるの?」  私は携帯端末を操作する。  そして次の瞬間、ターミナルの中に転移していた。 「あれ? 何で・・・?」  持ってきた記憶の無い本と小箱が一緒に転移してきていた。 「・・・」  私の知らないところで何かが動いている。  一体何が起きているの?  ・  ・  ・ 「あ・・・またやっちゃった」  考え込むと回りが見えなくなる私の癖は未だに治っていなかった。 「ふぅ・・・とりあえず呼び出しの理由を調べないとね。アクセス!」  長い間眠っていたターミナルのシステムが起動する。 「こちらメインシステムです。シンシア・マルグリット主席研究員と  認識しました」 「呼び出しの理由は何?」  回りくどいことはせず、率直に訪ねる。 「以下のファイルが解放の状況と一致しました、ロックを解除します」  そうして起動したファイルは・・・ 「嘘っ!」  あの時、タツヤが飛ばされてきた時のログだった。  8個のログが10個に増えていた、謎の記録。  そして私がターミナルに居る間、ロックを解除出来なかったファイルだった。 「本当にどういうことなのよ・・・」  そして、そのファイルの最終解除キーをシステムが要求してきていた。  何かのパスワードをいれなくてはいけないのだけど・・・ 「何をいれればいいの?」  その時傍らに置いてあったあの本が急に開いた。 「もぅ、何があっても驚かないわよ・・・」  そのほんの最後のページが開かれていた。  そこには手書きで書いたと思われる文字が書かれていた。  ”心から、貴方の物”と・・・ 「まさか・・・」  私は震える手で、パスワードを入力していく。  私の心は、心から貴方の物・・・  sincerely yours 「パスワード受け付けました、ファイルを出力致します」 「・・・タツヤ」  そこにある記録は、私とタツヤの一夏の物語。  偶然と必然が絡み合って起きた、あの事件の物語。  それは、夢だと思っていた。  ターミナルで目覚めた私にあるはずのない記憶、だからこれは夢だったと  思いこんだ記憶。 「夢じゃ・・・なかったんだね、タツヤ」  あの記憶が夢じゃないのなら・・・  私はそっと小箱を手に取る。  本と同じくロックされていたはずの小箱は、簡単に開けることが出来た。 「やっぱり・・・」  そこにおさめられていたのは、銀色の指輪だった。  そっと手に取る、その指輪の裏には名前が彫られてあった。  Cynthia A Marguerite 「もぅ、格好つけすぎ」  私は迷うことなく、左手の薬指にはめる。  銀の指輪から、タツヤの想いが流れ込んでくる気がする。  タツヤがつないでくれた、私への道。  その道の先を私自身がふさいでしまうなんて、タツヤへの冒涜よね。 「それに、私はもう一人じゃないから」  この指輪が、タツヤが一緒にいてくれるから。 「がんばるよ、タツヤ。誕生日プレゼント、ありがとう!!」  それから数週間が過ぎた私に異変が起きた。  毎月来る物が来なかったのだ。  もしかして・・・そう期待して診察を受けた私は、その期待通りの診察結果を  もらうことが出来た。 「タツヤ、最後のプレゼントありがとうね。私、幸せに生きるから。  幸せに生き抜いて、幸せの思い出話、たくさん作ってからタツヤの所に行くからね。  それまで、楽しみに待っててね!」
6月7日 ・FORTUNE ARTERIAL sideshortstory「家族」 「母様、かゆいところはない?」 「だいじょうぶだ」  実家のお風呂場で、母様の髪を洗ってあげる。 「こら、瑛里華。母であるあたしが瑛里華の髪をあらってやるのが筋という  ものであろう?」 「それじゃぁ、私の髪を洗ってくれた後に私が母様の髪を洗うわね」 「しかし」 「今日は私のお願い、聞いてくれるんじゃなかったの?」 「・・・」  誕生日の今日、実家でささやかな誕生会が開かれた。  兄さんはどこにいるかわからず、来てはくれなかったがプレゼントはちゃんと  送ってくれた。  その中身が何故か看護婦の白衣だったことはこの際おいといて・・・  誕生会も終わって、私は実家に泊まっていくことになった。 「そうだ、瑛里華。一緒に風呂に入ろう。あたしが髪を洗ってやるぞ」 「え? ・・・はい、お願いします母様」  母様に髪を洗ってもらう、それだけの事なのに私は凄く嬉しくなる。 「支倉君も一緒に入って来れば?」 「く、紅瀬さん!」  その言葉に孝平は慌てる、二人きりならいつもそうしているのだけど今日は  さすがにまずいわよね。 「き、桐葉。あたしも風呂に入るのだぞ? 支倉と一緒に入れる訳無いではないか!」 「あら、伽耶の将来の息子、家族と一緒には入れないの?」 「う゛・・・」 「家族とお風呂に入るのって家族らしくていいって言ってたの伽耶じゃないの?」 「紅瀬さん、そんなに母様をいじめないで」 「わかったわ、伽耶の娘に免じてこれくらいにしてあげる」 「・・・桐葉、あとで覚えておくといい」  後かたづけをしてくれるという紅瀬さんと孝平に甘えて私は母様と一緒の  お風呂に入っていた。 「瑛里華よ、こう言うとき母であるあたしが後ろではないのか?」  檜づくりの浴槽、私が母様を抱くようにしてお湯に入った。 「今は私が母様を抱きしめたいの、だからこれでいいの」 「そうか・・・」  ぴちゃ、と天井から滴が垂れる音がする。  時折お湯が揺れる、そんな静かな時間が過ぎる。 「・・・なぁ、瑛里華」 「何、母様」 「その・・・支倉とは上手くやっておるか?」 「えぇ、もちろんよ」 「そうか、ならよい・・・」 「母様?」  なんだかいつもより元気が無い気がする。 「母様、何か心配があるのですか?」 「・・・」  黙っている母様。 「私じゃ頼りないしお力になれるかわかりませんけど、聞かせてください、母様」 「・・・あたしはな、支倉が憎いかもしれんのだ」  母様の口から出た言葉は私の想像の外にあるものだった。 「せっかく本当の家族となった瑛里華が、支倉に奪われてしまう。  そんな訳はないのだがな・・・」 「母様・・・」 「桐葉が言って追った、それが女子の母親の気持ちだとな」 「大丈夫です、母様」 「瑛里華?」  私はぎゅっと母様を抱きしめる。 「千堂瑛里華は、支倉瑛里華となっても、ずっと千堂伽耶の娘です。  私にとって母様は母様だけです」 「・・・そうか、瑛里華。ありがとう」 「安心してください、母様。きっと将来、母様の家族をもっと増やしてあげるから」 「瑛里華はもう眷属を作れぬのだぞ?」 「くすっ、人はちゃんと家族を増やせるんですよ、母様。  母様はその若さでお祖母ちゃんになっちゃうのよ」 「む・・・それは少し不快な呼び方だな」 「その時が来たらよろしくお願いしますね、母様」 「・・・なんだか納得しかねるが、がんばるのだぞ、瑛里華」 「はい」  いつかは私は孝平と結婚するだろう。  その時、孝平の両親とも家族となる。けど、母様と呼ぶのは今腕の中にいる  母様だけ。  そして、いつかきっと、母様は伽耶お祖母ちゃんって呼ばれる時が来る。  そんな未来を母様と孝平とで作っていきたい・・・  ううん、絶対に作る。  私と孝平と、母様の為に・・・、いつか、きっと。
6月1日 ・FORTUNE ARTERIAL sideshortstory「衣替えの日」  ふと、目が覚める。  昨日夜遅くまで企画を練っていたから、そんなに寝ていないからだろう。  目覚めはそんなには良くない、頭がぼーっとする。  ベット上で身を起こして時計を見る。 「・・・っ!」  一気に目が覚めた。  完全に遅刻というわけではないが、かなりまずい時間だった。  すぐに洗面所で顔を洗い、制服に着替える。  朝食は購買で何か買えばいい、鞄を手に寮の部屋を出て駆けだした・・・ 「だから上着を持っていたんだね、孝平くん」  朝の教室、俺は上着を持って登校していた。  通学路を走っていて汗をかいたので上着を脱いだわけだが、教室に入ると  誰も上着を着ていない。  そう、今日から6月、衣替えの時期だった。 「俺だけ冬のままだな」 「上着を着てなければそんなに目立たないよ」 「みんな半袖だからな、目立つよ」  冬服の俺は上着を脱いでもシャツは長袖だった。 「でも、急に寒くなる事もあるから長袖の方が良いかもしれないよ?」  そう言う陽菜は、上着とベストを着ていない、すっかり夏服だった。 「ま、いいさ。走らなければ暑くは無いからな」 「そうだね」  くすっと笑う陽菜。  夏服に着替えたその姿は、冬服より肌が多く出ておりとても眩しかった。 「ねぇ、孝平くん。打ち合わせの事なんだけど」 「陽菜、放課後監督生室でいいか?」 「うん、よろしくお願いします」 「なんだかおかしな天気だね」 「そうだな・・・雨は大丈夫だろうか?」 「空が明るいから大丈夫だと思うよ」  放課後、教室棟から出た俺達が見た空一面雲に覆われていた。  雲は黒くないし雨が降るような感じじゃない。 「それじゃぁ行こうか、陽菜」 「うん」  しかし、俺達の予想はあっさり裏切られた。 「参ったな、陽菜、だいじょうぶか?」 「大丈夫・・・とは言い難い、かな」  本敷地へと向かう途中に急に雨が降り出した。  通り雨見たいに強くはないが、この時期特有の肌にまとわりつくような雨は  少量でも濡れるのに充分だった。  通路の脇の木の下でとりあえず雨宿りする事にした。 「まったく、おかしな天気だよな」 「そうだね、晴れてるのにね」  空を見上げると、雲は明るくその隙間から晴れ間が覗いている。  それなのに雨は降っている。 「どうしようか、孝平くん。一度寮に戻って着替えた方がいいかな?」 「そうだな・・・」  陽菜の方を見て、俺は息をのんだ。  白いシャツが肌に張り付いていてうっすらと透けて見える。  肩から胸にかけても張り付いていて、ピンク色の下着がシャツのしたに  見え隠れしている。 「孝平くん?」 「・・・陽菜、暑いかもしれないけどこれを着るんだ」  俺は手に持っていた、自分の上着を陽菜の肩に掛ける。 「ありがとう、孝平くん。なんだか孝平くんに包まれてるみたいだよ」 「・・・」 「どうしたの?」 「あ、いや、なんでもない」  雨に濡れた陽菜がとても色っぽい、そう思ってしまうと陽菜から良い  匂いが漂ってくる気がして、反応してしまう。 「・・・孝平くん?」 「そ、それよりも一度寮に戻ろう、そうしないと風邪引いちゃうからな」 「そうだね、孝平くんも着替えた方がいいし、戻りましょう」  雨も小降りだしちょうど良いタイミングだろう。  俺は気付かれないように歩き出した。 「・・・ねぇ、孝平くん」 「・・・なに?」 「私は・・・いいよ」 「な、なにがいいんだ?」 「だから我慢しなくていいの、孝平くん。苦しそうだから」 「・・・」  歩き方がぎこちなかったせいで、陽菜に悟られてしまったようだ。 「ねぇ、こっちに来て」  通路の脇の森の中に陽菜は俺を誘う。  そして俺は樹に背中を預けてもたれかかる。 「ごめんね、すぐに気付かなくて、辛かったでしょう?」 「そ、そんなことはないさ。俺が勝手に・・・」 「いいの、孝平くん。私が楽にしてあげるね」  そう言うと陽菜は俺の前で膝をついて、シャツのボタンを外し始めた・・・ 「あら、支倉君、遅かったわね」 「ごめんなさい、千堂さん。雨に濡れたから一度寮に戻ったの」 「悠木さんが謝ることはないわ、それよりも例の企画の打ち合わせは  これからかしら?」 「はい」 「それじゃぁ私も意見があるんだけど・・・って支倉君、だいじょうぶ?  調子悪いの?」 「いや、なんでもない・・・遅れを取り戻したいからすぐに会議始めるか」 「そう? 支倉君がそう言うのなら始めましょう」  まったく・・・平然としてる陽菜が羨ましく感じてしまう。  短い時間の間にあれだけこなしてしまったのに・・・女の子って凄い、  いや、陽菜がすごいんだろうか。  俺はだるい体をごまかしながら椅子に座った。 「くすっ」  陽菜は笑顔で俺の横に座る。  その時こっそりと耳打ちをしてきた。 「続きは夜にね」 「・・・」  女の子が凄いんじゃなくて陽菜がすごいんだ、とわかった瞬間だった。
5月28日 ・FORTUNE ARTERIAL sideshortstory「親子水入らず」 「・・・ねぇ、孝平。今夜空いてる?」 「そうだな、仕事が早く片づけば時間は取れるかな」  生徒会の仕事はいくらでもある、どこかで見切りをつければ時間は  取れないことはないだろう。 「そうよね・・・ならつきあって欲しいの」 「つきあう?」 「えぇ、母様の所に」 「伽耶さんの所?」 「そうなの・・・母様が今夜家へ来るようにって呼び出してきたのよ」  珍しいな、と俺は思ったけど瑛里華は昔良く呼び出された事があるのか  あまり良い顔をしていない。 「なんだか母様の機嫌が良くなかったのよ。昔を思い出しちゃって・・・」 「大丈夫だよ、瑛里華。前とは違うんだから・・・よし、ならキリの良いところ  まで仕事かたしちゃおうか」 「ありがと、孝平」  夜、千堂邸に来た俺達はいつもの離れの居間に通された。 「良く来たな、瑛里華、支倉」 「母様・・・これは?」 「見てわからぬか?」  居間の机の上には食事が用意されていた。 「疲れたであろう、まずは食事をしようではないか」 「ありがとうございます、母様!」  瑛里華は感動したのか目を潤ませていた。 「さて、では本題に入るとするか」  食事の途中に伽耶さんは話を切りだしてきた。 「瑛里華、この前失態を演じたそうではないか」 「失態、ですか?」 「あぁ、ほんの少量の酒で酔って記憶を失ったそうではないか」 「ぐっ」  伽耶さんの言葉に喉を詰まらせたのは俺だった。 「どうしたのだ、支倉?」 「い、いえ・・・」  言えない・・・アレがほんの少量じゃなかったとは言えない。  かなでさんが持ってきたブランデーの瓶の中身。  最後に見たとき、半分以上減っていた。  つまりそれだけ飲まれた訳だ。 「瑛里華。酒は飲んでも飲まれるなと言うだろう?」 「え、えぇ、聞いたことあります」 「だからな、失態を演じぬよう、訓練をしようと思うのだ」  そういって伽耶さんは後ろに隠してあった瓶を取り出す。  それは一升瓶と呼ばれるサイズで、いわゆる日本酒だった。 「か、母様。私はまだ未成・・・」 「瑛里華、その先は言ってはならぬぞ!」  鋭く伽耶さんが言い放つ。 「桐葉が言っておった、いろいろと問題があるそうだからな」 「・・・」  何処にどうツッコミをいれるべきなんだろうか・・・ 「では宴を始めようぞ」 「あら・・・」 「どうだ、瑛里華」  小さな杯に注がれた琥珀色の液体、それをちょびっと飲んだ瑛里華は  感嘆の声をあげる。 「甘くて美味しいです」 「そうか、それはよかった」  甘くて美味しいか、確かにこれは口当たりが良く飲みやすいな。  と、自分の杯を飲み干しながらそう思った。 「・・・って、何で俺まで飲んでるんだ」 「何を言うんだ、支倉。みんなで飲んだ方が美味いだろう?」 「そうですけど・・・」  勢いにまかせて飲んでしまったが、何となくいつもと同じ展開が  待っていそうな気がする。  ここは早めに切り上げるのが良いだろう。 「なぁ、瑛里華。そろそろ明日もあるし・・・」 「ん? なぁに?」 「・・・」  伽耶さんから注がれた酒を美味しそうに飲んでいる瑛里華。  頬は上気して目がとろんとし始めている。  これはすでに手遅れだろう・・・ 「ほら、支倉も飲まぬか」  伽耶さんも上機嫌だった。 「なんだか暑くなってきたわね」 「そうだな、少し暑いな・・・」 「扉を開けましょうか?」  この部屋には空調は無い、扉を開ければ縁側に通じているので  風通しは良くなるだろう。 「だいじょーぶよ、孝平。脱げば良いんだから」 「良くないから脱ぐなっ!」  俺はすかさずツッコミをいれた。 「そうか、さすがは瑛里華だな」 「伽耶さんも感心しないでください! とりあえず扉を開けます」  そういって立ち上がろうとした俺の目の前で瑛里華は服を脱ぎだした。 「ふぅ、すずし〜」  下着とソックスだけになった瑛里華はぺたりとその場に座り込んだ。  今日の下着はピンク色なんだな・・・ 「って違う、服を着ろっ!」 「えー、暑いから嫌よ」 「伽耶さんも何とか言ってくださ・・・」 「どうしたのだ?」  すでに着物を脱いで、伽耶さんは白襦袢だけになっていた。 「美味いな」 「えぇ、美味しいです」 「・・・」  いつの間にか俺の足の間に座っている伽耶さん。  そして俺にしなだれかかっている瑛里華。  二人で酒を注ぎあっては飲む、その合間に俺の杯にも注がれる。  俺はなるべく抑えながら飲んでいたのだがそれでも限界が近かった。  それよりもまるで水のように飲んでいる二人の方がまだぴんぴんしてる。  本当に瑛里華は弱いのだろうか? 「・・・そろそろ止めませんか?」 「えー」  真っ先に反論の声をあげる瑛里華。 「・・・もう終わりにするのか?」  寂しそうな顔をする伽耶さん。 「そう、ですね。今日は終わりにしましょう。でないと・・・」 「そうだな、次の宴が開けぬからな」  そう言って笑う伽耶さんは得意げな顔をしていた。 「そうであろう、支倉?」 「伽耶さんって結構意地悪ですね」 「ははっ、そうか?」 「それじゃぁそろそろ帰るぞ、瑛里華」 「うーん・・・」  終わりという言葉に反応したのか、瑛里華は俺に寄りかかったまま  眠っていた。 「帰ることもなかろう、今宵は止まっていくが良い」 「そう、ですね・・・」  瑛里華を連れて山道を戻るのはきついし、何よりこの格好のままでは  どうしようもない。 「寝室に布団を用意しておる、そこに瑛里華を寝かせてくれないか?」 「はい、わかりました」  俺自身足下がおぼつかないが、注意して瑛里華を隣の寝室へと運ぼうとした。 「あれ?」  瑛里華は伽耶さんの襦袢を握ったままだった。 「瑛里華、離してくれないか?」 「んー・・・いや、母様と一緒がいい・・・」  寝ぼけているのかどうかわからないが、瑛里華の手は伽耶さんの襦袢の袖を握って  離してくれそうになかった。 「まったく瑛里華は甘えん坊だな」  そう言いながらも伽耶さんの顔は優しく微笑んでいる。 「よし、せっかくだ。親子そろって眠るとしよう。支倉、運ぶのを手伝ってくれ」  伽耶さんの袖を握ったままの瑛里華をそっと寝室へ運ぶ。  布団に寝かせると伽耶さんもそのまま横になる。 「まったく、手の掛かる娘だな・・・」 「それではお休みなさい、伽耶さん」  俺はその様子を見て隣の部屋へと戻ろうとした。 「何処に行くのだ?」 「寮へ戻ります」 「夜道を戻るのは大変だぞ、ここに泊まっていくとよい」 「ですけど・・・」  下着姿の瑛里華と、肌襦袢を着崩している伽耶さん。  あまりに魅惑的でとてもまずい状態だった。  だから戻ろうかと思っていたのだが・・・ 「泊まってはいかぬのか?」 「・・・いいんですか?」  寂しそうな顔をする伽耶さんを置いては帰れなかった。 「あたしが構わぬと言ってるのだ、ここに寝ていけ」  別に布団を敷いて二人の横で眠ることになったのだが・・・ 「孝平・・・んー、あたたかい〜」 「うにゅ・・・」  いつの間にか俺は二人の布団に引き込まれていた。  伽耶さんに抱きつかれ、その横から伽耶さんごと俺に抱きつく瑛里華。  寝るに寝れない状況ではあるはずだが、さすがに俺も回ってきたのか  眠たくなってきた。 「お休み、瑛里華、伽耶さん」  そのまま深い闇へと落ちていった・・・ 「あ、おはよう。孝平くん」 「・・・おはよう、陽菜」 「呼び出しってなんだったの?」 「いや、大したことじゃないさ、ちょっと・・・な」  朝、盛大に寝坊した俺達だったが伽耶さんの特権が発動された。  学園理事長が生徒会を呼び出した、ということになったのだ。  そうした正当な理由の元、俺と瑛里華は午前半ばから授業に復帰した。 「なんだか顔色悪いけど、そんなに難しい問題だったの?  手伝えることがあったら言ってね」 「ありがとう、陽菜。でも大丈夫だから・・・」  そう言いながら自分の席に着く。  瑛里華も相当きてるだろうな・・・  結局この日の生徒会は役員の体調不良で休みとなった。
5月26日 ・FORTUNE ARTERIAL sideshortstory「魅惑のお茶会」 「じゃじゃーん、今日は特別な隠し味を持ってきましたっ!」  俺の部屋でのいつものお茶会、バイトでこれないへーじを除いたフルメンバーが  集まっていた。 「特別な隠し味?」  瑛里華が興味津々という顔をしてかなでさんに訪ね返す。 「そう、これだよ!」  かなでさんが取り出したのは・・・ 「あ、それお父さんの・・・」 「そう、お父さんの部屋に隠してあった最高級のブランデー!」 「ブランデー、ですか?」 「そうだよ、白ちゃん。これを一滴だけ紅茶にいれるの。そうするととっても  美味しくなるんだよ♪」 「そうなんですか? でも私はお酒はまだ早いと思います」  このメンバーの良心とも言える白ちゃん。  確かにお酒は早いと思う。 「だいじょーぶ、これはお酒じゃなくて隠し味、だから調味料なの」 「そうなんですか?」 「そーそー、だから白ちゃんも挑戦してみよう、ね!」 「はい」  その良心はあっさり説得されてしまった。 「孝平くん、やっぱりまずいよ・・・ね?」  陽菜がそっと耳打ちしてくる。 「お姉ちゃんが持ってきたお酒、お父さんの秘蔵のなの。勝手に使ったら  お父さん、ショック受けちゃうかもしれないの」 「・・・そっちの駄目ですか」  最近の陽菜はかなでさんの影響を受けてきてるんだなぁって実感してしまった。 「なぁ、紅瀬さんはどう思う?」  ベットの上で一人文庫本を読んでいた紅瀬さんに訪ねてみる。 「別にいいんじゃないかしら?」 「いちおうお酒になるんだし」 「さっき言ってたじゃない、これは調味料なのだって。だから大丈夫じゃないかしら」  お茶会に参加してはいるけど我関せずの紅瀬さんだった。 「・・・なんとなくこういう展開って嫌な予感するんだよな」 「あら」と驚いた顔をする瑛里華。 「思ってたより美味しいです」と笑顔の白ちゃん。 「・・・」飲む前に香りを楽しんでいる紅瀬さん。 「予想通り!」と満足げなかなでさん。 「味わいが深くなったね」と微笑む陽菜。  ブランデーが一滴だけいれられた紅茶は確かに味わい深くなっていた。  とてもアルコールが入ったとは思えないほど、美味しい。 「とっても美味しいわね、これなら何杯でも飲めそうね」 「そうでしょ、えりりん! さぁ、いっぱい飲んでね!」 「えぇ、そうさせてもらうわ」  瑛里華が持ってきたクッキーを食べながら、ブランデー入りの紅茶を飲み  いつもと同じ楽しいお茶会が始まった。  おかしい。  何かがおかしい、と頭の中で警鐘がなる音が聞こえる。  俺は注意深く回りを見渡す。  ・・・何もおかしくない。  みんなお茶を飲みながら、お菓子を食べながら、楽しく会話をしている。  いつもと同じお茶会だ、あえて言うのならみんな紅茶のおかわりがいつも以上に  多いことくらいだろう。 「ふぁ・・・なんだか熱いです」 「そだね、熱い紅茶のんでるからね〜。なんだか私も熱くなってきちゃった」 「うん、私もちょっと熱い、かな」 「ね、孝平。クーラーつけてもいいかしら?」 「いいけど、あまり強くすると風邪ひくから温度高めにな」 「えぇ、わかったわ・・・リモコンはどこかしら?」  瑛里華は目の前の棚に置かれているリモコンを探していた。 「目の前にあるだろう?」 「あ、これね・・・えい」  クーラーが入る、一応設定温度が高めになっているためか、冷気の出は  抑えられている。 「ふぅ、これで涼しくなるわね」 「・・・熱いです」  白ちゃんが胸元の服をぱたぱたと動かしている。  その隙間から見え隠れる白い肌が眩しい。 「熱いなら脱いじゃえばいいんだよ」 「そうですね、脱いじゃいます」 「ちょっと待て!」 「こーへー?」 「それはまずいだろう?」 「問題ないよ、みんなで脱げば怖くない。だから白ちゃん大丈夫だよ♪」 「はい」  そう言うと白ちゃんは黒いワンピースを脱ぎだした。  上半身だけはだけたワンピース、白い肌と白いブラが眩しすぎる。 「おぉ、白ちゃん可愛い! 思わず抱きつきたくなっちゃう」  そう言いながら白ちゃんに抱きつくかなでさん。 「かなで先輩、熱いです〜」 「そっか、なら私も脱ぐね」  どうしてそう言う展開になる?  部屋着のパーカーを脱ぐと思ったより大きな胸が現れる、それは緑と  白のストライプのブラジャーだった。  思わず見つめてしまう。 「ふふ〜ん、こーへー。お姉ちゃんのおっぱいみたい?」  思わず頷きそうになるのをぎりぎりの所で止める。 「駄目、孝平は私の苺が大好きなのだからかなで先輩だからって駄目っ!」  そういうと瑛里華も部屋着の上を全て一気に脱いだ。  大きな胸を覆ってるのは胸元に小さな赤いリボンが飾られているブラジャーだった。 「えりりん、苺柄じゃないじゃない〜」 「下着は孝平のお気に入りですもの、それに苺は下着の中にあるわ。ねぇ、孝平」 「むー、それなら私だって!」  混沌と化してきた。  この状況をなんとか打破するためには陽菜に頼むしかない。 「陽菜、みんなを止めてく・・・」 「孝平くん、どうしたの?」  いつの間にかすでに上着のシャツを脱いでる陽菜だった。  ピンクのブラに下はスパッツだけの姿。 「・・・紅瀬さん、助けてくれ」  最後の砦に助けを求め・・・ 「何?」 「・・・」  いつの間にかシャツを脱いでる紅瀬さん、大きな胸は淡いラベンダー色のブラに  包まれていた。 「あ、でもこーへーはパンツが好きなんだよね」 「ちょっ、その話をぶりかえさないでください!」 「んー、わがままだなぁ・・・それじゃぁタイトルを変更だ!」 ・FORTUNE ARTERIAL sideshortstory「魅惑のお茶会」改め ・FORTUNE ARTERIAL sideshortstory「楽屋裏狂想曲〜誘惑のお茶会〜」 「これなら前の話を持ち出しても大丈夫だよね♪」 「タイトルってなんですかっ! それになんか嫌な変わり方してます!」 「いいじゃない、孝平」  そういう瑛里華の方を向いて、すぐに顔をそらす。  今はどの方向を見ても天国のような光景だが、それを見た後地獄が訪れる。  だからどちらも向くことが出来ない。 「こーへー」 「・・・」 「こーへー、こっちを見て」 「・・・」 「えりりん、こーへーをこっちに向けて」 「了解!」 「ちょっと待って」 「覚悟しなさい、でも誘惑されたら許さないから」  そう言いながら俺の顔をかなでさんの方へと向ける。 「どうかな?」  そこには短パンを脱いで下着姿になったかなでさんが立っていた。  ブラと同じく緑と白のストライプの下着姿。 「かなで先輩、残念でした」 「うー、こーへー! なんで私で興奮してくれないの!」  内心、そうとうやばい状態なんですけど・・・ 「それじゃぁ次は白ちゃん!」 「はい、支倉先輩の為にがんばります!」  そう言って胸の前で両手を組む白ちゃんもすでに黒いワンピースは脱いでいた。  白ちゃんの名前の通りに白い肌、そして白の下着。 「・・・やっぱり魅力、無いんでしょうか?」 「そ、そんなことは無いから安心して、白ちゃん」 「わぁ・・・は、はい、ありがとうございます!」 「孝平、優しいのね」  俺の頭を抑える手に力が入る。 「ねぇ、孝平くん」  力が入ったまま、俺の顔が陽菜の方へと向けられる。 「・・・」 「どう、かな?」  ピンクのフリルが着いた下着姿の陽菜は恥ずかしそうに座っていた。 「・・・」 「・・・」  お互い無言になる。 「孝平、私のを見てから決めてよね?」  俺の頭から手を離した瑛里華が俺と陽菜の間に入ってくる。  そしてスカートのホックを外そうとして、止まった。 「・・・」  我に返ったか? それなら一安心・・・な訳無い! 余計に命が危なくなる! 「・・・ねぇ、孝平」 「ななな、なんだい?」  思わず声が上擦る。 「孝平は、こういう方が好きなのよ・・・ね?」  そう言うとスカートをたくし上げた。  上半身はブラだけ、そしてスカートをたくし上げた瑛里華。  そこにはブラとお揃いの、小さなリボンがアクセントの下着が・・・ 「・・・もぅ、なんとか言ってよ」 「えっと、その、可愛いと思うよ」 「あ、ありがと・・・」 「よーし、さいごはきりきりだ。これでこーへーは誰が好きかはっきりするのだ!」 「主旨変わってますからっ!」 「じゃぁきりきり、どうぞ!」 「俺の話を聞いてください!」  俺のことを無視するかなでさん。 「あら、紅瀬さんは辞退するのかしら?」  瑛里華が紅瀬さんを挑発する。  その挑発を受けるように、ベットからおりて立ち上がる紅瀬さん。  そのプロポーションは瑛里華以上だと思う。 「えぇ、そうね。下着の件は辞退するわ」  俺の予想に反して挑発を受けなかった。俺はほっとする。 「え? あ、そう・・・なら私の勝ちね」  瑛里華が勝ち誇った顔をする。 「だって、私。穿いてないから」 「え・・・」  さすがに硬直する瑛里華。 「おー、きりきり大胆!」 「紅瀬さんって大胆」 「はぅ」  三者三様の反応だった。  そうして紅瀬さんは俺の顔をまっすぐにみる。 「確認してみる?」 「・・・結構です」 「孝平、その間は何?」  一瞬頷きそうになったことは内緒、だけどばればれだった。 「それじゃぁ確認してみるね、えぃ!」 「え?」  いつの間にか紅瀬さんの背後に回り込んでいたかなでさんが  思いっきりジーンズを脱がすかなでさん。 「なんだ、ブラとお揃いじゃない」  かなでさんは膝まで下ろしたジーンズを身ながらそう言った。  そう、ジーンズの方にラベンダー色の下着があったのだ。  つまり、それは・・・ 「みないでっ!」  紅瀬さんは持っている文庫本を俺向かって投げつけた。  それは恐ろしいほどの衝撃をもって俺の額に直撃した、その瞬間目の前が  真っ暗になった・・・ 「・・・」 「気が付いたかしら?」 「・・・つっ!」  頭が痛い。 「ごめんなさい、全力で投げつけて」  痛む頭を抑えながら俺は回りをみまわす。  ここは・・・暗いけど俺の部屋だな。  ベットの上に寝ていたようだ、俺の腰の付近に腰掛けてるのは紅瀬さんだろう。  暗くてよくわからないけど・・・ 「・・・みんなは」 「あのままだと騒ぎになるから、悠木先輩の部屋に押し込んできたわ」  どうやら俺が意識を失ってる内に、上の部屋へと全員運んだらしい。 「ありがと、助かったよ」 「そう・・・でもお礼を言われる理由は無いわ。だって私の都合ですもの」  紅瀬さんの都合?  それはどういう意味なんだろう? そう訪ねようとした俺の言葉より先に  紅瀬さんは話を進める。 「・・・ねぇ、さっき見たでしょう?」  文庫本が投げつけられる直前の記憶、ほんの一瞬ではあったけど確かに・・・ 「ごめん」  確かに見てしまった、不可抗力とはいえ見られた方はショックも大きい。 「謝ることはないわ」  紅瀬さんが立ち上がるのがわかった。 「・・・紅瀬、さん?」  暗闇に目が慣れてきてわかった、紅瀬さんは・・・何も着ていない? 「責任、とってもらうわ」  そう言って俺の上にのしかかってくる。 「今なら邪魔は入らないわ・・・孝平」  それが紅瀬さんの都合か、その言葉は紅瀬さんの唇によってふさがれてしまった。 「ふふっ」  暗闇の中に浮かぶ紅瀬さんの瞳は、艶やかに妖しく輝いていた・・・  ・  ・  ・ 「おはよう、孝平・・・」 「お、おはよう、瑛里華、白ちゃん」 「おはようございます、支倉先輩」  朝の通学路、寮を出たところで瑛里華と白ちゃんが追いついてきた。 「ねぇ、孝平。聞いても良いかしら?」  思わずびくっとしてしまう、何を聞かれるかがわかっているからだ。 「昨日の夜の事なんだけど・・・」 「もぅ、勘弁してほしいわね」 「紅瀬さん!」  二人の後ろから紅瀬さんが近づいてきていた。 「あの程度で意識をなくすほど酔うなんて、勘弁してほしいわ」 「え?」 「みんな寝てしまったのを私が悠木先輩の部屋へと運んだの、覚えてないの?」 「そ、そうなんですか? 紅瀬先輩、ご迷惑をおかけしました」  ぺこっと頭を下げる白ちゃん、それを見て紅瀬さんはばつが悪そうな顔になった。 「でもなんで運んだのよ?」 「朝になって孝平の部屋でみんなで寝てたら、どうなると思う?」 「・・・そうね、お礼を言っておくわ。ありがとう、紅瀬さん」 「どういたしまして」  いつの間にかそう言うことになったようだった。  俺が下手に言い訳するより、説得力はあるので正直助かる。 「でも、なんでみんな下着姿で寝てたのかしらね・・・」 「部屋に移した後のことは知らないわ、ね、孝平」 「あ、あぁ・・・」  紅瀬さんのウインクに俺はどきっとした。
5月23日 ・夜明け前より瑠璃色な Moonlight Cradle sideshortstory「素直に」 「まだかな」  俺はプールサイドで菜月が着替えてくるのを待っていた。  事の始まりは電話での会話だった。 「最近暑くなってきたよね」 「そうだな、水に飛び込みたくなるときあるよ」 「達哉も? 私もそう思うときあってね、実際飛び込んでみたんだ」 「え?」  水風呂にでも飛び込んだんだろうか? 「近くのプールの改装が終わって泳げるようになったの。  ちょっと運動不足もあったから、この前行ったの」 「また大台越えたのか?」 「そ、そんなわけないじゃないのっ!!」 「・・・」  越えたな、きっと。 「その無言の肯定は何よ」 「なんでもないさ、でも菜月のプロポーションだとダイエットの必要は  無いと思うけどな」 「ありがと、達哉、でも女の子にはいろいろあるの」  女の子ってのはそういうものなんだろうなぁ。 「・・・なんだか俺も泳ぎたくなったな」 「そう? それじゃぁ今度一緒に泳ごうよ」 「そうだな、機会があれば海にでも行くか」  その機会は菜月とのデートの日にあっさりと訪れた。 「今日のために新しい水着買ったの、期待して待っててね」  そう言って更衣室に入っていった菜月。 「女の子の着替えは遅いっていうけど・・・」 「おまたせ、達哉」 「遅いぞ」 「ごめんごめん」 「それじゃぁ泳ぐか?」 「・・・うん」 「どうした? 調子でも悪くなったのか?」 「そんなんじゃないけど・・・やっぱり恥ずかしくて」  今の菜月はパーカーを着込んでいるからどういう水着かは全くわからない。 「大丈夫だって、菜月。見てるの俺だけだから」  そういえるほどこのプールの客は少なかった。  最近暑くなってきたとはいえ、まだプールに結びつく時期では無いからだ。 「達哉だから恥ずかしいのよ」 「・・・」  そう言われると俺も恥ずかしくなってくる。 「・・・よし、女は度胸よっ!」  菜月は覚悟を決めてパーカーを脱いだ。 「似合ってる・・・かな?」  そこにはビキニ姿の菜月が立っていた。  水色を基調とした、青とのコントラストがまぶしいビキニ。  カップの布が小さく、菜月の胸の谷間が強調されている。  以前の水着より、扇情的だった。 「ねぇ、達哉・・・やっぱり似合ってないの、かな・・・」 「あ、ごめん、その・・・似合いすぎてどうしようかと思って」 「え? あ、ありがとう・・・」  顔を真っ赤にする菜月、たぶん俺も真っ赤になってるだろう。 「よーし、達哉。泳ごう!」 「菜月、元気だよなぁ・・・」 「達哉はだらしないわよ?」  菜月と並んで何往復かした俺はすっかりばてていた。  今はプールサイドに座っている。 「でも、私も少し休もうかな」  そう言うと菜月はプールサイドに上がってくる。 「よいしょっと」  両手をついてプールからあがる菜月、その動きにあわせて大きな胸が揺れる。 「・・・俺、ちょっと泳いでくる」 「え? 達哉?」  俺はプールに飛び込む、あのまま菜月を見ていたらどうなるかわからなかった。 「美味しかったよ、菜月。見違えるほどだよ」 「誉めすぎだって」  そう言って顔を赤くする菜月。  今日の夜はどこかでディナーでも、と思ってたのだけどお互い学生の身。  そうそう贅沢が出来るわけではない。 「今日は達哉に私の腕を見てもらおうと思うの」  菜月の提案で、夕食は菜月の手作りとなった。  菜月の手作り、というとそのままカーボンという図式があったが、一人暮らしを  始めるようになってから菜月の腕前は上達していった。  今日の夕食も何も問題なく、それどころか美味しく食べることができた。 「ごちそうさまでした」  俺は開いた食器をもって流しへ行こうとしたが菜月に止められた。 「私が洗うから達哉は休んでていいよ」 「それじゃなんだか悪いよ」 「いいの、後かたづけまで料理でしょ? はい、お茶」  お茶を渡され俺は仕方が無く部屋の方で休むことにした。  なんとなく部屋の中を見渡す。  ベットの上に大きな犬のぬいぐるみがある。 「可愛いでしょう?」  洗い物が終わった菜月がやってきた。 「ほら、もこもこ〜」  ぬいぐるみを抱く菜月。  両腕に抱かれた犬のぬいぐるみ、だが俺の視線はぬいぐるみによって  押し込まれてる菜月の胸に釘付けになっていた。 「達哉、どうしたの?」 「い、いや、なんでもない」 「あー、もしかしてぬいぐるみに嫉妬したとか?」 「・・・菜月」 「え、きゃっ!」  気付くと俺は菜月を押し倒していた。  ベットの上に押し倒された菜月。  足は開いており、そこから白い下着が見えている。 「た、達哉?」 「・・・乱暴にしてごめん」  俺は菜月の上からどこうとする。 「達哉、えいっ!」  菜月はそんな俺を抱きしめる。 「前にも言ったでしょう? 楽しいことも辛いこともちゃんと話すって」 「あ、あぁ・・・」 「だから・・・その、達哉は・・・したいんでしょ?」 「・・・プールで菜月を見てからずっと我慢してた」 「・・・うん、わかってた。達哉の視線、とっても熱かったから」  菜月には全て筒抜けだったようだ。 「それにね、私も達哉と・・・達哉に抱いて欲しかったから」 「菜月・・・」 「ねぇ、キス・・・して」 「菜月、愛してる」 「私もよ、達哉・・・んっ」
5月21日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS”薔薇と苺” 「ん?」  監督生室の鍵を開けようとした俺は視界に何か揺れるのが見えた。 「どうしたの?」 「ちょっと確認してくる」 「孝平?」  俺は監督生室の壁沿いに歩く、普段だったら目に留まらない敷地の端に  それはあった。 「何があるの?」  瑛里華が俺の背後からのぞき込んだ。 「薔薇ね」  そこには赤い薔薇が咲いていた。  入り口から死角になっている場所に、そっと咲いていた。  今日はたまたま風が強く、その風のおかげで俺の目に入った訳だ。 「そういえば兄さんが薔薇を植えようって言ってた事あったわね」  瑛里華が懐かしそうな顔をしている。 「あったな、そんなこと」 「この薔薇がいっぱい咲いてくれたのなら、兄さんの提案も良かった  かもしれないわね」 「でもさ、これはこれで良いと思うよ」 「どうして?」 「上手くは言えないけどさ、自然に咲いてるのが良いと思う」 「・・・孝平ってロマンティストなのね」 「な、何を言ってるんだよ、瑛里華」 「恥ずかしがらなくてもいいのよ、孝平」 「・・・」  何を言っても瑛里華に良い負ける気がしたのでこれ以上反論は  しないでおくことにした。 「さぁ、監督生室に戻りましょう」  そう言って瑛里華は振り返る。  その瞬間、薔薇を揺らすほどの風が吹いた。  その風はもう言うまでもなく・・・ 「・・・」 「・・・」  瑛里華はスカートを押さえたまま肩をふるわせている。  俺はというと、今見えた光景が目に焼き付いていた。  一瞬だったけど、瑛里華の丸みを帯びた可愛いお尻を包んでいた物に  プリントされていた模様は、苺だった・・・ 「あはは、やっぱり私には似合わないわよ、ね。わかってたのよ」  怒るのではなく瑛里華はそう独白した。 「そ、そんなことはないよ、瑛里華」 「孝平が苺が好きだって言ってたから恥ずかしいの我慢して買って来たけど・・・  でもやっぱり似合わないってわかってたのよ」 「・・・え?」  俺が苺が好き?  そんなこと言ったっけ?  そういえば食堂でそんな話をへーじとした記憶はあった。でもそれは  ケーキの話であって、決してそう言う意味ではなかったはずだ。 「瑛里華・・・もしかしてケーキの話を聞いてたのか?」 「ケーキ・・・え、えぇっ!」  驚きの声を上げる瑛里華。 「ショーツの話じゃなかったの?」 「いや、普通食堂で堂々とそんな話はしないだろう」 「そ、そんな・・・」  その場でぺたりと座り込んでしまう瑛里華。 「私のこの思いはなんだったのよ・・・」  目に涙を浮かべている。 「そんなことはないよ、瑛里華」 「孝平?」 「俺のために可愛く居てくれたんだろう? 俺はとっても嬉しいよ」 「本当?」 「あぁ、こんな事まで思って、してくれる彼女が居て俺は幸せだよ」 「本当に本当?」 「俺のこと、信じられない?」 「・・・信じる」  そう言って笑ってくれた瑛里華は、薔薇よりも綺麗だった。 「ふふっ、孝平はやっぱり苺が好きだったのね」 「えっと・・・」  瑛里華の勘違いだっただけなんですけど・・・ 「いいのよ、孝平が可愛いって言ってくれたんですもの」 「・・・瑛里華、その、お願いしていいか?」 「なぁに?」 「そのさ、それは二人だけの時にしてくれないか?」 「・・・うん、二人きりの時に穿くわね」
5月17日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS”薔薇の館” 「うーむ・・・」  仕事の手を休め突然唸りだした会長。  俺はどうしたのかと声をかけそうになったのだが、それを止めた。 「うーむっ!」 「・・・」 「むー!」 「唸っても無駄だ、伊織」 「つれないなぁ、せーちゃんは」 「せーちゃんは止めろと言っているだろう」  いつもの会長と東儀先輩のやりとりを聞き流しながら俺は仕事を進める。 「もぅ、せーちゃんはのりが悪いからここは支倉君に頑張ってもらおうか」 「兄さん、孝平の仕事の邪魔しないで」  副会長の注意をさらりとかわす、無視したとも言えるが。 「なぁ、支倉君。ここには花がないと思わないかい?」 「華なら二人もいるでしょう」  仕事の手を休めずにそう返答する。 「え?」 「えぇ!?」 「なんだ?」  突然あがったのは白ちゃんと副会長の驚く声。 「まったく、支倉君はプレイボーイなんだねぇ」  その会長の一言に俺が何を言ったのか今になって理解した。  ここで否定するのは楽だけど、それは二人がかわいそうだ、から 「・・・事実ですから」  事実を答えた。 「・・・」 「・・・」  背後で副会長と白ちゃんが息をのむ音が聞こえた気がした。 「まぁ、確かに可憐な華はここにいるけど、俺が欲しいのは花なのだよ、支倉君!」 「植物の花、ですか?」 「そう、生徒会の華は俺を飾り立ててはくれない! だから真の花が必要なのだよ!」  会長の語りにみんな押されていた。  副会長も生徒会の華と言われて悪い気はしないのか注意をしてこない。  東儀先輩は・・・ 「白、お茶を頼む」 「はい、わかりました。少々お待ちください」 「それとだな、そこの窓を開けておいてくれ」  良くも悪くもマイペースだった。  いや、すでに諦めているのだろう・・・ 「それでだな、監督生室の前の土地に花を植えようと思うんだ」 「何を植えられるんですか?」  お茶を会長の机に置きながら白ちゃんがそう訪ねる。 「俺の美しさを引き立たせる花、それは薔薇だ!」 「薔薇・・・ですか?」 「そう、薔薇だよ。階段の所に薔薇を植えると監督生棟も輝くと思うんだ」  俺は想像してみる。  監督生棟の入り口前に咲き乱れる薔薇。  確かに、この建物に似合うかもしれないけど・・・ 「薔薇って手入れとか凄く大変だったと思いますけど」 「あぁ、その辺は園芸部に手伝ってもらえばいいさ」 「伊織の場合、手伝ってもらうじゃなくて丸投げだろう。  それにそんな予算などないぞ」 「予算? それは宣伝費から出せばいいさ」 「宣伝? 何を宣伝するの、兄さん」 「もちろん、生徒会さ」  生徒会を宣伝する? 「俺達は9月には引退だろう? その後の生徒会の役員を募集するのさ」 「それと薔薇がなんの関係があるんですか?」 「ちっちっちっ、古今東西生徒会の館は薔薇って決まりがあるのさ」 「そうだったんですか、勉強になります」 「白、伊織の言うことを真に受けるな」  確かに俺も生徒会=薔薇なんて図式聞いたこと無かった。 「そこでだな、次の世代の女子生徒を獲得するには、こうするのさ」  そう言うと会長は突然俺に近づいてくる。  そのまま俺の頬に手をあてると自分の顔を近づけてくる。 「か、会長!? 近いって!」 「さぁ、支倉君。兄弟の契りをしようじゃないか。  誓いの印にこれを受け取ってくれ!」  そう言うとポケットから取り出したのはロザリオだった。 「さぁ、支倉君、いや、孝平君!」 「いい加減にしなさーい!!」  副会長のクリーンヒットが会長をとらえる、そのまま会長は窓の外に  吹き飛ばされていった。 「はぁはぁ、まったく兄さんは今度は何に感化されたのかしら」 「そうだな、でも伊織の言うことはあながち間違っていない」 「征一郎さん?」  意外なところからのフォローが出て副会長が驚いた。 「俺達が引退した後のことを伊織なりに考えているのだろう。  悪ふざけは過ぎたがな」 「兄さん・・・」  会長と東儀先輩が居なくなった生徒会。  当たり前の未来の事が全然想像出来なかった。  まだ先の話だから、そう、このときは思っていたからだ。 「それよりも瑛里華、伊織を吹き飛ばした責任はとってもらうぞ」 「・・はい?」  東儀先輩が差す先に、会長の仕事が残っていた。 「・・・ねぇ、支倉君も手伝ってくれるわよね?」 「それは副会長のせきに・・・」  副会長の眼が紅く光っていた。 「・・・謹んでお受けいたします」 「よろしい」 「頼むぞ、支倉」 「・・・戻ってきますかね、会長」 「兄さんが戻ってくると思う?」 「・・・がんばります」
5月15日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS”策略の影” 「さぁ、会議を始めるわよ!」  監督生室にそろった役員は4名。  会長の瑛里華に副会長の俺、書記の白ちゃんに役員の紅瀬さん。  その紅瀬さんが挙手をする。 「千堂さん、その前に聞きたいことがあるの」 「何かしら、紅瀬さん」 「私はいつから正式に役員になったのかしら?」 「いつからって、あの時からに決まってるじゃない」 「私は正式に役員になった記憶は無いわ」 「まぁまぁ、それじゃぁ非常勤役員ってことで会議始めるわよ」 「・・・支倉君、どういう事かしら?」  紅瀬さんの矛先は俺に変わった。 「ごめん、紅瀬さん。会長は一度突撃し始めたら止まらないから  諦めて協力してくれ」 「まったく、彼女の手綱くらいちゃんと握りなさい」  ふぅ、とため息をつく紅瀬さん、どうやら諦めたようだ。 「孝平? 何か不穏な発言があったことは後回しにしてあげるわね♪」 「ひゃぅ」  瑛里華の発言に白ちゃんが怯えていた。  どっちかというと怯えたいのは俺の方だと思う・・・ 「それでは、今日は生徒の要望を確認するわよ」  そう言って取り出したのは要望目安箱と書かれた木箱だった。 「では、早速開けるわね」  鍵を開けて中から要望の書かれた用紙を取り出す。 「あれ? これは何でしょうか?」  取り出された用紙の中に封書が入っていた。 「よほど見られたくない要望でも書いてあるのか?」  俺はその封書を手に取る。  表には修智館学院の住所が書かれており、宛先の最後にわざわざ  要望目安箱行き、と明記されていた。  切手も貼られており消印があることから、これは郵送されてきたという事  なんだろう。 「・・・ねぇ、孝平。私、嫌な予感するんだけど」 「奇遇だな、俺も嫌な予感がするんだ」 「やっぱり開けないと駄目かしら?」 「このまま放置しておきたいが、開けないと駄目だろうな」 「・・・」 「・・・」 「「ふぅ」」  二人そろってため息をついた。 「・・・じゃぁ、読むわね」  嫌そうな顔をしながら、瑛里華は封書の中にある用紙を読む。  もしただの便せんだったりメモ用紙なら無効として無視するつもりだったが  ご丁寧に用紙は生徒会が用意したものなので要望は有効だった。 「暑い日の会議は水着で行うのが良いと思います・・・ってなんなのよっ!!」  ばんっと机に用紙を叩きつける瑛里華。 「わぁ、懐かしいですね。以前の会議の時を思い出します」 「あぁ・・・あの時だな」 「まったく、こんな悪戯は無視よ」 「これ、続きがあるわよ?」  紅瀬さんが続きを読み上げる。 「要望を役員で相談もせずに破棄するのはどうかと思うぞ? だそうよ?」 「くっ!」  あの人はどこまで用意周到なんだ・・・ 「まずは実践あるのみだ、瑛里華! だそうだけど、どうするのかしら?」 「・・・いいじゃない、やってやろうじゃない!」 「瑛里華、落ち着け!」 「ここまで馬鹿にされてはいそうですか、なんて言えるわけ無いじゃない!」 「え、瑛里華先輩、落ち着いてください!」 「支倉君、白、紅瀬さん! 今日の会議は水着で行うわよ!!」 「・・・では、この案は購買に相談ということで」  その後、寮まで水着を取りに行き、監督生室で着替えた俺達は水着で  会議を続けていた。  監督生室は異空間となっていた。  その後の要望は生徒からの物ばかりでおかしい物はなく順調に  進められていった。 「これで最後ね、えっと・・・この格好ならパンツ見られないですむから  良かったな、瑛里華・・・ってぇ、そーゆー問題じゃないわよっ!!」  ばしっ、っとまたも机をたたく瑛里華。  ほんと、どこまで用意周到で、どこまであの人の思惑にこうも上手く  瑛里華ははめられるんだろうか・・・ 「ん?」  その時俺の携帯にメールの着信があった。 「なんだろう?」  とりあえず受信されたメールを読んでみる。 「スクール水着の裾から見える部分、パンツに見えると思わないかい?」  差出人は見るまでもない。  本当にあの人はどこかで見張ってるんじゃないかって言うくらい用意周到で  タイミングが良すぎるのだろうか? 「・・・」  確かに、修智館学院で採用されてる水着は裾があるタイプなので、そこから  覗く腰の部分は下着に見えないことは無い。  そう思うと、なんだか水着が扇情的に見えてくる。 「どうしたの、孝平?」 「あ、いや、なんでもない・・・」  さすがにこんな事他の人に言える事じゃない。  ここは俺の胸の中にだけしまっておこう。 「あら? メールの着信?」 「あ、私もです」 「私のもそのようね」 「・・・」  ものすごく嫌な予感がした、いや、もう予感というレベルじゃない。 「あ、俺用事思い出したからちょっと出かけてくる」  監督生室から逃げ出すのが一番だと瞬時に判断し、外へ出ようとして 「ねぇ、孝平。水着のまま何処へ行くのかしら?」 「・・・しまった!」  俺も水着姿、着替えないと外へは出られない。  まさかここまで計算済みだった、ということなのか? 「・・・会議は終わったよな? 俺着替えてくる」 「支倉君」  着替えを持って階下へ行こうと思った俺を紅瀬さんが止める。 「く、紅瀬さん・・・な、何かな?」 「今、私のことどういう風に見てたのか教えてくれるかしら?」  その言葉にびくっとする。  そしてそう言う反応をした段階で、俺の負けだった。 「支倉先輩、私も聞きたいです」 「そうね、私も聞きたいわ、孝平?」 「俺に拒否権は」 「あるわけ無いでしょう?」  といいながら微笑む瑛里華。 「そうね、今の貴方に拒否権なんてあると思う?」  まるで悪戯するおもちゃを見つけたような紅瀬さんの笑顔。 「支倉先輩・・・」  純真にまっすぐ見つめてくる白ちゃん。  俺に襲いかかってくる三者三様のプレッシャー。 「ふふっ、それじゃぁ会議を続けるわね」  瑛里華がそう宣言する。  会議が延長されるという事なら、俺は逃げるわけには行かなくなる。 「そうね、議題は・・・特定の男子生徒が女子生徒をどういう目で見ているか、  かしら?」  退路は断たれた。  俺の脳裏に、この様子をどこかで絶対楽しんでいる金髪の青年のさわやかすぎる  笑顔が浮かんだ。  ・・・恨みますよ、と心の中で言う。 「ふふっ、孝平。椅子に座りなさい、会議を始めるわよ」  生徒会に入って一番時間を長く感じる会議は始まった・・・
5月14日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS”無我夢中”  びゅぅ、と強い風が吹く。 「きゃっ!」  思わず声のした方を反射的に向いてしまう、そこにいた女子生徒のスカートが  風にまくられていて、ほんの一瞬だったが下着が見えてしまった。 「もぅ・・・」  その女子生徒は俺に気付くことなく去っていった。  俺が偶然とはいえ見てしまったことに気付かれなかった事は幸運なのか不幸なのか。  ただ・・・ 「・・・」  後ろを歩いていた瑛里華から不機嫌なプレッシャーを背中に感じて俺は冷や汗を  かいていた・・・  監督生室に着いてからも瑛里華は不機嫌なままだった。  このぎすぎすした雰囲気は胃が痛くなりそうだ。  幸い白ちゃんは今日はローレルリングの方で忙しくこれないと思う。  こういう雰囲気に敏感な白ちゃんが居ないことは本当に幸いだと思う。  書類を整理しながらどうやって謝ろうかと考える。  いや、なんで俺が謝らなくちゃいけないんだ? 悪い事したのか?  そりゃ見てしまったのは悪いかもしれないけど、今日は瑛里華は被害者に  なっていない。  じゃぁどうして瑛里華は不機嫌なんだ? 「支倉君、手が止まってるわよ?」 「あ・・・ごめん」  呼び方が支倉君になってるあたり、相当機嫌が悪くなっているな。  とりあえず仕事に集中するしかないな。 「あっ」  瑛里華が声をあげると同時に何かが落ちる音がした。 「もぅっ!」  どうやらボールペンを落としたらしい、瑛里華は机の下に潜り込む。  俺は手伝おうかと思ったがやめておいた。  この位置関係、俺が屈んでも瑛里華はこちらを向いてるはずだから  見えてしまう事はないけど、万が一の事もある。 「・・・」  机の下から出てきた瑛里華は不機嫌なままだった。  ぱさっという音がした。 「・・・ふぅ」  今度は瑛里華が書類を落としてしまったようだ。 「・・・」  無言でかがみ込む瑛里華。 「大丈夫か?」 「え、えぇ。そんなに枚数ないから大丈夫よ」  様子を見ようと椅子から腰を浮かべて・・・そのまま下ろした。  大丈夫というなら行くのを辞めておこう、前もこんな展開で見て  しまったから。 「・・・拾うの手伝ってもくれないなんて、支倉君は冷たいのね」  その言葉にカチンと来る。 「大丈夫だっていっただろう?」 「それでも手伝ってくれるのが男の子じゃないの?」  なんだか俺までいらいらしてきた。  瑛里華の為に気を使っているのに、これじゃその意味がない。 「そもそも瑛里華が集中してないのが原因だろう」 「何よ、手伝わない理由を私のせいにするの?」  その一言に頭に血が上っていく。 「そうだよ」 「な、なによっ! 私の気もしらないで!」 「しらないさ、勝手に不機嫌になって仕事をミスして。  俺が不可抗力に気をつけているのに、俺のせいになるっていうのか?」 「え?」  瑛里華が突然ぽかんとした顔になった。  その顔がさっきまでの不機嫌な顔から、一転笑顔に変わる。 「はは〜ん、孝平ったらそんなことに気を使ってたのね」  その態度の変わりように俺は毒気を抜かれていた。  それどころかいつの間にか恥ずかしいことを言ってしまった事に気付いた。 「そ、そうだよ・・・悪いかよ」 「えぇ、悪いわ」  肯定された。 「元は孝平が他の女の子の下着を見るからいけないのよ?」 「そ、それは不可抗力だろう?」 「それでもよ」 「じゃぁ、俺はどうすれば良いんだよ」 「そうね・・・こうすれば良いかしら?」  そう言うと瑛里華はスカートをたくし上げる。  今日はピンクと白のストライプか・・・頭の中の冷静な部分がそう認識する。 「今日は孝平の一番のお気に入りじゃないけど、孝平はこれも好きでしょ?」 「えっと、瑛里華・・・さん?」 「他の女の子の下着は見ないで、見たいならいつでも言って」 「あ、あの・・・?」 「ねぇ、孝平。下着ね、上下をあわせて付けてるの。上も確認、する?」  ごくりと、唾を飲む音が大きく室内に響く。 「他の女の子に目がいかないように、私に夢中にさせてあげるわ」  人間なのに瑛里華の眼が紅く光った気がした。  俺はその目に吸い込まれていった・・・
5月11日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS”成就” 「孝平、見つかった?」 「まだだよ」  監督生室の1階にある倉庫として使われてる部屋。  瑛里華と二人で過去の資料を探しに来ていた。 「これも違うわね・・・兄さんがちゃんと整理しないからよね、もう」 「東儀先輩なら整理してそうだけど」 「そうね、征一郎さんなら放っておかないと思うけど、なかなか時間が  取れなかったんでしょうね」  倉庫の状態は俺達だってわかっていた、けど今の生徒会のメンバーだけでは  整理する時間なんて取れない。  入り口付近に最近の資料を整理して置くのが精一杯だった。 「こっちの棚かしら」  瑛里華が更に奥の棚へと向かう。 「なぁ、瑛里華。一度戻らないか? これ以上探してると時間が勿体ない」 「そうね、出来れば過去の資料が欲しかっただけだし、戻りましょうか」  瑛里華が奥から出てくる、その時瑛里華のスカートが棚の端に挟まった。  スカートの端だけが棚に挟まり、瑛里華はそのまま歩いてこようとして 「え?」  スカートが思いっきりまくれた。  そこに見えるのは赤い小さなリボンがワンポイントの真っ白な下着だった。 「やんっ!」  慌てて瑛里華はスカートを押さえようとした、その瞬間ビリっと嫌な音がした。 「・・・」 「・・・」  監督生室は静かな、そして重い空気が流れていた。  スカートは側面が破れてしまい、穿けない状態になってしまった。  瑛里華は今バスタオルを腰に巻いた状態で椅子に座っている。  制服姿の瑛里華、でも下はバスタオルを巻いている。  それは違和感を感じる、より以上に、異常を感じてしまう。  エロティックとかエロティシズムと言うのだろうか。 「あ、あのさ、瑛里華・・・その、何度もごめん!」  俺はこの沈黙に耐えれず頭を下げる。 「いいのよ、孝平。不可抗力ですもの」 「瑛里華が良くても俺が良くない、こう何度も瑛里華の・・・その、下着を  見てしまってごめん」 「ふふっ、孝平は真面目よね」  瑛里華の様子がおかしい。  いつもなら怒ったり涙ぐんだりする展開なのに、今日はそれがない。 「瑛里華?」 「今日はいいのよ、だって・・・孝平のお気に入りですもの」 「あ・・・」  そういえば、以前俺が誠心誠意選ばされた下着は、今日瑛里華が  穿いている物だった。 「今日は暑いわ、スカートだけだと変だから上も脱いじゃおうかしら?」 「え、瑛里華、それは勘弁してくれ」 「どうして?」 「気になって仕事が出来なくなる」  ただでさえ今の状況じゃ仕事が出来なくなっている、それ以上の格好に  なると押さえが効かなくなるだろう。 「それじゃぁ、気にならないようにしましょうか?」 「え、瑛里華・・・さん?」  妖しい笑顔をした瑛里華が立ち上がる。  その弾みで腰に巻いてたバスタオルは床に落ちる。 「ふふっ」  微笑みながら近づいてくる瑛里華。 「今日はいいのよ、孝平。だって、孝平のお気に入りですもの」  上着を脱いで、シャツのボタンを外しながら迫ってくる。 「瑛里華・・・」 「孝平・・・女の子にこれ以上させるつもり?」
5月10日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS”桃色吐息” 「ちょっと手間取っちゃったな」  商店街の会長の家へのお使いを終えた俺は学院へと急いでいる。  別に慌てる理由は無いのだが、生徒会の仕事はまだたくさん残っている。 「瑛里華はゆっくりしてきても良いって言ってくれたけど・・・」  白ちゃんはローレルリングの活動に行ってるから今は一人で仕事をしているはずだ。 「そうだ、何かおみやげを買っていくか」  時間も時間だし、お菓子でも買って行けばちょうどお茶の時間に出来るだろう。 「瑛里華が好きそうなお菓子は」  甘い物ならなんでも好きそうだけど、やっぱりあれかな。 「あるかどうかわからないけど、行ってみるか」 「なんとかなるもんだな」  瑛里華お気に入りのいちご屋の限定ショートケーキ、白ちゃんの分を含めて  3つ買うことが出来た。 「驚くだろうなぁ」  瑛里華が驚く顔を思い浮かべると自然に頬が緩んでしまう。  足取りも軽く、俺は監督生棟へと向かった。 「ただいま、瑛里華」 「あ、お帰りなさい」  部屋の中に瑛里華の姿は無く、声だけが還ってきた。 「?」  声は机の下の方から聞こえてきた。 「何してるんだ、瑛里華?」 「書類を落としちゃったのよ」  俺は机の下をのぞき込みながら瑛里華に訪ねる。 「俺も手伝う・・・」  机の下を見た俺は固まった。  瑛里華が四つん這いになって書類を回収している。 「大丈夫よ、もう終わりだから」  瑛里華は俺の方を見ず書類を拾っている、それは俺に背中を向けているから。  いや、この場合お尻を向けているわけで。  そしてこの姿勢、そこに見えるのはピンク色の・・・ 「孝平、どうしたの・・・って!」  ごんっ! 「いったぁぁいっ!」  俺の目線に気付いた瑛里華は慌てて立ち上がろうとして、机に頭をぶつけた。 「うぅ・・・」  涙目で俺をにらんでいる瑛里華。 「・・・言い訳はしない、悪かった、ごめん、瑛里華」  俺は頭を下げる。  ここ数日で何回目の不可抗力だろうか?  神様、俺は何か悪いことしましたか?  それとも良いことをしたご褒美でしょうか?  と、思わず現実逃避したくなる。 「なんでなのよ・・・」 「瑛里華、その・・・ごめん!」 「なんで・・・なんで今日なのよ!!」 「・・・は?」  瑛里華は涙目のまま何かに怒っていた。  少なくとも俺に怒ってる訳ではなさそう・・・なのかな? 「瑛里華?」 「なんで今日に限って見られるのよ!! 孝平のお気に入り穿いてないのに!」 「・・・」  そういえば、以前瑛里華の部屋でお気に入りを選ばされたっけ。  その時に俺が汗だくになりながらかろうじて選んだ物では無かった。 「その・・・ともかくごめん、瑛里華」 「・・・はぁ、もう良いわ」 「瑛里華?」 「許してあげるって言ってるの、そのケーキに免じてよ」 「あ、あぁ・・・ありがと、瑛里華。今後気をつけるよ」 「えぇ、気をつけてちょうだい」  この場は何とか収まりそうだ。 「それじゃぁお茶にしましょうか」 「そうだな、俺がいれてくるよ」 「お願いね、孝平」  俺は給湯室に行って紅茶の準備をする。 「今度あれと同じの買いに行こうかしら。  そうすればいつ見られても大丈夫よね」 「ん? 瑛里華、なにか言ったか?」 「何でもないわ、孝平。早く紅茶お願いね」 「あぁ、わかった」
5月6日 ・FORTUNE ARTERIAL sideshortstory「最高の焼きおにぎり」 「支倉先輩、お疲れ様です。あの・・・差し入れです!」 「ありがとう、楽しんでる?」 「はい! もし良かったら私たちと一緒に食べませんか?」 「そうしたいんだけど、今は俺が本部にいないといけないからね」 「・・・はい、残念です」 「そんな顔しないで、みんなが楽しんでくれないと俺も楽しめないからさ」 「は、はい! ありがとうございます!」  失礼します、と元気良く挨拶して女の子のグループは戻っていった。 「食べ物だけは困りそうにないんだけどな・・・」  俺は本部席から回りを見回す。  修智館学院の敷地内にある公園、その池の畔に並べられてるのは鉄板。  ゴールデンウィークの中日の今日、去年と同じくバーベキュー大会が  白鳳寮と生徒会の共催で開催された。 「孝平くん、相談があるんだけどいいかな?」  陽菜から受けた相談は、ゴールデンウィークの話だった。 「去年もそうだったけど、今年も帰れない生徒が多いと思うの。寮に残った  みんなと楽しい思い出が作れたらいいなって思うの」 「なら今年もやるか、バーベキュー大会」 「去年と同じイベントでも大丈夫かな?」 「やってみないとわからないさ、もし人が集まらなかったら俺達だけでも  やろうぜ、楽しい思い出づくりをさ」 「孝平くん・・・うん、ありがとう!」  企画を掲示板に張り出したら思った以上の反応を得ることが出来た。  俺は生徒会の仕事の合間に、陽菜は美化委員と寮長の仕事の合間に準備を  進めて、今日に至った。 「確かに成功してるんだけどなぁ・・・」  俺は本部に残って差し入れられた焼きそばを一口食べて・・・  誰にも見られないようにため息をついた。  俺の後ろの机には野菜炒めや串に刺さった肉、炒飯等鉄板で出来る料理が  かなりの数が差し入れられていた。 「あら、もてるじゃないの? 副会長」  さっき様子を見に来た会長にからかわれるほどだった。  その会長は今は料理に忙しい、串に刺した肉を焼いては目の前に列を作ってる  男子生徒に配っている。 「確かに差し入れは嬉しいんだけどさ・・・」  一番食べたい手料理が食べれないでいた。  俺はある方向に視線を向ける、そこは美化委員会のメンバーが集まって  料理をしてるグループだった。  陽菜は、委員会のメンバーに囲まれて楽しそうに料理をしている。  そしてその回りにはやはり男子生徒が集まって、料理をもらっていっている。 「ほら、そこのキミ、肉ばかりじゃ駄目だぞ? ちゃんと野菜も食べないと  私みたいに大きくなれないぞ?」  そう言うかなでさんは大きいとは思えないんですけど。 「・・・へ?」  なんでかなでさんが居るんだ?  その時黄色い声援が聞こえた、その方向を見ると 「俺の愛を込めて焼いたリンゴを堪能してくれたまえ!」  金髪のイケメンこと元会長が何故か調理をしていた。 「・・・今さらだよな」  卒業してもお祭り好きな二人のことだ、どこからか話を聞いて  駆けつけたのだろう。 「まぁ、みんな楽しんでくれてるならいいか」  そう、俺と陽菜が企画したバーベキュー大会、寮に残ってる生徒が  笑顔で楽しんでくれたのなら、大成功だ。 「・・・はぁ」  気が付くとため息をついていた。 「ん・・・」  このとき陽菜が俺の方を見て、少し悲しそうな顔をしていたことには  気付かなかった。 「お疲れ様、孝平くん」 「陽菜こそお疲れ様」  夜、俺の部屋で陽菜は紅茶をいれてくれた。 「陽菜、今日の企画は大成功だったな」 「うん、みんな喜んでくれてたものね」 「あぁ」 「・・・」  会話が途切れる。 「ねぇ、孝平くん」 「なに?」 「孝平くんは・・・楽しかった?」  ・・・そりゃ楽しかったに違いない、けど。 「ごめん、陽菜。正直に言うと楽しみきれなかった」 「謝ることなんてないんだよ? 楽しめなかったのは私の力不足が原因だから」 「それは違う!」  俺は否定した。 「陽菜は頑張ったよ、参加したみんなが笑顔で居たのが何よりの証拠だよ」 「ありがとう、孝平くん」  笑顔でお礼を言う陽菜、でも表情は寂しそうだった。 「陽菜?」 「でも、私は一番楽しんで欲しかった人が楽しめなかったの。だから私のせい」 「違う、俺は・・・俺のわがままだから」 「孝平くん?」  そう、これは俺のわがまま。だって俺が楽しめなかった理由、それは・・・ 「食べたかったものが食べれなかったからだよ」  俺は顔を背けながら理由を答えた。 「私もそうなの」 「え?」  俺は陽菜の顔を見る。 「私もね、食べて欲しかった人に食べてもらえなかったの  だからね、私も楽しみきれなかったの、やっぱり私の力不足だね」  陽菜の言う事は俺の言うことと同じじゃないか?  ならば・・・ 「なぁ、陽菜。今からおにぎり焼いてくれないか?」 「え? でも・・・」 「ご飯ならあるから」  本部に用意されてた役員用のご飯、俺は手つかずだったので持ち帰ってきていた。 「だいじょうぶなの?」 「陽菜が作ってくれた物なら別腹さ、だから頼む!」  俺は頭を下げる。 「孝平くん、頭を上げて」  俺は言われたとおりに頭をあげる。 「お願いするのは私の方だよ、孝平くん。  私の作ったおにぎり、食べてくれる、かな?」 「もちろんだよ、一生食べ続けたいくらいだよ」 「え? も、もぅ・・・」 「・・・あ」  俺の答はまるでプロポーズみたいだって事に気付いた。 「あ、えっと、その、他意はなくて、その本心って言うか・・・」 「くすっ、ふつつか者ですがよろしくお願いします、かな?」 「こ、こちらこそ!」 「・・・ふふっ」 「・・・ははっ」  なんだかおかしくなって二人で大笑いしてしまった。  そして二人だけの鉄板パーティーが始まった。  それは昼間のイベントと比べればささやかな物だったけど、  今日一番の楽しい思い出となった。
5月5日 ・夜明け前より瑠璃色な Another Short Story -if- Intermission Episode 「Moonlight Cradle」  あれからどれくらいの時間が経ったのだろうか・・・  きっと1秒も経ってなく、そして何年も過ぎたのだろ。  枯れるまで涙を流し、声が出なくなるまで叫んで、それでも私の時間は  全く流れていない。 「・・・」  何もする気が起きなかった。  私が地球に、満弦ヶ崎におりた記録はターミナルから観測して記録してある。  タツヤと初めて海に行った記録、麻衣に学院を案内してもらった記録。  タツヤに抱かれた時の記録。  もう何度見たのだろう?  そして今回何度目の再生だろうか? 「・・・?」  記録のインデックスを見ているとき、異変を発見した。 「・・・おかしいわ」  初めてタツヤがターミナルに迷い込んだあの日、観測したログによると  8人のタツヤが跳ばされて来て、そして7人のタツヤはそれぞれの世界へと  還っていった。  残ったタツヤは、私との出会いを運命づけられていたタツヤだった。  なのに、今見たログの記録ではその人数があの時と違っている。 「あの時跳んできたのは8の世界だけだったはず」  なのに、数値は10に増えている。 「アクセス」  ほんの僅かな認識の時間をおいてメインシステムが答える。 「こちらメインシステムです。シンシア・マルグリット主席研究員と  認識しました」 「タツヤがターミナルに跳ばされたときと今でログが違うのはどういうこと?」  ・  ・  ・ 「どういうことなのよ・・・」  ログは最初から10人のタツヤが跳んできた事になっていた。  私の記憶が間違っていたと言うことになってしまっている。  でもあの時確かに跳んできたのは8人だったはず。  それでは、増えた2人のタツヤは何処の平行世界のタツヤだったのだろう?  記録を開けようとする。 「その記録はロックされています」 「え? どうして・・・?」  現在ターミナルには私しかいない。私が最高責任者だ。  その最高責任者の私がアクセスできない領域がある、そんな訳がない。  最高責任者がアクセスできない領域を設定できるのは私以上の権限を持つ人のみ。 「ありえないわ」  私しか居ない世界で私以上の権限の持ち主って誰なの?  ・  ・  ・ 「あっ」  気付くと時間が相当経過していたみたいだった。 「タツヤにも言われたっけ・・・」  考え事をすると頭が全部そっちにいっちゃう質で、タツヤも呆れてたっけ。 「もう一つはどうなのかしら?」  手を付かずにいた、もう一つの記録を開けてみる。  こちらの記録は見ることが出来た。 「・・・え?」  それは、タツヤの苦悩の記録だった。  お世話になったタツヤの家族、その家族と関係をもってしまった世界。  同時に二人の女性から愛され、そして愛してしまった。 「・・・っ!」  私はその記録を閉じる。  これはタツヤのプライベートな記録だ、私が見て良い物ではない。 「・・・ううん、違うわ」  自分に言い訳するように独白する。 「私は見たくないだけなんだ、タツヤが他の人を愛する記録を・・・」  タツヤは私を愛してくれた、私の為を思ってターミナルへ送りだしてくれた。  そして私はタツヤを愛している。  そのタツヤと私が出会わない世界・・・ 「それでも、私はタツヤと出会った。私の中にある記憶は本物だから・・・」  だから私はここで人類を見守っていく、あの時の研究室の仲間の犠牲を無駄に  しないため。  そして何よりタツヤが居る世界を守るために。 「・・・このデータもそう言う世界なのかしら」  私が開けられない記録。  巧妙にプロテクトされてしまっている、おそらくはタツヤに関する記録。 「・・・」  さっきと同じく私以外の誰かと結ばれたタツヤのいる世界の記録だと思うと  データを破棄してしまいたくなる。 「身勝手ね」  私の愛したタツヤだってずっと一人で居る訳じゃないだろう。  あの世界できっと誰かと結ばれて幸せに・・・ 「本当に、身勝手よね・・・私」  枯れたはずの涙が流れるのがわかった。 「身勝手だけど、放っておく訳にはいかないわ」  涙を拭いて、このデータの解析を始める。  いつかターミナルを見つけてくれるであろう、その時まで時間はまだ  たくさんあることだろう。  その時代にターミナルを引き渡すとき、解析不能のデータがあってはならない。 「それに・・・」  タツヤのデータを他の誰かに解析なんてさせたくなかったから。 「頑張ろう、お姉ちゃんとタツヤの為にも」  私はコンソールに手を伸ばした。
5月3日 ・FORTUNE ARTERIAL sideshortstory              「楽屋裏狂想曲〜こーへーの嗜好?〜」 「ねぇ、こーへー。大事な話があるの」  談話室でくつろいでいた俺の所に真剣な顔をしたかなでさんがやってきた。 「大事な話、ですか?」 「うん、あのね・・・」  かなでさんの真剣な表情に俺は緊張する。 「こーへーってパンツまにあ?」 「・・・は?」  かなでさんの質問は俺の予想なんか出来ないレベルの物だった。 「だから、こーへーはパンツ好き?」 「えっと・・・」  一瞬思考が停止してた俺に再び同じ質問がされる。  どう答えようか考える。  ・・・というか答える必要あるのか? 「ね、こーへー。答えて」 「・・・俺だって健全な男子ですから、興味が無い訳じゃないです」 「むむ、なんか上手く逃げられた気がする、けど興味はあるんだよね?」  上手く答えたつもりだったが、かなでさんの方が一枚上手だった。  結局答えなくては行けない状況に追い込まれた。  だからといって素直に答える事はない、なんとか話題を逸らさないと! 「そ、それでかなでさんは何がしたいんですか?」 「いやね、最近こーへーが女の子のパンツをのぞき見したっていうたれこみが  あったの、その真実を知るためにホシを追いつめようかなって思ったの」  最近・・・って瑛里華との不可抗力の件か? 「ほら、こーへーには幼女誘拐殺人事件の疑いもあるでしょ?」 「殺人って人なんて殺してないですから!」  第一、伽耶さんの場合はこっちの命の方が危ないだろう。 「誘拐は否定しないの?」 「誘拐もしてません!」 「まぁ、それはおいといて」  おいとくんですか・・・ 「それでね、こーへーが犯罪に走らないようお姉ちゃんが協力することにしたの」 「いまいち主旨が理解できないんですけど・・・」 「だから! こーへーがパンツ好きなら私ので我慢してもらおうかなぁって・・・」  そう言いながら顔を赤くするかなでさん。  そこで恥ずかしがられるとこっちも恥ずかしくなってくる。 「だからね、こーへー」  かなでさんは俺の手を握る、そして何かを持たせる。 「・・・これで、我慢して・・・ね」  俺は手の中にある物を見る。  それは凄く面積の小さい、縞模様の布だった。 「・・・って何持たせるんですかっ!」  俺は慌ててそれをかなでさんに押し返す。 「私のじゃ駄目なの?」 「そう言う問題じゃないのよ」 「きりきり!」  いつのまにか談話室に紅瀬さんがやってきていた。  まだ制服姿だということは、どこかに出かけてたのだろうか? 「悠木さん、孝平は別に下着が好きという訳じゃないのよ」 「そうなの?」  いや、そこで驚かれても困るんですけど・・・ 「だって、彼は着ている方が燃えるんですもの。いつも全部脱がさないのだから  確かよ」 「と、いうことは・・・」 「そう、それはただの布きれでしかないのよ、悠木さん」 「がーーーーーん!」  ショックを受けて膝を落とすかなでさん。  っていうか、俺って一体どういう風に見られてるんだろう? 「それじゃぁ、孝平。部屋でね」  そう言うと紅瀬さんはいつもより勢いよく振り返る。  綺麗な黒髪がぱっと舞う、そしてスカートもふわって広がる。  その下に隠されている、黒いストッキングに包まれたお尻が目に映る。 「・・・」  紅瀬さんは一瞬動きを止めると、足早に談話室を去っていった。 「そっか、こーへーは着ている方が好みだったんだね」 「か、かなでさん?」 「よし、私も今からスカートに着替えて穿き直してくる!」  そう言うとかなでさんも談話室から出ていった。 「・・・待ってないと後で怒られそうだなぁ」  だからといって待ってる義理も無い、というか待っていたらどうなるか  想像したくない。 「もう部屋に戻って寝よう・・・」  かなでさんが談話室に戻ってくる前に俺は部屋へと戻った。 「遅かったのね」 「・・・」  そこには紅瀬さんが居た。ここ、俺の部屋だよな・・・ 「・・・孝平、あなたはそう言う趣味だったのね」 「何のことだ?」 「だから、これを・・・」  紅瀬さんは俺の手に何かを握らす、この展開はさっきと同じ。 「別に貴方がどういう趣味を持っていても構わないわ」  おそるおそる確認すると、俺の手の中には何故か暖かい紫色の  布らしきものがあった。 「でも、他の女のは嫌よ、私のを使って」 「だ、だから俺は別に下着が好きって訳じゃないから!」 「知ってるわ」 「だったら・・・」 「それでもよ、孝平。だから、下着以外はまだ脱いでないわ」 「だからどうしてそうな・・・」  下着以外は脱いでない・・・ということはやっぱり俺の手にあるこれは・・・  そうだとすると今、紅瀬さんは・・・ 「ねぇ、孝平・・・私じゃ駄目、なの?」  紅瀬さんの少し不安そうな瞳に俺は吸い込まれそうになる 「私を見て、感じて、孝平・・・」
4月29日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS”目に毒なカラフル” 「お詫びって言われても」  ここ数日、不可抗力とはいえ瑛里華に恥ずかしい重いばかりさせて  しまっている。  瑛里華は怒ってないとは言うものの、あまり機嫌は良くなかった。 「何度も言うけど別に私は怒ってないのよ? ・・・不可抗力だったし」 「例え不可抗力でも瑛里華が恥ずかしい思いをしたのは事実だから」 「確かに恥ずかしかったけど孝平だから・・・」 「え?」 「あーもぅ、言いたいことが違うの! 私は怒ってないの!」 「じゃぁなんでそんなに機嫌が悪いんだよ」 「・・・別に」  そう言う瑛里華は明らかに機嫌が良くなかった。 「とにかく、俺は瑛里華にお詫びがしたいんだ」 「だから、お詫びされるようなことは何もないのよ」  俺は別に瑛里華を困らせたい訳じゃない、ただ単に機嫌が悪い瑛里華を  見ていたくないだけだった。 「それに、機嫌が悪いっていうのは孝平のせいじゃないんだから」  本当かどうかわからないがそう言われると俺はどうしようもできない。  だから、方針を変更する。 「わかった、それじゃぁ瑛里華、デート行こう」 「はい?」 「お詫びも機嫌も関係ない、瑛里華。今度の休みにデート行こう」 「え? えっと・・・」 「嫌か?」 「嫌な訳ないじゃない!」 「よし、決まりだ。瑛里華、今度の休みは瑛里華の好きなところに行こう」 「え、えぇ・・・」  機嫌が悪い理由が俺に無いのなら、俺はどうしようもない、けどこれで  少しは気分転換になると思う。  それに最近生徒会の仕事ずくめでデートらしい事はしてないから、俺も  デートしたいと思ってた所だった。今度の休み、晴れるといいな。 ANOTHER VIEW 瑛里華 「まったく、孝平ったら・・・」  確かに身体がだるく機嫌が悪かった私だったけど、デートの誘いを  受けた事であっさりと機嫌は良くなっていた。 「それでも悔しい事には変わりないわね」  そう、怒ってるのではなく悔しかったのだ。  私ばかり見られてしまったことも、見られても良い下着を穿いてなかった事も。  そしてデートで簡単に機嫌を良くなってしまう単純な私自信も。  その時、ちょっとした反撃を思いついた。 「孝平をあのお店に誘ってみようかしら」  孝平、どんな反応するのかしら? ANOTHER VIEW END 「おまたせ、さぁ行きましょうか」  寮の前で待ち合わせた俺達は早速出発した。 「今日は私につきあってくれるんでしょう?」 「あぁ、一日つきあうよ、瑛里華」 「ふふっ、覚悟してね」 「まかせとけ」  瑛里華と俺は海岸通りの方へと歩いていく。 「何処行こうか?」 「そうね、最近の私のお気に入りのお店があるの。まずはそこからでいい?」 「あぁ」 「ふふっ」  意味ありげな瑛里華の笑顔、その意味に気付くまで時間はかからなかった。 「あの、瑛里華・・・さん?」 「なに、孝平」 「ここはなんのお店でしょう?」 「見てのとおりよ」  ショッピングモールの一角にある、そのお店の入り口の前で俺は固まっていた。 「最近孝平に見られてばかりでしょう? だから孝平の好みのを選んでもらおうと  思ったのよ。さぁ、行きましょう♪」  俺の手を引っ張って入ろうとする、そのお店。  外から見てもわかる、カラフルで小さめな布地ばかりが展示されてるそのお店は  ランジェリーショップと呼ばれる店だった。 「瑛里華、勘弁して!」 「あら、今日一日ずっとつきあうんじゃなかったのかしら?」 「そうは言ったけど、ここは男にとって致命的な場所だ」 「あら? 孝平は一度言った言葉を取り消すのかしら?」 「ここ以外ならどこでもつきあうから勘弁してください」 「・・・くすっ」  突然笑い出す瑛里華。 「もぅ、孝平ったら必死なんだから」 「・・・もしかして騙した?」 「騙す気なんてないわよ? でもそこまで言うならこのお店は遠慮してあげるわ」 「・・・ありがと、瑛里華」  デートの最初の店で一気に疲れたが、その後は二人で楽しい1日を  過ごすことになった。  そう、寮へ帰るまでは・・・ 「ねぇ、孝平。今日は一日つきあってくれるんでしょう?」 「あぁ、そのつもりだけど」 「それじゃぁ私の部屋へ来て」  瑛里華に誘われるまま、瑛里華の部屋へとやってきた。 「来るの久しぶりだな」 「そうね、女子フロアへの規制は厳しいものね」  そう言いながら瑛里華はお茶の用意をしてくれた。 「はい、どうぞ」 「ありがとう、瑛里華」  二人でお茶を飲む、そんな優しい雰囲気。 「ねぇ、孝平、お願いがあるの」 「な、なに?」 「実はね・・・」  そう言うとベットの上に瑛里華はある物を並べた。  それは、布地の少ないカラフルな物・・・ 「さっきのお店だけど、最近の私のお気に入りって言ったわよね。  前にこれだけ買ってみたの」  白色・水色・黄緑色・桃色・黒色・薄紫色・ストライプ・レース付き  リボン付き・脇が紐等々、はっきり言って目の毒だ。 「どうせ見られるならやっぱり孝平の好みがいいと思うの。  だから、孝平が選んでね」 「・・・」 「私ね、孝平が選んでくれたらすぐ穿けるようにしてあるの」  瑛里華の眼が艶っぽい輝きを放つ。 「それって・・・」 「選んでくれたらそれを穿いてあげる、だから、ね?」
4月27日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS”風が強い日に” 「孝平、大丈夫?」 「大丈夫だって」  瑛里華と監督生室に向かう俺の両手にはたくさんの資料と書類が  入った紙袋がある。  職員室から持ってきたこの2つの紙袋、持っていこうとする瑛里華を  制して俺が二つとも持っていた。  代わりに瑛里華には俺の鞄を持ってもらっている。 「ねぇ、孝平?」 「大丈夫だって」  何度目かの瑛里華の問いかけ。それだけ心配してくれてるのはわかるけど  信頼されてないような気もしてしまう。  俺を見る瑛里華の顔、それを見ればそんな考えは吹っ飛ぶ。  純粋に俺のことを思ってくれて心配してくれてる顔だった。 「大丈夫だ、瑛里華。たまには格好良いところ見せないとな」  冗談交じりで返事をする。 「それなら大丈夫よ、孝平」 「それって今さらって事か?」  今さら格好つけても遅いってことだろうか? 「孝平はいつも格好良いわ」 「・・・」 「ふふっ、孝平照れてる?」 「そ、そんなことないぞ、俺はいつも格好良いんだからこんなことで  照れないぞ?」 「そう言うことにしておくわ」  瑛里華には敵わないな。  本敷地に入ると階段と山道が増える。  さすがに両手が重くなってきたが、それを悟られないようにする。 「もう少しよ、孝平。がんばって!」 「おう!」  そしてやっと見えてくる監督生棟。 「先に行って鍵開けるわね」 「頼む」  俺は一度紙袋を下ろす、両手の指を軽く解してから持ち直す。 「よし、ラストスパートだ」  紙袋を持って上を見上げたその時。 「きゃっ!」  強い一陣の風が吹いた。  その風は瑛里華を強く撫でていく。  俺は目を背けられなかった、強い風は瑛里華のスカートをめくっていて  そこに柔らかい線を描く瑛里華の可愛いお尻があった。  ・・・今日は水色か。  頭の中の妙に冷めた部分がそう、認識する。 「孝平!」  階段の上の方からスカートを押さえてる瑛里華。 「見たでしょ!」 「ごめん、瑛里華」  その問いに素直に謝り、頭を下げた。 「え? あ、その、そんなに怒ってる訳じゃないのよ? だから頭を上げて」  瑛里華のその声に頭を上げる。 「それでもこう言うときは目をそらすのが礼儀だろう、だからごめん」 「えっと、その見られるのが嫌って訳じゃないの、あーもぅ!」  やっぱり瑛里華は怒ってるようだった。  それだけのことを俺はしたのだから当たり前、か。  その時また強い風が吹いた。  俺はとっさに顔を逸らして目を閉じる。  瑛里華の方は確認していないが、ちゃんとスカートを押さえてる事だろう。 「見られるのならもっと可愛いの穿いてくれば良かった」 「瑛里華?」 「な、なんでもないわ」  何か言ったようだったが風が強く聞き取れなかった。 「ねぇ、孝平。一緒に行きましょう」 「そうだな、一緒に行くか」  瑛里華はスカートに気をつけながら階段を下りてきて俺の横に並んでから  改めて一緒に階段を登り始めた。
4月23日 ・バイナリィ・ポット SSS”不安” 「それじゃぁちょっと休憩入るな」 「うん、わかったよ」  よーいちは事務室へと休憩しに戻っていった。  お店の中を見回す。今日はお客さんがあまり入っていない。  フロア担当のさっちゃんも手持ちぶさたにしている。  なっちゃんはキッチンで新作のケーキを研究している。  佳澄さんは事務室でのお仕事。  そんな平和なバイナリィ・ポットの中で、わたしは少し沈んでいた。  その理由は解っている。それは・・・ 「よーいち・・・」  最近よーいちとの時間が全く取れないからだった。  そして、最近のよーいちは佳澄さんか千歳ちゃんと一緒にいることが多い。 「ねぇ、よーいち。何の話してるの?」 「あ、あぁ、ちょっとパソコンの事で相談してるんだよ」 「最近の洋一君は熱心よね、これでバイナリィ・ポットの将来は安泰かしら?」 「佳澄さん、からかわないでくださいよ」 「ふふっ」 「・・・こうなると思います」 「うーん、ちょっときついかも」 「よーいち、閉店の時間だよ?」 「え? もうそんな時間か・・・千歳ちゃんありがとう」 「いえ、こちらこそ」  よーいちは私を選んでくれた。  なのにこの不安は何だろう?  わたしがよーいちを信じてないから? ううん、そんなことはない。  でも・・・この胸の痛みは? 「なぁ、優希」 「なに?」  カプチーノと一緒の夜の散歩の途中、よーいちがわたしの顔をまっすぐに  見つめてくる。 「えっと・・なにか顔に付いてるのかな?」  見つめられてるだけで頬が熱くなるのがわかる。 「やっぱりな、優希。何か悩んでるだろう」 「え?」 「最近の優希はちょっと元気無かったからな。俺で良ければ相談に乗るぞ?」  ちゃんと私のこと見ていてくれたんだ。  それがとても嬉しかった、でもその原因を作ってるのもよーいちだった。  そこは減点、かな。 「もしかしてブレンドに行き詰まったか?」  さらに減点。ちゃんと見ていてくれるならわかると思うのに・・・  もう、鈍感! だけどそれを言うのはちょっと悔しいから。 「ううん、なんでもないよ」  なんでもない振りをする。 「そうなのか?」 「うん。わたしは大丈夫だよ!」 「優希がそう言うなら・・・でも、何かあったらすぐに相談しろよ?」 「それは店長としてかな?」 「・・・」  よーいちの声は小さかったから減点、でも答えは100点満点だった。
4月21日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS”にわか雨の日に” 「参ったな」  教室棟を出るとき、確かに降りそうだとは思ったけど、まさか  こんなに早く降りだすとは思っても見なかった。  本敷地への道のりの半分ほどで突然のにわか雨。  まるでバケツをひっくり返したような大雨だ。  手近な樹の下に逃げ込んだ俺だったが、雨宿り出来るほどの樹ではなく  少しずつ確実に雨に濡れていく。 「まずいな、どうする?」  鞄の中には持ち帰った書類が入っている、これを濡らす訳にはいかない。  俺は空を見上げる、心なしか雨が少し小降りになった気がする。 「・・・行くかっ!」  気合いを入れて俺は走り出した。 「なんとか鞄は死守したか」  監督生棟に着いた頃には俺はびしょ濡れだった。 「ふぅ」  一息ついてから階段を上がって部屋へと向かう。  とりあえず書類をおいた後どうしようかと考える。  此処には着替えはおいてないから、一度寮へと戻る事になるだろうか。  そう想いながら扉を開ける。 「参った参った・・・」 「え?」  扉を開けた先には瑛里華が立っていた。  それだけならいつもと同じ風景だったが、格好が違っている。  いや、厳密に言えば着替え中だった。  やはり雨に濡れたのだろうか。  濡れた髪が頬にまとわりついている。  着替えのためにシャツのボタンを外している、そのはだけた所から  見えるのが淡い緑のブラジャー、そしてすでに脱いでいるスカート。  そこにはブラとお揃いの色の下着が・・・ 「って、ごめん!!」  俺は慌てて扉を閉める。 「・・・やっちまったな」  俺は扉を背にしながらへたりこむ。  事故とはいえ、女の子の着替えを見てしまったのだ。  いくら恋人同士であって、何度も一糸纏わぬ姿を見たことがある仲で  あっても着替えは別である。  きっと瑛里華も怒ってるだろうな。 「孝平、もう良いわよ・・・」  部屋の中から瑛里華の声が聞こえる、心なしか声が低く感じる。  俺は覚悟を決めて、扉を開ける。  そしてすぐに頭を下げる。 「ごめん、瑛里華!」 「・・・」 「着替えを見てしまってすまない、ごめん!」 「いいのよ、孝平。だってこれは事故だったのだから」 「事故だとはいえ、見てしまったんだ、すまない」 「もぅ、孝平ったら」  なんだか呆れた声が聞こえてきた。 「別に私は怒ってないわよ、だって孝平になら見られたって構わないもの」 「瑛里華・・・ありがとう」  俺は下げていた頭をあげる。 「恥ずかしかったけどね、孝平ですもの」 「・・・」  俺は瑛里華の姿を見て言葉が出なかった。  雨に濡れた瑛里華は体操服に着替えていた。  白い体操服、その下の方から少しだけ見える赤いブルマ。  普段体育の授業で見る姿ではあったが、監督生室で見るといつもと雰囲気が  違って見える、というか艶めかしく見える。 「こ、孝平、そんなに見つめないで・・・」 「ご、ごめん・・・」  身をくねらせ胸を手で隠す瑛里華。  その仕草が妙に色っぽい。 「んっ」  突然瑛里華が色っぽい声をあげる。 「瑛里華?」 「な、なんでもないわ」 「そうか・・・」  なんだかいけない気分になりそうな頭を無理矢理切り換える。  俺は着ていた上着を脱ぐ、かなり濡れている。  シャツまでは濡れてないのが救いだった、スボンは裾がびしょ濡れだけど  脱ぐわけには行かないな。 「なぁ、瑛里華。雨が小降りになったら一度寮に戻らないか?」 「え?」 「瑛里華?」 「あ、えぇ、そうね・・・私も着替えが欲しいから戻ろうかしら。  さすがにこれだけだと風邪、ひいちゃうものね」  確かに最近暖かくなってきたとはいえ、雨に濡れた後に体操着だけというのは  身体に良くないと思う。  俺は窓から外を見る、にわか雨だったのか今は完全に上がっている。 「よし、一度戻るか」 「・・・」 「瑛里華?」 「あ、ごめんなさい。その・・・着ていく服が無くって」 「そのままで大丈夫じゃないか?」  体操着は着ているんだ、裸じゃないんだから大丈夫だと思う。  だが、瑛里華は恥ずかしそうに手で胸を覆っている。  その胸のラインを思わず見てしまう。 「孝平、見つめないで」 「ご、ごめん・・・」  思わず見つめた胸のライン、その時妙な違和感を感じた。  体操着が身体のラインをしっかりと映し出している、そんな気がする。  そういえば、瑛里華はびしょ濡れだったよな。  ついさっきの着替え中の記憶がよみがえる。 「もしかして」 「・・・」  俺は思いついたことを思わず声に出してしまった、そして最後まで  言うことは出来なかった。 「そうよ・・・着てないのよ」 「・・・」 「だから、このまま外に出たくないのよ、恥ずかしいから」 「そ、そうだよな・・・」  素肌に体操着だけなんてばれたらまずすぎるだろう。 「・・・」 「孝平?」 「な、ななんでもない」 「孝平、緊張しないでよ、私まで緊張しちゃうじゃない」 「すまん」  いつも仕事をしている監督生室、そこにいる俺と瑛里華。そこまでは  いつもの風景。  だが、瑛里華は体操着だけしか着ていない。  そのギャップに俺は緊張してしまっていた。 「な、なぁ、瑛里華。濡れてるけど俺の上着、着て戻るか?」 「え、えぇ・・・私のは駄目そうだからそうするわ」  俺は慌てて自分の上着を備え付けのタオルで拭いてから瑛里華に渡す。 「少し冷たいかもしれないけど、我慢してくれ」 「ありがとう、孝平」  瑛里華は俺の上着を羽織る。 「大きいわね」 「そうか? 普通だと思うぞ」 「ううん、大きいわ、そして暖かい・・・」  俺の上着を着た瑛里華、確かに瑛里華には大きく太股の所まで裾が  来ている。  その格好はまるで上着の下には何も着ていないような、そんな錯覚を  感じさせる。 「・・・」 「孝平、戻りましょうか」 「・・・」 「孝平?」 「あ、あぁ、そうだな」  監督生室を出た俺は瑛里華の前を歩くことにした。  後ろを歩くと瑛里華のお尻に目がいってしまうのと、俺の今の状態を  隠すため、だった・・・
4月19日 ・夜明け前より瑠璃色な sideshortstory 「約束の証」 「くっ・・・」  手に力が入りすぎている、焦ってる証拠だった。 「駄目だ、焦るな」  自分に言い聞かせる。  手に持つ小型のシャベルの取り扱いに細心の注意を払う。  掘り起こした土をはけで丁寧に取り除く。 「あっ」  思った以上にシャベルが深く突き刺さる。 「・・・ふぅ」  駄目だな、ここで休憩をいれることにしよう。  その場に腰を落とし、水筒から直接水を飲む。 「ふぅ」  一息いれて、回りを見る。  ここは朽ち果てた遺跡。過去の調査で何も発掘されずそのままに  放置されている。  だが、俺は此処に何かがあると思っている。  根拠は親父の書斎にあった資料だった。  付属時代のあの事件を機に、俺は考古学も勉強する事にした。  それが、同じ道を行く唯一の方法だと思ったからだ。  月学を修学しながら、考古学。二足の草鞋ではないものの、学生時代は  覚えることが多くて大変だった。  今はカテリナの研究室に籍を置きながらこうして遺跡の発掘もしている。  俺は持ってきている荷物に目を向ける。  あの中に入っている物を渡せるかどうか・・・  それは今日の結果にかかっている。 「だからといって必ず見つかる訳じゃないんだけどな」  今日の為に準備はしてきた、親父の書斎の資料から目星をつけここまで  こぎ着けたのだ。 「・・・良し、続けるか」  気ばかり焦る、良くないのは解っている。  遺跡から都合良く何かが発掘されるなんてことはあり得ない。  だけど・・・ 「今日くらいは都合良くても良いと思うぞ」  陽が暮れてくる。  この先は発掘作業は困難を極める。  もし何かが発掘されてた現場でチームを組んでの作業なら大型の照明を  持ち込んで夜通し行えるだろう。  だが、この遺跡には前例は無い、それどころか過去の調査で何もないと  いう結論に達している遺跡だった。 「駄目なのか・・・」  埋もれている木の棒らしき物を引き抜き、その先を掘り起こす。  ・  ・  ・  もう手元が暗くて見えない。  常識的にこれ以上の作業は不可能だった。 「現実は厳しいよな」  今日の作業を終了する事にした。  荷物の横に座り、水筒の水を飲み干す。  さっき掘り起こした木の棒を手で玩ぶ。  そういえば、あの時もこんな木の棒だったっけ。  これも遺失技術の産物なんだろうか・・・  そう思い返しながら、空を見上げる。  その時強い風が吹いた。  思わず目を閉じる。  風がやむと、背後に気配があった。  まさか・・・  俺は流行る心と不安を押さえるのに必死だった。  振り返ると、そこには誰もいなかったら・・・  でも、そこにいるはずのない人を早く目で見て確認したい。 「また、見つけた」  その聞き慣れた可愛い声。  ぶっきらぼうで、でも年頃に成長した彼女の柔らかさが声に現れている。 「これも、そうなのか?」 「そう」 「そうか・・・それで、今回も持っていくのか?」  前回、メダル大の金属片を発見したとき、彼女は突然現れた。  そしてそれを持ち去ってしまった。  せっかく発掘した物を・・・とは思わなかった。  それは危険な技術の産物、知り得る人物が保管するのが一番安全だからだ。 「必要ない」 「え?」  思わず振り向いた先に、彼女、リースは立っていた。 「それ単体では何も効果がない、ただの目印」 「あの時と同じ物か?」 「そう」  リースと最初にあって、最初に別れたあの時の目印。それと同じ物なのか。 「・・・」 「・・・」  お互い何も言葉が出ない。  リースはたぶん、発掘された物を確認しにきただけだろう。  そして、俺はリースを引き留めることは出来ない。 「そうだ、リース。ちょっとだけ良いか?」 「何?」 「リースはロストテクノロジーを管理してるんだろう?」 「厳密には違う」 「それでさ、忘れた物も一緒に持っていってくれないか?」 「忘れたもの?」  俺は鞄の中にある小箱を取り出す、今日の日の為に用意しておいた物だ。 「これはな、俺が過去に用意した、今では失われた物だ」  そう言ってリースに手渡す。 「・・・」  リースは戸惑っていた。俺の用意した遺失物。  ちょっと、というか盛大に遺失技術こじつけてるんだけどな。 「だから、リースが持って管理して欲しいんだ」  リースは注意深くその小箱を見てから、そのふたをあける。 「っ!」 「それはな、俺の隣の席の鍵だよ」 「・・・タツヤ、バカ?」 「今頃気付いたのか?」 「鍵が指輪の形な訳がない」 「解らないぞ? これでも過去に買った物だから今から見れば遺失技術で  作られた物かもしれないぞ?」 「・・・」  リースは呆れてるのか何も言わなかった。 「タツヤ」 「なんだい?」 「ありがとう」  リースがそう言った瞬間、強い風とともにリースの姿は消えていた。  ただの目印だといった、木の棒みたいな物と一緒に。 「・・・」  夜空を見上げる、そこには満天の星空と、綺麗な月が浮かんでいた。  その夜空に向かって俺は思いを込めて。 「リース、誕生日おめでとう」 「・・・んー」  もう朝か?  昨日夜遅くまで現場に居て帰ってきたのが深夜を過ぎてしまった。  そのままベットに倒れたまでは覚えてる。  達成感と心地よい疲れに身を任せて。 「・・・ん?」  その時異変に気付いた。  俺が眠っている横に誰かが一緒に眠っている。  昔なら麻衣だったかもしれない、だが今はそんな歳じゃない。  俺は布団をめくる、そこには・・・ 「リース!?」  下着姿のリースが丸まって眠っていた。  年頃の女の子の特有の丸みが俺の記憶と違う。  リースも成長したんだなぁ・・・ 「って、違う! リース?」 「・・・タツヤ、朝からうるさい」 「そ、それよりもどうして此処に?」 「タツヤが居て良いって言った」  そう言いながらリースは左手を差し出す。  そこには昨夜渡した指輪が、薬指にはまっていた。  あまりの展開に俺は言葉を失っていた。 「タツヤは危険」 「・・・は?」  だるそうに上半身を起こしたリースは危険と俺に言った。  意味が分からない。 「タツヤは短期間にロストテクノロジーのカケラを2個見つけた」 「あ、あぁ・・・」  確かに昨日のもそうであれば、2個目だった。  ただ、記録には残っていない。前回のも今回のもリースが持って  帰ってしまったからだ。 「タツヤは知りすぎた」  なんだか嫌な言葉が聞こえた気がする。 「だから、教団の監視が必要」 「・・・」  俺はその次の言葉を待った。 「勘違いしない、ワタシはずっと居る訳じゃない」 「でも、前よりは居てくれるんだろう?」 「監視が必要だから・・・」  そう言って顔を背けるリース。 「そうか、仕事を増やしちゃったな、ごめんな、リース」 「かまわない」  即答だった、それが俺は嬉しかった。 「そうそう、リース。まだ言ってなかったな」 「何?」 「朝の挨拶、おはよう、リース」 「・・・おはよう」 「それと、お帰り、リース」 「・・・ただいま」
4月17日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS”肌寒い日には”  ここのところ春を飛び越えて初夏と言えるくらいの陽気が続いたけど  一転、今日はかなり肌寒い。  よどんだ雲に覆われて、傘を差すほどじゃないけど霧雨が降っている。  気のせいかペンを持つ手がかじかんでいるような感じもする。 「ふー」  手に息をあてて軽く解す。 「孝平、寒いの?」  その様子を見た瑛里華が心配してくる。 「少し肌寒いかも」  監督生室は新敷地より高台にあるせいか、冬は冷え込む。 「暖房、いれましょうか?」 「いや、そこまでするわけにはいかないだろう」  この前の暑かった日のやりとりを思い出す。 「生徒の手本となるべき生徒会、ちょっと暑いからってだけでこの時期から  空調をいれるわけにはいかないわ」  そういう瑛里華の言葉を思い出す。  ・・・あれ?  この前は俺が空調をいれようと訪ねて瑛里華に断られた。  けど、今日は瑛里華から聞いてきた。  ということは・・・ 「瑛里華、寒いか?」 「大丈夫よ、これくらい・・・と言いたいけどちょっときついわ」 「やっぱり暖房いれよう」 「孝平が大丈夫なら私も大丈夫よ」 「俺は我慢できるけど、瑛里華に風邪をひかせる訳にはいかないからな」 「孝平・・・ありがとう、でも大丈夫よ」  まったく、瑛里華は我慢強いというか、強情っていうか。  こうなったら。 「なぁ、瑛里華。やっぱり俺も寒い。だから暖房いれてくれないか?」 「優しいのね、孝平」  そう言いながら微笑む瑛里華の笑顔の方が優しく見える。 「な、なんのことだ?」 「くすっ、私良いアイデア思いついちゃった」  そう言うと瑛里華は手元の書類を持って机を回り込む、そして俺の所へと来る。 「?」 「こうするの」  そう言うと瑛里華は俺と机の間に入り込む。  そしてそのまま俺の胸に背中を預けて座った。 「瑛里華?」  俺は後ろから瑛里華を抱きかかえて椅子に座ってる形となった。 「暖かいでしょう?」 「あぁ、そうだな」  思わず瑛里華を抱きしめる。 「暖かいわ」 「俺もだ」  瑛里華の体温を腕の中に感じる、身体だけじゃなく心まで温まる。 「それじゃぁ仕事始めましょうか」  瑛里華は俺の腕の中に居たまま、書類を見始める。  俺も机にから書類を手にとって作業を再開する事に・・・ 「うっ」 「孝平?」 「い、いや、なんでもない」  瑛里華の身体が動くと、その動きがダイレクトに俺に伝わってくる。  ちょうど瑛里華の可愛いお尻は俺の股間の所にある、その事に改めて  気付いてしまうと気になってしまう。  そういえば、こんな体位でも・・・  って、思い出すな! 思い出したら危険! 「・・・ねぇ、孝平。その・・・興奮しちゃった?」  身体は正直で、密着してるから変化はすぐにばれてしまった。 「孝平、そのままじゃ辛いでしょう?」 「ま、まぁな」 「ここじゃ出来ないから・・・お口でしてあげる」 「瑛里華?」  そう言うと瑛里華は器用に俺の足下へとおりていく。  ちょうど俺の股間の所に瑛里華の顔が見える。 「ふふっ」  瑛里華の手が俺のズボンのチャックを下げる。  その時俺の耳に階下の扉が開く音が聞こえた。 「瑛里華、誰か来る!」 「え?」  ごんっ! とその時机の下から大きな音がした。 「いったぁい」 「ただいま帰りました」  監督生室に入ってきたのは白ちゃんだった。 「今大きな音がしたのですけど、何かあったんですか?」 「いったたたた・・・」 「瑛里華先輩!?」  机の下から瑛里華が顔をだす、ちゃんと瑛里華の席の下から  出てきたのはさすがだった。 「あ、白、おかえりなさい」 「瑛里華先輩! どうしたんですか?」 「ちょっと机の下にペンを落としちゃったのよ。それを見つけたとき  頭ぶつけちゃって」 「だいじょうぶですか?」 「だいじょうぶよ、それよりもお茶いれてもらって良いかしら?」 「はい、わかりました」  白ちゃんは給湯室へ準備しに行く。  瑛里華は俺に目で合図する。  その合図を見るまでもなく、俺は身だしなみを整える。 「ふぅ・・・だいじょうぶだ、瑛里華」 「うん・・・ねぇ、孝平?」 「なに?」 「続きは夜に、ね」
4月15日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS”魅惑?誘惑?” 「・・・暑い」 「仕方がないでしょう、孝平」  雨上がりの気温が上がってきている午後、この時期にしてはかなり  暑いと思えるほどだ。  普通なら窓を開けて風を入れるところだが、今日は風が強く窓を  開けられなかった。  それでもあまりの暑さに窓を開けてみたのだが、その時の風で机の上の  書類が散らばってしまった。  この時期に空調をいれるわけにも行かず、締め切った部屋の中での仕事は  効率が悪い。 「ふぅ・・・」  俺はすでに上着は脱いでおり、Yシャツのボタンも首元は外している。  そうするほど部屋の温度が上がってきているのだ 「もぅ、孝平が暑い暑いって言うから、私も暑さ気になっちゃうじゃないの」 「ごめんごめん」  そう言う瑛里華もすでに制服の上着とベストを脱いでいる。 「瑛里華、クーラーとまでは行かないけど空調は使っちゃ駄目、だよな」 「まだ早いわよ、光熱費だって馬鹿にならないんだから」  生徒の手本となるべき生徒会、ちょっと暑いからってだけでこの時期から  空調をいれるわけにはいかない、とは瑛里華の談。 「わかった、我慢するか」 「そうしてよ、私だって我慢してるんだから」  俺は一息いてから、Yシャツのボタンをもう一つ外してから仕事を再開した。  ちら。  瑛里華が仕事の手を止めて俺の方を見る。  俺がそれに気付くと瑛里華は視線を机に戻して仕事を再開する。  ちら。 「・・・瑛里華?」 「な、なに?」 「俺に何か言いたいこととかあるか?」 「え? べ、別に何も無いわよ」 「そうか?」 「・・・」  瑛里華の態度がおかしかったが、暑さとはかどらない仕事のせいで  そこまで頭が回らなかった。 「ふぅ、やっぱり暑いわね」 「そうだな、暑ければ脱げばいいだろう?」  俺は書類から目を上げずにそう返答した。 「え?」  瑛里華の驚く声に俺は顔を上げる。  ・・・しまった、瑛里華はすでに上着を脱いでいる。  つまりもう脱ぎように無い。 「あ・・・その、そう言う意味じゃなくって」 「・・・」  瑛里華はうつむいてしまっている。 「そうよね、此処にいるのは孝平だけですものね」 「え、瑛里華?」 「何も恥ずかしいことなんて無い・・・わ」 「あ、あの、瑛里華さん?」  これはなんかやばい、瑛里華も暑さで頭が回ってないようだった。  瑛里華はおもむろにYシャツのボタンに手をかける。  一つ外されるボタン、そのたびに現れていく瑛里華の綺麗な素肌。  二つ目が外される、そこに見えるのは淡い桃色の下着。 「先に誘惑してきたのは孝平なんだからね?」  そう言う瑛里華の眼は妖しい輝きを放っている。  思わず見入ってしまう。  その時俺の耳に階下の扉が開く音が聞こえた。 「瑛里華、誰か来る!」 「え?」 「早くボタンを!」 「ただいま帰りました」  監督生室に入ってきたのは白ちゃんだった。 「おかえり、白ちゃん」 「今日は暑いですね」  白ちゃんの暑いという言葉にびくっと反応する瑛里華。 「瑛里華先輩?」 「え? な、なんでもないわ。それより白、冷たい飲み物頼める?」 「はい、わかりました」  俺は暑さとは別の、汗をかいていた。
4月12日 「・・・ヒマだ」  そうつぶやいても暇じゃなくなる訳でもない。  ここのところ忙しかった生徒会、だいぶ仕事の目処がついたので今日は  完全にお休みとなっていた。  そのせいでというには語弊があるが、予定が全くなくなった日曜日に  なってしまった。  今日に限って友達は誰もが出かけてしまっている。 「監督生室にでも行くか?」  目処が付いたというだけであって、全て片づいてる訳ではない。  少しでも進めておけば明日それだけ楽になる、と考えてしまうのは  貧乏性なのかもしれない。  こうして時間を浪費するよりは良いかもしれないな。  ジャケットを羽織って部屋を出ることにした。 「ん?」  視界の端に何か黒い物が動いた気がした。  目で追ってみると・・・ 「あれは、伽耶さんの猫?」  確かネネコっていう名前だったっけ。  山道の方へと消えていった。  以前と違って俺を誘うような感じではない、ただ単純に俺の近くを  通りがかっただけなのだろう。だけど、何故か気にかかった。 「・・・行ってみるか」  山道に入ってもネネコの姿は見えない。けど行き先はたぶん同じ。  しばらくして大きな屋敷にたどり着く。  知る人しか知らない、千堂邸だ。  正門をくぐって裏の離れの方へと向かう。離れは和室になっていて  伽耶さんはたいていそこにいる。 「どこにいっておったのだ?」  庭の方から伽耶さんの声が聞こえてきた。 「にゃ〜ん」 「今日はおまえが居ないとあたしも暇なのだぞ?」 「にゃん?」  庭を覗くと猫を撫でている伽耶さんが居た。 「今日は皆忙しいらしいのだ、征一郎もおらぬし、あたしの所に居るのは  おまえだけだな」 「にゃん」 「よしよし・・・」  猫とじゃれるその姿は年相応の女の子だった。  年相応、か・・・  その時、俺は思いついた。 「こんにちは、伽耶さん」 「は、支倉?」  俺は庭の方へと出てきた。 「いつから居たのだ?」  伽耶さんは何故か驚いていた、その驚きに反応したのかネネコは足下から  離れていく。 「今来たばかりですよ」 「そ、そうか。何用だ? 今日は多忙で瑛里華もおらぬぞ?」 「えぇ、伽耶さんを誘いに来たんです」 「は?」 「ですから、伽耶さんと遊びに行きたいと思ってるんです」  ずっと屋敷に居た伽耶さん、年相応の女の子のする遊びなんてしたこと  ないんだろうな。  そう思った俺は、伽耶さんを連れて出かけたてみたくなった。 「な、なにを戯言を・・・」 「今日、俺暇なんですよ。誰とも予定あわなくて」 「そう、なのか?」 「えぇ、だから伽耶さん、お願いですから今日つきあってくれませんか?」 「なっ! 何を!」 「駄目ですか?」 「・・・し、仕方がないな。支倉がそこまで言うなら」 「はい、ありがとうございます」 「それで、何処に行くのだ?」 「その前に、着替えてきませんか?」  伽耶さんの格好はいつもと同じ着物姿。さすがにこれは目立ちすぎる。 「何故だ?」 「その格好だと動きづらいし、目立っちゃうんですよ」 「目立つ?」 「えぇ、伽耶さんが可愛いから」 「は、支倉! あたしをからかうのはよせ!」  両手をばたつかせている伽耶さんは、本当に年相応だった。  その後俺のお願いを聞く、という形で瑛里華のお下がりに着替えた伽耶さんを  外へと連れ出した。連れて行った先は、遊園地。 「こんな子供だましの遊技施設なぞなんとも思わぬぞ」  そう言いながら、目を輝かせていた伽耶さんだった。  翌日、登校するとき何故か俺にみんなの視線が集まっていた。 「何かあったのか?」 「おはよ、こーへー! ねぇねぇ、昨日こーへー何してたの?」 「何って・・・」  伽耶さんと遊んでただけだけど。 「こーへーが幼女を誘拐して連れ回してたって噂たってるよ?」 「そうきたか・・・」  俺の予想の斜め上を行き過ぎる展開だった。 「だめだぞ? こーへー、そんなに幼い子に手を出しちゃ!」 「かなでさんは俺のことをどう思ってるんですか!」 「身長だけなら私も小さいから、それで我慢してね」 「だから!」  今日1日大変な日になりそうな予感・・・いや、確信した瞬間だった。 ・FORTUNE ARTERIAL sideshortstory「幼女誘拐事件」 END
4月5日 ・FORTUNE ARTERIAL sideshortstory              「楽屋裏狂想曲〜誕生日の秘密〜」 「かなですぺしゃる!」 「ぐはっ」  いきなりかなでさんに突撃されて俺は文字通り吹き飛んだ。 「こーへー酷いよ!」 「・・・いきなりつっこんでくるかなでさんも酷いと思いますけど」  俺は何とか立ち上がる、少し足下がふらつく。 「なんで私の誕生日の日に更新休んじゃうの?」 「いや、俺に言われても・・・」 「過去に誕生日にお祝いされなかったのって菜月ちゃんだけなんだよ?」 「あ、でも菜月さんの時は5日遅れでもちゃんとお祝いあったよ?」  かなでさんの後ろにいつのまにか現れた陽菜がそうフォローをいれる。  ・・・フォローなのか? 「うがー、なんで私のお祝いは無いの!!」 「仕方がないじゃない」 「あ、紅瀬さん」  談話室の方から紅瀬さんが歩いてきた。 「ねぇ、貴方の誕生日はいつだったかしら?」 「私の? もちろん、4月2日だよ」 「孝平が初めて寮に来た日の事覚えてる?」 「もちろんだよ、国宝級のポテチを粉砕した日だよ」 「まだ覚えてたんですか・・・」 「その次の年の誕生日、貴方は何処にいたかしら?」 「私? 次の年って・・・あれ?」  突然何かを考え込むかなでさん。 「あ・・・」  陽菜が何かに気付いたようだ。 「えぇ、その通りよ、悠木さん」 「どういう意味だ?」  俺は意味が分からなかった。 「貴方と寮長が出会ってから、この寮では誕生日を一緒に過ごせないのよ。  だって、次の年は卒業してるから」 「しまったーーーーーーーーーー!」  紅瀬さんの言葉に絶叫で返すかなでさん。 「いくらここが楽屋裏でもこれは揺るぎない事実なのよ」 「お姉ちゃん、気を落とさないで。朝霧玲一さんのお話のように  まだいくらでもお祝い出来る方法もあるから」 「そうね、大学に進学してからのお話も、福hideさんの用に無い訳じゃないわね」 「ひなちゃん・・・きりきり・・・ありがとう」 「でも、ここでお祝い無かったのは事実ね」 「がーん!」  かなでさんはその場に崩れ落ちた。 「かなでさん・・・」  俺はなんと言って声をかければいいか解らなかった。 「・・・ふっふっふっ」 「かなで・・・さん?」 「こーなったら!!」  いきなりがばっと起きあがるかなでさん。 「ターミナルにアクセスして平行世界を分岐させる!」 「いや、それ意味解りませんから!」 「大丈夫、こーへー、お姉ちゃんと一緒に留年しよ!」 「俺は留年しなくてもまだここにいられますから!」 「こうなったら最終兵器、エプロンを用意して誕生日だけどお祝いは  こーへーにあげる!!」 「それは、孝平の嗜好なのかしら?」  思わぬ方向から反論があった。 「そーだよ、こーへーはイメージ作りにエプロンが必須なんだよ」 「かなでさん、俺を特殊な嗜好の持ち主の用にいわないでください」 「そうだよ、お姉ちゃん」 「陽菜・・・」 「孝平くんはメイド服の方が好きなんだよ?」 「そうね、私も文化祭の後での監督生室で・・・」 「わーわーわーわー!」 「そっかぁ、それじゃぁ私もあの時は正解だったんだね♪」 「そうね、ならまたあの服を用意しないとね」 「それならひなちゃんに縫ってもらうと良いよ」 「それじゃぁお揃いのメイド服縫うね」  いつのまにか3人で仲良く話をし始めていた。  ・・・俺、部屋に帰っていいですか?
4月5日 ・FA楽屋裏小劇場”役割” 「こーへー、これを見て!!」  談話室でコーヒーを飲んでいた俺の元にかなでさんが現れた。 「何をですか?」  そういいつつ、かなでさんから受け取った小冊子。 「らくがきのーと?」 「そう、とある同好会が発行した会報なの」  修智館学院には部活以外に様々な同好会が存在する。  そのうちの一つが発行したのだろうか?  俺は改めてその会報をみる。  ”らくがきのーと09しんしゅん”と題された会報、表紙に  描かれてる漫画に出てきそうな女の子の絵は・・・ 「紅瀬さんか?」 「きりきりはいいの、それよりも!」  かなでさんの説明だとこの本は、修智館学院にいる実際の女生徒を  漫画のキャラっぽく可愛く描かれた本らしい。  俺は1ページ目を開けてみる。 「ぶっ」  いきなり何かを加えた瑛里華の絵が現れた、それも全裸だ。 「こ・・・これは生徒会的にもまずい会報だな」 「えりりんもいいの! その次!」  言われるがままに、次のページをめくると・・・ 「・・・かなでさん?」  上半身裸のかなでさんらしき絵が掲載されていた。  ご丁寧に胸の所は絆創膏が貼られているっぽい。 「こーへー、これ酷いでしょ!」 「あぁ、確かに・・・」  実在する女生徒のあられもない姿をたとえ漫画っぽい絵だとしても  それをこうして誰もが見られる形にするのはまずすぎる。  最初の絵なんて、瑛里華が見たらどう思うんだろうか? 「私、引き立てキャラじゃないもん!」 「・・・そっちが許せないんですか」 「当たり前じゃん!」 「絵の方はいいんですか?」 「ん? 所詮絵じゃない。健全な男子ならクラスメイトの子を想像して  しちゃうのは当たり前じゃない」  確かにそうでしょうけど、そう面と向かって言われると結構  恥ずかしいんですけど・・・ 「あ、でもこーへーは想像しなくていいんだからね。  そんなことしなくてもお姉ちゃんがいるんだから、ね」 「・・・」 「ん、もぅ、そこで何か言ってくれないと恥ずかしいじゃない」 「すみません・・・」  俺は照れ隠しをするため、その会報のページをめくった。 「・・・ねぇ、かなでさん。これって相当まずくないですか?」 「え? 私は自分の所の先は見てないけど何かあった?」 「ほら、これ」  そこに描かれてるのは白ちゃんだった。 「わ、これは危険だね。せーちゃんに見つかったら命が危ないね」  俺は回りを見回す、とりあえず誰もいない。  こう言うときは噂する人物が現れるのがオチだからだ。  他に危険な絵が無いか確認するため、俺はページを進める。  猫耳?っぽい絵は思わず似合うだろうなって思ってしまいながら  最後のページを見た瞬間、俺は固まった。 「・・・伽耶さんまで」  確かに最近こっちに顔を出すことが多くなった伽耶さんだけど  まさかこうなっているとは・・・ 「ね、だから抗議しようよ。私は引き立てキャラじゃないって」 「結局そこなんですね」  俺は頭の中で瑛里華や東儀先輩に見つからない用にこの同好会を  どうすればいいか、考えてみた・・・  翌日。 「支倉君、同好会に査察に行くからつきあってくれないか?」 「え?」  同好会? もしかして昨日のあれか? 「もぅ、失礼しちゃうわね。私たちの肖像権の侵害よ」  瑛里華の怒りっぷりを見る限り、おそらく昨日のあの会報の事だろう。 「そうだな、それよりももっと重大な事がある」  伽耶さんの事か? 「俺が全く描かれてない事だ!」 「・・・」 「ほら、孝平。兄さんは放っておいて行くわよ。  ふふっ、どうしてくれようかしら?」  その時の瑛里華の眼は紅く光っていた・・・  穏便に終わって欲しいな、そう思わずにはいられなかった。
4月5日 ・FORTUNE ARTERIAL sideshortstory「こーへーとエプロン」 「こーへー、お鍋美味しいね♪」 「でも、ちょっと暑くないですか?」 「そう? 私は身も心も温かいよ」  こーへーの部屋の私の特等席で一緒にお昼の鍋を食べる。  幸せだなぁ。 「よーし、今度は私が食べさせてあげるね、ふーふー」  取り皿に取った具を私がそっと冷ましてあげる。 「はい、あーん」  そして私のすぐ後ろにいるこーへーにレンゲを差し出す。 「食べるときくらい普通に座りませんか?」 「やだ、だって私が私の居場所だもん」  そう、こーへーの腕の中に私は座っている。  どうしてこうなったかというと、それは誕生日の日の出来事まで  さかのぼる事になる。  大学に入って最初の誕生日、私は大学の友達が開いてくれるパーティーに  誘われた。  もちろん、嬉しいことだけどこーへーとふたりっきりでは居られない。  それに、夜にはひなちゃんがお父さんと一緒に祝ってくれることに  なっていた。  ひなちゃんはそれとなく察してくれてたんだけど、お父さんにそれを  期待するのは無理だった。  そのことを相談したときの、こーへーの答は。 「かなでさん、友達と家族を優先してあげてください」 「こーへー・・・こーへーは私と一緒は嫌なの?」 「そんなことないですよ、でも俺思うんです」 「こーへー?」 「家族や友達って大事なんです。そんな大事な人の祝いたいって心も  ちゃんとかなでさんに受け止めて欲しいんです」  わかるよ、こーへーの言いたいことも。でも私はやっぱりこーへーに  一番に祝って欲しいの。 「その代わり、じゃないですけどかなでさん。週末デートしましょう」 「へ?」 「かなでさんの望むことを俺がかなえてあげます、それが俺からの  誕生日プレゼントです」 「本当? 本当になんでもかなえてくれるの?」 「えっと・・・出来る範囲で、ですけど」  私の勢いに押されてるこーへーだけど、ちゃんと約束してくれた。 「だから、誕生日の日は友達と陽菜と一緒に過ごしてください」  誕生日の日、友達の開いてくれたパーティーにはこーへーも招待・・・  ううん、連行されていろいろと根ほり葉ほり聞かれてしまった。  ちょっと恥ずかしかったけど、友達に紹介できたから良かったかな。  夜になって家族のパーティーでもこーへーはひなちゃんに連行されて  結局私とこーへーは誕生日の日は一緒に過ごすことになった。  私は嬉しかったけど、こーへーは大変だったみたい。  大学の友達に、お父さんにもいろいろと聞かれてたからね。  そして週末。  私はこーへーの新しい部屋で一緒にこうして鍋を食べている訳。 「かなでさん、誕生日の日は結局一緒過ごしたから別に今日は何も・・・」 「約束してくれたよね?」 「・・・はい」 「よろしい」 「お鍋美味しかったね」 「えぇ、さすがかなでさんが作っただけのことはあります」 「そーそー、私は凄いんだよ♪」 「知ってますよ、だって俺の彼女ですから」 「っ!」  こーへーったらたまにとんでもなく恥ずかしいことをさらっと言う事があるの。  それも絶対に不意打ちで。 「あー、嬉しいけど恥ずかしいっ!」  思わず床をごろごろしてしまう。 「・・・かなでさん、この後どうします?」  たぶん呆れて私を見ていただろう、こーへーが声をかけてくる。 「今日はかなでさんの望むことをする日ですからね」 「うーん、そうだなぁ・・・」  どうしようかなぁ? 「その前に、お片づけしちゃおうか」 「それもそうですね」  まだ鍋や食器をかたづけていなかい。 「こーへー、洗い物しちゃおう、その後はその後に!」 「はい」  洗い物をしながらこの後の事を考える。  けど、結果は決まってる。  今日はずっとこーへーと一緒だから! 「ねぇ、こーへー」 「なんですか?」 「大好きだよ」
・FORTUNE ARTERIAL sideshortstory「こーへーとエプロン」後編 「最近一緒にいられない時間が多すぎると思わない?」  かなでさんの一言から、お昼を食べ終わった後の俺達は部屋で  過ごすことになった。  さっきと同じように、俺の胸に背中を預けて座っている。 「確かに、以前よりは時間とれてるはずなんだけど・・・」  かなでさんと恋人同士になって、一番一緒にいられた時間は、修智館学院  時代だった。  かなでさんは卒業してから実家に戻り、そこから大学生活。  俺は寮生活だからなかなか逢えない、それに生徒会と寮長をを引き継ぐまで  今まで以上に多忙だった。  そんな俺もかなでさんと同じ大学に合格し、修智館学院を無事卒業できた。  そしてこの珠津島で部屋を借りて、一人暮らしをはじめたばかり。  寮ではないから出かけるのは自由だし、かなでさんも時間が出来れば部屋へと  遊びに来ている。だけど・・・ 「やっぱり実家ってのが問題かもね。寮の時は平気で外泊できたのに」 「それ問題発言ですから」  寮でのかなでさんの部屋は俺の真上、いつもベランダの非常梯子から遊びに来て  そのまま泊まっていくこともあった。 「だから、今日は時間いっぱいこーへーといちゃいちゃするの♪」 「いちゃいちゃって・・・」 「あ、こーへー、えっちなこと想像しちゃった?」 「・・・」 「・・・こ、こーへー、何か言ってくれないと恥ずかしいんだけど」 「ごめんなさい、えっちな事考えました」  かなでさんは実家、俺が寮住まいの去年は、なかなかそう言うことが出来なかった。  だけど、今は俺の部屋で、かなでさんが俺の腕の中に居て・・・ 「も、もぅ、こーへーは素直だね。だって、ね」  かなでさんがもじもじと動く。  その動きが俺をダイレクトに刺激する。 「・・・いいよ」 「え?」 「私だって・・・こーへーとえっちしたいもん」 「かなでさん・・・」  俺はかなでさんに顔を近づける。 「あ、ちょっとまって!」  そう言うとかなでさんは俺の腕の中から立ち上がる。 「私、シャワー浴びてくる!」  俺が止めるまもなく、バスルームへと消えていった。 「こーへー、お待たせ・・・」 「かなでさ・・・」  バスルームから出てきたかなでさんは、バスタオル姿ではなかった。  それは、エプロン姿。寮での、あの時の記憶がよみがえる。 「あはは、やっぱりこれって裸より恥ずかしいね」 「・・・」 「・・・こーへー、何か言ってよ」 「・・・かなでさん!」 「ひゃい!」  俺の呼びかけに驚いて返事する。 「なんで穿いてるんですか?」 「だ、だって、恥ずかしいんだもん」  あの時と違う事、それはかなでさんはパンツを穿いていた。  こうなったら・・・ 「かなでさん、エプロン自分でめくってください」 「・・・やっぱりそう言うと思った」  かなでさんは恥ずかしながらエプロンをめくった。  ・  ・  ・ 「こーへーのえっち」 「かなでさんもえっちです」 「わ、私はこーへーにそうされちゃっただけだもん」 「そうなんですか? だってここは」 「やん、そんなところ」 「俺より絶対かなでさんの方がえっちだと思いますよ」 「うぅぅ・・・あんなに純真だったこーへーに調教されちゃったよぉ、しくしく」 「変な言い方しないでください!」 「うぅ、お嫁にいけないよぉ」 「それは大丈夫、だって俺がもらうんだから」 「・・・もぅ、えっちなこーへーも大好きだよ」
4月1日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS”嘘を嘘に” 「ねぇ、孝平は嘘を付かないの?」  生徒会室で瑛里華はそう訪ねてきた。 「そういえば、今日は4月1日だったっけな」  新年度に入り仕事が忙しくなるから、春休み返上で監督生室に来ておきながら  今日が4月1日、エイプリルフールという事までは考えてなかった。 「嘘って言われても、そう訪ねられたら嘘つけないじゃないか」 「そう? 残念」 「なんで、残念なんだ?」 「ほら、私はずっと屋敷に居たでしょう? だからこう言うの知らなかったの」  瑛里華はつい最近までずっと屋敷に閉じこめられていた。  だからこういうイベントに関しては相当疎い。 「それでね、紅瀬さんが教えてくれたの」 「紅瀬さんが?」 「えぇ、エイプリルフールがどういうことなのか」  紅瀬さんはどう説明したんだろうか? 「エイプリルフールは、優しくて幸せな嘘をつく日だって。  だから孝平がどんな嘘を私にしてくれるか、楽しみだったの」  そう言われると、楽しみにしてた瑛里華をがっかりさせたみたいで  申し訳なくなってくる。  だからといって、優しく幸せになる嘘なんて早々思いつかない。 「・・・悪いな」 「ううん、いいの。どうしても嘘を付いて欲しい訳じゃないし、孝平は  まっすぐだから嘘なんてつけないものね」 「それって馬鹿にされてるのか?」 「ううん、誉めてるのよ」  そう言って微笑む瑛里華。 「はい、話は此処までにして仕事進めましょう!」  その時俺は一つのアイデアを思いついた。 「なぁ、瑛里華。今から嘘つくぞ」 「え?」 「今日の仕事が早く終わらせたら、一つだけ瑛里華の望むことをしよう」 「孝平?」  俺の真意を読みとれないのだろう、瑛里華は困惑した顔をしている。 「これが嘘になるかどうかは、瑛里華次第かな」  その言葉を聞いて、瑛里華の顔が綻ぶ。 「そうね、せっかくの嘘ですものね、その嘘そのものを嘘にしてあげるわ。  それが私の、エイプリルフールよ」
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