MISER OFFICE

延々と続く農道をチャリ(自転車)で走りながら、おれはヘルメットを脱いだ。
「ノーヘル」だ。

N中学校の校則ではヘルメットをかぶらなくてはならないけれど、そんなのはクソクラエだ。小遣いをはたいて買った「DEP」で、髪を逆立たせているのだ。ヘルメットなんかかぶっていられない。

脳味噌で鳴り響くBGMはSEX-PISTOLSのANARCHY IN THE U.Kだ。JOHNが「Right,now」と言って笑っている。


農道を3Kmくらい走ったところで、下手糞なドラムの音が聞こえてきた。おれはにやりと笑う。めじるしのビニ本販売機でチャリのハンドルをきり、だたっぴろい農家の庭に入っていく。離れに建っている薄汚い納屋の前にチャリを停め、壊れそうな階段を駆け上がった。

「おう」
ベースを抱えたマーチンとバスドラを蹴っているイノが声を合わせる。
おう、おれも応えてギターを取り出す。おもむろにイノがハイハットをたたき、3人がめちゃくちゃに音を奏でだした。 そのめちゃくちゃがたまらなく面白くて、暗くなるまでめちゃくちゃやり続ける。


中学のとき、MISER OFFICEというマイナーレーベルを発足した。インディーズのミニコミを3人で作った。4人でバンドを作り、テープを販売した。5本売れた。ミニコミはVol.4まで発行し、毎号5冊は売れた。5冊も、だ。

気に入らないことはたくさんあった。そのひとつひとつに反抗した。学校が荒れまくっていた。教師は為す術をなくして無力だった。なにしろ何をされるかわからない。生徒指導は命がけだ。

校内放送でパンクを流した。スターリンの電動***をかけた。びっくりした教師が放送室に駆け込んでくると、スキンヘッズの後輩が教師に「はいるな!」と言った。無力な教師が歯がゆく、おもしろくなく、今度はトモダチを裏切ってバッハをかける。 なんだよ、おまえ、なに”クラシック”かけてんだよ、トモダチが弱く笑いながら放送室に入ってくる。それが面白くて、バッハとスターリンを交互にかけた。


気に入らないことはたくさんあって、そのひとつひとつに反抗したが、おれの頭の上にはいつも、真っ青な空が広がって太陽が燦々と輝いていた。

好きな子ができた。
純粋で純粋で、純粋な女の子だ。おれの髪の毛を見て笑った女の子だ。言いたいことを言い、やりたいことをし、廊下のはしからはしまで誰よりも偉そうに歩いたおれは、少しだけ控えめになった。ピアノが弾けてすごい、と言うのでパンクを控えてピアニストになった。ピアノを弾いていれば、あの子が見ていてくれる。

パンクになったり、ピアニストになったりしながら3学期は過ぎていく。3学期が終われば、もう卒業だ。


高校受験があった。 仲のいいトモダチの半分は、進学せずに就職した。別の半分は、評判の悪い私立高校に進学した。 おれは、進学校に、進学した。

「おまえ、高校いくの?」

トモダチが尋ねる。どこ?O高校?冗談だろ?
卒業式の日、”卒リン”を恐れた教師は、一部の生徒の卒業式出席を禁止した。今なら問題になるようなことだが、トモダチの多くは卒業式に来なかった。 いや、トモダチは来ていたのだ。学校の周りをバイクで流し、警察に追われて逃げていった。 そして、なぜか、トモダチはテンでバラバラの道を歩き始め、あまり連絡はとらなくなった。


二十歳の年、同窓会があった。トモダチはテンでバラバラの道をそれなりに歩んだようだ。お前、なにやってんの? 大学生?まだ勉強してんのか(笑)!?

トモダチと、中学のときにやったバンドのことを話した。真っ青な空の下、心をときめかせながら自転車を走らせるおれの姿が、 脳味噌の真ん中を駆け抜けていった。

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