◆兵学の部屋 米海軍情報部の国際情勢要約
 
 
 
◆1941年11月15日
 
1)外交情勢
 
 A)日本
 日米関係にみられた緊迫しつつある危機は、この期間における極東の他のすべての出来事よりも断然重要な事であった。
 前ベルリン駐在日本大使来栖三郎は、日本の妥協案をたずさえ飛行機でワシントンに向かっている。  だれ一人として彼の使命が達成されるとは期待しておらず、彼自身が極めて悲観的な見解を述べたといわれる。  ノックス海軍長官など米国のスポークスマンは、米国は堅持する立場から後退しないと言明した。  チャーチル英首相は、もし日米間に戦争が起こったならば、英国は”ただちに”日本に対して宣戦すると警告した。  米国は中国から海兵隊の引揚げを準備している。  日本の新聞は英米をののしり続けた。
 日本はパナマ領内における日本人の取り扱いについてパナマに抗議した。  パナマはこれを拒否した。  日本は朝鮮水域で日本の客船が沈没した浮流機雷についてソ連にも抗議した。
 
 B)ドイツ
 ヒトラーは、ビヤホール一揆の18周年式典を祝うため、1941年11月8日、いつものように党の指導者とともにミュンヘンに帰った。  ヒトラーは演説の中で攻撃を受けた場合に限り米船を反撃するようドイツ海軍に命令したと述べた。  しかし、英国に戦争資材を運ぶ船を雷撃するように命令している。
 ゲッペルス博士は、最近の雑誌の論文の中で、戦争がいつ終わるかは比較的に重要ではなく、いかにして戦争を終わらせるかが極めて重要である、とドイツ国民に述べた。  この論文は、ドイツ国民に今後の困難に耐え無期限に軍事努力を続けるよう準備させることを狙ったものである。
 「ニューヨーク・タイムス」誌は、この論文を、”敗戦の可能性の珍しい容認”と呼んでいる。
 イラン人の80%は親枢軸であり、ソ連と英国の支配からイランの解放を保証する手段としてドイツの干渉を歓迎するだろうと伝えられた。
 スウェーデンはドイツの希望に同意し、スウェーデンの港にいるノルウェー船をノルウェーの船主に返すことを認めないといわれる。
 ドイツは、セルビアにおける治安任務を引き受けることによって、セルビア人の反乱を抑圧するため使用しているドイツの2〜3個師団を解放するようセルビアに圧力をかけている。
 ハンブルクとコペンハーゲンの間の道路と鉄道の建設が開始された。  これによって両地間の距離は80キロ以上短くなる。
 
 C)イタリア
 ブラジル外務省は、両国の港にいるイタリア船の購入に関する提案をイタリア政府が承諾したと発表した。
 
 D)フランス
 仏独間の協力関係はほとんど進展せず、ヒトラーはヴィシー政府の”あいまい”な態度に不満をいだくようになったといわれる。  フランスは、ドイツの圧力のために、仏領アフリカにおけるドイツ陸海軍に対する協力と、ウェイガン将軍の速やかな北アフリカ仏軍指揮官からの罷免に同意しなければならないと考えられる。  ダルラン提督などはウェイガン将軍の罷免要求を支持している。  ペタンは時間をかせごうとしているが、結局のところウェイガンの本国召還に同意しなければならないと思われる。
 チュニジアにおけるドイツの活動は増大する兆候がある。
 
 E)ラテン・アメリカ
  傾向
陸軍および海軍
 南米の南部諸国は、領土の相互防衛のため陸海軍が協力する傾向が大きい。  パラグアイおよびアルゼンチンの両国海軍の合同演習と、アルゼンチンおよびチリのマゼラン海峡合同防衛計画は、その一例である。
 
経済
 経済的には、南米諸国間で必要な物資を補給し過剰物資を処理する商品の交換が増大する傾向がある。  これによって、これまで欧州から輸入していた商品の多くが、これを生産する南米の隣国から得られるようになることが分かった。  南米諸国間に計画されている交通の改善が実現したならば、経済交流はさらに増大すると思われる。
 
全体主義の浸透状況
 アリマス前パナマ大統領は、アルゼンチンにいるドイツの一将軍との連絡を大いに希望することを明らかにした。  これは、アリマスもホンジュラスの現政府に対する反乱の援助を約束したドイツ大使と連絡のあるホンジュラスの亡命者としてアルゼンチンにいるドイツ人と連絡があったことを示している。
 
2)日本陸軍の状況
 仏印における日本軍の兵力に関する情報は区々で、4万3千から12万までの範囲にわたっている。  実際の兵力は約6万と思われるが徐々に増加している。  中国は日本軍の雲南省に対する攻撃を、タイは自国に対する侵入を心配している。  中国とタイの両政府とも英米の軍事援助(特に航空部隊による)を希望している。  仏印における日本軍は雲南省またはタイを攻撃するほどまだ強力ではないように思われる。
 
3)日本海軍の状況
 聯合艦隊のほとんど全兵力は瀬戸内海方面にいる。  大艦のうちすぐ行動出来ないものは「榛名」(戦艦)と「高雄」(重巡)だけである。  約2週間前に台湾の南部に移動した艦隊航空部隊は本土基地に復帰したので、主要兵力の全部は現在本土方面にとどまっている。
 軍隊輸送船と貨物船は小艦艇の護衛のもとに、引き続き仏印方面への輸送に従事している。  しかし現在のところ、艦隊の大兵力が本土以外に集結している兆候はない。
 仏印における海軍飛行機は増強されている。  これら飛行機は海南島および中国の基地からだけでなく、恐らく日本本土の陸上基地からも移動している。  仏印における海軍機の正確な機数は分からない。
 津軽海峡には警戒艦が配備されており、この海峡を通る船舶を監視している。
 27,000トンの客船として起工され特空母に改装する「出雲」は10月30日、神戸で進水した。  新艦船の建造速度は資材の不足のため一般に遅々たるものがあるが、1隻の戦艦はごく近いうちに完成する公算が大きい。
 日本の海外貿易が途絶して以来、海軍の徴発する船舶の数は増加している。  タンカーの全部が大砲2門を装備しているといわれる。
 
4)中国の軍事情勢
 北部中国と綏遠省、揚子江流域、上海及び広東周辺の各地では、小衝突が起こった。
 
5)ドイツの軍事状況
 A)陸軍
兵力
 前回(1941年11月1日)の要約以来、ドイツ陸軍の兵力についての情報は無かった。
配備
 前回の要約以来、ドイツ陸軍の配備に関する新しい情報は無かった。
 
諸作戦
 独ソ戦線における両軍の相対的な関係には大きな変化はなかった。  ソ連軍は、クリミア半島以外の戦線を保持しているようである。
フィンランド戦線
 ムルマンスクからレニングラードにいたる鉄道の線に進撃するフィンランド軍およびドイツ軍の攻撃は全部失敗した。  ムルマンスクの西方地区では、ドイツ軍は再びリトザに撃退された。  カンダラカシャ付近で鉄道を遮断するドイツ軍の攻撃が再開したという。
 北部フィンランドにおける作戦が失敗したので、ドイツ軍将校の一団を冬季作戦と森林戦を研究するためフィンランド陸軍の学校に派遣したといわれる。
中部戦線
 レニングラードの攻防戦はつづき、独ソ双方とも相手側の攻撃を撃退したと主張している。  信頼できる筋の情報によれば、レニングラードは食料に欠乏しているという。  ドイツ軍は同地に対するソ連の補給路を遮断する行動に出ている。  東方から進撃するドイツ軍は、前週チフヴィン(レニングラードの東南東約100マイル)の鉄道要点を占領したという。
 ここ2〜3週間、モスクワ付近の戦況には大きな変化がない。  ソ連軍はヴォロコラムスクにおける反撃に成功してドイツ軍部隊を包囲したという。
 
南方戦線
 ドイツ軍の進撃はわずかに進展したかもしれないが、重要な都市や要点は占領していないようである。  しかしドイツ軍が、ドン川またはヴォルガ川下流に対する大攻撃の準備に忙しいことはありうる。
クリミア戦線
 ドイツ軍のクリミア作戦は大いに進展した。  ヤルタなどは占領され、ソ連軍はセヴァストポールおよびケルチ方面に圧迫されている。
 ソ連の黒海艦隊はセヴァストポール軍港をやむなく放棄した。  ケルチ半島とセヴァストポール付近では激戦が展開されている。
南東戦線
 ドイツ軍の装備などを満載したトラックがブルガリアに向けて行動中であるという。  これは、ブルガリア海岸から行われるドイツ軍のコーカサス作戦のため、弾薬と装備などの輸送であるかもしれない。
 ブルガリア陸軍の動員兵力は27万に達し、現在6,000人を動員中であるという。
南方戦線
 未確認情報によれば、ドイツは軽装甲4師団と自動車化10個師団を熱帯地方の作戦のため編成中である。  他の情報によると、徴集した15万の青年ドイツ軍部隊を熱帯作戦のため訓練している。
 最近の未確認情報によれば、北アフリカのドイツ軍は4万から7万に増強された。  軽戦車はユーゴスラビアを経てギリシャに送られ、そこからリビアに空輸されるという。
 
 B)海軍
配備
ティルピッツ(戦艦)           11月 9日 ダンチヒ湾
シャルンホルスト(戦艦)          10月27日 ブレスト
グナイゼナウ(戦艦)            10月27日 ブレスト
シュレジッヒ・ホルスタイン(旧戦艦)    11月 9日 ハンブルグ
シュレジエン(旧戦艦)          10月 7日 バルト海
グラーフ・ツェッペリン(空母)      10月12日 ステッチン
アドミラル・シェーア(重巡)       11月 7日 スウィネシュンデ(バルト海沿岸)
リュッツオウ(重巡)           11月 9日 キール
ザイドリッツ(重巡)           10月12日 ブレーメン
プリンツ・オイゲン(重巡)        10月27日 ブレスト
アドミラル・ヒッパー(重巡)       11月 5日 ザッスニッツ(バルト海沿岸)
ニュールンベルク(軽巡)         11月 5日 ザッスニッツ(バルト海沿岸)
ライプチッヒ(軽巡)           11月 5日 ザッスニッツ(バルト海沿岸)
ケルン(軽巡)               9月29日 グジニア
エムデン(軽巡)             11月 9日 キール
推定150隊(潜水艦)          ドイツ・ノルウェー・フランスの大西洋岸の諸港を基地とし作戦中
 
諸作戦
 ドイツ潜水艦2隻がエーゲ海に作戦中といわれる。  ギリシャ水域のドイツの沿岸哨戒は強化されたという。
 11月4日現在、約1,100名のドイツ海軍軍人がナポリに駐在しているという。  ローマのホテルがドイツ潜水艦部隊の司令部になっており、地中海に行動中のドイツ潜水艦の作戦を指揮していると思われる。
 
 C)空軍
兵力と配備
 前回(1941年11月1日)の要約以来、ドイツ軍飛行機の兵力と配備に関する情報はなかった。
 信頼できる筋によると、10月1日現在の地中海方面におけるドイツ航空兵力と配備は次のとおりである。
 爆撃機急降下爆撃機戦闘機偵察機沿岸哨戒機
キレナイカ30708010
南部ギリシャ8025
クレタ島201025
シシリー島10




 
 
 地中海方面で使用できるドイツ軍飛行機の総数は、380機と見積られている。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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